「「デュエル!!」」
診療の時間が過ぎた病院の受付前、並ぶ椅子には遊治郎とナリヤだけ。
ひと気のほとんど無い病院の待合室にて、遊大と遊壱のデュエルが始まった。
《遊大:TURN1》
遊大「俺のターン!カードを2枚伏せてターンエンドだ」
《遊壱:TURN2》
遊壱「オレのターン、ドロー。
…随分余裕じゃないか?あんまり舐めてると痛い目を見るぞ」
遊大「うるせえやい」
ニヤリと笑い強がる遊大ではあるが、本当はこれしか手が無かった。
展開用のカードはあったがブラフの為にセットする程の余裕は無い。しかしギリギリ耐えうる可能性に賭けてカードを伏せたのだ。
遊壱「悪いがこちらも仕事だ、早々に片付けさせてもらうよ。
オレは手札からフィールド魔法【ハーピィの狩場】を発動!」
ハーピィの狩場
フィールド魔法
遊大「は…ハーピィだと!?」
遊壱「そう、これはオレの愛用しているデッキでね。偶然にも君にとっては不利な相手だ。
そして通常召喚だ!
現れろ!【ハーピィ・ダンサー】!」
ハーピィ・ダンサー
☆☆☆☆ ATK.1200
遊壱「この時【ハーピィの狩場】の効果が発動。相手の魔法・罠カードを1枚破壊する!」
遊大「速攻魔法発動!【低劣な壺】!」
遊壱「出たな、低劣な壺…。こんな使いづらいカードでもデッキによっては真価を発揮する」
遊大「俺だってこんなカード使えねえと思ってたけどな」
遊大は振り返ってナリヤに声をかける。
遊大「おいナリヤ。今まで黙っていたけどお前だろ?勝手に俺のデッキにこのカードを入れたのはよ」
ナリヤ「いやぁ、やっぱりバレるよね」
そう言いながらナリヤはバツが悪そうに頭をポリポリと掻く。
遊大「しばらく借りとくぜ」
ナリヤ「勿論良いさ、使ってなんぼだからね」
遊大「つーわけで続けるぞ、俺は自身の伏せていたカウンター罠カードを破壊する。これによりライフを500回復し、1枚ドローする」
墓地
→神の宣告
遊大
LP.8000→8500
遊壱「なるほど、2枚のカードを犠牲に1枚のドローに望みを託したか。ならば別の方法で攻めるのみ」
遊大「何?」
遊壱「オレはカードを1枚伏せて【ハーピィ・ダンサー】の効果を発動。
自分フィールドの風属性モンスターを1体手札に戻すことで、新たに風属性モンスターを通常召喚出来る。俺はこの効果でダンサー自身を手札に戻して…
新たにこのモンスター。【ハーピィ・チャネラー】を通常召喚する!」
ハーピィ・チャネラー
☆☆☆☆ ATK.1400
遊壱「チャネラーの召喚により【ハーピィの狩場】の効果発動。自身の伏せたカードを破壊する」
墓地
→ヒステリック・サイン
遊大「自分で伏せたカードを破壊するだと…」
遊壱「こいつは最後に解決される、まずは【ハーピィ・チャネラー】の効果を発動する。
今手札に戻したダンサーを墓地に送り、デッキから【ハーピィ・ハーピスト】を守備表示で特殊召喚!!」
ハーピィ・ハーピスト
☆☆☆☆ ATK.1700
遊壱「俺はハーピィ・チャネラーにハーピィ・ハーピストをチューニング!」
遊大「チューニング!?何言ってやがる、ハーピストはチューナーじゃねえぞ!」
遊壱「その通り、だがこのシンクロモンスターはハーピィモンスターをチューナーとして扱う事が出来る。
シンクロ召喚!
現れろ!【ハーピィ・レディSC】!」
ハーピィ・レディSC
☆☆☆☆☆☆☆☆
ATK.2600
遊壱「ここで【ハーピィの狩場】の効果で狩場自身を破壊する、こいつは強制発動でね。
だがそれに重ねて【ハーピィ・レディSC】の効果発動!自身の魔法・罠カードの効果が発動した時、相手フィールドのモンスターを手札に戻す!
と言っても、君のフィールドにはモンスターはいないから不発だ」
遊大「チッ!どっちにせよフィールドに残しておけば何度でも能力が起動する、面倒なカードだぜ…」
遊壱「さあバトルだ、ハーピィ・レディSCでダイレクトアタック!」
遊大
LP.8500→5900
遊大「この程度…なんてことねえよ。次のターンでフィールドをひっくり返してやる!」
遊壱「残念だが君は次のターン何も出来ない、そして次のオレのターンに敗北する」
遊大「何ぃ?てめえ馬鹿にしてんのか」
遊壱「今にわかる。エンドフェイズにこのターン破壊された【ヒステリック・サイン】の効果を発動!
デッキからハーピィと名の付くカードを3枚まで手札に加える。
さらにシンクロ素材となった【ハーピィ・ハーピスト】の効果発動!攻撃力1500以下で風属性のモンスターを1体をデッキから手札に加える。
合計4枚のカードを補充させてもらうよ」
デッキ→手札
ハーピィ・パフューマー
ハーピィ・オラクル
ハーピィ・チャネラー
ハーピィの羽根吹雪
遊大「クソ…手札が6枚に戻りやがった」
2人のデュエルの様子を遊治郎とナリヤはただ見守る事しか出来ない。
一切の隙が無い遊壱刑事の立ち回りに遊治郎は息を飲む。
遊治郎「さすがは刑事なだけあって鮮やかなデュエル運びだ、デッキをまるで手足のように操っている」
ナリヤ「あの人、愛用しているデッキだって言ってましたけど…本当は遊大を完全に対策していたりして…?」
??「違うよ、あれは正真正銘ユーイチのデッキ」
すると2人の座る椅子の後ろから声がする。
振り返るとそこには金髪の少女が立っていた。
あまりにも派手なピンク色のブレザーに青のスカート。それがとても有名な学校のものであると2人は察する。
ナリヤ「君は…誰だい?」
遊治郎「見たところ『童実野高校』の制服だね、そこの刑事さんの知り合いという所か」
美鳥「あたし美鳥(みどり)、ユーイチの相棒よ」
ナリヤ「相棒…?」
美鳥「今日のユーイチは真面目モードだから、あの子勝てないよ」
遊治郎「それはどうかな、次のターンのドロー次第では盤面をひっくり返すことは不可能ではない」
美鳥「それこそどうかな、さっきユーイチが手札に加えたカードを突破する事は不可能よ。『絶対』にね」
ナリヤ「絶対に防げない?」
美鳥「まあ見てなよ」
3人は遊大と遊壱のデュエルの行方を再び見守り始める。
《遊大:TURN3》
遊大「俺のターン、ドロー!
やっと動けるぜ、俺は【創造の代行者ヴィーナス】を召喚!」
創造の代行者ヴィーナス
☆☆☆ ATK.1600
遊壱「まあ引くだろうと思っていたよ、それとももう持っていたかな?」
遊大「俺はライフを500ポイント払い効果発動!デッキから神聖なる球体を…」
遊壱「その瞬間!手札からトラップ発動!【ハーピィの羽根吹雪】!」
遊大「何!?手札からトラップだとォ!」
遊壱「羽根吹雪はフィールドにハーピィモンスターが存在する場合、手札からも発動できる。
そしてコイツの効果によりこのターン、君の発動する全てのモンスター効果は無効となる!」
遊大「てことは…ライフの払い損って事かよ!」
遊大
LP.5900→5400
遊壱「さあどうする、残る手札がカウンター罠ならば伏せるがいい。次のターンにまた破壊してやるがね」
遊大「やれるもんなら…やってみやがれ!俺は手札から3枚をセットしてターンエンド!」
遊治郎「おお、やはり持っていたか」
ナリヤ「すでにハーピィの狩場は1枚破壊されている、万が一2枚目が来てもカウンター罠で無効にしてしまえば…!」
遊治郎「まだ勝負は決まらない」
美鳥「分かってないなぁ、2人ともユーイチを知らないからそんなこと言えるんだよ。
良い?あたしら警察なの、警察が理由も無く民間人をデュエルで拘束なんてしないの。あの子は最初から『負ける前提』でデュエルをしているのと同じなのよ」
ナリヤ「なんだって…!」
遊治郎「そもそも、遊大くんはなぜ今になって警察のお世話になっているんだい?
聞いた話だと学校をサボって遊び回ったりしているようだけど…。まさか危ない人たちとつるんでいるとか?」
美鳥「ああ、あの子はただの囮よ」
遊治郎「……え?おとりってどういう…」
美鳥の言葉が理解出来ず遊治郎は聞き返す。
美鳥「本当の目的はあの子じゃないの、もっとタチの悪い奴…かもしれない」
《遊壱:TURN4》
遊壱「ラストターンだ、ドロー!
オレは手札から【ハーピィの狩場】を発動!」
ナリヤ「2枚目の狩場!?」
遊治郎「やはり持っていたか…!」
遊大「させねえよ!カウンタートラップ発動!【神の宣告】!
ライフを半分支払い、魔法・罠の効果を無効にして破壊する!」
遊大
LP.5400→2700
遊壱「そうだ、君はそうするしか打開出来ない。だがこれならどうだ?
手札を1枚墓地に送り速攻魔法【ツイン・ツイスター】を発動!相手の伏せカード2枚を破壊する!」
手札→墓地
ヒステリック・サイン
遊大「て…てめぇ!!」
美鳥「そう、最初の狩場発動はブラフ。確実に全てのカウンタートラップを除去する為の陽動って訳ね」
遊壱「無効にしてみるかい?仮に無効にしたとして、もう1枚の 伏せカードが守る程の価値があるのなら」
遊大「……!!!!」
ナリヤ「あの雰囲気、2枚あるうちの1枚は…」
遊治郎「おそらく発動できないカードだろう…」
遊大「チェーンは…ねえよ」
→墓地
神の通告
天空の宝札
遊壱「ここまで追い詰められたのに『まだ戦わない』つもりか」
遊大「何言ってやがる、こっちだって必死なんだぜ?」
遊壱「今オレが語りかけているのは君じゃない」
遊大「はぁ?」
発言の意図が理解出来ない、と言った感じに遊大は首を傾げる。
構わず遊壱は続けた。
遊壱「先に宣言しておくよ、オレが勝った場合は『即刻、彼の体から出ていってもらう。』我々にはそれを行うだけの技術がある」
ぎろりと遊壱が睨みつけると、遊大の体が震え始める。自分の意思と反して恐怖の感情が込み上げてくる。
そして、突如として遊大の体全体から金色の光が放たれた。
全身を多い隠すほどの眩い光が遊大を包み込む。
遊治郎「な、なんだいったい!!」
ナリヤ「眩しい…!!」
美鳥「ユーイチ!!ユーイチ!!」
遊壱「美鳥!そこの2人を避難させるんだ!」
美鳥「そんなこと言ったって…!」
数秒の後、光は収まりその場に居た者たちは遊大を視認する。
しかしその姿は不自然なものだ。
ソレは顔や体・着ている衣服などは遊大そのものであったが、腰の下まで伸びる黄金の髪があまりにも異質な存在感を放っていた。
遊壱「ようやくお出ましか…」
遊大?『控えよ、わらわを誰と心得る』
遊治郎「…!」
ナリヤ「声が…」
遊大の姿をしたソレが口を開くと、それは遊大の声ではなかった。
聞いたことの無い、若い女の声だ。
面食らいながらも遊壱は改めて遊大の姿をしたソレに向き直る。
遊壱「察するに貴女は真藤遊大の体に眠る『もう1人の魂』だな、いくつか質問に答えてもらいたい。
あなたはいったい何者だ?死者の霊か、妖怪や物の怪の類か。あるいは神格か」
遊大?『それを聞いて何になる?』
遊壱「この国の保全の為だ、簡潔に言えば『勝手に人の体を乗っ取るな』って事だが…。我々はそう言う普通の人間が相手に出来ない連中の取り締まりをしてる訳だ」
遊大?『なるほど、つまりわらわを罪人呼ばわりするか。愚かな…!』
遊大と思わしき存在が目をガッと開いた瞬間、遊壱のデュエルディスクが異音と共に煙が上がり爆発してしまう。
遊壱「うわあああァァァ!!」
爆発の勢いで遊壱はぶっ飛ばされ、デュエルディスクを装着していた右腕からは出血を起こしていた。
美鳥「ユーイチ!!」
負傷する遊壱の元へ駆け寄る美鳥。
遊壱「危険だ…離れていなさい」
美鳥「でも…!」
一方、遊治郎とナリヤは困惑していた。何が起きているのか全く理解できなかったからだ。
遊治郎「我々はいったい…何を見せられているんだ…」
ナリヤ「………」
遊大?『くくく…さて、このわらわを侮辱した罪は高くつくぞ。どうしてやろうか…』
その時である。
遊大?『う……!うぅぅぅあああァァァァァァ!!』
突如、遊大の姿をしたソレは苦しそうな声をあげてうずくまる。
遊壱「な、なんだ…?」
遊大?『な…なんじゃ。まさかヌシが…』
苦しむ遊大の姿をしたソレの黄金の髪から光が失われ、徐々に元の長さへと戻っていく。
最後は完全に元の遊大の姿へと戻った。
遊大「勝手にしゃしゃり出てきてデュエルを妨害すんじゃねえ、馬鹿女…」
そして次に言葉を発した声は元の遊大の物であった。
遊治郎「遊大くん!」
ナリヤ「遊大!大丈夫かい!?」
2人は遊大の元へ駆け寄る。
遊治郎「いったい何がどうなってるんだい?遊大くんにもう1人がどうとか」
ナリヤ「そもそもさっきの女の人誰!?」
遊大は微妙な顔をしながら、ハァとため息をついた。
遊大「わーったよ、ちゃんと説明するから。まずは目の前のデュエルを片付けさせてくれや」
遊治郎「あ、あぁ…」
遊大「そんじゃそっちの姉ちゃんよ、刑事の代わりに続きから始めてくれ」
美鳥「え?あたし!?」
遊大「どの道その腕の怪我じゃあ続行は無理だろ。
俺のデュエルディスクからターン履歴をアンタのデュエルディスクへ送る、そうすればカードを元の位置に戻して再開出来る。まあデッキの順番はシャッフルしてリセットさせてもらうがな」
遊壱「すまんな美鳥、代わりを頼む」
遊壱は爆発したデュエルディスクからばらまかれたデッキを拾い上げ、持っていた手札と一緒に美鳥へ渡す。
美鳥「分かった、やってみる」
遊大「よし、そんじゃデュエル再開だ」
美鳥「でもアンタの負けはほとんど確定してるんじゃない?あたしのターンだし」
遊大「やってみろよ」
ニヤリと遊大は不敵に笑う。
《美鳥:TURN4》
美鳥「じゃあ行くわよ、あたしは手札の【ハーピィ・チャネラー】を召喚!」
ハーピィ・チャネラー
☆☆☆☆ ATK.1400
美鳥「手札のハーピィカードを1枚捨てて効果発動!」
美鳥が意気揚々と宣言する、その絶好のチャンスを遊大は待ちわびていた。
ニヤリと笑みを浮かべ、手札のカードを発動する。
遊大「その瞬間を待ってたぜ!俺は手札からカウンタートラップを発動!【神の聖拳】!!」
美鳥「えぇ!?手札からカウンタートラップ!?」
遊大「このカードは自分フィールドに魔法・罠カードが存在せず、墓地にカウンター罠が存在する場合にのみ手札から発動出来る。
相手の発動したカードの効果を無効にし、強制的にターン終了させる!!」
美鳥「はあああァァァ!?!?」
遊大「それだけじゃねぇ、カウンタートラップで効果を無効にしたことによって降臨せよ!
【冥王竜ヴァンダルギオン】!!」
冥王竜ヴァンダルギオン
ATK.2800
遊壱(強制的にターン終了させるカード…。なるほど、エンドフェイズすら行われないから《ヒステリック・サイン》のサーチ効果を挟むタイミングも与えないって事か…)
遊大「もう後には引けねえ、次のターンが正真正銘…俺のラストターンだ!」
《遊大:TURN5》
遊大「俺のターン、ドロー!!」
ドローしたカードを見て遊大はニヤリと笑う。
遊大「俺はフィールドの【創造の代行者ヴィーナス】の効果発動!デッキから【神聖なる球体】を3体特殊召喚するぜ!」
神聖なる球体 ×3体
☆☆ ATK.500
遊大
LP.2700→1200
ナリヤ「よし!遊大の黄金パターンだ!」
美鳥(マズイ!いくらでもEXデッキからモンスターを呼べちゃう!今のあたしには牽制するカードも、妨害するカードも無い!)
遊大「俺は神聖なる球体3体をリンクマーカーにセット!
リンク召喚!現れろリンク3!
【天空神騎士ロード・パーシアス】!」
天空神騎士ロード・パーシアス
LINK3 ↙↓↘ ATK.2400
遊大「そして俺は手札の【神秘の代行者アース】をコストにロード・パーシアスの効果発動!
テキストに【天空の聖域】を含むカードをデッキから手札に加えることが出来る。
俺が手札に加えるのは勿論! 【マスター・ヒュペリオン】だ!!」
遊治郎「なるほど…最後のカードは【神秘の代行者アース】だったか」
ナリヤ「でもなんで普通に召喚しなかったんだろう。自身の効果でも持って来れ…いや違う。持って来れないんだ!」
遊治郎「そう、アースはフィールドに【天空の聖域】が無いと【マスター・ヒュペリオン】を持って来れない。
幸いフィールドにはヴィーナスが残っていたが、仮にあのドローがマスター・ヒュペリオンだとしても相手を倒すだけの打点が足りない。
遊大くんは《代行者》モンスターをドローすることに賭けたんだ、そして見事引いてみせた!」
遊大「解説どうも、つー訳だ姉ちゃん」
美鳥「な…何よ!」
遊大「コイツが俺のエースモンスターだ!」
遊大は一呼吸置いて、自らの『分身』を天へと掲げた。
「燃える炎は宇宙を照らし!!
闇夜を切り裂く光となる!!
悪を砕くは太陽の鉄拳!!
連なる星々の王よ!!
今こそ勝利の星座を繋げ!!
轟け!!我が分身!!
【マスター・ヒュペリオン】!!」
マスター・ヒュペリオン
☆☆☆☆☆☆☆☆ ATK.2700
美鳥「あ、あああァァ…」
遊壱「まさかあの盤面からここまで立て直すとは…」
遊大「マスター・ヒュペリオンの効果発動!墓地の神聖なる球体を除外して【ハーピィ・レディSC】を破壊だ!!」
マスター・ヒュペリオンはボクシング選手を思わせる挙動でハーピィ・レディSCへ接近し、容赦なく右ストレートを打ち込む。
そしてギャァッ!と鈍い悲鳴と共に破壊される。
美鳥「い、痛そう…」
遊大「バトルフェイズ!俺は想像の代行者ヴィーナスでハーピィ・チャネラーを攻撃!」
美鳥「ぐっ…!!でもでも、全てのモンスターが攻撃してきてもギリギリ耐えきれる!」
遊大「それはどうかな?よぉく見てみな、チャネラーの攻撃力をよぉ」
ハーピィ・チャネラー
ATK.1400→0
美鳥「ええェェェェ!?!?
0になってるうぅぅぅぅ!!」
遊大「言ってなかったな。【神の聖拳】でモンスター効果を無効にした時、他の《神》カウンター罠と違って破壊はしない。その代わり、攻撃力を0にするんだぜ」
美鳥「先に言ってよォォォ!!」
美鳥
LP.8000→6400
遊大「後は全員で総攻撃だ!!
天空神騎士ロード・パーシアス!
冥王竜ヴァンダルギオン!
そしてマスター・ヒュペリオン!!
トリプルダイレクトアタック!!」
美鳥「ギャオオオオオンンン!!」
美鳥
LP.6400→0
遊大「俺の勝ちだ!!」
美鳥「ぐっ…!信じられない…ユーイチは完璧にデッキを回してたのに!」
遊大「まあそうだろうな、完全に俺の負けだった。代行者を引けなかったらな。
でも引いたもん勝ちだぜ、別に逆転の可能性に賭けたつもりはねえが…ろくでもない邪魔しやがった馬鹿が居たからな」
遊大がそう発言すると、遊大の背中からピンポン玉ほどの大きさの球体が発光して現れた。
球体『すまぬ…脅されてついカッとなったのじゃ』
美鳥「あ!もしかしてさっきの!」
遊治郎「遊大くん、君はいったい何を隠しているんだい?」
ナリヤ「話してくれるんだよね…」
遊壱「はぁ…。一応こっちの負けだから、これ以上君に話すことを強要することは出来ない。帰れと言われればオレらは撤退する」
遊大「いや、良い。折角だからこの機会に話すよ」
遊大は近くの長椅子に座る。
遊大「ただな、俺がこれから言う事はここにいる奴以外は他言無用だ。
そして…どれだけ突拍子の無いことを言っても、受け入れろとまでは言わねえ。そういうものだと理解してくれ、俺にはどうする事も出来ねえからな」
遊治郎「分かった」
ナリヤ「だ…大丈夫だよ」
遊治郎とナリヤ、遊壱と美鳥はその近くの長椅子に座り遊大の言葉に耳を傾けた。
※
遊大「まずはこの光ってる奴に関してだが、俺は『光姫(こうき)』って呼んでる。俺の体の7割くらいはコイツで出来てる」
遊治郎「……え?」
遊大「俺、ほとんど死んでるんだよ。コイツが俺の体にいる事で、無いはずの体の部位を補っている」
光姫『よろしくなのじゃ』
遊治郎とナリヤは口を開けたまま言葉に詰まる。
『ほとんど死んでる』『体の部位を補う』。これらの単語だけでなく『よろしく』などと挨拶を交わす発光体。
遊治郎もナリヤも、すぐに頭の中で目の前の出来事を理解出来なかった。
遊壱「つまり現状『2人で1人』って状態なのか」
遊大「そういう事だ」
光姫『ちなみに7割と言ったが体全体の4割は修復出来てるから残り6割じゃのう』
遊大「正直俺も信じられねえけど、コイツはどこぞの星のお姫様なんだとよ。そんで住んでた星が侵略者に襲われて、命からがら地球まで逃げて来たって事だ」
美鳥「ヤバい、こいつ何言ってんのか全然理解できない」
美鳥がげんなりした顔で呟く。
その隣で遊壱は手帳に遊大の言葉のメモを取る。
遊大「まあ普通そういう反応するよな」
ナリヤ「マンガとかアニメの話みたいだ…」
遊壱「しかし、ほとんど死んでるって言うのはどういう事なんだい?」
遊大「俺は生まれた直後、事故にあって母親の腹の中で死にかけた…らしい」
ナリヤ「らしいって、どういう事?」
遊大「光姫がそう言うんだ、信じるも信じないも自由だがコイツの存在を肯定するなら真実なんだろうよ。
そんで光姫も地球に来る時、大気圏で肉体を失って魂だけになった。
光姫の種族は『再生の力』を持っていて、どんな壊れた物も復元できる。けど光姫の肉体は完全に焼失したから元に戻すことは出来ない。
器となる肉体が無ければ魂は消耗していずれ消える、そんな時に事故で死にかけてた母親の腹の中で一緒に死を待つ俺を見つけたんだとよ。
こうして体のほとんどが欠損した俺は光姫のおかげで一命を取り留め、光姫も俺という肉体のおかげで魂が消滅すること無く今に至るって訳よ」
遊治郎「じゃあ遊大くんは生まれてからずっとその…光姫さん?と一緒に過ごしてきたのか」
光姫『呼び捨てで良いぞ。確かに生まれから共に過ごしてきたが…こやつがわらわを認識したのは育ての親の死後じゃ』
遊大「光姫がうまいこと死にかけてた母親の腹から俺を脱出させて、安全な場所まで避難させてくれたのよ。そんで偶然それを見かけた真藤の両親に拾われたってこと」
ナリヤ「でもなんで光姫はそれまで遊大に自分の存在を隠していたの?」
光姫『そりゃそうじゃろう、幼い童のヌシに姿を見せたところで本当に理解は出来ん。
それに幸いにもヌシの育ての親は良い者達でな、わらわの助けなど必要無いくらいヌシを育て上げた』
遊大「育ての両親が死んで葬式が終わって、俺の意思で全寮制のアカデミアへ進学した。入学式の数日前だから、俺が光姫を認識したのは3年前だ」
光姫『それで、刑事よ』
遊壱「なんでしょう」
光姫『ここまで身の上を話した上で、わらわはどのような罪に問われ裁かれるのかのう?
わらわをヌシから引き剥がせばヌシは死ぬ。当然じゃ、わらわはヌシの体のスペアみたいなものじゃ』
遊大「病院で検査したら一発だぜ。レントゲンでもMRIでも、体の中を覗けば俺の体は欠陥だらけよ」
遊壱「分かった、この件は俺の中だけで留めておく。ただし万が一、真藤遊大が不振な死を遂げたら間違いなく疑われると思ってくれ」
光姫『心得た、そもそもわらわはヌシと一心同体。ヌシが死ぬ時はわらわも共に死にゆく』
美鳥「ヤバい、宇宙人に会うのって初めて。ウケる」
クスクスと笑いながら美鳥は肩を震わす。
遊壱「俺らは基本『怪異』担当だからなぁ、宇宙人とかはあんまり詳しくないんだ」
遊大「つーか、なんでアンタらは俺のこと調べてたんだ?ついでだしアンタらのことも教えてくれよ、光姫絡みで今後も世話になるかもしれん」
遊壱「おっと、そうだったな」
遊壱はポケットから再び警察手帳を取り出す。
顔写真と名前、役職が見えるように遊大たちへ見せた。
遊壱「改めて自己紹介させてもらう。
オレは『警視庁捜査第0課所属刑事』の『高倉遊壱』。主に人間以外の犯罪の捜査担当を任されている。
そしてこっちのJKは美鳥、分類としては『怪異』だ」
美鳥「よろ〜」
ナリヤ「怪異って事は妖怪とか?」
美鳥「一応あたしは『デュエルモンスターの精霊』って奴。警察の分類としては怪異に含まれるんだけど」
遊治郎「デュエルモンスターの精霊!?そんなものおとぎ話だけかと思っていたよ」
遊大「いやいや、お前どう見ても人間じゃん。デュエルモンスターの精霊だなんて非科学的だぜ」
美鳥「半分以上宇宙人の体の奴に言われたく無いっての!」
遊壱「まあ彼女も色々あってね、今はオレの助手をやってもらってる」
遊大「普通の人間に見えるが…なんのモンスターなんだ?」
美鳥「こうすれば分かるんじゃない?」
美鳥がそう言うと、左手のひらを遊大のほうへ向ける。
すると左手を覆うように眩く光ると、その手は鳥の鉤爪のような形へと変化する。
美鳥「どうよ?」
フフンと美鳥は得意げな顔をする。
遊大「おお、マジでモンスターだ」
遊治郎「でもデュエルモンスターズはカードが多過ぎて全部は覚えてないからなぁ」
ナリヤ「鳥のモンスターだし、刑事さんのデッキを考えればハーピィとか?」
美鳥「正解!あたしは『ハーピィ・ガール』の精霊よ」
遊大「なんかおかしくね?」
美鳥「何がよ」
遊大「ハーピィ・ガールなんだろ?なんで自分を『ハーピィ・ガールの精霊』なんて言い方するんだ?」
美鳥「純粋なモンスターじゃないからよ」
遊大「なんだそりゃ」
美鳥「話すと長くなるから、次会う時に忘れてなければ話してあげても良いよ」
遊大「まあいいや、そっちの事情もそういうもんだって事で頭に入れておくよ」
遊壱「さてと、とにかく今日ここに来た本題2つ目に入ろうか」
遊大「1つ目は勿論『光姫』の事だろうが、他に何もねえけどなぁ」
遊壱「君はそこの遊治郎さんとデュエルした時『何か』にあったはずだ。
それはもしかして『2つの口がある赤い竜』ではなかったかい?」
遊大「…!!」
遊大は口に出しはしなかったが、驚いた表情を隠すことは出来なかった。
遊壱「OK、その反応だけで充分だよ。別に悪いことをした訳じゃないんだ、堂々としていればいい」
美鳥「逆に良かったよ、あたしらの知ってるドラゴンと別の奴じゃなくて」
遊大「なぁ…あんたらは知ってるのか?あの『2つ口の赤い竜』の正体を…」
遊壱「まあね、でも君はまだ知らなくていい。『冥王竜ヴァンダルギオン』は良いカードだから大事にすると良い。
『王の器』が見守ってくれるさ」
そう言い遊壱は椅子から立ち上がり、ポケットからスマホを取り出す。
遊壱「あちゃー…やっぱり連絡来てたか」
美鳥「何が?」
遊壱「牛尾さんからだ、とっとと引き上げろって」
美鳥「おっちゃんが?まあしゃーないか」
遊壱「皆さん、お騒がせしましたね。また何かあればお話を聞きに来るかもしれません」
遊治郎「まあ我々も事情を知ってしまいましたし、可能な限りは協力します」
ナリヤ「なんか、とんでもない話に巻き込まれた気がする…」
不安がるナリヤ、気丈に振る舞う遊治郎。
両者とも知人の秘密に動揺していた、その度合いに大小あれど気持ちに変わりはしない。
それでも遊大は笑って2人に声をかけた。
遊大「何暗い顔してやがる、別に死にゃしねえんだからよ。これまでなんとも無かったんだ、これからだって何もねえよ。
あ!だからって俺に変な気づかいしたらぶっ飛ばすからな、デュエルの手を抜くとか以ての外だ」
遊治郎「フフ…そうだね。元気が一番だ」
ナリヤ「大丈夫だって、手を抜けるほど器用じゃないからさ」
遊大の笑顔に遊治郎とナリヤは安堵する。
遊壱「それでは失礼します」
美鳥「じゃあね〜」
こうして遊壱と美鳥は病院の出入口から出ていった。
そして3人は気づく、病院の待合室の電灯がほとんど消えていたのだ。
「あの〜すいません」
そして背後から女性の声がする。
振り返ると看護師の女性が立っていた。
「申し訳ないんですけど、刑事さん達も帰られたみたいですし戸締まりしたいんですが…」
遊治郎「あ!もうこんな時間に…」
そう、とっくに19時を回って診療の受付はすでに終了していた。
遊治郎「申し訳ありません、すぐに出ますので」
ナリヤ「すいませんでした」
遊大「っす」
こうして3人も病院の外へ出るのだった。
※
遊治郎「おや?」
外へ出た遊治郎がズボンのポケットに手を入れると、スマホのバイブレータが鳴っていることに気づく。
遊治郎「どこからだろう…」
画面を開くと見知らぬ番号から十数回もの不在着信が入っていた。
遊大「知らない営業とかじゃねえの?」
遊治郎「にしてもしつこいだろう…」
「失礼ね、この私の電話に出ないばかりか営業呼ばわりするなんて」
その声の主は遊治郎たちの正面に仁王立ちしていた。
白のコートを羽織る長身の女。
遊治郎はその姿に声を震わせる。
遊治郎「あ…あああ!!あなたは……!」
遊大「なんだこの女…」
遊治郎「ゆ…遊大くん!?この人は…!」
「初めまして、真藤遊大」
その女は静かに、しかし確かに遊大を威圧するかのように口を開く。
遊大「な…なんだよアンタ。俺を知ってるのか?」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。まさか自分が泥を塗った会社のトップの顔を知らないなんてね」
遊大「泥を塗った?」
遊治郎「遊大くん、この人はね…。
私の働いてる会社、海馬旅客鉄道株式会社の『如月瀬奈』社長だ」
遊大「…しゃ…社長?こんな俺と大して変わらない歳の女が?」
瀬奈「私の祖父『海馬瀬人』も17歳の時にはすでに社長だった、何も問題は無い。
それよりも、我が社の信用を損なうようなダメージを与えた人間と親しくなっているあなたのほうが問題よ。天馬遊治郎」
瀬奈はデュエルディスクに1枚のカードをセットする。
すると瀬奈の背後に光のゲートが出現し、中から巨大なモンスターが現れた。
それは誰しもが知る最強のモンスター。
遊治郎「こ、これは……!!」
遊大「『青眼の白龍』!!」
ソリッドビジョンのはずなのに、ブルーアイズの羽ばたきが肌に感じられる。遊大とナリヤは驚いて声が出ない。
遊治郎「これが噂に聞く『質量を持ったソリッドビジョン』ですか…。確かに本物のモンスターがそこにいるみたいだ」
瀬奈「天馬遊治郎、選びなさい。
『自主退職』か。
『新型ソリッドビジョンの被検体になる』か。」
遊治郎「……最初から私に選択権など用意されていないようなものです、受けましょうそのデュエル」
瀬奈「よく言ったわ」
瀬奈は遊治郎達に背を向け歩き出す。
瀬奈「天馬遊治郎! 並びに真藤遊大!明日の午前10時、我が社に出頭するように!」
遊大「ハァ!?なんで俺まで!」
瀬奈「待っているわ」
瀬奈は遊大たちに背を向け、待たせていた黒塗りの高級車へと乗り込む。
そして3人を置いて走り出していった。
遊治郎「さて、もう逃げられないって事か…」
遊大「…さっきは驚いて呆然としてたが、考えてみりゃ貴重な体験じゃねえか。新型ソリッドビジョンのテストプレイヤーになれって事だろ?」
ナリヤ「でもあの社長さんだよ?どうなる事か…」
遊大「怖気付いてんじゃねえよ、つーかお前は呼ばれてなかったみたいだし」
ナリヤ「た、確かに…」
遊治郎「とにかく帰ろう、明日の為にもね」
遊大「おう、じゃあなおっさん」
ナリヤ「おやすみなさい」
3人は挨拶を交わし帰路につく。
明日、自分たちに何が待ち受けているのか想像もつかない各々だったが無情にも時間は過ぎていった。
※
[都内:警視庁捜査0課オフィス]
警視庁のオフィスに戻ってきた遊壱と美鳥に声がかかる。
牛尾「おお、やっと帰ってきたか。それで『例の邪悪な気配』と『赤竜(せきりゅう)』の情報はあったのか?」
遊壱と美鳥を迎えたのは捜査0課の本部長である『牛尾哲』。
ニヤニヤと笑いながら自分のデスクの席から遊壱を見上げる。
遊壱「いえ、全くの別物でした。引き続き調査を続けます。
それと真藤遊大が『赤竜』と接触したのは事実のようです。本人に身体的異常は無く…いや、無いわけでは無いですが『赤竜』が原因での不調は無いようです」
牛尾「そうか、やはり会っていたか。本人が元気なら問題ない。
それよりも『邪悪の気配』の手がかりはゼロなのが痛いな、まあそうだよなぁ…。発足以来全く足取りを掴めていないからな、焦ることは無いさ」
美鳥「でも少しづつ反応は大きくはなってるんだよね、やっぱり邪教徒みたいな連中でも関わってるのかなぁ…」
牛尾「可能性はゼロでは無いだろうな、世界中で同レベルの観測結果が出ているから我々の手に負えない組織という可能性もある」
美鳥「やばいじゃん!」
牛尾「そんときゃ『プロフェッサー』が動く。『本田警視』もその時が来れば黙っちゃいないさ」
遊壱「それと、今回接触した真藤遊大とは別の人物たちにも不可解な検査結果が出ました」
美鳥「あたしがこっそり近寄って、エネルギー反応を測定したんだけど…。なんだか変なんだよね」
牛尾「ほお、どんな感じだ」
遊壱「まず『天馬遊治郎』。海馬旅客鉄道勤務の鉄道マンですが、一般の人が抱えるものの3倍以上の『憎悪』に近いエネルギーが検出されました。
しかし本人の感情の波は穏やかで、明らかに結果と矛盾しているんです」
牛尾「つまりその遊治郎って奴も『何かに取り憑かれてる』って事か」
美鳥「でもあたしら、全然存在を掴めなかったんだよね」
遊壱「真藤遊大に関しては接触した時点で、内包する『もう1つの魂』を目視で確認しています」
牛尾「まあそれでも常人の3倍程度なら、後回しにしてもすぐ影響が出ることは無いだろうよ」
遊壱「そしてもう1人は『瞳ナリヤ』。瞳電気鉄道の社長『瞳月人』の養子で、旧名は『布袋(ほてい)ナリヤ』。瞳電気鉄道の車両を製造した『布袋重工』の息子です」
美鳥「あいつもヤバいね、『感情』が感じ取れない」
牛尾「おいおい、人間なんだろソイツ。感情が無いなんて有り得ねえだろ。美鳥の感覚が鈍っちまったんじゃねえだろうな?」
美鳥「にゃにをぉ!?このタイムトラベル親父!」
遊壱「俺も同じでした、彼からは感情が感じ取れない」
牛尾「じゃあ言葉も棒読みなのか?」
遊壱「抑揚はしっかりとありました、喜びや驚きの反応も常人と変わりません。しかし内面では全くの『無』です」
牛尾「…うむ、そっちは要注意かもな。他の奴にも監視に当たらせるとするよ」
遊壱「お願いします」
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