「仕事を! 取ってきました!」
「「「おー」」」
胸を張る騎士ちゃんに向けて、パチパチと拍手の音が響く。賢者ちゃんがボロ布被って遊んだり、死霊術師さんが賢者ちゃんのローブを被って遊んでいる間に、騎士ちゃんはちゃんと仕事を取ってきてくれたわけですからね。頭が上がりませんよまったく。
「まあ、あたしたちはこの村では新顔だし、そんなに大きな仕事じゃないけど……」
「いやいや、仕事取ってきただけですごいよ。流石だよ」
「えっへへ。まあ、それほどでもあるかなー」
「これでわたくしの服を買うお金もようやく確保できますわね!」
「ダメだよ死霊術師さん。先にお酒買うから」
「服よりも酒を……?」
騎士としても姫としてもちょっとどうかと思うことをほざいているが、お仕事を取ってきてくれたのは騎士ちゃんなので、何も言えない。
「というわけで、明日はみんなで依頼主さんの農場に行くよ」
「農場?」
「うん。なんでも、最近モンスターが出るようになったらしくて、見張りとモンスター狩りをしてほしいんだって」
「へえ」
ほんとに初心者みたいな依頼だが、しかし騎士ちゃんがせっかく取ってきてくれた仕事である。おれたちも全力で取り組まなければなるまい。それに、騎士ちゃんも見るからに張り切っているし。
だが、パンをもぐもぐしながら師匠が言った。
「すまない。わたしは、ちょっとパス」
「ええ……? いくら師匠でもわがままはダメですよ。そりゃ、師匠と満足に殴り合えるモンスターは畑には出てこないと思いますけど」
「そうだよ武闘家さん。働くもの食うべからずだよ」
「やれやれ。わたしを、甘く見ないでほしい。わたし、こう見えてもみんなより長生き。今まで、一人で生活してきた時間も長かった」
まあ、たしかに1000歳くらい年上ですけれども。
「騎士が取ってきた仕事とは別に、わたしはわたしで、もう仕事を取ってある」
「え!? ほんとですか師匠!?」
「ぶい」
「そうだったんだ……わたしが交渉してる間もおじさんからアメ玉とか貰ってたから、てっきり暇潰しについてきただけかと」
なにやってんだよ師匠。
「え!? お師匠さんアメ玉貰ったんですか!?」
「うむ。分けてあげよう」
「甘いもの! ありがとうございます!」
それでいいのか赤髪ちゃん。
「じゃあ、明日は師匠は別行動で。おれと騎士ちゃん、賢者ちゃんと……赤髪ちゃんも来る?」
「あ、えっと……わたしも一緒に行っても、大丈夫なんですか?」
「もちろん」
小さなクエストとはいえ、これもまた貴重な経験だ。元々、興味があったのだろう。両手を挙げて、赤髪ちゃんは喜んだ。
「ありがとうございます! お役に立てるかわかりませんが、お供します!」
「おっけー」
「勇者さま! ちょっと待って下さい勇者さま!?」
「なに? どうしたの?」
麻袋に入ったままの死霊術師さんが、体をくねらせる。
「わたくしは連れて行ってくださらないのですか!?」
「連れて行かないよ。当たり前でしょ」
「即答!?」
いやだって、素っ裸の美女を麻袋に入れたまま持ち歩いて、奴隷商人に間違われたくないし……
「でも勇者くん。明日行く農場、結構広いらしいんだけど、人手足りるかな?」
「あ、そうなの?」
「うん。武闘家さんだけじゃなく、死霊術師さんまでいないとなると、ちょっと……」
「じゃあ、死霊術師さんも連れてこっか。畑に差しておけばカカシにはなるでしょ」
「わたくし、ここでみなさんの帰りを心よりお待ちしております」
この女、言うことコロコロ変えやがって……
「勇者さん」
「どうしたの賢者ちゃん」
「まかせてください。私に良い考えがあります」
……ほんとにぃ?
翌日。
依頼された農場は、村の外れにあった。
「こんにちは! ギルドからご依頼を受けて来ました!」
「ああ。今日はよろしく頼むよ。それにしても……」
依頼主の農場主さんは、おれと赤髪ちゃんと騎士ちゃんと、賢者ちゃんと賢者ちゃんと賢者ちゃんと賢者ちゃんと賢者ちゃんを見て言った。
「こいつは驚いた。兄弟で仕事をしてる人は時々見るが、そこの魔術士のお嬢ちゃんたちは、どこからどう見てもそっくりだねぇ」
「五つ子です」
「よく似てるって言われます」
うん。人手が足りないから増えてもらったけど、わりと誤魔化せるもんですね。
「はっはっは! 似てるなんてもんじゃないねこりゃ! まるでそっくりそのまま増えたみたいだ」
「ええ」
「それもよく言われます」
賢者ちゃんもしれっとした顔で頷いている。成長してるなぁ。
「それで、ご依頼というのは?」
「ああ、そうそう。これから農作物が収穫シーズンなんだけど、モンスターの被害がちらほら出ていてね。その退治をお願いしたいんだよ」
なんでも、今回の依頼主のおじさんはこの村の中でも大きい畑を持っている豪農らしく、しかしそれ故にモンスターによる農作物の被害も馬鹿にならないらしい。騎士団が常駐しているような大きい街はともかく、小さな村ではギルドを通じて、あるいは直接冒険者にこういった仕事の依頼をすることが一般的だ。
とはいえ、
「どうしてこの仕事をおれたちに?」
「え? いやアンタたちが一番安かったからさ」
ですよねー。
仕事とは、つまるところ責任と信頼で成り立っている。この村に来たばかりの新米のぺーぺー冒険者であるおれたちの賃金は、まあ当然のように安い。
しかし、こうして仕事を積み重ねていくことで信頼と実績が蓄積されて、お賃金の向上に繋がるので、決して手は抜けない。そもそも無一文のおれたちに仕事を選り好みしている余裕はない。
とりあえず、おれたちは手分けして見張りに立つことにした。おれの隣には、またしれっと賢者ちゃんが1人いる。なにやら、効率的な見張りのために良いアイディアがあるらしい。
「さて、それでははじめますか」
「で、どうするの? 長女の賢者ちゃん」
「私は次女の賢者ちゃんですよ。ちゃんと見分けてください」
「いやわかんねーよ」
五つ子ネタが気に入ったのだろうか。
「要は、この農場全体を良い感じにカバーできる探知魔術を組めばいいのでしょう?」
「できる?」
「私を誰だと思ってるんです?」
言いながら、賢者ちゃんは地面に杖を突き刺した。てっきり、浮遊系の魔術で上から監視するのかと思っていたが、違うようだ。
「ああ、上から見張るわけじゃないんだ」
「上から見張る時は、上からずっと監視する手間があるじゃないですか。それに、空中に浮遊する魔術はとても手間がかかりますからね。昔の勇者さんの魔法とは違うんですよ」
今のおれは昔のように魔法を使えず、浮いたり飛んだりできるわけではないので、耳の痛い話である。
地面に杖を突き刺した賢者ちゃんは、そのまま魔導陣を展開して満足気に頷いた。
「これでよし、と」
「何したの?」
「砂岩系の魔術で、地面に探知網を敷きました。農場の四方で監視している他の私達も、同じ魔導陣を展開、リンクして繋げているので、何か入ってきたり、あやしい動きがあれば、中央にいるわたしがすぐに気付けます」
「おお! すごい!」
「ええ、私はすごいですからね。私は末っ子なので褒めると伸びますよ」
「さっき次女だって言ってなかった?」
とはいえ、すごいのは間違いないしとても助かるので、賢者ちゃんの頭を撫でて存分に褒め称える。
「おや、早速反応があったみたいですよ」
「早いな」
数が出るから困る、と依頼主のおじさんは言っていたが、それにしても早い。これは外から入ってきたというより、元々この中にいたと考えた方が良さそうだ。
これ、どんなモンスターかにもよるけど、もしかして巣とか作ってるんじゃないかな……だとしたらわりとめんどくさい。
「どこ?」
「私達からはちょっと離れてますね。騎士さんの近くです」
「なんだ、騎士ちゃんの近くか」
赤髪ちゃんにはモンスターを見つけても「近づかない、騒がない、すぐに知らせること」と、口を酸っぱくして言い含めてあるし、モンスターが出たらおれがすぐにすっ飛んで行こうと思っていたが、騎士ちゃんなら安心である。悪魔が降臨しようがドラゴンが飛んで来ようが、正面から斬り倒せる。
「あれ? 妙ですね」
「何が?」
「騎士さんと向かい合ったまま、モンスターの反応が消えません」
「なんで?」
「さあ?」
おれと賢者ちゃんは無言でしばらく見詰め合い、
「……あ、やばいな」
「……あ、やばいですね」
騎士ちゃんの唯一と言ってもいい、致命的な弱点である『天敵』の存在を思い出した。
アリア・リナージュ・アイアラスは、この世界を救った最強の騎士である。
最強という言葉の定義は人によって異なるが、魔王軍四天王の首を落とし、世界を救った勇者の傍らで常にその背中を守り続けてきたアリアの実力を疑う人間はいない。事実、アリアは立場的には隣国の姫君であり、辺境の領主という地位にありながら、その実力は王都を守護する最強の騎士……5人の騎士団長達に勝るとも劣らない、と讃えられてきた。
そんな世界最強の騎士が、全身を鎧兜で完全に覆い隠し、凶暴な悪魔を尽く切り裂いてきた愛剣を両手で構え……がくがくと震えていた。
「ふ、ふぇあ……ああああ」
それはもう、ありえないほどに震えていた。
完全装備の頭兜の下から、間違ってもお姫様や騎士様が出してはいけない、情けないにもほどがある声が漏れる。
フェイスガードでその表情は誰にも見えず、そもそもこの場にアリア以外の人間は誰もいなかったが、すでに涙腺は崩壊していた。
「こっ……来ないで……」
びくびくと小刻みに震えている大剣の先には、モンスターというにはあまりにも小さな……ぶよぶよと蠢く不定形の青い塊がいた。
その名を『スライム』という。
決まった形を持たない、その出自からして特殊な、めずらしいモンスターである。少なくとも、人里の畑の中に出没することは、滅多にない。
しかし、その滅多にない事態に、女騎士はちょうどよく遭遇してしまっていた。
「うぅ……無理……無理無理無理!」
完璧な人間など、この世にはいない。
人には必ず、弱い部分があり、何かしらのウィークポイントが存在する。
アリアの弱点は『スライム』だった。
もう、思い出したくもない。騎士学校に通っていた頃に巻き込まれた事件の、そのトラウマから、アリアはこの『スライム』というモンスターが、どうしても生理的にダメだった。見ただけで気絶しそうになるレベルで、本当に無理だった。直接触るなんて不可能だし、指先が少し触れただけでも、気絶してしまう自信があった。要するに、とにかく無理、ということだ。
「ま……負けない。負ける、もんか……っ」
しかし、けれど、だとしても。
これは、自分が責任を持って取ってきた仕事。そして、たった一匹のスライムを前にして剣を引いては、騎士の名折れである。鎧兜と歯をガタガタと震わせて、目尻と剣には涙と魔力を溜めて、アリアは覚悟を決めた。
ちなみに。アリア・リナージュ・アイアラスがスライムに向けて全力で構える剣の銘は『
その一撃は、悪魔を切り裂き、竜すらも落とす。
そんな聖剣を、畑のど真ん中で振るえば、どうなるだろうか?
「騎士ちゃん……っ! ストッ……」
何か、呼ばれた気がしたが。
アリアは、炎の大剣を持てる力で振り切った。
世界を救った騎士の、渾身の斬撃が……世界最弱といっても過言ではない、小さな命に炸裂する──!
爆炎が、巻き上がった。
「ハァ、ハァハァ……」
「お……おぉ……う、おぉぉ……」
「……やっちゃいましたね」
騎士の剣は、主に捧げられるもの。
そして、騎士が振るう剣に責任を持つのが、主の務めである。
炎上する野菜畑を見ながら、泣きそうな顔で世界を救った勇者は呟いた。
「賢者ちゃん。とりあえず火消そっか」
「おじさんにはどう言いましょうか?」
「何か言う前にとりあえず土下座するよ」
今回の登場人物
・勇者くん
新しい冒険の旅は、所持金マイナスからスタートすることが確定した。泣いていい。
・赤髪ちゃん
あ、あの炎の渦は一体……まさか!?
今回は武闘家さんからせびったアメ玉を舐めてた。
・騎士ちゃん
弱点・スライム←NEW!
基本的に強くてかっこよく頼れる存在だが、スライムを目の前にすると泣きながら震えることしかできない女の子になる。騎士学校時代にスライムにひどい目に遭わされた。
・賢者ちゃん
五等分の賢者。
・武闘家さん
伊達に年食ってないので自分で食い扶持を稼ぐことができる。
・死霊術師さん
カカシルート回避。服がほしい。
今回の登場モンスター
・『スライム』
かつて当代最高の流水系魔術の使い手が、自身の魔法のシステムを組み込んで生み出したとされる、ちょっとレアな魔物。野に放たれたことで野生化したが、とても弱い。小さな個体は、子どもが棒で叩いても倒せると言われている。遭遇することはめずらしく、一部の冒険者の間では「スライムを見かけたら良いことがある」なんて迷信まで生まれているほど。世界を救った炎の一撃で蒸発した。
もうすでにあらすじにデカデカと掲載しちゃってますが、碑文つかささんからパーティーメンバーのイラストをいただきました!すごく!かわいい!ありがとうございます!!
【挿絵表示】
以下、イラストと一緒に頂いたデザイン小話
赤髪ちゃん
「髪型はブラックマジシャンガールをイメージした」
たしかにそれっぽい。ブラマジガールが嫌いな男子なんていない
騎士ちゃん
「姫騎士ロイヤルおでこ。海外では前髪を下ろしてるのは子どものイメージ。立場上、イヤリングとかもつけそうだが、普段は動くのに邪魔になるので小さなピアス」
動くのに邪魔になるからピアス、完璧な解釈一致で土下座した。
賢者ちゃん
「逆に前髪あり。アイドルのふんわり感。基本はドラクエ賢者のイメージ」
尖った耳が見えるアングルが最高ですね
武闘家さん
「ほとんど隠れているが、背中はもろ空きで服はわりとえっちぃ」
ありがとうございます
死霊術師さん
「最初はこちらもデコ出しかと思ったが、姫に譲ったのでダークに目隠れ」
メカクレもさることながら、太腿もアツい
コメントまで頂き、本当にありがとうございました!