遊戯王 RAIL_WARRIORS:Re   作:マグロ兄貴

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第1話 決闘乗務

鉄路、それは日本の大動脈。

 

多くの鉄道会社が管理する鉄道網によって、通勤、通学や観光といった、あらゆる目的で利用する人々の足として機能している。

 

絶対の安全、正確なダイヤ。

 

他の国では有り得ない秒単位の発着管理。

 

それこそ正義。そうでなければ、この国の人にとって鉄道の価値は無い。そう言っても過言では無い。

 

しかし、この日本という国の関東都心部においてはその正義も覆る。

 

この街独特の『鉄道システム』によって。

 

 

 

 

[大崎駅]

 

 

夕刻、帰宅ラッシュの時間。駅構内は多くの利用客がひしめき合い、発着する列車も乗車率を150%を超えていた。

 

例えるのなら、立っている自身の四方は必ず人が密着するレベル。

 

2~3分起には次の列車がやってきては、乗客がなだれ込む。それでもホームには人がごった返している。

 

 

遊治郎「まもなく列車が到着します!!黄色い線から離れてお待ちください!!線路側を歩くのは大変危険です!ホームの中程でお待ちください!!」

 

 

彼の名は、天馬遊治郎。

 

海馬旅客鉄道の職員で、ここ大崎駅の駅長である。

 

駅長ならば大崎駅の職員の中で一番上の立場であるが、それでも彼は夕刻のラッシュの時間帯はホームに立ち拡声器で案内業務を行う。

 

 

中野「駅長、時間だぞ」

 

 

そこへ遊治郎よりも背の低い高齢の職員が近づいてくる。

 

彼は助役の中野一郎、遊治郎の先輩職員である為に駅長という立場の遊治郎に上からものを言える大崎駅の中で唯一の人物だ。

 

遊治郎も新米の頃から良くしてもらっているので、駅長になってからも中野を慕っている。

 

 

 

遊治郎「先輩、もうそんな時間でしたか」

 

中野「先輩って呼ぶんじゃない、今はお前が上司なんだからな」

 

遊治郎「すいません、中野さん」

 

中野「はっはっは!なぁに少しずつ慣れればいいさ。それにお前を事務所に戻さないと、またあの『彼』に絡まれるかもしれんしな」

 

遊治郎「はは、この前の男の子ですね。あれだけお灸を据えたんですから、さすがにもう来ないでしょう」

 

中野「しかし彼にとっては屈辱だったんじゃないか?あの悔しそうな顔、まだ頭から離れんよ」

 

遊治郎「あの時は、ああするしか無かったですから…」

 

 

 

 

数日前…

 

今この時と同じく夕刻の帰宅ラッシュの時間。

 

遊治郎が駅事務室で仕事をしていた時、突如として悲鳴が聞こえた。

 

 

「ぐぅええぇぇ!!!!」

 

 

場所は事務室のドアの外から、それもすぐそば。

 

 

遊治郎「何事だ!」

 

 

遊治郎が急いでドアを開けて外に出ると、そこにいたのは地べたにうつ伏せになる中年の男。

 

そして中年の男の頭を踏みつける少年の姿があった。

 

ドアの開いた音で少年と遊治郎は目が合う。

 

 

遊大「あんた駅の人だな。この親父は痴漢野郎だ、とっとと警察呼んでくれ」

 

 

それこそ、真藤遊大その人だ。

 

遊大は遊治郎の顔を見ながらも中年の男にかけた足はどかそうとしない。

 

 

遊治郎「分かったからどきなさい、後はこっちに任せてもらおう」

 

遊大「駄目だ」

 

 

ピシャリと遊大はそれを断る。

 

 

遊治郎「何故だい?私の方が大人だ、私の方が力は強い。押さえつけるなら子供の君より良いはずだ」

 

遊大「俺はな、大人という立場を使って弱い奴を好き勝手する野郎が大嫌いなんだ。ぶち殺してやりたくほどにな…」

 

 

そう言い放った遊大はさらに強く中年の男の頭を踏みつける。

 

 

「いだだだだだだだ!!!ゆ、許してくれええええ!!」

 

遊大「それは俺に対して使う言葉じゃねえだろ…」

 

警官「そこの君!やめなさい!」

 

 

すると駅交番の警官がやってきて、男を取り押さえる。

 

そして遊大と中年の男を引き離した。

 

 

警官「やり過ぎだ!他にやり方はあるだろう!」

 

遊大「緊急事態だったんだ、考える余裕なんて無かったよ」

 

警官「…まあいい。被害者は別の警官が保護している、そちらのあなたは駅の…」

 

遊治郎「はい、駅長の天馬と申します」

 

警官「後ほど刑事課の人間が参りますので、防犯カメラのチェックをさせて頂きますね」

 

遊治郎「はい、協力いたします」

 

警官「感謝します、君も犯人逮捕に協力感謝する。しかし危ない事はしない事だ」

 

遊大「………」

 

 

遊大は無言で警官の顔を見る。

 

 

警官「それでは失礼します」

 

 

そう言って警官は男を連れて交番へと戻っていった。

 

 

遊治郎「さて…君も帰りなさい。子供がうろついて良い時間じゃない、気をつけて帰るんだよ」

 

 

遊治郎も駅の事務室へ戻ろうとした、その時である。

 

 

遊大「待ちやがれ」

 

 

遊大は遊治郎の腕をひっぱり引き戻す。

 

 

遊治郎「うおっ…!」

 

 

子供とは思えない力に引っ張られ、遊治郎はよろける。

 

 

遊治郎「危ないじゃないか!」

 

遊大「てめえ、さっきから俺の事を子供扱いしやがって…馬鹿にしてんのか?」

 

遊治郎「馬鹿になんかしていない、見たまんまを言ったまでだ。その制服…確かアカデミア中等部の制服だね。明日も学校だろう?早く帰りなさい」

 

遊大「どいつもこいつもふざけやがって!!ムカついてしょうがねぇ!!

 

おっさん!俺とデュエルしろ!!俺を馬鹿にしたことを後悔させてやる!」

 

 

その時の遊大の表情は、目の前にいる遊治郎が向けられるにはあまりにも重い…怒りの感情を燃やしていた。

 

 

遊治郎「……しかし、私は仕事が…」

 

中野「俺が立ち会ってやる」

 

遊治郎「先輩!」

 

 

すると中野が2人の前に割って入る。

 

 

中野「大人の言うことを聞かない子供を注意するのは大人の務めだ。それにこの坊主はアカデミアの生徒、ならデュエルで分からせてやるのも道理というものだ」

 

遊治郎「…分かりました、相手になりましょうか」

 

遊大「行くぜ!おっさん!」

 

 

遊大・遊治郎

「「デュエル!!」」

 

 

こうして、2人のデュエルが始まった。

 

 

 

その結果は、呆気ないものだ。

 

 

遊治郎「残念だがここまでだよ」

 

遊大「あぁ!?ハッタリかましてんじゃねえぞ。てめえのフィールドに待機してるモンスターが効果を発動した瞬間、俺のカウンター罠で除去出来るんだからな!」

 

遊治郎「それはどうかな。モンスターで攻撃!その瞬間、効果発動!セットモンスターを破壊!」

 

遊大「その効果に対してカウンター罠発動!【神の宣告】!!効果の発動を無効にし、破壊する!!」

 

遊治郎「残念だが、私は手札からカウンター罠を発動する!!【レッド・リブート】!!神の宣告を無効にする!!」

 

遊大「な!なんだとォォォォ!!」

 

遊治郎「とどめだ!」

 

 

結果は遊治郎の勝利。

 

圧倒的な力の差を見せつけられ遊大は敗北した。

 

 

遊大「俺が……負けた…?」

 

 

敗北した遊大は、心ここに在らずといった状態でふらふらと駅改札へと入っていった。

 

 

 

 

遊治郎「まさか勤務中、デュエルに巻き込まれるとは思いませんでしたよ。それに、彼もなかなか強かった」

 

中野「嘘つけ、わざわざカウンター罠を枯渇させてとどめを刺したんだろ?」

 

遊治郎「偶然ですよ」

 

中野「どうだかなぁ…あ、そうだ。藤崎が『決闘乗務』の時間だから、武田に交代するよう言っておいたからな」

 

遊治郎「ありがとうございます。そうか、もうそんな時間か…。じゃあ先輩、あとはよろしくお願いします」

 

中野「おう!…って、結局呼び方戻ってるじゃねえか」

 

 

 

 

『決闘乗務』。

 

それは政府機関である『鉄道局』で定められた制度。

 

列車の事故・故障などによる遅延が発生した際、『振替輸送』という利用者に対する補填措置が存在する。

 

簡単に言えば、事故や故障などで動かなくなった区間より先の目的地へ、他の鉄道会社の路線を利用して向かうことが出来る。※区間定期券利用者に限る。

 

この際の被協力会社に発生した損害金の支払い責任をかけて、鉄道車両を用いたライディングデュエルを行う。その職務を『決闘乗務』と呼び、走行する実車両を『決闘列車(デュエルトレイン)』と呼ぶ。

 

ようは協力した会社が自腹で損害を被るか、デュエルに勝ち協力を仰いだ会社へ支払い請求を押し付けるか。

 

そんなことがこの街では当たり前のように行われている。

 

 

※参考資料

『海馬旅客鉄道公式ホームページ:振替輸送について・利用方法』

他各鉄道会社:振替輸送の欄(敬称略)

 

 

 

所変わり、ここは上野。

 

上野駅から数十分歩いたところにアカデミアの上野校がある。

 

とある教室内、怒りで顔を真っ赤にしながら生徒を睨みつける薄毛の教師がいた。

 

 

教師「次は応用問題だ、相手のフィールド魔法が設置されている状態で効果を発動した場合、『神の宣告』で無効に出来るか?」

 

ナリヤ「できまーす」

 

教師「バカモン!!不正解だ!!

次!貴様なら分かるか?」

 

 

ナリヤの隣に座る少年が代わりに答える。

 

 

「神の宣告は、『魔法・罠カードの発動』に対しては無効に出来ます。しかし、すでに発動しているフィールド魔法や永続魔法の『効果の発動』は無効に出来ません」

 

教師「上出来だ!!それに比べてナリヤ!!貴様には追加の補習を与えるから覚悟しておけ!!」

 

ナリヤ「はーい!クスクス…」

 

 

睨まれていた生徒、ナリヤは悔しがったり残念がる素振りも見せずニコニコと笑いながら返事をした。

 

 

教師「へらへらするな!貴様といい、真藤遊大といい、ろくでもない馬鹿を任せられるこっちの身にもなれ!というかあの馬鹿は今日も無断欠席か!!」

 

ナリヤ「みたいですね…。今頃、面白い事になってますよ」

 

 

怒り狂う教師をよそに、ナリヤは窓の外に見える山手線の線路を見つめていた。

 

 

 

 

 

再び大崎駅。

 

事務室に遊治郎が戻ると、交代したはずの藤崎が机の上にあるカバンをゴソゴソと漁っていた。

 

 

遊治郎「何やってんだ藤崎、早く車庫に向かわないとセンターの人らに怒られるぞ」

 

藤崎「すすす、すいません駅長!」

 

 

藤崎は冷や汗をダラダラと流しながら、声を震わせている。

 

 

 

遊治郎「おいおい、何があったんだい?」

 

藤崎「じ、実は今日…家のローンの支払い日なんですが口座から引き落とし出来なかったみたいです。振込用紙が届いたんですけど、持ってきたはずが見つからなくって…」

 

 

あたふたとしながら藤崎は、ぐちゃぐちゃに書類が置かれたテーブルに手を置いている。

 

 

遊治郎「ああもう分かった、代わりに探しておいてやるから。お前は早く車両センターに行きなさい」

 

藤崎「す、すすすいません駅長!ありがとうございます!」

 

 

藤崎はカバンを抱えて、そそくさと出ていった。

 

 

武田「駅長、大丈夫なんすかアイツ」

 

 

不機嫌そうな顔をした武田が、遊治郎にコーヒーを入れたカップを持ってくる。

 

 

遊治郎「おや、ありがとう」

 

武田「やっと入社2年目だってのに、落ち着きが無いというか…」

 

遊治郎「まあ、この業種は大変だからなぁ」

 

武田「この前もお客さんに仙台(せんだい)駅と川内(せんだい)駅を間違えて案内して、いらん旅費を払わされたなんてクレームも来てますし」

 

遊治郎「武田、お客さんじゃなくてお客様だぞ。それに2年目だからって全部覚えられるわけじゃない、長い目で見てやろうじゃないか」

 

 

その時、事務室内の緊急を知らせるブザーが鳴り内線のスピーカーから指令が入る。

 

 

総司令『こちら在来線総司令部、各駅の職員へ通達。

 

瞳電気鉄道より決闘申請が鉄道局へ提出され受理された。

 

これより臨時ダイヤを使用し、運行中の列車を全て退避。決闘列車を優先せよ。

 

各駅の職員はお客様への案内業務を遂行せよ』

 

 

その無線を聞いた2人は、表情を強ばらせながらも状況を理解出来ずに混乱する。

 

 

武田「そ、そんな馬鹿な!!決闘申請は振替輸送が行われなければ受理されないはずじゃ!」

 

遊治郎「そんな事を言っている場合じゃないだろ!お前は改札を閉めろ!」

 

武田「は、はい!!」

 

 

遊治郎は事務室のマイクを手に取り、近くの録音機械のスイッチを入れる。

 

 

遊治郎「お客様にお知らせします。鉄道局より決闘申請が受理されました為、これより臨時ダイヤを使用し、全ての列車が決闘列車の通過待ちとなります。

 

決闘列車の通過が確認できるまで改札への入場は出来なくなります。

 

また、すでにホーム内でお待ちのお客様はお手持ちの携帯端末またはデュエルディスクから、『遅延証明書』を発行していただき、料金の払い戻しをお願いします。

 

ご不明な点がございましたら、お近くの駅係員までお尋ねください。ご理解とご協力をお願いします」

 

 

遊治郎はマイクを戻し、録音機械を停止。すぐに再生させた。すると、いま遊治郎がアナウンスした言葉が再び再生され始める。

 

 

遊治郎「よし、これで私も動けるな」

 

 

 

 

 

数分後、大崎駅のそばにある車両センターから1編成の車両が飛び出していった。

 

本来なら駅構内を通過する際は徐行しなければならないが、決闘乗務ならば何キロで通過しようが法に触れることは無い。

 

遊治郎は利用客の案内中だが、高架通路の窓越しに車輪から火花を散らしながら駆け抜ける列車を見送る。

 

 

遊治郎「藤崎の決闘列車が車庫から出たか…」

 

武田「あいつ、よくテンパるからなぁ。不安定な精神状態でまともなデュエルが出来るのか心配ですよ…」

 

 

無論、遊治郎も不安だった。

 

何か、嫌な予感がしていた。

 

 

 

数分後、その予想は的中していた。

 

決闘列車のデュエルの様子が、事務室内のモニターにも映し出されている。

 

 

「やべえよ、やべえよ…」

 

「負けちゃうんじゃないか、これ…」

 

 

事務所に集まっていた他の職員もデュエルの様子を不安そうに見ている。

 

運転士として経験の浅い藤崎だが、彼はデュエルそのものが苦手なのだ。

 

本来なら決闘乗務という当番を任せられる人材ではないのだが、鉄道局からの通達より全ての運転資格を持つデュエリストは最低月1回の決闘乗務のシフトを組み込まなければならない。

 

 

藤崎「エルフの聖剣士を召喚!効果発動!」

 

??「トラップ発動。神の警告」

 

 

遊治郎(あのデッキ、まさか…)

 

 

そこへ、予期せぬ来客がやって来る。

 

 

??「どうやら苦戦しているようだね」

 

 

遊治郎が振り返ると、不敵に笑みを浮かべる紫のコートを着た男が立っていた。

 

姿や声こそ先代社長の『海馬瀬人』そのものだが…違う。

 

彼の名は『如月瀬斗』。

 

現社長である『如月瀬奈』の弟で、副社長の地位に居る男である。

 

 

遊治郎「お疲れ様です、瀬斗副社長」

 

瀬斗「そんなに固くならなくて良い、僕は姉さんより温厚な人柄だ」

 

武田「自分で言うか普通…」

 

遊治郎「こら、武田…!」

 

瀬斗「構わないさ、この場は無礼講だ。しかしどういう事だ?敵の姿が見えないじゃないか…」

 

 

そう、モニターには走行する列車と対峙するモンスターが線路を駆け抜けていく姿が映し出されている。

 

だが、敵の列車がどこにもいないのだ。

 

 

遊治郎「ええ、確かに不自然です。決闘申請が受理されたのなら、間違いなく瞳鉄道の車両が出てくるはず…」

 

瀬斗「瞳鉄道か…。散々こちらへの吸収合併を阻む愚かな第三セクター鉄道だが、あそこの社長は変わり者なんだ。姉さんもあまり会いたくないと言っていたよ」

 

遊治郎「社長は今どちらへ?」

 

瀬斗「モクバ叔父様と一緒に、イギリスの高速鉄道の視察で出張中だ。代わりの雑務は僕が引き継いでいる」

 

遊治郎「そうでしたか」

 

 

すると、突然モニターに映る藤崎の運転する車両が、火花を散らしながら急ブレーキをする。

 

 

遊治郎「まさか…負けたのか」

 

 

モニターには、勝敗の結果が映し出される。藤崎のライフは0、挑戦者「UNKNOWN」と表示された側のライフは2000となっていた。

 

 

瀬斗「負けた…だと…」

 

 

瀬斗は、まるでこの世の終わりかと言わんばかりに顔を青ざめる。

 

 

瀬斗「れ、れれれ冷静になれ、なんとか姉さんへの言い訳を考えなければ…」

 

遊治郎「副社長、気を確かに…」

 

 

 

すると、モニター越しに声がする。

 

 

??「聞こえているか!天馬遊治郎!こんな雑魚に用は無い!この決闘乗務で発生した負債を背負いたくねえなら、てめえの会社のメンツを守りたいなら!俺とデュエルしろォ!!」

 

 

その声の主は、どうやら藤崎の乗っていた列車の無線機を使って語りかけているようだ。

 

 

瀬斗「天馬駅長、あの声の主は知り合いなのか?」

 

遊治郎「おそらく、そうでしょうね」

 

瀬斗「このままでは会社としても、僕個人としても大問題だ。彼の要求を飲むべきと考えるが」

 

遊治郎「無論です。このデュエル、まだ終わらせるわけにはいかない」

 

瀬斗「ならば好きな形式を手配しよう、どの車両で出る?」

 

遊治郎「583系で」

 

瀬斗「良いだろう」

 

 

遊治郎は自分のデスクに下げていたカバンに手袋・懐中時計・デッキといった必要なものを詰め込み、事務室を足早に出ていく。

 

同時に瀬斗はスマホを取り出し、車両センターへと連絡を入れた。

 

 

瀬斗「僕だ、デュエルの様子は見ていたな?583系を用意しろ、すぐに運転士が向かう」

 

 

 

 

遊治郎は事務室を出たあと、すぐ隣の敷地である車両センターへと急ぐ。

 

すると、センター所属の整備士長の男が遊治郎に手を振った。

 

 

整備士長「おーい!こっちだ!」

 

遊治郎「恐れ入ります、整備士長」

 

整備士長「なぁに、副社長の命令だ。俺達は全力で答えるまでよ。あのクソガキの鼻っ柱をへし折ってやりな!」

 

遊治郎「ええ、やってやりますとも」

 

 

遊治郎はカバンから懐中時計を取り出し運転台の台座へセットする。

 

 

遊治郎「懐中時計、良し!」

 

 

次に、デッキを運転台のデッキゾーンへセットする。

 

カードが運転台の中へ吸い込まれ、デジタルモニターにリストが表示される。

 

 

遊治郎「デッキ、良し!」

 

 

そして最後、マスコンの右側にある大きなタッチパネルにデュエルフィールドが表示される。

 

 

遊治郎「フィールド、良し!」

 

 

全ての確認が終えた時、信号が青へと変わった。

 

 

 

遊治郎「出発進行!!」

 

 

高らかに、足元の警笛レバーを踏む。

 

ピイイイイィィィィィィ!!!

 

 

遊治郎「変わらないな、この音も…」

 

 

 

 

 

 

藤崎の乗っていた車両は、新宿駅手前で停車していた。

 

そこへ遊治郎が583系で合流する。

 

 

藤崎「え、駅長…!」

 

遊治郎「話は後だ、お前は待避線に列車をどかしてこい」

 

藤崎「は、はい!」

 

遊治郎「それと、そこにいるんだろう?運転席から降りてきなさい」

 

 

遊治郎が藤崎の乗っていた列車の運転席へ呼びかけると、そこから現れたのは『真藤遊大』だ。

 

 

遊大「やっと出てきたか、天馬遊治郎」

 

 

遊大は無表情で遊治郎を見る、あまりにも歯ごたえのないデュエルに満足していない。そう言いたげな目で訴えかける。

 

 

遊治郎「君がどうして、瞳鉄道の運転士として登録されているのか。なぜ振替輸送も無いこのタイミングで決闘申請が受理されたのか。

 

聞きたいことは山ほどあるが、今の君は私へのリベンジしか頭に無いようだね」

 

遊大「ああ、その通りだ」

 

遊治郎「だが1つだけ確認させてもらおう、どうやってデュエルを?」

 

 

そう言うと、遊大は近くのDボードを拾い上げる。

 

 

遊大「文句あっか?」

 

遊治郎「いや、無い」

 

 

遊治郎は線路の先の信号を指さす。

 

 

遊治郎「あの信号が青になったら、デュエルスタートだ。いいな?」

 

遊大「ああ」

 

遊治郎「そういや、君の名前を聞いていなかったね」

 

遊大「……遊大だ」

 

遊治郎「遊大くんか…。悪いけどこっちも仕事なんだ、負けるつもりは無いよ」

 

遊大「そっくりそのまま返してやるぜ」

 

 

遊大はデュエルディスクを構え、Dボードのアクセルに足をかける。

 

 

遊治郎は583系の運転席へ座り、右手でタッチパネルを操作し手札を確認する。左手はマスコンを握りしめる。

 

 

そして、信号が青になったと同時に双方のアクセルが起動する。

 

 

遊大・遊治郎

「「ライディングデュエル!

アクセラレーション!!」」

 

 

《決闘(DUEL):内回り 品川・東京方面》

 

 

先に信号を通過したのは遊大、当然重い車体の583系はスタートダッシュに大幅な遅れが出る。

 

 

遊大「俺の先行!俺は手札から【創造の代行者ヴィーナス】を召喚!」

 

 

創造の代行者ヴィーナス

☆☆☆ ATK.1600

 

 

遊大「その効果で、デッキから【神聖なる球体】を特殊召喚する!」

 

 

神聖なる球体 ×3

☆☆ ATK.500

 

 

遊大「俺は3体の神聖なる球体をリンクマーカーにセット!現れろ、光を導くサーキット!!リンク召喚!リンク3【天空神騎士ロード・パーシアス】!」

 

 

天空神騎士ロード・パーシアス

LINK3 ↙↓↘ ATK.2400

 

 

 

遊治郎「ずいぶん飛ばしてるな」

 

遊大「さらにロード・パーシアスの効果で手札を1枚捨て、デッキから【パーシアスの神域】を手札に加え、そのまま発動!」

 

 

パーシアスの神域

永続魔法

 

 

遊大「その効果で、フィールドの天使族モンスターの攻撃力は300ポイントアップだ!」

 

 

ヴィーナス

ATK.1600→1900

 

ロード・パーシアス

ATK.2400→2700

 

 

遊大「そして、残った手札3枚を伏せてターンエンド!」

 

 

《代々木駅:通過》

 

 

遊治郎「私のターン、ドロー!」

 

遊大「さあ来い、天馬遊治郎!!」

 

遊治郎「私は手札より【鉄軌獣センターライガー】を召喚!」

 

 

ゴオオオオォォォ!!と咆哮をあげ、機械の体を持つ虎が583系列車と並走する。

 

 

鉄軌獣センターライガー

☆☆☆☆ ATK.1000

 

 

遊治郎「召喚に成功した時、効果発動!自分フィールドに【鉄軌トークン】を1体特殊召喚する!」

 

遊大「カウンタートラップ発動!【神の通告】!モンスターの特殊召喚する効果を無効にし、破壊する!」

 

 

ソリッドビジョンの雷鳴が、遊治郎の583系に降り注ぐ。並走していたセンターライガーも雷を受けて破壊される。

 

 

遊治郎「ぐああああああ!!」

 

遊大「ぐっ!!」

 

 

遊大

LP.8000→6500

 

 

遊治郎「だが、まだやれる事はある。私は手札の【鉄軌獣トータル・タートル】の効果により、こいつを特殊召喚する!」

 

遊大「カウンタートラップ発動!【神の警告】!チェーンブロックを作らない特殊召喚を無効にし、破壊する!」

 

遊治郎「ぐああああああ!!」

 

遊大「チィッ!」

 

 

遊大

LP.6500→4500

 

 

遊治郎「いやはや、やられっぱなしか。しかしライフはこちらのほうが優勢…山手線を1周する前に決着が付きそうだな」

 

遊大「けっ、勝手にほざいてろ」

 

遊治郎「もう特殊召喚できるモンスターはいない。手札を2枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 

《原宿駅→渋谷駅→恵比寿駅:通過》

 

 

ターンが進むあいだ次々と駅を通過する。

 

駅のホームで通過待ちしている利用客が、目の前を通過する遊治郎と遊大の姿に歓声をあげる。

 

だがデュエルに集中している2人にはその声は届かない。

 

 

遊大「俺のターン、ドロー!俺は再びロード・パーシアスの効果発動!デッキから天空の聖域が記されたカード【神罰】を手札に加える!」

 

遊治郎「トラップ発動!【お得な旅切符】!君がカードを加えた時、私はデッキからモンスターを特殊召喚する。現れろ!【鉄軌竜エレクトロアイズ・コンテナードラゴン】!」

 

 

ソリッドビジョンから現れたEF65に酷似した赤い電気機関車が、巨大な龍の姿へと変形する。

 

 

鉄軌竜エレクトロアイズ・コンテナードラゴン

☆☆☆☆☆☆☆☆ ATK.3000

 

 

 

遊大「こ、攻撃力3000のモンスターだと!?」

 

遊治郎「特殊召喚後、君はデッキから1枚ドローすることが出来る」

 

遊大「ありがたく頂いておくぜ。だが今は俺のターン、悪いがこのまま駆け抜ける!俺はこれでバトルフェイズ!ロード・パーシアスでエレクトロアイズ・コンテナーへ攻撃!」

 

遊治郎「馬鹿な!攻撃力を上回るモンスターへ攻撃だと!?」

 

遊大「ダメージステップの開始時、俺はたった今ドローした【オネスト】の効果発動!

 

戦闘を行う相手モンスターの攻撃力と同じ数値をロード・パーシアスに与える!」

 

 

ロード・パーシアス

ATK.2700→5700

 

 

遊治郎「攻撃力5700!?」

 

遊大「ぶっ潰せ!ロード・パーシアス!」

 

遊治郎「うわああああああ!!」

 

 

遊治郎

LP.8000→5500

 

 

遊大「続けてヴィーナスでも攻撃!」

 

 

遊治郎

LP.5500→3600

 

 

遊大「この前のようにはいかない、絶対にてめえを倒す!」

 

遊治郎「ぐっ!ずいぶんライフを減らされてしまったか…」

 

遊大「俺は手札を1枚伏せてターンエンドだ」

 

 

《目黒駅→五反田駅:通過》

 

 

五反田を通過した時、異変が起きる。

 

突如、遊治郎の走る軌道の転轍機が切り替わり583系は隣を走る京浜東北線へと乗り入れる。

 

※転轍機(てんてつき)…隣合う線路へ列車が移動する為の装置。

 

 

遊治郎「何!?」

 

瀬斗『決闘乗務2名の運転士へ告ぐ』

 

遊大のデュエルディスクと遊治郎の車両無線機へ如月瀬斗からの通信が入る。

 

 

瀬斗『姉様から連絡があった、この大崎駅より先は《京浜東北線》へ入線しデュエルを続行するように。だそうだ』

 

遊治郎「なぜ社長が…」

 

瀬斗『姉様は全てのデュエルを見ている、無論遠く離れた地に居てもな』

 

遊治郎「聞こえたかい、遊大くん!」

 

遊大「なんだか知らねえが、そっちに付いていきゃ良いんだろ?」

 

 

《大崎駅→品川駅→大井町駅:通過》

 

 

大崎駅から京浜東北線へと入線し、あっという間に大井町を通過する。

 

ここから先は複々線が続き、ライバル会社の京浜急行が並走する区間。

 

ここから横浜に着くまでほとんど直線の区間となる。

 

区間変更に伴い、583系の列車種別も以下のように変更された。

 

 

《決闘(DUEL):横浜・大船方面》

 

 

遊治郎「さて、ここからどうするか。私のターン、ドロー!私は手札の【鉄軌獣センターライガー】を召喚!」

 

遊大「また出やがったか…」

 

遊治郎「こいつは自身の効果で【鉄軌トークン】を生み出す!」

 

 

鉄軌トークン

☆ ATK.0

 

 

 

遊治郎「さらに手札の【鉄軌鳥タキシード・スワン】は、鉄軌獣リンクモンスターをリンク召喚する時、手札からリンク素材にすることができる!」

 

遊大「なんだと!?」

 

遊治郎「私はタキシード・スワン、センターライガー、鉄軌トークンの3体をリンクマーカーにセット!現れろ、鉄路を駆けるサーキット!

 

鋼の竜よ。雷を糧に赤き血潮を滾らせ、雄叫びを上げよ!リンク3【鉄軌竜シーメンス・ドラゴニュート】!!」

 

 

その竜は巨大な槍を携え、赤いラインの入った雄々しき翼を広げえ空を舞う。

 

敵を見定め、確実に刺し貫く為に…。

 

 

 

鉄軌竜シーメンス・ドラゴニュート

LINK3 ←↑→ ATK.2500

 

 

遊大「この風格、どうやら切札のご登場って訳か。だがこちらにはまだ伏せカードがある。このデュエル、まだ終わらせないぜ!」

 

遊治郎「どうやら、路線変更の意味を理解していないようだ」

 

遊大「何?」

 

遊治郎「この時間、どの路線も混雑している中で京浜東北線を選んだ。うちの社長なら、多分こう言うはずなんだ」

 

 

 

 

??「生意気なガキに社会の厳しさを教えてやれ」

 

 

 

遊大「生意気な、ガキだと…!?」

 

遊治郎「どういったコネクションがあって正式なデュエルを申し込んだか知らないが、この直線区間に我々のパフォーマンスを見せるステージは存在しない!圧倒的な力の差を付けて、すぐに決着を着ける!」

 

遊大「舐めんじゃねえぞ!やれるもんならやってみろ!」

 

遊治郎「バトルだ!シーメンス・ドラゴニュートで代行者ヴィーナスを攻撃!!」

 

 

遊大

LP.4500→3900

 

 

 

遊大「くっ!」

 

遊治郎「モンスターを破壊したことにより、シーメンス・ドラゴニュートの効果発動!1枚ドローし、1枚捨てる。すると、この捨てたカードの種類によって、効果が変化する。

 

私が捨てたのはモンスターカード。よって、攻撃力を500ポイントアップした状態で、もう一度モンスターへ攻撃出来る!!」

 

遊大「させるかよ!カウンタートラップ発動!【神罰】!そのモンスター効果を無効だ!!」

 

遊治郎「どうやらまだ勉強が足らんようだ、手札からカウンタートラップ発動!

 

【レッド・リブート】!ライフを半分支払い、相手の発動したカウンター罠を無効にし、再セットさせる!そして、君はデッキから新たな罠カードを加えられる」

 

遊大「ま、またこのカードか…!!」

 

遊治郎「どうやら、もう1枚の伏せカードでは、レッド・リブートに迎え撃つことは出来ないようだね。このままバトルは続行される!やれ!シーメンス・ドラゴニュート!!」

 

 

シーメンス・ドラゴニュートの攻撃力は3000となり、ロード・パーシアスの攻撃力を上回る。

 

巨大な槍を振り下ろされ、ロード・パーシアスは軌道上へ叩きつけられる。

 

その衝撃で土煙が舞い、遊大の視界をわずかに奪う。

 

 

 

遊大「ぐっ!ロード・パーシアスが!!」

 

 

遊大

LP.3900→3600

 

遊治郎

LP.3600→1900

 

 

遊大「だがしかし、大幅にライフを削ったのはそっちも同じ。俺の方がまだ生き永らえる可能性は高い!」

 

遊治郎「残念だがそれも無い」

 

遊大「何!?」

 

遊治郎「私が伏せていたもう1枚のトラップ発動!【終夜終日運転ダイヤ】!

 

このカードは相手モンスターを2体以上戦闘破壊したバトルフェイズにのみ発動できる。私の切り札、シーメンス・ドラゴニュートは攻撃力を1000上昇させ、君をもう一度攻撃出来るようになる!」

 

 

鉄軌竜シーメンス・ドラゴニュート

ATK.3000→4000

 

 

 

遊大「!!」

 

遊治郎「とどめだ!!シーメンス・ドラゴニュートの攻撃!

 

旋律のインバーター・ランス!!」

 

 

 

シーメンス・ドラゴニュートが槍を構え、一瞬にして遊大の間合いを詰める。

 

 

遊大「何ッ!?」

 

 

槍が遊大を刺し貫く、その瞬間の風を裂く音が警笛を思わせる音を奏でる。

 

 

遊治郎「終わったか…」

 

 

だが、遊大のデュエルボードは止まることなく遊治郎の583系を追いかけてきている。

 

 

遊治郎「何故だ、何故まだ止まらない…」

 

 

遊治郎は、運転台のパネルで、ライフ変動を確認する。すると…

 

 

遊大

LP3600→4100→100

 

 

遊治郎「馬鹿な!ライフが回復しているだと!?」

 

遊大「俺はシーメンス・ドラゴニュートが攻撃した瞬間、速攻魔法【低劣な壺】を発動していたのさ」

 

遊治郎「低劣な壺、だと…?」

 

遊大「ああ、自分フィールドのセットされたカウンター罠を1枚墓地に送り、ライフを500回復。そして1枚ドローするカードだ。俺はさっき無効にされ再セットした神罰を墓地へ送った」

 

遊治郎「そんなカードを使うとは、たまげたよ」

 

遊大「ああ、だろうな。俺もいつデッキに入れたか覚えてねえや」

 

遊治郎「だが生きながらえたとしても、君の場には私のレッド・リブートの効果でセットされたカウンター罠が1枚と今引いた手札1枚のみ。

 

大人しくサレンダーするべきだ。君が身を引いても、君の地位や財産は失われない」

 

遊大「それをアンタが言える立場なのか?それとも人生のアンティーデュエルでもやろうってのか」

 

遊治郎「まさか…。だがアンティーで無いにせよ、私も仕事でここにいる。

 

始めにも言ったが負ける訳には行かない。負けた部下の為にも、社長に叱られると怯える副社長の為にも。そして私自身の為にもだ」

 

遊大「能書きは良い、どの道アンタはターンエンド。俺にターンが回ってくる」

 

遊治郎「だが、シーメンス・ドラゴニュートを突破しない限り私にとどめは刺せない!」

 

遊大「分かってるさ」

 

 

《大森駅→蒲田駅→川崎駅:通過》

 

遊大「俺はなんとしてもてめえから勝ち星を奪う。あの時の屈辱を晴らしてみせる!俺のターン、ドロー!!」

 

 

その瞬間、デッキからドローされたカードから眩い光が放たれDボードごと遊大の全身を包み込んだ。

 

 

遊治郎「なんだ、この光は…!!」

 

 

 

 

遊大「なんだ、これは…」

 

 

ドローした瞬間、遊大は光の中に囚われた。

 

同時に遊大の現れたのは巨大なドラゴン。

 

赤い体、縦に並んだ2つの口。

 

遊大はこんなモンスターをこれまで見た事も無かった。

 

すると…

 

 

赤い竜「こんにちは」

 

 

下の口を開き、挨拶の言葉をかけてきたのだ。

 

 

遊大「喋った!?な、なんだお前は!」

 

赤い竜「僕は、訳あってここから出られないんだ。だから君にこのカードを託す」

 

 

赤い竜から放たれた光の球体が遊大の元へと漂ってくる。

 

遊大は手を伸ばし手に取る、そのカードの名は【冥王竜ヴァンダルギオン】。

 

 

遊大「見たことねえカードだ…」

 

赤い竜「君になら使いこなせる」

 

遊大「待て、アンタ何者だ。デュエルモンスターなのか?」

 

赤い竜「…それを知ったら、もう2度と僕の元へは辿り着けない。けどそのカードが…いずれ僕の元へ君を導いてくれる」

 

遊大「どういう事だ!まるで意味が分からんぞ!」

 

赤い竜「良いかい?これから先、嬉しいことも…辛いこともたくさんある。けど君のデッキと、君の相棒と、そのカードが君を助けてくれるよ」

 

 

そう言うと、赤い竜はだんだんと光の中へ吸い込まれていく。

 

 

遊大「待ちやがれ!!何者なんだお前!!なぜこのカードを俺に!!」

 

赤い竜「………」

 

 

その返事が来ることは無かった。

 

次第に、遊大を包み込んでいた光は晴れ、元の景色へと戻される。

 

 

 

 

 

遊治郎「遊大くん、遊大くん!」

 

 

光から脱出した遊大のデュエルディスクから遊治郎の声が聞こえる。

 

 

遊大「…ああ」

 

遊治郎「大丈夫かい、今なら止められるよ」

 

 

その時、遊大は手札にあるドローしたカードを確認する。

 

【冥王竜ヴァンダルギオン】。

 

赤い竜が遊大に渡したカード。

 

この状況に理解は出来なかったが、利用する価値はある。そう思いたった遊大は遊治郎に対してとぼけた返事をする。

 

 

遊大「なんの事だ」

 

 

遊大は、低劣な壺の効果でドローしていたブラック・ホールを発動する。

 

 

遊大「デュエルはまだ、終わっちゃいないだろ」

 

 

直後、走行する遊大のDボードと遊治郎の運転する583系列車の上空に黒い渦が出現した。

 

 

ブラック・ホール

魔法カード

 

 

遊治郎「ここで【ブラック・ホール】だと!?」

 

 

デュエルトレインの走行する上空に出現した黒い渦に、遊治郎のシーメンス・ドラゴニュートは声をあげることも無く吸い込まれていく。

 

 

遊治郎「くっ!ここであのカードを引いたというのか…!」

 

遊大「ターンエンド」

 

 

《鶴見駅→新子安駅→東神奈川駅:通過》

 

 

遊治郎「もう横浜駅は目の前、桜木町までは行かせない!!私のターン、ドロー!

 

私はシーメンス・ドラゴニュートの効果で墓地へ送った【鉄軌獣メトロ・モール】の効果を発動!ライフを400ポイント支払い、特殊召喚する!!」

 

 

遊治郎

LP1900→1500

 

 

鉄軌獣メトロ・モール

☆☆☆ ATK.100

 

遊治郎「そしてこれが最後だ!私がこのターンでドローしたカード【死者蘇生】を発動!!これで私は、シーメンス・ドラゴニュートを復活させる!!」

 

遊大「カウンター罠発動。【神の宣告】ライフを半分支払い、その発動を無効にし、破壊する」

 

 

遊大

LP100→50

 

 

遊治郎「やはりまだ止める手段が残っていたようだね。だが残念だ、メトロ・モールは自身をリリースすることで、墓地の鉄軌モンスターを特殊召喚できる。

 

このまま死者蘇生が素通りしてくれれば、私はLINK4のモンスターを呼び出せたんだが…。どっちに転んでも、私の勝利は変わらない」

 

遊大「何を勘違いしてやがる」

 

遊治郎「どういう事だね?」

 

遊大「アンタは勝てない、俺の勝ちは決まった」

 

遊治郎「今は私のターンだ、君にはもう何かアクションを起こすことは出来ない。さっきドローしたブラック・ホールはもう使ったようだからね」

 

遊大「誰がいつ【ブラック・ホール】をドローしたと言った」

 

遊治郎「何、じゃあ今も残っているその手札は…!」

 

遊大「冥界の竜よ。神の導きにより現世へ降臨し、決闘(デュエル)の幕を降ろせ!!現れろ!!

 

 

【冥王竜ヴァンダルギオン】!!」

 

 

その竜は、雷雲の中から現れる。

 

稲光を轟かせ眩い閃光が夕闇を照らし出す。

 

 

冥王竜ヴァンダルギオン

☆☆☆☆☆☆☆☆

ATK.2800

 

 

遊治郎

LP.1500→0

 

 

 

遊治郎「なんだ!?あのカードは!!」

 

その瞬間、運転台のモニターに「YOU LOSE」の表示が現れ、同時に緊急ブレーキが作動する。

 

 

遊治郎「うおおおああああ!!」

 

 

 

遊治郎の操る583系はコントロールを失い、横浜駅のホーム内で緊急停車。

 

海馬旅客鉄道が、未知なる敵に敗北したのだ。

 

それも、相手の挑発に乗って2連敗という不名誉な称号を得て…。

 

 

 

 

 

 

遊治郎「いてて、腰が…」

 

 

遊治郎は腰をさすりながら、横浜駅のホームへ降りる。

 

しかし、遊大は583系を追い抜き、そのまま線路から離脱していた。

 

 

 

遊治郎「ふふ、勝ち逃げかぁ」

 

 

遊治郎は、敗北したにも関わらず晴れやかな気分だった。

 

本気のデュエルというものを、久々に味わったからだろう。

 

だが、そんな気分をぶち壊すように遊治郎のデュエルディスクに電話が入る。

 

それは遊治郎にとって、今一番掛かってきて欲しくない人物。

 

 

遊治郎「もしもし」

 

??「私だ」

 

遊治郎「そ、その声は…社長!?」

 

 

その声の主は、海馬コーポレーション社長にして鉄道事業の総責任者『如月瀬奈』だ。

 

 

瀬奈「天馬遊治郎、今週中には日本に戻る。私が帰国次第改めて連絡をするので、連絡の翌日は大崎駅ではなく本社へ出社すること。以上」

 

 

そう言い放つと通話は切れる。

 

 

遊治郎「ああ、終わった…」

 

 

遊治郎は、どんよりした気分のまま、583系を大崎まで回送するのであった。

 

 

 

 

軌道から車道へ脱出した遊大、勝利の報告をナリヤへと電話を入れていた。

 

 

遊大「よおナリヤ!見てたか!?

 

やったぜ俺!勝った!勝ったぜ!!」

 

ナリヤ『見たよ!Kuritterですっごいバズってる!あの海馬旅客鉄道の猛者に勝つなんて凄いよ遊大!』

 

遊大「今日は実家で祝杯だぜ!店長が文句言おうと居座ってやる!」

 

ナリヤ『せめてバックヤードでやろう、店長が可哀想だから…』

 

遊大「そんじゃ、また後でな!」

 

ナリヤ『うん!』

 

 

遊大は通話を切り、そのままDボードを爆走させて帰路についた。

 

この夜のデュエルが、多くの人達に影響を与える事を本人はまだ知らない。

 

列車は警笛を鳴らし、再び物語という軌道を走り始めたのだ。

 

 

 

NEXT→第2話:因縁




●車両紹介

・583系
東京を起点とする長距離寝台列車に使用される。「ゆうづる」「はつかり」「ひばり」など名称は様々。特徴的なのは寝台スペースを昼間は通常の対面式座席に切り替えることが出来る。昼は急行、夜は夜行列車として活躍する。

本作では運転台に決闘乗務に対応したデュエルシステムが組み込まれ、ワンハンドルマスコンの右側にタッチパネルが搭載。これにより直接カードを触れること無くデュエルが可能となる。さらに音声認識も兼ねている為、ハンドフリーでデュエルを行うことも可能。また電化区間でない区間を走行する為に8両のうち4両はMM車(モーメントモーター)改造が施されている。
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