信頼できる主に仕えていたころは、良かった。
たとえ世界中から魔王と呼ばれる存在であっても、ピスケス・ドライにとってエトランゼ・リアは間違いなく理想の主人だった。
「魔王様。人の心に優劣はあると思いますか?」
「それは、とてもおもしろい質問ね。ピスケス」
ピスケスという悪魔には、欲があった。
知識への欲望である。よりわかりやすく言い換えるのであれば、それは「知りたい」という欲であり、より深く「解き明かしたい」という望みでもあった。
だから、ピスケスと主の会話は、大抵の場合問いかけにはじまり、それに対する答えを受け取る、という形が常だった。
「質問に質問を返してしまう形になって申し訳ないのだけれど……先ず、人間に優劣はあると思う?」
「ございます」
ピスケスは即答した。
背の高さ、髪の色、肌の色、知能、体力、魔力の有無……挙げはじめればきりがない。
この世にすべてが同じ人間は存在しない。むしろ、人間という生き物は他の動物に比べて、個体ごとの差が顕著に表れる。その多彩さがあるからこそ、人間は我が物顔で生態系の頂点に立ち続けている。
「それらの能力の優劣は、可視化できるかしら?」
「できます。たとえば、足の速い者は、遅い者よりも優秀です」
「ふふっ。そうね。かけっこをするのは、たしかにわかりやすいわね。でも、短い距離を走るのは苦手でも、長い距離を粘り強く走るのが得意な人もいるかもしれないわ。足の速さ、という優劣を競うだけでも、それを比べるためにはいろいろな見方が必要だと思わない?」
「む……たしかに、そうですねぇ」
ピスケスは素直に頷いた。提示された新たな視点に、気付きを得る。これだから、主との会話は楽しい。
「体格が良い人間は、小柄な人間よりも優れているのか? 一般的には、背が小さいよりも高い方が優れていると言えるわよね。でも、狭い場所や高い場所での作業を生業とする人間は、小さくて身軽な方が適しているでしょう? 数字の計算が得意な人間は、苦手な人間よりも頭が良いのかしら? わたしは違うと思うわ。知能の基準を算術のみに絞れば明確な優劣がついてしまうかもしれない。でも、数字の取り扱いが苦手でも、美しい文を書くのが得意な人間がいたとしたら? なにをもって頭の良さを比べるべきなのでしょうね?」
「……身を置いた環境によって、人の能力に対する優劣の判断基準は変わる、と?」
「簡潔にまとめてくれてありがとう」
だから、ここにあるものも同じなのよ、と。
言葉を繋げて、魔王はピスケスの胸を指差した。
「穏やかでやさしい人は、気が強い人間よりも劣っているのか? 無口で無愛想な人は、よく笑う人間よりも好かれないのか? 向上心のない人は、出世欲を胸に秘めた人間よりも価値がないのか?」
まるで謳うように。
魔王は悪魔に向けて淡々と説く。
「目に見えない人の心の優劣は、姿形や能力よりも、もっと比較しにくいものでしょう」
「では、何が人の心の優劣を決めるのですか?」
「隣に立つ人が決めるわ」
「は?」
「詩的な言い回し過ぎて、わかりにくかったかしら? じゃあ、もっと単純に言い換えるわね」
ぐりぐり、と。
ピスケスの胸の中心を指先で強く押し込みながら、魔王は笑った。
「心の価値は、その人を愛している人が決めるの」
「……私の心に、価値はありますか?」
「もちろん。あなたはとてもおもしろいわ」
「……それは、うれしいですねぇ」
主は、今日も美しい。ピスケスが知る限り、最も美しい存在だ。
ピスケスが知る誰よりも理知的で、迷いがなく、紡ぐ言葉には静かな納得がある。
だからこそ、ピスケスは疑問に思った。
「ですが、魔王様。心には魔法が宿ります。客観的に見て、魔法を持たない心は魔法を持つ心よりも劣っている……ということになるのではありませんか?」
ピスケスという悪魔には、欲がある。
それは「知りたい」という欲であり、より深く「解き明かしたい」という望みでもある。
魔術の研究をした。人の経済の在り方を学んだ。人体の構造と機能を研究した。悪魔の成り立ちと、その目的も学んだ。
数え切れない知識を蓄えていく中で、しかし自分の心の内には、ずっと一つの疑問が渦巻き続けている。
魔法とは、何か?
ピスケスが最も解き明かしたい謎は、まだ謎の暗闇に覆われたままだ。
魔王は、ピスケスの問いに答えなかった。それまで滑らかに言葉を発していた唇が、薄く引き絞られる。
「……魔法の有無が、人の心の価値を決めるのだとしたら、それはやっぱり環境が間違っているのでしょうね」
どこか遠くを見ながら、魔王は呟いた。
「心の在り方に優劣を強いているのは、この世界よ」
環境とは世界である、と魔王は言い切った。
「だから滅ぼすの」
数式には、答えがある。学び続ければ、いつか答えが見えてくる。
走り方には、正しい姿勢がある。努力し続ければ、いつか最適なフォームに辿り着く。
しかし、このとき見た主の笑みの、悲しげな深い色の意味が、なんだったのか。
ピスケスという悪魔は、未だにその答えを導き出せていない。
◆
魔王が勇者に倒されたあと。
ピスケスが学んだことは、たった一つ。
「降参するってのは、なに? 抵抗するのはやめて、オレらの配下になってくれるってことでいいのか?」
「仰る通りでございます! シャイロックさまぁ! 私はあなたに! 忠誠を誓いましょう!」
生きていれば、必ずチャンスは巡ってくる。
そのためなら、地面を頭に擦りつけよう。翼を折って服従の意思を示そう。
たとえ、見下され、踏みつけにされようとも、生きてさえいればいつか必ず……
「そういうのいいから。顔上げろよ、ピスケス」
「……へ?」
言われて、顔を上げる。
見下しも踏みつけもせず、腰を落として視線を下げたシャイロックは、どこか困ったような顔でピスケスを見ていた。
「たしかにオレはオマエをいつでも殺せるし、オマエの命はオレが握ってるようなものだけど」
あ、やっぱりいつでも殺せちゃうんだぁ……
ピスケスは手をついた地面の冷たさと恐怖に震えた。
「オレはなんでもいうことを聞いてくれる部下が欲しいわけじゃないんだ。対等な立場で、自分とは違う視点で意見をくれる仲間が、オレは欲しい」
「……四賢の頂に立つあなたと対等になれる人間など、この世にはほとんどいないと思いますがねぇ」
「オマエ、人間じゃないじゃん」
端的な差別発言だったが、ある意味一本取られてしまった。
ピスケスの肩を軽く叩いて、シャイロックは笑う。
「なあ、仲間になってくれよ。ピスケス」
「……私は、人間が嫌いなんですよぉ。自分より強くて優秀な人間は、もっと嫌いです。上に立たれるだけで、反吐がでそうになります。肩を並べても、それは同じことです」
「べつにオレのことはキライなままでいいさ。オレもべつに、悪魔のことが好きなわけじゃないし。けど、オレらは好きなものは共通してるだろ?」
「なんですかそれは」
「魔王が好き」
あまりにも単純な答えだった。
しかし、単純だからこそ、その答えが心に響くこともある。
「オマエもあの子のことが好きだったんだろ? あの子に認めてほしかったんだろ? オレも似たようなもんだ。互いのことがキライでも、好きなものが同じで、共通の目的を持つなら協力できると思わないか?」
「……私は、あなたを後ろから刺すかもしれませんよぉ? 大切な局面で、裏切るかもしれませんねぇ」
「それは困るな。じゃあ、オレと契約しよう。ピスケス」
「…………はい?」
今度こそ、ピスケスは耳を疑った。
人間が悪魔と契約を交わす。それは、悪魔にとって最も効率的に人の魂を捕食できる方法だ。そして同時に、人間にとっては遠回りな自殺と何ら変わりない。悪魔の力を借りる代わりに、代償として差し出すのは命そのものだからだ。
「これもシンプルにいこう。契約内容は、オレに協力すること。あと、互いを裏切らないこと。殺さないこと。契約期間はオレの望みを実現するまで。達成できたら、オマエはオレの魂を得る。オレと対等な人間なんて、この世にほとんどいないんだよな? オマエがさっき言ってたことだ。オレの魂の価値は、十分以上にあると思うけど?」
「な、なぜそこまで……」
「オマエの魔法をオレは評価しているし、オマエという悪魔に魅力を感じている。これ以上理由が必要か?」
ピスケスという悪魔を、ピスケスの心の価値を。
シャイロックは、高く買っている、と。
やはり端的に、四賢はそう言っていた。
「……口説くのがお上手ですねぇ。しかし、私は……」
「もう少し上乗せしておこうか。オレは便宜上、トリンキュロと仲間の関係にはなっているけど、アイツとは契約しているわけじゃない」
「え。そうなんですか」
「うん。生理的に無理だから」
死にかけのトリンキュロを指差して、シャイロックは笑みを浮かべる。
それは、とても悪い笑みだった。
「オレと契約すると、オマエはオレの契約悪魔になる。つまりオレのパーティー内で……オマエの立場はトリンキュロよりも上だ」
「末永くよろしくお願いしますよぉ! シャイロックぅ!」
「おう。よろしくな」
即断即決。
契約魔導陣をすっと差し出してきた最上級悪魔に血判を押して、シャイロックは最後の一人を見た。
これまでのシャイロックたちのやりとりを一言も発さずにずっと見ていた仮面の少女……クロエ・ラシャスだ。
「私があなたの仲間になるなら、クロエさんも自動的についてきますよ? 彼女は自分の意志が希薄なのでねぇ」
「いや、ちゃんと筋は通したい」
膝を折って、シャイロックはクロエと視線を合わせる。
「えーと、お嬢ちゃん」
「……クロエ」
「あー、クロエちゃん。できれば、オレの仲間になってほしいんだけど」
「……」
「……」
答えが返ってこない。沈黙が続く。
シャイロックはこまった。かわいい幼女が相手だと、シャイロックは弱い。
「ウケる。ウチとピスケスはあんなにスムーズに口説いたのに、なんでクロエ相手だと固まるわけ?」
「まったくですねぇ。しかし、安心してくださいシャイロックぅ! 聡明なあなたの契約悪魔であるこの私が、助け舟を出してあげましょう! クロエさんは甘いものが好きです」
「いや、そんな都合よく甘いもの持ってないしょ」
「クロエちゃん。オレ、お菓子持ってるんだ。食べる?」
「持ってるし。マジ絵面不審者でウケる」
金で雇った後ろの踊り子がいろいろ言ってくるが、他に手がない。ちょうど酒場で入手して持て余していた女将さん特製の砂糖菓子セットを、シャイロックはクロエに差し出した。
「……!」
ぱぁ、と。
それまで冷たい仮面のように無表情だったクロエに、ようやく反応があった。
さくさく、と。控えめに。しかしほんの少しだけ嬉しそうに。色とりどりの砂糖菓子を、次々と口に運んでは、頬張る。
食べるのが好きなんだな、とシャイロックは思った。
「クロエちゃんはさ。お菓子は好き?」
「……ん。好き」
「そっか。じゃあさ、オレのパーティーの死霊術師になって、一緒に旅をしようよ」
「……お兄ちゃんと旅をすると、何ができるの?」
「いろんな場所のいろんなお菓子を、たくさん食べれる!」
「……!」
目的は一つ。シャイロックの中で、それが揺らぐことはない。
けれど、それくらいの寄り道は、してもいいだろう。
「……もういっこだけ、質問」
「どうぞ?」
「お兄ちゃんの、旅の目的は、なに?」
クロエに問われて、シャイロックは即答した。
「大好きだった女の子を、生き返らせたいんだ」
「……ん。わかった」
差し出された自分よりも随分小さな手のひらを、シャイロックは強く握った。
◇
「はい、いらっしゃい! 何名様……って、なんだい! 昨日の色男さんじゃないか!」
「どうも。おばちゃん。胃袋掴まれて、また来ちゃったよ。席あるかな?」
「奥がまだ空いてるからどうぞ! それにしても、アレだね。昨日とはまた打って変わって、随分人が増えたねぇ……?」
「まあね」
酒場の女将は、興味深そうにシャイロックの背後を見た。
後ろにぞろぞろとついてきているのは、褐色の踊り子、白い幼女と黒い幼女、そして長髪に眼鏡の陰気そうな男。
総勢五名様のご案内だ。たしかに、たった一日でかなり人数が増えてしまったな、と。シャイロックは我が事ながら苦笑した。
通された座敷の席に座ると、トリンキュロが落ち着きなく周囲を見回す。
「おおー、いいじゃんシャイロック! こういう店、ボク結構好きだよ! でも、ワインあるかな!?」
「その見た目で酒頼めるわけないだろトリン……じゃなかった、リリィ。大人しくジュースでも飲んどけ」
「シャイロックさま〜。全部奢りってマジ? ウチ、結構食うよ」
「好きなだけ食べなさいよ。新パーティー結成記念だ。ここはオレが出す」
「まじ太っ腹じゃん。アガるわ」
「おう。アゲてけ」
「やれやれ。なにやらむさ苦しい店だ。このような店で私の口に合うものが出てくるかどうか、甚だ疑問ですが……まぁ、いいでしょう。こういった場所でしか頼めないものを口にするのも、また一興。失礼、そちらのレディ。ポテトサラダをいただけますか? じゃがいもの潰しは粗めでお願いしたいですねぇ。あとはこちらの串ものも人数分貰いましょうか。シャイロック、あなた焼き鳥はタレ派ですか塩派ですか? 私は断然塩派ですが、まあこの場はあなたの奢りということですからねぇ。あなたに合わせて譲るのも吝かではありませんよ。ああ! しかし、たたき胡瓜は先に頼みますよぉ! これは外せない!」
「いいから黙って注文しろピスケス。お姉さんがひいてるだろ」
「……お兄ちゃん。わたし、オレンジジュースがいい」
「ああ、わかった。クロエも、食べたいものがあったら言っていいんだぞ? きらいなものは何かあるか?」
「……にんじんと、ピーマンと、ネギ」
「お姉さん、串はぜんぶタレでちょうだい。あとネギ外せる?」
「シャイロックぅ! クロエさんを甘やかすのはやめていただきたいっ! その年頃の人間の女を甘やかして好きなものだけを食べさせると、栄養がねぇ! 偏るんですよぉ!? 健全な成長を阻害するのはやめなさいっ! あと串の半分は塩にしてもいいでしょう!?」
「うるせえ。いいだろこういう日くらい好きなものだけ食っても」
「そうだよ、ピスケス。そういうのマジうざいよ」
「私の味方はいないのですかぁ!? まったく……シャイロックぅ! あなた、一杯目は何です?」
「ビール」
「では、レディ。生を二つ」
「オマエ、ビールとか飲むんだ……」
「飲みますよぉ」
昨日は一人で寂しく呑んでいた。
今日はとても騒がしい。しかし、この騒がしさはわりと好きになれそうだと、シャイロックは思う。
「よう! 昨日の兄ちゃん! 今日は随分と大所帯だな」
「どうも、おっちゃん。昨日は菓子ありがとうな。おかげで助かったよ」
「お? よくわかんねぇが、役に立ったならなによりだ! けど、今日はあんま遅くまで飲むなよ!? 処刑される予定だった四天王の第一位、結局逃げ出しちまったらしいからよぉ! 俺も一目見たかったんだが……」
「こわいねぇ。ご忠告ありがとう。気をつけるよ」
噂のトリンキュロ・リムリリィ本人は、シャイロックの対面でニヤついている。これほどの灯台下暗しも、なかなかないだろう。
「しかしアレだな。別嬪の踊り子さんに小さい女の子が二人に、眼鏡の兄ちゃんに……こりゃあ、どういう集まりなんだ?」
乾杯のために杯を掲げながら。
シャイロックは、その当然の疑問に対して、簡潔に答えた。
「オレの仲間だよ」
◇
「……というわけで、手練れの魔法使いがパーティーを組んで連携を取ってくると、かなり手強かったなぁ。一対一よりも、対処しなきゃいけないことも、考えることもかなり増えるからさ。まあ、これは赤髪ちゃんの質問の、強い魔法使いの定義ってやつから、ちょっとズレるけどね」
「なるほどです!」
「まあ、手練れの魔法使いなんて自我が強いヤツばっかりだから、なかなかそんなパーティーを見ることはなかったんだけど。まとめる人間がやっぱりリーダーに必要だし」
「うちのパーティーも勇者さんを中心にまとまっていますもんね!」
「え。そう? ふふ、ありがとう……」
赤髪ちゃんの素直な賞賛は、いつもおれの悩める心を癒してくれる。沁みるわぁ……
熱心にメモを取っていた赤髪ちゃんは、そこでペンを止めた。
「魔王と、四天王第一位……やっぱり、その二人の強さが、魔法使いとしては頂点に近いんですね」
「……うーん。おれに戦いの基礎を教えてくれた先生とかもすげえ強いけど、最近まともに手合わせしてないから、ちょっと比べにくいなぁ。今は第一騎士団の団長やってるから、間違いなくめちゃくちゃ強いけど」
「ときどき話に出てくる方ですよね。おヒゲと筋肉の……」
「そうそう」
強い魔法使い。最強の魔法使い。おれにとっての、最強のイメージ。
腕を組み、天井を見つめること、数秒。
少し悩んでから、おれはその話を赤髪ちゃんにすることに決めた。
立ち上がり、台所の下をまさぐって、漬物石代わりにしているそれを取り出す。
「赤髪ちゃん、これは覚えてる?」
「あ、はい。勇者さんの魔剣ですよね。昔使っていた武器の……」
「うん。これを使っていたのは、元々は四天王の第三位。死霊術師さんと同じ、人間でありながら魔王に仕えて最高の地位まで登り詰めた魔法使いの武器だった」
くんくん、と。
ちょっと嗅いでみる。
うん。ちゃんと漬物臭くなっている。
「赤髪ちゃん、お茶飲む?」
「飲みます!」
「漬物食べる?」
「食べます!」
「よしよし」
あったかいお茶の準備を整えて、テーブルの上に漬物の小皿を置く。
……そういえば、あのジジイも漬物を好んでいた。
「昔の話をしようか」
少し長い話をするために、イスに深く座りこむ。
「おれが結局、勝てなかった魔法使い……四天王の第三位の、クソジジイについての話。おれが今よりほんの少しだけ、やんちゃしてたころの話だよ」
「……勝てなかった?」
「うん。そう」
おれは四天王第一位を倒している。
おれは魔王を倒して、世界を救っている。
けれど、たった一人だけ。直接戦って、拳と、刃を交えて、最後まで勝てなかった魔法使いがいる。
最強の定義は難しい。
しかし、これだけは断言できる。
四天王の第三位。彼はおれの生涯の中で、最も手痛い敗北を刻み、最も色濃く死の恐怖を植えつけた。
◆
四天王第三位、ゼアート・グリンクレイヴは、勇者に言った。
「勇者よ! やはり貴様は殺すには惜しい! 儂の跡継ぎになれ! 世界の半分を貴様にくれてやる!」
「滅んだあとの世界の半分なんて、ただの切れっ端だろ。大層なもんくれてやるみたいな言い回しはやめろよ、クソジジイ」
「フハハハハ! なるほど! それはそうだ! 儂としたしたことが、これは一本を取られたわ!」
もう何度目になるのかもわからない、やりとり。
申し出を断った勇者に対して、ゼアートは歯を剥いて大笑した。
銀の長髪。齢六十を超えるにも関わらず、眼光鋭く、威風堂々とした容貌。
相棒たる魔剣を掲げ、ゼアートは勇者は見据えて、重ねて告げた。
「……四分の三でどうだ?」
「いらねえって言ってるだろ!」
「そうか。だめか……」
人の身でありながら、魔王の軍勢に身を落とした歴戦の猛将。
ゼアート・グリンクレイヴは、後に世界を救うことになる勇者に対して、執拗に誘いの言葉をかけ続けていたという。
つまりそれは……魔王軍への勧誘である。
というわけで次回過去編です
合法的に勇者くんに人の名前を呼ばせることができる貴重な機会。強いジジイが大暴れ
あと、コミカライズ最新話更新きております
https://to-corona-ex.com/comics/138024458977370
勇者くんが魔法使う回です。見開きがマジかっこいいので是非