世界救い終わったけど、記憶喪失の女の子ひろった   作:龍流

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感想欄でちょろっと言いましたが、過去編のイメージは騎士ちゃんが『学園ドタバタバトルラブコメ』、賢者ちゃんが『ナチュラルなダークファンタジー』、武闘家さんが『血湧き肉躍る地下闘技場デスマッチ。バキ』、死霊術師さんが『殺し合い』です。


エルフの里にはなんとなくえっちなイメージがある

「これはこれは、よく参られました」

「どうもどうも」

 

 シャナちゃんとシャナちゃんに事情を説明すると、2人はおれの話をわかったのかわかってないのか、表情をぴくりとも動かさずに真顔のまま「じゃあ、うちの村にくる?」と、すごく軽いノリで提案してくれた。ちなみに提案してくれたのは、最初に会ったシャナちゃんの方である。ややこしい。最初に会ったシャナちゃんを、シャナちゃん1号、おれが裸を見てしまったシャナちゃんを、シャナちゃん2号と呼びたいくらいだ。番号つけて呼ぶとか、失礼なのでやらないけど。

 特に行く宛もなかったし、噂のエルフの里とやらも見てみたかったので、シャナちゃんの後にほいほいついていくと、村は意外と近くにあった。エルフ族は、人間以上に魔術に精通している魔導師が多いと聞く。きっと外から見つけられないように、認識阻害の結界でも張ってあるのだろう。

 

「里にいらっしゃるのは、はじめてですか? 冒険者の方でしょう? よく自力でたどり着かれましたな」

 

 最初に声をかけてきたのは、入口に立っている門番のエルフだった。その姿を見て、シャナちゃんが自分たちはエルフではない、と否定した意味がようやく理解できた。

 槍を持った男性のエルフの背中には、明らかに人間ではないことを示す、半透明の翅が生えていたからだ。もちろん、耳も尖っている。シャナちゃんには、その翅はない。

 

「実は、この子たちとすぐ近くの川で会って……」

「……ああ、なるほど。そういうことでしたか。体の傷は大丈夫ですか? 腕の良い治癒魔術の使い手がおります。すぐに呼び出して治療させましょう」

「ああ、いやいや。お構いなく。こんなもんツバつけとけば治りますんで」

 

 ありがたい申し出だが、アリアを探さなきゃいけないし、この里にそんなに長居する気もない。

 しかし、服の裾をくいくいと引かれて、おれは振り返った。

 

「お兄ちゃん」

「ん?」

「治してもらった方がいい」

「その方がいい」

 

 頼むから、そんな風に見上げないでほしい。ただでさえかわいいのに、2人揃って上目遣いでこっちを見てくるのはずるいだろ。

 

「……じゃあ、お願いします」

「ええ。こちらへどうぞ」

 

 木で形作られた門を潜って、息を呑む。おれの一面の視界を塗り潰したのは、深緑の暴力だった。

 森の中から、さらに深い森の中に迷い込んでしまったのか、と。そう錯覚しそうになる大木の数々は、木々の中央がくり抜かれ、住居として機能するようになっている。むせ返るような花の匂いに溺れてしまいそうになるが、しかしそれは不思議と不快ではない。夢の中で微睡んでしまうような、朗らかな甘さが香ってくる。

 

「……すごいですね。ほんとに、森の中で暮らしてるって感じだ」

「人間の方から見れば、めずらしいでしょうな。我々は、ずっとこの森と共に暮らしてきました。森があってこその我らであり、我らあってこその森です」

 

 そんな生活をしているくらいだから、他所者には排他的かもしれないと思ったが、そんなこともないらしい。地面に近い商店には、何人か普通の人間の姿も見える。

 

「意外と人間もいるんですね」

「一部の商人の方とは、村の門戸を開いて取引をしております。誰とでも、というわけにはいきませんが、そこまで閉鎖的な村でもありませんよ」

 

 門番さんに苦笑される。ちょっとこっちの考えを見抜かれたかな? 

 

「一つ、お聞きしてもよろしいですか?」

「もちろんです」

「シャナちゃんは、エルフではないんですよね?」

「こ……ゴホン、失礼。この子は、ハーフエルフです。半分、人間の血が混じっています。ですから、私たちのように翅がありません」

 

 ああ、なるほど。人間とエルフのハーフなのか。それなら納得だ。

 

「我らは翅を使って村の中を移動しますが、シャナにはそれがありません。少々不自由を強いられるでしょうが、シャナは飛べない人間の村の中の移動を心得ております。よろしければ、このまま案内させますよ。長老には、私の方からお伝えしておきましょう」

「そうですね。お願いします」

「シャナ、ご案内して差し上げろ」

「はい。お兄ちゃん、こっち」

 

 門番さんに言われて、シャナちゃんの顔が少し嬉しそうに綻んだ。そのまま駆け出していきそうな勢いだったので、あわてて手を掴む。

 

「……手、繋いだまま歩くの?」

「あ、ごめん。いやだった? こっちの方がはぐれなくていいと思ったんだけど」

「ううん。いやじゃないよ。うれしい」

「なら、よかった」

 

 ふと気がついて、周囲を見回す。そういえば、いつの間にかもう1人のシャナちゃんの姿が消えている。

 

「すいません、門番さん。もう1人、シャナちゃんがいたと思うんですけど……」

「ああ、彼女にはべつの仕事がありますので」

「シャナちゃん達って、双子なんですか?」

 

 そう聞くと、門番さんはおれに背を向けた。

 

「……ええ、そうですよ。同じ名前だとややこしいですが、そういう文化なので」

 

 はぁ、なるほどなぁ。

 

「お兄ちゃん、いこ」

「おっと。はいはい」

 

 シャナちゃんが連れて行ってくれた診療所のエルフは、女医さんの治療術師だった。とても優秀で、おれの傷をしっかり診てくれた。なんか呆れた口調で「よく涼しい顔でいられますね……何と戦ったんですか?」とか聞かれたけど、いや普通に魔王軍の四天王と戦ったんだよな……。傷だらけになるのは当然だと思う。

 

「お兄ちゃん」

「ん? どうした?」

「長老。ご挨拶したいって」

 

 シャナちゃんの後ろから、のそりと大きな影が出てきた。豊かに蓄えた白い鬚と後ろにくくった長髪。門番さんと同じように翅があるけど、加齢と共に衰えてしまったのか、皺が目立って小さい。失礼だが、この翅では満足に飛べないだろうと思った。

 

「すいません、おれは……」

「いやいや、どうぞそのまま治療を受けていてください。自己紹介は結構ですぞ。お噂はかねがね、伺っておりますからのぅ」

 

長老さんの口調は、思っていたよりも気安かった。

 

「あれ? おれのこと、ご存知なんですか?」

「はっはっは。もちろんです。あろうことか隣国の姫君を抱き込んで攫い出し、騎士学校から飛び出した、自称勇者の命知らずな若者がいると。愉快な噂がこんな森の奥まで轟いておりますぞ」

 

 うわーっ!? 

 え、なに? おれが学校を出た経緯、そんな感じになってるの? 話に尾ヒレがついてるってレベルじゃないんですけど!? 

 

「ほほっ、冗談です。もちろん取引に来る商人からそういう噂も聞きますが、悪い噂ばかりではありません。むしろ、良い話の方が多いくらいです」

「あー、えっと……恐縮です」

「ま、何はともあれ、今日はごゆるりとお休みください。部屋を用意しておきました。明日、よろしければ食事をご一緒しましょう。そこのシャナに、身の回りの世話をさせます」

「はぁ……ありがとうございます」

 

 なんだか、すぐに帰るって言いづらい雰囲気になってきたな。少なくとも、一泊はしていかなきゃいけない感じだ。まあ、仕方ないか……

 

「はい。これで一先ず終わりです」

 

 かわいいエルフの女医さんに、ペシッと包帯を叩かれる。

 

「いいですか? しばらくは無茶をしないように!」

「ありがとうございました。なるべく死なない無茶で済ませるようにします」

「無茶するなって言ったんですけど!?」

「いやぁ、世界を救うために無茶するのが勇者の仕事なんで」

「命がいくつあっても足りませんよ!?」

「はい。だからいつも足りないなぁ、って思ってるんですよね。できれば、いっぱい命が欲しいですよね。いくらあっても困りませんし」

 

 なぜかどん引きしてる女医さんとは対照的に、長老さんはおれの言葉を聞いて豪快に笑い声をあげた。

 

「はっはっは! 流石ですなぁ。噂と違わぬ()()殿()だ!」

「いやいや。そう呼んでもらうのは、まだ早いですよ」 

 

 おれはこれから、勇者にならなきゃいけないんだから。

 

 

 

 

 

 長老さんと女医さんにお礼を言って別れたあと、おれはシャナちゃんに連れられて村の中をぐるりと見て回った。はじめて訪れる場所を見て回るのは、冒険の楽しみの一つだ。

 

「お兄ちゃん、見せたいものがあるの」

 

 シャナちゃんに手を引かれて、村の中から細い道を抜けていく。あ、これ1人だったら絶対迷うな、と確信できるような道をいくつも通り過ぎていくと、周囲を大木に囲まれた、とても小さな広場のような場所に出た。薄暗いが、鬱蒼と茂った葉の隙間から、夕焼けの明かりが漏れて光の池を作っている。

 

「私の隠れ家なの。お兄ちゃんに見せたくて」

「いいね。きれいだ」

「ほんと?」

「もちろん。こういう隠れ家、楽しいよな」

「うん。教えたの、お兄ちゃんがはじめて」

「それは光栄だ」

 

 地面に生えている花を潰さないように腰掛けると、シャナちゃんがその花を指さした。

 

「このお花、すごくきれいだけど、摘むとすぐ枯れちゃうの」

「へえ」

 

 目を凝らしてよく見てみると、たしかにきれいな色をしている。白に光沢がある……銀色に近い色合いの花弁だ。とてもめずらしい。

 魔術的な薬効が期待できる植物は、その土地にしか自生しないもので、土から離れるとすぐに枯れてしまうのだと聞いたことがある。もしかしたらこの花も、そういう植物なのかもしれない。

 

「ふーむ……シャナちゃん、このお花、持って帰りたい?」

「……持って帰れるの?」

「よしよし。じゃあ、ちょっと待ってな。このお兄ちゃんに任せなさい」

 

 少し失礼して、地面に倒れている木から、適当な大きさの枝を拝借する。それらを紐で組み合わせて、シャナちゃんがギリギリ持てるくらいの骨組みを作った。余っている布を骨組みの周りにピンと張って、簡易的な植木鉢の完成だ。

 銀色の花を、周囲の土と一緒に手のひらで丁寧に掘り起こして、植木鉢の中に入れる。これなら、多分持ち帰ることができるだろう。

 

「お兄ちゃん……すごい!」

 

 今まで一番キラキラした表情で、シャナちゃんはおれの手元を見ていた。これはうれしい。ちっちゃい子からの素直な尊敬の眼差しは、とても気持ち良いものだ。

 

「水をあげればしばらく大丈夫だと思うけど、できればどこかに土と一緒に植えさせてもらうといいよ。ちゃんと育つかもしれない」

「うん。わかった! お兄ちゃん、ありがとう!」

 

 あー、かわいいなあ、もう! 思わず、表情が緩んでしまう。なんかひさびさに、妹がいるお兄ちゃんの気分を堪能させてもらった。

 

「じゃあ、暗くなる前に帰ろっか」

「うん!」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 はじめて、真っ直ぐ目を見てもらえた。

 はじめて、やさしく名前を呼んでもらえた。

 はじめて、手を繋いでもらえた。

 

 ()()()()()にとって、その日のすべてが、はじめての経験だった。

 枕元に置いた花の植木鉢は、月明かりを受けてきらきらと光っている。シャナはその煌めきを、ずっと眺めていられる気がした。

 ひさしぶりに横になるベッドのやわらかさはなによりも魅力的だったけれど、起き上がってしまったのは、それ以上に彼に心を惹かれていたからだろう。

 シャナは、隣の部屋の扉をそっと開いた。

 

「お、どうした? トイレ?」

「……トイレは、1人で行けるよ」

「はは、ごめんごめん」

 

 彼はまだ起きていて、ランタンの灯りを頼りに剣を研いでいた。

 

「お兄ちゃん」

「うん?」

「寝れないから、お兄ちゃんの側にいてもいい?」

「おー、いいよ」

 

 客人に用意されたベッドは、とても大きい。

 ぼふん、と。余裕のある彼のベッドに割り込むように横になる。

 

「お兄ちゃん」

「んー?」

「外のお話、してほしい」

「外の話か〜。そうだよな。村から出れないなら、気になるよな」

「うん。すごく気になる」

「おれが通ってた学校の話とかでもいい?」

「学校?」

「そうそう。騎士学校っていって、立派な騎士になるための訓練を積む学校なんだけど、そこには強いやつが7人くらいいてさ。上から順位がつけられていて、それで……」

 

 はじめて、話をしてもらえた。

 命令ではない。自分との会話を、この人はしてくれる。

 いつの間にか眠くなって、彼の手を握ってうとうとしながら、シャナは思った。

 明日には、きっとこの人はいなくなってしまう。

 

 いやだな。

 この人に、ずっと側にいてほしいな。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 結局、シャナちゃんと添い寝してしまった。

 

「……あー、うん……」

 

 寝顔もかわいいなぁ、などと。最初は寝起きの頭でのんきなことを考えていたが、なんとなく後から罪悪感が湧いてきた。

 ……これ、知られたらアリアに怒られるかなぁ? いや、べつに何かいかがわしいことをしたわけじゃないし、大丈夫だよな? 大丈夫ということにしておこう、うん。

 考えても仕方がない反省を頭から振り払って、上体を起こした。

 

「は?」

 

 シャナちゃんは、右手でおれの手を。そして、左手でもう1人の手を握っていた。

 

 そして、ベッドにもう1人、知らないやつがいた。

 いや、厳密に言えば、知っている人間が寝ていた。

 

 おれとまったく同じ顔。同じ髪型。同じ服。

 まるで、親子が子どもを挟んで川の字で寝るように。おれの目の前には、シャナちゃんの腕を握ったまま呑気にいびきをかいて寝ている、おれがいた。

 

 何度でも繰り返し言おう。()()()()()1()()()()

 

「シャナちゃん! シャナちゃん! 起きて!」

 

 小さな肩を全力で揺すって起こす。

 寝ぼけ眼で、シャナちゃんは上半身を起こして、それから自分が握っているおれの手を見た。

 

「……ごめんなさい。お兄ちゃん、増やしちゃったみたい」

「増やしちゃった!?」

 

 おれ、増えちゃったらしい。




今回の登場人物

・勇者くん
 増えた。

・シャナ
 増やしちゃった。

・勇者くん(2号)
 まだいびきかいて寝てる。

・門番さん
 強そう。

・長老さん
 エルフの村の長。人によって差はあるものの、長命のエルフの寿命は200年を優に超え、300歳まで生きる者もいるという。ただし、肉体の全盛期は200歳を超えたあたりから衰え始め、その後は段々と弱っていき、背中の翅で飛べなくなる。ただし、身に宿した魔力だけは、時間が経過するごとに、その力を増していくと言われている。
 里の長老は完全な実力主義であり、しきたりで村で最も強いエルフが、長となる。
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