せっかく貞操観念逆転世界へ来たのに貞操観念逆転していない幼なじみに女の子との出会いを潰されている   作:耳野笑

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 前回のあらすじ!

 あなたは、ロリ巨乳白黒エルフ姉妹・イヴ&ショコラと出会った!

 そして、二人から「パーティーを組みたい」と誘われる! しかもイヴとショコラに告白された! しかし、ガチ幼女に手を出す訳にもいかないので断った!

 翌日、あなたは久々にナミネとクエストへ行った! その帰り、フラワーガーデンでナミネにキスされた! 更に夜、ナミネに告白された!!!

 あなたは恋心を自覚する! 翌朝、ナミネへ告白しようとデートに誘った!
 しかし、道中でイヴとショコラに拉致され、ラブホテルへと連れ込まれる! 抵抗しようとするあなた! しかし、魅了と催淫とおっぱいの前に、あっさり完堕ち! 裏切りハ○撮りセックスを受け入れようとする!

 その瞬間、ナミネが乱入! 爆炎魔法であなたとイヴとショコラは粉砕された!!!


 果たしてあなたは、おっぱいが大きくて可愛い女の子とイチャラブするというビッグドリームを叶えることが出来るのか⁉


第9話 メンヘラ地雷ファッション思春期真っ盛り中二病ガール・ノア

 あなたは森を歩く。今日は、あなた一人でクエストに来ていた。

 

 七体の魔獣が現れる。クエストの討伐対象――長い尾の付いた大蛇たちである。尾に付いている毒針さえ気を付ければ、Eランク冒険者でも倒せる魔獣である。

 

「神宮寺流――茨逆木(いばらのさかき)

 

 踊るような七連撃。七体のヘビたちが斬り裂かれ、動かなくなる。あなたはひと息つき、剣を収めた瞬間――。

 

「――ッ⁉」

 

 足首に、鋭い痛みが走った。足元を見る。ヘビが最後の余力を振り絞り、あなたに毒針を突き刺したまま絶命していた。

 

「しまった……!」

 

 あなたは直ぐに毒針を抜く。

 が、視界が揺らぐ。――ぐにゃり、ぐにゃり。景色が渦を巻き、かき混ぜられていく。意識が混濁し、思考に靄が掛かる。

 

 そして、あなたは倒れた。

 

 *

 

「う、うぅん……」

 

 あなたは目を覚ました。

 

「ここは……」

 

 あなたはほら穴の中にいた。入口のあたりが、微かな月光で照らされている。

 目の前に焚き火がある。あなたはコケ植物と葉っぱで作られた簡易ベッドに寝かされていたようだった。

 

「あ……起きた?」

 

 あなたは背後の声に驚き、バッと振り向く。

 

 ――息が止まる。美しい少女がいた。

 

 まろやかなクリームケーキのような乳白色の長髪。前髪は姫カット、腰元まで伸びた長い髪に、右側の一束だけ結ったサイドテール。

 瞳は昼の雲のような銀灰色である。小顔に小鼻、切れ長の吊り目で、左眼には黒い眼帯を付けている。

 

 ともすれば、地雷メンヘラに見える髪型。しかし、柔らかな乳白色と、繻子がごときなめらかさが、幽玄の貴さを醸し出す。

 

 白磁の肌。まつ毛と眉毛すら乳白色という、人間離れした幻想的な美しさ。

 焚き火の仄かな橙色に照らされ、少女はこの世ならざる儚さを纏っていた。

 

 ――そして、何より、黒いローブの上からでもはっきり分かる、豊かに膨らんだ双丘。

 

「余はノアだよ。汝は?」

 

「僕は……あれ? えっ、嘘……思い出せない……!? 僕、だれ……!?」

 

 あなたは狼狽える。何も思い出せなかった。自分のことも、どう生きてきたのかも、どうして此処にいるのかも、何も思い出せない。

 

「え、ええ? 記憶喪失? あの魔獣の毒食らっちゃったみたいだね」

 

「う、嘘……⁉ 僕の記憶、戻るの⁉」

 

「うん。短くて一週間、長くても一ヶ月で戻るよ」

 

 あなたはホッとした。とりあえず、この記憶喪失は一時的なものらしかった。

 

 あなたは居住まいを正し、ノアと相対する。

 

「ノア、助けてくれてありがとう。君がいなかったら、僕は死んでたかもしれなかった」

 

 魔獣の巣食う森の中で昏睡、というのは危険極まりない。熊や魔獣に食われていてもおかしくなかった。

 

「当然のことをしたまでだよ」

 

「ううん! ノアは命の恩人だよ! 今の僕にできることなんてないと思うけど……ノアにお礼がしたいな。今でも今後でもいいから、なんでも言うこと聞くよ」

 

「えっ……な、なんでも……?」

 

 ノアの喉がゴクリと鳴る。目から余裕の色がなくなり、真に受けていいのか迷うような顔をしている。

 ノアの脳内には一瞬の間に、あなたとあんなことやこんなことをする桃色の光景が浮かんでいた。

 

 黒髪美少年からの『なんでも言うこと聞く』という言葉には、強烈な魔力があった。しかし、貞操観念逆転世界であることを忘れているあなたに、その自覚はない。

 

「……ま、まあ、うん。覚えておくよ、うん。……ほんとに何でもいいの?」

 

「えっ? う、うん」

 

「よ、よし! 言質取ったからね……!」

 

 ノアはニヤニヤとした笑みを隠すように、左手で軽く顔を覆う。

 

 あなたはノアをまじまじと見つめる。

 眼帯。やけに大きい態度。背伸びした喋り方。あなたの記憶にも残っている、元の世界の言葉で表すなら――。

 

「ノアって、中二病?」

 

「んなッ!?!?!?!?!?!? ちゅ、中二病じゃないもん!」

 

「その眼帯なんで付けてるの?」

 

「こ、これは魔眼を封じるためのものなの!」

 

「片目だけ使って過ごしてると、片方だけ視力落ちちゃうよ?」

 

「そ、それくらい知ってるから! 1日ごとに交互に付けるようにしてるもん!」

 

「じゃあ2日に1回しか魔眼封印できてなくない?」

 

「~~~~~~~~~~~~~~ッ⁉」

 

 ノアは痛い所を突かれた――という表情になる。ぱくぱくと口を開いているが、何も反論は出てこない。

 右目がうるうると潤み、顔を赤くし、気まずそうに俯いてしまう。

 

「面白いね、ノアって」

 

「うるさいうるさいうるさい! こっちみるな! ふけいもの!」

 

 ノアは目深にフードを被り、そっぽを向いてしまった。

 

 *

 

「じゃあ、状況を確認しよっか」

 

 ノアは落ち着きを取り戻し、話し始める。

 

「その格好と剣を見るに、汝は冒険者なんだと思う。他に、汝の素性が分かりそうなものがないか、調べてみてよ」

 

 あなたは言われるがまま、懐を探る。少しの金、クエストの依頼書、そして大きめの宝石が出てきた。

 

「それ、通信宝石じゃん」

 

「通信宝石?」

 

「あっ、そっか。それは通信宝石。遠くにいる相手と、顔を見て話せる魔法器具だよ。魔力を通してみて」

 

 あなたは通信宝石に魔力を通す。すると、宝石に女の子の顔が映った。瞬間、あなたに衝撃が走る。

 

(な、なにこの美少女ッ!?!?!?!?!?!?!?)

 

 栗色の髪、くるみ色の瞳、小動物のような雰囲気のある女の子――今のあなたは覚えていないが、幼なじみのナミネである。

 

「○○から掛けてくるの、珍しいね。どうしたの?」

 

 あなたはどう説明したものかと、言葉に窮する。すると、隣からノアが顔を出す。

 

「余から説明するよ。実は――「誰よ、その女」

 

 ノアの言葉を遮り、ナミネが殺気を露わにする。画面越しだというのに、背中が冷たくなるような恐ろしさだった。

 

「ひぇっ……なにこの女こわ……」

 

 ノアが震えながら、小さくつぶやいた。あなたも同じ感想だった。

 

「あ、改めて説明すると――」

 

 ノアは事情を説明した。ナミネも初めは驚いていたが、状況を理解すると、冷静になってくれた。

 

 改めてナミネは自己紹介をして、あなたの名前、ホームタウン、あなたと幼なじみであることも教えてくれた。

 ただし、ナミネは貞操観念逆転の話をしなかった。あなたが魔法や異世界のことを覚えていたため、そのことまで忘れているとは思わなかったためである。

 

「とりあえず、町の中央広場で待ち合わせね。話はそれから」

 

「うん。○○は余が責任をもって送り届けるよ、さよなら」

 

 通話が切れる。ノアは顎に手を当て、何か考えていた。

 

「お~い、ノア~」

 

 あなたはノアに近付き、顔を覗き込む。

 

「うひゃあっ!? うわっ、顔良ッ! まつ毛長ッ!」

 

 ノアはびっくりして一歩下がる。心なしか、頬が朱く染まっていた。

 

「えっと、な、なに?」

 

「さっき、僕のこと町まで送っていくって言ってたけど、いいの?」

 

「う、うん。任せてよ」

 

「ありがとう。優しいね、ノア」

 

「~~~っ!」

 

 あなたの微笑みが、ノアの心を揺さぶった。

 元の世界で、可愛い女の子から『優しいね』と言われて嬉しくない男はいない。それは、紳士だと思われていると同時に、好感度が上がったことの分かりやすい証左だからである。

 

「ま、まあ別に? それ程でもないけど?」

 

「僕を助けてくれたのが、ノアで良かったよ。ありがとう」

 

「そ、そう……?」

 

 ノアはクールな表情を取り繕おうとしつつも、堪えきれずにニヤニヤしていた。

 

 *

 

 翌朝、あなたとノアは森の中を歩いていく。

 

 豊かに茂った葉っぱのおかげで、太陽の光が遮られていた。澄んだ空気が漂っている。風が吹くと涼しくて心地よい。

 

「ところで、ノアってなんでこんな森の中にいたの?」

 

「実は、余もクエストに来てたの」

 

「えっ⁉ ノアも冒険者なの!? 女の子なのに!?」

 

「え、そうだけど……。女が冒険者なのって普通じゃない? むしろ男性なのに冒険者やってる方が珍しいよ?」

 

「え……?」

 

 あなたは違和感を覚える。ちょうどその時、開けた草原に出た。

 

「あ、少し休憩しよっか」

 

 あなたとノアは立ち止まり、木陰に腰を下ろした。あなたとノアは、道中で狩った魔猪を解体し、魔法で火を出して肉を焼いた。

 

 あなたとノアは骨付きの猪肉を食べる。その間、あなたはノアの横顔を眺めていた。

 

 クリームケーキのような乳白色の長髪。姫カットに、右側の一束だけ結ったサイドテール。憂いを帯びた銀灰色の瞳。

 小顔に小鼻、切れ長の吊り目。氷雪のように白い肌。まつ毛と眉毛に至るまで乳白色で、神秘的な美しさだった。

 

 人好きのする可憐さでありながら、人を拒むような冷気を纏う威容。

 どこか超然とした、不思議な雰囲気の女の子だった。

 

 ノアはジロジロ見られていることに気付き、食事の手を止めてあなたを見る。

 

「な、なに? 余の顔に何か付いてる?」

 

「ううん、見惚れてただけ。可愛いね、ノア」

 

「ふぇっ!?」

 

 ノアの顔が朱く染まる。肌が白いせいで、血が上るとはっきり赤くなる。恥ずかしさからか、俯いてしまう。もぐもぐと下を見ながら肉を食べるノア。

 

「…………」

 

「あれ? ノア? なんで急に静かになっちゃったの?」

 

「だ、だって! ○○が変なこと言うから……!」

 

「ノアくらい可愛い女の子だったら、可愛いなんて言われ慣れてるでしょ?」

 

「~~~~ッ! も、もういいから! それ以上言ったら怒るから!」

 

 ノアは一気に肉を頬張り、さっさと立ち上がって歩き出してしまう。

 

「あ、待ってよ! ノア~!」

 

 *

 

 あなたとノアは順調に進む。昼頃には町まで辿りつけるペースだった。

 

 ――が、あなたとノアは、小川に行き当たった。流れは緩やかである。しかし、水深が膝元まであるので、どうしても濡れてしまいそうだった。

 

「あれ、使ってみよっか」

 

 ノアが下流の方を指差す。倒木が倒れて向こう岸まで掛かっていた。幹が剥がれ、水にさらされて腐っている部分もある。

 

「一応、余が先に渡るね」

 

 ノアが倒木の上を歩いていく。中盤まで歩くと、ミシィッ!と音がした。――が、なんとかノアは対岸まで渡ってみせた。

 

「大丈夫! 余が渡れるなら汝も渡れるよ!」

 

 向こう岸でノアが手を振る。あなたは恐る恐る倒木に足を踏み出した。

 途中まで順調に進む。が、残り七歩くらいのところで、バキッ!という音が鳴った。

 

「やばッ……!」

 

 あなたは焦り、急いで駆け出す。――が、それが災いし、幹の弱いところを踏み抜いてしまう。

 

「うわあッ⁉」

 

「○○!?」

 

 結果、あなたは川に転落した。幸い、流れも緩やかなので、あなたはすぐに河原へと上がる。

 

「あ、あはは……びしょ濡れになっちゃった」

 

「だ、大丈夫!? 怪我してない!?」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

 あなたは木の枝と葉っぱを集めて、炎魔法で火を付ける。そして、おもむろに服を脱ぎ始める。

 

「ッ!?!?!?!?!? なにしてるの○○!?」

 

「え? 服を乾かそうと思って」

 

「な、なら先に言ってよ! 余あっち向いてるから!」

 

 ノアは名残惜しそうな顔をしながらも、後ろを向く。

 

(そんなに気を遣わなくていいのに。いや、男の半裸なんて見たくないだけかな?)

 

 あなたは服とズボンを脱ぎ、黒のインナーとパンツだけの格好になる。焚き火の前に座り、ズボンを手に持って乾かす。服はどうすればいいかな、と悩んでいると――。

 

「○○、女の目気にしなさすぎだよ! 警戒心の薄い箱入り息子なの!? それとも女慣れしてる尻軽男なの!?」

 

「え? 箱入り息子? 尻軽男?」

 

 あなたは聞き馴染みのない言葉に、首を傾げる。――そして、閃いた。

 

(ここ……まさか貞操観念逆転世界!?)

 

 今までノアの言動に感じてきた違和感が、全て繋がる。しかし、早合点はよくない。一応、確かめてみなければ――。

 

「ノア、お願いがあるんだけど」

 

「な、なに?」

 

「服持っててくれないかな? 火の前にかざして乾かしてほしいんだ」

 

「いやっ、えっ。えっ……? それだと、そっち向くことになっちゃうんだけど……?」

 

「いいよ?」

 

「い、いいの!? ホントにそっち見るからね!」

 

 ノアの首が少しずつ回る。身体をゆっくり回転させ、あなたの方を向く。――ノアが、一瞬あなたの胸を見た。しかし直ぐに視線を逸らし、あなたの服を掴んで火にかざす。

 

「ごめんね。僕がドジなせいで」

 

「ううん、余が無理させちゃったせいだから」

 

 話しながら、ノアの視線はずっとあちこち泳いでいた。景色を見たり、あなたの目を見たり、――チラチラと、あなたの胸を見たりしている。

 

 あなたのインナーは濡れて、ぴったりと肌に張り付いている。濡れたインナーが黒みを増し、あなたの引き締まった筋肉の形が浮き出ていた。

 

「ごくり……。こ、これ、余の理性が試されてる……?」

 

 ノアの視線が、熱を帯びてくる。ハァハァと呼気が荒くなり、白磁の肌が紅潮する。

 あなたは、更に攻めてみる。

 

「ねえ、ノア」

 

「なに?」

 

「胸見すぎ」

 

「ぶふぅッ!?!?!?!?!?!?!?」

 

 ノアが勢いよく噴き出す。

 

「い、いやちがっ! たまたま視線の先に○○がいただけっていうか……! とにかく違うもん!」

 

 顔を真っ赤にして、怒りながら否定するノア。

 

 彼女の反応に、あなたは確信を持つ。――この世界は、貞操観念逆転世界である。

 

 男性の胸というだけで、値千金の価値がある。しかもあなたはクエストで鍛えているので、筋肉が膨らみ、硬い胸板になっている。元の世界で例えるなら、Fカップ相当の巨乳である。

 この世界の女性であるノアにとって、あなたの胸を目の前にして見ないようにしろというのは余りにも酷だった。

 

 あなたは喜色満面で、ノアをからかうモードに入る。

 

「まったくもう、ノアも女の子だね」

 

「~~~~ッ! だって仕方ないじゃん! そんな下品な胸してる方が悪いんじゃん!」

 

「謂れのない中傷!」

 

「○○のせいだもん! 絶対誘ってるでしょこのオスガキ!」

 

「ガキなんて呼ばれるほど年齢差ないでしょ!」

 

 性的な話題で未熟さをからかわれたという屈辱からか、ノアが顔を真っ赤にしながら逆上する。

 

「どうなってるの○○は! はち切れんばかりの()ったい胸板! 情欲をそそるおっきい喉仏! 色っぽく晒されてる鎖骨! 時々見えちゃう腹筋とキレイなおへそ! ムチっとした筋肉質な太もも! もう身体にえっちじゃないとこないじゃん!」

 

「胸見てたどころの騒ぎじゃなかった!!!!!」

 

 ノアを舐めていた。思ってたより色んなところに性を見出されていた。

 

 それにしても、ノアの初心っぷりに驚かされる。これだけの美少女なら、本来はとっくにイケメン彼氏と初体験を済ませ、同棲・婚約まで決めて人生上がっていることだろう。

 にも拘わらず、ノアの性的好奇心は、性経験皆無な思春期真っ盛りの男子のようだった。

 

 あなたは、童貞少年を弄ぶえっちなお姉さんになった気分でノアに尋ねる。

 

「もしかして、ノアって処女?」

 

「しょっ……!? しょしょしょしょしょしょしょ処女じゃないもん! 経験人数なんて2桁超えてから数えてないくらいだし!」

 

 リンゴのように顔を赤くしたまま、必死で否定するノア。銀灰色の瞳はぐらぐらと揺れて、面白いように動揺が現れている。

 

「へ~。正直に言えば、胸触らせてあげるよ?」

 

「~~~~~~~ッ!!!!!!! ま、マジ?」

 

「うん、マジ。服越しがいい? それとも直で触りたい?」

 

 あなたは黒インナーの襟に人差し指を掛け、ぐいっと下に引っ張る。ノアの目がギンッッッ!と見開かれる。

 たった数センチ、見える肌面積が増えただけ。ただそれだけで、銀灰色の瞳から、熱を帯びた視線があなたの胸元に注ぐ。

 

「しょ…………処女、です。ほ、ほら! 認めたから! だから、胸触らせてっ!」

 

「うん、どうぞ」

 

「あ、前からだと緊張するから後ろから触っていい? あと下着着たままで、インナーの中に手突っ込んでまさぐっていい?」

 

 屈辱的な処女カミングアウトのせいで何かが吹っ切れてしまったのか、ノアは思いっきり欲望をさらけ出してきた。

 

 ノアがあなたの背後に回る。瞬間、ガバッとあなたに抱き着く。ふわり、と甘い香りが漂う。サイドテールが揺れて、あなたの肩にかかった。

 

 ノアがあなたの脇の下に腕を差し込む。両手をあなたのインナーの中に侵入させ、あなたの胸板に触れる。

 硬い胸板を堪能するように五指をいっぱいに開き、あなたの胸を揉み、上下に摩り、むぎゅうっ♡と押し付けてくる。

 

 目が血走って、鼻息も荒い。ノアは必死であなたの胸板を撫で回している。

 前世界の男が女性の柔らかいおっぱいに惹かれるように、この世界の女は男性の硬い胸板に惹かれる。

 

「ふうッ~! ふうッ~! 硬った……! えっろ……!」

 

 ノアは背後からあなたにがっしりと抱き着き、うなじに顔を埋めながら匂いを嗅ぎ、あなたの両胸をまさぐる。

 ――完全に、盛りの付いた思春期童貞男子だった。

 

「すぅ~ッはぁ~ッ! ○○ッ……!」

 

「ちょっ……」

 

「お願いッ! ヤらせてッ! ○○ッ!」

 

 ノアは止まらない。若さを持て余した性欲が暴走していた。しかし――。

 

「だーめ♡ はい、おしまい」

 

 あなたはノアの手首を掴んだ。そして、名残惜しそうにあなたの胸へ密着したままの手を引き剥がす。

 

「くっ……むぅ……そっか……でも、幸せだったかも……」

 

 ノアの瞳には、性欲を発散し損ねた切なさと、男性の胸を思いっきりまさぐった達成感が交じり合っていた。

 

(……また今度触らせてあげようかな)

 

 しかし、童貞(処女)いじりは、頻度が高すぎてもいけない。あまり何度も繰り返すと、本当に性交渉を求められて、押し切られかねない。

 

 一線を越えさせてしまうと、もう初心な反応は見れない。それどころか、「自分はもう童貞(処女)ではないのだ」という優越感と自意識で、余裕が出てきてしまうだろう。

 

 ――貞操観念逆転世界。そして、メンヘラ地雷風中二病美少女。

 こんな楽しい状況を、すぐに終わらせてしまっては勿体ない。

 

 ここからが、本番だ。

 

 *

 

 あなたとノアは、あなたのホームタウンへと辿り着いた。あなたにとっては見慣れたはずの町だが、やはり記憶にはなかった。

 

 ナミネと待ち合わせしている中央広場まで移動する。

 

「――え」

 

 あなたは、その場にいた女の子を見て固まる。通信宝石越しにも一度顔は見たが、やはり直に会うと衝撃だった。

 

 ボブカットの、穏やかな栗色の髪。くるみ色の大きな瞳。顔立ちは整っているが、不思議と印象に残らない平凡さがある。

 背丈は、あなたより一回り小さく、抱きしめればちょうどすっぽり収まりそうだった。

 

 率直に言って――。

 

(す、すごい美少女じゃんッ!?!?!?!?!?)

 

 記憶を失う前のあなたは、ナミネと顔を合わせる度「童貞」だの「貧乳」だのと罵り合ってきた。

 幼なじみが故に、一緒にいた時間の長さがフィルターを作ってしまっていた。しかし、その色眼鏡を失った新鮮な目で見た彼女は、ただただ可憐な女の子だった。

 

「改めて、私はナミネ。○○の幼なじみよ」

 

「うん。よ、よろしくね」

 

 あなたは緊張しながら手を出す。ナミネは不思議そうな顔をしながらも握手に応じてくれた。

 

 あなたはナミネに見惚れたまま、本音をこぼす。

 

「なんか夢みたい……。僕にこんな可愛い幼なじみがいるなんて」

 

「~~~~ッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!? な、なに言って……!」

 

 ナミネの頬が桜色に染まる。くるみ色の瞳が、真円近くまでまん丸に見開かれる。

 

「あ、ごめんね。君みたいな可愛い女の子にカレシいない訳ないか。気、悪くしちゃったかな。ごめんね」

 

「い、いや……いないけど……」

 

 ナミネはうろたえる。そんな中、不機嫌そうに頬を膨らませた隻眼ジト目の女の子が一名。

 

「むぅ~…………余、噛ませ犬になるために○○を送ってきたわけじゃないんだけど」

 

「えっと、ご、ごめんね?」

 

「ご、ごめんなさい。○○を無事に送ってきてくれてありがとう、ノア」

 

 ノアは険しい眼差しのまま、あなたとナミネを見ている。

 

「ねえ、ナミネ。恋人いないってことは、○○と付き合ってる訳じゃないの?」

 

「えっ⁉ え、と……付き合ってる訳じゃない、けど……」

 

「そ、そうなんだ! じゃあよかった!」

 

 ノアは弾けるような笑顔を浮かべた。銀灰色の瞳がキラキラと輝き出す。

 

「○○! 余と付き合って!!!!!!」

 

「えっ!?!?!?!?!?!?!?」

 

「は???????????????」

 

 あまりの衝撃に、あなたとナミネは固まった。

 

「え、ぼ、僕とノアが!?」

 

「い、いいでしょ? だってナミネと付き合ってないんだよね?」

 

 グイグイ来るノア。しかしナミネは――。

 

「よくないから! 私だって、ほとんど○○と付き合ってたみたいなものだから!」

 

「えっ? そ、そうなの?」

 

「そうなの! 最近キスだってしたから!」

 

「「えっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」」

 

 あなたは再び衝撃を受け、固まった。

 

(え、え、えっ? 『可愛い幼なじみがいる』ってだけでも幸せなのに、キスしたことあるの!?!?!? 僕とこの娘が!? 記憶を失う前の僕どんだけ勝ち組だったの!?!?!?)

 

「付き合うまで秒読みだったの! そういうことだから! ○○は私のものなの!」

 

 あなたはナミネに左腕を取られ、ぎゅっと引き寄せられる。ナミネの顔は紅潮して、耳まで真っ赤だった。

 

「でも付き合ってはないじゃん! なら恋人じゃないもん! そもそもキスしたっていうのがホントのことか分かんないもん!」

 

「ホントだから! ○○! 今すぐ思い出しなさいよ!」

 

「いや無理だよ!?」

 

 ぎゅっとくっつくナミネとあなたを見て、ノアがどんどん頬を膨らませる。

 

「余だって○○のこと好きだもん! 幼なじみだからって渡さないもん!」

 

 ノアがあなたの右腕にぎゅっと抱き着く。――瞬間、あなたの脳髄に幸福が溢れる。

 

 右ひじを包み込むような、柔らかい感触。むにゅうっ♡と潰れる、柔らかさと重量感を備えたジャンボマシュマロ。

 それは、女の子の身体にだけ実る、天上の果実。

 

 あなたの心が揺さぶられる。この世界でただ一人大和男児の魂を持つあなたにとって、ノアの豊満なおっぱいは余りにも魅力的だった。

 

 もともと、命の恩人であるノアに対する好感度は高い。それに加えて、今も右腕に感じる幸せな柔らかさ。*1

 

 あなたの無垢な心は、抗いがたい程ノアを求めていた。

 

「このッ! 離れなさいよ! 長年一緒に過ごしてきた年月に勝てるわけないでしょ!」

 

「今その年月消えてるじゃん! 思い出何も残ってないなら立場同じだもん! むしろ余の方が○○と仲いいもん!」

 

 あなたを挟み、二人の美少女が争う。およそ現実感のない、幸福な状況。

 

 ――人生って、素晴らしい。

 

 *

 

 言い争うノアとナミネをなだめて、あなたはギルドへとやってきた。

 

 あなたが受付で諸々の手続きを済ませている間、二人はクエスト掲示板を眺めていた。

 

 あなたは受付から戻る。

 

「○○、見てよこれ。不思議なクエストじゃない?」

 

 ノアが依頼書を差し出す。

 

 『蛇王』の調査依頼。――蛇王について、状態を調査して報告する。

 

 それを見て、ナミネもあなたも首を傾げる。

 

「変な依頼ね。討伐でも採集でも護衛でもなくて、調査って。しかも蛇王? っていうのもよく分からないし」

 

「行ってみる?」

 

「うん! 行ってみようよ! 調査だけなら危なくないし、もし危なくなっても余が○○のこと守ってあげるから! あ、ナミネは付いてこなくていいからね!」

 

「は? 行くわよ。むしろ私とコイツだけで行くからノアはどっか行ってなさいよ」

 

「やだ! ○○、余と二人で行こうよっ!」

 

「○○、私のこと選ぶに決まってるわよね? ね?」

 

 銀灰色の瞳と、くるみ色の瞳が、じっとあなたを見詰める。二人とも可憐な顔立ちなのに、凄まじい迫力だった。

 

 迷った末に、あなたが出した結論は――。

 

「さ、三人で行こう……?」

 

 ナミネの舌打ちとノアの溜め息が、同時に聞こえた。

 

 *

 

 あなたとノアは、『蛇王』について手掛かりを得るため、王都の国立図書館に来た。

 

 図書館は、巨大なドーム状の外観である。中に入ると、恐ろしく大きな書架が立ち並んでいる。

 蛇に関する魔獣の書物・記録だけで、書架二十台分が埋め尽くされていた。

 

「手分けして探そっか」

 

 あなたたちは手分けして『蛇王』の情報を探す。

 

 あなたの右隣で、ノアがページを繰る。それを真横から、じーっと見つめるあなた。

 

 乳白色の長髪。右側の一束だけ結われたサイドテール。銀灰色の瞳は、熱心に手許の書物へ視線を落としている。

 眼帯と姫カットのせいで地雷っぽい可憐さがありながら、冷ややかさを纏う雰囲気もある。

 

 ――ノアもまた、絶世の美少女だった。

 

「な、なに?」

 

 ノアが凝視されていることに気付き、顔を上げる。

 

「可愛いなって思って見てただけだよ」

 

「~~~ッ⁉ ○○、誰にでもそういうこと言うんだね……!」

 

「確かにお世辞で言う時もあるかもだけど、ノアには本気で言ってるよ」

 

「ふ、ふぅん……」

 

 ノアの頬が朱く染まる。しばらく無言のまま、ノアはページをめくる。

 

 あなたは、そーっと右手を彼女に近づけて、人差し指でわき腹をつつく。

 

「んひゃあっ!?」

 

 ノアが可愛らしい悲鳴を上げ、びっくりしながらあなたを見る。

 

「な、なに?」

 

「つっつきたかっただけ」

 

「どういうこと……!?」

 

「気にしないでいいよ」

 

 ノアは再び本を読み進める。あなたはずっとノアの方を向いたまま、わき腹をつんつんし続ける。

 

「ひゃっ……! もう……! なんで邪魔するの!」

 

 ノアは迷惑そうな素振りをしながらも、口元が緩んで嬉しそうにニヤニヤし、その声は弾んでいた。

 

「でも、喜んでるでしょ?」

 

「んなッ……!? よ、喜んでな……ないから!」

 

 図星を突かれたからか、ノアの顔が紅潮する。

 

「も、もう怒ったから! 余も○○の邪魔するからね!」

 

 ノアが左手であなたのわき腹をつんつんする。怒っているという表情を装いながらも、鼻の下が伸びていて、スケベな意図があるのが丸出しだった。

 

 あなたとノアは、お互いにつんつんとつつき合い、イチャイチャする。

 

 ノアは嬉しそうだった。異性とのスキンシップというのは、それだけで幸せな気持ちになれるものである。

 まして処女のノアにとって、男に触れても拒絶されずに受け入れられることは、幸福感と自己肯定感を満たされるものだった。

 

 ――その時、夢中でイチャついていたノアとあなたの指がガシッ!と掴まれた。

 そこには、般若の表情を浮かべて、あなたたちを睨むナミネの姿があった。

 

「イチャつくな。探せ」

 

「「は、はい……」」

 

 *

 

 その後、古びた帳簿の中に、『蛇王』と呼ばれる魔獣がいたことを示す記録が見つかった。

 以下がその内容である。

 

 一万年前、人と蛇のあわいに生まれたものがいた。

 

 それなるは、『半人半蛇』。上半身が人間の女で、下半身が蛇の怪物――ラミアであった。

 

 霊峰の頂で、ラミアは人と蛇に分かたれた。

 人は、魔導を極めた『賢者』として再誕した。

 蛇は、世界を滅ぼす『蛇王』として君臨した。

 

 賢者は、蛇王と対峙する。戦いの末、賢者は蛇王へと封印を掛けた。それは――石化の魔法。蛇王は物言わぬ石像と化し、賢者は――。

 

 そこで帳簿は破れていて、続きが読めなかった。

 

 ――と、いうことで。

 

「キャンプ行こう!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 ノアの宣言によって、あなたたち三人は実際にその山へ登ることになった。

 

 あなたたち一行は山道を進む。山の三割ほどまで来たという辺りで、日が沈み始める。あなたたちは足を止めて、テントの設営をした。

 

 やがて、完全に日が沈む。携帯食の夕食を済ませ、水魔法で汗を流し、まもなく寝る時間である。

 

 しかし、問題が一点。――布団が二枚しかなかった。未だEランク冒険者のあなたは、安い寝袋しか持っていなかったのである。

 

「じゃあ、二人は布団で寝てよ。僕は寝袋で寝るから」

 

「待って、○○」

 

 ナミネがあなたを止める。そして、あなたを招き入れるように、布団の端を持ち上げた。

 

「寝袋だと体冷えちゃうでしょ。は、入っていいわよ」

 

「えっ!?!?!?」

 

「はあッ!?!?!?!?!?!?」

 

 羞恥からか、ナミネの顔は朱く染まっていた。不安げに揺れる彼女の瞳と、震える手が、彼女の振り絞った勇気の大きさを表していた。

 

「だめっ! ○○!」 

 

 ノアが反対から、あなたの袖を掴む。

 

「○○、余と一緒に寝よっ!」

 

「えっ」

 

 ノアが必死な顔で、ぐいっと身を寄せる。

 うるうると潤む、銀灰色の瞳。サイドテールは解かれて、まろやかな乳白色の長髪が垂れている。天使のような可憐さと、女神のような美しさの調和した、奇跡の女の子がそこにいた。

 

 湯浴み後の、仄かに上気した肌。くらっとくる甘い香り。どこに触れても柔らかそうで、抱きしめ心地の良さそうな発育の身体。

 

 ――あなたの心が、ぐらぐらと揺らされる。

 

「余、体温高いからあったかいよ! あとナミネより柔らかいよ!」

 

「うるさい! 今は覚えてないかもだけど、○○は私のことが好きだったの! 他の女と寝たら浮気だから!」

 

「ぐ、ぐむむ…………」

 

 あなたは悩む。どちらも甲乙つけがたかった。というより、今日どちらかを選んだとして、明日以降の道中で気まずくなる気がする。

 

「えっと……布団くっつけてもらっていい? 僕が真ん中で寝るから」

 

 ノアとナミネは、ガッカリしたような、ホッとしたような、何とも言えない顔をした。

 

 あなたはナミネとノアに挟まれて寝る。

 辛うじてテントの輪郭が見えるくらいの夜闇。天井布に射し込む、月光の薄明かり。時おり吹く風に、ざわざわと揺れる木々の音。

 

 そして、人肌の熱と、ふたりの女の子の呼吸音。

 

 あなたは寝付けず、寝返りを打つ。ナミネの綺麗な寝顔が、間近にある。すぅすぅという寝息と、時おり交じる寝言――。

 

「○○……すき……だいすきだよ……」

 

「ッ⁉」

 

 あなたはドキッとして、反対に寝返りを打つ。目と鼻の先にある、ノアの美しい容貌。赤く紅潮し、妙に荒い呼気があなたに当たる。

 

「はあッはあッ……! すごいいい匂いするッ……!」

 

(ぜったい起きてるじゃん……)

 

 ノアはあなたの身体を堪能するように、身体を密着させてくる。抱きしめられ、足を絡めてくねくねと擦り合わせられる。

 それに伴い、あなたの鼻腔に入る甘やかな香り。豊かなおっぱいが彼女の両腕に潰され、むぎゅうっ♡と柔らかく圧迫される。

 

 ね、寝れない……。

 

 *

 

「○○、朝だよ。起きて」

 

 あなたを呼ぶ声がした。あなたは薄くまぶたを開ける。

 まだ覚醒していない頭で、体を起こそうと試みる。その時、左手がガスッと硬いものにぶつかった。

 

()った……」

 

「何が硬いって?」

 

 ――ドスの利いた声。あなたの左手首が万力のような力で握り締められた。

 一気に脳が覚醒する。そこにあった景色は――憤怒の表情を浮かべるナミネと、彼女の胸に触れているあなたの左手だった。

 

「何が、硬いって? 言ってみなさいよ」

 

「あっ、いやっ、そのっ違くて……」

 

「命が惜しいなら、次の言葉は慎重に選びなさい」

 

 ナミネは怒気を滲ませて、あなたを睨む。くるみ色の瞳にはめらめらと殺意が燃え上がり、今にもあなたの命を焼き尽くさんばかりだった。

 

 さながら、飢虎を前にした子鹿。命の危機に追いやられたあなたは、生存のためフルスピードで頭を回転させる。

 

(考えろ考えろ考えろ! あっ! そうだ! 貞操観念逆転世界だからちょっと身体差し出せば見逃してもらえるでしょ!)

 

 そして、あなたの出した回答は――。

 

「ナミネ! 僕の胸も触らせてあげるから許して!」

 

「ふざけんなこの変態!!!!!!!!!!」

 

 バシインッ!と派手な音を響かせ、あなたの頬に真っ赤な紅葉が刻まれた。

 

「あ、あれっ!? どうして!? 貞操観念逆転世界なのに!」

 

「は? あ、そう……そういうことね。ふふっ、残念だったわね、○○。私、○○と同じ世界からこの世界に転移してきたの。だから、私は貞操観念がそのままなのよ」

 

「えっ……!? そ、そうだったの!?」

 

 貞操観念が逆転していない。つまり、ナミネは男の裸に興味などなく、色仕掛けが通じる筈もない。

 

 あなたは赤面する。今のあなたは、普通の女の子相手に自分の胸を触らせようとした道化だった。

 

「と、というか、僕と君って前の世界から幼なじみだったの?」

 

「そうよ。転移した時期は一年ズレてるけどね。まあ、家族友人知人、一人もいない世界だから……私たちが本当に頼れるのはお互いだけよ」

 

 寂しさを灯す、くるみ色の瞳。この世界への薄っすらとした抵抗と、たったひとりの理解者へ向けた恋心。

 

 ナミネの想いがあなたにも伝播して、静かな感傷となって心を揺らす。

 

「ナミネ……」

 

「……今の○○に、私の感情の面倒見させるのは酷だったわね。記憶が戻った時にでも慰めてよ」

 

 ナミネは自嘲気味に微笑んで、テントの入口布を開ける。まばゆい朝日が射し込み、あなたは眩しくて目を細めた。

 

 ――あなたの脳裏に、掠れた景色が浮かび上がる。涙を流すナミネ。怒りに震えるナミネ。幸せそうに笑うナミネ。

 想い出の一つひとつは分からなくても、それらに伴う熱が、ナミネを特別な人なのだと示していた。

 

「待って」

 

「……!」

 

 あなたは、ナミネの手を握った。わずかに、彼女の手が強ばる。

 

 しかし、ナミネは何も言わず、あなたの手を握る。結ばれた手が、じんわりと熱を持っているような気がした。

 

「……上手く言えないけど、ナミネを見てると不思議な気分になるんだ。きっと……僕は、ナミネのことが……」

 

 ナミネの手が震えた。――その時。

 

「お~い! ○○~! ナミネ~! でっかい鹿狩って来たよ~! 朝ごはんにしよ、う、よ……」

 

 ノアがテントの前で立ち止まり、手を繋ぐあなたとナミネを見て固まる。にっににこだった表情が、一瞬で怒りに歪む。

 

「人が食料調達しに行ってる時に何イチャついてるの!!!!!!」

 

「うるさい! 今いいとこだったんだから邪魔しないでよ中二病!」

 

「またしれっと抜け駆けしようとして!! このまな板!!!」

 

「抜け駆けじゃなくて元から置き去りにしてるのよ! あとまな板じゃないから!」

 

 醜い口喧嘩から目を逸らすように、あなたは布団をかぶり、二度寝することにした。

 

 *

 

 ノアとナミネの口喧嘩が落ち着き、朝食も済ませた後。

 

「ちょっと水浴びしてくるね」

 

 あなたはテントを離れた。樹の陰に隠れてから、服を脱ぎ始める。すると、テントの方から二人の声が聞こえてくる。

 

「の、覗きに行っちゃおうかな」

 

「くだらない……」

 

「ナミネだって○○の裸見たいクセに」

 

「別に、男の身体なんて興味ないし……」

 

 この世界の人間であるノアにとって、男の裸は値千金である。しかし、貞操観念が逆転していないナミネにとっては一銭の価値もない。

 しかし、ノアがそんなことを知る由もない。

 

「あぁ……『男に興味ないですよ』みたいな態度取っちゃうやつね……うん、分かるよ」

 

「いや違うから! 確かに性欲ないのがカッコいいと思ってる人見たことあるけど! 私はそういうんじゃないから!」

 

「正直になればいいのに……」

 

「違うってば!!!!!!!!!!!!!!」

 

 *

 

 翌日。あなたたち一行は、山の中腹まで辿り着いた。

 

 夜になり、再びテントを立てる。夕食後、あなたとノアは水浴びから戻ってきたが、ナミネはまだ戻ってきていないようだった。

 

 あなたとノアは二人でテントに入る。テントの支柱には洋燈が提げられており、淡い橙色の光でテント内を満たしている。

 

 あなたは倒れ込むように布団へうつ伏せになる。

 

「足、疲れたなあ……」

 

「よかったらマッサージしてあげようか?」

 

「え、いいの? じゃあお願いするね」

 

 ノアがあなたの傍に座り、脚を揉み始める。強張った筋肉が揉みほぐされていく。

 

 ノアの手が、徐々に上へと移動する。脛からふくらはぎ、そして、尻のぎりぎりまで上がっていく。――ぐにぐに。ぐにぐに。確かにマッサージではあるし、気持ちいいが、妙に感触を楽しむような手つきだった。

 

 ノアは異様に静かで、緊張感を帯びていた。うつ伏せのあなたからは見えないが、ノアの呼吸の音が大きく聞こえる気がした。

 

「腰、揉むね」

 

 ノアがあなたの脚に座り、あなたの腰を揉み始める。背面と側面をまんべんなく揉み上げていき、そして、肩甲骨の辺りまで上っていく。

 

「……ッ!」

 

 ノアの手が、胸部の側面に触れる。しかも、ぐいぐいと捩じ込むように、胸と布団の間に侵入してくる。

 

「あの……ノア? そこは……ぴゃあっ!?」

 

 ノアがぴったりとあなたに身体を重ねてきた。――のしかかる体重。女の子の柔らかい身体。あなたは身動ぎするが、重みのせいで逃げ出せない。

 

 さらに、ノアはあなたのうなじに顔を埋めて、すんすんと匂いを嗅いでくる。

 

「すぅ~はぁ~ッ!」

 

「ちょ、ちょっと! ノア!」

 

 女好きのする硬質な肉体。女を惑わす色香と、湯浴み後の火照った身体。

 処女の理性を吹き飛ばすには、充分すぎるほど煽情的だった。

 

「○○っ、ちょっと仰向けになってっ」

 

「むりむりむり! ちょっと落ち着いてノア!」

 

 まもなく、ナミネも水浴びから戻ってくる頃だろう。こんな場面を見られたら、ビンタどころでは済まされない。

 

 しかし、抵抗むなしく、あなたの身体はノアにひっくり返される。

 あなたの腰にどっかり座るノア。――騎○位の体勢。熱を帯び、ギラギラと光る銀灰色の瞳。興奮状態の荒い呼気と、血が上って紅潮した顔。

 ――ノアは、完全にケダモノと化していた。

 

 あなたの寝間着が下から引っぱられ、上半身が露わになる。予期せぬ恥ずかしさに、あなたは赤面した。

 

 熱視線が、あなたの胸に注がれる。ノアは両手をがしッ!とあなたの両胸に押し付け、乱暴に揉みしだく。

 

「人が真面目にマッサージしようと思ってる時に何このえっちな胸は! ふざけてるでしょ!」

 

「意味わかんないだけど!!! ちょっ、んぁっ……♡!」

 

「こんな著しく公序良俗に反する身体、お仕置きしないとね!」

 

「やめッ……! ッ……♡! あッ……♡!」

 

 前回の『お預け』の憤りを晴らすかの如く、ノアは容赦なくあなたを攻め立てる。

 テントがギシギシと揺れ、あなたの嬌声が漏れる。それがますますノアの征服感を煽ってしまい、彼女の呼吸を昂らせていく。

 

「理解らせるッ……! このオスガキッ……!」

 

「だからガキなんて呼ばれる年齢差じゃないでしょ!」

 

 ノアの手があなたの乳首を抓んで捻り上げる。体内に電流が駆けるような、痛みにも似た快楽。あなたの上で、淫らにどぷんっ♡と揺れる双丘。

 ノアの執拗な攻めに、あなたの息子も反応してしまう。

 

「あっ」

 

 当然あなたの腰に座るノアには気付かれてしまう。ノアは柔らかいお尻で、ぐりぐりとあなたの下腹部を刺激する。

 

「ここ、随分と凝ってるね♡ ちゃんと揉みほぐして、体の中に溜まってる毒素を吐き出さなきゃね♡?」

 

「この変態!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 貞操観念逆転世界で、女性にマッサージなど頼むべきではなかった。そんなことを許したが最後、マッサージにかこつけて好き放題凌辱される結末しかないのだ。

 

 あなたの身体が美味しく頂かれかける、その時――。

 

「ただい、ま――」

 

 テントの入口が開けられる。

 

 ナミネが、その光景を見て固まる。服がはだけた勃○状態のあなたと、興奮状態であなたに重なるノア。どう見ても、これから行為に及ぼうとする姿勢でしかなかった。

 

 ナミネは無言のまま、魔法式を構築する。

 

破壊/戦乙女の黙示録より(ブリュンヒルデストラクション)

 

「ちょっなんで僕までぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」

 

 *

 

 山に登り始めてから、五日目の昼。

 

 あなたたち一行は思わぬ光景を目にする。

 

「えっ……!?」

 

 標高の八割のところ――山の中でも比較的平らなエリアに、村があった。

 

 村の中心まで歩くと、小さな広場があった。そこに何人かの人たちが集まっている。

 彼らの一人があなたたちに気付き、立ち上がる。

 

「おお……! 驚きました! この村に人が訪れるなど、何十年ぶりでしょうか……!」

 

 老爺が興奮した様子でそう言った。あなたたちと老爺は自己紹介をする。老爺は村長らしかった。あなたたちは、彼の家へ招かれた。

 

「どうして、こんなところに住んでいるのですか?」

 

 村長は苦い顔をして、語り始めた。

 

「御役目のためです。この霊峰の頂にいる、『蛇王』を封印し続けるという使命があるのです」

 

「「!」」

 

 思いがけぬ言葉に、あなたとナミネは驚く。蛇王――調査クエストの対象にして、一万年前に賢者が封印した怪物である。

 

「賢者の封印魔法を以てしても、蛇王を完全に封じることは叶わなかったのです。ひと月毎に石化魔法を掛け直さなければ、蛇王は復活してしまうのです」

 

「……!」

 

「一万年前から、我ら一族は蛇王を封印し続けて来ました。そうしなければ、蛇王が目覚め、世界を滅ぼしてしまうからです」

 

「そんな……一万年前から……? じゃあ、貴方も、生まれてからずっとこの村に……?」

 

「はい。一度もこの山の外へ出たことはありません。代々引き継いできた御役目のため、致し方ないことなのです」

 

 村長は目を伏せた。深いシワの刻まれた顔――その目には、まだ見たことのない景色への憧憬があった。

 

「最後に、一度でいいから海を見たいものです。……いえ、老い先短い老骨の願いなど叶わずともよいのですが、息子や孫、この先生まれる子孫たちにまで同じ一生を背負わせるのは……私としても心苦しい限りです」

 

 ――それが、村長の語った全てだった。

 

 *

 

 夜。

 

 あなたたちは村の端の方に、テントを立てさせてもらった。あなたは、「少し風を浴びてくるよ」といって、外へ出た。

 

 空に近いせいか、星がはっきりと見えた。澄んだ空気と静けさが満ちている。

 

 満天。神々しい宇宙色の夜空と、一等光り輝く星々。異郷の人間にとっては美しい光景。しかし、この地に縛り付けられた人たちからすれば――。

 

「海、見せてあげたいわね」

 

「っ……! びっくりしたぁ……」

 

 あなたは振り向く。いつの間にか、ナミネがそこにいた。そよ風に吹かれて、栗色の髪が揺れる。くるみ色の瞳は、強い意思を灯していた。

 

「この一族は、解放されるべきだと思うわ」

 

「僕も、そう思うよ」

 

 あなたがそう答えると、ナミネはにやっと笑った。

 

「蛇王、倒しちゃう?」

 

「ふふっ、そうだね。倒しちゃおっか」

 

 あなたも笑った。どこか、懐かしさを感じた。記憶を失っても、魂がナミネのことを覚えているような気がした。

 

 ボブカットの、栗色の髪。くるみ色の大きな瞳。小柄で、可憐で、整った容貌。満天の夜空の下で微笑むナミネは――。

 

「綺麗だね」

 

「そうね。いい景色だと思うわ」

 

「ナミネがだよ?」

 

「えっ……? んなっ……!? なっ、なにいきなり!?」

 

 ナミネの頬が朱く染まる。見開かれた瞳と、上ずった声が、動揺を示していた。

 

「言いたくなったんだ。綺麗だよ、ナミネ」

 

「ちょっ……!? ああもう! 記憶戻った時に気まずくなっても知らないわよ!」

 

 ナミネは赤面したままそっぽを向き、テントに戻っていく。あなたも少し笑いながら、彼女に続いた。

 

 *

 

 翌朝。

 

「というわけで、蛇王を討伐したいんだ。どうかな?」

 

 あなたとナミネは、ノアにそう告げた。

 

「うん、いいと思う。余もそう思ってた」

 

 ノアは快諾してくれた。しかし――。

 

「でも、村人たちには内緒で倒しに行った方が良いと思う。多分、反対されると思うから」

 

 相手は、『世界を滅ぼす』とまで語られる怪物である。外からやってきた人間が突然「貴方たちが一万年の間封印してきた蛇王を倒してあげますよ」と言っても、信用される筈もない。

 

 こうして、あなたたちは村人たちに秘密で、蛇王を討伐しに向かった。

 村を出てから半日ほど歩き続け、山頂に辿り着いた。

 

「これは……」

 

 大きく窪んだ火口。その中心にそびえるのは、全長十五メートルを超す蛇の石像だった。八つ頭の蛇が集い、中央で体が合流し、尾の方では一本の巨大な大蛇となっている。

 

 ――威容。石化していても、世界を滅ぼすに足る王者の覇気があった。

 

 しかし、ノアは臆すことなく石像の前に立つ。

 

「○○は強い衝撃を加えて、石化魔法を解除して。その瞬間に、ナミネは全力の魔法を撃ち込んでほしい」

 

「ノアはどうするの?」

 

「……考えがあるの。余を信じてほしい」

 

 あなたとナミネは頷く。

 

 あなたは石像の前に立った。そして、ナミネは魔法式を構築し始める。長い時間を掛けて魔力を凝縮させ、強大な魔方陣を描く。

 

「○○、お願い!」

 

 あなたは剣を構える。

 

「水瀬流――桜花一文字(おうかいちもんじ)!」

 

 放つは――白亜の城壁をも両断する一撃。石化した鱗がヒビ割れ、徐々に崩れていく。そして――。

 

「ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」

 

 耳障りな咆哮と共に、蛇王が覚醒した。

 毒々しい紫色の鱗。バチバチと電気を帯びた髭。万物を睥睨する、鋭い紅眼。

 

 ――同時に、ナミネが待機させていた魔法を放つ。

 

「三重奏――『血塗られた貴婦人の悲愴(エルジェベリザ・フォーク)』『万象無に帰す不日の月光(サイレンス・ムーンライト)』『天山脈打ち空焦がす紅蓮の熱情(アンブレスロード・ボルケイノ)』」

 

 三重の魔法波が、目覚めたての蛇王を飲み込んだ。爆炎に包まれ、黒煙が漂う。

 

「やった……?」

 

「ギィイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 ――天を衝く咆哮。煙が晴れる。そこには、八つ首のうち七つが燃え尽きた、瀕死の蛇王がいた。

 

 しかし、残りの一つ首はまだ繋がっている。殺意を宿す紅い瞳が、あなたとナミネを睨む。

 

 一撃で仕留め損ねた。これが、蛇王相手には致命的だった。

 蛇王が鎌首を持ち上げる。ぐわり、と大きく口を開くと、熱波が噴き出す。そして、肚の奥から大火炎を吐き出した。

 

 あなたに、噴火の如き爆炎が迫る。――その時。

 

原始魔法(ロストマジック)――人馬宮/蒼穹射抜く一矢(ケーシュ・サジタリウス)

 

 閃光が走る。あなたの前に身を晒し、爆炎を迎え撃っているのは――。

 

「の、ノア!?」

 

 ノアが長杖を持ち、爆炎を防いでいた。暴風が吹き荒れ、ノアのサイドテールが激しく揺れる。

 光と炎は相殺され、異常な熱波を残して立ち消えた。

 

「一万年、この時を待った」

 

 ノアは眼帯を外し、放り投げた。その左目が紅く輝き、太陽のごとき熱を宿す。

 ノアは、異様な雰囲気を纏っていた。肌が震える。ただ見ているだけで心臓が揺れるような、英雄の覇気。

 

「かつて我らはひとりだった。だが、余は汝と袂を分かち、人となる道を選んだ。それが、余の原罪だ。蛇王という災厄をこの世に生み、一万年もの間、人の世に不幸を残した」

 

 蛇王も様子が変わる。紅眼がひと際強く光り、仇敵を目にしたがごとく、怒りを剥き出しにする。

 

「幕引きの時だ。此度こそ共に消えるとしよう、我が半身よ」

 

 蛇王が再び、鎌首を持ち上げる。その口もとに、強大な魔力が凝集していく。手負いの蛇王が放つ、最大にして最後の一撃だった。

 一方、ノアも杖を掲げ、蛇王の全長にすら匹敵する巨大な魔方陣を描く。

 

「ギィイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

原始魔法(ロストマジック)――人蛇宮/蛇遣いの猟笛(リストレクス・オフィウクス)

 

 ――閃光。光の奔流と、灼熱の炎が激突する。あまりの衝撃に、山がぐらぐらと揺れる。

 

 眩い光に、世界が白く染め上げられる。

 

 しばらく爆音が続き、やがて光は消えた。

 あなたは目を開ける。そこに、蛇王の痕跡はなかった。サイドテールのほどけた、オッドアイのノアだけが立っている。

 

 あなたとナミネはノアへ近づく。

 風に吹かれ、乳白色の髪が靡く。目を合わせているだけで、その威風に気圧される。

 この世ならざる神性を纏った、伝説の姿がそこにあった。

 

「えっと……ノア、なんだよね?」

 

「然り。そして、余は一万年前に、蛇王と袂を分かち、賢者とした生まれた人間である」

 

「ノアが、あの賢者……」

 

 一万年前の記録に残されていた伝説の賢者がすぐ傍にいた。予想だにしない事実に、あなたは驚いた。

 

「でも、どうして一万年後まで生きてるの?」

 

「ラミアは元々、不老の生命である。人と蛇に分かたれても、それは変わらない」

 

 ノアは鷹揚と答えた。そこに、残念系中二病ガールの面影はない。ただその迫力に圧倒されるだけだった。

 

「余は待ち続けた。蛇王を討つに能う強者――神から『権能(チート)』を授かる者が、異星より来る時を。○○、ナミネ、汝らのことだ」

 

「そう……記憶喪失の○○を拾ったのも偶然じゃないし、調査クエストの依頼を出したのもノア自身ってことね」

 

「なんでそんな回りくどいことしたの? 普通に『蛇王を倒したいから協力して』って言えばよかったのに」

 

 ノアが顔をしかめる。

 

「笑わないと約束できるか?」

 

 あなたとナミネは頷く。すると、ノアはつぶやくような小声で言った。

 

「………………ったの」

 

「え?」

 

「だから! 一万歳なのに処女ってバレたくなかったの!」

 

「「……」」

 

 あなたとナミネは無言になる。急にさっきまでの覇気が消えた。ノアは涙目になり、あなたにびしっと指を突き付け、批難の眼差しを向ける。

 

「ほら! 一万歳越えなのに処女なんだコイツって顔した!」

 

「いや、してないけど……」

 

「嘘だもん! 絶対バカにしてるもん! 一万年も処女卒業できなかった賢者(笑)って見下す目してるもん! 大人を舐めないでよこのオスガキ!!!!!」

 

「いやオスガキって呼ばれる年齢差じゃ……いや、ノアから見たら確かに子供だ!」

 

「あほみたい……ちょっと見直したのにやっぱり中身が残念すぎる……」

 

 ナミネは呆れていた。一方、ノアはヤケになっていた。

 

「もうやだ……初めて会った時、意識戻る前に襲っとけばよかった……」

 

「もう威厳も何もないね……」

 

 ノアはすっかり意気消沈して肩を落とす。

 

 その時、ノアの身体が金色の燐光を帯びる。そして、まるで天に召されるように指先が透け始める。

 

「あ、もう時間か……」

 

「ノア……?」

 

 ノアは微笑む。寂しさの混じる、切ない笑顔だった。

 

「余と蛇王は、一心同体だからね。蛇王が消えると、余も消えちゃうの」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。嘘、だよね……?」

 

「待ちなさいよ。そんなの……冗談でしょ?」

 

「ごめんね、ホントなの。余は、もうすぐ消えちゃう」

 

 金色の燐光が濃くなる。ノアの手は、もうほとんど形を保てていない。

 

「待って、待ちなさいよノア! せっかく蛇王を倒せたのに、こんないきなりお別れなんてあんまりじゃない!」

 

「そうだよ! こんなことになるなら、蛇王を倒したいなんて言わなかったのに!」

 

 ノアはかぶりを振る。どこか達観した瞳をしていた。

 ノアは、全て分かっていた。蛇王を倒せば自分が消えると分かっていて、それでも討伐することを選んだ。

 

「あはは、嬉しいな。ふたりに、そう言ってもらえて。でも、これ以上あの村の人たちに迷惑を掛ける訳にはいかなかったから、これでいいの」

 

 凄絶な笑みだった。人が死を覚悟した時に浮かべる、強い意思の籠もった笑顔だった。

 

 ノアの全身が透けていく。彼女の体の半分以上が、金色の燐光となって宙に上っていく。

 もう、別れを惜しんだり嘆いたりする時間もない。最後に伝える言葉を、ノアにとって綺麗なものにしてあげなければいけない。

 

「……ノア、ありがとう。君に出会えて、幸せだったよ」

 

「私も、ノアと出会えて良かった。くだらない小競り合いばっかりだったけど、それでも楽しかったわ。大好きよ、ノア」

 

 ノアの瞳にみるみる涙が溜まり、あっという間にあふれる。

 

「ありがとう。余も、ふたりのことが、だいすき、だよ……」

 

 ノアが昂った感情のせいで、うまく言葉を紡げなくなる。

 

「ねえ、○○。初めて会った時に、『なんでも言うこと聞く』って約束したの覚えてる?」

 

「え? うん、覚えてるよ……」

 

「これが、余から○○へのお願いだよ」

 

 ノアは太陽のような満面の笑みを浮かべた。

 

「幸せになってね。○○、ナミネ」

 

 金色の燐光がいっそう輝きを増して、天に上る。そして――ノアの身体は、完全に消えた。

 

 *

 

 その後、爆発音を聞いてやってきた村の人びとに、顛末を説明した。

 村人たちは驚き、蛇王のいなくなった火口をしばらく眺めていた。やがて、事情を飲み込んだ者から、あなたたちに感謝を告げた。

 そして、彼らは村へと戻っていった。

 

 あなたとナミネは山頂に残り、テントを立てた。二枚の布団を敷いて眠る。ちょうど人数分の枚数なのに、ひどく広く感じられた。

 

 翌朝、あなたは目を覚ました。ちょうど同時に、ナミネも起きたところだった。

 どちらからともなく、テントの入口布を開けて外へ出る。

 

「「えっ……!?」」

 

 あなたとナミネは驚きの声を漏らした。火口の真ん中に、女魔導士の石像が立っていた。眼帯、サイドテール、姫カット、ローブ、右手の長杖。

 蛇王を倒した賢者――ノアの姿そのものだった。

 

「なんで、こんなものが……」

 

 蛇王を倒してくれた英雄の石像を、村人たちが魔法で作ったのか。それとも――。

 

 あなたとナミネは像の前まで歩いていく。石像はノアらしい晴れやかな笑顔を浮かべていた。

 

咲き誇る一輪に、永遠の祈りを(リラ・アエテルナーリス)

 

 ナミネの手に、ピンクの花束が現れる。ライラック――小さな花弁が身を寄せ合うように集まった花だった。

 ナミネは、花束を像の前に置いた。

 

「ねえ、○○。来年も、再来年も、その先も、こうやって花を供えに来ない?」

 

「……うん。毎年、一緒に来よう」

 

 ナミネは穏やかな笑顔を浮かべた。山頂に涼やかな風が吹く。ノアの石像のサイドテールが、一瞬だけ揺れたように見えた。

 

「じゃあ、朝ごはん食べ――わっ!?」

 

 あなたは足元の石につまずき、バランスを崩す。前に倒れ込み、ノアの石像にごちん!と頭をぶつけた。

 

「ちょっ、だ、大丈夫!? 凄い音したけど!」

 

 ナミネが慌てて、心配そうにあなたを覗き込む。あなたは右手を頭に当てたまま、動かなくなる。

 

「……戻った」

 

「えっ?」

 

「記憶、戻った」

 

 ――強い衝撃によるものか、それともノアのくれた奇跡か。あなたは、完全に元の記憶を取り戻した。

 

「ほ、本当に……?」

 

「うん、もう大丈夫。心配かけてごめんね、ナミネ」

 

「い、いいけど……その、記憶喪失だった間の記憶も残ってるの?」

 

「うん」

 

「じゃあ、その、あれも……?」

 

「あれって……? あっ……!」

 

 ――なんか夢みたい……。僕にこんな可愛い幼なじみがいるなんて。

 

 ――言いたくなったんだ。綺麗だよ、ナミネ。

 

 あなたの体温がぐんぐんと上がり、顔が真っ赤になる。失言なんてレベルじゃない、やばい恥ずかしい死にそう。

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……………………」

 

「だから言ったでしょ! 気まずくなるわよって! 普段そんなこと言ってもらえないから、こっちもどうしていいか分かんないのよ!」

 

「仕方ないじゃん! 記憶なかったんだから!」

 

「あれだけ悪態吐いてるくせに私のこと異性として意識しまくりじゃない! 好きな女の子にそういうコミュニケーションしか取れないから未だに恋愛経験値小学生並みの童貞なのよ!」

 

「うるさいうるさいうるさい! ていうかナミネだって僕に告白してからもそういう態度じゃん! 素直になれないのはお互い様でしょ!!!!!!」

 

「告白してるだけ○○の先行ってるじゃない! もう私のこと可愛いって思ってるのバレたんだから、この機会にもう一回言ってみなさいよ!」

 

「無理だよ! この流れで言える訳ないじゃん!」

 

「女の子を素直に褒められないし恋愛への積極性を欠いた生き方してるから未だに童貞なのよ!」

 

「前の世界はともかく、この世界ではちゃんと恋愛してたよ! ナミネが邪魔しなかったらとっくに童貞捨ててるよ!!!」

 

 口喧嘩がヒートアップしていく。

 あなたはナミネを煽りながらも、どこか懐かしさと楽しさを感じていた。

 

(……ああ、やっぱり、僕はナミネのことが――)

 

 *

 

 翌朝。

 

 あなたは目を覚ます。体を起こそうと手を伸ばして――がすっ、と硬い何かに手が当たった。

 

 急速に意識が覚醒する。そこにあった光景は、表情のないナミネと、彼女の胸に触れるあなたの手だった。

 

「ねえ○○? これで○○に胸触られるの、3回目なんだけど?*2 仏の顔も三度までってことわざ、知ってる?」

 

「あ、あれ~!? 急にまた記憶がなくなっちゃったから分かんないや!」

 

「ならもう一回頭ぶつけて思い出させてあげるわ。――巌鞭に穿たれよ(フロッグリッサンド)

 

 ナミネの手に短い鞭が現れた。ナミネが軽く振ると、斧のような重たい風切り音が鳴る。――ほぼ棍棒の硬さだった。

 

「ちょっ待って! ナミネの胸も好きだから! 今日から貧乳教に入るから許して!!!!!」

 

「誰が貧乳だこの変態!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「いだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」

 

*1
反対側も女の子に抱き着かれている筈なのだが、不思議と柔らかい感触はなかった

*2
1回目:中学の時。2回目:登山2日目の朝




 『あなた』

 性別:男性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Eランク)
 備考:おっぱいが大好き


 『ナミネ』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Sランク)――【奏者】
 備考:


 『モモ』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Cランク)
 備考:巨乳


 『マリン』

 性別:女性
 種族:ウンディーネ
 職業:冒険者(Fランク)
 備考:たわわ


 『リーゼロッテ』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Sランク)――【剣聖】
 備考:ぼいんぼいん


 『ユンユン』

 性別:女性
 種族:獣人
 職業:中華店店長
 備考:たゆんたゆん


 『シャルル』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:探偵
 備考:豊満


 『アリシア』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Sランク)――【魔女】
 備考:巨峰


 『コノハ』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:闘拳家、道場主
 備考:メロン


 『イヴ』

 性別:女性
 種族:エルフ
 職業:冒険者(Sランク)――【白狼】
 備考:世界遺産級


 『ショコラ』

 性別:女性
 種族:ダークエルフ
 職業:冒険者(Sランク)――【黒狗】
 備考:国宝級


 『ノア』

 性別:女性
 種族:ラミア→ヒューマン
 職業:賢者
 備考:ジャンボマシュマロ
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