ファンキル EPILOGUEシリーズ   作:荒ぶる異族

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ゆるりとに昔あげたロストラグナロク本編後におけるアロンダイトのSSです。





EPILOGUE アロンダイト

 

 

 

ふとしたとき思い返す。

 

肩を並べて共に戦った彼女のことを。

 

初めはナディア姫をケイオスリオンから取り戻すまでの協力関係だった。

 

それが旅を共にしている内に彼女の仲間になっていた。

 

彼女はお人好しだ。

 

他国の斬ル姫である私を信用し、自国を襲った斬ル姫に迷い無く手を差し伸べる。

 

そんな彼女に希望を見いだした。

 

彼女の考え方こそが、本当の意味での平等社会を実現させるのだと。

 

斬ル姫もイミテーションも、皆が平等に生きられる世界。

 

その理想を勝ち取る為に、国の命令に反し彼女と共に戦うことを選んだ。

 

それがトレイセーマの為になると、そう信じていたから。

 

しかし、私の想いが届くことはなかった。

 

トレイセーマに戻った私に待っていたのは、思想矯正施設エドゥーによる再教育。

 

識別系統B・02となり果てた私は、背中を預け合った戦友を騙し背後から斬りつけた。

 

彼女は私のことを信じきっていた。

 

自国の斬ル姫ではない私のことを信じてくれたのに。

 

私が彼女の信頼を踏みにじった。

 

今ここに居る私は、ただの抜け殻。

 

かつての誇り高き騎士、アロンダイト・獣刻・ユニコーンはもういない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ……!」

 

トレイセーマの首都グライヒハイツより少し離れた所にある森。

 

そこが私の修行場所。

 

今日もまた、雑念を払うように剣を振るっていた。

 

「…………」

 

静かに呼吸を整え、剣を鞘に納める。

 

「アナタも懲りませんね、梓弓」

 

「……気づいていましたか」

 

木々の間から梓弓が姿を現す。

 

「こうも連日会っていたら嫌でも分かります。何の用ですか?」

 

「アナタに会いに」

 

「冗談は結構です。またはぐらかすつもりですか?」

 

「用件を言えば、アナタは断るでしょうから」

 

最近はいつもこうだ。

 

私の行く先々で梓弓に会い、何をするでもなく別れる。

 

少しウンザリしていた。

 

「前向きに検討すると言えば、その用件を教えて貰えるのですか?」

 

「……引き受けてはくれないのですね」

 

「それは了承しかねます」

 

内容も聞かずに頼みを請け負うことはできない。

 

断るのが目に見えているというなら尚更。

 

「……これ以上良い返事は引き出せそうにありませんね」

 

だが、梓弓は観念したようだ。

 

「アロンダイト、もう一度トレイセーマの騎士となるつもりはありませんか?」

 

……確かにこの用件は断らざるを得ない。

 

「私は、もう二度と騎士を名乗るつもりはありません」

 

その資格が私にはないから。

 

「まだ気に掛けているのですか……?」

 

忘れられる訳がない。

 

「アルマス・妖精結合・ティターニアのことを」

 

あの時の後悔が、今も私を縛り付けている。

 

「かつてのトレイセーマは、平等という名の絶対的支配を強いる国でした」

 

多種族間での諍いを避ける為に、規律を逸する者に厳しい罰を与えた。

 

国の意向に反する者には、思想矯正施設エドゥーで心の自由を奪った。

 

トレイセーマに仇なす存在は、オーダーキラーズが全て始末した。

 

「上辺だけの平等社会、平和という名の鎖が皆の自由を奪っていました。梓弓、アナタは今のトレイセーマをどう思いますか?」

 

「……トレイセーマは変わりました。様々な種族の良いところを尊重しあう、本当の意味での平等社会に」

 

「私も同意見です」

 

今のトレイセーマには思想矯正施設エドゥーもオーダーキラーズの暗躍もない。

 

「トレイセーマが理想社会を実現した今、もう私の役目はないんです」

 

梓弓は何か言いたげだったが、その言葉を飲み込み控えめに微笑んだ。

 

「それでも鍛錬は欠かさないのですね」

 

「……ただの習慣です」

 

剣を振るうのは、何かに没頭していないと余計なことを考えてしまうからだ。

 

これはただの現実逃避。

 

私の嘘は梓弓に見抜かれていたのかもしれない。

 

控えめに笑った彼女の目に、憐れみの色が混じっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……梓弓、いつまでついてくるのですか?」

 

「帰り道が同じだけです」

 

梓弓は目を逸らしてサラッと答えた。

 

……もしかすると私は心配されているのかもしれない。

 

「……いつもより街が騒々しいですね」

 

「気のせいではないですか?」

 

梓弓のその発言に何か含むものを感じた。

 

「アロンダイト!」

 

「!!」

 

数ヶ月ぶりに聞く懐かしい声に心を揺さぶられる。

 

振り返るとそこには、私が裏切り傷つけた斬ル姫。

 

「久し振りね」

 

アルマス・妖精結合・ティターニアがいた。

 

「アル、マス……?どうしてトレイセーマに?」

 

「えっと説明すると、ギルが外交官になってるんだけどトレイセーマの会談で外交官として今日行くにあたって1人だと危ないから護衛として私とティニが同行するようにオベロン様に頼まれて普段はモラベガが付き添いなんだけど…」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

「どうしたの?」

 

「端的に言ってください」

 

「言ってるでしょ!」

 

アルマスは相変わらず口下手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

ーーー

 

梓弓の協力で、アルマスの言いたいことを何とか理解することができた。

 

街がざわついていたのは、ティルヘルムからの使者が来るとの噂が流れていたからみたいだ。

 

「アルマス、アナタはギルの護衛でトレイセーマに来たのに迷子になってしまったということですね」

 

「ギルとティニが迷子になったの」

 

「……変な所で強情ですね」

 

意地っ張りなアルマスに梓弓は呆れている。

 

「護衛なら早く合流した方がいいのでは?」

 

「え?」

 

「ん……、そうね。名残惜しいけどティニ達が心配だし、私はそろそろ…」

 

「ま、待ってください!」

 

気がつけばアルマスの腕を掴んで、引き止めていた。

 

「私がギルに手を上げ、アナタを騙し、傷つけたことを謝罪させてください」

 

「良いわよ、そんなこと。ギルももう気にしてないわ」

 

……そんなこと?

 

「何を、言ってるんですか……?私はアナタを裏切ったんですよ!」

 

「エドゥーで再教育されてたから、でしょ。そんなのは裏切った内に入らないわ」

 

そんなの。

 

あの日の出来事に対するアルマスの考え方に、温度差を感じる。

 

ーーーダメだ。

 

アルマスは気にしないと言ってくれている。

 

だから、これだけは尋ねてはならない。

 

「アルマス、あなたは……」

 

聞けば、きっと後悔する。

 

そんな予感があった。

 

あったのに。

 

「私に裏切られたことを、どう思っているのですか?」

 

止められなかった。

 

裏切りを許すことなんて、私には到底できない。

 

洗脳されていたという理由があったとしても「そんなこと」の一言で片付けられない。

 

「私は……」

 

アルマスが視線を逸らして言い淀む。

 

それでも、意を決し、私に目を合わせてハッキリと告げた。

 

「私が至らないばかりに、アナタにつまらない負い目を感じさせた」

 

「アナタにあんな真似をさせたこと、後悔してる」

 

アルマスの表情は真剣そのもので、

 

それが彼女の本心だということは疑いようがなかった。

 

「…………」

 

「……ちょっと辛気臭い話になったわね。ティニ達が待ってるからもう行くわ」

 

ギル達と合流する為に、アルマスはその場を去っていった。

 

再び呼び止めることはできなかった。

 

ーーー私が至らないばかりに、アナタにつまらない負い目を感じさせた。

 

アルマスが至らない?

 

そんな訳がない。

 

本気で言ってるなら、それはただの傲慢だ。

 

ーーーアナタにあんな真似をさせたこと、後悔してる。

 

私が裏切ったのは、私の心が弱かったからだ。

 

アルマスが後悔するようなことじゃない。

 

そう、本来なら。

 

「…………滑稽、ですね」

 

温度差の正体。

 

アルマスにとって、私は戦友ではなく。

 

護られる側の存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜は、トレイセーマの宿で寝泊まりすることになった。

 

ベッドに寝転び、考え事にふける。

 

ーーー私に裏切られたことを、どう思っているのですか?

 

あの問いに答えた時のアロンダイトの表情を、未だに忘れられずにいた。

 

「…………アロンダイト」

 

私にとって、アロンダイトは……

 

「アルマス、お客さんが来ましたよ」

 

ティニに呼ばれ、思考を打ち切る。

 

「私に?」

 

扉を開けると、そこにいたのは意外な客人だった。

 

「……梓弓?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。

 

かつての記憶。

 

アルマスと共にケイオスリオンへ向かい、

 

ハルモニアへ同行し、

 

またケイオスリオンに戻って。

 

トレイセーマで再会した。

 

そして。

 

ギルに手を上げ、アルマスを騙し、傷つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

最悪の目覚め。

 

雑念を払う必要がある。

 

今日も剣を振るうべく、修業場所へ向かう。

 

修業場所には既に人がいた。

 

「アルマス……?どうしてアナタが……」

 

よく見るとティターニアやギルも傍に控えていた。

 

「ただの野暮用よ。アロンダイト、アナタに決闘を申し込む」

 

突然の申し出に思考が固まる。

 

「アルマス、何言ってんだ!?」

 

「ギル、大切なことなの。黙って見てて」

 

ギルが慌てた様子でアルマスを諌めるが、彼女の決意は固い。

 

「……私達が戦う理由なんてない筈です」

 

「私にはある。勝負に乗れないなら、もう剣は捨ててしまいなさい」

 

「言ってくれますね。何のつもりかは知りませんが、そんな挑発には……」

 

「逃げるの?まぁ、仕方ないわね。アナタはもう騎士じゃないんだから」

 

その言葉に、胸が強く痛んだ。

 

「アルマス、アナタには関係ないことです」

 

「本気で言ってるの?」

 

「……えぇ」

 

アルマスは唇を噛み締める。

 

「もう、いい。構えないなら、こっちからいくわ」

 

次の瞬間、アルマスの手元に剣が顕現され、

 

「!!」

 

私は自身の剣でアルマスの剣戟を捌ききった。

 

「アルマス!何を!?」

 

「アナタが分からず屋だからよ!」

 

再び斬りかかってくるアルマスに、真っ向から剣を振るい、鍔迫り合う。

 

「……この程度なの?昔のアナタはもっと強かった!」

 

アルマスの力に少しずつ押されていく。

 

力比べではアルマスに分があるようだ。しかし、

 

「それは、勘違いです!」

 

アルマスの剣を受け流し、がら空きの背中に蹴りを見舞う。

 

ーーー速さは私の方が上だ。

 

そう考えた刹那。

 

「甘い!」

 

アルマスは蹴り飛ばされた不安定な姿勢のまま、手をかざし氷弾を放ってきた。

 

身を捻り、氷弾をかわすが

 

「はあああ!!!」

 

体勢を立て直したアルマスに、大上段から剣が振るわれる。

 

「ぐっ……!」

 

咄嗟に飛び退き、事なきを得る。

 

不倒不屈の剣、それがアルマス。

 

彼女の眼は真っ直ぐ私を捉えていた。

 

「もう一度言うわ。アロンダイト、今のアナタは理想を追ってた頃のアナタより遥かに弱い」

 

「剣を交えた今ならわかる。どれだけ腕を上げようと、アナタの剣には心が伴ってない」

 

「アロンダイト、平等社会の実現はどうしたの?」

 

「!?」

 

それは、かつて自分が思い描いていた夢。

 

「……実現、したんです」

 

今のトレイセーマに暗い陰はない。

 

「トレイセーマは、斬ル姫も常人も、皆が平等に生きられる国になりました」

 

本当の意味での理想社会になったのだと、心の底から信じている。

 

「夢は、叶ったんです……」

 

だから後悔なんて、ない。

 

だけど、アルマスは納得しなかった。

 

「夢が叶ったっていうなら、どうしてそんな辛そうにしてるのよ!」

 

「それは……」

 

「確かに平等社会は実現したのかもしれない。でも、それがどれだけ脆いものなのか知らないアナタじゃない筈よ……!」

 

「この平和を誰かが守っていかないといけない!そうでしょ!?」

 

そんなこと、分かってる。

 

「……でも、私にはその資格がないんです」

 

「私が、アナタを裏切ったあの日から」

 

仲間を裏切る人間が、国を護る者として必要とされることは決してない。

 

それが、私が騎士をやめた理由。

 

「この……絶バカ!」

 

「ティニ、アロンダイトの目を覚まさせるわ!一気に畳み掛ける!」

 

アルマスの背中から、蝶のような形状の蒼い翼が形成される。

 

これが、アルマスの本気。

 

「ーーー行くわよ、アロンダイト」

 

「!!」

 

声をかけられた次の瞬間には、目の前に剣を振りかぶっているアルマスがいた。

 

ーーー速い!

 

「ぐ……!」

 

彼女の一撃を剣で受け止めるが、踏ん張りがきかず吹き飛ばされる。

 

追撃を逃れる為に、すぐさま受け身をとるが、

 

「遅い」

 

背後から掛けられた声に、全身が総毛立つ。

 

ーーー間に合わない!

 

振り向くこともせず、そのまま前方へ跳ぶ。

 

先程まで自分がいたその場所は、アルマスに切り払われていた。

 

「ハァっ……!ハァ……!」

 

力比べでは彼女に分がある。

 

今となっては、速さも圧倒的に彼女の方が上だ。

 

思い知らされるアルマスとの実力差。

 

満身創痍の自分に対し、アルマスは息一つ乱していない。

 

その余裕からか、アルマスは戦いの最中にも私を問い詰めていく。

 

「誰かを護るのに資格が必要だなんて本気で思ってるの!?」

 

「アナタの夢は……、たった一度の失敗や挫折で諦めるようなものだったの?」

 

「……たった一度?」

 

怒りで頭が沸騰していく。

 

その言葉を、アルマスから聞きたくはなかった。

 

「そのたった一度で、取り返しのつかないことを私はしたんです!!」

 

「他国のキル姫である私を、アナタは信じてくれた……。本当に……、本当に嬉しかった!!」

 

「なのに、私は……」

 

例えアルマスが許しても、私は私を許せない。

 

「……無神経なことを言ったのは謝る」

 

「でも、私もギルもこうして無事でいる!取り返しのつかないことなんてない!!」

 

「!!」

 

アルマスのその言葉に、どれだけ救われたのだろう。

 

アルマスは、私を糾弾するために決闘を申し込んだのではなく。

 

「まだ、騎士に戻るつもりにはなれないの……?」

 

私を励ますためのものだった。

 

「ごめんなさい、アルマス」

 

「騎士に戻りたい気持ちは、あります。……でも」

 

この決闘で思い知らされた。

 

「トレイセーマを護るには、力が足りない。私は、余りにも…………弱い」

 

私がどれだけ望んでも、きっとアルマスには届かない。

 

いや、オーダーキラーズの足元にさえ及ばないのだろう。

 

だというのに。

 

「ーーー馬鹿にしないで」

 

「アロンダイト・獣刻・ユニコーンは、理想を求める誇り高き騎士よ」

 

「アロンダイト、例えアナタでも、私の戦友を馬鹿にすることは許さない」

 

こんな私を、アルマスは認めてくれた。

 

「長い旅の中で、共に戦ってきた」

 

「零装支配されていても他国の人間に手を差し伸べることを厭わなかった」

 

「例え命令に背くことになっても、自国の理想の為に自分を貫いた」

 

信じてくれた。どこまでも真っ直ぐに。

 

「そんなアナタを、弱いだなんて言わせない!」

 

きっと、アルマスはそれを伝える為だけに勝負を持ち掛けたのだろう。

 

言葉だけでなく、剣に乗せた想いを通して。

 

「……私も人のことは言えませんが、アナタも大概不器用ですね」

 

「今更でしょ?」

 

そう言って、アルマスは微笑んだ。

 

「どうして、そこまで私を信じてくれるのですか……?」

 

「そんなの決まってる」

 

「私が初めて背中を預けた仲間が、アナタだからよ」

 

決闘の途中だというのに、自然と笑みがこぼれた。

 

「信じます」

 

「自信がないんじゃなかったの?」

 

勿論、そんなものはない。

 

「私を信じてくれる、アナタのことを信じると決めたんです」

 

剣を構えて、目を閉じる。

 

私が思い描く強さ。

 

真っ先に思い浮かぶのは、アルマスの姿で。

 

あぁ、そうか。

 

アルマスの強さは絆だ。

 

もう大丈夫。必要なのは覚悟だけ。

 

だって今の私には信じてくれる人が、アルマスがいる。

 

どこまでも、真っ直ぐに。

 

今までの弱い自分に別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルマス、あれは……」

 

ティニが驚きの声を上げる。

 

アロンダイトの身体が淡い光に包まれていく。

 

「綺麗ね」

 

そして、それ以上に彼女の剣は強い輝きを放っていた。

 

「アロンダイトの覚悟が位階〈クラス〉を引き上げた。……手強いわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルマス、アナタの想いに応えさせてください」

 

「えぇ、仕切り直しね」

 

互いに大きく息を吸い、神経を尖らせる。

 

次の相手の一手を見落とさないように。

 

「行くわよ!」

 

仕掛けたのはアルマスだ。

 

アルマスは氷弾を放ちながら、猛スピードでこちらに接近する。

 

氷弾を最小限の動作で回避しながら、アルマスの元へ駆けていく。

 

互いの剣が鍔迫り合い、轟音が鳴り響く。

 

「流石ね!」

 

「この程度では、ありません!」

 

剣に力を込め、アルマスを吹き飛ばす。

 

剣が放つ輝きは更に強くなっていた。

 

「完全にこちらが力負けしています!アルマス、スピードで翻弄して……」

 

「そんな小細工、アロンダイトには通じないわ。私達の持てる力の全てをぶつける!」

 

アルマスが大きく距離をとった。

 

スピードを推進力にして、全力の一撃を放つ為に。

 

上空にいる好敵手を見据える。

 

次の一振りで勝敗は決する。

 

「ありがとう、アルマス」

 

蒼い蝶と光り輝くユニコーン。

 

両者の全力が交錯した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一振りの剣が宙を舞う。

 

「私の……」

 

私の手元に、剣はない。

 

「……私の完敗ですね」

 

弾かれたのは、私の剣アロンダイト。

 

アルマスは自身の剣を強く握りしめていた。

 

「完敗、ね……」

 

アルマスの剣から鈍い音が鳴る。

 

刀身には亀裂が入っていた。

 

「よく言うわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルマスとの決闘を終え、帰宅する前に梓弓の部屋を訪ねた。

 

話さないといけないことが沢山ある。

 

「珍しいですね、アロンダイトが私の部屋に来るのは」

 

「アルマスと決闘をしました」

 

「……どういう経緯でそんなことに?」

 

「まぁ、いろいろです。……完敗でした」

 

「その割には清々しい顔をしてますね。悩みは晴れましたか?」

 

「お陰さまで」

 

そこで、梓弓が自分をジッと見つめていることに気づいた。

 

「……妬けますね。私が何を言ってもアナタは立ち直らなかったのに」

 

そう言って、少し頬を膨らませている彼女が可愛らしかった。

 

「だから、アルマスに話をしたのでしょう?」

 

「気付いてたのですか?」

 

「アナタとも長い付き合いですから。だから、その……、ありがとうございます」

 

照れてしまい、視線を逸らしながら礼を言う。

 

「ふふっ」

 

梓弓はクスクスと笑っていた。

 

「な、何かおかしいですか?」

 

「ごめんなさい、アロンダイト。私にそういった一面を見せてくれるのが嬉しくて」

 

「えっと……?」

 

よく分からなかったが、梓弓は満足そうなので特に言及はしなかった。

 

「それで、私にお礼を言うためにわざわざ来てくれたのですか?」

 

「それもありますが……。もう一つ、頼みたいことがあるんです」

 

アルマスのお陰で、もう一度頑張ってみようと思えたから。

 

理想を叶えるためではなく、今度は理想を護っていくために。

 

「トレイセーマの騎士になるという話、今からでも間に合いますか?」

 

梓弓はしばらくキョトンとしていたが、すぐに笑顔で、勿論です、と答えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティルヘルムへ帰っている途中、ギルがボソッと呟く。

 

「まさかアルマスが負けるなんてなぁ」

 

「私は負けてないわよ!……勝った訳でもないけど。それよりティニ、どうしたの?」

 

ティニが何か言いたげだったので、声をかける。

 

「アルマス、どうしてデウスの力を使わなかったのですか?」

 

「ん……、アルマス、全力じゃなかったのか!?」

 

「全力だったわよ。デウス・エクス・マキナとしての力は確かに使ってないけど」

 

デウスの力は繋がる力。言い返せば、皆の力だ。

 

私が個人で振るっていい力じゃない。それに。

 

「あの決闘はアルマス・妖精結合・ティターニアとして、挑んだものだから」

 

決して、デウス・エクス・マキナとしてではない。

 

ティニは納得したのか、満足そうだった。

 

「アルマスも、うかうかしてられませんね」

 

「ティニ、小言はいいから!早く帰るわよ」

 

そう言いつつどこか嬉しそうなアルマスに、ギルとティニは笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これで勝ったなんて言える程、図々しくなれないわ」

 

決闘の直後、刀身に亀裂が入った自身の剣を見つめて、アルマスはそう言った。

 

「それでも、やはり私の完敗です」

 

「引き分けでしょ、どう見ても」

 

「それ以前の問題です。心の上でアナタに、いや、自分に負けていた」

 

私がここまでやれたのは、アルマスのお陰だ。

 

この恩を、私は絶対に忘れない。

 

だから、今度は。

 

「アルマス、アナタが道を違えた時は私が目を覚まさせます。……約束です」

 

「うん、頼りにしてる」

 

アルマスが差し出した手をとり、握手をする。

 

「違う!」

 

「え?」

 

…………怒られた。

 

「小指を立ててたでしょ!指切りよ!指切り!」

 

「ゆ、指切り?」

 

不穏な言葉に、思わず聞き返してしまう。

 

「……知らないの?まぁ、私も昨日梓弓に教わったんだけど」

 

「その指切りというのは……?」

 

「大切な約束をする時に、互いの小指を結ぶんだって」

 

アルマスと小指を絡ませる。

 

「それじゃ約束ね」

 

「はい、今度は私がアルマスを助けます。それまでは……」

 

「もう一度騎士として、トレイセーマを護っていくことを誓います」

 

私の心の中に識別系統B・02はもういない。

 

誰よりも自分を信じてくれた彼女に報いよう。

 

誇り高き騎士、アロンダイト・獣刻・ユニコーンとして。

 

戦士、アルマス・妖精結合・ティターニアに強く誓った。

 

 

 

Fin

 

 

 

 

 







最後まで読んで頂きありがとうございました!


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