世界救い終わったけど、記憶喪失の女の子ひろった   作:龍流

202 / 223
シャイロックの華麗なる救出劇/春風の武術家

 結局のところ、自分は仲間にするヤツを間違えたのではないか? 

 シャイロックは悩んでいた。それはもう、大いに悩んでいた。

 数日前。シャイロックとトリンキュロは、シーザァルトの隣国にあたる小さな国……アンデーヌに入った。寄り道をせがむトリンキュロが「この国でどうしてもやりたいことがあるんだ」と駄々をこねはじめたので、数日間だけ別行動をすることになったのだ。

 やれやれ、やかましい小娘(最上級悪魔)がようやく隣からいなくなった……と、シャイロックはマイペースに湯巡りと酒場巡りを楽しんでいたのだが、

 

「にいちゃん知ってるかい? 四天王の第一位が遂に捕まったらしいよ。こわいねぇ。こんなところに潜伏してたなんてびっくりだ。ほい、ビールお待ちどう!」

「……そうだねぇ。ありがとう、おばちゃん」

 

 こんな寂れた酒場でも話題に出るほどに、トリンキュロ・リムリリィ捕縛の一件は知れ渡っていた。

 マジでなにやってんだアイツ。

 そう叫びたくなるのを堪えるために、ビールの苦みを喉に運ぶ。ジョッキの中身を軽くしつつ、つまみに頼んだ塩気の強いハムを噛みしめても、気分は晴れない。問題も解決しない。アルコールは問題を先送りにするだけだ。

 さて、どうしたものか。

 さすがに、トリンキュロがわざと捕まったとは考えにくい。何かしらの「やりたいこと」を行おうとして、それに失敗してこうなったのだろう。言うまでもなく、トリンキュロの魔法使いとしての実力はシャイロックから見ても上から数えた方が早い。何らかの相性の関係で初見殺しを食らってハメられたか、もしくは純粋にトリンキュロを正面から相手取って倒せる魔法使い、もしくは最上級悪魔の類いがいると見るべきか。前者なら間抜けがドジを踏んだだけ、ということになるが『麟赫鳳嘴(ベル・メリオ)』の『模倣』によって複数の魔法をストックしているトリンキュロは、単純な手数の多さと対応力だけなら、自分よりも上だ。どちらかといえば、純粋に手練れの魔法使いが出てきたことを考慮すべきだろう。

 

「めんどくせぇ……」

「大丈夫かい? 兄さん。さっきからずっと難しい顔してっけど」

「あー、いや大丈夫っす。ちょっと仲間が面倒ごとに巻き込まれちまって」

「そりゃ大変だ。兄さん冒険者だろ? 冒険者っていったら自由なイメージあっけど、パーティー組んで一緒に過ごすんだから、人間関係とかいろいろ気を遣うよなぁ」

「いやもう、ほんとそうっすね」

 

 オレが組んでるの最上級悪魔だから人間じゃないけど。

 なんて言うわけもなく、シャイロックはビールを飲み干しながら話しかけてきたジジイの言葉に、適当に頷いた。

 

「まあ、元気出して。よかったらこれ食いな」

「あざっす。お、うまいですねこれ」

「そうだろ! ここで海鮮の炒めを頼まないのは損してるぜ!」

「どうも……おばちゃん! ビールのおかわりオレとこっちのテーブルに全員分! あとこれもう一皿くれ!」

「あいよー。ありがとうね!」

「おおっ! いいのかい兄ちゃん! 奢ってもらっちゃってよ!」

「どうぞどうぞ。代わりと言っちゃアレなんだけど、おっちゃん地元の人だよな? このあたりのこと、いろいろ教えてくれる?」

「もちろんだ! なんでも聞いてくれ! こっちきて一緒に飲もうや!」

 

 するりとテーブルを移動しつつ、シャイロックは自然に酒飲みたちの輪に入った。

 適当に奢って愛想よくしていると、こういう形で情報収集できるのが酒場のいいところだ。美味いメニューも美味い酒も、うまい話も、人から教えてもらうのが一番手っ取り早い。

 

「なんとなくわかると思うけど、うちは小さい国でなぁ。けど、魔王が勇者様に討たれたあとから、国王様が代替わりしたんだよ。税も軽くなって、亜人どもの締め出しも進んで、魔獣の討伐も小回りが効くようになって、いいこと尽くめよ」

「へえ。やっぱり腕利きの冒険者とか、強い魔法使いがいるのか?」

「さて? どうだろうなぁ。ある程度以上に強い魔法使いは、みーんな隣のシーザァルトのコロシアムに腕試しに行っちまうからよ。ああ、でも最近新しい魔法使いを王室が雇ったとは、噂で聞いたような……」

「お。詳しく聞きたいわそれ」

 

 勇者が魔王を討ったあとに、国王が代替わりしたこと。良政を敷いていると、評判が良いこと。隣国のシーザァルトが亜人中心の国家であるために、腕試しや一攫千金を狙う冒険者、魔法使いの類いはそちらに流れがちなこと。最近、国境付近に脅威となる魔獣が現れていたが、王室が直接雇った武術家がそれを撃退したこと。そして、捕縛されたトリンキュロの処刑予定が明日であること。いくつかの情報を取り揃えて、シャイロックは思案する。

 凄腕の武術家。トリンキュロが一杯食われたのは、コイツと見て間違いないだろう。

 大まかに知りたいことがわかったので、シャイロックはテーブルから立ち上がった。あまり、時間の余裕がないことがわかったからだ。

 

「サンキューな、おっちゃんたち。オレはそろそろ行くわ。金は多めに置いとくから。たくさん飲んで帰ってくれ」

「おお!? 羽振りがいいな兄さん! いいのかい!?」

「ああ。わりと懐はあったかい方なんでね」

「がはは! そりゃいい! あ、でもちょっとまってくれ。おい! 女将さん! この兄さんにアレ渡してやってくれ!」

「あいよー。いつもの土産ね」

 

 渡されたのは、小袋にはいった砂糖菓子だった。あまりにも酒場の土産らしくないものが出てきて、シャイロックはわりと小奇麗なその菓子細工を、しげしげと眺めた。

 

「これは?」

「ここの女将さんが趣味でつくってるもんだ! 俺が飲みすぎたとき、カミさんの機嫌を取るために、よく持って帰ってんのよ! 兄さんもそれで仲直りするといい!」

「……ありがとう。いただいていくよ」

 

 オレ、甘いもの苦手だし、最上級悪魔(トリンキュロ)が食うのは人間の魂なんだよなぁ……と、シャイロックは言わなかった。ただ黙って、砂糖菓子を懐に放り込む。

 余計なことは言わないのが、円滑なコミュニケーションの秘訣だ。

 

 

 ◇

 

 

 酒場を出たその足で、シャイロックは王城に潜入した。

 四天王の第一位を捕縛し、処断するとなれば国民へのアピールにも繋がる。噂で聞いた範囲の印象だが、このアンデーヌという国は隣国のシーザァルトに魔法使いや冒険者を取られている分、武力に乏しい。なので、さっさとトリンキュロを救出に向かった方が良いと思ったのだが……

 

「シャイロック! 助けにきてくれたのかい!? ありがとう!」

「全然元気じゃねえか。殺すぞオマエ」

 

 結論から言えば、トリンキュロ・リムリリィは牢屋の中でめちゃくちゃピンピンしていた。

 とても捕縛されて処刑を待つ身とは思えない。憎らしくも可愛らしい、しかしまったくかわいくない笑顔に、シャイロックはげんなりとした。

 

「それにしても、ここまでよく来れたね? 小国とはいえ王城の牢屋だ。それなりに警備は厚かっただろ?」

「馬鹿が阿保を重ねて言ってんじゃねえよ。オレの『黄奇怪怪(ショウ・クィン)』があればここまで簡単に来れるにきまってるでしょうが」

「いやあ、ほんとに便利な魔法だね。助かるよ!」

 

 すでに牢の前にいた看守は昏倒させてある。シャイロックは牢の扉を開け、トリンキュロの手枷を解こうとして、その異常に気がついた。

 

「なんだ、この手枷。鍵穴がないぞ」

鎖錠封枷(メイルクティ)。ダンジョン産の遺物装備だね。これをつけられると、二四時間の間、魔法の使用が『封印』されるんだ。なかなか厄介な代物だよ。ボクも昔、魔王様にお仕置きされるときによく付けられたものさ」

「懐かしんでる場合か。ちゃんと追い詰められてるじゃねえか」

 

 仕方ないので、小柄な体を肩に担いで運ぶ。こういうときだけは、この悪魔が見た目だけ見目麗しい華奢な美少女で良かったな、とシャイロックは思った。

 えっほえっほ、と。米俵のようにトリンキュロを肩に担いで肉体労働しつつ、シャイロックはトリンキュロに問う。

 

「面倒だから、結論から聞くぞ? オマエ、わざと捕まったな? 魔法を封じられても、逃げようと思えばオマエならいくらでも逃げられただろ」

「それについては、ちょっとばかり言い訳をしたいなぁ。まず、ボクがこの国に立ち寄ったのは戦力を補強するため……昔の仲間に会うためだったんだ。ヴァルゴやリブラだけだと、少しばかり今後の立ち回りに不安が残るからね」

「結論から聞くって言ったぞ。その昔の仲間、とやらはどんなヤツなんだ? 最上級なんだろ?」

「ピスケス・ドライ。十二柱の三。筋金入りの魔法オタクで、性根が腐ったマッドサイエンティスト。わりと有能だから仲間に引き入れたかったんだけどねぇ、ちょっと問題が……」

 

 

 

「どこに逃げる気ですかぁ? トリンキュロぉ……!」

 

 

 

 階段を上り、大広間に出た瞬間に降りかかってきた、ねっとりとした声。

 見上げると、完全武装の兵士たちの中心に、一人の男が立っていた。メガネに長髪の、いかにも神経質そうで、底意地の悪い顔立ちだ。おまけに、視線もなんだかねちっこい。

 なぜ逃げたことがバレたのか、とも一瞬考えたが、牢に解錠を探知する魔術でも仕込んでいたのだろう。見た目通りに用意周到そうな悪魔だ。

 

「アイツがピスケスか」

「そうそう。元同僚なんだけど、なぜかすっかり嫌われていてね」

「オマエが悪い」

「断言やめてよ。さすがのボクでも傷つくよ?」

 

 そんな軽口を叩いている間に、すっかり周囲を取り囲まれてしまった。

 

「逃がしませんよぉ、トリンキュロぉ! 私は未だに許していないっ! あなたとアリエスだけが魔王様に重用され、四天王として召し上げられた屈辱! 忘れようとしても忘れがたい! あなたもどうせ、この私を下に見ているのでしょう!? ギルデンスターンやアリエスのようにねぇ!?」

「……最上級には、ああいうヤツもいるのか?」

「いるんだよねぇ。不思議だねぇ」

 

 一方的に捲し立てられる恨みの理由が、なんともまぁ、みみっちい。一言で言ってしまえば、言動が小物だ。

 シャイロックに抱えられたまま、トリンキュロはピスケスに向けてへらへらと笑う。

 

「ねー、ピスケスぅ。昔のことは水に流して、仲良くやろうよ。あ、そうだ。今度はきみをボクの四天王にしてあげるってのはどう? えらいポジションに据えてあげるからさぁ」

「だまれぇええ! 今の私は、摂政としてこの国を掌握しつつある! アリエスが成せなかったことを、私は成そうとしているのだ! 貴様のような破壊と略奪をまき散らすだけの悪魔よりも、私は評価されるべき存在なんですよぉ!」

「お、アイツいいこと言うなぁ。オレもその通りだと思うぜ」

「シャイロック。ボクにも心はあるんだよ?」

「交渉の余地がなさそうなんだが、アイツを仲間にするのは諦めた方がいいんじゃないか?」

「それがちょっとこまるんだよねぇ。あのクソメガネの魔法、『契魚ノ交(カラコリア)』っていうんだけどさぁ。魔法効果が『抽出』なんだよ」

「ほう?」

 

 抽出。つまり、何かを抜き出す魔法効果ということだろうか。

 嫉妬に狂った小物であれば、さっさと殺そうと思っていたのだが、話の風向きが変わってきた。

 

「賢いきみならわかると思うけど、魔王様の魔法を『抽出』して遺物に保管していたのは、多分あいつなんだよ。それがどうしてシーザァルトに渡ったのかは、まだわかんないけど……」

「なるほどな。生きて縛り上げて情報を聞き出す必要があるってわけか」

「そゆこと!」

 

 そういうことなら、話が早い。

 シャイロックは、小さく呟いた。

 

 

 

「風よ。『吹き飛ばせ』」

 

 

 

 杖は使わず、魔導陣すらも必要とせず。

 ただ、一言を口遊む。

 風一つ吹かないはずの室内で、嵐が牙を剝いた。

 たったそれだけで、シャイロックとトリンキュロを包囲していた兵士たちは、暴風に吹き飛ばされ、壁面に叩きつけられ、無力化される。

 

「あれ? 殺してないじゃん」

「オレは無益な殺生はしない主義なんだよ」

「シャイロックってそういうところあるよね」

「やかましい」

 

 黙らせるために、シャイロックは担いだトリンキュロのケツを叩いた。

 無論、殺す必要があるなら殺す。しかし、殺す必要がない相手を殺したところで、自分の夢見が悪くなるだけだ。

 

「ちぃぃい! 役立たずの人間どもがぁ……!」

「あー、ピスケスだっけか? トリンキュロ(このアホ)の下につくのが死ぬほどイヤだって気持ちは痛いほどわかるんだけどさ」

「シャイロック。ねえ、シャイロック。きみ。ボクをいちいちバカにしないと会話できないのかい?」

「けど、こっちにも事情ってもんがあるもんでね。大人しく連れ去られてくれるなら、オレも手荒な真似はせずに済むんだが……どうだ?」

 

 シャイロックとしては、それなりに良い提案をしたつもりだったのだが、ピスケスは血色の悪い面長の顔立ちを真っ赤にして、ぶるぶると震えだした。

 

「どうもこうも……あるわけがないだろうがぁ! 貴様らの都合ばかりペラペラと押しつけてくるなよ、四賢! こちらに切札がないと思ったら、大間違いなんですよぉ!」

 

 国の中枢に、最上級悪魔がいる。これは、トリンキュロの行動と、酒場での会話から、なんとなく想像していたことだった。国政が変化したタイミングと、最上級が落ち延びてきた時期も一致していたからだ。

 最上級悪魔が、トリンキュロを捕縛できるほどの遺物装備、もしくは腕利きの魔法使いを抱えている。これについても、シャイロックは想定した上でこの王城に突入している。

 

 

「さあ! 自分が最強だと思いあがっているその四賢を、やっておしまいなさいっ! ルルさん! クロエさん!」

 

 

 想定外は、()()使()()()()()()()こと。

 シャイロックとトリンキュロを、前後から挟み込むように。現れたのは、二人の少女。

 片方は、すらりと手足の長い褐色。もう一人は、華美なドレスに身を包んだ幼女。

 

「ウチがやる。クロエは下がって」

「ん」

 

 瞬間、感じたのは、走り抜けるような悪寒。

 

「トリンキュロ。投げるぞ」

「へ?」

 

 トリンキュロを空中に投げて逃がし、その瞬間。シャイロックは飛び込んできた褐色の影に、殴り飛ばされた。

 

「ぐっ!?」

 

 先ほど、自分が兵士たちにしてやったことが、そのまま返ってきた形だ。

 普通の人間なら昏倒するような勢いで石柱に叩きつけられ、シャイロックは僅かに呻いた。

 

「いってて……。良いパンチ持ってるねぇ。お嬢さん、お名前は?」

「……だっる。名前なんか聞いてどうすんの? あんたは今からウチの金ヅルになるんだから、名乗る意味なんてないっしょ」

 

 ピスケスに「ルルさん」と呼ばれた一人目は、シャイロックに向けてそう吐き捨てた。

 またかわいらしい別嬪さんが出てきたなぁ、と。シャイロックは少女の姿を観察する。

 年齢は、十六から十八の間。褐色の肌に露出が多い格好をしている。口元のフェイスベールとアクセサリとして身につけている鈴も相まって、格闘家というよりも踊り子のようだ。ただし、その手には物騒なナックルダスターがご丁寧に携えられていた。冷めた目でこちらを見てくるくせに、殴り殺す気満々、といった感じだ。

 シャイロックは、深くため息を吐いた。床にに放置したトリンキュロが、芋虫のように転がりながら叫ぶ。

 

「気をつけろ! シャイロック! その褐色ギャルの拳、勇者やルセッタと同じやつだ! ボクもしこたまにボコボコにされたぞ!」

「オレが殴り飛ばされてから言ってんじゃねえよ。先に言え、先に。マジでオマエから殺すぞ」

 

 起き上がりつつ、シャイロックは首を鳴らして、踊り子の少女を見据える。

 シャイロックは魔導師であり、賢者だ。魔法を無効にする拳法の理屈など、知ったことではないが……ちょうどこの前、黄金の武闘家に殴られて体感したばかりなので、対策はある。

 ムム・ルセッタの『金心剣胆(クオン・ダバフ)』のような防御魔法がないのなら、近づかれる前に仕留めればいいだけのこと。

 

「大地よ。『縛りあ──」」

春速万変(マーチ・エアル)──

 

 シャイロックが、一言を紡ぐよりも、疾く。

 魔法が、躍動する。

 鈴の音が、小さく響く。

 

 

──逸速(ファースト)

 

 

 気がつけば、目の前に拳があった。

 速い。あまりにも、素早い。

 再びの一撃。

 その殴打を受けて、シャイロックは再び大きく吹き飛ばされた。

 

「……もっかい褒めていいか? やるねえ、お嬢さん」

 

 血反吐を吐きながら、その拳を賞賛する。

 距離は十分にあった。魔力による肉体強化で踏み込まれても、確実にこちらの魔術の起動の方が早い、と。そう判断したからこそ、シャイロックは魔術の使用を選択した。仮に今、対峙していたのがムム・ルセッタであったのならば、拳が届く距離まで踏み込まれることはなかっただろう。

 なんということはない。ただシンプルな事実があるだけ。

 

「……うっざ。顔だけイケメンのくせに調子乗んなし」

 

 彼女は、シャイロックが対峙してきた魔法使いの中で()()だ。

 

「でも、ウチの拳を二発喰らって立ってるやつ、ひさびさだから、名乗ったげる。ルル・ファルク・ルセッタだよ」

「ご丁寧にどうも。オレはシャイロックだ。ルセッタっていう名前には聞き覚えがあるな。もしかして、勇者パーティーの武闘家さんと関係あったりする?」

「……そ。ムム・ルセッタは、ウチの憧れ。こっちの家系……ルセッタの超ご先祖の大師父様が、黄金の拳聖様の師匠。マジアガる」

 

 会話を振ったら、適当に応えてくれる余裕まである。若い割に、随分と修羅場の場数も踏んでいるようだ。

 

「その魔法、打撃を喰らった感じは『加速』か? いいもん持ってるじゃないの」

「……魔法使いが、自分の魔法の種明かしを、自分からすると思うワケ?」

「いいじゃねえか。べつに、タネが割れたところで弱くなる魔法でもないだろ?」

「……やっぱ、うざ」

 

 口元はフェイスベールに隠れて見えないが、向けられる視線だけでも凍えそうになる。シャイロックは苦笑した。

 彼女の魔法効果は、分析するまでもなく『加速』。シンプルだが、良い能力だ。汎用性も破壊力も申し分ない。

 

「おい、気をつけろ、シャイロック!」

「もう言われなくてもわかってるよ。オレが片付けるから、オマエはもう黙って寝て……」

「ちがう! ヤバい魔法使いは、そっちの褐色じゃないんだよ! もう一人の方だ!」

「……あ?」

 

 どういう意味か、と聞き返す前に。

 それまで、ルル・ファルク・ルセッタの後ろで、存在が嘘のように息を潜めていた少女が、手を掲げた。

 

 

「ねえ。ルルちゃん。やっていい?」

「……あー、まあ、いいよ。クロエ」

「ん。わかった。『鬼哭啾愁(オウガアッハ)』──」

 

 

 

 告げたのは、一つの魔法の名。

 そして、この世界でたった一人だけ、

 

 

「──()()()

 

 

 世界を救った勇者だけが使うはずの、それは。




こんかいの登場人物

シャイロック
四賢。口遊むシャイロック。
飲み屋に入ったとき、お通しや突き出しで枝豆以外のものが出てくるのが好き。そのあと単品で枝豆を頼むのが好き。基本はビール党だがなんでも飲む。勇者くんよりも酒は強いが死霊術師さん未満くらいの強さ
トリンキュロのケツを二回くらい叩いている。ロリコンだが見た目だけロリのトリンキュロにはまったく興奮しない。白ワンピに麦わら帽子みたいな鉄板のシンプルロリが好き。素材の味を重視するタイプ

トリンキュロ・リムリリィ
元四天王第一位。十二柱の一。またの名をカプリコーン・アイン。シャイロックに二回ほどケツを叩かれた。リリアミラのことが大嫌いだが、自分の粗雑な扱いがリリアミラっぽくなりつつあることに気がついていないヤツ

ピスケス・ドライ
面長メガネで顔色が悪いマッドサイエンティスト。神経質で陰湿。嫉妬深く、皮肉屋。みんなから嫌われる性格をしている。十二宮の三。魔術への造詣が十二柱の中でトップクラスに深い
魔王軍時代にがんばって働いてたのに、トリンキュロとアリエスだけ(他にもう一人、表の四天王をやってるヤツがいた)が四天王をやってたことを未だに深く恨んでいる
魔王様の魔法を保存してたのはコイツらしい

ルル・ファルク・ルセッタ
武術家。褐色ダウナーバイオレンス踊り子ギャル。フェイスベールで口元を隠しているため表情が見えにくいが、視線は常に冷たい。比較的えっちな格好をしているが、シャイロックがロリコンなのでそういう目では見られなかった。
ムムをに拳法を教え、育てた師父の子孫筋。厳密に言えば師父のお兄さんから続く血筋。ムムのことを尊敬しているらしい。

クロエ
二人出てきたうちのもう一人。なんかヤバそうな魔法を使う方。ルルよりもロリ


こんかいの登場魔法
『春速万変』
春風の色魔法。自分自身と触れたものを『加速』する魔法効果を持つ。シャイロックとトリンキュロが「今まで戦ってきた中でコイツが一番速い」と断言する程度の速度を誇る
『春速万変・逸速』
ファーストギア。第一加速。自己の思考が追いつく範囲で加速する。ほとんどの敵はこの状態のパンチでワンパンできるが、シャイロックは二発受けてなんか耐えてる



ヒロアカの敵連合やサスケが八尾捕まえる回みたいなノリでやってすいません。次回に続きます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。