世界救い終わったけど、記憶喪失の女の子ひろった   作:龍流

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勇者になれなかった少女、やがて勇者になる少年

 人間の最も魅力的な表情は、笑顔だ。

 姉が死んでから、イト・ユリシーズは毎朝必ず、鏡の前で笑う練習をするようになった。

 姿見(すがたみ)の前に座って、髪を整える。櫛を通す。身支度をする。それ事態はいたって平凡な、一人の女の子らしいありきたりなルーティーン。けれど、イトは普通の女の子よりもずっと長く、自分の顔を……より正確に言えば『自分の顔になってしまった姉の顔』を眺め続けた。

 鏡の中には、笑顔の姉の顔がある。艷やかな黒髪。やや凛々しい眉根。すっとよく通った鼻筋。透き通った鏡面を覗き込めば、自分はすぐに姉に会える。そう思っていた。

 けれど、鏡の中に映る自分の顔は、いつもどこか歪んでいて。姉の笑顔を最も近くで見てきたからこそ、イトはその笑顔に違和感を覚えずにはいられなかった。

 

 ──お姉ちゃんは、こんな風に笑っていなかった。

 

 記憶の中の姉の笑顔は、もっともっと輝いていた。

 

 ──こんなんじゃ、ワタシはちゃんとお姉ちゃんになれない。

 

 だから、イトはイトになるために、笑う練習を始めた。

 両手の人差し指で、頬を釣り上げる。指に力を込めて、それを定着させる。

 作り物の笑顔が、少しずつ馴染むようになった。

 

「無理に笑わなくてもいいんだぞ」

 

 自分を引き取ってくれたグレアムは何故か困ったようにそう言っていたけれど、イトはこれで良いと思った。

 お姉ちゃんは、いつも笑っていた。だから、自分も笑う。

 勇者は、いつも笑っているものだ。だから、自分も笑おう。

 勇者は泣かない。勇者は下を向かない。勇者は負けない。

 どんな窮地も、どんな困難も、鼻で笑い飛ばす。そういう強さが、勇者には必要だと、イト・ユリシーズは信じて疑わない。

 それが勇者という存在への妄信だと気付くには、イトの中で姉が目指した勇者という象徴(シンボル)は、あまりにも大きすぎた。

 

「……来たかな」

 

 潰れた左目を補うために埋め込んだ魔眼で、それらの魔力反応を感知する。

 襲撃者は、四体の悪魔と一人の人間だった。もはや、外部からの襲撃を隠す気もないのだろう。ダンジョンの天井を力任せに破壊して、四体と一人の敵はイトの前に降り立った。

 外見だけは騎士の軽装鎧を着込んだ男は、イトの姿を見留めて表情を綻ばせる。

 

「ターゲットが一人きりでお出迎えとは、助かるぜ」

「女の子を待たせるなんて感心しないなぁ。おじさん、モテないでしょ?」

「おお、こりゃあ耳がいてぇ。お察しの通り、良い女には縁がない(たち)なんだ」

「素直に答えてくれると助かるんだけど、おじさんは何者?」

「ちょっとばかし悪魔と付き合いのある、しがない盗賊さ。お嬢ちゃんの命と、このダンジョンに眠る聖剣とやらをいただきに来た」

 

 イトと軽口を叩き合いながらも、男は軽く周囲を見回し、ハンドサインで悪魔に指示を出した。翼のない、比較的細い体付きの一体が、その指示に同意を示して、さらに下層へ潜ろうと動く。

 

「いやいや、行かせるわけないでしょ」

 

 パチン、と。

 イトが鳴らした指の音を合図に、壁面に貼り付いていた魔術用紙から、炎の矢が吹き出した。

 あまり時間がなかったので、そこまでの数は仕込めなかった。が、それでも敵を包囲し、直撃を浴びせるには十分な数の炎熱(えんねつ)系魔術の連射。

 

「おおっと!?」

 

 男がとった回避行動はイトの想像よりも早く、また身軽だった。盗賊を自称するだけはある。上体を捻り、体全体を回転させるような動きで、炎の矢はすべて避けられる。他の四体の上級悪魔たちにとっては、そもそも避けるほどの威力でもないのだろう。鬱陶しそうに炎を払い除ける反応をしただけで、怪物たちは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 しかし、注意は奪った。

 

「はいはい。一体目」

 

 接近しての、抜刀。

 たったそれだけのワンアクションで、イトは悪魔を輪切りに変えた。

 その斬撃に理屈はない。イトが斬った。だから斬れた。そういう結果だけが残って、悪魔が肉塊に変わる。

 

「……やるねぇ」

 

 明らかに驚愕した様子を見せる悪魔たちとは対照的に、男は飄々とした調子を崩さなかった。

 

「噂以上だな。歴代最強の学生騎士ってのは」

 

 普通の人間は、刃物を見たらまず恐れを抱く。よく斬れる刃を見せつけられれば、尚更だ。

 しかし、立ち竦む悪魔たちを鼻で笑うように。

 

「お手並み拝見といこうか」

「……っ!」

 

 狂人は、踏み込んで来た。

 盗賊は二刀だった。幅が広いナイフのような短刀は、見るからに使い込まれている。

 イトの魔法の性質上、一度切り結んでしまえばそれで終わるはずが、盗賊は付かず離れずの距離で鍔迫り合いを徹底的に避けてくる。

 

「なんでも斬っちまうんだろ? おっかねぇな!」

「こわい?」

「いいや、最高だ! スリルがある!」

 

 言いながら、盗賊は笑う。笑顔を返しながらも、イトは内心で舌打ちを鳴らした。

 やはり、こちらの魔法の性質がある程度割れている。しかし、それだけだ。問題は、ない。

 冬季装備の軍用コートを脱ぎ捨てて、イトは攻撃のテンポとギアを一段引き上げた。攻防を繰り広げるイトと盗賊を取り囲むようにして、二体の悪魔が魔力を充填する。

 

 ……二体? 

 

「ちっ……!」

 

 今度は、表情に出てしまった。

 侵入してきた悪魔は四体。斬り殺したのが一体。目の前にいるのは二体。つまり、一体が消えている。

 逃すつもりは毛ほどもなかったというのに。自分はともかく、後輩や仲間たちが上級悪魔を相手にして善戦できるか。気掛かりが、脳裏を掠める。

 

「お仲間の心配をしている余裕があんのか?」

 

 盗賊が身を引いた、瞬間。左の悪魔は炎を、右の悪魔は岩で形成した弾丸を、イトに向かって放った。

 人間と悪魔の連携とは思えない、完璧なタイミング。お手本のような挟撃。

 

「だから?」

 

 苛立ちが、斬撃に乗る。

 それらすべてを、イト・ユリシーズは一刀を以て斬り伏せる。

 炎が割断された。岩が砕けた。緩やかに振るわれた斬撃は、しかし一撃で悪魔たちの攻撃を断つ。

 

「魔術まで斬り落とすかよ!?」

「勿論、斬るよ」

 

 斬って、斬って、斬り開く。

 それが、イト・ユリシーズという勇者が目指す、理想の強さだ。

 斬って、断つ。振り翳す一太刀に、ただひたすらに、その概念を込めて切断する。それを繰り返すだけで、残りの二体も物言わぬ屍に成り果てた。

 

「まあ、上級悪魔を揃えて、学生騎士を襲撃だ! ……みたいな。そういうノリはわかるんだけどさ」

 

 刃を振るって、悪魔の血を払う。

 

「ワタシを倒したいなら、その手駒じゃ足りないよ」

 

 イト・ユリシーズは、既に自身の名と魔法を持つ、最上級悪魔を討伐している。

 上級悪魔の二体や三体が集まったところで、結果は変わらない。

 

「あーあ、楽じゃない仕事は好きじゃねえな」

 

 ゲド・アロンゾも、それは良く理解している。

 理解しているからこそ、この仕事が自分に割り当てられた意味を改めて把握した。

 

「良い魔法だ。事前に放った魔術で動きを止めて、接近して斬る。相手を殺すためのパターンも、洗練されてる。たしかに強いな、お嬢ちゃん。勇者を目指してるだけはある」

「褒めても何も出せないよ」

 

 ゆったりとした歩調で、イトは盗賊に近づいていく。

 

「とりあえず、足を斬って逃げられないようにしてから……話を聞かせてもらおうかな」

「そいつは困るな。残念ながら、オレは何も喋れねぇんだ」

 

 変装用の鎧を外し、ゲドは自身の全身を曝け出した。

 男にしては痩身のシンプルな黒衣の下には、革のベルトが巻かれており……()()()()()()()、仕込まれていた。

 男の手が、針に触れる。

 

「魔法を持っているのが、自分だけだと思うなよ?」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「親友、ボクはもう……ダメだ」

「諦めるな、レオ! まだ何か……何か手があるはずだ!」

 

 人間という生き物は、本当に追い詰められると、逆に笑えてくるものらしい。股間の防波堤を死守しているおれの親友は、いっそ額に脂汗を浮かべながら微笑んだ。

 

「そういえば、ボクは前に聞いたことがあるんだ……人間の汗と尿って、そんなに違いはないらしいよ」

「先に理屈を捏ねるな! それは客観的な分析の結果であって、お前が小便を漏らしていい理由にはならない!」

「すまない、親友。あとでボクのことを思い切り殴ってくれていいよ」

「先に謝るな! くそっ! こうなったらお前のズボンを硬くして被害を最小限に……」

 

 と、そこまで言って、おれは気がついた。

 このトリモチが全身に貼り付いて取れないのは、やわらかいからだ。いくら腕を伸ばしてもがこうと、伸び上がって貼り付いてくるからだ。

 しかし、それなら逆に考えれば良い。全身に貼り付いているトリモチを、あのスライムの時のように硬くしてしまえば、あるいは……

 

「親友、いいかい? もう出すよ」

「待て、馬鹿」

 

 時間がない。おれは簡潔に、アイディアを説明した。

 

「いや無理だよ、親友。このトリモチを固めたところで、それは鋼の硬さになってしまうんだろう? 服から引き剥がせるわけがない。脱出は不可能だ。状況は何も変わらないよ」

「それはどうかな?」

「え?」

 

 間抜けなアホ面を晒している親友に向けて、おれは白い息を吐き出しながら言った。

 

「知ってるか? 服って脱げるんだぜ」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 ゲド・アロンゾの魔法の名は『燕雁大飛(イロフリーゲン)』。

 その効果は、投擲した物体の必中。事前にターゲットの魔法を資料として受け取っていたゲドと違い、イトはそれを知らない。

 

「……へえ、おもしろいね」

 

 知らなくても、問題はなかった。

 投げられた針が、弧を描いて戻ってくる。

 それは明らかに、通常ではあり得ない軌道だった。何らかの仕掛けが施されている動きだった。

 しかし、結局のところ、それはイトに対応できない攻撃ではなかった。迫りくる針をギリギリで避けて、直撃を避けれないものは切り落とす。

 

「……惜しかったね」

 

 唯一、掠った針が頬を薄く裂き、そこから血が流れた。

 

「……ああ、惜しかったな」

 

 盗賊は、大仰に肩を竦めて言った。

 

「お前の()()だよ。勇者志望のお嬢ちゃん」

 

 聞き返す前に、身体が異常を示した。

 

「……っ!?」

 

 漏れ出た声を押し殺して、イトは片手で頭を抑えた。

 目が霞む。視界が揺らぐ。呼吸が荒くなる。

 血液の流れにのって全身を巡る異物に、体が悲鳴をあげる。

 

「お前みたいな強いヤツは、勝つことを当然だって考えてる。自分は強いっつう自負がある。自分は負けないっつう信念がある」

 

 ゲド・アロンゾは語る。

 

「結構なことだ。胸張って、高らかに剣を掲げて力を奮う。そりゃあ、たしかに素晴らしいことだ」

 

 盗賊は、勇者よりも弱い。

 しかし、それは盗賊が勇者に勝てない、という意味ではない。

 

「だから、オレみたいな弱くて小賢しい悪党が、付け入る隙ができるんだぜ」

 

 勝利を確信した瞬間、人間には必ず隙が生まれる。

 油断を突き、余裕を喰い破る。それが、盗賊というハイエナの流儀だった。

 

「なに、を……」

「ただの毒だよ。掠ったら終わりの猛毒だけどな」

 

 平淡な口調で、ゲドは種明かしをした。

 取り落した刀が、乾いた音を響かせる。

 

「はっ……はっ、はっ……う、ぁ……」

 

 三半規管が、壊れる。

 地面に膝をついて、それを堪らえようとしたイトは、けれど堪えることができず、胃の中身を地面に吐き出した。それでも、なんとか立ち上がろうと、落とした刀を、拾おうとして。

 

「無理すんな。寝てろ」

 

 盗賊は、そんな少女の足掻きを容赦なく蹴り飛ばす。

 顎先を硬いブーツの先で砕かれて、イトの視界は火花が散るように明滅した。

 

「っ……あぅ……」

 

 悪魔を屠り、圧倒的な力を見せていたはずの少女の身体が、ごろごろと呆気なく地面を転がる。

 震える指先で、懐の魔術用紙(スクロール)を取り出そうとする。けれど、だめだ。もう指先にすら力が入らない。取り落したそれらが地面に散乱して、イトは倒れ込んだ。

 

「だから諦めろって。竜の爪から生成した、即効性の猛毒だぞ? 十分程度で全身に回って死ぬ」

 

 ゲドは、少女に向かって端的に告げた。

 

「良いか? お前は死ぬんだ」

 

 死ぬ?

 問いかけは、己に向けて。

 誰が?

 わかっているはずのそれを、繰り返す。

 ワタシが?

 自己認識が、ブレる。

 わたしが?

 事実の確認が、追い付いて。

 イト・ユリシーズが? 

 全身が、恐れを抱く。

 勇者になれずに、お姉ちゃんになれずに、お姉ちゃんの仇すら討てずに、こんなところで……死ぬ? 

 

「……ぁ」

 

 勇者になりたかった少女は、その瞬間。はじめて迫りくる死を、明確に認識した。

 いやな汗が止まらない。髪が頬に張り付いて気持ち悪い。全身の震えが止まらない。いいや、違う、震えが止まらないのは、毒のせいだ。死ぬのはこわくない。こわくなんてない。勇者は、死ぬのなんてこわくない。

 

 ──だって、わたしは勇者なんだから。

 

 もう、ここで終わっても良いのかもしれない。

 それで、お姉ちゃんのところに行けるのなら。

 ならばせめて。その最後くらいは、誇り高く。

 

「……こ、殺せ」

 

 唇を震わせながら、少女は言葉を紡いだ。

 笑顔の仮面を貼り付けて、強がりとプライドで補強した言葉を、盗賊に言った。

 

「あ?」

「ワタシの、負け……だったら、殺せば、いい」

 

 盗賊は、吐瀉物の中に倒れ込んだ少女を見下ろして、大仰に首を傾げてみせた。

 

「……なんで?」

「ぇ……?」

 

 仮面が、砕ける音がした。

 まるで、言葉の意味そのものが理解できない、というような反応だった。

 

「どうせ放っといても死ぬんだ。最後まで苦しんでいるところを見せてくれよ。オレはそれが見たい」

「ぁ……」

「お嬢ちゃんはこのまま、じっくりとゆっくりと、毒に侵される。安心しろ。オレが最後まで側にいてやるから」

 

 人の本質は、死の瞬間に最も(つまび)らかになる。

 

「何も守れず、何者にもなれず、お嬢ちゃんはここで死ぬんだ」

 

 ゲド・アロンゾは、人間が刹那に魅せる輝きを愛している。だから、死の瞬間を愛している。

 矛盾はない。極めて合理的な業務の効率と己の嗜好を、ゲドは両立させて満たしていた。

 そして、突きつけられたそれは、イトがこれまでずっと、目を背けてきたものだった。

 

「あ、いや……やだ。わたし……」

「あ、そうだ。死ぬ前にその眼は貰っておくぜ。高く売れそうだ」

「や、やめっ……」

 

 身動きのできない少女の眼球に、盗賊は無遠慮に指を突っ込んだ。

 甲高い悲鳴が響いたが、ゲドは微塵もそれを気にせずに、眼窩から貴重な眼を摘んで抜き出した。

 

「ぅ……う、ぁあああ……ふっ……ぐぅ……ぇ」

 

 クライアントから依頼されたのは、殺害だけだ。高く売れるものは、剥ぎ取っておいた方が良い。魔眼は出すべきところに出せば、高い値で捌ける。

 頭の中で算盤を弾きながら、ゲドは鼻歌交じりに抜き取った美しい眼球を瓶の中に収めた。

 

「かわいい顔が、台無しだな」

 

 だが、それが(そそ)る。

 勇者になる、と言った少女が。

 最強だと謳われてきた少女が。

 すべてを砕かれて、自分の前に這い蹲って、もうすぐ死ぬ。

 これほどまでに気持ちの良い見世物はない。

 

「最後に何か、言い遺しておくことはあるか?」

 

 段々と、呼吸が浅くなっていく少女を見下ろして、ゲドは問いかけた。

 

「……勇者は、負けない」

「お前は負けた」

「勇者は、必ず……魔王を、倒す」

「お前には無理だ」

「勇者、は……」

「お前じゃなかった」

 

 どこまでも、何度でも。最後の瞬間まで。

 盗賊は、少女の心を念入りに丁寧に()し折る。

 

「お前はここで死ぬ。だから、お前は勇者にはなれない」

 

 片目で自分を見上げる少女の瞳が、深く揺らぐ。

 勇者ではない少女は、もう笑顔を貼り付けることはできなかった。

 本心が、漏れ出る。

 痛みと、涙と、苦しみで、ぐしゃぐしゃに歪んだ表情で、少女は声を絞り出した。

 

「……助けて」

 

 たった一言。

 しかし、凝縮されたその一言にこそ、生への執着が凝縮されている。

 ゲドは、全身を震わせて、それを堪能した。

 

「いいねぇ……年相応の女らしい、素晴らしい言葉だ」

 

 この瞬間、ゲド・アロンゾは間違いなく勝者であり、強者だった。

 勝利を確信した瞬間、人間にはどうしても隙が生まれる。

 だから、歓喜に打ち震える盗賊は気付かない。その言葉が、自分に向けられたものではないことに、気付けない。

 

「……死にたく、ない。助けて」

 

 助けを求める少女に対して、盗賊の背後に音も無く立つ……()()()()()()()()は答えた。

 

「当然です。絶対助けます」

 

 拳が、炸裂した。鼻の骨が、砕ける音が響いた。

 振り返った顔面に異常な硬さの拳が突き刺さり、盗賊は吹き飛んだ。地面に叩きつけられ、転がって、それからようやく立ち上がって、ゲドは少年を見る。

 

「……っ! どうやって抜け出した、とか……いろいろ聞きたいことはあるが……」

 

 それは、極めて純粋な疑問だった。

 

「……お前、なんで服着てないんだ?」

 

 助けを求める人が、そこにいるなら。

 助けを求められた者は、その瞬間から勇者になれる。

 大切な先輩を奪おうとした盗賊に対して、()()()()()()()()は答えた。

 

「お前を倒すのに、服なんて必要ないからだよ」




ゼンラ→パンツ(NEW!

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