ボーイミーツガールをしないと出られない部屋   作:飯妃旅立

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2.少年の過去

 さて、僕の話だ。

 先も述べたように、僕にはもう両親がいない。僕が高校生の時に逝去した。その時妹はまだ中学生で、当然そんな状態で生活しているわけがない。残念ながら親戚もいない僕らは孤独で、けれど僕は馬鹿だった。そういう子供を保護する機関なんかいくらでもあるのに、そういうのに頼らず、独力でなんとかしようとした。

 同情をね、誘ったんだ。だって可哀想だろう? 高校生の少年と中学生の少女。両親を失った、なんてさ。人間は可哀想と思うものに対しては優しいよ。なんせ、優しくしないと罪悪感を負ってしまう。罪悪感というのはね、人一人が背負うにしては重すぎる感情なんだ。それこそ恋だの愛だのよりも重く、苦しく、つらい感情。

 だから人はそれを背負わないように努力する。恵む事で、同情する事で、罪悪感を背負わないように行動する。その手段は人に寄るよ。ただ口元に手を当てて可哀想、なんて呟く人もいれば、要らなくなった自分たちの古着を送ってくるような人もいる。その程度の差は自分達に余裕があればあるほど質を増す。

 端的に言えばお金持ちさ。お金持ちに可哀想だと思ってもらえれば、その恩恵が受けられる。無論、それに甘んじていては可哀想が薄れるからね、ちゃんと働かないといけないし、ちゃんと苦しまないといけない。それは必要な犠牲だよ。支払わなければならない対価、という奴。

 

 そうやって僕は、お金持ちの同情を誘った。

 具体的にはテレビに出るとか、バイト先で身の上話を話すとか、結構手段はあるんだよ。特にテレビは、こういう悲劇的な話にはすぐに食いつくからね。

 暇なんて作らないで、稼げるだけ稼いだ。バイトの穴にバイトを入れて、その穴にバイトを入れて。流石に高卒じゃないと正社員で取ってくれる所はなくてね。高校だけは卒業しないとだったから、勉強もして。

 そうして、日々を苦しみながらも生活していける賃金は稼げたんだ。無論バイト代だけじゃなくて、そういうお恵みあっての事だよ。二人分だからね。

 家も失わなずに、学校にも通えて、食事もとれる。結構な充分量だと思うだろ? でも僕は、もっと上を目指した。

 

 同情を誘う範囲を広げたのさ。

 子供である事実を最大限に利用して、もっともっと色んな人に取り入った。プライドも捨てたさ。足を舐めろと言われたら従順に従うような子だったよ。無論、心の中では見下しながらね。あ、実際に舐めろと言われる事は無かったよ。割とみんな、良い人だった。

 それで、それで。

 ある日──もっともっとお金持ちの目に留まった。

 今まで会ってきた誰よりもお金持ちな人。富豪、という奴。その人に言われたよ。"お金を上げるから、なんでもいい。起業して、成功しなさい。そうすればそのお金は返さなくていい"って。投資家の遊びさ。僕にとってそれは埒外の大金だったけど、その人にとってはそうでもなくて。

 ま、スポンサーだよね。

 僕の性格を見抜いていたのか、ただ暇だっただけか。わからないけど、とにかくそこから僕の人生は一変した。

 

 使われる側から、使う側になった。

 さっき一般サラリーマンと言ったけどね、これでも一応ある企業の代表なんだ。若社長ってヤツ? それなりの新機軸な事業でね。界隈に僕の会社だけが先んじて入ったから、知名度も抜群。そうなってくると今度は過去の人間関係が影を落とす。

 それこそまた、テレビだね。

 天涯孤独となった兄妹。バイト三昧で、けれど勉学も欠かさずにあった男子高校生が起業。ネタとしては十分だ。テレビもわかっているからね、その資金がどこから出てきたのか、とかは違和感のない程度にぼかしてくれるし、まるで好感のもてる青年であるかのように脚色してくれる。おかげで会社の注目度はさらに上がったし、今まで援助してくれた人も泣いて喜んでくれたよ。

 当然その人達にもお返しをした。まだ経営が順調とは言えない頃合いだったけれど、それは必要な対価だ。タイミングだよ。有名になったタイミングでお返しをする事で、律儀な人なんだ、と思わせられる。なんせ安心が付きまとうからね。罪悪感を得なくてよくなった、という安心に便乗するんだ。プラスの感情はプラスの感情を引き寄せるものだよ。

 

 そこからも働く毎日だ。妹が医療系に行きたいと言っていたから、となれば大学は出なければいけない。勿論医療系のね。資格も取らなきゃいけないし、色々先立つものがあるだろう。

 何より認められた事で手を抜き始めた、なんて印象が付けられたら最悪だ。それは企業イメージとしても、僕のイメージとしてもブランディングを損なう結果になる。だから僕は常に敏腕社長でいなければいけなかった。

 

 さて、こうも注目されてくると、今度はその人気や資金の甘い汁を吸わんとする輩が集まってくる。

 特に僕のその高校生時代を知る奴らが、わらわらとね。

 友情。あるいは同情を誘わんとしてくる相手とは積極的に絡んだよ。彼らは尻尾の振り方が上手だし、足元を見れば如実な反応を見せる。即ち、キレるか、遜るかのどちらか。キレる奴には丁重にお帰り頂いて、遜る人にはちゃんと仲良くしてあげるんだ。

 すると噂が広まっていく。基本、噂というのは良いモノより悪いモノの方が広まりやすいんだけど、悪い事を言う奴をこっちが管理できれば、当然良いモノしか広まらなくなる。人の口に戸は立てられないけど、監視する事は可能だよ。お金があればね。

 

 良い噂ばかりが流れ始めると、今度は疑り深い奴が探ってくるようになる。裏があるんじゃないか、ってね。

 それも好きにさせる。隠さないんだ。裏で何かをしている、というのを掴ませる。けど、何をしているのかははっきりしない。当然だ、別に悪い事なんてしてないんだから。ただ自社の誹謗中傷に対して対処しているだけ。

 そういう事が続くと、今度はマスコミ側の信頼度が下がる。信頼できないマスコミに槍玉にあげられた会社は良い企業だと、そういう反転した逆張りが生まれる。メリット、だよ。

 

「ここまで聞いて、何か思う事は?」

「運に恵まれているわ。結局、その金持ちとやらに見つかったのが全ての始まりじゃない。それが無ければアンタは今も底辺で泥を啜っていた。違う?」

「そうだよ。僕は特に恵まれている。誰もが得る事の出来ないきっかけに恵まれた。そしてそれをふいにしなかった。月並みな言い方にすると、チャンスをモノにした、って感じかな」

「それは、アンタの実力じゃないでしょ」

「いいや。運も実力の内だよ。チャンスをモノにするには、判断力こそが命。それを培ったのは僕だ。あの時公的機関にお世話にならなかった馬鹿な僕。その経験をして、判断力を育んだ僕の力さ」

「……そ。続けて?」

「うん、わかったよ」

 

 そこからは足早だった。そうして言い寄ってくるのは大体個人で、企業ではない。企業は自らのイメージも保たなきゃいけないからね。基本、どちらもにメリットがあるような提案しかしてこない。

 こちらはぽっと出の、歴史のない企業。なら、取引をするにもデメリットの方が大きい。静観するのがほとんどで、時折勇気のある、勢いのある所が話を持ってくる。

 それを全て受けるんだ。こちらを惜しまない。けれど対等に。謙遜は美徳なんかじゃないからね。

 こちらは唯一であるという強みがある。どうせ後進が出てくるのはわかりきっているから、今の内に脈を広げるんだ。人脈さ。強い強い繋がり。そしてそれは、もっと踏み入る事でより強固となる。

 本来ビジネスライクであるはずの関係を、深い話をしたり、家族の話をしたり、身の上話をしてまた同情を誘って、そうやって深く深くへ入り込ませる事で、他者と比べた時に付き合いを優先させる。会社経営と個人の付き合いを天秤にかけさせるんだ。

 

 コイツとは縁を切らない方がメリットがあるな、と。そう思わせる。

 

「アンタに縁を切らない方がよさそうな事あると思えないんだけど」

「人脈さ。僕は知り合いがいっぱいいてね。欲しい人材の斡旋も出来るし、必要な事業の紹介も出来る。その上でメリットデメリットをよぅく知っているから、そこに不利益の疑いも生まれない。人は一人で全てをする事は出来ないからね、沢山の人と繋がるのは大事だ。けれど、人と付き合えば付き合う程、関わる人数が増える程、身の振り方を考えなくてはならなくなる。万人に受け入れられる事は出来ないからね。そういうのを煩わしいと思う人は、そういう事が出来る奴を求める」

「それが、アンタ」

「そう。僕は自分を殺す事に何の苦も感じないから、そういうハブに向いている。同情は誰からでも買える、というのも利点の一つだね。余程心が荒んでいる人以外は同情をしてくれるし、荒んでいる人はそもそも経営者にはならないよ。経営者っていうのは、基本的に人付き合いがいいからね。それが最適解だと知ってる」

「成程ね。アンタ自身に大したメリットがなくとも、アンタに繋がってるのがメリットのある人ばかりだから、みんなアンタを捨てないんだ」

「それだけじゃないけどね。お金がある」

「お金を随分信用しているようで」

「そりゃね。それでのし上がったようなものだし」

 

 お金は大事だよ。

 お金があれば何でもできる。なんでも手に入るわけじゃないのがミソだけど。やりたい事をやるには、お金がある事が大前提だ。それは普通の生活を送る、という点にしたってそう。

 健康こそお金では買えないし、事故をお金で避ける事は出来ない。だからそれを治すために、カバーするためにお金が必要なのだ。健康は買えないけど安心が買えるって奴。

 

「どうかな」

「もし、その"どうかな"が、"僕の事を少しでも好きになってくれたかな"という意味なら、見当違いも甚だしい、って言ってあげる」

「いやいや、これを聞いて評価が変わるとは思ってないよ。ただ、君にとって。僕の生き方は、僕の経歴は、どう映ったかな、って」

「……まぁ、頑張ったんじゃない? アンタは嫌いだけど、評価はするわ。機会を逃さず、相手を掌握して、沢山の人と繋がって。その生き方は正直嫌いだし、私は絶対に出来ないけど、評価はする。凄いと思うし、簡単にできる事じゃないと思う。妹のため、って所も評価高いわ」

「それは別に大事じゃないけど、まぁありがとう」

「それで? 私に好きになってもらうための改善って、何?」

「相手を見下す事を止めるよ。今、君の感じている、僕の目……自分に劣る存在を見るような目をやめる。気になっていた事の一つだろう?」

「自覚あったのね。それは安心したわ。私の事を、何も知らない、喧嘩っ早い馬鹿な女だと思っているような目。大嫌いだったわ、それ」

「じゃあこれで、僕の事を好きになれるかな?」

「自分でいったでしょ。気になっていた事の一つ、って。まだまだあるわ」

「そうかい。じゃあ、解消をしよう」

 

 僕の経歴はここまで。

 お金を稼ぐために同情を誘った男の子の話はここまでだ。

 

 だからここからは、そんな男の子が人に好かれるためにどうしたらいいのか、を考えよう。

 

「まず、そうね。その余裕ぶった表情をやめなさい。焦れ、とは言わないけれど、もっと驚いていいし、もっと感情を露にしなさい。アンタ、自分で気付いているかどうかはわからないけど、声に心が籠ってないわ。私を可愛いだのという言葉に、一切の感情が感じられない。演技でもいいから、ちゃんと心熱の伝わる声を作りなさい」

「なるほど」

「それも、よ。とりあえず相槌を打つのを止めて。それは会話を円滑に進めるためのものなんだろうけど、その余裕そうで、そう来たか、みたいな態度が癪に障る」

「……そんなにかい?」

「端的に言って嫌な奴よ、今のアンタ」

「わかった。やめるよ。考えてから喋ることにしよう」

 

 癪に障る、か。何度言われた事か。

 

「他には?」

「そうね。メリットデメリットで考えるのは、別に良いわ。私もそうだし。でも、そこに一切の感情を挟まないのはダメ。罪悪感をそんなに信奉しているのなら、同じくらい友情も信じて。アンタ風に言うなら、"相手を友だと思える心"を育てて。一応、アンタ。今の所だけど、友達くらいにはなってもいいな、って思えるから」

「へえ? っとと、これがダメなんだっけ。……でもそれ、本当? 僕の友達になってもいい、って。あかりちゃんは、そう思うのかい?」

「どうせこの部屋を出たら、赤の他人になるんでしょ。だったら、まぁ……ネット越しに話すくらいにはなれそうよね。アンタ、案外悩み多そうだし。ストレスも抱えてそうだし。暇潰しには良さそう。アンタ自体も経験豊富だから、こっちの相談も出来そうだし」

「嬉しいな、それは。メアド、後で交換しよう」

「メアド? ……もしかしてメールでやり取りする気?」

「いやぁ、SNSでもいいけれど、明かしたくない内容とかあるんじゃないかい? あかりちゃんのような年頃の女の子は、日常の赤裸々な情報をSNSに載せているイメージがあるけれど」

「偏見ね、それ。別に、見られて恥ずかしいものなんかないし。というかSNSじゃなくてSMSでいいでしょ。なんで公然とアンタと繋がらなきゃいけないワケ?」

「成程、秘密裡か。それはそれで面白い」

「また成程、って言った」

「う」

 

 こればかりは口癖だからなぁ。

 難しい。気を付けないと。

 

「友情、か。それはつまり、たとえデメリットを被ったとしても、って事だよね」

「そう。普段は利益不利益で動いていていいけれど、それを持ち得る相手にだけは、デメリットを度外視して動けるようになること。そういう相手を一人でも作る事」

「友達になってくれるというのなら、君を相手に友情を覚えるのはアリかな」

「勿論アリでしょ」

「……じゃあ、そうする。同じ部屋に閉じ込められた仲だし。何より君を助ける事には、不利益を被る価値があるよ。なんせ、君に認めてもらえるんだからね」

「ついさっきまで見下していたクセに、私に認められることがそんなに価値ある?」

「あるさ。だって君は、こんなにも話している僕を一切認めない。僕の生い立ちを知って、僕の経歴を知って、評価はしてくれても認めてはくれない。これでも僕は負けず嫌いでね。君の価値観にそぐわない僕より、君に認めてもらえる僕になりたい。こうやって話して見て、わかったよ。君は本当に友達想いだ。他人の事を一身に考えられる人間だ。だから君は、友達を大事に出来る。それはかけがえのない人材であると言える」

「メリット、ね」

「そう、メリットだ」

 

 僕は滅多に困らないけれど、もし困った時。それはつまり、あらゆる人脈を頼っても解決しない困難であった時。

 必ず、彼女の助けが必要になる。その時、彼女を頼らんとする気持ちを持てるかどうかは、僕の心の生育次第だろう。"相手を友だと思える心"。ちゃんと、Lv.100にしておかないとね。

 

「勿論君が困ったら、僕が助けてあげるよ。僕のあらゆるものを使ってね」

「それは頼もしいけど、お金は使わないでくれる? 罪悪感を得てしまうから」

「わかった。僕一人の力でなんとかしよう」

「じゃあ、改めて、頼もしいわ──カズヤ」

「よろしくね、あかり」

 

 さて、一段階。

 まずは友達から始めましょう、の所。うんうん、これもちゃあんとボーイミーツガール、だよね。

 

 

 

 

 

 

 

「で、結局出られないわけだけど」

「そうだね。どうしようか」

「やっぱり恋をしないとダメってワケ?」

「らしいね」

 

 ボーイミーツガールにおいて、少年少女ははじめ、友達ですらない事が多い。なんなら険悪な仲を持っている事もままあって、それがようやく互いを友達と認める、という所は物語でいう登山口。中腹ですらない。

 自分たちの恋に気付くのが中腹で、運命的な危機をどうにかするのが山頂。下山ルートで段々距離を詰めていって、最後は夕陽をバックに逆光キス。これがボーイミーツガール。

 

「恋……恋、ねぇ。アンタと友達になるのは別に許容できるけど、アンタに恋出来るかって言われると……ちょっとキツイわ」

「とりあえずキスしてみるとかどう?」

「蹴ったけど」

「うん、許可も取らずに蹴られたね」

 

 距離を詰めすぎたらしい。難しい。

 僕、結局ワンナイトラブ以外の恋愛したことないからなぁ。経験値が足りない。

 

「恋人同士、ってさ。何するんだろう」

「何って……まぁ、デートじゃない? 二人でショッピング行って、女が男を待たせて。お手て繋いで帰路に就くのよ」

「じゃあそれをやってみよう」

「は?」

 

 手を差し出す。

 それをじっと見つめて──渋々、僕の手を握るあかり。わぁ肌もちもち。

 

 その手を引いて、食券機の所へ向かった。

 

「……ねえ」

「どれにするか決まった?」

「馬鹿なの?」

「だってショッピングだろ。この部屋で物を買える場所なんてここくらいじゃないか。まぁお金は払わないけど」

「そうだけど……そうじゃなくて」

 

 エビフライ定食を注文。あかりは眉間にしわを寄せた難しい顔をしつつ、これまた渋々温玉うどんを選んだ。

 

「案外……数が、というか、種類があるのね」

「そういえばあかりは料理とかするのかい?」

「まぁ、人並みには。アンタ……ま、卒なくこなしそうね」

「正解。料理人とも知り合いでね。流石にその腕には至らないけれど、レシピの知識はそこそこあるよ」

「へえ。この部屋から出られたら、秘伝のレシピとか教えてよ」

「秘伝のレシピは流石に教えてくれてないと思うなぁ」

 

 秘伝とは。

 いやまぁお願いしたら教えてくれそうではあるけれど。どうだろ、企業秘密だろうしなぁ。

 

「好きな料理とか、ある?」

「好きな料理かぁ。まぁ、子供が好きそうな料理は大体好きだよ。嫌いなものはないかな。なんでも食べる」

「私、納豆だけはダメなのよね」

「関西の人だったりする?」

「バリバリ関東ね」

「最強No.1だ」

 

 まぁ、好き嫌いをするな、なんて古臭い考えは持っていない。

 必要栄養素さえ摂れたら何食べてもいいと思う。着色料どんだけ入ってても別にどうでもいいと思う。それを他人に強制する程、僕は他人を気に病んでいない。

 

「じゃあもし君と食事をする機会があったら、納豆だけは避けるようにするよ」

「お願いね。ま、アンタと食事をする機会はここを除いてないだろうけど」

「僕にとってもかなりのスキャンダルになっちゃうから少なくとも外食は無いかな……」

「敏腕若社長、未成年と二人きりで食事! って?」

「え、未成年だったのかい、あかり」

「……何よ、そんなに老けてるって言いたいワケ?」

「いや、大学生くらいかな、って思ってたんだ。21とか、22とか、そのくらいかな、って」

「高校生よ、お・じ・さ・ん」

 

 成程。

 いや、それなら一連の流れは僕が悪い。特にセックスとかワンナイトラブとかのくだり。

 女子高生にする話じゃないわ。

 

「勝手に猛省してるようでアレだけど、女子高を嘗め過ぎね。それくらいみんな話してる。男って女を初心だと思い過ぎよね」

「でも君は苦手だろ?」

「……まぁ、苦手、だけど」

「ごめんね、高校生にする話じゃなかったよ。素直に謝る」

「殊勝なアンタ、酷く気持ち悪いわね」

「ひどい」

 

 でも、と。

 彼女は続ける。その顔には──笑顔があって。

 

「ちょっと面白い。アンタもしかして、妹さんくらいの年頃の女に弱かったりしない?」

「子供には弱いよ、僕は。お金で解決できないし、子供は利益不利益なんか考えないからね」

「それ、嘗め過ぎ。だけどまぁ言いたい事はわかるわ。何よりアンタは、自分が子供である、って立場でそこまでのし上がったから、自分より年下の人間の扱い方の経験値は少ないわけね」

「返す言葉もないや。君の言う通り、年下との接し方は未だにわからない。妹ともうまく付き合えているか自信無いからね」

「それは大丈夫でしょ。アンタは多分、妹さんにとって尊敬できる兄よ」

「妹と会った事もないのに、そんなことがわかるのかい?」

「わかるわ。だって私、もしアンタの妹だったら、アンタの事尊敬してるし、罪悪感抱いてるし、負い目を感じてるし、恩を返そうとすると思うから」

「それは……喜んでいいのかわからないな。妹から返せる物がない以上、罪悪感なんか抱かれても、負い目なんか感じられても困るだけ。彼女の方が何か優れたものを持っているなら罪悪感も負い目も存分に覚えて欲しいんだけど」

「はい、直すポイント。家族愛を育む事」

「……ちょっと、言われると思った」

「正直に言えば現時点でも十分に家族愛はある方に見えるけど、それを自覚する事。妹さんを大切になさい。天涯孤独な兄妹、なんでしょ」

「妹には早く結婚してもらって、僕の元から離れて欲しい、なんて思っていても?」

「完全に妹を心配する兄ね。やっぱり馬鹿でしょ、カズヤ」

「そう、なのかも」

 

 馬鹿か。

 まぁ、馬鹿なんだろう。高校生の時から何も変わっていない馬鹿野郎。

 

「……ま、私も人の事言えないけど」

「家族かい?」

「家族は別に、円満よ。両親も存命。姉が二人いて、どっちも結構離れてるから、甘やかしてくれるの。だからまぁ、不満はない。……けど」

「もしかして、比べられる、かい?」

「……馬鹿なのか頭が良いのかどっちかにしてよ」

「この場合は察しが良い、というべきだろうね」

 

 同性の兄弟、姉妹であればままあることだろう。

 姉が優秀であれば、期待する。それが二代続けば期待は高まる。それを、少しでも下回れば。

 ……姉はあんなにも優秀なのに、と。見下される。

 

「お金」

「ん」

「アンタと同じで、ウチの姉の一番上はお金に一切困らない程稼いでて、二番目はなんかよくわからない研究論文出してて、評価されてるのよ。親戚とか、周囲の人とか、両親からも」

「でも君は今何もない、と?」

「そ。まだ高校生だから、なんて言ってはくれているけど、私に何が出来るやら。最初に言ってたけど、私は本当に何の取柄もない女よ。友達想いなんて誰にでも当てはまるような長所を持っているだけの、ね」

「否定はしないよ。否定されたくないんだろう?」

「ちぇ、アンタホント察しはいいのね。妹さんとの話の時とは別人みたい」

 

 ぺろ、と舌を出すあかり。

 かわいい。

 

「何もない事は私が一番自覚してるもの。私がそう思ってるんだから、他人なんかにそれを否定されて良い気はしない。私の審美眼を馬鹿にするな、って思う」

「あかり、現状の将来の夢とかある?」

「ないのよ、それも。やりたいことも、なりたいものもないの。だから姉のように上を目指せないのよ。陰口を叩かれた程度で燻るのよ」

「じゃあ、解消をしよう。それを見つけるんだ」

 

 先程までは、僕の話。

 次はあかりの話だ。ボーイミーツガール。困難の運命を払いのけ、危機的状況を脱して成す恋物語。

 たとえその困難や危機的状況が過去の事や精神的なソレであったとしても、共に打ち砕くことを物語とせん。誰かそれを否定出来ようか、って話ね。

 

「あかりはさ、お姉さんたちの事、どう思ってるの?」

「どう、って。別に──」

 

 それではページを捲ろう。

 あかりの物語を、僕のついでにする事なんて出来ないからね?

 

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