せっかく貞操観念逆転世界へ来たのに貞操観念逆転していない幼なじみに女の子との出会いを潰されている   作:耳野笑

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 前回のあらすじ!


 あなたは新人冒険者のマリンと仲良くなった! しかもハプニングに背を押され、一緒の宿で寝泊まりした! 

 ところが翌日、あなたとマリンが一緒に宿から出てくるところを、ナミネに見られてしまう! ブチギレるナミネ! 逃げ出すマリン! 宿に連れ込まれるあなた!

 果たしてあなたは、おっぱいが大きくて可愛い女の子とイチャラブするというビッグドリームを叶えることができるのか⁉



第3話 ガツガツ肉食恋愛強者プリンス騎士・リーゼロッテ

 それから一ヵ月が経った。

 

 あなたとナミネは一緒にクエストに来ていた。

 

 あなたとナミネは洞窟の中を歩いている。ナミネの魔法によって作られた火の玉を光源にして進む。暗い洞窟内が、仄かな橙色の光に照らされている。

 

「ねえ、ナミネ。やっぱりS級のナミネが僕に合わせてFランクのクエストを受けるのは、ナミネのためにならな――」

 

「うるさい」

 

 どすの利いた声があなたの言葉を遮る。

 

 ナミネにブチギレられ、マリンに逃げられたあの日から、ずっと彼女はこんな感じだった。毎日毎日一緒にクエストに連れて行かれ、他の女の子を誘う隙など与えられなかった。

 

「他の女とクエストに行くのなんか許さない。一生許さないから」

 

「……」

 

 あなたは立ち止まった。

 

「ねえ、ナミネ」

 

「なに?」

 

「僕、貞操観念逆転世界に来て一ヵ月経ったんですよ? なのに童貞卒業するどころかファーストキスもまだなんですよ? 僕のこと嫌いなのは分かるけど、流石に憐れに思ってくれませんか? 女の子との出会いだけでも許してくれませんか?」

 

「嫌」

 

 ナミネはあなたを見て、嘲るように笑った。あなたは強い意思を込めた眼差しをナミネに向ける。

 

「なら、僕にも考えはあるよ」

 

「ふうん。なに?」

 

「冒険者から男娼に転職して、綺麗なお姉さんに抱いてもら――」

 

 あなたは音の圧に突き飛ばされ、壁にめり込んだ。細かい岩石がパラパラと落ちてくる。

 

「痛い!」

 

「そんなにセックスしたいの?」

 

「したいよ!」

 

「それしかないの⁉」

 

「それしかないよ!」

 

「少しは恥じろ! 取り繕え変態!」

 

 ナミネは壁にめり込んだあなたの鳩尾に拳を入れた。内臓が抉り上げられ、吐き気と痛みがあなたを襲う。

 あなたはその場に膝を突いた。ナミネは絶対零度の瞳で見下ろしている。

 

「うぐッ……! 鬼! 悪魔! まな板!」

 

「マジでぶっ飛ばす!!!!!!」

 

 音の衝撃波があなたを襲う。防具が斬り裂かれ、インナーもはだけて、半ば上裸になる。あなたは全く抵抗できずに痛めつけられ、壁に背をもたれた。

 

「ふふ……これで分かった? 前は油断して負けそうになったけど、S級の私に○○が勝てるわけないんだよ?」

 

 ナミネがあなたを見下ろして笑う。嫌いな相手を痛めつけて自分の支配下に置くということが、楽しくて堪らないという嗜虐の笑みだった。

 

「これがS級……! なんて分厚い壁なんだ……! まるでナミネの胸のように……!」

 

「潰す!!!!!」

 

 ナミネの踵落としがあなたの股間に命中する。全身を貫く鮮烈な痛み。あなたは絶叫し、地面にのたうち回った。

 

「――大丈夫か⁉」

 

 突然、第三者の声が洞窟に響いた。

 

 あなたとナミネの前に、一人の女性が現れる。

 

 陽光を糸にして紡いだような、美しい金髪。ハーフアップに結い上げた髪型が上品さと高貴さを醸し出している。青いマントに洋装の鎧という出で立ちも相まって、王国の騎士団長のような印象がある。

 

 アメジストのような、深い紫の瞳。目力が強くぱっちりとした目に、高い鼻梁。真珠色のきめ細かい肌。

 

 ――暴力的なまでに美しい女性だった。

 

「君、『奏者(アマデウス)』かい……⁉」

 

「そうだけど、誰?」

 

「私はS級冒険者、リーゼロッテだよ」

 

「「……ッ⁉」」

 

 あなたは驚愕した。目の前にいたのは、この国に5人しかいないS級冒険者の一人。

 

 『剣聖(アーサー)』――リーゼロッテだった。

 

「男性に暴力を振るうなんて言語道断だ。女として、騎士として、冒険者として、私は君を許さない」

 

 防具が斬り裂かれ、インナーもはだけて、半ば上裸になったあなた。そしてあなたを見下ろす、素行が悪いと噂の女冒険者。

 

 この世界の価値観では、どう見てもレイプ現場だった。

 

 あなたは地に伏したまま、ちらっとナミネを見る。

 これくらいの喧嘩はいつものことだった。リーゼロッテが想像するような暴行ではない。

 

 しかしこうなった理由を説明しようにも――『女の子とセックスしたいのに邪魔してくるので貧相な胸を煽りました!』なんて言えない。

 

「ちょ、ちょっとじゃれてただけよ。ほら、○○もなんか言いなさいよ」

 

 ナミネが困ったような顔をして、あなたを見る。

 

(はっ……! 待てよ……!)

 

 あなたは気付く。これは、ナミネから解放される絶好の機会である。

 ここで『ぐすっ……ううっ……僕、一ヵ月前から毎日連れ回されて……乱暴されてるんです……お願い、助けて……!』と涙ながらに訴えれば、きっとリーゼロッテはナミネを倒してくれるだろう。

 

 あなたは覚悟を決め、口を開く。

 

「本当にちょっとした喧嘩です。暴行でもレイプでもありませんよ」

 

 幼なじみをレイプ魔として突き出すなんて、流石にしなかった。快楽に堕ちるのは望むところだが、人として堕ちてはいけない。

 

 しかし、リーゼロッテは拳をわなわなと震わせる。あなたを見るその目に、ひどく痛ましいものを見るような憐憫が宿る。

 

「可哀想に……! 君が一ヵ月ほど前から無理やり連れ回されていることは人伝てに知っている……! 君は暴力で支配下に置かれ、無理やり従わされているのだろう……⁉」

 

「「えっ」」

 

「もう怯えなくていい! 私が来たからにはもう蛮行を許しはしないよ!」

 

「いや、えっと」

 

 リーゼロッテが剣を抜く。今にも斬り掛からんという殺気。まずい雰囲気だった。

 

 あなたは心の中で葛藤し、煮え滾るような屈辱を飲み込み、プライドを捨てた。あなたは立ち上がり、ナミネに抱き着いて腕を組んだ。

 

「実は僕とナミネ仲いいんですよ! ほら、ラブラブ! ラブアンドピース!」

 

「ちょっ、はあっ⁉」

 

 ナミネの顔が湯沸したかのように赤くなる。あわあわとしながら、潤む瞳があなたを見上げる。

 

「ねっ? ナミネ?」

 

 あなたはナミネに同意を促した。もうこれくらいやらないと、レイプ魔とその被害者という誤解が晴れない気がした。だからこそ、あなたは泥をかぶったのだ。

 

「う、その……ら、らぶらぶ……だよっ……」

 

 ゆでダコのように顔を真っ赤にしながら、ナミネは消え入りそうな声で言った。

 小動物のようにおとなしいナミネ。長いこと幼なじみをやっているが、めったに見ない珍しい姿だった。

 

 しかし――。

 

「そこまでッ……! 暴力で抑えつけ、身も心も屈従させたのかッ⁉ 最早生かしてはおけない! 貴様はここで斬り捨てる!!!!!」

 

 リーゼロッテは義憤に駆られ、ナミネへと斬り掛かった。

 

「ちょ、ちょおおおおおおおおおおッ!」

 

 *

 

「ふむ。では、君は本当に暴行されている訳ではないんだね?」

 

 腕を組んで仁王立ちするリーゼロッテの前に、あなたとナミネは向かい合う。

 

 あなたは剣を抜き、リーゼロッテの攻撃を防ぎ、そのまま何合か打ち合った。S級と互角に斬り結べる強さを披露し、『力づくで従わされている訳ではない』ということを証明したのであった。

 

「はい。レイプも暴行もされてませんよ」

 

「そうか。すまなかった。非礼を詫びるよ」

 

 リーゼロッテは深々と頭を下げた。ナミネはそっぽを向きながら、「別にいいけど」とつぶやいた。

 

「では、無理やり連れ回されているという噂も、誤解なんだね?」

 

「あっ、それはマジです。めっちゃ迷惑してました」

 

「ちょっ……○○⁉」

 

「なに……?」

 

 リーゼロッテが鋭い眼差しを向け、再び殺気立った空気が満ちる。

 

「ナミネ、君の素行不良は以前から問題だった。今回の件はもう見過ごせない。君が彼に想いを寄せているのだとしても、暴力で男性を従えるというのは悪行だ。今すぐ彼を解放するんだ」

 

「は、はあ⁉ 別に○○のことなんて好きでもないし! 無理やりでもないし!」

 

「いや無理やりです! 今までの人生で一番痛い思いした怪我の十倍は痛くするとか言われましたあ!」

 

 リーゼロッテは冷徹な瞳でナミネを見下ろす。

 

「権力を振りかざすような物言いはしたくないけど、私は元・国王親衛隊の人間だよ。これ以上彼に無理やり迫るようなら、君の冒険者ライセンスの剥奪と、ギルドからの追放を嘆願する」

 

「はあ⁉ 横暴じゃないそんなの⁉」

 

「君が彼を不当に束縛していることこそ横暴だよ」

 

「そうだそうだー!」

 

「うるさい! 私と○○の話なんだから放っておいてよ!」

 

「その彼が君から解放されたがっているんだよ」

 

「どう説明するつもりだー!」

 

「首つっこまないでよ! ○○だってそんなに抵抗してないじゃない!」

 

「暴力を用いている時点で対等じゃないよ。君が彼を一人の人間として尊重しないなら、私は力ずくでも君から彼を引き離す」

 

「説明責任を果たせー!」

 

「なんでさっきから野党みたいなヤジ飛んでくるの???????」

 

「税金の無駄遣いだー!」

 

「うるさい!!!」

 

 あなたはリーゼロッテに手を握られ、彼女の後ろに誘導される。あなたはリーゼロッテの背からひょっこりと首を出し、あっかんべーをする。虎の威を借るあなたである。

 

「君との強制クエスト生活もこれで終わりだよ!」

 

「こ、のッ……調子乗って……ッ!」

 

「おっぱいが大きくて可愛い女の子とパーティー組みたいから、今日で議会は解散です!」

 

「じゃあ与党じゃない! いやどうでもいい! とにかく、私は認めないから!」

 

「でも月30じゃなくて月1くらいなら一緒にクエスト行ってあげてもいいから! またね!」

 

 あなたは言いたいことを言い切った。

 

「……だそうだよ。彼とは適切な距離感で接するようにしたまえ。さようなら、『奏者(アマデウス)』」

 

 あなたの腰にリーゼロッテが腕を回す。

 

「わひゃあっ!」

 

 あなたは女の子のような声を出した。半ば彼女に抱かれているような状態。大きくて頼りになる女性に守られる感覚に、得も言われぬ温かさが胸に灯る。

 

 すぐ傍に、リーゼロッテの美しい顔がある。凛として、清らかで、魅入られるような華やかさだった。

 

(まつ毛……なっが……!)

 

 リーゼロッテにエスコートされて歩き出す。自分より強くて大きな女性に支えられるという経験に、あなたは目を白黒させることしかできなかった。

 

「……」

 

 その背中を、ナミネは凝視している。光すら飲み込むブラックホールのようにどす黒い瞳で、他の女に抱かれて歩き去るあなたを見ている。

 

「許さない……こんなの認めない……。私に逆らったこと、絶対後悔させてあげる……。いっぱい分からせてあげるから、覚悟しててね……○○……?」

 

 *

 

「自由だああああああああああああああああッ!」

 

 こうして、あなたはナミネから解放された。

 

 素敵な未来が待っている!

 おっぱいが大きくて可愛い女の子たちが待っている!

 

「ふふ……嬉しそうだね。○○」

 

 あなたの隣に座るリーゼロッテが微笑んだ。リーゼロッテが乗ってきたという馬車で、あなたはギルドまで送っていってもらうことになったのだ。

 

「あ、はい。嬉しくて……」

 

「無理もない。自由のない生活というのは辛かっただろう。よく頑張ったね」

 

 あなたはリーゼロッテに頭を撫でられた。彼女の優しくも慈しみに溢れた瞳に、心を奪われる。

 

「えっ……え……?」

 

「おっと、すまない。不躾な真似をしてしまった。許してほしい」

 

「いえ、その……嫌じゃなかったです……」

 

 心臓が高鳴る。ただ、いつものそれではない。興奮とか緊張とか羞恥ではなく、カッコよくて素敵な女性を目の前にして陶然とするような感覚だった。

 

 そんなあなたの様子を見て好感触を確信したのか、リーゼロッテがあなたとの距離を詰めた。

 

「え」

 

 思わず身を引くあなた。しかしリーゼロッテは尚も近付いてくる。

 

 更に身を引くあなた。背が壁にぶつかる。リーゼロッテは更に距離を詰めてくる。遂に追い詰められ、壁ドンされる。

 

 黄金の髪。紫紺の瞳。凛とした眼差し。暴力的なまでの美しさに心を奪われる。

 

「○○、パーティーを組む相手を探しているようだったが、当てはあるのかい?」

 

「い、いいいいいいいいえ! これから探すところでしゅ……!」

 

 リーゼロッテの眼光に射抜かれ、吐息のかかる距離に、心臓が暴れ回る。体が熱を上げて、意識が昂って、上手く呂律が回らない。

 

 普通の女子高校生が人気イケメン俳優に迫られて平静でいられないのと同じ。これに関して言えば、あなたのせいではない。

 この国屈指のプリン(セ)スフェイスの超絶ハイスペック女騎士に迫られ、あなたは狼狽えていた。

 

「もしよければ、次のパートナーには私を選んでもらえないかい?」

 

「えっ……⁉」

 

「事情が事情とはいえ、君をソロにしてしまったのは私の行いのせいだ。責任を取らせてほしい」

 

 心が揺れる。リーゼロッテの美しさに魅入られ、思考がボーっとする。

 

「いや、言い訳はよそう」

 

 あなたの顎が、リーゼロッテの左手に持ち上げられた。

 

「好きだよ、○○。私は君に一目惚れをしてしまったようだ」

 

「えっ……ええええええええええええええええっ!?」

 

 鋭い意志を宿した紫紺の瞳があなたをじっと見つめる。わずかに上気した頬が、リーゼロッテの中に灯る恋慕を証していた。

 

「君を大切にする。君の助けになると約束する。どうか友人から始めさせてほしい。私と、パーティーを組んでもらえないだろうか?」

 

 あなたはリーゼロッテの肩を押した。

 

「……少し、考えさせてください」

 

 *

 

 夕食を奢ってもらい、いつもの宿に戻ろうとしたところで、リーゼロッテに止められた。

 

「宿はナミネにバレているんだろう? なら、他の宿に居を移した方がいいよ」

 

「あ、そうですね」

 

「よければ、このまま私の家に来ないかい? 次の宿が見つかるまでの仮宿として使ってほしい」

 

「えっ」

 

 あなたは流石に身の危険を感じた。前世で言えば、今日会ったばかりの男の家にほいほい付いていくのと同じである。

 

「『お礼は体で払ってもらうよ』とか言われて夜這われたり……?」

 

「しないよ。私をなんだと思ってるんだい?」

 

「男を食いまくってるガツガツ肉食系恋愛強者?」

 

「思ってた百倍は印象悪いね⁉」

 

「い、いえ、すいません。偏見でした」

 

 やることなすことスマートで、男の扱いに慣れたような立ち振る舞い。前世で言えば、恋愛ヒエラルキーの最上位に立っているような人物。

 その溢れ出る陽気に当てられて、あなたは思わず心理的に距離を取ってしまっていた。

 

「それで、宿の話はどうする?」

 

「そうですね……。お言葉に甘えます」

 

(最悪襲われても抵抗できるスキルはあるし、最悪の最悪は抵抗しなくてもいっか……)

 

 貞操観念逆転世界に来てから一ヶ月も捨て損ねている童貞を貰ってくれるというのであれば、望むところであった。

 

 あなたが承諾すると、リーゼロッテはぱあっと花が咲くような笑みを浮かべた。

 

「そうか……! 良かったよ! ありがとう、○○!」

 

「い、いえ……」

 

 馬車は富裕層の住まうエリアへと入っていく。日も暮れたころ、あなたはリーゼロッテの住居に辿り着いた。

 噴水付きの庭に、大旅館くらいのサイズがある白亜の城だった。

 

 そして、あなたには豪華な客室が与えられた。照明はシャンデリア。毛足の長い深紅の絨毯に、天蓋付きのキングサイズベッド。

 

(なんか、ラブホみたい……!)

 

 ちなみに、一緒に行く相手がいなかったため、行ったことは一度としてない。あなたは少し悲しくなった。

 

「先にお風呂どうぞ」

 

 リーゼロッテが一番風呂をあなたに譲ってくれる。あなたは押されっぱなしなのが悔しくて、ちょっと反撃してみることにする。

 

「覗くなら、バレないようにしてくださいね?」

 

「……ッ⁉」

 

 リーゼロッテが面食らう。何事か言い掛け、言葉に詰まって、口をパクパクしていた。

 あなたは流し目で彼女に背を向け、脱衣室へと入った。

 

 浴場も大きかった。マーライオンの像からお湯が流れている。大きな浴槽に入ると、日々の疲れが癒されるような気がした。

 

「一目惚れ、かあ……」

 

 告白をされたのは初めてだった。

 

 好き。

 愛してる。

 あなたの恋人になりたい。

 

 そう言ってもらえるのを望んで、待ち望んで、結局前世ではただの一度も言ってもらえなかった。

 

 この言葉を女の子から言ってもらえるのに、何年掛かったのだろう。もう、ここがゴールでもいいのではないか。リーゼロッテの想いに応えて、彼女と結ばれてもいいのではないか。

 

 あなたは、そんな風に思ってしまう。

 

「……」

 

 ただ、引っ掛かることが一つ。

 

 リーゼロッテが光属性(パリピ)すぎることだった。陰の者にはキツかった。闇の半生の中で育ってきた心が、彼女の眩しさに耐えかねていた。

 

 つまりは、シンプルに性格の不一致だった。

 

「……申し訳ないけど、断ろう」

 

 恋人として長く続く気がしない。リーゼロッテには、彼女の眩しさに対抗できるだけの光属性男子を見付けてもらおう。

 

 結論も出たところで、あなたは大浴場を出て脱衣室に戻った。あなたは腰に巻いたタオルを外し――。

 

 ガタン! と音が鳴った。

 

 後ろを振り向く。掃除用具が入っているであろうロッカーからした物音だった。

 あなたはタオルを腰に巻き直す。ロッカーに近付き、勢いよく扉を開けた。

 

 そこには、引き攣った笑みを浮かべるリーゼロッテの姿があった。

 

「……や、やあ、奇遇だね」

 

「どんな用件があれば城主が掃除用具入れの中に入るんですか?」

 

「私が掃除用具でないと、一体誰が決めたんだい?」

 

「聞いたことない言い訳過ぎてどうツッコめばいいか分からない!」

 

 リーゼロッテは鼻息を荒くし、食い入るようにあなたの胸を凝視する。男性らしい硬い胸板がふろ上がりでほんのり上気している光景は、この世界の女性にとって、お金を払ってでも拝みたい絶景だった。

 

 あなたは悪い気はしなかったが、建前上さっと胸を隠した。

 

「あ、ああッ……!」

 

「ボーナスタイムは終わりです」

 

「いくらで延長してもらえる!? 金ならあるぞ! 言うことなら何でも聞く! だからどうか頼むよ!」

 

「急に命乞いする小物みたいにならないでください」

 

 そんな願いが聞き入れられることは、どこの世界でもないのである。あなたはさっさと用意されていたバスローブを着て、脱衣室を後にする。

 

「一番風呂、譲っていただいてありがとうございました。ごゆっくりどうぞ」

 

「ああ、君が使った残り湯を堪能してくるよ」

 

「嫌な言い方しないでください!」

 

 *

 

 夜中、あなたはベッドの中で、リーゼロッテのことを考えていた。

 

「やっぱりオープンスケベだった……」

 

 間違いない。あれは絶対に男を食いまくっている本物の肉食獣だ。

 

「あ、というかパーティー断るの伝え忘れた……」

 

 あまり返事を待たせて期待させるのも良くない。とはいえ、今は流石にもう寝ている時間だろう。

 

「まあ、明日でもいっか……」

 

 あなたは喉が渇いたので、ベッドから降りて、ドリンクピッチャーを持ってリビングに向かった。

 長い廊下を歩く。その曲がり角で、ちょうどリーゼロッテとバッティングした。

 

「わっ」

 

「おっと」

 

 ぶるんっ♡ と豊かな胸が揺れた。

 

 先ほどまでは鎧のせいで分からなかったが、リーゼロッテはとんでもない爆乳だった。薄いバスローブ姿の今、リーゼロッテの胸元は内側から飛び出さんばかりに布地を押し上げている。

 

 あなたはそのおっぱいに釘付けになった。たった一瞬で、あなたの脳内に欲望が溢れ出す。

 

 触れたい。揉みたい。挟まりたい。

 

 この大きなおっぱいを正面から思いっきり鷲掴みにして、指が沈むほどの柔らかさを味わいたい。幸せの果実の間に顔を埋めて、頬をたぷんったぷんっ♡ と優しく叩かれたい。

 

「リーゼロッテさん」

 

「うん? なんだい?」

 

「是非! 是非僕とパーティーを組んでください!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 *

 

 翌日、あなたはリーゼロッテと共にクエストに来ていた。

 

 内容は、街道に現れた蜂の魔物の討伐である。

 

 街道は山と森に挟まれている。あなたとリーゼロッテは山側沿いに街道を歩いていた。

 

「あ、いましたね」

 

 拳大の蜂が数匹飛んでくる。あなたとリーゼロッテは難なくそれを斬り伏せた。

 S級のリーゼロッテと、S級と比べても遜色ないあなたのペアである。余裕も余裕だった。

 

「おつかれさまです」

 

「おつかれさま、○○。流石は○○だね、見事な剣捌きだったよ」

 

 リーゼロッテはしっかりと男性を立てる。言動の節々から男慣れが感じ取れた。やっぱりちょっと怖い。

 

「ところで、気を悪くしたらすまないのだが、○○は本当にナミネに乱暴されていないのか?」

 

「はい、されてませんよ。どうしたんですかいきなり?」

 

「一ヶ月もこんなドスケベボディを目の前にして何故手を出さずにいれたのかが疑問だ……」

 

「ド直球でセクハラ!!!!」

 

 あなたは自分の体を抱きしめるようにして後ずさる。たぶん顔が良いからこういうセクハラも許されてきたんだろうなあ……とか色々考えてしまう。

 

「もしやナミネは男性に興味がないのか? あるいは無性愛者なのか?」

 

「違いますよ。ナミネも、きっと本当に好きになった男の人には、そういう感情も抱くんじゃないでしょうか。……気難しいからなかなか馬が合う男性が見つからないだけですよ」

 

「ナミネにとって君はそういう男性ではないのかい?」

 

「絶対にないです」

 

「ふむ……? 今さらだが、君とナミネはどんな関係なんだい?」

 

「幼なじみですよ。不仲ですし、お互い嫌いですけど」

 

「まあ、そうだろうね。あれだけ荒んだ性格だ。暴言も暴力も、一緒にいて快いものではないだろう」

 

 あなたは少し黙った。胸の中に、わだかまりのような気持ちが芽生える。

 

「少し、違います。悪口を言われても、ちょっと痛めつけられても、ナミネと一緒にいれたのは楽しかったです。ただ、僕には他にどうしてもやりたいことがあったから、ナミネから離れたかったんです」

 

「妙に彼女の肩を持つんだね」

 

「あれでも、ちょっとは可愛いところあるんですよ? 雷に怯えて泣きついてきたり、ちょっとイタいポエム書いてたり――」

 

「今は私だけを見ていてほしい」

 

 あなたの顎にリーゼロッテの右手が当てられ、顎を持ち上げられる。

 

 鮮やかな紫の瞳。目映い金色の髪。吐息が掛かって、彼女の体温が感じられる。

 突如、暴力的なまでの美貌が目の前に迫ってきて、あなたは狼狽えた。

 

「ひゃ、ひゃいっ……!」

 

「ふふ、可愛いね、○○。本当に可愛い。好きだ。大好きだよ。愛している」

 

 まっすぐ目を見てそう伝えられる。愛と好意が直接、あなたの体に侵入してくるかのようだった。勝手に体温が上がって、心が舞い上がり、心臓が跳ね回る。

 

 リーゼロッテが、舌なめずりする。目にはめらめらと燃えるような獣欲が宿り、あなたへと熱視線が注がれる。

 

「もう我慢できない。私のものになれ、○○」

 

 丹田が熱を持つ。あなたは、ない筈の子宮が疼くのを感じた。

 

 リーゼロッテの顔が近付いてくる。あなたはまぶたを閉じ、彼女の唇を受け入れようと――。

 

「――溺れるように(アクアレグロ)

 

 街道に鉄砲水のような激流が生まれ、あなたとリーゼロッテを飲み込まんと迫った。

 リーゼロッテは瞬時に剣を抜き、水流を二つに斬り裂いた。

 

 そこにいたのは、ナミネだった。栗色の髪が揺れる。穏やかなくるみ色の瞳は、見る影もないくらい漆黒に染まっていた。

 

「懲りないね。彼には近づかないよう言ったはずだが」

 

「私は○○じゃなくて、貴女に用があって来たんだけど」

 

 ナミネは猛禽のように鋭い瞳でリーゼロッテを睨み付ける。そして、懐から白手袋を取り出し、リーゼロッテの足元に投げつけた。

 

 それは、騎士団に所属する人間が、正式な決闘を挑むときの所作だった。

 

「私が勝ったら、もう二度と私と○○に関わらないで」

 

 ナミネの宣言に、リーゼロッテは笑みを浮かべた。

 

「受ける義理はないが……丁度良かった。○○に相応しいのが君ではなく、この私だと証明する好機だ。喜んで受けて立とう。私が勝ったら、○○はもらうよ?」

 

「好きにすれば? 足拭きマットにでもボロ雑巾にでもすればいい」

 

「いややだよ⁉ 勝手に景品にされた上に用途も快いものじゃなさそうなんだけど!?」

 

 リーゼロッテとナミネが相対する。両者の間にバチバチと火花が散り、辺り一帯が殺気に満ちて、肌に痛いほどの冷気が漂う。

 

「ぼ、僕のために争わないで!」

 

「静かにしてて。これ終わったらいっぱい乱暴してあげるから」

 

「○○を乱れさせるのはこの私だ。壊れるまで愛してあげるよ」

 

「これ今すぐ逃げだした方がいい説ない?????」

 

 リーゼロッテが剣を正眼に構える。先手を取ったのは、ナミネだった。

 

燃えるように(フレアジタート)

 

 火の玉が散弾のように放たれる。

 

 リーゼロッテは火球の雨へと突っ込む。人智を超えた脚力と反射神経で火球の弾雨を躱し、ナミネへと迫っていく。

 

 あと二歩。リーゼロッテの斬撃の間合い。リーゼロッテの剣が閃くその瞬間、ナミネは笑った。

 

月夜に魅入られるように(ルナライトランクィッロ)

 

 天から一条の光線が降り注いだ。リーゼロッテは超人的な勘でそれを悟り、斬撃を真上に放った。光が斬り裂かれ、二条に分かたれた光線が地を焼く。

 

 あなたは二人の戦いを、手に汗握りながら見ている。

 

(これが、S級同士の戦い……!)

 

 ただの余波で、木々が薙ぎ倒され、土塊が舞う。ぐらぐらと地面が揺れて、ただ立っていることすら難しい。

 

「ん……?」

 

 揺れが大きくなっている。二人の攻撃とは無関係に、どんどん震度が大きくなって――。

 

 ――山から大蛇が飛び出してきた。バオバブの樹を十回は巻けるような全長。直ぐ近くで騒がしくやり合っている二人の音で、刺激してしまったようだった。

 

 鋭い牙が、あなたへと襲い掛かる。

 

 あなたは蛇の突進を避ける。大蛇の体を駆け回って、二撃目、三撃目も躱す。

 

 が、あなたを痛烈な衝撃が襲った。あなたは地面に吹っ飛ばされるも、刀を杖にして、辛うじて立ち上がる。

 あばらが折れていた。大蛇の尻尾が、あなたの脇腹を打ったのだった。

 

 ナミネとリーゼロッテも異変に気付き、あなたの下へと走り出す。

 

「「○○!」」

 

 大蛇が鎌首を持ち上げる。そして、未だバランスを崩したままのあなたへと牙を剥き――。

 

極彩色へ溶けるように(オーロラメンタービレ)!」

 

 七色の炎が爆ぜ、大蛇の体から七本の火柱が上がる。大蛇の絶叫が街道の果てまで轟いた。

 

 あなたはその隙に体勢を立て直し、蛇の体へと飛び乗った。全速で蜷局(とぐろ)を駆け上り、頭部へと突っ込む。

 

「冷泉流――(いわお)割り!」

 

 ――鮮烈な一閃。神速の一太刀が、蛇の頭を真っ二つに斬り裂いた。分かたれた蛇が血を噴き出し、街道に倒れる。

 

「○○!」

 

 ナミネがあなたの傍に寄り、手をぎゅっと握る。さっきまで濁り切っていたその瞳には、穏やかなくるみ色が戻っていた。

 ナミネの魔法によって、あなたの傷は癒えていく。

 

「大丈夫……?」

 

「うん、平気。危ないところだったけど、ナミネのおかげで助かったよ」

 

「……よかった」

 

 ナミネは安堵して、小さく微笑んだ。不安だったせいか、瞳に涙を湛えたまま、あなたを見詰めている。

 

「……参った」

 

 リーゼロッテが剣を収め、そう告げた。

 

「えっ?」

 

「私は○○を守れなかった。騎士失格だ。○○の傍にいる資格などない」

 

「いや、ちょっと待って、この流れは良くないです」

 

「それに――」

 

 リーゼロッテは薄く微笑む。諦念を宿したような、でもどこか晴れ晴れとしたような笑顔だった。

 

「――君は、ナミネと一緒にいる時の方が、楽しそうだからね」

 

「え……? いや、それは……」

 

「気づいていなかったのかもしれないが、ナミネが来た時嬉しそうに笑っていたよ? 私では、そんな顔をさせられなかったのにね」

 

 あなたはナミネの方を見た。「そうなの?」という目であなたを見詰めている。

 

「さようなら、○○。楽しかったよ。短い間だったが、付き合ってくれてありがとう」

 

 リーゼロッテは騎士らしく、跡を濁さず、爽やかに去っていく。

 

「ま、待ってください!」

 

 あなたはその背に声を掛ける。リーゼロッテが立ち止まり、振り向く。

 

「記念に一回だけでもヤらせてもらえませんか!!!!!!!!」

 

 ボキリ! と、人体から聞こえてはいけない筈の音が、あなたの左腕から聞こえた。

 

「……えっ?」

 

 その腕を掴むのは、ナミネの右手だった。

 あんなに心配そうに潤んでいた瞳が、今ではカラッカラに乾き切って、また地獄の釜の底のようにどす黒く濁っていた。

 

「そっかあ……まだ分かんないんだね? もう本気で許さない。○○が泣き叫ぶまで分からせてあげるからね?」

 

「ちょっ、待って! リーゼロッテさん! 助けて! この人ヤバいです!」

 

「敗北したら、もう二度とナミネと君には関わらない。という取り決めだった。心苦しいが、騎士の誇りに懸けて、約束を違えることはできない」

 

「えっ、いやっ、ちょっ……」

 

 リーゼロッテは、苦渋の面持ちで背を向けた。

 

「強く生きるんだぞ……」

 

「いや、待って! 助けて! 見捨てないでええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!」

 




 『あなた』

 性別:男性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Fランク)
 備考:おっぱいが大好き


 『ナミネ』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Sランク)――【奏者】
 備考:


 『モモ』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Cランク)
 備考:巨乳


 『マリン』

 性別:女性
 種族:ウンディーネ
 職業:冒険者(Fランク)
 備考:たわわ


 『リーゼロッテ』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Sランク)――【剣聖】
 備考:ぼいんぼいん
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