世界救い終わったけど、記憶喪失の女の子ひろった   作:龍流

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〇〇と〜の〇〇たちってタイトル、ドラえもんの夏映画みたいな雰囲気出て好き


勇者と合コンの騎士たち

 王都第五騎士団団長、レオ・リーオナインは多忙である。

 まず第一に、ステラシルドを守る筆頭騎士として、騎士団長という立場は激務を極める。魔王軍全盛の時代に比べれば、命に関わるような戦いこそ減ったものの、王族の護衛や式典への参加、地方への魔獣の討伐など、その任は多岐に渡る。レオの場合は、そこに副業として書籍の執筆まで加わることもあって、尚更であった。

 なので、国王であるユリン・メルーナ・ランガスタから直々に呼び出しを受けた時も「また仕事が増えそうだ」と。口にこそ出さないものの、レオは内心で肩を竦めていた。

 とはいえ、国王からの直接の呼び出しに、応じない騎士はこの国にはいない。正装で玉座を訪れたレオは、幼い女王に頭を垂れ、膝をついた。

 

「お呼びでしょうか、陛下」

「ご苦労、リーオナイン。実はお前に、折り入って頼みがある」

 

 折り入っての頼み。そこまで言うということは、よほどの急務か、あるいは重要な任務なのだろう。

 居住まいを正し、レオは声音に一段と張りをのせて答えた。

 

「はっ。この若輩の身で叶えられる願いであれば、何なりとお申し付けください」

「実は今度、勇者を呼んで合コンをやるんだが、男側の面子が足りん。お前も来るか?」

「行きます」

 

 第五騎士団団長、レオ・リーオナインは即答した。

 レオはこの国を守る騎士である。しかし、この国を守る騎士である前に、レオは勇者の親友である。

 親友として、こんなおもしろそうなイベントを逃す手はない。

 だが、ユリンは幼いながらに端正な顔を心配そうに歪めて問いかけてきた。

 

「大丈夫か? 無理せずともよいのだぞ」

「無理はしておりません陛下」

「騎士団長の中でも、お前は特に多忙だと聞くし」

「全然大丈夫です陛下」

「予定が合わなければキャンセルしても構わんからな」

「すべてを投げ出してでも、必ず馳せ参じる所存です陛下」

「流石だ。それでこそお兄ちゃんの親友」

「恐縮です陛下」

 

 もはや疑う余地もない。

 双方共に、ノリノリであった。

 

「陛下」

「なんだリーオナイン」

「私と勇者殿は学生の頃から親友です」

「無論知っておる」

「共に青春を過ごした竹馬の友です」

「わかっている」

「陛下が設けてくださる場であることは、重々承知しております。承知しておりますが、しかし……」

「くどいぞ。言いたいことがあるなら、はっきり申せ」

「はっ。では、恐れながら……」

 

 現在の王国で最年少の男性騎士団長となった天才は、床に額を擦り合わせる勢いで頭を下げながら告げた。

 

「合コンで慌てる親友を、からかって遊びたいのです」

「よい。余が許す。久方ぶりの再会、存分に羽を伸ばすが良い」

「ありがとうございます」

 

 言質は取った。

 これで好き勝手できる。

 濃い金髪を揺らして、レオは笑った。爽やか極まる笑顔だった。

 

「それと……」

「なんだ、まだあるのか?」

「合コンの内容は私が執筆する本に書いてもよろしいでしょうか?」

「それも許そう」

「ありがとうございます」

「ただし、条件が一つ」

「なんでしょう」

「書き上げたら最初に余に読ませよ」

「はっ。仰せのままに」

 

 これで条件は整った。

 女王と騎士の契約は、滞りなく完了した……かに思えた。

 

「なるほど、合コンか。そういうことなら、私も同行しよう」

「スターフォード卿……!」

 

 厄介な乱入者が現れなければ。

 まるで、最初からこの場にいたかのように。柱に背を預け、腕を組み佇む一人の大男。

 ユリンは顔を歪めて、その髭面を見据えた。

 

「何の用だ、スターフォード」

「陛下。お許しを頂けるのであれば、私もその合コンとやらに馳せ参じたい所存」

「帰れ。リーオナインは呼んだが、お前は呼んでおらん」

「陛下! 恐れながら陛下! この身も合コンに!」

「黙れ。首打つぞ貴様」

 

 魔王と直接対峙し、生き残った唯一の騎士。王国最強の魔法使い。

 第一騎士団団長、グレアム・スターフォードは、潔いほど愚直に、真っ直ぐに頭を下げた。

 その所作は主に仕える騎士としてこれ以上ないほどに完璧であり、合コンに参加したい気持ちに溢れていた。

 

「そこのリーオナインが勇者の親友であるように! 私は勇者に戦いの基本を教えた師です!」

「そうらしいな」

「教え子の晴れ舞台! 近くで見たいと思うのは、師の親心として当然!」

「白々しいぞ、グレアム」

 

 王国最強の男をフォーストネームで気軽に呼び捨てて、ユリンは鼻を鳴らした。

 

「建前は良い。本音を申せ」

「はっ。では、恐れながら……」

 

 顔を上げ、グレアムは真剣そのものの表情で言い切った。

 

「合コンであたふたする教え子を、隣でおちょくって遊びたいのです」

「よく言った。ならば許そう」

 

 ◇

 

 回想終了。

 

「というわけで、今日の合コンにはボクたちも参加することになった。よろしく頼むよ親友」

「帰る」

「まあ待て。そんなに照れなくてもいいだろう、我が教え子よ」

「帰る!」

 

 おれの決断は早かった。

 即座に踵を返し、部屋を出ようとした。

 が、クソ親友とアホ先生に両肩を抑えられ、逃走を企てるそれ以上の動作は叶わなかった。

 だめだコイツら。無駄に強い。振りほどけない。

 

「どうして逃げようとするんだ親友!? キミにはボクたちとの感動の再会を喜ぶ気持ちはないのかい!?」

「じゃあ逆に聞くが、お前の方こそひさしぶりの再会の場が合コンであることに何か思うところはないのか!?」

「ああ! おもしろいと思う!」

「帰れ。おれじゃなくてお前が帰れ」

「照れるなよ親友。これから一生の伴侶を見つけに行くんだ。そんな風に心が恥ずかしがっていては、愛のキューピッドも逃げ出してしまうよ? まあもっとも、今日記念すべきこの場に、勇者の愛のキューピッドとして馳せ参じたのはこのボクだ。キミの恥じらいというベールを取り払い、運命の人を共に見つけ出してあげようじゃないか!」

「よく喋る……!」

 

 本当によく喋るな、コイツ。

 懐かしいけどマジで腹が立つ。

 そのまま取っ組み合いをはじめたおれとバカを見て、先生が微笑んだ。

 

「いいな。青春だな」

「おれたちもう二十歳過ぎてるんですよ。いくつだと思ってるんですか」

「俺からしてみれば、お前らはいつまで経っても子どものようなものさ。かわいい生徒だからな」

「先生……」

 

 先生の口調は、本当に心から昔を懐かしむようで。

 おれは、バカと取っ組み合う手を止めて、目を細めた。

 

「なんかいい感じのこと言ってますけど、これからおれたち合コン行くんですよ」

「うん」

「うんじゃないんですよ。恥ずかしくないんですか? 生徒と合コン行くんですよ?」

「ああ! 楽しみだ」

「くそっ……」

 

 恥じらいはないようだった。飲み潰れて上半身裸で一夜を過ごしてもあっけらかんとしている男は、心の器も大きいようだった。

 

「ていうか先生、こんなところに来ていいんですか?」

「それはどういう意味だ?」

「すっとぼけないでください。先生には良い仲の人がいるでしょう。具体的にはおれの担任の先生だった美人さんがいるでしょう!?」

 

 さっ、と。

 先生の視線が、横に泳いだ。

 

「何を言っているのかよくわからないな……」

 

 この筋肉ヒゲ親父、さてはケンカでもしたな? 

 学生の頃から互いに好き合っているのは明らかだったのに、何年モタモタやっているんだろう。さっさとくっつけばいいのに……。

 

「なんだその顔は。さっさとくっつけばいいのに……とでも言いたげな顔だな」

「はい。そういう顔です」

「大人にはいろいろあるんだ。お前が気にすることじゃない」

「じゃあ生徒の婚活に首ツッコむのも、やめてもらっていいですか?」

「断る」

「なぜ?」

「おもしろそうだから」

 

 取っ組み合う相手をクソ親友から奥手筋肉ヒゲ親父に切り替えようとしたおれだったが、そこで背後から咳払いの声が聞こえた。

 

「旧交を温めるのも構わないが、そろそろいいだろうか?」

 

 振り返ると、メガネをかけた几帳面そうな外見の騎士が立っている。

 

「あなたは?」

「お初にお目にかかる、勇者殿。陛下の勅命で、本日の合コンに参加することになった。第四騎士団長の団長だ」

「まだ増えるの?」

 

 思わず口に出てしまった。

 いや、だって……まだ増えるの? 

 なんでおれ以外の男側の面子、全員騎士団長なんだよ。おかしいだろ。戦争でもしにいくのか? 

 

「陛下から直々に賜った仕事だ。そこのお二人はともかく、私はあなたを全力でサポートするつもりでいる。どうか、よろしく頼む」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 なんだか生真面目そうな人だ。

 なぜか、はじめて会った気がしない。

 いや、ちょっとまて確実にどこかで会ったことがあるな。明らかに見覚えがある顔だ。

 

「すいません。失礼な質問なんですけど、どこかでお会いしませんでしたか?」

「質問の意図がわかりかねる。先ほど、お初にお目にかかると言ったはず。私とあなたは初対面だ、勇者殿」

「いや、でも絶対どこかで……」

「初対面だ」

「いやいや、でも」

 

 記憶を探る。

 多分、この人の顔を見たのは、わりと最近のことだ。

 そう。わりと最近。赤髪ちゃんと出会ってから……たしか王都で、賢者ちゃん関連……賢者ちゃん? 

 

「あ! 賢者ちゃんに踏まれてた人!」

「勇者殿。騎士の恥だ。どうかお願いだから、あの時のことは忘れてほしい」

 

 対面早々土下座をされた。清々しい。完璧な土下座だった。

 

「ところで、どうしてあの時、うちの賢者ちゃんに踏まれてたんですか?」

 

 立ち上がった騎士団長さんは、土下座でズレたメガネを整えながら答えた。

 

「ちょっとした権力闘争で負けて証拠を握られて脅されていた」

「うわ……」

「あれ以降、私はあなたのパーティーの賢者殿には頭が上がらない。私は彼女の豚のようなものだ」

「騎士として恥ずかしくないんですか?」

「最近癖になってきた」

「え?」

「では、移動しながら本日の予定を説明しよう」

 

 聞き間違えだろうか? 

 うん。聞き間違えということにしておこう。

 

「本日の合コンは男女対面の会食形式で取り行う。場が温まってくれば要望に応じて席替えなども実施する予定だが、とりあえず最初の席順は右から第一騎士団、第四騎士団の私、第五騎士団、そして勇者殿だ」

 

 聞けば聞くほどアホみたいなメンバーである。

 が、さすがにもうツッコむ気力はないのでスルーする方向でいくことにした。

 

「そういえばおれ、お相手のことあんまり聞いてないんですけど……」

「ああ。それに関しては安心していただきたい。陛下から伺ったところ、とびきっきりの美女揃いと聞いている」

「そいつは楽しみだ。巨乳の美人さんに期待したいな!」

 

 ヒゲオヤジがまた好き勝手なことを言ってる。

 まあ、おれも男だ。巨乳の美人さんは決して嫌いではないし、せっかく陛下が設けてくれた場でもある。新しい出会いに期待しても罰は当たらないだろう。

 

「会場には既に一人、相手方の女性が着いているらしいよ。女性を待たせてしまうのも申し訳ないし、ボクたちも先に入っていようか」

「ん。わかった」

 

 男側の人選で完全に出鼻を挫かれた感はあるが、今日は楽しもう。

 おれは会場の扉を開いた。

 

 

 

「あらあらあら! 素敵な殿方がたくさん! お待ちしておりましたわ〜!」

 

 とびっきりの美人がいた。

 聞き覚えのある声と、見覚えのある顔と、見覚えしかない巨乳がそこにあった。

 おれは黙って扉を締めた。

 隣に立つ先生を見る。

 生粋の巨乳好きであるにも関わらず、顔面には滝のような冷や汗が流れている。

 隣に立つ先生と頷き合う。

 おれたちは、声を揃えて言った。

 

「「──帰っていいか?」」




こんかいのとうじょうじんぶつ

勇者くん
知り合いしかいねぇ……!
帰りたい。

クソ親友
レオ・リーオナイン。第五騎士団団長。
どこかのドジっ子でなんでも斬る先輩の影に隠れているが、現在の騎士団長の中で最年少であり、若手のエース。

アホ先生
グレアム・スターフォード。第一騎士団団長。
花京院典明。筋肉。巨乳好き。合コンにはノリノリだったが、昔ハンマーで全身を挽き潰した四天王が何故か待ち構えていたのでもう帰りたい。

豚メガネ
第二話で賢者ちゃんに踏まれてた人。第四騎士団団長。
賢者ちゃんとの権力闘争に負けて以降は賢者ちゃんの言うことをよく聞くようになった。

見覚えのある巨乳
トップバッター。敏腕女社長。よくできた社会人なので時間前にきちんと会場に着くタイプ

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