神山高校 全日制の学校生活が始まって、
早、二週間、クラスにだいぶ馴染めてきたけど、
担任の先生である、化学の山下先生はなんというか…
変わった人だ。よれよれの白衣に洗濯バサミで止められたネクタイ。
高い身長は猫背で隠れている。
愛称がある先生で、生徒から呼ばれることに怒りもせず、
案外適当な先生かと思えば、
意外なことにも授業はとてもわかりやすかった。
そんな先生に質問をしに行ったとき、
彼の城とも言える化学準備室で彼は桜を眺めていた。
ノックの音に振り向けば少しだけ残念そうな顔をして、
すぐそれを隠した。
「あっ、山下先生!」
「おっ、えっと…今川さんだったっけ?」
「はい!出席番号2番、今川詩織です!」
「ご丁寧に、なりよりだ」
「えっと、山下先生、相談事があるんですけど?」
「えー何で、俺?
俺じゃ、あんまり、頼りにならないぞ?」
「担任の先生ですから、しっかり、してください!」
「まぁ…うん、わかった、それで、相談って?」
「野間君を助けてやりたいんです」
「野間のことか?」
「はい、彼は料理を教わりたいようで」
「なんで、家庭科の先生に、言わない?」
「だって、山下先生、自己紹介の時、
ネコカフェ巡りが趣味で、料理が得意って言いましたよね?」
「まぁ…それも、そうだけど…」
「じゃあ、野間君の為に、料理を教えるのは、どうですか?」
「うん、わかった、暇な時に、教えてやるよ」
「ありがとうございます!」
「そんな、大したことじゃないから…
料理といっても、一人暮らしが、長いだけで…
もう、三十路だしな…」
「そうなんですね!」
「そこ、ハッキリ言うか?」
「あっ、すみません!
えっと…失礼します!ありがとうございます!」
「へいへい」
A組の担任を務める、山下太朗先生は、
周囲から、(タロー先生)或いは(山下先生)
と、呼ばれているが、私は後者の方で呼んでいる。
一見、気だるそうに、頼りなく思えるが、
それでも、生徒一人一人に対して、
ちゃんと、向き合って、見捨てずにいる部分が、
尊敬する部分である。
こうして、その後、高坂家に私は帰るのでした。
「おかえり、詩織、どうだ?
全日制の学校生活は?」
「もう、最高だよ!毎日が、本気で楽しい!
って、思うくらい!」
「お前は、本当に素直だな、
俺みたいに夜間定時制に通っている奴等は、
やる気なくてさ、
そんでも、うちの学級委員長が、
どうにかしているけど」
「そっちも大変だね…」
「あぁ、俺なんか、勝手に学級副委員長に、
任命されたし…」
全日制と夜間定時制、
それぞれの、学校生活も、始まったばかり…