『帝国鉄道』
正式名称は『大日本帝国鉄道』。
海馬瀬人の生前、国鉄の分割民営化に反対した勢力が立ち上げた民間企業である。
旅客輸送を撤廃し貨物輸送専門の事業を行っているが、戦争の兵器を製造し外国へ売り渡しているといった黒い噂が耐えない。
一企業でありながら独立国家を宣言しており、自社の保有する敷地内に立ち入る国民に日本の法律は通用しない。
それらの横暴に対して日本政府は対応を取ろうとしない為、民間で帝国鉄道に反旗を翻す団体も動き出している。
それぞれの対立は激化し、関係の無い人々にも被害が拡大している。
そんな中、ある1人の男が鉄道業界へ宣戦布告とも取れる行為を繰り返していた…。
《都内某所:路上》
如月瀬奈が執り行った『決闘伴走車』を使用した試験走行が行われたその日の夜。
都内某所にある路上にはパトカーが何台も停車しており、規制線が張られ多くの警官や刑事が集まっていた。
すでに0時を回っているのにも関わらず、事件を聞きつけた近隣住民も何事かと集まって騒然としていた。
牛尾
「ったくよ、まさか0課の俺達まで1課の捜査に駆り出されるなんてな」
警視庁の中で唯一『人間以外』の事件・事故の捜査担当を担う0課の課長『牛尾哲』は、頭をポリポリと掻きながらぼやいた。
隣には同じ0課所属の刑事『高倉遊壱』の姿もある。
遊壱
「まあ表向きは我々も『捜査第1課所属』の扱いなわけですから…」
牛尾
「それにしたって、また『アイツ』 の事件とはな…。『鉄道会社の職員』を狙った傷害事件…」
牛尾はアスファルトの路上に敷かれた白いロープを眺める。それは被害者が横たわっていた場所を記録する為の物。
苦しみ屈むように横たわった姿を表すロープの周りには、大量の血痕が残されていた。
牛尾
「深影(みかげ)さんは何か言ってたか?」
遊壱
「それどころじゃないですよ、あの人もう何度も被疑者を捕り逃してイライラしてるんですから…」
牛尾
「こんな大変な事件だ、責任重大だろうよ…」
美鳥
「遊壱〜、おっちゃん〜。被害者のデータ貰ってきたよ」
そこへ、童実野高校特有のピンクのブレザーを着た少女。遊壱の相棒である『美鳥(みどり)』が紙の束を持ってくる。
牛尾
「ご苦労さん」
遊壱
「被害者の名前は『富士見直人(ふじみなおひと)』。帝国鉄道に勤務する34歳男性。
一般運送部門に配属していて、近くにある民間向けの集配所に荷物を預けに行った。その帰りに襲われたと…」
牛尾
「配属先の事務所の人間に事情聴取を行い、被害者の足取りが掴めたって所か」
遊壱
「被害者は今も意識不明の重体、海馬総合病院に搬送されたようです」
美鳥
「この辺だと、あそこくらいしか大きい病院無いもんね」
牛尾
「そんで被疑者は逃走か…。しかし妙だな…」
遊壱
「何がですか?」
牛尾
「この辺りは確かに人通りが少ない、しかし見ての通り民家の密集している住宅地だ。そこにも近隣住民が野次馬として押し寄せている」
遊壱
「確かに…」
遊壱が野次馬のほうを振り返ると、今にも規制線を超えて中に入って来ようとする人達を警官が取り押さえていた。
遊壱
「あれは普通に公務執行妨害ですけど…」
牛尾
「そんな場所でだ…。奴はどうやって誰にも見つかることも無く犯行を行ったのか…。
この資料に被害者の写真が添付されてるが、これだけの銃撃を受けたということはそれだけの数を発砲した事になる。
気づくだろ?銃の発砲音が聞こえたら」
遊壱
「実際、俺も聞き込みを行いましたが誰一人として発砲音を聞いていないようです。
ましてや夜間帯、都心部の喧騒もほとんど無い住宅地で誰も聞いてないなんて不自然ですよね…」
牛尾
「第一発見者は、偶然ゴミ出しに出てきた近所のじいさんか。万が一通りかからなったら…誰にも気付かれずにお陀仏だったな」
遊大
「じゃあ犯人は、なんらかの手段で『音を漏らすこと無く標的を殺害する手段を持っている』という事ですか…」
牛尾
「もし、本当にそんなものがあればの話だがな。
幸いな事に、奴の犯行で被害者達は重症を負いはしたが『死』には至ってない。
が、しかし…逮捕されれば『殺人未遂』は免れないだろうよ」
遊壱
「この事件、まだ先は長そうですね…」
※
《アカデミア上野校学生寮:食堂》
翌朝、時刻は7時半頃。
朝食を食べに学生達が食堂に集まり、各々が好きな席に座って食事を摂(と)っていた。
そしてこの日はいつも違う、ようやく学生寮にも『テレビ』が設置された。
しかしこの時間、朝は報道番組しかやっていない為かそれほど生徒たちの関心はない。
そんな中、遊大とナリヤの2人は朝食を食べながらテレビを見ていた。
ナリヤ
「いやぁ、まさかテレビが見られる日が来るなんて感動だよ!ま、来年には卒業しちゃうけど…」
遊大
「お前、自分の家にちょこちょこ帰ったりしてるじゃねえか。テレビなんて物珍しくないだろ」
ナリヤ
「違うんだなぁ、学校の敷地内で見るテレビと実家で見るテレビは違うんだよ」
遊大
「違わねえよ、どこで見たって内容は一緒だろうが」
そんな会話をしながら、2人はニュース番組を横目に食事を取る。
キャスター
『次のニュースです、昨日都内にて男性が銃撃を受ける事件がありました』
ナリヤ
「銃撃…?穏やかじゃないなぁ」
キャスター
『被害者は帝国鉄道に勤務する男性、富士見直人(ふじみなおひと)さん34歳。仕事で荷物を集配所に送り届けた際に事件に巻き込まれたものと思われます。
体には複数の弾痕が確認されており、現在は病院へ緊急搬送され意識不明の状態とのこと。
警視庁では巷を騒がしている連続傷害事件の被疑者と同一人物との可能性を示しており、警戒に当っています』
遊大
「銃なんて簡単に手に入るもんじゃ無いだろ…。それにそんなバカスカ撃ちまくったら、誰かに聞かれて通報されるんじゃねえか?普通」
ナリヤ
「僕もそう思う、もしかして…ヤクザとか絡んでたりして?」
遊大
「一番現実的かもな、目撃証言とかも近隣住民を脅せば黙らせられるだろうよ」
キャスター
『では次のニュースです、海馬宇宙センターの観測によって未知の彗星が接近中とのこと。とても巨大な塊ですが、地球に接触はまず有り得ないとの事です。
観測した映像によると、彗星の周りは黄金色に発光しており、現地の職員からはゴールド彗星と呼ばれているようです。
あと3ヶ月もすれば地球のそばを通過し、その際には黄金色の軌跡を空に見ることが出来るでしょう』
ナリヤ
「へぇ、ゴールド彗星か…金属で出来てるのかな?」
遊大
「彗星っつってんだから石だろ」
ナリヤ
「金だって鉱石じゃないか」
遊大
「金属と金鉱石は違うだろ…」
キャスター
『最後のニュースです、鉄道局局長の竜崎悠(りゅうざきゆう)局長がイギリスへ視察に訪れました。
現地の鉄道局局長に案内されイギリスの鉄道文化と技術を視察、日本の鉄道との違いに感銘を受けた様子。
しばらくはイギリスに滞在し、現地の貴族院に訪問して挨拶をして回るとのこと』
ナリヤ
「イギリスと言えば…元気にしてるかなぁマイク」
遊大
「そういやマイクの婆さんがイギリスの貴族の人間だとかで、マイクはデュエルキングになる為の修行しに行ってるんだったな」
ナリヤ
「たった2日前の出来事なのに、もう何日も会ってない感覚だよ」
遊大
「不思議なもんだなぁ」
ナリヤ
「あ!もうこんな時間だ!」
ナリヤはそそくさと食器を下げ始める。遊大が時計を見ると7時55分を指していた。
遊大
「マジかよ…だりぃな」
ナリヤ
「悪いけど先行ってるからね!」
遊大
「はぁ!?なんでだよ!」
ナリヤ
「日直だったの忘れてたァ!!」
ナリヤはそう言い残し、1人で食堂を出ていってしまった。
遊大
「馬鹿かアイツ…さすがに日直忘れんなよ…」
光姫
『授業をサボるおヌシがそれを言うか?』
すると、遊大のそばに光の球体が現れる。もう一つの魂、光姫(こうき)だ。
遊大
「よお、そういや今日初めて声を聞いたな」
光姫
『ずっとナリヤと話しておったからの。黙って様子を伺っておったのじゃ』
遊大
「お気遣いどうも」
光姫
『それで、学校には行くのか?』
遊大
「勿論…サボる」
光姫
『やはりのぅ』
クスクスと光姫はせせら笑う。
遊大
「俺はどの道長くねえ、だったら好きに生きて好きにくたばるまでよ。
死んだじいさんだって、俺の命が尽きるのを知ったら好きにさせてくれたはずだ」
光姫
『…本当に申し訳ない』
遊大
「何を辛気臭えこと言いやがる、本来なら俺はとっくに死んでる人間だ。
お前こそ、こんな俺に長い間よくへばり付いて来たもんだ」
光姫
『しかし…このまま消えとうなくて…幼子のおヌシを…』
遊大
「変わんねえよ、どっちに転んだってな…」
光姫
『う…うぅ……』
遊大
「そんじゃあ、いつもの店長の店にでも行きますかね」
こうして遊大は食堂を後にし、アカデミアの校舎に向かうことなく外へと向かおうと席を立つ。
その時である。
未来
「どこに行きますかって?」
遊大
「げっ…」
背後から見知った教師の声がした。
担任の天井院未来だ。
未来
「今日という今日は逃がしませんからね、職員会議でどれだけ私が肩身の狭い思いをしたか…」
遊大
「んなもん知ったこっちゃねえよ、教師は学生に振り回されてなんぼだろ?」
遊大は意地悪そうにニヤニヤと未来の顔を見上げる。
しかし、未来はそれに対抗するかのようにニヤリと笑う。
未来
「そうよ、教師は学生を導く立場にあるもの」
遊大
「…何を企んでやがる」
未来
「喜びなさい、職員会議でアカデミア本校の『実技最高責任者』が学生指導に来て下さることになったわ。
その名誉を得るトップバッターは、あなたよ」
遊大
「……へ?」
未来
「すでにこちらへ向かっているわ、お昼の時間までには到着の予定よ。
そのあいだ、あなたにはこれまでサボりにサボっていた単位を取ってもらうのに補習をしてもらうわ」
遊大
「くそっ!」
背を向けて出口へと駆け出す。
しかし待ち構えていたかのように男の教師2名が立ち塞がる。
「こら!逃げるな!」
「大人しくしろ!!」
遊大
「なっ!こんにゃろォォォ!!」
未来
「何がこんにゃろーよ!!全部自業自得でしょうが!!とにかく今日1日、補習!補習!補習よ!!」
遊大
「ガーーーーーーン!!!!」
遊大は目の前が真っ白になり、膝をついた。
光姫
『ガーンなんて口で言う奴は初めて見たぞ…。しかし今日のサボりは諦めるのじゃな』
真っ白に燃え尽き言葉を失った遊大を、2人の男性教師が両脇を抱えて寮の外へと連れ出していく。
その姿を見た未来は、表情を曇らせて呟く。
未来
「どの道長くないって…どういう事なの…」
※
《海馬旅客鉄道:大崎駅》
その頃、大崎駅の事務室には2人の男がいた。
1人は駅長の天馬遊治郎、もう1人は助役の中野一郎だ。
2人は来客用の席の長テーブルに置かれた段ボールの中身をチェックしていた。
遊治郎
「冬制服上下2着、夏制服上下2着。制帽1つ…」
中野
「手袋7セット、ネクタイ、社員証…」
遊治郎
「まさか、こんな日が来るなんて…」
遊治郎は手元のチェックリストの用紙にレ点を書き記しながら、ボソッと呟いた。
中野
「最近の若いもんは根性が足らん…なんて言ったら、パワハラとかモラハラになっちまうかな」
遊治郎
「本人がいない今なら、問題無いかと」
中野
「俺も最初はビックリしたもんな、まさかアイツが『辞める』なんて言い出した時はよ」
※
それは遊大と遊治郎がライディングデュエルを行った次の日の話である。
駅長室に遊治郎の部下である『藤崎』があるものを持ってやってきた。
渡された封筒には『辞表』の文字が記されている。
遊治郎
「ずいぶんいきなりだな」
藤崎
「すいません駅長、ただ自分…もう耐えられなくって…」
藤崎は怯えた声で口を開いた。
藤崎
「昨日の決闘乗務…まさかあんな子供が現れて、ましてや負けてしまって……。
それにもう…あれから1日経っているのに…今日も利用客から罵声を浴びせられて…こんなこともう…」
遊治郎は知っている、藤崎は臆病な性格であることを。
あまり我を出すようなことは無いし、逆にそれは忠実に職務をこなせるという事でもあった。
しかし前回のライディングデュエルで完膚なきまでに叩きの召され、その後の利用客からのクレーム。
味わったことの無い恐怖だったのだろうと察せられた。
遊治郎
「とにかくそこのソファに座って、お茶でも飲んで落ち着け」
藤崎
「は、はいぃ!!」
遊治郎
「常温のペットボトルだけど良いかな?」
藤崎
「は、はいぃ!!」
ロボットのように同じ言葉を繰り返す藤崎に、遊治郎は少しギョッとする。
しかし変な目で見ることは失礼にあたる、目を合わせないようにデスクから『退職届』の用紙を取り出した。
遊治郎
「辞表は預かっておく、ひとまずこの用紙に必要な事を書いて持ってきてくれ。あとは俺から上に報告するから」
藤崎
「あ…ありがとうございます…」
※
それから数日後の今日。
朝早くにビジネススーツを着た藤崎が荷物を持って事務室にやってきた。
大きな紙袋に入った制服などの借りていた備品が入っている。
遊治郎
「短い間だったけどお疲れ様、次の職場でも頑張ってね」
藤崎
「は…はい。お世話になりました」
藤崎は遊治郎に紙袋を渡し、頭を下げて事務室を出ていった。
※
遊治郎
「寂しくなりますね…」
中野
「まあな。…しかしあんにゃろう、駅長にだけ挨拶して他の奴らには一言も告げずに出ていきやがった」
遊治郎
「今の若い人って、あれくらいドライな人の方が多いみたいですよ」
中野
「嘆かわしい限りだ…ん?ちょっと待て」
中野は段ボールの中身をチェックしていくうちにあることに気づく。
中野
「駅長、アイツの持ってきた紙袋に『デュエルディスク』入ってねえか?」
遊治郎
「いえ、入ってないですね」
遊治郎は改めて紙袋を確認するが、どこにもデュエルディスクは無い。
中野
「まさかあのバカ、貰いもんだと思って持っていきやがったな!アレだって仕事の為に支給された備品だぞ!」
遊治郎
「まあまあ、落ち着いてください中野さん…。悪気があって持っていったとは限りませんよ。何しろ彼はボーッとしてる事多いですから、きっと入れ忘れたんです」
中野
「それも問題だがね、はぁ…電話して持ってきてもらうか?」
遊治郎
「かけてみます」
遊治郎は自身のデュエルディスクから、藤崎の持つデュエルディスクへ発信する。
何回かのコールが鳴る、しかし藤崎は電話に取らない。
遊治郎
「繋がらないですね」
中野
「やっぱりなぁ」
遊治郎
「もう少しだけ待ってみましょう、そろそろ彼も自分の家に着く頃でしょうし。気づいたら持ってくるはずです」
中野
「そうかもな、そんじゃ俺は武田と交代してくるから」
遊治郎
「よろしくお願いします」
????
「あのー、ちょっとよろしいですかァ?」
すると、窓口の方から人の声がした。
遊治郎はハッとなり窓口へと駆け寄る。
遊治郎
「お待たせしました、如何なさいましたか?」
窓口の外に立っていたのは、貴族のような格好の金髪の男性。
その肩からは仰々しい大きなデュエルディスクが下げられている。
????
「ワタークシ、上野駅に行きたいーのですが。日本の駅はややこしいノーネ。どの電車なら上野駅に行けるノーネ?」
遊治郎
「上野駅ですね、足元にオレンジ色の線が引かれている先のホームの電車からお乗りいただけます」
????
「特急電車は無いノーネ?急いでいるノーネ」
遊治郎
「残念ながら特急は無いのですが、ご案内した上野東京ラインであれば山手線や京浜東北線が停車する複数の駅を通過するので速達性が高いです。
それにグリーン車料金をお支払い頂ければ広い座席にゆったりと座れます」
????
「それはもはや特急ナノーネ!スンバラシイ!グリーン車のチケットを購入するノーネ!」
遊治郎
「ありがとうございます!」
貴族のような男性はグリーン車チケットを購入後、遊治郎に案内されたホームへと向かっていった。
遊治郎
「ずいぶん羽振りの良い人だったなぁ」
中野「でもわざわざ電車で乗り継いできたのか?金持ちならタクシーで行きゃあ良いのに」
※
《アカデミア上野校:自習室》
「それでは15分の休憩の後、次の補習を開始する。トイレに行きたいなら付き添うが?」
遊大
「行かねえよ」
「ならここで待て」
男性の教師が教材の入ったカバンを持って自習室を出る。
そして外から鍵を掛けて出ていった。
この教室は自習室と呼ばれてはいるが、内鍵とは別に外側の錠前があり二重ロックが掛かると出られない構造になっている。
遊大
「たく、ただの懲罰房じゃねえか」
遊大はすでに四限分の補習を行っており、次の補習が終われば昼休憩に昼食が食べられる。
遊大
「しんどい…」
光姫
『オヌシにしては直球な泣き言じゃな…』
遊大
「もっと朝飯食っとけばよかった…グズン」
光姫
『泣くほど!?』
遊大
「どうせ死にゆく運命だ、自由に好き勝手に命果てさせろよ…」
光姫
『全く…しょうがない奴じゃな。もう少しの辛抱じゃ』
その時、校内放送が流れる。
『校内の全生徒・全教員にお知らせです、本校の近隣にて事件が発生しました。全校生徒は教室にて待機、各担当教員は教室の生徒を体育館へ先導してください』
遊大
「は?なんじゃそりゃ」
光姫
『事件?』
遊大
「おいおい、俺だけ置いてけぼりじゃねえだろうな?おーい開けてくれやぁ!!」
ドンドンと鍵の掛かった扉を叩くが、返事は無い。
遊大
「クソが!」
バンッ!と扉を蹴破ろうとする、しかし扉はビクともしない。
光姫
『ビクともせんのう』
遊大
「あー!次から次へと何なんだよこんにゃろうがァァァ!」
遊大は苛立ち椅子を持ち上げ窓へ近寄る。
光姫
『まさか窓を壊すつもりか!?』
遊大
「他の教師共は教室の奴らに構って俺の事なんか忘れてるっつーの!ぶち破って出た方が早い!」
未来
「そんな訳ないでしょ!!」
すると外から遊大の担任、未来の声がした。
遊大
「おせーぞコノヤロウ!」
未来
「それが教師に対する態度!?いま開けるから窓を壊すのはやめなさい!!……あれ?どの鍵だっけ?」
扉の向こう側からはジャラジャラと鍵の擦れる音が響く。
おそらくいくつもの鍵が束になっていてどれか分からないでいるのだろう。
遊大
「やっぱり壊す!!」
未来
「やめなさいって!!今開けるから!!」
光姫
『肝心な時にこの教師は…』
その瞬間…
ガシャアアアアアン!!という音と共に遊大の居た自習室に外から砂埃が吹き込む。
同時に突風が吹き荒ぶ、遊大は扉にぶち当たり頭を打ち付ける。
遊大
「ぐあああああァァァァァ!!」
未来
「キャアアアアアァァァァァ!!」
どうやら廊下の窓ガラスも同様に割れたようで、未来もその被害にあったようだ。
遊大が顔を上げると、窓があった側の壁が破壊されて外の景色が少しだけ覗かせていた。
なぜ、少しだけなのか。
それは破られた壁の前に巨大な鳥のようなモンスターが立ちはだかっていたからだ。
そいつは口を開けて銃口のようなものをこちらへ向けている。
遊大
「な、な…なな……」
突然の出来事に言葉を失う遊大。
すると、突然声がした。
??
「おい、アカデミアのガキ。こっちへ来い」
男の声だ、それは目の前の鳥型モンスターの方角から発せられていた。
遊大
「あ………え……?」
??
「こっちへ、来い」
《東京都大東区:大通り》
複数台のパトカーがサイレンを鳴らし大通りを駆け抜ける。
向かう先は、デュエルアカデミア上野校。
そのうちの1台のパトカーに、遊壱・美鳥・牛尾の3名が乗車している。運転しているのは牛尾だ。
牛尾
「どけどけェ!!一般車両は待避しやがれ!!」
遊壱
「こちら捜査0課、1課及び近隣の派出所の応援部隊と合流」
無線機を使い遊壱は本部へ連絡をする。
本部
『こちら本部、了解した。
改めて事態を報告する。上野駅付近の路上で男性が暴行を受け意識不明の重症。被害者は藤崎良雄(ふじさきよしお)、元海馬旅客鉄道の社員。
巡回中の巡査が現行犯で被疑者を確保しようとするも逃走、デュエルアカデミア上野校の方向へ向かったもよう。
すでにアカデミアには警戒するよう連絡済み。
被疑者の身元も判明、名前は…
金城隼(かねしろしゅん)、元ハートランド航空の職員。職場にて暴行事件を起こして懲戒解雇の来歴あり』
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