世界救い終わったけど、記憶喪失の女の子ひろった   作:龍流

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鏡華と黒騎士/無敗の姫将は勇者を娶りたい

「おお! すごい。ほんとうに生き返った!」

 

 まるで、トンボの頭をもいだら胴体がまだ動くことを喜ぶ子どものような。

 そんな純粋な口調で、レイア・ミラージュ・アイアラスは蘇生したリリアミラ・ギルデンスターンを見下ろして、朗らかに笑った。声色には、興味が津々と浮かんでいる。

 

「首を切り落としても、新しいのが生えてくるわけではないのだな。むむっ!? 落とした首は消えているぞ!? 蘇生までにかかる時間は噂で聞いた通り四秒か! さすがは腐っても勇者パーティーの一員! 興味深い魔法だ!」

 

 一方的に述べられるのは、魔法の講評。切られた首の接続を撫でて確認しながら、リリアミラはゆったりと起き上がる。

 謝罪の言葉は、当然のようにない。いや、普通の人間は殺したら取り返しがつかないので、謝られてもそれはそれで困るのだが、それにしてもなかなか頭のねじがとんでいる女がやってきたものだな、と。無礼に腹を立てるよりも先に、愉快な気持ちすら覚えて、リリアミラはレイアに問いかけた。

 

「あー、将軍さま? 一つ、よろしいでしょうか」

「何か?」

「いきなり人の首を切り落としておいて、わたくしに何か言うことがあるのではありませんか?」

「ない! なぜなら、私は魔王に加担したあなたを心の底から軽蔑しているからだっ!」

 

 すごい。

 ここまで真正面から言い切られると、いっそ清々しい。

 

「姫様!? いけません姫様っ!」

「それ以上は問題になります! 剣をお納めください!」

「あとお召し物もお戻しください!」

 

 とはいえ、背後に控えている従者の女騎士たちは一人残らず顔を青くしているので、アイアラスの騎士たちがおかしいというよりも、この女の倫理観がおかしいだけだろう。

 やれやれ、と立ち上がりつつ、自分の首を切った痴女将軍の姿を見て、ふと気がつく。

 リリアミラは、首を斬られた。切断面からは、血が噴き出した。当然、部屋の中には鮮やかな血の赤が散らばっている。リリアミラの服や、隣に立っていたユリンにも血が飛び散っている。にも関わらず、レイアの体には一滴もリリアミラの返り血が付着していなかった。

 おそらく、彼女の魔法効果によるものだろう。

 人の血をぶちまけておいて、自分だけきれいなままとは、ますます抜け目ない。

 面倒だが、形だけでも遺憾の意を表しておくか、と。口を開こうとしたリリアミラを制したのは、隣に立つユリンだった。

 細い指先が、頬に撥ねた血を拭う。

 

 

 

「無礼であろう。レイア・ミラージュ・アイアラス」

 

 

 

 静かな言葉だった。しかし、静かすぎるからこそ、十分すぎるほどの圧があった。

 一言。ユリンの発した、ただその一言だけで、従者の女騎士たちの顔色が、青を超えて蒼白に染まる。

 カリスマ。美貌。武勇。民を率いる王に求められる資質は、数え切れない。その中でも『発する言葉』の重みは、特に重要なもの。背丈も、歳も、何もかも上の相手を正面から見据えて発したユリンの言葉の威圧感は、正しく王と呼ぶに相応しいものだった。

 

「其方がギルデンスターンのことを好ましく思っていないのはわかった。しかし、余の前で剣を抜くその蛮行。あまりにも目に余る」

 

 レイアの対応は、素早かった。

 即座に剣を鞘に入れて、丁寧に膝を折る。

 

「これは申し訳ない! 失礼いたしました、陛下! 噂に名高い紫の色魔法……『紫魂落魄(エド・モラド)』の不死の力を、この目で確かめたくっ! 我が剣が、鞘走ってしまいました!」

 

 言い訳にもなっていないその言い訳を、ユリンは鼻で笑う。

 

「ふん。今さらギルデンスターンが一回や二回死んだところでなんとも思わないが……余の服が血で汚れた。この始末、どうつける?」

「えっ。わたくしの扱い、服以下ですか?」

「重ねて謝罪いたします。陛下! お詫びとして我が国の特産である、絹をお持ちしております。どうかお納めください!」

 

 リリアミラの異議を無視して、レイアはユリンに答える。

 一国の王を前にして、あくまでも堂々と。物怖じする様子を欠片も見せずに、レイアの声の調子はどこまでも明るい。

 追い打ちをかけるように、ユリンは語気を強めた。

 

「余を舐めているのか?」

「陛下! それが問いかけであるのなら、お答えいたします。出立の前、私は我が王より命を賜りました。ステラシルドに喧嘩を売ってこい、と!」

 

 追求が、振り払われる。

 えぇ……と。リリアミラは、掛け値なしにどん引きした。

 ステラシルドとアイアラスの仲が、先王の代から悪かったのは有名な話だが──だからこそ、アリア・リナージュ・アイアラスが人質としてステラシルドに送られていたわけだが──それにしてもこの態度と言葉はあまりにも度を超えている。だが、ユリンはその不遜な返答に無邪気な微笑みを返した。

 

「ほう。アイアラス王は、随分おもしろいことを言うのだな。戦争でもしたいのか?」

 

 不遜を、受けて立つ。

 うわぁ……と。リリアミラは、ユリンの隣から一歩引いた。

 自分の国の王様とはいえ、年齢のわりにちょっと心臓が強すぎるのではないか、と。一歩引いたリリアミラとは正反対に、レイアはどこか楽しげだった。

 

「陛下。誤解なきように、あえて言葉を選ばせていただきますが……私の考えは、父とは真逆です。多くの兵士が命を捧げて掴んだ、この平和。勇者様が全身全霊をかけて魔王を討ち倒し、守ったこの世界。人間同士のくだらぬ諍いで血を流すのは、あまりに愚かしいと考えます」

 

 ずっと騒がしかった声のトーンが、はじめて落ち着いたものに変わる。先ほどは「我が王」と言っていたのを「父」と言い直しているのも、わざとだろうか。

 いやな二面性のある女だ、とリリアミラは思った。大声で部屋に押し入り、下着のような姿で剣を振るう破天荒さと、こちらの心を見透かすように言葉を選ぶ強かさが、奇妙に同居している。

 

「アイアラスとステラシルドは、争うべきではありません。ひとつになるべきです。魔王の打倒を成し得た我らが手を取り合えば、世界を平和に治めることも夢ではないっ! ですから陛下、側に置くものは、よくお考えください……判断を誤れば人心が離れます」

「……はっ!」

 

 ユリンは、下がっていたリリアミラの腰に手を回して抱き寄せた。

 

「くだらん忠言だな。余は王だ。余が側に置くものは、余が決める。これは、なかなか使える女なのでな」

 

 幼女で王女なのに、ユリン・メルーナ・ランガスタはどこまでも男前だった。

 わぁぁ……と。リリアミラは、頬を赤らめた。

 これは危ない。一回り以上年下なのに、うっかり惚れてしまいそうだ。

 

「……それもまた、王の度量ですか」

 

 それ以上は言葉を返さず、レイアはいっそ慇懃無礼なほどに完璧な礼をした。

 

「失礼いたします! よろしければ、先ほどお伝えさせていただいた私の提案、ご一考いただければ幸いです」

「ああ。言葉通りに本当に失礼をされるとは思わなかったぞ。さっさと出ていけ」

 

 しっしっと。ユリンは手を払う。

 アイアラスの騎士たちがぞろぞろと出ていったのを確認してから、幼い王は「はぁ」と年齢のわりにはあまりにも深すぎるため息を吐いた。

 

「もうやだ。外交ほんと疲れる」

「お疲れ様でした。ご立派でしたわ、陛下」

「もっとなでなでしろ、ギルデンスターン。余をねぎらえ」

「もちろんです、陛下。わたくしでよろしければいくらでもなでなでよしよしさせていただきます」

 

 これ以上ない光栄な王命だ。断る理由は微塵もない。脱力したユリンの小さな体を受け止めて、リリアミラは頭を全力でやさしく撫でさすった。

 

「それにしても、とんでもない女でしたわね」

「まったくだ。しかしアレでも、アイアラス王よりはマシなのだから、本当に頭が痛くなる」

「あー、陛下。もしかしなくても、わたくしが思っているよりステラシルドとアイアラスとの関係……悪化しておりますか?」

「昔からこんなものだろう。魔王という共通の敵があるならいざ知らず、大国が二つあれば争いになるのは世の定めだ。こんな年端もいかない小娘が玉座に座ってるのだから、舐められるのも仕方ないだろうよ」

「そんなことはありません。とてもご立派でしたわ」

 

 リリアミラの胸を枕代わりにしながら、ユリンは苦笑いを浮かべる。

 

「あの破天荒な姫将軍の言い分もわからないではない。余としても、大国同士の戦争は避けたい。シーザァルトの天武会が、良いガス抜きになれば良いのだがな」

「そういえば、陛下。あの女から何を提案されたのですか?」

「……あー」

 

 本当に憂鬱そうに。

 リリアミラのやわらかい胸に顔をうずめながら、上目遣いでユリンは小さく呟いた。

 

勇者(おにいちゃん)を婿によこせ、と。そう言われた」

「はあ?」

 

 

 ◇

 

 

 

「はぁ、はぁ、はっ……」

「……アリア姫。今日は、ここまでにしては如何か?」

 

 通算、五戦目。キャンピアスは、遂にアリアに待ったをかけた。

 

「傷は決闘魔導陣で癒えるとはいえ、精神的な負荷や疲労のすべてを取り除けるわけではない。無理は禁物だ」

「もう一本……もう一本だけ、お願いします。もう少しで、何か掴めそうなんです!」

 

 五戦、全敗。それが、今日のアリアの戦績だ。

 このままでは、終われない。何かを掴まなければ、今よりも強くなれない。

 

「……姫。強い言葉を使うことになり、恐縮だが……しかし、これ以上は時間の無駄だ。がむしゃらに戦いを重ねたところで、強くなれるわけではない。事実として、あなたの動きの精度は四戦目から落ちている。続けるにしても、一度休息とインターバルを置くべきだ」

 

 まるで、こちらの不安をすべて見透かしているかのような言葉だった。そして、理に叶った言葉だった。

 アリアは、唇を強く嚙みしめる。

 正直に言えば、もっとやれると思っていた。グレアムやムムに単独で及ばなくても、自分には魔法使いとして一線級の実力はあるはずだ、と。そう考えていた。

 この身は、世界を救ったパーティーの一員。勇者の隣で戦い続けてきた騎士なのだ、と。

 そんな誇りと自負が、アリアにはあった。

 だが、ダメだ。今よりも強くなるため、そのヒントを得るための戦いで、アリアはより色濃く実感した。

 自分は、弱い。

 自分には、魔法使いとして、足りないものが多すぎる。

 

「キャンピアス卿。教えてください。あたしは、どうしたら、あなたのように強くなれますか?」

「それは……」

 

 

 

「──失礼をするッ!」

 

 

 

 よく響くその声に、アリアの全身は硬直した。

 数年ぶりに耳にする声だった。けれど、絶対に忘れない声だった。

 

「あ、姉様(あねさま)……?」

「ああっ! 私だ! お姉ちゃんだぞ! ひさしぶりだな、アリア! 息災だったか!?」

 

 まるでそれが当然の権利であるかのように。

 アリアとキャンピアスの間に飛び降りてきたレイア・ミラージュ・アイアラスは、目を見開いて頬を赤らめた。

 

「おおっ! アリアっ! 大きくなったなぁ!? アリア! ますますきれいになった! 会いたかった! ずっと会いたかったぞ! アリア!」

「お、おひさしぶり、です。姉様。お、お元気そうで、うれしい、です」

「……なぜ下を向く? アリア。この姉に、もっとよく顔を見せてくれ」

 

 石畳に、点々と影が落ちる。

 それは、アリアの頬からこぼれ落ちた、冷や汗だった。

 震えが、止まらない。紡ぐ声音に、動揺がのる。奥歯が鳴りそうになるのを堪えながら、アリアは懸命に言葉を選んだ。

 

「あ、姉様は、どうしてこちらに……?」

「うむっ! 実は父上がステラシルドへの武力侵攻を計画していてな! しかし、私としては戦争は避けたい! だから、私が勇者殿を婿として迎え入れようと思ってな!」

「あ、ぇ……?」

 

 何を言っているのか。

 アリアは、本気で意味がわからなかった。

 しかし、レイアはアリアの肩を叩きながら、朗らかに話を続ける。

 

「安心しろ、アリア! 私は処女だ!」

「い、いや……」

「平和のためなら、勇者殿に私のすべてを捧げるのも、やぶさかではない!」

「え……」

「父上も、お前が勇者を娶るなら、ステラシルドを併合の形で迎え入れても良い、と。そう言質を取ってある!」

「……やめてください。姉様っ!」

 

 勇気を振り絞って、アリアは叫んだ。

 しかし、アリアの感情の爆発を待っていたかのように。レイアは両の手のひらでアリアの顔をやさしく包み込んで、顔を上げさせた。

 レイアの深紅の瞳が、じっと見据えてくる。真正面から、顔を見られる。瞳の奥を、覗き込まれる。

 それだけで、アリアは自分の言いたかったことが、すべて封じ込められてしまったかのように感じた。

 

「ようやく顔を上げてくれたな、アリア」

「あ、姉様……」

「ああ。お前はかわいいな、アリア。本当にかわいい。こんなにもかわいいお前を、なぜ勇者殿がまだ抱いていないのか。私は大いに疑問だ」

「あ、あたしは……」

「いや、良い。私はお姉ちゃんだからな。お前の言いたいことはよくわかるぞ、アリア。お前は、勇者殿を愛しているのだろう?」

「……はい」

「で、どうしてお前は勇者殿をまだ押し倒していないんだ?」

「え」

 

 どこまでもやさしく。ゆったりと、あたたかく。諭すように。

 愛する妹に対して、レイアは語りかける。

 

「いくらでも機会はあったはずだ。共に旅をしていたのだから、数え切れないほど夜を共にしたはずだ。なのに、なぜ素直に気持ちを伝えない? どうして強引にでも自分のものにしない?」

「それ、は……」

「わかるぞ、アリア。私にはわかる。私もこっそり、模擬戦の様子を見ていた! 随分と腕を上げた! 大したものだ! しかし、弱いな! 相変わらず、弱い! 自分の心に、自分の在り方に、まるで自信をもっていない!」

 

 ああ、この人も、昔と同じだ。アリアはそう思った。

 あの頃から何も変わっていない。

 まるで、鏡のような人だ。

 相手に、勝手に頷いて、勝手に優しくして、勝手に理解する。

 

 

 

「自分が、勇者の花嫁に相応しくないと気づいているから。だからお前は、彼に気持ちを伝えることができないんだ」

 

 

 

 そうして、自分が最も直視したくない、醜い部分を詳らかにしてしまう。

 

「……すいません」

「なぜ謝る!? べつに、謝らなくていい!」

「ごめん、なさい……」

「まったく、アリアは、相変わらず泣き虫だな!」

 

 レイアにそう言われて、アリアはようやく気がついた。

 涙が、溢れ出て止まらない。

 押し込めていたはずの思い出が、湧き上がる。

 蓋をしていたはずのいやな記憶(トラウマ)が、蘇ってくる。

 

「うん! アリア! やはり、私と一緒にアイアラスに帰ろう! 大丈夫だ! 昔よりも、私もずっと力を得た! 正直、父上くらいならいつでも追い落とせる! お前も領主としての経験を得ている! 私の右腕として国を支えるのを助けてほしい! もちろん、勇者殿も婿として一緒に連れて帰ろう! 夫ではなく義理の兄という形になるが、もしもお前が望むなら……」

「失礼。よろしいだろうか」

 

 レイアの言葉に待ったをかけたのは、無機質な声だった。

 

「アイアラスの姫将軍。レイア・ミラージュ・アイアラス殿とお見受けする」

「……貴公は?」

「ステラシルド王国、第二騎士団、団長。ジャン・クローズ・キャンピアス」

「おおっ! 噂に名高い黒騎士殿か!? お会いできて光栄だ。しかし、何の真似だ。()()()()()()()()

 

 アリアに迫るレイアを、止めるかのように。あるいは、怯えるアリアを庇うかのように。

 キャンピアスは、レイアの手首をがっしりと掴んで止めていた。

 

「申し訳ない。しかし、アリア姫の様子が普通には見えなかった。姉君であるというのなら、妹であるアリア姫の気持ちはよく考えていただきたい」

「無粋なことを言う! 久方ぶりの姉妹の再会だ。そちらこそ、邪魔立ては控えてもらいたいものだな!」

「言葉を返すようだが、先ほどからの貴方の言動は聞き流せない程度には不躾だ。そして、この場は我が第二騎士団の管理下にある訓練場。本来部外者の立ち入りは禁じられている。たしかに、貴方は我が国にとって客人かもしれない。が、礼節を弁えない相手に対して、こちらも礼を払うことは難しい。貴方が、我が国の誇る姫騎士、アリア・リナージュ・アイアラスと、黒輝の勇者を侮辱するというのなら、尚更だ」

「ますますおかしなことを言うな? たしかに、私は愛する妹の力不足を指摘した! しかし、世界を救った勇者殿をバカにした覚えはないぞ!?」

「しただろう?」

 

 微塵も声の調子を変えることなく、キャンピアスはレイアに告げる。

 

 

 

「貴方のような品のない女と、勇者殿が婚姻関係に至るはずがない。冗談であっても、それは勇者殿に対する愚弄だ。解釈違いも甚だしい。耳が腐る」

 

 

 

「……ふふっ。はははっ!」

「何を笑っている? 私は何も笑えることは言っていないぞ」

「…………なあ、黒騎士殿」

「何か?」

「貴公と我が妹は、訓練の途中だったな?」

「如何にも」

「ならば、偶然貴公らの訓練を見かけた私が、踊る心を抑えきれず、手合わせを願ってもまったく不思議ではないな?」

「そうだな」

 

 黒騎士は、掴んでいた姫将軍の手を離した。

 レイアも、キャンピアスも。まるで示し合わせたかのように、アリアの体に手をかけて、強く突き飛ばして距離を取らせる。

 

「ま、まってください! キャンピアス卿! 姉様! 決闘魔導陣もなしに戦いは……」

 

 一拍の間、すらなかった。合図すらもなかった。

 アリアの静止の声も、混乱する周囲も、一切を置き去りにして。

 キャンピアスの拳と、レイアの剣が交差する。

 凄まじい轟音が、響き渡った。

 黒騎士と姫将軍。両者の激突を中心に、石畳が砕け割れ、波紋する水飛沫のようにそれらが飛び散る。

 レイアの晒された素肌を殴り抜いたはずのキャンピアスの拳は、不自然に弾かれた。

 キャンピアスの首筋を狙ったはずのレイアの剣も、不自然に弾かれた。

 両者ともに、初撃は不発。しかし、魔法使いの戦いにとって、それはまた別の意味を持つ。

 

 

「──良い魔法だ! 『振動』か!?」

「──やりにくいな。『反射』とみた」

 

 

 互いに、一手。

 一撃を交わしただけで、姫将軍と黒騎士は、お互いの魔法を看破する。

 キャンピアスは、大きく退いて距離を取った。構えた左腕を、容赦なく照準し、針弾を撃ち放つ。

 先ほどの戦いでアリアを圧倒した『嘴太烏(クロウ)針撃(ナデル)』。放たれる針弾すべてに付与された『振動』の魔法効果により、全身甲冑の上からでもダメージを与えるほどの、弾幕の暴威。

 雨嵐のように降り注ぐそれらを、レイアは避けない。

 

「ははははは! 痒い痒い!」

 

 直立不動。剣を構えることすらせず、レイア・ミラージュ・アイアラスは一歩も動かない。

 回避も、防御も、不要だからだ。

 柔肌に直撃しているはずのすべての針弾が弾かれ、地面に突き刺さる。

 

「我が魔法『鏡存共栄(キラ・スペッキオ)』は完全無欠! 強靭無敵の絶対防御! 貴公ごときの魔法では、触れることすら叶わんっ!」

「……ならば、その鏡の虚勢。叩き割らせてもらおう」

 

 レイアが、獰猛に笑って突進する。

 キャンピアスが、淡々と突貫する。

 二撃目。再び両者の剣と拳が交わろうとした、その刹那。

 

 

 

「コール──ジェミニ・ゼクス」

 

 

 

 無造作に投げ入れられた模擬戦用の剣が、レイアとキャンピアスの間に、突き刺さった。

 

「『哀矜懲双(へメロザルド)』」

 

 そして、()()()()()

 レイアの剣が、空を切る。割って入った彼が、剣を握る手首を拳によって弾き飛ばす。

 キャンピアスの拳が、石畳に食い込んで止まる。割って入った彼が、重い手甲の一撃を蹴りであしらい、地面に抑えつける。

 

「──双方、そのまま。剣と拳をおろせ」

 

 静かな宣告を伴って。

 世界を救った黒輝の勇者は、レイア・ミラージュ・アイアラスに向けて、微笑んだ。

 

「どうも、はじめまして。騎士ちゃんのお姉さん。勇者です」




こんかいのとうじょうじんぶつ

・勇者くん
実は5話くらい霊圧が消えていた主人公。相変わらず瞬間移動でへメロザる登場に味を占めている模様

・騎士ちゃん
アリア・リナージュ・アイアラス。姉の放つプレッシャーにトラウマぶり返しで冷や汗かきまくりの曇りモードに突入している。勇者パーティーの面々は幼少期の境遇が大体カスだが、精神面ではアリアの境遇が一番ひどいまである模様。

・ビキニアーマー姫将軍
レイア・ミラージュ・アイアラス。魔法効果は『反射』。ヤバいところしか見せていないヤバい女。処女な模様

・黒騎士さん
ジャン・クローズ・キャンピアス。解釈違いにげきおこぷんぷんまるだったが、勇者本人の登場にテンションがテンアゲな模様
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