世界救い終わったけど、記憶喪失の女の子ひろった   作:龍流

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騎士団長会議/そして、舞台の幕は開く

 ステラシルド王国の誇る、五人の騎士団長。彼らの職務は、基本的に多忙を極める。

 王都の守護、大型魔獣の討伐、悪魔の駆除、要人警護……それぞれの団が主として努めなければならない役目はもちろんのこと、単独として『最上級悪魔に対抗し得る存在』である彼らは国家の最高戦力であると同時に、象徴でもある。

 グレアム・スターフォード。

 ジャン・クローズ・キャンピアス。

 イト・ユリシーズ。

 ギルボルト・ヴァノン。

 レオ・リーオナイン。

 五人全員が一堂に会する機会は、早々ないと言っていい。

 

「諸君らに集まってもらったのは、他でもない」

 

 国王であるユリン・メルーナ・ランガスタの招集がない限りは。

 

 

「極彩天武会の観戦に勇者(おにいちゃん)とシーザァルトへ遊びに行くから、一緒についていくヤツを決めるぞ」

 

 

 ユリンは、朗らかに言い切った。

 騎士団長たちは、その一言を受けて、一斉に目を見開いた。

 円卓の会議机に、緊張がはしる。空気が一段、重くなる。

 その静寂を切り裂いたのはやはりというべきか、第三騎士団団長……イト・ユリシーズだった。

 

「はい! はいはい! はい! ワタシが行きます!」

「落ち着け、ユリシーズ。こういうのは、行きたいからという理由でついていけるものではない。そもそも、お前は勇者殿と一緒にいたいだけだろう?」

「はい! そうです!」

「返事がよければ何を言っても許されると思ってないか?」

 

 第四騎士団団長……ギルボルト・ヴァノンはため息を吐きながら眼鏡を上に押し上げた。騎士団長はよく言えば個性的な……悪く言えば、我が強いアホしかいないため、基本的に常識人であるギルボルトが会議のまとめ役をすることが多い。

 

「まずは陛下のご意思を伺ってからだな……」

「いや、余はべつに誰でもいい」

「……陛下。誰でもいいというのが、一番こまるんですよ!?」

 

 ギルボルトは眼鏡の奥の眼を見開いて叫ぶ。

 お母さんが息子に「今日の夕飯? なんでもいいよ」と言われるのと同じである。誰でもいいというのが一番こまるのだ。ほんとに。

 

「まあ、落ち着け。ギルボルト。そういうことなら話が早いじゃないか。俺が行こう」

 

 第一騎士団団長……グレアム・スターフォードは、そう言い切った。

 

「……理由をお聞きしても? スターフォード卿」

「騎士団長の中では、俺が一番強い! 陛下に大会の優勝を献上するなら、俺が行くしかあるまいよ! あと、ひさびさに勇者(おしえご)と飲みに行きたい!」

「後半が本音でしょう。後半が」

 

 王国最強の騎士の発言を、ギルボルトはざっくりと切り捨てた。

 しかも付け加えるなら、グレアムの認識は少々ずれている。

 

「そもそも、我々はあくまで陛下の護衛として行くのであって、大会には参加しませんよ」

「え? そうなの? それはちょっと残念だな……」

「弁えよ、スターフォード。お主が出たら普通に優勝してしまうだろうが」

「はっはっは。それもそうですなぁ!」

 

 悪びれもなく笑うグレアムを、咎める人間はしかしこの場には一人もいない。

 純粋な武力でいえば、グレアム・スターフォードが一番強い。その事実は、他の騎士団長も全員が理解するところだからだ。

 ギルボルトは、腕を組んで言った。

 

「……わかりました。間を取って、私が同行します。たしかに実力的にはスターフォード卿が同行するのが筋ですが、国を空けるのが不安であるのも、また事実。なにより、護衛任務であるのなら()()()()()()()()()です」

「えー! ギルさん、魔法を持ち出してくるのはずるいよ!」

「黙れユリシーズ。何もずるくない」

「そうだぞ、ギルボルト! お前がついていってもおもしろくない!」

「おもしろさの話はしてないんですよ」

 

 子どもの頃から知っているイトと、昔の上司であるグレアム。二人のアホのダブルパンチにうんざりしていると、そのタイミングを見計らっていたかのように、すっと手が上がった。

 

「ならば、ここはさらにその間を取って……このボクが同行しましょう!」

 

 第五騎士団団長……レオ・リーオナインが不敵に笑う。

 筋肉と天然をあしらっていたところに、さらに馬鹿が乱入してきた。実にややこしい。

 ギルボルトは、眼鏡の奥からじっとりとした視線をレオに向けた。

 

「ふざけたことを言うな。何も間を取れていないぞ、リーオナイン」

「そうだよ、レオくん。レオくんがついていくことで、何か明確なメリットはある? 悪いけど、単純に陛下を護衛することを考えるならレオくんよりもワタシやグレアムおじさんの方が強いよ?」

「もちろんそんなことは理解しています。しかし、ここはあえて主張させていただきたい……!」

「ほう。申してみよ。リーオナイン」

「率直に申し上げます、陛下。イト先輩やスターフォード卿、ヴァノン卿がついていくよりも、ボクがついていった方が……確実におもしろいっ!」

「ははっ! ウケるな」

「ウケないでください、陛下」

 

 勝手にウケている国王を、ギルボルトは、たしなめた。

 自分のおもしろさを武器にしてくる騎士団長がいていいわけがない。目の前にいるけど。

 

「あと、自分の『紙上空前(オルゴリオン)』は他のみなさんの魔法に比べると小回りが効いて便利ですので、色々とお役に立てるとは思います」

「お前はそういうところで補足を入れてくるのが本当に小賢しいな……!」

「光栄です」

「褒めてはいない」

「ワタシお腹空いてきたんですけど、おやつ食べていいですか?」

「もう少しだけ我慢しろユリシーズ」

「イト。この前の遠征の土産の煎餅があるぞ」

「甘やかさないでくださいスターフォード卿……っ!」

「うむ。この話し合いは長くなりそうだしな。茶でも淹れるか」

「流されないでください陛下……!」

「そういえばボクも良い茶葉を土産として持参してあります。ヴァノン卿は紅茶派でしたね? 緑茶とはわけて淹れましょう」

「どうしてお前はそういうところの気は効くんだリーオナイン!」

「これは褒められていますね? 重ねて光栄です」

 

 わいわい、がやがや。

 すっかりゆるくなってきた空気に、楔を穿つように。

 

「ひとつ、いいか?」

「キャンピアス卿!」

 

 それまで沈黙を貫き続けてきた、第二騎士団団長……ジャン・クローズ・キャンピアスが、遂に口を開いた。

 ギルボルトは内心で歓喜した。

 黒騎士の異名も名高いキャンピアスなら、このふざけた空気を引き締めてくれるに違いない。

 

 

 

「誰でもいいのなら……全員(みんな)で行けばいいのではないか?」

 

 

 

 ピクニックかよ。

 全然ダメだった。むしろ、一番アホな提案だった。

 ギルボルトは頭を抱えたが、他の三人はキャンピアスの提案に息を吞んだ。

 

「っ……! なるほど!」

「その手がありましたか……!」

「キャンピアス卿、天才っ!」

 

 筋肉(グレアム)馬鹿(レオ)天然(イト)とが三人揃って「それだ!」と言わんばかりに手を叩く。いいわけがない。

 ギルボルトが注意するまでもなく、先にユリンの方がどん引きした。

 

「いや、ダメに決まってるだろ……考えてもみろ? 余がおまえたちを全員連れていったらシーザァルトに「あなた方は信用できないのでこれから戦争します」と言っているようなものだぞ? 普通に過剰戦力だ」

「っ……! たしかに」

「それは、そうですね……」

「陛下、賢い……!」

 

 お前らがアホなだけだ。

 ギルボルトは頭が痛くなってきた。

 

「……ダメか」

 

 心なしか、キャンピアスの巨体も少し小さくしゅんとなっている。

 

「しかし、どうやって決めましょうか」

「えー。ワタシ絶対ついていきたいよ。おもしろそうだし」

「それはボクも同じなんですよ、先輩。親友とのワクワク大会観戦、これは譲れません」

「要するにバレなきゃいいわけでしょう? あ! 変装とかしてついてく?」

「ほう。それも悪くないな」

「グレアムおじさんはダメだよ。筋肉でバレるもん」

「筋肉で……?」

「……変装は、私も……厳しいな」

「キャンピアス卿は逆に鎧脱げばいけるんじゃないですか?」

「鎧はあまり脱ぎたくない」

「ワタシとレオくんとギルさんは変装でなんとかなりそうだから、キャンピアス卿を正式な護衛にして、グレアムおじさんが留守番でいいんじゃない?」

「……それがいいな」

「おい! ふざけるなキャンピアス! イトもだ! 俺をナチュラルに留守番担当にするんじゃない!」

「いやぁ、最強の騎士にはやっぱり国の守りを任せたくてぇ……」

 

 レオが淹れてくれた紅茶を、ギルボルトは憮然とした表情で啜る。本当に美味い。香りも良い。こんな場所で飲まなければ、もっと美味しかっただろう。

 このまま、回る会議をいつまでも続けていても仕方がない。立ち上がったギルボルトは、ユリンの前に煎餅と茶菓子の盆を置いて、頭を下げた。

 

「陛下」

「なんだ? ヴァノン」

「……あみだくじ、つくってください」

「いいよ!」

 

 国家の最高戦力たちは、このあとめちゃくちゃくじ引きで騒いだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 参加者が、大まかに出揃った。

 魔法使いとは本来、そう簡単に出会える存在ではない。さらに希少な色魔法の使い手ともなれば、なおさらだ。

 この祭りは、派手になる。

 純粋な楽しみと期待に、心が躍る。

 

「聞いたぜ、陛下ぁ! 参加者が出揃ったらしいじゃねえか!」

 

 礼儀も作法もなく乱雑に開かれた扉に、しかし目くじらをたてることもなく。

 シーザァルト連合王国の長……ライラ・オフィリア・アーズヘイムは、微笑んだ。

 

「うむ。我が催しながら随分と集まったものだ」

「俺様もそう思うぜぇ! これも陛下の人望ってヤツなんじゃねえかぁ!?」

「そうではない。馬鹿なハエどもが、光に寄って集まってきただけのことよ」

 

 魔王の遺産という光には、やはりそれほどまでに強い魅力があるのだ。

 名前の出ている参加者の一覧を見て、彼女は笑う。

 

「しかしまぁ、其方が知っている名前もいくつかあるだろう。『神速剣』のキルカに『獣王』ガルシア・アロン。炎槍のジンベリンや暴剣のバートラム。あまり表に出てこない『無限人形(パペットマスター)』のアミュダ・ナサニエルと『鉄壊拳』のバルサザールも気になるところよな。他にも『弓王』のカルロ・モーガン。今では『冒険者最強』と呼ばれるまでに至ったミック・メル・エギュチーク。そして、魔王の再来と呼ばれる……」

「そいつらじゃねえ」

 

 言葉を遮って、彼はライラの前に無遠慮に腰を下ろした。

 ライラに対してどこまでも横柄に、しかし確固たる意思をもって、悪魔は自身の背中の翼を広げる。

 

「俺様たちの本命は、そいつらじゃねぇだろ。なあ、陛下」

「ふふ。そうじゃな」

 

 口元の笑みを濃くしながら、彼女は紙面に記された魔法使いたちの名を、指先で撫でる。

 ひとつずつ、それを口にする。

 

 そう。たとえば。

 

「ベルフィール・バーナーダイン」

 

 史上最高の炎熱魔術の使い手と言われた朱炎を継ぐ天才。大空を駆ける火翼がいる。

 

「レイア・ミラージュ・アイアラス」

 

 絶対の防御を誇る鏡華の姫将軍。無敗神話を貫き続ける光彩の王女が立ち上がる。

 

「ルル・ファルク・ルセッタ」

 

 史上最速にして神速の拳。黄金の拳聖の血筋に連なる、美しき春迅の武踏が舞う。

 

「口遊むシャイロック」

 

 この世のすべての人間に知られながら、己のすべてを決して曝け出すことのない、未知なる最強が現れる。

 

「アリア・リナージュ・アイアラス」

 

 常に勇者を傍らで支え続け、世界を救った姫騎士。凍える紅蓮が剣を掲げる。

 

「シャナ・グランプレ」

 

 勇者パーティーにおいて援護のすべて一手に担う、世界を救った賢者。咲き乱れる純白が杖を振るう。

 

「ムム・ルセッタ」

 

 勇者を導いた、悠久を生きる伝説。世界を救った武闘家。久遠の黄金が拳を握る。

 ひとつひとつ。

 嚙み締めるように名前を確かめていたライラは、そこで言葉を一度止めた。

 

「どうじゃ? 其方はこやつら全員に勝てるか? アクアリウス」

「かかっ! 愚問だぜ陛下ァ! 」

 

 ライラにアクアリウスと呼ばれた最上級悪魔は、大笑した。

 魔王の使徒。最も尊き、十二の柱。その一柱にして、第二の水瓶……アクアリウス・ツヴァイ。

 かつてはゼアート・グリンクレイヴの配下として最前線を駆け抜けた彼が、現在のシーザァルトにおけるコロシアムチャンピオン……言い換えて『最強の魔法使い』である。

 

「最強は俺様だ! どんなヤツがきたって負けるつもりはねぇよ!」

「相手が、世界を救った勇者であってもか?」

「……当たり前だ」

 

 粗暴だったアクアリウスの口調が、明らかに落ち着いたものに変化する。

 

「ゼアートの旦那との決着から逃げ出した腰抜け勇者に、俺様が敗北することなんて、天地がひっくり返ってもありえねぇよ」

「ふふっ……それは頼もしいな」

 

 部屋の最奥に安置してある『遺産』に、ライラは視線を移す。

 教国からは聖女のランジェット・フルエリンが、ステラシルドからはユリンと勇者が……アイアラスからはあの騎士王も重い腰を上げてやってくる。キドンのオセロ翁と会うのも、ずいぶんとひさしぶりだ。

 魔王の死後、世界は安定した。

 その均衡を、崩す。

 本当に、大きな祭りになる。

 新しい世界の王を決めるのに、相応しい舞台は整えた。

 

「アクアリウス。最強は其方だ。妾との契約に誓って、必ず証明してみせよ」

「……仰せのままに。我が王よ」

 

 これより幕を開くのは、史上最大にして最高の、多彩なる魔法の饗宴。

 勝つのは『火炎』か『反射』か『加速』か『変化』か『増殖』か『静止』か『模倣』か『簒奪』か……それとも、世に知られぬ新たな色彩か。

 

 最強の一色(ひといろ)を決める戦いが、はじまる。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 赤髪ちゃんの衝撃発言を聞いた、その日の夜。

 人気のないリビングで、おれは漬物臭い魔剣をもう一度取り出していた。

 最上級のシルクの布巾。死霊術師さんが置いていってから使っていない、最高級の消臭剤。あと、きれいな水。その他諸々の、刃物の手入れに必要なものを取り揃えた。

 濡らした布を丁寧に絞り、心を込めてふきふきと。まずは鞘から手入れをしていく。

 

「赤髪ちゃんが、大会に出るらしいんだ。おれは元々参加するつもりはなかったんだけど、さすがに気が変わった」

 

 人生の中で、こんなに気を遣って道具を磨いたことはないというくらいに、それはもう懇切丁寧に磨いていく。

 

「最悪、おれが出ることはできなくても、なんとかしたい。だから……」

 

 ヨシ。かなり匂いは消えたし、フローラルな花の香りが漂ってきた気がする。

 

 

 

「頼むよ。また力をかしてくれ、()()()()

 

 

 

 沈黙。

 当然である。今、この部屋にはおれしか人間はいない。

 しかし、おれは言葉が返ってくることを信じて、語り続ける。

 

「魔剣さん?」

『……』

「おーい、魔剣さん?」

『…………』

「魔剣さんのかっこいいところ、また見たいな〜?」

『………………』

「あの、すいません。今誰もいませんし、本当におれも反省してるんで、返事だけでもしてくれるとうれしいっていうかぁ……」

『………………ちっ』

 

 

 吐き捨てられたのは、この世の怨嗟のすべてをかき集めて凝縮したかのような、舌打ち。

 鞘の中から響いてきたその声の主……『魔剣さん』は、おれに向けて冷たく言い放った。

 

 

 

『また私を使いたいなら、まずは這いつくばって足を舐めなさいよ。クソ勇者』

 

 

 

 かつて、おれが使い続けても壊すことのなかった唯一無二の武器……『魔剣さん』との、久方ぶりの会話だった。




こんかいの登場人物

ユリン・メルーナ・ランガスタ
ステラシルド王国、現国王。ひさびさにお兄ちゃんとのお出かけだーっ!!ということでシンプルにテンションが高め。団長たちのことはわりと分け隔てたなく好き。みんな良いヤツなので

グレアム・スターフォード
第一騎士団団長。筋肉。最近寝ても疲れが取れなくなってきたので、加齢を実感している。

ジャン・クローズ・キャンピアス
第二騎士団団長。推し活。実はめっちゃ勇者と旅行に行きたい。もっと話したい。同じ空気吸いたい。一緒に観客席とかに座って語りたい。欲望の塊

イト・ユリシーズ
第三騎士団団長。天然。周りが勝手知ったる人間ばかりなので、騎士団長会議だと会話のIQが下がる。いつもわりと低いとか言わない

ギルボルト・ヴァノン
第四騎士団団長。メガネ。あと豚。ツッコミの手数が足りずに苦しめられている。今日も胃が痛い。賢者ちゃんに踏んでもらって日々ストレスを解消している。ドM

レオ・リーオナイン
第五騎士団団長。馬鹿。あとアホ


勇者くん
道具の手入れって楽しいな〜

魔剣さん
喋れる。メス
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