せっかく貞操観念逆転世界へ来たのに貞操観念逆転していない幼なじみに女の子との出会いを潰されている   作:耳野笑

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 前回のあらすじ!


 あなたは強制的にナミネのクエストに連れ回されていたところ、リーゼロッテによってナミネから解放される!

 リーゼロッテはあなたに一目惚れ! あなたはリーゼロッテのおっぱいに一目惚れ! 共にパーティーを組むことになる!

 クエスト中、あなたとリーゼロッテの前にナミネが現れ、リーゼロッテに決闘を挑む! 魔物の乱入などの事件もあったが、リーゼロッテは自ら敗北を認め、身を引いた!

 そして、最後に「記念に一回だけでもヤりたい」と言ったあなたに、ナミネがブチギレたのだった!

 果たしてあなたは、おっぱいが大きくて可愛い女の子とイチャラブするというビッグドリームを叶えることが出来るのか⁉



第4話 万年発情期チャイナドレスケモ耳獣人・ユンユン

 リーゼロッテの件以降、ナミネはほんの少しあなたに優しくなった。具体的には、週7で連れ回されていたクエストが週5に減った。

 

 しかし、あなたとっての大問題がひとつ。

 

「ナミネ、他の女の子をパーティーに誘ったりは――」

 

「絶対ダメ」

 

 ナミネが、他の女の子との接触を全く許してくれないことだった。モモの時然り、マリンの時然り、リーゼロッテの時然り、あなたと女の子を繋ぐのは、クエストでありパーティーであった。

 

 それを封じられた今、出会いは完璧にゼロ。闇の青春時代を彷彿とさせる第二次暗黒時代に突入していた。

 

 今日も今日とて、あなたはナミネに連れて行かれ、クエスト任務地へ向かうのだった。

 

 *

 

「おめでとうございます! Fランクのクエストを百件達成したため、冒険者ランクがEになりました! これからはEランクのクエストも受けられるようになります。頑張ってくださいね!」

 

 受付嬢にそう言われ、あなたは目を丸くした。

 

 ナミネの無茶なクエスト生活に付き合わされていたせいで、速攻で百件クリアを達成してしまっていたのだった。

 

 翌日。

 今日は休日である。あなたは奮発してちょっと高いお店で食事をしようと繁華街をブラブラしていた。食って寝るのがやっとの極貧生活だが、Eランクになった記念だし今日くらいは、という気持ちだった。

 

「おっ……?」

 

 紅い外装。看板の上には竜のオブジェが乗っており、看板の縁にはラーメンの丼に描かれているような四角い渦巻きがあしらわれている。

 

「中華店……? こっちの世界にもあるのかな?」

 

 あなたはその店に入ってみた。

 

 予想通り、ザ・中華店の内装だった。赤いテーブルクロスの敷かれた円卓がいくつも置いてある。

 お昼には遅い時間だがそれなりに客はいて、そこそこ繁盛しているようだった。

 

「いらっしゃいませ~! お一人様アルか~?」

 

「……ッ⁉」

 

 あなたは雷に打たれたような衝撃を受けた。

 

 そこにいたのは、チャイナ服に身を包んだ獣人の女性だった。

 

 切れ長ながら溌剌な印象のある、ネコのような目。琥珀色の瞳。整った目鼻立ちに、日焼けしていない新雪のような肌。

 燃えるような紅い髪。髪は側頭部で結われて二つのお団子になっていて、白いシニヨンカバーが付けられている。頭頂にはモフモフの犬耳が生えていて、ぴょこんぴょこんと動いていた。

 

 赤いチャイナドレスは胸元の部分が逆三角形に開いていて、肉まんのようにふわふわのおっぱいが露わになっていた。

 チャイナドレスそのものが締め付けの強い衣装なのも手伝って、逆三角形の隙間にむぎゅうっ♡ と柔らかそうな胸が押し寄せられている。あなたはその魅惑の隙間に視線を吸い寄せられ、目が離せなかった。

 

「……? どうしたアルか?」

 

「あ、い、いいいいいえ! なんでもないです! 一人です!」

 

「では、こちらのお席にどうぞアルよ~!」

 

 あなたは女性店員に案内され、席に座る。

 

「ご注文決まったらお呼びくださいアル」

 

 女性店員が厨房の方に入っていく。後ろ姿を見て、お尻から灰色の尻尾が生えているのに気づく。チャイナドレスという体のラインが出やすい衣装なのもあって、お尻の部分がむちっ♡ と膨らんでいる。

 

(チャイナドレス……良い……! でも、もしナミネが着たら、ツルン、ペタン、ストンって残念な感じになりそう……)

 

 あなたは適当に拉麺と餃子を注文した。そして、応対してくれた獣人の女性店員のことを考える。

 

(可愛い……! えっちい……! もうあの人を注文したい……!)

 

 あなたの頭に浮かぶ、『ナンパ』の三文字。

 

 前世なら、あえなく断られただろう。問答無用で出禁にされてもおかしくはない。

 しかし、今のあなたなら無謀な賭けではない。ワンチャンどころかサーティーワンチャンくらいはある。

 

 あなたは拉麺と餃子を食べ終え、会計する。そして、そこで彼女に話し掛けた。

 

「もしお時間あれば、この後一緒にお茶しませんか?」

 

「………………え゛っ? 一緒にお茶したいって、ゆ、ユンユンとアルか⁉」

 

 獣人の女性店員は目を見開き、あわあわと慌てる。

 

「ユンユンさんっていうんですか? 一目見て、可愛い女の子だなって思いました。あなたとお友達になりたいです」

 

「わ、わわ、わわわッ……⁉」

 

 ユンユンの顔は赤くなっていた。琥珀色の瞳がぐらぐらと泳いでいる。

 

「え、えっと、今日は夜までシフト入ってるから、ちょっと難しいかも、アル……」

 

「そ、そうですよね。すみません」

 

 あなたは背を向けて立ち去ろうとするが、ユンユンはカウンター越しにあなたの袖を掴んだ。

 

「ま、待ってアル! 休憩時間になったら、30分くらいは話せると思うアル! もうちょっと待っててほしいアル!」

 

「ほ、本当ですか? ありがとうございます!」

 

 *

 

 あなたとユンユンは、中華店の向かいにあるスイーツ店に入った。女性に人気な、ポップで華やかなスイーツバイキングの店である。

 

 あなたはザッハトルテを、ユンユンはスフレチーズケーキを食べる。

 

 向かいに座るユンユンはガチガチに緊張していた。視線が忙しなく、あなたとコーヒーの間を行ったり来たりしている。犬耳は緊張のせいかピーンと立って、ピクピクと動いていた。

 

 琥珀色の瞳が、どこか不安げにあなたを見詰めている。あなたは優しく微笑みながら話し掛ける。

 

「敬語やめていいですか?」

 

「ひゃっ……い、いいアルよ。そっちの方が楽アル」

 

 あなたが話し掛けると、ユンユンはびくっと肩を震わせた。

 

「ありがとう。じゃあ、改めて自己紹介しよっか。僕は○○。駆け出しの冒険者だよ」

 

「ゆ、ユンユンアル。向かいの中華店で店長やってるアル」

 

「て、店長……!? びっくりした。若いのに凄いね」

 

「ううん、獣人はヒューマンよりちょっと長命アル。だから人間から見ると見た目が若く見えるだけだと思うアルよ」

 

 ユンユンがコーヒーを啜る。猫舌なのか、すぐに口を離してふーふーしている。

 

「こっちの方こそびっくりアルよ。男性なのに冒険者やってるアルか?」

 

「まあ、強いスキルを持ってるから、自然と冒険者になったって感じかな」

 

「君くらいカッコいい男の人なら、もっと他に職業選べそうな感じするアル」

 

「ホストとか?」

 

「そうアルね。君になら貢ぐ女の人いっぱいいそうアル。こんな風にプライベートでお食事するのだって、本当ならお金取れるレベルアル」

 

「い、いやいやそれは嘘でしょ」

 

「本当アル。黒髪でしかもイケメンの男の人なんて滅多にお目にかかれないアル」

 

 黒髪というのは、こちらの世界では極めて珍しかった。また、黒髪というのは、気品、慎み深さ、穢れなき純潔といったイメージと結びつく。

 前世で言えば、黒髪ロングの清楚な女の子が好まれるのと似た感じである。

 

 ユンユンは忙しなくコーヒーに口をつけたりカップを置いたりしていた。声も上擦っていて、態度もぎこちない。

 

「ユンユン、緊張してる?」

 

「あ、当たり前アル! 男の人に逆ナンなんてされたのなんて、初めてだから……!」

 

「そうなの? こんなに可愛いのに?」

 

「んなっ……⁉」

 

 ユンユンが目を見開く。頬がリンゴのように赤くなって、琥珀色の瞳がぐらぐらと揺れる。

 

「あ、危なかったアル……ちょっと真に受けそうだったアル……」

 

「お世辞じゃないよ? ユンユンみたいな可愛い女の子とお茶できるなんて、僕の方こそお金払いたいくらいだよ。すごい幸せ」

 

「な、な、なっ……⁉ これ夢アルか⁉ なにかのイタズラとかドッキリアルか⁉」

 

 ユンユンはうろたえている。

 しかし立場を逆にしてみれば当然だった。突然美少女から『カッコいいです。お友達になりたいです』と言われてお茶に誘われ、その後も容姿をべた褒めされ続ける。驚くのも無理はなかった。

 

「本当だよ?」

 

「ほ、褒めてもコーヒー代とケーキ代くらいしか出ないアルよ?」

 

「じゃあ奢ってくれてるじゃん!」

 

 あなたとユンユンは笑い合った。ユンユンの緊張もほぐれてきたようだった。

 

「ユンユンって彼氏いる?」

 

「残念ながらいないアル。○○は?」

 

「いないよ」

 

「それもびっくりアル。○○みたいな美少年がフリーとか奇跡アルね」

 

「はは……フリーじゃなかった時間一秒もないんだけどね……」

 

 あなたは虚ろな目で呟いた。

 365日年中無休フルタイムでフリーである。もはやラッパーよりフリースタイルだった。ある意味誰よりもHIPHOPを体現している。

 

「ま、マジアルか? 信じられないアル」

 

「職場に出会いがなくてね*1

 

「あ、それは分かるアル。飲食店だと全然職場恋愛とかないアル。お客さんナンパする訳にもいかないし、唯一の男性店員は彼女持ちアル……一生闇見てるアル……カップルが来店する度心が虚無になるアル……」

 

 ユンユンも虚ろな瞳で呟き始めた。あなたは自分を見ているようで、胸を痛めた。

 

「独り身、辛いよね……! 一人でご飯食べてる時隣にカップルとかいるの超憎いから分かる!」

 

「そうアルよ! あ~んって食べさせ合いっこしてるカップル見た時は、デザートにハバネロとデスソースと激辛唐辛子入れてやろうかと思ったアル!」

 

 あなたとユンユンは思わぬ形で独り身談義に花を咲かせた。お互いの悲しみを教え合ったせいか、あなたはユンユンとの心の距離が少しだけ近付いたような気がした。

 

「そのザッハトルテ美味しそうアルね。ユンユンも持ってくるアル」

 

「あ、待って」

 

 あなたはフォークでザッハトルテを一口分掬い、ユンユンに差し出した。

 

「はい、あ~ん」

 

「えっ」

 

 ユンユンがフリーズする。信じられない目で、あなたとフォークを見詰めている。犬耳がピーン! となって、尻尾が期待でブンブン揺れている。

 

「い、いいアルか?」

 

「うん。僕、拉麵と餃子食べたばっかりで、全部食べ切れないから、半分こしよう? はい、あ~ん」

 

「あ、あ~ん……アル……」

 

 ユンユンはおそるおそる、あなたのフォークを口に含み、ザッハトルテを食べた。顔がゆでダコのように真っ赤っかで、感情がオーバーフローを起こしたのか若干涙目だった。

 

「し、幸せアル……! でもこんなことしてたらスイーツにハバネロとデスソースと激辛唐辛子入れられそうアル……!」

 

「その調味料スイーツバイキングの厨房に用意してあることなくない?????」

 

 あなたとユンユンは仲良くザッハトルテを半分こして食べさせ合った。

 周りの女性客が憎しみを込めた眼差しであなたとユンユンを見ていた。その視線を向けられる側になるのが新鮮で、あなたは変な気分だった。ユンユンはずっと鼻が高そうに胸を張っていた。

 

 そして、気付けば30分が過ぎようとしていた。

 

「そろそろ30分だけど、時間大丈夫?」

 

「う……そう、アルね……」

 

 あなたとユンユンは立ち上がり、会計を済ませる。ユンユンは本当にあなたの分の代金も払ってくれた。

 

 そして、店の外に出る。

 

 ユンユンは人懐っこい笑みを浮かべて、あなたの目を見つめる。

 

「楽しかったアル。カッコいい黒髪男子に逆ナンされたって友達全員に自慢するアル!」

 

「そこまで誇ってもらえることしてないよ⁉」

 

「いや、一族郎党全員に自慢するアル!」

 

「一族郎党って言葉、滅ぼす時以外に初めて聞いた!」

 

 そんなこんなで、楽しい時間も本当に終わり――。

 

「本当に、本当に、幸せな時間だったアル。ありがとうアル、○○。いい夢見れたアル。よければ、またうちの店に来てほしいアル」

 

「ユンユン……」

 

 ユンユンは儚げな笑みを浮かべた。

 あ~んをしていた時はあんなにキラキラしていた琥珀色の瞳が、今は悲しそうに曇っている。犬耳はペタンと垂れていて、寂しさが如実に表れていた。

 

「じゃあ、またね。○○」

 

 ユンユンは振り向き、彼女の店へと歩いていく。

 

 あなたのお財布事情的に、ユンユンの店に足繁く通うことはできない。

 あなたがユンユンと会える機会など、ほとんどない。彼女がこれでお別れという態度だったとしても、それを受け入れるしかない。

 

 ――しかしこの時、あなたの頭の中の諸葛孔明は、お財布事情とユンユンとの交流という両方の問題の打開策を閃いた。

 

「待って! ユンユン!」

 

 あなたはユンユンの腕を掴んだ。ユンユンが驚き、振り向く。

 

 そして――。

 

「ユンユン、お願いがあるんだ」

 

 *

 

 翌日。

 

 あなたはユンユンの中華店に来ていた。そしてバックヤードで、あなたとユンユンは向かい合っている。

 

「では、面接を始めるアル!」

 

 あなたは、アルバイトとしてこの中華店で働けないかと申し込んだのだった。

 

「○○です。平日は冒険者業があるのですが、休日だけでも働かせていただきたく応募しました」

 

「バイト先にこの店を選んだ理由は?」

 

「ユンユン店長が可愛いからです」

 

「採用!!!!!!!!!!!」

 

 こうして、あなたの第二の働き口は10秒で決まった。

 

「じゃあ、この制服を着て働いてもらうアル」

 

 ユンユンは赤いチャイナ服を取り出した。そのデザインを見たあなたは、表情を凍らせる。

 

「えっ……ま、マジ?」

 

「マジアル。じゃあユンユンは廊下出てるから、着替えちゃってほしいアル」

 

 ユンユンがバックヤードを出る。あなたは何とも言えない顔で制服に着替えた。

 

 バックヤードに置いてある鏡で自分の姿を確認する。

 

 赤いチャイナドレスだが、胸元が大きくハート形に開いている。腰から深いスリットが入っており、側面から見るとギリギリ鼠径部までチラリズムするデザインである。

 

 ――紛うことなき、処女を殺す服だった。

 

「き、着替え終わったよ……」

 

 ユンユンを呼ぶ。あなたは流石に恥ずかしくて、手と腕で胸元を隠していた。

 今のあなたを前世の価値観で表すならば、露出の多い服を着せられて羞恥に身悶える美少女だった。

 

 入ってきたユンユンは、あなたを頭頂から爪先まで舐め回すように、血走った目でじっくり見詰める。ハァハァと荒い呼吸をし、鼻血を堪えるように鼻を抑えた。

 

「えっっっろ……風紀が乱れるアル……」

 

「じゃあそんなデザイン採用しないで!!!!!!」

 

 *

 

 それから一週間後。あなたは慣れないながらもホールでの接客を担当していた。

 

「お疲れさま、ユンユン」

 

「お疲れさまアル、○○」

 

 営業時間が終わり、あなたとユンユンはバックヤードで休憩する。厨房の担当や他のスタッフはもう先に上がっていた。

 あなたとユンユンはテーブルを挟んでソファに座る。

 

「仕事はどうアルか?」

 

「少しずつ慣れてきたよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「凄く……女性からの視線を感じる。料理を置くために前屈みになった時とか、胸元ガン見される」

 

「あ、あはは……仕方ないアルね……」

 

 あなたはハート形に開いた胸元を腕で隠した。

 

「あと、勤務中に、ユンユンの視線も感じる」

 

「ぶふうっ!?」

 

 ユンユンが咳き込んだ。おろおろと目が泳ぎ、耳がしょんぼりと垂れている。

 

 とはいえ、それもやむを得なかった。あなたの世界で例えるなら、女を知らない童貞の前で、ひらひらっ♡ と股元まで深いスリットの入った服で生足をチラつかせ、胸元を男好きのする形に開いておっぱいを露わにした女の子が、ずっと同じ空間にいるのである。ついつい視線が行ってしまうのも無理はなかった。

 

「ちょっ……えっと……その、ごめんなさいアル。正直見ちゃってるときはアルある……」

 

「あ、別にいいんだよ。ユンユンになら見られても嫌じゃないし」

 

「……っ!? ど、どどどどどういう意味アルか!?」

 

「そのまま意味だよ?」

 

 ユンユンの喉からゴクリと音が鳴る。

 

「今ガン見してもいいアルか……?」

 

「ちょっと恥ずかしいけど、どうぞ……?」

 

 あなたが胸元から腕を外して、ハート形に開かれた胸板を露わにする。

 ユンユンは前のめりになり、あなたの胸にじぃいいいいいっと火傷しそうな程の熱視線を注ぐ。頬は上気し、鼻息も荒くなっている。耳がピンと伸び切って、尻尾がバタバタと暴れていた。

 

「ありがとう……ありがとうアル……ふふっ……これでお金取られないって奇跡アルね」

 

「どういたしまして」

 

「お礼にちょっとお給料色付けておくアル」

 

「なんかいかがわしいことしてお金貰ってるみたいで嫌なんだけど!?」

 

「でも、そうでもしないと申し訳ないアル」

 

 ユンユンは真面目な顔で小首を傾げた。

 

「あ、なら僕もユンユンにお願いしていい?」

 

「何アルか?」

 

 あなたは立ち上がり、ユンユンの隣に座った。二人分の重みを受けてソファが沈む。

 あなたは膝を閉じて座り、ぽんぽんと太ももを叩いた。

 

「へっ?」

 

 あなたは腕を広げて『おいで』のポーズをする。

 

「膝枕するから、寝てもらっていい?」

 

「え、え、え……⁉ なんでアルか!?」

 

「耳、触ってみたくて」

 

 あなたは獣人の耳に興味を引かれていた。髪と犬耳の境はどういう風になっているのか。どういう風に繋がっているのか。純粋に疑問だった。

 

「わ、分かったアル……」

 

 ユンユンがあなたの太ももを枕にして寝転ぶ。あなたの真下、直ぐ手元に女の子の顔がある。女の子が体重を預けてくれるという状況が幸せだった。

 

 ユンユンがあなたの太ももにモゾモゾと頬ずりしている。

 

「し、幸せアル……」

 

「男の膝枕なんて硬くて不快なだけじゃない?」

 

「な、何言ってるアルか! この硬さが良いのアル!」

 

「あ、こういう時でもそうなんだ」

 

 前世では男が女の子のおっぱいやお尻の柔らかさに興奮するように、こちらの世界では女の子が男の胸や尻の硬さに興奮するのだった。

 

「じゃあ、えっと、行くよ?」

 

 あなたがユンユンの髪に触れる。まずは頭頂から。紅の髪がさらさらと指の間を流れる。

 

 そして恐る恐る犬耳に触れる。ぴくん! と耳が反応した。

 犬耳の毛はふさふさでモフモフだった。髪と比べると短いながらも毛の密度が高く、撫で上げると掌に心地よい感触だった。

 

「っ……あっ……んっ……♡」

 

 あなたは犬耳を指で撫で続ける。

 

「あっ……じゅ、獣人のみみはっ……びんかん、ある……っ!」

 

「あ、そうなんだね」

 

 あなたは指の腹で犬耳を撫で、掌でふさふさを楽しむ。そして、ユンユンの耳の浅いところに指を突っ込んだ。

 

「ふにゃあっ!?」

 

 ユンユンがひと際大きな声を上げる。

 耳の内側にもふさふさの毛が生えており、それをかき混ぜるように指で撫でる。

 

「っ……⁉ んっ……♡ んんっ……! んぅっ……♡」

 

 ぐりぐりと責めるように耳の中をかき混ぜていると、ユンユンが悩まし気な声をあげる。ぴくぴくと体も跳ねて、尻尾もぱたぱたと揺れている。

 

 気持ちよさそうな様子のユンユンを見て、もっと幸せにしてあげたいという気持ちがあなたに芽生える。

 思いついたのは、前世で何度かお世話になったASMR動画。彼女が出来たらやってほしいことTOP10に入る、耳元での囁きである。

 

「可愛いよ、ユンユン」

 

「んにゃっ……⁉」

 

「可愛い。好き。好き。大好き。ずっと一緒にいたい。大好きだよ」

 

「んあっ……♡ はあっ……♡ はあっ……♡ もう、こんなのっ……あっ……♡ だめになる、あるぅ……♡」

 

 これまで何人の男性が、画面越しのASMR音声で快楽を叩き込まれ、意識を持っていかれただろうか。その蠱惑の快楽を直にぶつけられ、ユンユンは完全に身も心も骨抜きにされていた。

 

「ゆんゆんも……○○のこと、だいすきっ、あるぅ……♡」

 

 ユンユンの目はとろんとしていて、口も半開きになっている。体がくたっと脱力して、あなたに体重を預けている状態だった。

 

 あなたは好奇心に駆られ、ユンユンの尻尾を掴んだ。

 

「ふみゃっっっ!?」

 

 あなたは片手でユンユンの耳を撫でながら、もう片方の手でもふもふの尻尾を撫で回す。

 

「んぅっ……! んんっ……! ○○…………♡ すきっ……♡ だいすきあるっ……♡」

 

 ユンユンが嬌声に近い声をあげる。既に身も心もとろけきって、あなたへの好意を隠そうともせずに喘いでいる。

 

 そして、あなたはユンユンへとどめを刺す。

 

 ユンユンの敏感な耳に唇を近づけ、優しく吐息を吹き入れた。ユンユンの体がびくん! と跳ねて、幸せそうな表情のまま彼女は意識を手放した。

 

 *

 

「うっ……うん……?」

 

 ユンユンは微睡みから目覚めた。体全身が心地よい倦怠感に包まれていた。

 

「すっごい良い夢を見てたような……」

 

「おはよう、ユンユン」

 

 ユンユンはピシっと石化したように固まった。あなたの膝の上で、ユンユンはぱちくりと瞬きをする。

 

「わ、わああああああああああああっ!?」

 

 ユンユンは飛び起きた。あなたから離れ、ソファの端まで逃げて、目を見開いてあなたを見ている。

 

「夢じゃなかったアルか……?」

 

「うん、現実だよ」

 

「あ、あはは……幸せだったアル……。ありがとうアル、○○」

 

「こちらこそありがとう。僕も楽しかったよ」

 

 ユンユンはまだ夢の中にいるように恍惚としていて、上気した顔だった。

 

「じゃあ、お疲れさま」

 

 あなたは制服から着替え、帰宅する。明日からはまた平日が始まる。ユンユンに会える次の休日が待ち遠しかった。

 

 *

 

 また五日経って、次のシフト日がやってくる。ただ、今日はユンユンが急用で休みだった。

 

 あなたはテンションがガン下がりしながらも、真面目に働いた。

 

 閉店時間まであと30分。また新しく客が入ってくる。

 

「いらっしゃいま…………え゛っ」

 

 ナミネが店にやってきた。

 

 ナミネはあなたの格好を上から下まで眺める。

 

「似合わなっ」

 

「い、言わないで……」

 

 あなたの着ているチャイナドレスは、胸元がハート形に開いていて、脚がチラ見えする深いスリットが入っている。あなたやナミネの価値観で見れば、男がこんな衣装を着ているのはかなり不格好だった。

 

「休日忙しそうにしてると思ったら、こんなとこで働いてたんだ」

 

「わざわざ店まで来るとか……」

 

「ぐ、偶然に決まってるでしょ! ○○がここで働いてるなんて知らなかったし! なんで私が○○のプライベートなんか気にするのよ!」

 

 くるみ色の瞳がきっとあなたを睨む。拳を振り上げ、頬を朱に染めながら、強めの語気で否定するナミネ。

 

「まあ、どっちでもいいよ。おひとり様ですか?」

 

 ナミネを席まで案内する。注文を聞いて、料理を運ぶ。

 

 あまり客入りもない時間帯。あなたは手持無沙汰にカウンターのところからナミネを見ていた。

 

「……」

 

 あなたは厨房の担当に頼んで、デザートの杏仁豆腐を出してもらった。そして、ナミネのテーブルへと運ぶ。

 

「どうぞ」

 

「え? 頼んでないけど?」

 

「その……たくさんクエスト手伝ってもらったし、ナミネに教えてもらったおかげでちょっと魔法も使えるようになったから……お礼、みたいな。だから、その……いつもありがとう」

 

 ナミネは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。くるみ色の瞳が大きく見開かれて、じっとあなたを見詰める。

 

「……そ、それだけ」

 

 あなたはすぐに背を向けてカウンターに戻ろうとする。しかし、ナミネがあなたを呼び止める。

 

「待って」

 

「……なに?」

 

「シフト、何時まで?」

 

「あと15分くらいで上がりだよ」

 

「そう、じゃあ待ってる」

 

「なんで」

 

「帰り、途中まで方向同じだし。一緒に帰らない?」

 

「珍しいね。いいよ」

 

 そして、まもなく閉店時間となる。あなたはバックヤードで服を着替え、外に出た。

 もうすっかり夜も更けている。曇天のせいで、星は見えない。少し肌寒かった。

 

 ナミネは、星もない夜空を見上げて待っていた。

 

「おまたせ」

 

「うん」

 

 あなたとナミネは並んで歩き出す。

 

「平日にクエスト行って休日もバイトって大変じゃない?」

 

「大変だけど、お金の都合もあるから今は仕方ないんじゃないかな。ランク上がるまでは、低級のクエストしか受けられないし」

 

「……お金、貸したげよっか?」

 

「死んでも嫌」

 

「なんで⁉」

 

「法外な利息を請求されそうなので」

 

「私のことなんだと思ってるの⁉ しないから! 貸した分だけ返せばいいから!」

 

「冗談だよ」

 

 あなたは微笑むと、ナミネはすっと怒りを鎮めた。

 

「本当はナミネに借金ある状態だと一生マウント取られそうだからだよ」

 

「死んでも嫌なのは冗談じゃないの⁉」

 

 再びナミネが怒りだす。

 

「でも、実際そこまで切羽詰まってる訳じゃないから、借りないよ」

 

「そう……。でも、本当にしんどくなったら考えといてね」

 

「うん、考えとく。ありがとう」

 

 ナミネが寝泊まりする宿に辿り着く。白亜の壁に淡い水色のドームが乗っている、瀟洒な建物だった。

 

「それじゃ、また――」

 

 その時、突然にわか雨が降り始めた。

 あなたは宿に入る。雨が止むまでロビーで待とうと、あなたはソファに腰掛ける。

 

「雨止んだら勝手に出てくから、もう部屋行っていいよ」

 

「……」

 

 しかし、ナミネはそこから動かない。もじもじとして、視線を下に向けている。

 

「ナミネ?」

 

「ここで待ってると不審がられるでしょ。……だから、その……」

 

 ナミネは頬を桜色に染めながら、あなたの目を見る。

 

「部屋、上がってく……?」

 

 *

 

「お、お邪魔します……」

 

 あなたは恐る恐るナミネの部屋に上がった。衝撃的なことに、ワンフロアまるまる貸し切りだった。Sランク冒険者の経済的余裕が窺い知れた。

 

 しかし、問題はそんなところではなく――。

 

(なんか……変に緊張する……)

 

 女の子の家に上がる。というイベントであることを意識してしまい、あなたの心臓はバクバクと爆音を鳴らし始めた。

 

 もちろんナミネは幼なじみなので、前世で家まで遊びに行ったことはある。しかし、それも小学生までの話。中学以降は一度としてなかった。

 

 あのまま生きていても、きっと生涯訪れなかった、女の子の家にお邪魔するというイベント。中学高校のクラスメイト達の中でも、特に彼女持ちのリア充にしか許されなかった奇跡の栄誉。

 

(落ち着こう……。相手はナミネなんだ。口も悪いし、自分本位だし、すぐ暴力に訴えるし、女の子との出会いを潰してくる。しかも貧乳。意識することなんてない筈なんだ!)

 

 あなたはナミネに促され、リビングのソファに腰掛けた。隣にナミネが座る。

 あなたは肩肘が張って、マネキンのように硬くなっていた。

 

「なに緊張してんの?」

 

「し、しししししっ、してないし!」

 

「顔、赤いけど?」

 

「う、うるさい……!」

 

 意識してはいけないと思う程、心臓は鼓動を速め、体温が上がっていく。

 

 ナミネはそんなあなたを見て、目を細め、嘲るような笑みを浮かべた。

 

「童貞」

 

「君が邪魔しなかったらとっくに卒業できてたよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 あなたはキレた。必ずこの邪知暴虐の貧乳を除かねばならぬと決意した。

 

「ふっ……どうせ今も私のことやらしい目で見てるんでしょ? 家に入れてもらえてワンチャン期待してるんでしょ?」

 

「してない。それは断じてない」

 

 それは本当に考えていなかった。ナミネは一人で盛り上がって、あなたから身を守るように自分の体を抱きしめて、あなたを半眼で見ている。

 

「どうだか。今だって、あの時みたいに胸揉めないかなって考えてるんでしょ」

 

「まだ言うのそれ?」

 

「だって前科あるし」

 

「だからあれは事故だって……」

 

 ナミネは頑なに、あなたを痴漢野郎と訴えるような眼差しを向ける。

 その時、あなたは閃いた。

 

「あ、僕が君の胸に触れたがってないことを証明する良い説明思いついた。ナミネ、手貸して?」

 

「うん? 手?」

 

 ナミネの手を取る。そして、その手をあなたの胸に押し付ける。そのまま何度かぺちぺちと叩かせる。

 そして、あなたはそのまま質問する。

 

「興奮した?」

 

「男の胸で興奮する訳ないでしょ」

 

「それと同じです」

 

「死ね!」

 

 あなたが握っていたナミネの手が拳を作り、そのまま心臓部を殴りつけた。

 

「ぐっ……! いい加減認めるんだ! 君の胸に、男性の性的興奮を誘起させるような魅力はない!」

 

「言い方あるでしょ!」

 

「スポーツマンシップに溢れた胸囲! 空気抵抗のない洗練されたバスト!! 機能美を追求したスタイリッシュなボディ!!!」

 

「言い方だけ直してホントに許されると思ってんの⁉ マジでいっぺんしばく!!!!!!!!!!!!!」

 

 この後きっちりしばかれたあなたは、雨が止むと同時に這う這うの体で逃げ出したのだった。

 

 *

 

 それから一週間後。あなたの働く中華店は、過去にない程の大盛況だった。

 そして、その理由は――。

 

「きゃー! かっこいい~!」

 

「うっわ! すっご! マジでイケメン! てかえっろ……!」

 

「あの服で接客は無理でしょ……」

 

 ――Hなチャイナドレスを着た黒髪イケメン男子がいるという噂が広まったためだった。

 

 あなた目当てのお客さんがやってくる。若いエルフの女性だった。

 

「すみません。この後空いてます? よければお茶しませんか?」

 

「ごめんなさい。今日は一日シフト入ってるんです……」

 

 更にあなた目当てのお客さんがやってくる。若い竜人の女性だった。

 

「君カッコいいね。名前教えてくれない? てか一緒に遊び行かない?」

 

「すみません。営業時間中なので……」

 

 更にまたまたあなた目当てのお客さんがやってくる。若い鬼族の女性だった。

 

「でゅふふ……胸えっろ……もっと前屈みになってくれよ……」

 

 あなたは頬が引き攣った。ちゃんと可愛い見た目の鬼娘だったが、鼻息を荒くし、目に妖しい光を宿しながら迫られると、鳥肌が立った。

 

「なあ、兄ちゃん」

 

「はひっ! な、なんですか?」

 

 鬼娘があなたの手を掴みながら、ぐいっと顔を近づける。

 

「ウチ、もう何年も前からこの店来てる常連なんだよ」

 

「そ、そうですね……。何度かお見掛けしました」

 

「ちょっとくらいサービスしてくれよ。もうすぐ店閉まるだろ? 閉店時間まで待ってるから街に遊び行こうぜ?」

 

「えっ、えっと……」

 

「何してるアルか!」

 

 鬼娘の脳天にチョップが叩き込まれる。怒りを露わにしたユンユンが隣に立っていた。

 

「うちの可愛い従業員に手を出さないでもらうアル! あんまりしつこいと出禁にするアルよ!」

 

「くうッ……! ずるいぞ店長! スタッフにこんなエロい服着せて! どうせ裏ではあんなことやこんなこともしてるんだろ! 羨ましいぞ!」

 

「し、してないアル! ほら、食べたならさっさと帰るアル!」

 

 ユンユンは毅然とした態度で鬼娘を追い払った。

 まもなく閉店時間となり、あなたとユンユンはバックヤードに下がる。

 

「お疲れさまアル!」

 

「お疲れさま、ユンユン。さっきは助けてくれてありがとう」

 

「どういたしましてアル。店長としてはあれくらい当然アル」

 

「すっごいカッコ良かったよ。やっぱりユンユンも女の人なんだなあって思っちゃった」

 

「そ、そうアルか……?」

 

 ユンユンは照れ臭そうにもじもじとする。

 前世で言えばナンパから助けた知り合いの女の子に『カッコ良かったよ。やっぱり○○も男の人なんだって思った』と褒められるのと同じ。異性から、強さを認められ、頼りにされることは、こちらの世界の女性にとって望外の喜びである。

 

 あなたはソファに座るユンユンの背後に回る。

 

「うん? どうしたアルか?」

 

「お礼、させてほしいな」

 

 あなたはユンユンの肩に手を置き、彼女の肩を揉み始める。

 

「あっ……き、気持ちいいアル……」

 

 凝っている肩を揉みほぐす。五指をフルに動かして、肩の肉と筋肉を揉み上げる。

 

「んっ……ふっ……はあっ……♡」

 

 時折、ユンユンが悩まし気な声を上げる。

 

 あなたはユンユンの犬耳に唇を寄せて囁く。

 

「気持ちいい?」

 

「んひゃっ……! き、気持ちいい……アル……!」

 

 犬耳がピーンと立っている。ユンユンの顔が上気して、熱に浮かされたようにぼーっとしている。吐息が荒くなり、身体が落ち着きなく揺れ始める。

 

 あなたは更に近づき、胸板をユンユンの後頭部にくっつけた。

 

「んっ……⁉」

 

 ユンユンはビクッと大きく震えたが、それを指摘しない。黙ってあなたの硬い胸板の感触を堪能している。

 

 あなたは更に犬耳に唇を寄せて囁く。

 

「さっきのユンユン、カッコよかったよ。好き。好き。好き。大好き」

 

「んっ……んぅっ……♡ んぅ……⁉」

 

 ユンユンが海老反りになって、あなたの胸板に後頭部を押し付ける。前世で言えば、おっぱいを枕にするような贅沢を、今のユンユンはこれでもかと味わい、鼻息を荒くしていた。

 

「うっ……♡ ふうっ……♡ はあッ……! はあッ……!」

 

 ユンユンの状態は異常だった。

 瞳孔が開き切っている。顔は発熱しているかのように赤くなり、呼吸がひどく荒い。

 ユンユンは自分の体を抑えるようにぎゅっと抱きしめる。おっぱいが腕に持ち上げられ、むぎゅうっ♡ と柔らかそうな谷間が強調される。あなたはその魔性の谷間に視線を吸い寄せられ、目を離せなくなった。

 

「ど、どうしたの?」

 

「獣人の発情期にはっ……波があるアルっ……! 今は特に高まってる時期だから……そんな風に男に触られると……抑えられなくなるアルっ……!」

 

 荒い吐息と共に、そう説明するユンユン。確かにユンユンの顔は熱っぽく、苦し気に呼吸をしている。今までにないくらいの興奮状態だった。

 

「○○、ごめんアルっ……!」

 

 ユンユンはひどく申し訳なさそうな顔で、あなたに謝罪した。しかし、あなたはかぶりを振る。

 

「こっちこそ、ごめんね。知らず知らずの内に、ユンユンに苦しい思いさせちゃってたんだね」

 

「そ、それは……」

 

「でも、もうガマンしなくていいよ?」

 

「えっ?」

 

 ユンユンが驚きの表情を浮かべる。どこか期待するような瞳で、あなたをじっと見上げている。

 

「今まで苦しい思いさせちゃった分の責任、取るよ。連れ込み宿、行こう?」

 

 *

 

 連れ込み宿――男女が入室し、共に休憩()するための宿である。

 

 あなたの提案に、ユンユンは一も二もなく頷いた。

 

 そして、あなたとユンユンは連れ込み宿の前にやってきた。ぱっと見そうとは分からない外装だが、入り口の看板には休憩時間と料金が記されている。

 

 あなたの心臓は過去イチの爆音を鳴らしていた。

 

 ついに。

 

 ついにこの時が来たのだ。

 

 長かった雌伏の時は終わる。ようやく、初めて、一人前の男になれるのだ。

 

 あなたとユンユンは部屋の鍵を受け取り、与えられた部屋に入った。

 広い部屋だった。二人で寝ても尚余りあるキングサイズのベッド。洋灯から放たれる淡い橙色の光が、部屋全体を仄かに照らしている。どことなく柑橘系の甘い匂いが香り、どこか意識がぼかされていく。

 

「お風呂……先にどうぞアル」

 

「あ、うん……」

 

 あなたは先に体を清めた。初の本番を前に、丁寧に身体を洗った。

 

 あなたと入れ違いになって、ユンユンがお風呂に入る。

 あなたはバスローブ一枚のままの姿で、キングサイズベッドに腰掛ける。

 

 ユンユンの湯浴みを待つ間、ひたすら意識が昂っていた。凄いスピードで唾液が分泌され、何度も唾を飲んだ。耳に心臓でも付いているのかという程心音がうるさい。

 

 そして、遂にユンユンがお風呂から出てくる。

 いつもお団子にしている髪がストレートに下ろされていた。

 ユンユンの肢体は厚いバスローブに包まれている。それでも、胸の部分が豊かに膨らんでいた。

 

 そして、尻尾が千切れそうな程ぶんぶんと暴れている。それが面白くて、あなたは少し笑いそうになった。おかげで、ほんの少し余裕が生まれた。

 

 ユンユンが間近に近づいてくる。バスローブ一枚脱げば裸の女の子が、目の前にいる。

 

 あなたは少しだけ余裕を取り戻したので、上目遣いで、ユンユンの情欲を煽るようなセリフを言ってみることにした。

 

「や、優しくしてね?」

 

 瞬間、あなたはユンユンに両肩を掴まれ、勢いよく押し倒された。

 

「えっ……?」

 

 何が起きたのか分からなった。ただ、真上に、目の前に、ユンユンがいて、あなたに覆い被さっている。

 

「ユンユン、知ってるアルよ……。○○、ユンユンのことからかって遊んでたアル。女が喜びそうなあざといこと言ったり、過度なボディタッチしてきたり……さっきもわざと胸当てて、どきまぎするユンユンの姿見て愉しんでたアル……」

 

「あっ……」

 

 バレていた。全部バレていた。

 

 ユンユンの瞳が妖しく光る。情欲に塗れた琥珀色の瞳がギンギンに見開かれ、あなたを見下ろす。

 吐息は熱を帯び、あなたの顔に生暖かくて甘い息がかかる。血が上って真っ赤になった顔が、ユンユンの興奮を如実に表していた。

 

「優しくしてね? じゃないアル……! 今更そんなカマトトぶったって許さないアル……! ユンユンのこと散々弄んで愉しんでた罰アル……! メチャクチャにしてあげるから、覚悟するアル……!」

 

 ユンユンの目は本気だった。理性の鎖を引き千切り、ユンユンの中の獣欲が暴れ出していた。今となってはもう、彼女を止めることなどできない。

 ユンユンは獲物を前に涎を垂らす狼で、あなたは間もなく食べられるか弱い子羊だった。

 

 ユンユンがあなたのバスローブをバサッと開く。あなたは生まれたままの姿になった。

 

(ああ……お母さん、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん、お世話になった皆さん……。今日、僕はついに、大人の階段を上ります……!)

 

 そして、あなたは二つの肉まんを拝むため、ユンユンのバスローブへと手を伸ばし――。

 

 ドゴシャアッ! と部屋の扉が蹴破られた。

 

「「え……?」」

 

 そこには、絶望が立っていた。

 

 ナミネが、この世で最も重い罪を犯した大罪人を前にする閻魔のような、凄絶な怒気を宿した表情で入ってくる。

 

 ユンユンは獣人の本能で、今目の前にいる相手が、本物の殺意を放っていることを感じ取った。そして最悪なことに――。

 

「『奏者(アマデウス)』……⁉ なんで、こんなとこにいるアルか……⁉」

 

「ナミネ……なんでここに……⁉」

 

「店の近くまで寄ったから、○○のことまた送ってあげようと思って待ってたんだよ? そうしたら、女の人と仲睦まじい様子で出て来て、しかも○○の宿とは違う方向に向かって……。気になって尾けてみたら、連れ込み宿に入っていくのを見た私の気持ち……想像できる?」

 

 ナミネは首をかしげ、栗色の髪を揺らした。にっこりと、殺意を秘めた笑みを浮かべ、あなたを見下ろす。

 

 ユンユンがあなたからバッと離れ、三歩退く。

 

「ちょっ……『奏者(アマデウス)』の男だなんて聞いてないアルよ!」

 

「いや、待ってユンユン違うんだよ。僕はナミネの男って訳じゃ――」

 

「ねえ、そこの獣人さん?」

 

「ひぃい!?」

 

 ナミネが羅刹のような表情で、ユンユンに詰め寄る。ユンユンは涙目になりながら、流れるように土下座した。

 

「し、知らなかったのアル! 『奏者(アマデウス)』様の男だなんて知らなかったのアル! もう金輪際二度と○○には関わらないって約束するから、どうか命だけはお助けをアルぅうううううううう!」

 

「ふうん……いいよ、なら許してあげる。行っていいよ」

 

「やったああああああああああああああ! 助かったアル! 神様ありがとうアル! ビバ生存! ビバ命!! ビバ人生!!!」

 

「いやちょっと⁉ ユンユン! 待って! 行かないで!」

 

 鬼娘から助けてくれた時の毅然としたユンユンはどこへ行ったのか。ユンユンはあっさりとあなたを見捨て、我が身可愛さで逃げ出した。

 

 そして残されたのは、哀れ裸に剥かれた無力なあなたと、鬼娘よりも恐ろしい本物の鬼神だった。

 

「冒険者との出会いだけ潰してれば大丈夫だって思ってたけど……まさかアルバイト先で女の子に手を出すなんて思ってなかったよ。盲点だったなあ……」

 

 ナミネはにっこりと、獰悪で兇悪で最悪の笑みを浮かべる。

 

「優しくしてね? だっけ? うん、じゃあ、殺さないくらいで済ませてあげるよ。感謝してね?」

 

「ひっ……! いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

*1
ナミネのせい




 『あなた』

 性別:男性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Eランク)
 備考:おっぱいが大好き


 『ナミネ』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Sランク)――【奏者】
 備考:


 『モモ』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Cランク)
 備考:巨乳


 『マリン』

 性別:女性
 種族:ウンディーネ
 職業:冒険者(Fランク)
 備考:たわわ


 『リーゼロッテ』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Sランク)――【剣聖】
 備考:ぼいんぼいん


 『ユンユン』

 性別:女性
 種族:獣人
 職業:中華店店長
 備考:たゆんたゆん
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