私事や仕事でごたついておりましたが、更新ペース引き戻していきたいと思います。またよろしくお願いします
世界を救った勇者と、シーザァルトのコロシアムチャンピオンである最上級悪魔。
この二人を倒すことができれば、その時点で予選通過は確定。
ライラ・オフィリア・アーズヘイムの力強い宣言に、参加者たちの表情が、変化する。
ぎらぎらと。あるいは獰猛に。興奮を隠し切れない様子に。
そんな中で一人だけ。ローブで全身を包み、フードを目深に被った一人の少女が、周囲をきょろきょろと見回す。
「なんだか……会場内の雰囲気が変わりましたね?」
「普段から一緒にいるせいであなたの感覚は麻痺しがちかもしれませんが、あれでも勇者さんは世界を救った英雄ですからね。たとえほとんどの魔法を失って弱体化した状態でも、手合わせしてみたい……一生に一度は挑んでみたい。そう考える魔法使いはかなり多いと思いますよ」
「そういうものですか」
「ええ。そういうものです」
隣に立つ赤髪の少女の疑問に答えながら、勇者パーティの賢者……シャナ・グランプレは肩を竦めた。
「あなたも、勇者さん相手に手を抜いたらダメですよ」
「大丈夫です! たとえ相手が勇者さんであろうとシャナちゃんであろうと、全力で挑みます!」
「良い心掛けです。しかし、それにしても……」
シャナは隣に立つ赤髪の少女のローブをちらりと捲って、ローブの中の服装を見た。
一拍の間を置いて、あきれを多分に含んだため息が漏れる。
「……えっちぃ格好ですね。誘ってるんですか?」
「なっ……!? よ、用意してくれたのはシャナちゃんでしょう!?」
「いやあ……こんなにいかがわしい感じになるとは思わなかったんですよね」
「なんですかその言い方は!?」
赤面する少女の表情に、シャナはあくまでもじっとりとした視線を向けた。
隣に立つ彼女が、なんというか、自分よりも肉付きが良くて、出るところが出ている女性らしい身体のラインを持っていることはわかっているつもりだったのだけれど。
実際に着用しているところを目にすると、同性の目から見てもやはり目に毒というか、なんというか。
ごほん、と。シャナは咳ばらいを一つ挟んで言った。
「まあ、その衣装はあなたの力不足を補って勝ち残るための装備です。多少えっちな感じになるのは我慢してください」
「えっちって連呼しないでください!」
「これより、チャンピオンと勇者に続いて参加者全員を島内に転送するわけだが……その前に、諸君らの脱落条件についても触れておく!」
馬鹿な会話をしている間に、説明が進んでいたらしい。
壇上に立つライラは、手にした水晶のペンダントを高々と掲げた。
それは、大会の受付の際に、参加者全員が渡されているものだ。
「そのペンダントには、我がシーザァルトの誇る魔法使いが『転送』の魔法を仕込んでいる! 脱落条件は三つ! ペンダントを割られて、破壊されたとき! ペンダントを身につけたものが意識を失ったとき! そして、命の危険があったとき! 諸君らは自動的にこの会場に送り返される!」
ペンダントの破壊。意識の消失。死亡、あるいは死亡に近しい状態。
わかりやすい脱落条件の三つの例示に対して、魔法使いの一人が前に出て手を挙げる。
「質問をよろしいでしょうか? 閣下」
「また貴様か! しかし許そう! 申してみよ!」
「ありがとうございます」
晩餐会のときと同様、手を挙げて疑問を呈したのは冒険者最強と呼ばれる男……ミック・メル・エギュチークであった。
「閣下のご用意してくださったこのペンダント。たしかに人命を尊重した素晴らしいものだと存じます。が、命の危険を自動で判定するというのであれば……転送の魔法の発動は間に合わず、我々が命を落とす可能性もある、という解釈でよろしいでしょうか?」
「無論、その通りだ」
どよめきは起きなかった。
多くの魔法使いにとって、命のやり取りは日常のもの。命の危険を惜しむのであれば、こんな大会にはそもそも参加していない。
しかし、ミックがその問いを投げかけたことに感謝するように。
ライラは、妖艶な笑みの色を濃くした。
「命を賭けた闘争にこそ、戦いの彩りは宿る! だが! 妾も諸君の命を無駄に散らせることは本意ではない! 故に、諸君らが全力を尽くし、命を落としたときにも、取りこぼした命をひろう手段を用意した!」
まるで主賓の一人であるかのように、もう一人の人物が壇上へと上がる。
最上の敬意をもって、ライラ・オフィリア・アーズヘイムと立ち並ぶのは、
「紹介しよう! 世界最高の死霊術師! リリアミラ・ギルデンスターン嬢だ!」
「みなさま〜! ライラ陛下よりご紹介に預かりました。本大会で治療を担当させていただきます、リリアミラ・ギルデンスターンでございます!」
吸血女帝の隣で、世界最悪の死霊術師がきゃぴきゃぴと手を振っていた。
隣のライラには目もくれず、全力で参加者たちに笑顔を振り向いてる。
──うわあ。でやがった
参加者たちの思いが、静かに一つになる。
お前のは治療じゃなくて蘇生じゃねえか……という抗議の声を届けるには、リリアミラ・ギルデンスターンの態度はあまりにもふてぶてしすぎた。
「どうかみなさま、ご安心ください。心臓が貫かれても、首を落とされても、必ずこのわたくしが! 責任をもってみなさまの命を蘇生……もとい治療させていただきます! どうか後顧の憂いなく! 全力で! 全身全霊で殺しあ……腕を振るって競い合ってくださいませ!」
──なんでこの女が勇者パーティーの一員なんだよ
参加者たちの憤りが、静かに一つになる。
しかし、参加者たちから向けられる嫌悪と怒りの視線の一切をものともせず、リリアミラ・ギルデンスターンは溌剌とした表情で微笑んでいた。
「なお、主催として補足しておくが、ギルデンスターン嬢の蘇生の世話になった場合、治療費は自己負担だ」
「おほほ……命がお金で買えるのですから、安いものです。もちろん、良心的な請求にさせていただきます!」
──絶対にこの女の世話にならないようにしよう
参加者たちの心が、静かに一つになった。
大会にかこつけてたんまり稼ごうとしている同じパーティーの女を見上げて、赤髪の少女は心の底から呻く。
「ねえ、シャナちゃん。あの人、また自分だけ高みの見物でおいしい思いをして稼ごうとしてませんか?」
「あの女のやることにいちいち心を乱されてはいけませんよ。ばからしいですからね。あの女は最強とかそういう名誉には興味ないんです。最強を目指すくらいならその名誉の周りで稼ぐ手段を考えます。そういう虫です。ハエです」
「すごくハエですね」
シャナの言葉に、赤髪の少女は深く頷いた。
リリアミラ・ギルデンスターンはハエである。
ハエの話はどうでもいい。シャナは気持ちを切り替えて、話題を戻した。
「さて……わかっているとは思いますが、リリアミラさんの『
「……わかってます。そんなに信用ありませんか? わたし」
「ありませんね。あなたはわりと勇者さんのことになると、すぐ無茶をしますから」
「ひどい!?」
フードの下のおでこを、こつんと杖で叩いて。
シャナは薄く笑った。勇者や他のパーティーメンバーに向けるのとは、またちがう種類の表情を……友達である彼女くらいにしか見せない笑い方で、シャナは言う。
「島に転送されたら、もうそこからは敵同士です。負けませんからね。
「……シャナちゃん」
「その名前で呼んだほうが、少なくともこの大会中は気合いが入るというものでしょう? あなたが名乗った名前には、そういう意味があるんですから」
元魔王の少女は、もう名無しではない。
その名を使う覚悟をもって、彼女は賢者の隣に立っている。
「……はいっ! 出会ったら真剣勝負です!」
「良い気合いです。ま、勝つのは私ですけどね」
赤髪の少女の……リアたちの周囲を、薄い光が包んでいく。
「それでは、参加者諸君の健闘を、心より祈る」
吸血女帝の言葉を合図にして。
二百余名の参加者たちは、戦場へと転送されていった。
◇
「……はじまったよ」
「はじまったねえ」
「……わたしたちは、みてるだけでいいの? トリンキュロくん」
「んー。シャイロックとルルは本戦まで問題なく勝ち上がるだろうし、しばらくはまったり観戦でいいよ。クロエ、なんか飲むかい? ボクが奢ってあげよう」
「……オレンジジュース」
「はいはい。オレンジジュースね」
「ねえ。トリンキュロくん」
「んー?」
「トリンキュロくんは、誰が勝つと思う?」
「そうだなあ。まだ予選だから、誰が勝つとかはないけど……」
観客席のどこかで。
「……すごーく気になってる魔法使いは、一人いるんだよねぇ」
最上級悪魔は、静かに獲物を観察している。
◇
島内への参加者の転送が完了し、十数分。
「はっはっはぁ! ひょろひょろの雑魚しかいねぇなぁ! どいつもこいつもメシ食ってんのかよ!?」
自分以外は、全員が敵。
そんな状況下であるのなら、本来は目立たず隠れ、他の参加者の隙を狙うのが鉄則。
にも関わらず、優勝候補の一人である格闘家……『獣王』ガルシア・アロンは、すでに数名の参加者を打ち倒し、勝ち誇っていた。
鍛え上げられた腕には、人間のものではない『爪』があり、脚も人とは違う四脚の獣のような形状に変化している。
ガルシアの魔法の名は『
魔法効果は『獣化』。
自分自身を獣の姿に変化させ、膂力を以て相手を正面からねじ伏せる。
ガルシアの『獣王』の異名も、その魔法と戦闘スタイルに由来するものだ。
「小器用な魔法だ。身体の一部も獣にできるのか」
と、ガルシアの魔法を端的にそう評価する男が、隣にいた。
ディートハルト・バルサザール。ガルシアと同じく、彼もまた今大会の優勝候補の一人である。
自分以外は、全員が敵。
そんな状況下でも、ある程度安全を担保し、生き残るための手段がある。
他の参加者と事前に交渉し、同盟を組むこと。
徒党を組むことは決して卑怯ではない。むしろ、主催者である吸血女帝も推奨していた方法だ。
この予選を勝ち抜くまでは互いに背中を預け合う。ガルシアとバルサザールは、事前にそういった交渉を終えている。
だからこそ、一時とはいえ『仲間』になった無愛想な拳法家に対して、ガルシアは気のいい笑顔で答えた。
「もちろん全身を獣の姿も変えることもできるぜぇ! しかしなぁ、なんだかんだ一部分の変身のほうが都合がいいのさ。小回りってもんが効くだろ?」
「なるほど」
「そっちはどうなんだ? お前がやった連中はとどめを刺さねぇのかよ。バルサザール」
「少し待て」
バルサザールの足元には、這いつくばるようにして三人ほどの参加者が倒れ伏している。ガルシアが拳で打ち倒した参加者はさっさと転送されていったが、彼らはまだ意識を保ったままだ。
指先の一本すら動かせず、倒れ伏す彼らの体には、すでに『鉄塊拳』と呼ばれるバルサザールの魔法がかかっている。
「あー。たしかお前さんの魔法は……」
「名は『
言いながら、冷徹な瞳が魔法の餌食になった三人を見下ろす。
ぎりぎり、と。見えない力に押しつぶされるように。地面に抑えつけられる力を超えて、めり込んでいく三人は、骨と肉が潰れる前にガルシアたちの前から忽然と消え去った。
「なるほど。よくわかった」
「満足かい?」
「ああ、理解できた。拙の魔法によるどの程度の『加重』で
「そうかい。そりゃなによりだ」
気楽に頷きながらも、ガルシアは内心で肩を竦めていた。可能であれば、頭を抱えて嘆きたいほどに。
(把握はできた、ねぇ……冗談きついぜ。触れられたらほぼ終わりみてぇな魔法じゃねぇか。普通に色魔法クラスだろ。こいつと組んどいてよかったぜ)
バルサザールが先ほどの三人に対して放った打撃は、精々数発。加えて、接触時間も一秒に満たないほど僅かなものだった。
魔術と異なり、魔法の技術は体系化されていない。しかし、手練れの魔法使いたちの間では、効果を発揮する接触時間が短ければ短いほど、魔法の習熟度は高い……という認知が一般的だ。
ガルシアの魔法は自己対象型のため単純な比較はできないが、バルサザールという拳法家の己の魔法への解像度は、かなり高いように感じられた。
「いいねぇ。鍛えてるねぇ」
「己の武器を磨くのは、武を志す者として当然のことだと思うが?」
「はっは。そりゃそうだ」
じゃあ、オレも自分の武器で仕事をしますかね、と。
ガルシアは、自分の鼻を拭って笑った。
そうして次の瞬間には、ガルシアの鼻筋は獣のような形に変化していた。
「……よしよし。大まかな匂いは辿れそうだぜ。ついてこいよ。バルサザール。勇者サマがいるのはこっちの方角だ」
「たしかに島の中央とは言われていたが……そこまで正確に居場所がわかるものなのか?」
「ああ。こんなこともあろうかと、晩餐会のときに、勇者サマの匂いはしっかり覚えといたからな」
獣の嗅覚は種によって異なるが、最大で人間の数千倍にも及ぶ。
勇者の匂いは、晩餐会の場で挨拶した際に、密かに記憶してある。ガルシアは自分の鼻を、下手な探知魔術よりも信頼していた。
「拙は貴殿という男を見誤っていたようだ」
「おん?」
「率直に伝えるのであれば、もう少しがさつで粗暴な男だと思っていた。少なくとも、事前にこういった準備を行うような性格には見えなかった」
「はっはっはぁ! いいぜいいぜ! オレの方こそ、予想よりもはっきりものを言ってくれる男でうれしいぜ、バルサザール! 正直なところ、オレはこういう策を巡らせるのは得意じゃねえよ。だが、相手は世界を救った勇者サマだ」
ガルシアは、自分の実力に自負がある。自信がある。誇りも持っている。
しかし、だからといって、無策で立ち回ろうとは思わない。
「明らかな格上を狩ろうってのに、無策で突っ込むのは、それこそバカのやることだ。獣だって、群れてでけえ獲物を狩るんだぜ? 人間のオレらが頭を使わずに狩りをしてどうすんだって話だよ」
「……なるほど。道理だな」
「そうだろぉ? じゃあ、オレたちが一番乗りで勇者サマの顔を拝むとしようぜぇ」
匂いのもとが近い。
言いながら、ガルシアは木陰から様子を伺い、そして言葉を失った。
「は……?」
ガルシアの視線の先。大きすぎず小さすぎもしない木の枝の先に、ガルシアが辿ってきた匂いのもとはあった。
──服が、脱いである
勇者は、どこにもいない。
匂いをもとに探されるのを、最初から読んでいた?
「……やべえぜ。バルサザール! 釣られたのはこっちの──」
「──『
「──方かも、しれねぇぞ!? ああ!?」
疑問に、答えが出る前に。
視界が揺れる。景色が変わる。
ガルシアの立つ場所は、木陰から樹上へ。まるで
そして、ガルシアがついさっきまで立っていたはずの場所には、水を滴らせた半裸の男が立っている。
有りうべからざることだが。
しかし、目の前の光景が、すべての事実であり、疑問への回答だ。
ガルシアは、全力で叫んだ。
「バルサザールっ! そいつが勇者だ!」
警告への反応は、素早かった。あるいは、ガルシアが叫ぶ前に、バルサザールはすでに拳を振り上げていた。
ディートハルト・バルサザールの近接格闘能力は、参加者の中でも屈指。数多の魔獣を己の拳で屠ってきた彼の実績が、そのまま『鉄塊拳』の異名の強さを物語っている。たった一秒。触れた瞬間に、獲物は『
そのはず、だった。
バルサザールの拳が、空を切る。
勇者の拳が、バルサザールの胴を打つ。
バルサザールの回し蹴りが、勇者の腕にはじかれる。
勇者の第二撃が、重ねて胴を穿つ。
一秒。ほんの一秒の接触さえあれば必勝とも言える魔法は発動せず、勇者の手刀がバルサザールの首筋に突き刺さる。
五秒。ほんの五秒間の攻防だった。
膝をつき、白目を剥くバルサザールの巨体。その胸元が裏拳で弾かれて、揺れるペンダントが砕け散る。
転送の魔法が発動し、バルサザールの身体が消えていく。
濡れた髪をかきあげて、半裸の不審者は……否、世界を救った勇者は、ガルシアを見据えて、ただ一言。
「よし。次」
「…………ひっ」
狩られる。
獣の本能は、ときに人間よりも正直だ。
二足では、逃げ足が足りない。
ガルシアは、己の全身を獣の姿に変えた。四足で地面を蹴って、全力で踵を返して駆け出した。
(なんで読まれてんだ!? なんで待ち構えられてんだ!? なんだあの魔法は!? どうして触れてるのに魔法が効かねぇんだ!?)
力を失ったとはいえ、相手は世界を救った勇者だ。島の中央で悠々と挑戦者を待ち構えていると、そう思っていた。
ちがった。
狩る側ではない。挑まれる側でも、待つ側でもない。むしろあの勇者は、自ら全力でこちらを狩りに来ている。
もっと慢心しているはずだ。
もっと余裕があるはずだ。
もっと、手を抜いているはずだ。
なのに、なぜ? どうして、こんなにも……
「はぁーい。一名様、ご案内だぁ」
「っ!?」
目に、何かが沁みた。
それは、水だった。周囲を取り囲むようにうねる、大量の水。いつの間にか、ガルシアはその水球の中に囚われていた。
そして、眼前に降り立つ人物には、最上級悪魔であることを示す翼があった。
「あー、暴れても無駄だぜぇ? アクアリウス様特製の『
「ぐっ……ごぼっ……!」
うねる水流の先。
霞んでいく視界の先で。
悪いな、と。
勇者の口がそう動くのを、ガルシア・アロンは見た。
◇
アクアリウス・ツヴァイは、上機嫌だった。
思いのほか、という言葉は不躾かもしれないが。
アクアリウスが想像していた以上に、勇者の動きが良かったからだ。
「よし。まずはこれで二人狩れたな」
濡れた髪をふきながら、せっせと服を着直している勇者に言う。
「べつに、正面から受けて立ってもよかったんじゃねーのか?」
「そうか? 獣に変身できる魔法を使えるヤツがいるってのは事前情報で知ってたし……なにより、おれたちの転送場所は島の中央って割れてるんだ。だったら、とりあえず移動するに越したことはないだろ」
居場所がバレてる集団戦ほど不利なものはないしな、と。
そう呟きながら、勇者は脱いだ服を肩にかける。
「移動するぞ。アクアリウス。まずは直進して、最短で島の沿岸部に出る。外側から回り込んで、おれたちが中央にいると思い込んでる参加者を、後ろから狩っていく。やりすぎない程度にな」
「オーケーだ。そっちの方針に従うぜ。勇者サマ。しかし、やりすぎって意味なら、さっきの攻防は手加減ってもんがなさすぎに見えたがなぁ?
アクアリウスは、コロシアムのチャンピオンだ。
ほぼ不死身に近い魔法の特性の影響もあるが、アクアリウスは相手の魔法や戦い方を引き出したうえで、勝つことを好む。勇者が魔法使いを瞬殺する様を間近で見れたのは興奮したが、それとはべつに興業としての戦いのおもしろみも考えてしまう。ある種、職業病のようなものだ。
「……あー、悪い」
すると勇者は、どこかばつが悪そうに頬をかいた。
「おれ、この前油断して、負けたばっかなんだ。だから、負けたくなくて」
一瞬。虚を突かれたあとに、アクアリウスは笑みを深めた。
「…………ははっ。そうかい」
すっかり鈍ったものだと思っていたが。
そういえば、この青年は、こういう男だった。
貪欲で、容赦がなく、無鉄砲で、荒々しく、そして鉄のように冷たい。
そういう勇者を、ゼアート・グリンクレイヴは好んでいた。
もしも、勇者が魔法使いたちとの戦いの中で、かつての自分を取り戻そうとしているのなら、
「いいんじゃねぇの? そういうの」
鈍らな剣を鍛え直すためには、あつい熱と打ち水が必要だ。
この島での戦いが、勇者に熱を与えてくれるだろう。
ならば、自分はそれを手助けする打ち水になってやればいい。
じんわりと、アクアリウスは自分の胸の内にも熱が広がっていくのを感じた。
「あらためてよろしくな、勇者ァ! 俺様とてめぇが組めば、どんな敵でも──」
楽勝だぜ、と。
アクアリウスが相棒に向ける言葉は最後まで続かず、
「っ! 避けろ! アクアリウスっ!」
「──ごぁああああああ!?」
背後から焼き切る灼熱の火炎が、アクアリウスの上半身を真っ二つに両断した。
「…………うわあ。こまったな」
がしゃり、と。
勇者は、重い鎧が枝を踏み割る音を聞いた。
今回の魔法使いのみなさん
●ガルシア・アロン
異名・通称『獣王』
魔法『
魔法効果『獣化』
格闘大会に出まくって勝ちまくって稼ぎまくってるタイプの格闘家さん。がははワハハタイプに見えて、わりとちゃんと己の部を弁えてる感じの近距離パワー型。勝つためなら頭も回すし分析もするし無愛想な男とも組むが、相手が悪かった。
魔法は聖職者さんの劣化版なのが気になるが、わりと応用が効くタイプ。匂い嗅いだり腕だけ獣にしたり脚だけ脚力強化したりいろいろできる。色魔法でない魔法のなかではかなり応用力高い方。よく鍛えられている。
●ディートハルト・バルサザール
異名・通称『鉄塊拳』
魔法『
魔法効果『加重』
備考 拳法家
ある時期から魔獣を討伐しまくってぶいぶい勇名を轟かせてる鉄面皮拳法家。無愛想で率直にものを言うため勘違いされやすいが、根が善良で言動に裏表がないためあとからだんだん好かれていくタイプ。バルサザールさんは良いヤツです。
魔法は『触れて発動できればほぼ勝ち』の色魔法に近い性質を持つタイプ。体の一部に加重して打撃を重くするだけでなく、触れてしまえば相手を侘助することも可能。実際魔法の力加減を把握しようと努める程度には実力も高かったのだが、勇者の初見殺しのハメ技近接コンボで瞬殺された。次の戦う機会に期待