遊大&遊治郎の583系電車と、京浜急行の河原清次が操る2100形電車。
運転士同士ではない、運転士と乗客によるデュエル。
初の試みとなる決闘伴走車(ばんそうしゃ)を使用した試験走行デュエルが始まった。
遊大「ライディングデュエル!!」
清次『アクセラレーション!!』
《決闘(DUEL):池袋~所沢》
これまでとは全く違う環境。
車両の壁があるとはいえ、透けた壁の向こうに見える景色は時速80km前後で駆け抜けていく。
数字で見た時、たいして速さを実感できないだろう。座席に座って安全が確約されている状況しか体験したことしか無い者は…。
絶対に安全と分かっていても、立ったままの姿勢で視界の横を過ぎ去る世界は着席している時と比べ物にならない恐怖感を煽る。
涼しい顔でロングシートに座る如月瀬奈を横目に遊大は内心モヤモヤしながらも開始の宣言をあげる。
遊大
「行くぜ!俺のターン!!」
それに加えて遊大は、この借り物のデッキを手に取った時から違和感を感じていた。
具体的には分からない、ただならぬ『圧迫感』を受けている。そんな気がしてならない。
彼の中にいるもう一つの魂である『光姫(こうき)』も同じくその違和感を指摘する。
光姫
『じろじろと見られている気配がして薄気味悪い…。
デッキに眠るカードからも異様な感じがするぞ…警戒するのじゃ!遊大!』
遊大
「知ったことかよ、とにかくデュエルに集中だ。
俺は手札から【ドラゴネット】を召喚!」
ドラコネット
☆☆☆ ATK.1200
遊大
「ドラコネットの効果発動!デッキからレベル2以下の通常モンスターを特殊召喚するぜ!」
清次
『させねえ!俺は手札から【エフェクト・ヴェーラー】の効果を発動!
ドラコネットの効果を無効にする!』
すかさず反撃の一手を与える清次、ソリッドビジョンに映し出されたエフェクト・ヴェーラーが遊大の前に立ち塞がり突風を起こす。
遊大
「ウオォァ!!あぶねえ!!」
とても作り物とは思えない突風に足を取られ車内の通路後方に転んでしまう。
すぐさま起き上がろうと後ろにある壁に手を付くが、前途の通りその壁は透明だ。安全であるはずの車内でありながら、視認出来ない壁は遊大の冷静な判断力を欠けさせるには充分すぎた。
ふだん電車に乗る遊大でも、全く壁の見えない車内から見るビル群は恐ろしく感じた。まるで波打つ巨大なモンスターのように…。
遊大
「くそが...こんなもんでビビってたまるかってんだ…」
瀬奈
「ふふ、臨場感たっぷりでしょ?」
そんな様子を瀬奈はロングシートの座席に足を組んで座ってニヤニヤと眺めている。
遊大
「ふざけやがって…。俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
《椎名町→東長崎:通過》
清次
『俺のターン、ドロー!
俺は手札から【E-エマージェンシーコール】を発動!
デッキから【E・HERO】モンスターを手札に加える。俺は【E・HEROネオス】を手札に加えるぜ』
遊大
「ネオス?そんなのHEROに居たか?」
カードの知識には自信のある遊大だが、聞いた事のないカードを宣言され困惑する。
瀬奈
「居るわ、もう何年も前に実施した一般公募の企画でカード化したものよ」
遊大
「じゃあ知らねえわ」
すでに10万種類を超えるデュエルモンスターズのカード郡。全てのカードの知識を蓄えるのは並大抵の事では不可能だ。
だからこそ、デュエル中のテキスト確認は重要な意味を持つ。敵を知ることこそ勝利へ繋がる道なのだ。
すぐさまデュエルディスクを操作して、ネオスの能力を確認する。
遊大
「どれどれ……ってコイツ通常モンスターじゃねえか!!」
瀬奈
「一般公募のカードよ?馬鹿げた能力のはずないじゃない」
遊治郎
(社長、めちゃくちゃ話しかけてるなぁ...)
運転席にも話し声は集音マイクで届いている。列車を運転する遊治郎は口にはしないにせよ心の中で呟いた。
清次
『続けるぜ、俺は手札のカードを1枚セット。
そして速攻魔法【ツイン・ツイスター】を発動!手札を1枚墓地へ送り、フィールドの魔法・罠カードを2枚まで破壊できる。
てめえの伏せカードと、俺の伏せカードを破壊だ!』
再び車内に突風が吹き荒れ、伏せられていたカードは破壊される。
ブレイクスルー・スキル→墓地
遊大
「な…なんでアイツ、わざわざセットしたカードを破壊したんだ...?」
清次
『ハッ!使うからに決まってんだろ!
俺は自ら破壊した【リミッター・ブレイク】の効果発動!
デッキから【スピード・ウォリアー】を特殊召喚するぜ!』
スピード・ウォリアー
☆☆ ATK.900
清次
『そして手札からコイツを出す!【ジャンク・シンクロン】を通常召喚!』
ジャンク・シンクロン
☆☆☆ ATK.1300 チューナー
遊大
「あれは...チューナーか!」
清次
『俺はレベル2のスピード・ウォリアーに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!』
3+2=5
清次
『アウト・オブ・ウォール!立ちはだかる壁をぶち抜け!シンクロ召喚!
現れろ!
【ジャンク・ウォリアー】!』
ジャンク・ウォリアー
☆☆☆☆☆ ATK.2300
遊大
「攻撃力2300...厄介だぜ」
瀬奈
「まだよ、警戒しなさい」
遊大
「は?どういう事だよ...」
清次
『おっと社長さん、さっきから聞こえてんぜ?デュエルに余計な口出しは無用だ』
瀬奈
「私は何も助言してないわ、続けなさい」
遊治郎
(警戒しろって発言は助言じゃないのか...)
清次
『まあいい、俺はさらに手札から【O-オーバーソウル】を発動!
墓地に眠るE・HEROを復活させる。
甦れ!【E・HEROネオス】!!」
E・HEROネオス
☆☆☆☆☆☆☆ ATK.2500
遊大
「げっ!!いつの間に...」
光姫
『さっきの【ツイン・ツイスター】のコストで墓地に送っていたようじゃな』
清次
『バトルだ!ジャンク・ウォリアーでドラコネットを攻撃!スクラップ・フィストォ!』
ジャンク・ウォリアーの鉄拳でドラコネットは粉砕される。
遊大
「くっ!」
遊大
LP.8000→6900
ダメージを受け目を伏せた一瞬の後、目の前に腕を組むネオスが待ち構えている。
遊大
「何ッ!?こいつ…いつの間に!?」
清次
『E・HEROネオスのダイレクトアタック!ラス・オブ・ネオス!!』
ネオスは遊大に手刀を振り上げ飛びかかる、とっさに遊大はデュエルディスクを盾のように構え直撃を避けた。
遊大
「うおォ!!な、なんて迫力だ…!!」
遊大
LP.6900→4400
清次
『よぉし、だいぶライフを削ってやったぜ。手札を使い切っちまったが、こっちには攻撃力2000を超える大型モンスターが2体壁として並んでいるんだからな。ターンエンドだ』
遊大
「こいつ、結構やるぜ…レンタルデッキでこの展開力は想定外だ」
光姫
『けどデッキの中身はこっちと同じ、遊大なら出来るはず!それよりも気になることが…』
遊大
「なんだ?」
光姫
『あの社長、さっきからぶつぶつ喋ってるのじゃ…気味が悪いのう』
遊大が振り返ると、デュエルディスクを耳元に当てて話をしている。
遊大
「ちっ、誰かと電話してやがる…」
光姫
『呑気よのう…』
運転席からデュエルの様子を集音マイクで聞いていた遊治郎も感嘆の声をあげる。
遊治郎
「あの清次くんがここまでやるとは…。やっぱりこの10年で相当腕を上げたみたいだね。
この様子だと『京一』くんも…」
※
清次のターンが開始した直後、瀬奈のデュエルディスクに着信が入る。
瀬奈
「もしもし」
???
『やあやあ!ついにおっぱじまったようだね!《彼らのデッキ越し》に様子を見ているよ!』
瀬奈
「うずめ様、声がデカイ」
テンションの高い女の声の主に『うずめ』と呼ぶ瀬奈、しかしうずめは慌てて言葉を返した。
うずめ
『コラコラ!誰が聞いてんだか分かんないんだからファーストネームで呼ばないの!『プロフェッサー』って呼びな!もしくは…わ』
瀬奈
「分かったからプロフェッサー静かにして、それでなんの用なの?」
うずめ
『うぅ…せっかく色々調べてあげたのに…。しょんぼり』
瀬奈
「てことは『達也(たつや)叔父様』の行方が分かったって事?」
うずめ
『まあまあ、順を追って話すよ…。結論から言うと『城之内達也』殿は見つかっていない』
瀬奈
「そりゃそうよね…10年も行方をくらましてるもの」
うずめ
『けど、明らかに怪しい動きをしている奴らの尻尾は掴んだ。この件は瀬奈が帰ってきた時に直接話すよ』
瀬奈
「分かったわ、モクバ叔父様にはもう?」
うずめ
『ああ、モクバ殿にはとっくに報告済みだよ』
瀬奈
「なら良かった、他に何か分かったことは?」
うずめ
『あるけど、さすがに電話越しじゃあねぇ。《奴ら》に聞かれてるリスクもあるし』
瀬奈
「じゃあその件に関しては直接聞くことにするわ」
うずめ
『はいよ。それと瀬奈、そこにいる坊やだけど…もしかするとビックリするような事があるかもしれないから身構えていた方がいいわよん?』
瀬奈
「どういう事かしら…?」
うずめ
『まあまあ、楽しみは取っておきなさいな』
瀬奈
「あなたがそういう時ってろくでもない事のほうが多かった気がするけど…」
うずめ
『なにをォ!?失礼しちゃうわね!あたしはそんなこと言うような子に育てた覚えはありません!
全くいつから可愛げが無くなっちゃったのかねぇ…昔はママって呼んでくれたじゃないのよ』
瀬奈
「はいはい、その話はもう良いからプロフェッサー。ところでアナタはこの後も様子を見守るのね?」
うずめ
『ぐぬぬ…まあそうさせてもらうよ、この一戦はあたし達にとって重要なものになる』
瀬奈
「例の件はまた後で聞かせてもらうわ」
うずめ
『それじゃあ、健闘を祈ってるよ』
そうしてうずめとの通信は切れた。
瀬奈
「ふふ、あの人が祈るなんてねぇ…こんなに頼もしいことは無いわね」
※
遊大
「おい!何ベラベラ喋ってんだ!」
列車の走行音でハッキリとは内容まで聞こえていないものの、ボソボソと何かを呟く声に苛立つ遊大。
瀬奈はピシャリと言葉を返す。
瀬奈
「仕事の電話よ。
私、社長ですから。邪魔しないで」
遊大
「くっ!!」
瀬奈の態度にイライラしながらも、手札とデュエルディスクに表示された盤面とを確認する。
遊大
(しかしやべえぞ、伏せカードを割られただけでなくシンクロ召喚に上級モンスターの蘇生を同時にやりやがった…。
しかも今日、出発前の短時間にデッキ内容を確認したばかりのレンタルデッキでだぞ。
こいつ、ただもんじゃねえ…)
出発前の顔合わせの時点で、遊大は清次を過小評価していた。他人を見下すふてぶてしい態度、デュエリストなら三流以下の行為だ。
そう言う奴は数え切れないほど見てきた遊大だが、総じてボコボコにしてきた。絶対的有利だと思っていた状況を初めて覆されたのだ。
清次『どうしたクソガキ、てめえのターンだろ?』
マイク越しに清次のヘラヘラとした声が聞こえてくる。冷や汗をかきながらも遊大はデッキに手をかける。
遊大
「一時しのぎでも構わねえ、このドローで何か引けなきゃ…終わる」
《江古田→桜台→練馬:通過》
瞳電気鉄道池袋線を走行する2列車は練馬駅へと差し掛かる。
池袋線は所沢駅まで終日運休だが、豊島園と小竹向原を繋ぐ豊島線・有楽町線は通常営業となっている。
ホームで待つ利用客が、普段は列車の来ない線路を高速で走行する2列車に驚く。
「なんだありゃ…瞳鉄道の列車じゃないな」
「おい見ろよ!モンスターが列車の屋根の上に!」
「なにィ!?運休区間でデュエルやってんのか!!」
「なんでこんなところに京急と海鉄(※海馬旅客鉄道)の列車が走ってるんだ!?」
※
遊大
「俺のターン!ドロー!!」
ドローしたカードを確認する遊大、その表情は今だ強ばったまま。
歯を食いしばりデュエルディスクにカードをセットし宣言する。
遊大
「魔法カード発動!【光の護封剣】!
このカードの発動後3ターンのあいだ、てめえは俺を攻撃できねえ!!」
遊治郎
『光の護封剣!?』
瀬奈
「ほう…」
清次
『ちっ!面倒なカードを…』
遊大
(本当に一時しのぎのカードじゃねえか…。次のターン残ってる保証なんてありゃしねえぞ)
遊大は残された手札から次の手を模索する。
しかし目の前に立ち塞がる2体のモンスターを突破できる手段が無い。
長考せざるを得ない状況の中、ふと如月瀬奈が呼びかける。
瀬奈「言っておくけど、この列車と相手の列車が5駅分差が開いた時点で試合が終わるわ。それまでに決着をつけなさい」
遊大「はぁ!?なんじゃそりゃ!聞いてねえぞ!」
驚き戸惑う遊大に対し、瀬奈は呆れた表情で言葉を続ける。
瀬奈「あなた、そんな事も知らないで鉄道会社に喧嘩ふっかけてきたわけ?
鉄道車両におけるライディングデュエルでも、Dホイールを使うライディングデュエル同様に周回遅れによる敗北のルールが定められてるの。
それが5駅分ってわけ」
遊大「けどそんなすぐに差がつく訳じゃ…」
瀬奈「甘いわね、あなたがライフダメージを受けた時点からこの列車の最高速度に制限がかけられている。今もこうしているあいだに差が付き始めてるわ」
遊大はハッとなって隣を走る京急2100形を見る、そこにはすでに車両の姿は無い。
遊大「嘘…だろ…」
瀬奈「天馬運転士、応答せよ」
瀬奈の呼びかけで遊治郎が声を返す。
遊治郎『こちら天馬、どうぞ』
瀬奈
「運転席にいるあなたなら見えるわね?何両差が開いてる?」
遊治郎
『…8両全部です、すでに1駅は差が開いているでしょう…』
瀬奈
「こういう事よ」
遊大
「クソッ!あんな野郎に絶対に負けられっかよ!」
一気にピンチへ追いやられた遊大の元に、清次からの通信が入る。
清次
『コホン、こちら《あんな野郎》どうぞ〜』
明らかに挑発とも取れる言葉に、遊大は言葉を返さなかった。
やれやれと言った表情を浮かべながら、瀬奈が言葉を返す。
瀬奈
「こちら如月、どうぞ」
清次
『どうせ3ターン動けねえんだ、オートパイロット外しても構わねえよな?』
瀬奈
「好きになさい」
清次
『そりゃどうも』
※
清次が通話を切った瞬間、運転席で前方列車を確認する遊治郎は気づく。
明らかに相手方の列車の挙動がおかしい。瞬く間に加速し、さらに差が開き始めた。
まだ数メートル先に見えた2100形の最後尾車両がみるみる離れていく。
遊治郎
「まさか…これほどとは…」
遊治郎はデュエル開始時の時点でオートパイロットを切りマニュアル運転を行っている。
少なくとも、運転士がデュエルの負担が無いという点ではこちらが有利だったはずなのだ。
それが今、戦況が完全に逆転した。
遊治郎は無線で遊大へ伝える。
遊治郎
『聞こえるかい遊大くん』
遊大
「あ!?なんだよおっさん!!手短に頼むぜ!」
遊治郎
『まずは一刻も早くダメージを与えるんだ、少しでも構わない。
ダメージを受けた側は数秒間だけ強制的に徐行し、その後に最高速度が制限される。
そうすれば、後は私が追いつく』
遊大
「…了解、なんとしてもこじ開けるぜ」
※
遊治郎の無線の言葉を聞いた遊大は必死に思考を巡らせる。
相手の盤面、自身の手札。
少しでもダメージを与える、それさえ出来れば…。
しかし今の手札のままでは打開は絶望的。
そう、『今』の手札のままでは…。
遊大(もしかしたら…この状況でこのカードを発動したら『不意打ち』を仕掛けられるかもしれない!)
遊大
「ターンエンド!」
遊治郎
『え!?』
清次
『くっくっく…潔良いな。そりゃそうだ、大人と子供じゃ頭の出来が違う。
デッキを借りてからデュエル開始まで、ろくに中身を把握出来てねえだろうからな』
《練馬→中村橋:通過》
清次
『俺のターン、ドローだ』
光の護封剣により攻撃は出来ないが、逆に言えば相手も動けない状態なら攻め入るチャンスも作れる。
清次
(さて、ドローしたものの…なんだこりゃ…【ミス・リバイブ】だと?
相手の墓地からモンスターを相手のフィールドに引きずり出す罠カードか。心底いらねぇ…。
ブラフとしてセットしておくのも悪くねえが、手札コストとして残す手もある。ここは…)
清次はほくそ笑むように宣言する。
清次
『ターンエンドだ、どうせてめえだって何も出来ねえ』
この瞬間、光の護封剣のカウントが1つ進む。あと2ターン巡るか、もしくはカードそのものが破壊されれば攻撃が可能となる。
《中村橋→富士見台:通過》
遊大
「俺のターン、ドロー!」
再び巡ってきたターン、変わらず打開に繋がるカードは引けていない。
遊大「マジかよ…こんなのも入ってるのか。このデッキ、ますます意味がわからねえぞ」
ただ、遊大にとって次のターンこそが本命。絶体絶命とも思える状況を逆転出来るか。
それはこのカードにかかっている。
遊大
「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」
瀬奈(どうやら、見えたみたいね。勝ち筋が…)
遊大の不敵な笑みを瀬奈は見逃さなかった。
瀬奈(あれは何かを仕掛けようとするデュエリストの顔よ、どう戦況が転ぶか見ものね)
《富士見台→練馬高野台:通過》
清次
『どうやら守りを固めるしか出来ねえようだな、そんなんじゃ俺に勝つなんて夢のまた夢って所だ。
俺のターン、ドロー!!お!良いカードを引いたぜ…』
清次がドローしたカードは【天使の施し】。公式試合では使用禁止の制限が掛けられている強力なカード。
使えば一気に手札を整えられる。
清次
(こいつを使えば光の護封剣を破壊できるカードを引き込むことが出来るかもしれねえ)
遊大
「良いカードを引いたみてえだな」
清次
『おうよ、こいつを発動…おい発動だ。…なんなんだ?おいコラ!!くそ!!』
清次は天使の施しを発動する為に、運転台のフィールドにカードを置くも発動しない。
清次
『なぜだ…まさか故障か?』
遊大
「おいアンタ、よぉくモニターの【フェイズ】を確認しな」
清次
『フェイズだと……は!?』
遊大に言われ、運転台のモニターを確認する。そこには【スタンバイフェイズ】の文字が記されていた。
清次
『なぜだ!なぜメインフェイズに移らねえ!!』
遊大
「教えてやるよ、俺はアンタがカードをドローした後に…このカードを発動していたのさ!!!!」
遊大はニヤリと笑う。清次が慌てふためいている頃、すでに伏せていた『不意打ち』となる一手を繰り出していたのだ。
通常のデュエルであればなんて事は無い、しかし今は違う。絶対に手札を触らなければならないカード。
遊大
「それはコイツだ!速攻魔法!【手札断札】!
互いに手札を2枚捨て、2枚ドローする!」
清次
『な、何だとおおぉぉぉ!?』
カードの宣言の直後、耳をつんざくような金属音が響く。
遊大
「うわっ!!うるさっ!!」
清次
『てめえ!まさかその為にカードを伏せていたのか!』
焦ったような清次の声がマイク越しに響く。
遊大
「うるせえな、誰が手の内を明かすかよ!」
清次
『クソが…!せっかく距離を離したのによぉ…!』
清次の発言に遊大はすぐに理解した、自分の考えが正しかったことに。
遊大
「とにかく、俺は手札を2枚捨てて2枚ドローだ!」
遊大は自分の作戦が成功し笑みを浮かべていた頃、運転席の遊治郎もそれを確認していた。
【手札断札】は互いのプレイヤーに効果が及ぶカード、そして干渉先は手札。
オートパイロットを解除しマニュアル運転を行っていた清次は、手札のカードを捨てるためにマスコン(※列車の速度を制御するハンドルのようなもの)から手を離さなくてはならない。
マスコンから手を離すと、安全の為に自動でブレーキがかかる。
その為、手を離した瞬間に清次の運転する2100形列車は急ブレーキを行ってしまった。
仮にも通常業務や決闘乗務を行う運転士が起こすはずのないミスだが、直前のフェイズ移行がされなかったパニックから引き起こされた『事故』のようなもの。
判断を見誤った清次に遊治郎は驚きを隠せない。
普段から運転士として働いている身から見ても、遊大の作戦は目からウロコだったのだ。
遊治郎
「なるほど…こんなやり方があったか!」
あくまで突発的な作戦ではあったが、遊治郎はそのチャンスを逃しはしない。
制限がかけられたとはいえ急ブレーキをかけた列車相手には充分な加速度で前方の列車へ詰め寄る。
これにより遊治郎の583系は2100形の前方から5両目の付近まで追い上げた。
※
遊治郎が前方の2100形電車に追いつく一方で、遊大は【手札断札】によってドローしたカードを見て驚いていた。
遊大
「嘘だろ…このカードは…!!」
遊大がドローしたカード、それはあまりにも希少なモンスター。
おそらく名前を知っている者はいても、実際にデッキを組んでいる者はこの世にわずかしかいないだろう。
そしてこのカードを見た光姫が動揺する。
光姫
『コイツじゃ…コイツから感じるぞ!さっきまで感じていた視線を!』
遊大
「なんだと?コイツが……」
光姫に言われ改めてカードを確認したその瞬間。
遊大の足元がふわっと浮くような感じがした。
それと同時に頭の中に声が響く。
『私を…召喚するのだ…』
若い男の声だが、聞いた事のない声。
初めて聞く知らない声に導かれ、遊大は手札のカードを宣言する。
遊大
「俺は手札から【黒魔術のヴェール】を発動!
ライフを1000支払い、手札・墓地から魔法使い族・闇属性モンスターを特殊召喚できる!
俺が特殊召喚するのはコイツだァ!
現れろ!!【ブラック・マジシャン】!!」
遊大の目の前の床に魔法陣が描かれ、その中からゆっくりとその姿を表した。
黒き法衣を纏う、伝説の魔術師が。
ブラック・マジシャン
☆☆☆☆☆☆☆ ATK.2500
遊大
LP:4400→3400
光姫
『これが…ブラック・マジシャン』
遊大
「初めてだぜ、直接その姿を拝むのはよ…。
(どうしよう、出発前にカード落としちまったけど…レアカードだよな?損害賠償とか請求されないよな?)」
清次
『出やがったか…ブラック・マジシャン』
瀬奈
(うずめ様の仕掛けたカードの声を聞いたみたいね、上出来よ)
遊大たちが何かに語りかけられた時、瀬奈だけはその正体に気づいていた。
瀬奈の思い通りに事が進みニヤリと口角が上がる。
遊大
「バトルだ!ブラック・マジシャンでジャンク・ウォリアーを攻撃!
【黒・魔・導(ブラック・マジック)】!」
ブラック・マジシャンから放たれた黒い稲妻がジャンク・ウォリアーの体を貫き破壊する。
清次
『ぐおおおぉぉぉ!!!!』
清次
LP.8000→7800
ダメージが入ったことで清次の運転する2100形がさらに減速する。
最高速度に制限がかかり、思うように再加速出来ない状況。
ここぞとばかりに遊治郎はマスコンを最大値まで力行(りっこう)を入れる。
一気に食らいつき、互いの先頭車両が同じ場所に再び並んだ。
その様子は583系の最後尾にいる遊大からも確認できた。
遊大
「やったぜ!!」
光姫
『やったのじゃ!』
遊大
「しかし手札を使い切っちまった、俺はこれでターンエンド」
《練馬高野台→石神井公園:通過》
あと数駅で終点の所沢駅に到着する。
所沢到着までに決着が付かなければその時点でデュエル終了となる。
その場合、残ったライフの数値が多い方の勝利となる。
清次
『俺のターン、ドロー!なかなかやるじゃねえか、だがそんな小手先が通用すると思ったら大間違いだぜ?
手札から【サイクロン】発動!残念だがてめえの【光の護封剣】を破壊させてもらうぜ!』
眼前に小さな竜巻が出現したと同時に遊大を取り囲む。
あまりの風圧に倒れかけるも踏ん張って耐える。
遊大
「ぐっ!!やっぱり長くは持たねえか…」
清次
『バトルだ!俺は【E・HEROネオス】で【ブラック・マジシャン】を攻撃!
ラス・オブ・ネオス!!』
ネオスの振り下ろす手刀にブラック・マジシャンが杖で対抗する。
2体の攻撃力は同じ、よって互いの力がそれぞれにぶつかり破壊される。
清次
『ターンエンド、ライフは俺の方が優勢だ。すぐに決着はつかねえよ、なんならこのまま所沢まで逃げ切ってやるぜ』
遊大
「そんなことさせるかよ、絶対に俺らが勝ァつ!!」
《石神井公園→大泉学園→保谷:通過》
遊大
「俺のターン、ドロー!
俺は手札から【強欲な壺】を発動!デッキから2枚ドローする!」
強欲な壺
通常魔法(禁止カード)
遊治郎
『強欲な壺!?』
突如として現れた強力なカードの登場に遊治郎の驚いた声がマイクから漏れる。
瀬奈
「公式試合のデュエルじゃないもの、これくらいのハンデはあって当然よ。
DLS(デュエル・リンク・システム)のレギュレーションも調整してあるから失格にはならないわ。
(…まあ、デッキを組んだのは『うずめ様』だし)」
遊大
「よし!俺は手札から【ガガガ・マジシャン】を召喚!」
ガガガ・マジシャン
☆☆☆☆ ATK.1500
遊大
「続けて【ズバババンチョー-GC(ガガガコート)】の効果により自身を特殊召喚するぜ!」
ズバババンチョー-GC
☆☆☆☆ ATK.1800
遊大
「俺はガガガ・マジシャンとズバババンチョー-GCの2体でオーバーレイネットワークを構築!
エクシーズ召喚!現れろランク4!
【No.39希望皇ホープ】!!!!」
2体のモンスターがうずまく闇に吸い込まれると、白と金の鎧に身を纏う戦士が現れる。
No.39希望皇ホープ
★★★★ ATK.2500
清次
『さすがは禁止カード…あっという間に高打点モンスターを出せるだけのカードを引き込みやがったか』
遊大
「バトルだ!【No.39希望皇ホープ】でダイレクトアタック!
【ホープ剣スラッシュ】!!!!」
希望皇ホープの巨大な大剣が2100形電車の先頭車両へ振り下ろされ、強烈な一撃を繰り出す。
清次
『ぐああああぁぁぁぁ…!やろぉ…』
清次
LP:7800→5300
遊大
「ターンエンドだ!!」
《保谷→ひばりヶ丘:通過》
清次
『俺のターン!ドローだァ!
どうやら甘くみていたぜ、てめえの実力を…。だがお前は1つミスを犯した』
遊大
「ミスだと?何を言ってやがる」
清次
『お前が召喚したホープの場所だ。
てめえアレだな?リンクモンスターの為に、他のEXモンスターを特殊召喚する時はメインモンスターゾーンに出すだろ。
そりゃそうだ、EXモンスターゾーンの1体分余裕が出来るからな』
遊大
「だったらなんだってんだ!つべこべ言わずにかかって来やがれ!」
清次
『良いぜ、俺は手札から【ドラゴネット】を召喚!!』
遊大
「!…あいつは俺が召喚しようとしたモンスター…」
ドラコネット
☆☆☆ ATK.1400
清次
『効果でデッキからレベル2以下の通常モンスターを守備表示で特殊召喚出来る。俺が選ぶのは【ピットロン】だ!』
ピットロン
☆☆ DEF.2000
清次
『俺はピットロンとドラコネット、さらに手札の【コード・ジェネレーター】をリンクマーカーにセット!』
遊大
「リンク召喚か…!!けどなんで手札のモンスターまで…」
清次
『【コード・ジェネレーター】は【コード・トーカー】モンスターのリンク素材とする時、手札からも素材に出来るって訳だ。
サーキットコンバイン!!召喚条件は効果モンスター2体以上!
リンク召喚!現れろリンク3!
【デコード・トーカー】!!』
3体のモンスターによって開かれたゲートから、紺色の剣士が姿を現す。
デコード・トーカー
LINK3(⇙⇑⇘) ATK.2300
遊大
「だが攻撃力は…」
清次
『2300、だから希望皇ホープには届かない。そう言いたいんだろ?』
遊大
「ちっ…その通りじゃねえか」
清次
『だがコイツはリンクマーカーの先にいるモンスターの数だけ攻撃力が500上昇する。
デコード・トーカーはてめえの希望皇ホープにリンクマーカーが指している。
よって攻撃力は2800だ!』
デコード・トーカー
ATK.2300→2800
遊大
「マジか…!!」
光姫
『こやつめ…なかなか頭が回るようじゃな』
清次
『バトルだ!【デコード・トーカー】で【No.39希望皇ホープ】へ攻撃!
デコード・エンド!!』
遊大
「させねえ!!希望皇ホープの効果発動!オーバーレイユニットを1つ取り除き、攻撃を無効にする!
ムーンバリア!」
デコード・トーカーが希望皇ホープを切りかかるその時、ホープの繰り出した光の壁によって斬撃が阻まれる。
清次
『あと2回だ、ホープは素材が無くなった状態で攻撃されれば自爆しちまうからな。俺はこれでターンエンド』
《ひばりヶ丘→東久留米:通過》
遊大
「俺のターン、ドローだ!」
再び戦況を巻き返されてしまった遊大だが、幸いにもダメージは負っていない。
走行している電車の速度が落ちることは無い。
しかし攻撃を耐えるだけでは勝てない。なんとかして相手のフィールドをこじ開け、ダメージを与えないことには不利な状況を脱却出来ない。
光姫
『どうするのじゃ遊大、このままでは…』
遊大
「大丈夫だ、まだ手はある。奴が使うデッキは俺と全く同じ、つまり奴が使っていたカードを俺も引ければ!」
遊大はデュエルディスクから、清次の墓地に送られたカードを確認する。
遊大
(【天使の施し】も入ってるのか、こいつがあれば欲しいカードを引き込む確率がぐっと上がる。
だがあのカードがデッキに何枚投入されているかまでは分からねえし、ドローするまで待ってる時間もねえ…)
清次
『どうした?長考は構わねえが終点に着くまでには終わらせろよ、このまま何もされないまま勝つなんて不完全燃焼だからなァ!!』
マイク越しに高らかと笑う清次、怒りを抑えつつも遊大は思考を巡らせる。
遊大
(大丈夫、まだやれる…。おそらく奴は希望皇ホープのオーバーレイユニットを全て取り除こうとするはず…)
遊大は手札のカードをフィールドにセットする、その場所はモンスターゾーン。
遊大
「俺はモンスターをセットし、ターンエンドだ」
《東久留米→清瀬:通過》
清次
『俺のターン、ドローだ!あと3駅、せいぜい足掻いてみせろやァ!
俺は【デコード・トーカー】でセットモンスターを攻撃!!
厄介な奴なら先に潰しておかねえとな、守っても良いんだぜ?その時は希望皇ホープは肉壁と化すだけだがよォ!』
勝利を確信し遊大を煽る清次だが、すでに遊大はやるべき事を済ませていた。
次のターンの逆転の為に…。
遊大
「セットモンスターに攻撃と言ったな!?
ならかかってこいやァ!俺が伏せていたモンスターはコイツだ!【マシュマロン】!!」
清次
『ま…マシュマロンだァ!?』
マシュマロン
☆☆☆ DEF.500
遊大
「こいつは戦闘では破壊されない、そしてセット状態から攻撃されたコイツはてめえに1000ダメージを与える!!」
デコード・トーカーが振り上げた大剣はマシュマロンに鈍い音と共に振り下ろされると、ボヨン!という音と共に弾き飛ばし隣を走行する2100形の車両の屋根に突き刺さる。
清次
LP.5300→4300
清次
『くそっ!悪あがきを!どう転んだってデコード・トーカーを突破出来なきゃテメェに勝ちは訪れねぇ!ターンエンドだ!』
《清瀬→秋津:通過》
遊大
「俺のターン!ドローだァァ!!」
秋津駅はもう目前、それを通過してしまえば終点の所沢駅だ。
間違った判断は敗北に直結する、プレイミスは許されない。
遊大
「俺は墓地の【ブレイクスルー・スキル】を除外して効果発動!このターンのあいだ【デコード・トーカー】の効果を無効にする!」
清次
『何!?いつの間にそんなカードが…!』
遊大
「てめえが打ったツイン・ツイスターで破壊されたのがコイツだ、これでデコード・トーカーの攻撃力も元に戻る!」
デコード・トーカー
ATK.2800→2300
清次
『マズイ!このままでは…!』
遊大
「これで終わりだと思うなよ、俺はマシュマロンをリリースしてアドバンス召喚!
現れろ!【デーモンの召喚】!」
その呼び声に応じ、筋骨隆々の悪魔が遊大の目の前に現れる。
デーモンの召喚
☆☆☆☆☆☆ ATK.2500
遊大
「知ってるよな?こいつはブラック・マジシャンと同じくらい有名なカードだからな、そして能力こそ持たないが攻撃力は同等!
バトルだ!【デーモンの召喚】で【デコード・トーカー】を攻撃!」
デコード・トーカーは大剣を構え身を防ごうとするも、デーモンの召喚により叩き割られその身を破壊されてしまう。
清次
『ぐっ!!嘘だろ…まさかこんなガキにぃ!!』
清次
LP.4300→4100
遊大
「続けて【No.39希望皇ホープ】でダイレクトアタック!
【ホープ剣スラッシュ】!!」
清次
『ぐあああああァァァァ!!!!』
清次
LP.4100→1600
キィィィィィィ!!という金属音が辺りに響き渡る。
今の攻撃で清次の2100形が速度制限を受けて急ブレーキが作動したのだ。
みるみる速度を落とす2100形に583系は速度を上げた、遂に遊大の乗る最後尾の車両が相手方の運転席のある車両まで並んだ。
この時、初めてお互いはお互いの姿を確認する。
余裕の表情を浮かべる遊大、そして想定していなかった逆転劇に焦る清次。
先に言葉を発したのは遊大だ。
遊大
「よお、老け顔のおっさん。やっとてめえのツラが拝めたよ」
清次
『ぐ、ぐぬぬぬ……』
遊大
「てめえのその悔しがる顔、それが俺は見たかったんだよォ!!」
清次
『舐めやがって……クソガキがァァ!!』
《秋津→所沢:停車まであと数km》
清次
『まだだ…俺はまだ…負けてねえ!!
俺のターン!!ドローだァァ!!』
終点の所沢駅まで残りわずか、最後の望みに賭けて清次がドローしたカード。
清次
『は……なんだよ、このカードは…』
ドローしたカードを見た清次は落胆する。
レベル7の最上級モンスター、リリースできるモンスターも特殊召喚する手段もない。
眼前の信号は『黄色』と『青』のランプが1つずつ点灯している。
それは停車するために『減速』するよう指示を出す指令だ。
清次はドローしたカードを運転台の空いてるスペースに置くと、両手をマスコンに伸ばし車両を減速させた。
置いたカードは【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】。
もう少しコースが長ければ、長期戦の中でペンデュラムモンスターを引き込めたか、リリース用のモンスターを確保出来たかもしれない。
しかしそれは言い訳に過ぎない。清次は所沢駅のホームに2100形電車を停車させるまで、言葉を発することは無かった。
《所沢駅:停車》
清次の2100形電車が停車するよりも、遊大たちの乗る583系電車が先に所沢駅へと到着していた。
運転席から遊治郎が、最後尾の決闘伴走車から遊大と如月瀬奈の2人が降りてきてホームで顔を合わせる。
遊大
「ライフは削りきれなかった、けどこの場合は…」
瀬奈
「そう、残りのライフポイントが多い方の勝利よ」
遊治郎
「遊大くんが3400ポイント、清次くんが1600ポイントって事は…」
瀬奈
「真藤遊大の勝利ね」
その言葉を聞いた遊大は、大きく息を吸い込む。
そしてすぐに声として吐き出した。
遊大
「よっしゃあああああああああァァァァァァ!!」
光姫『やったのじゃ!!!!』
直後、辺りがざわつき始める。
ここ所沢駅は現在、瞳鉄道の起点の駅となっている。池袋までは終日運休だが反対の秩父方面へは列車は走っている。
隣のホームで列車を待つ人達が勝利に湧く遊大の姿を見て驚いていた。
遊大
「あ、そうか。こっち側の路線は普通に電車走ってんのか」
遊治郎
「それに瞳鉄道の車輌ではない列車が2編成も入ってきたんだ、驚くだろうね」
瀬奈(いや、デカい声出したら誰だって驚くでしょ普通…)
そんなやり取りをしている所に、2100形の運転室から降りてきた清次が歩いてくる。
清次
「ほらよ、デッキ返すぜ」
瀬奈
「どうも」
瀬奈はデッキを受け取るとパラパラと中身を確認する。
瀬奈
「1枚くらいあげてもいいわよ?」
清次
「いるかそんなもん、俺はやっぱり『自分のデッキ』が一番肌にあってやがる」
瀬奈
「別に一生持ってろとは言わないわ、換金したって構わないのよ」
その言葉に清次は大きくため息をつく。
清次
「社長さんよ、とりあえず俺はウチの社長に言われてアンタの頼みを聞き入れてやったまでだ。馴れ合いはしねえ」
瀬奈
「構わないわ」
清次
「それと、俺はガキが嫌いだが同じくらい嫌いな人種がいる。カードを金銭的価値でしか測れない奴らだ」
そう吐き捨てると、清次は降りてきた車両とは反対側の運転室へと歩いていく。
瀬奈
「良いデータが取れた、あなたにもお宅の社長にも感謝してるわ」
清次
「そりゃどうも」
清次は背を向けたまま歩いていき、最後尾の運転室へと入る。
ものの数秒で電車は動き出し、赤いボディの2100形は池袋方面へと戻って行った。
遊大
「けっ、最後の最後まで感じの悪い奴だ」
遊治郎
「根は良い奴なんだ、許してやってくれ」
遊大
「アレのどこが良い奴なんだよ」
瀬奈
「少なくとも、デュエリストとしては一流の部類ね。デュエルの実力も、デュエリストとしての気構えも」
遊大
「俺にはそう見えねえけどなぁ」
※
《所沢→池袋→地下実験線ホーム》
全ての工程を終えて、遊大と瀬奈は遊治郎の運転する583系に再び乗り込み地下実験線のホームへと帰ってきた。
ホームでは天上院未来と、瀬奈の側近である堀川が待っていた。
堀川
「お帰りなさいませ皆様方」
未来
「全く、ずいぶん待たせてくれたわね…。でも、無事に戻ってきてくれて良かったわ…」
遊大
「たかがデュエルだ、無事に決まってるだろ」
瀬奈
「それじゃあ堀川、皆さんをお見送りしてちょうだい」
堀川
「かしこまりました、ではご案内いたします」
遊治郎
「では社長、私は業務に戻ります」
瀬奈
「直帰で構わないわ、私の命令で呼び出したのだから。明日も休みにしておいたからゆっくり疲れを取りなさい」
遊治郎
「お心遣いありがとうございます」
遊大
「じゃあな、社長さんよ」
未来
「こら!ちゃんと挨拶しなさい!」
こうして遊大たちは堀川に案内され地上へと戻り、現地解散となった。
しかし遊大はアカデミアの寮へ戻るまで、ご立腹な未来の小言を永遠と聞かされるのだった。
未来
「良いですね!?あなたはまだ学生なんです!学園長にも、またあの社長から呼び出しがあっても関わらないよう要求しますので!」
遊大
「はいはい……(なんでキレてんだよ)」
未来
「こら!ちゃんと話を聞きなさい!」
遊大
「とほほ…」
《海馬旅客鉄道本社:地下10階》
その日の夜。
海馬コーポレーション傘下の系列会社へ視察に回っていた会長のモクバが帰ってきていた。
堀川から地下の実験室に瀬奈が居ることを聞かされ、エレベーターに乗り込んだ。
ものの数秒で地下10階まで降りてきたエレベーターから出て、正面にある扉を開く。
モクバ
「瀬奈、今帰ったぞ」
瀬奈
「あら、お帰りなさいモクバ叔父様」
そこには瀬奈の姿があった、3体の青眼の白龍を従えて。
その瀬奈と相対するのは小柄な少女のような姿の女性、ボリュームのある赤い長髪を後ろで束ねている。
彼女こそ、海馬コーポレーションの頭脳(ブレイン)とも言える存在。
通称『プロフェッサー』。
名前は『うずめ』。
うずめは部屋に入ってきたモクバの姿を見て微笑む。
うずめ
「おやモクバ殿、お疲れ様」
モクバ
「ありがとう。珍しいじゃないか、2人がデュエルするなんて。構わず続けてくれ」
瀬奈
「そうさせてもらうわ、バトルよ!
私は3体の【青眼の白龍】で、うずめ様の【DDD烈火王テムジン】【DDD疾風王アレクサンダー】【DDD怒涛王シーザー】を攻撃!
【トリプル・バーストストリーム】!!」
3体の青眼の白龍から放たれた光線が、うずめの召喚した上級モンスター全てを覆うように炸裂し爆散する。
うずめ
LP.8000→5900
うずめ
「あちゃー、まさか1ターンで蹴散らされるなんてね。怖い怖い」
瀬奈
「1ターンでEXデッキの融合・シンクロ・エクシーズモンスターを一気に召喚してくるほうが怖いわよ、ブルーアイズが来てくれなかったら太刀打ち出来なかったわ」
うずめ
「あなたに限って来ないはずないじゃない、デュエリストとしての並外れた運命力は伊達じゃないわね」
瀬奈
「そんな言葉、お世辞にもならないわ。私は1枚カードを伏せてターンエンドよ」
瀬奈は顔色1つ変えずにカードをセットする。
うずめ
「ほんじゃあ、あたしのターン!ドロー!
あたしは手札から【皇鬼降臨の契約書】を発動!」
皇鬼降臨の契約書
永続魔法
うずめ
「このカードの効果で手札から悪魔族儀式モンスターを儀式召喚する!
そしてそのモンスターが『DD』モンスターなら、EXデッキに表側で置かれている『DD』モンスターを除外することで儀式召喚できる!」
瀬奈
「来るわね…!!」
うずめ
「あたしはEXデッキに表側で置かれている【DDD死偉王ヘル・アーマゲドン】を除外するわ!
山神の皇よ。
太平の世を創成する為、次元の彼方より現れ天地無双の剣となれ!!
おいで、あたしの可愛い子…。
儀式召喚!
【DDD死天智皇
(してんちおう)リョウオウ】!!」
儀式の紋様から現れたのは、江戸時代にいた侍のような装束に身を包む茶色の体毛を持つ獣人の剣士。
長い水色の長髪をなびかせながら、鞘から刀を抜き、構える。
DDD死天智皇リョウオウ
☆☆☆☆☆☆☆☆ ATK.3000
うずめ
「リョウオウの効果発動!儀式召喚に成功した時、お互いのプレイヤーは手札が6枚になるようドローする!」
リョウオウ
「ミャオオオオオオオン!」
リョウオウが刀を天にかざし雄叫びをあげると、光の柱が瀬奈とうずめを包み込む。
うずめ
「リョウオウの能力によって、互いに手札が6枚になるようドロー出来る。これで準備は整ったと」
瀬奈
「手札を切らしてたからありがたいけど、使わせてもらえるのかしらね」
うずめ
「んっふっふ、使わせてぇ…あげない!」
憎たらしいニヤケ顔で瀬奈を煽るが、瀬奈自身は平静を保っている。
瀬奈
「だったらこのターン、ライフを守りきってみせるわ。来なさい!!」
※
数分後…
瀬奈
「な…なんとか勝てたわ……」
うずめ
「ちぇ、負けちったかぁ」
接戦の末に勝利したのは如月瀬奈。
しかし勝利したはずの瀬奈は汗を流し息切れを起こしている。
反対にうずめは余裕の表情で息を乱したりはしていない。
先程までの余裕とは真逆の勝利。
それほどまでにうずめと瀬奈では決闘者として実力の差があるのだ。
モクバ
「いや、2人とも見事なデュエルだった」
うずめ
「けど珍しいこともあるもんだね、瀬奈からデュエルを挑んでくるなんて」
瀬奈
「今日の決闘伴走車を使ったテスト走行、借り物のデッキで健闘した彼らを見てたら…血が滾ると言うものよ」
モクバ
「はっはっは!それが道理だな!」
うずめ
「ほんじゃ、メンツも揃ったことだし始めますかね」
うずめがパチン!と指を鳴らす。
すると何も無い床からニュイーンという微妙な音と共に、机と椅子がせり上ってくる。
その様子はまるで床から机と椅子が生えてくるかのようだ。
瀬奈
「ほんと何回見てもキモイわね」
モクバ
「うむぅ、どんな原理なんだ…」
うずめ
「良いじゃない別に!便利だもん!」
※
3人が席に着き、うずめがコホンと咳払いをして言葉を切り出した。
うずめ
「と!言うわけで、これまで手に入れた情報をお二人にご報告するわ」
モクバ
「よろしく頼む」
うずめ
「知ってると思うけど、説明の為にこれまでの現状を振り返ってみるわね。
海馬コーポレーションの先代社長『海馬瀬人』は、人が生きる為に必要な要素に対し全てを手中に収めることを宣言。そして衣食住あらゆる分野において海馬コーポレーションの名を知らしめた」
モクバ
「その通り。農業や漁業、畜産加工などの食品関係。
老若男女を問わず幅広い世代に向けた衣服の製造、有名アーティストを囲い新たなブランドも立ち上げた。
世界各国に直営の大型スーパーマーケット、ショピングモールの運営を行い我が社で作った商品をお届けしている」
瀬奈
「さらに過疎化した郊外のエリアの土地を開拓し、いくつものベッドタウンを作り地域活性を促す。もちろんさっき言ったショッピングモールの運営とも絡んでくる話ね」
うずめ
「つまり、今の世の中を生きる人々は『海馬コーポレーションに依存して生きている』。
…いや違う。『海馬コーポレーションが無ければ生きていけない』ところまで持ってきている」
瀬奈
「そして最後の目標こそ『交通機関』の掌握」
モクバ
「現時点で海馬コーポレーションが着手できているのは、バスやタクシーといった陸路。船舶、航空機…」
瀬奈
「そして『鉄道』。おじい様はなんとしても日本の鉄道を全て手中に収めようとしていたわ」
うずめ
「しかし、すでにいくつもの私鉄が乱立していた。加えて国が管理する『日本国有鉄道』もあった。
私鉄は金を出せば買い取れるけど、国鉄はそう簡単に落とせない」
瀬奈
「だから、あらゆる分野に手をかけ『支配』した。
『海馬コーポレーションに依存した国民を人質にする』という方法で…」
モクバ
「言い方は悪いが、概ねそんな感じだ」
うずめ
「鉄道事業を手放さないなら、
『人々の生活に必要なあらゆる流通の流れを遮断出来る。』
それこそが瀬人殿の切り札だった…」
モクバ
「しかし、失敗した…」
瀬奈
「まさか国鉄内部の過激派が『反乱』を起こすなんてね」
うずめ
「『日本国帝国鉄道』、長いから『帝国鉄道』と呼ばれることの方が多いわね。
元国鉄の反海馬派閥の立ち上げた『独立国家』。それが『帝国鉄道』。
国鉄時代に築いた旅客輸送を完全撤廃し、貨物輸送のみに重点を置いた鉄道会社。
奴らも我々と同じく『流通』を人質として傍若無人な振る舞いを続けている。
顕著なのは、奴らが他社線のダイヤを無視して勝手に侵入することだ。しかし国はそれを違法と見なさない。
それどころか、それで発生した損害は鉄道会社同士を争わせることで費用補填とする馬鹿げた制度を作り上げた」
瀬奈
「それが…『鉄道局』の『鉄道業法』ね」
モクバ
「互いの鉄道会社から選出した運転士をライディングデュエルで決着を着けさせる。これは『決闘乗務』の事だ。
敗北した会社は全ての損害を負担しなければならない、極めて馬鹿げた悪法だ」
瀬奈
「けど、利用者からは一切文句は来ない。何故ならライディングデュエルの開始は『お金が戻ってくる』から」
うずめ
「現在の鉄道業法に定められるところによると『決闘乗務の宣告があった時点で、その時間に乗車している全ての区間の利用客はその区間の両端の駅間の運賃が返金される』。
全く損が無いどころか、1駅しか利用せず数百円しか支払っていない人にまで全区間の運賃が帰ってくる」
瀬奈
「挙句の果てにはどちらが勝つか『賭け事』まで許されている。これでどちらが勝つか当てられれば乗客は一攫千金を獲得出来る。それも他の賭け事と違い『非課税』。
勝てば大金を手にすることが出来る、だが外れれば『乗車している鉄道会社の取り扱う全区間分の支払い』が課せられる。
まさに天国と地獄…」
モクバ
「前回の決闘乗務で我が社も敗北したが、払い戻された運賃を賭けて負けた利用客からクレームが相次いだそうだ。各駅の職員から対応に苦労したと聞いている」
瀬奈
「哀れな連中だわ。金も、生きる為の術も支配された『労働奴隷』の分際でね…」
うずめ
「瀬奈、言葉を慎みなさい」
瀬奈「はいはい…」
うずめの言葉に、瀬奈は鬱陶しそうに目を逸らした。
※
うずめ
「まあこんなところかね。お次は本題の『帝国鉄道』に関して。
奴らの扱っている『流通』に関してだけど、我々の生活に関わる部分は1割にも満たない。
残る殆どは『武器の製造』。どこかしらで材料を集めて、どこぞで作り上げた武器を戦争や紛争の起きている諸外国に売りつけているみたいだ」
瀬奈
「おじい様が1番嫌うタイプね」
うずめ
「しかし、この日本でそんな大規模な武器の製造が行われていればすぐにでも見つかりそうなものだけど…ここ数年は発見に至らなかった」
瀬奈
「至らなかった、てことは…」
うずめ
「勿論、しっぽを掴んでやったさ」
ニヤリとうずめは笑う。
モクバ
「この知らせを聞いて少しホッとしたよ、次の一手が打てるからな」
うずめ
「結論から申し上げると、奴らの根城は『北海道』。それも札幌近辺と断定した。
近くにある鉱山から資源を掘り起こしているようだね」
瀬奈
「そしてその労働力は、拉致された『小田急』の社員…という訳ね」
うずめ
「そゆこと。10年前に小田急電鉄は帝国鉄道との一騎打ちに敗北。
小田急の管理する鉄路と車両、会社の運営権や社員まで全て帝国鉄道に奪われた。
表向きの報道では『吸収合併』って事にはなってるけど」
モクバ
「確か小田急側の用意したデュエリストはまだ新卒で入社したばかりの青年だったとか…可哀想な話だよ」
うずめ
「名前は確か…『宮下遊星』だったかしら。当時の資料を見る限り類稀なる実力を持ったデュエリストだったようだけど、相手が悪かったようだね…」
瀬奈
「それで、現地には誰が行くことになるの?」
うずめ
「警視庁0課の牛尾課長の紹介で、ベテランの刑事さんを派遣してくれるそうよ。
あとは『インターポール(国際刑事警察機構)の彼女』も動くみたい」
瀬奈
「なら問題無さそうね、あるとしたらどれだけの人質を解放できるか…」
うずめ
「焦っちゃ駄目よ、慎重に考えぬいて進めましょう。出なければ失敗するわ」
瀬奈
「分かってるわよ、だからこそ今回の『走行試験』。車両そのものの性能テストは表向き、本当の目的は『彼ら自身』なんだから…」
※
うずめ
「そうそう、今日の走行試験。あたしの『特注デッキ』を扱いこなせるか。
それにこのデッキに込めた『意志』をその身に感じることが出来るかが焦点だったけど…。
あの子、結局『本来の力』を出さないまま終わっちゃったわね。やっぱりもっと追い込まないといけないかしらねぇ」
瀬奈
「そう言えば電話でも言ってたわね、『驚くことがあるかもしれない』って。結局なんの事か分からなかったけど。
まあアレだけ押されていたのに巻き返したのは驚いたと言えばそうかもしれないわ。
けどデッキの扱いに関しては川原清次のほうが上手ね、カードの引きも申し分ない。運も実力のうちよ」
うずめ
「しかし、デッキの『意志』を真っ先に感じ取ったのは真藤遊大のほう。
どうやら彼は訳ありのようだからねぇ」
瀬奈
「どういう事?」
うずめ
「彼の肉体の約7割はとっくに無くなってる、過去の事故によるものだね。本来なら生きているはずがない」
瀬奈
「何それ…そんな話聞いてないわよ。じゃあなんで彼は五体満足で生きているの?」
うずめ
「彼の中に眠る『もう一つの魂』が彼の命をつなぎ止めている。どうやらこの星の外からやってきた生命体のようだね」
瀬奈
「つまり宇宙人ってこと?」
うずめ
「ざっくり言えばそんなところだね」
瀬奈
「あなたの口から宇宙人なんて言葉が出てくると、なんか笑えてくるわね」
うずめ
「真顔でそんな事言われてると腹立つわね…。それにこれだけで話は終わらないわよ。
真藤遊大、彼の命のリミットはあと『7ヶ月』」
瀬奈
「…え、7ヶ月?」
モクバ
「今は5月だから…年末には死んでしまうって事か?」
うずめ
「そうよ、そして彼を繋ぎ止めている『もう1つの魂』こそ我々の切り札になり得る」
モクバ
「ちょっと待った、色々とこんがらがってきた…」
瀬奈
「回りくどい言い方はやめてハッキリ言ってくれない?」
うずめ
「はいはい、ほんじゃ簡潔に言うよ。
1.真藤遊大ともう一つの魂は年末に死ぬ。
2.帝国鉄道の根城を暴き出し、奴らの資金源を断つ。
3.3ヶ月以内に海馬コーポレーション傘下の海馬旅客鉄道を全国に広げる。
まあこんなところかね」
モクバ
「いやいや!さらに複雑になったじゃないか!まるで意味が分からんぞ!」
瀬奈
「それになんでアイツの死の話から、帝国鉄道潰して支配するみたいな話の繋がりになるのよ…」
モクバ
「それと『3ヶ月』って単語が突然出てきたが、その期間に何があるんだ!」
瀬奈
「ハッキリ言えとは言ったけど、説明を端折(はしょ)れとは言ってないんだけど」
うずめ
「はいはい!まあ落ち着きなさいって!
そもそも、真藤遊大にとり憑いているもう一つの魂は『再生と創造の神』とも呼ばれる力を持った一族。
どんな物でも復元できる、実体だろうが『データ』だろうがね」
瀬奈
「…なるほど、その力があれば『キングダムルール』を復元できるって訳ね」
うずめ
「しかし、今の彼らは万全じゃない。新たな『肉体』を早々に用意してあげないと。まあ2週間もあれば作れるでしょ」
モクバ
「人体ってそんな簡単に作れるもんなのか…?」
うずめ
「あたしを誰だと思ってんの、天才科学者のうずめ様よん!!」
瀬奈
「キングダムルールが復元出来れば、帝国鉄道に対して圧倒的有利に立ち回れる。なるほど、真藤遊大には『死なれちゃ困る』訳ね」
うずめ
「そゆこと」
モクバ
「2番はまあ分かる、3番目の『3ヶ月以内に』ってのはどういう事だ?」
うずめ
「これは偶然仕入れた情報なんだけど、奴らの拠点が別の場所に移動するみたい。それがちょうど3ヶ月。
下手に見失ったらそれこそ損害が大きいわ、チャンスは今しかないの」
瀬奈
「分かったわ、そのチャンス…絶対に掴み取るわよ」
モクバ
「まあ、真藤遊大に関してはそういう物だと把握しておくけど…その、なんだ。どこから仕入れてきたんだ?彼と、もう一つの魂の素性とか…」
うずめ
「それはぁ…教えてあげない!!」
瀬奈
「知ってたわ」
にへらァと笑ううずめを見て、瀬奈はハァとため息をついた。
※
うずめ
「そうそう、『この件』も報告しておかないとね」
瀬奈
「今の情報だけでも相当な物だったけど、他にも何か?」
うずめ
「これは本件に直接関わりのある事では無いんだけど…最近出没してる『不審者』についてだね」
モクバ
「不審者とはいったい…」
うずめ
「全身を黒いコートで身を包み、口元はスカーフのようなもので隠し、サングラスをかけた男が出没しているの。
デュエルを強制的に行い、敗北した相手を病院送りにしているそうよ」
モクバ
「絵に書いたような不審者だな…」
うずめ
「すでに警察も動いているけど、不審者の行動パターンはある程度目星が付いてる。
奴は『鉄道関係者』を狙って襲撃しているようだね」
瀬奈
「鉄道関係者を、ねぇ…」
うずめ
「これまで奴の被害を受けたのは京浜急行、瞳鉄道、相模鉄道、東京急行、そして帝国鉄道の社員。合計17名」
モクバ
「そんなに被害が拡がっているのか」
うずめ
「牛尾課長の話によると、捜査一課の刑事も何人か被害を受けているみたいね。犯人を目の前にして返り討ちに合い、何度も逃亡を許してしまっていると」
瀬奈
「それほどまでに手ごわい相手なのね、何が彼を突き動かすのかしら…」
モクバ
「話を聞く限りでは『鉄道関係者、または鉄道会社、鉄道業界そのもの』を敵視しているように聞こえるな」
うずめ
「いずれにせよ、こちらの作戦の妨げになるとも限らないから早々に身柄を拘束したいわね」
モクバ
「警察でも手に負えない相手をか?」
うずめ
「あたしを誰だと思ってんの、天才科学者のうずめ様よん!」
瀬奈
「さっきも聞いたわ…」
うずめ
「今のところ海馬旅客鉄道の社員は被害にあっていないけど、用心の為に職員用デュエルディスクにGPSとリンクさせるシステムを構築してアップデートしておいたわ。
これで誰と誰がどこでデュエルを始めたかすぐに分かる」
モクバ
「しかし、それだと関係ないデュエルの記録も大量に保存されてしまってサーバーに負担がかかるのでは?」
うずめ
「さすがモクバ殿、目の付け所が違う。けどその辺は安心してちょうだい。『特定のカードを使用したデュエル』に限定して記録を取るようシステムを整備したわ」
モクバ
「ふむ、ならば通常の業務には差支えは無いようだね」
※
うずめ
「とりあえずこんな所かしらね」
モクバ
「うずめ様、情報収集からシステムの構築まで感謝します。引き続きよろしくお願いしますよ」
うずめ
「瀬人殿が残した物を守る、そして叶わなかった事をあたし達で成し遂げる。10年前にそう誓ったもの、全力で取り組むわ。このうずめ様に任せなさい!」
瀬奈
「そう言えば…うずめ様、さっきシステムをアップデートしたって言ってたわね」
うずめ
「ええ、そうよ」
瀬奈
「『特定のカードに限定したデュエル』って事は…その不審者の使うカードは割れてるわけね。何を使うの?」
うずめ
「そうそう、奴の使うテーマは…
『RR(レイド・ラプターズ)』よ」
瀬奈
「レイド・ラプターズ…。あまり相性の良い相手では無いわね…構築を見直す必要があるわ」
うずめ
「おんや?その不審者とやる気かい?」
瀬奈
「おじい様なら直々に出向いて潰したでしょうけど、避けられる争いは避けるに越したことないわ。
ただ、万が一にでも会うことがあれば…全力で叩き潰すまでよ」
※
《都内某所:路上》
海馬旅客鉄道本社にて、瀬奈・モクバ・うずめが話している頃。
都内のひと気の無い場所にて、デュエルが行われていた。
1人は帝国鉄道のバッジを胸元に付けた黒い制服姿の男。
もう1人は…
黒いコートに身を包み、スカーフのようなもので口元を隠し、サングラスをかけた男。
彼こそ、巷で騒がれている『不審者』だ。
制服の男
「く…くそ!なんで俺がこんな目に…!デュエルさえ無ければ…こんな奴…!!」
不審者
「デュエルさえ無ければだと?愚かな…。
鉄道に身を置く貴様らからは、『鉄の意志』も『鋼の強さ』も…ましてや『強固な信念』さえも感じられない!!
貴様らのような社会のウジが…今の日本を腐らせているのが分からんのか?
いや、分かるはずがない…。労働者を焚き付け不要な争いを煽る貴様らなんかに…分かるはずがない!!!!」
不審者が声を荒げた瞬間、目に見えない衝撃波のようなものが制服の男を襲う。
足元を掬われ尻もちを付いてしまい、恐怖でぶるぶると体を震わせる。
制服の男
「た…頼む!見逃してくれ!!俺は何もやってない!!上に言われて仕事をしているまでだ!!
俺はお前に何もしていないし、危害を加えるつもりはない!だから…許してくれぇ…!」
制服姿の男はその場に土下座し、頭を地面にこすり付け懇願する。
しかし、不審者の男は冷静にこう続けた。
不審者
「そうやって命乞いをした相手を…貴様らは何人殺してきた?」
制服の男
「な…なんの事だ?殺しだと?」
不審者
「鉄道業界の中でもっともタチの悪い存在、それが貴様ら『帝国鉄道』だ。
かろうじて日本の法律を守っているが、『独立国家』を宣言した貴様らは…一度デュエルに敗北した相手を武力によって制圧しているそうだな」
制服の男
「そ、それは俺らの仕事じゃない!もっと上の…それこそ幹部たちの『護衛兵』がやってる事で…!」
不審者
「黙れ!!貴様の取り繕った言葉で何になる!?
奪われた命は二度と帰ってこない!!
残された者は永遠の後悔と悲しみ、そして『憎しみ』の闇の中を彷徨うのだ!!」
制服の男
「ひいいいぃぃぃぃ!!」
不審者の迫力に頭を抱えてうずくまる制服姿の男。
その姿を見下す不審者の目にはもう、光は無かった。
不審者
「これで終わりにしてやる…。とどめだ!
【RRR(リゾルト・レイド・ラプターズ)
スカルヘッド・ファルコン】!!
奴に決して癒えぬ、無限の絶望と苦しみを与えろ!
【ヘイトレッド・エアレイド】!!」
暗闇に浮かぶ巨大な影から、無数の弾丸が制服の男に撃ち込まれる。
次々と男を貫く弾丸はやがて体を蜂の巣にする。
デュエルディスクのライフが0を表示すると、デュエルは決着を迎えた。
辺りは静寂に包まれる、ソリッドビジョンに投影されたモンスター達は姿を消す。
しかし、弾丸を撃ち込まれた制服の男からはドクドクと血が流れ出ていた。
その体に開けられた風穴は、ソリッドビジョンが消えてもなお残り続けている。
不審者
「永遠の絶望の中で苦しみ続けろ…ゲスが」
不審者は身動きの取れなくなっている制服姿の男を振り返ることも無く、その場を去った。
残された男は言葉を発する力もなく、ただ体から流れ出る血液と共に意識が遠退いていった。
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