ボーイミーツガールをしないと出られない部屋   作:飯妃旅立

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3.少女の生い立ち

 別に、アンタ程特別な話じゃないんだけどね。

 

 私には姉が二人いる。五つ上と、九つ上の姉。どちらも優秀で、どちらも優しい、私を甘やかしてくれる二人。

 それぞれが違う学校の先生をしている両親は、当然の様に勉学に厳しく、そして全てが出来て当たり前、という人だった。別にそれを苦に思った事があるわけではなく、ただそれが、私を苛烈にしたというだけの話。

 「よくできた」も「すごい」も「流石」も、どれも聞いたことがない。満点は当たり前。出来なければ叱り、出来るまでやらせる。勉学以外の所ではとても優しい両親だ。家族旅行も勉学に支障を来さない程度であればよく行ってくれたし、お小遣いは同年代に比べて何倍もの額をくれた。子供の時分にお金で困る必要はないと、バイトもしなくていいと。

 結局それを享受したのは自分で、反発しなかったのも自分。だから今日(こんにち)に至るまで私に職業経験は無いし、アンタのようにお金で苦労した事もない。

 

「運に恵まれているね。家族にも愛されている」

「そうね。その点は、本当に感謝してる」

「でも、君にとっては苦痛だった。それを贅沢だ、なんて言わないよ。人にはそれぞれの感じ方があるからね」

「ありがと。そうね。私は、苦労したかった、のかもしれない」

 

 苦労して、努力をして、それでも無理なら、諦めがついたかもしれない。

 でも、子供の時分に苦労をする必要はないと、学生は勉強だけをしていればいいと、他の選択肢を取り上げられてしまった。遊ぶ時間を削ってまでバイトをする苦しみや、欲しいモノを買うために何週間も何週間も我慢する、という機会に恵まれなかった。

 お金があるから、友達と遊ぶ機会も増える。時間があるから、勉強をする事が出来る。結局今の私の友達想いな部分は、そういう余裕の表れで、けれどその余裕は私の捻出したものでなく、両親によって作り出されたもの。余裕で、余裕で、余裕。常にマイペースに居られる事は、何かに追われ、迫られない事は、心に安寧を生み出す。

 

 だからこそ、私は比較される事が嫌で──それを求めた。

 

「今度ばかりは相槌でなく"なるほどね"を使うけれど、なるほどね、そうか。君にとって二人の姉は、比較されるのが嫌な対象、ではなく、比較される事で嫌な思いが出来る対象、なわけだ」

「最低でしょ?」

「最低かどうかはわからないけど、捻くれてるなぁとは感じるよ」

「そ。まぁ、そういう事よ。用意された余裕に浸っているのが嫌で嫌で仕方なかったから、わざと姉と同じ土台に上がって、わざと比べられた。わざと比べられて、劣っている、と言われる事で、苦しみを得た」

「もしかしてマゾヒストなのかい?」

「アンタ、私が高校生とわかってそういうセクハラについて謝ったばかりよね」

「ごめんごめん」

 

 比べられるから嫌、なのでなく。

 比べられないと嫌、なんて。優秀な姉二人に比べて劣っている、という事実を突きつけられる事に快感を覚えている最低な妹。勿論比べられて劣っている、なんて言われるのは嫌だ。普通にストレス。でも、それを補って余りある程の承認欲求が私を満たしている。用意された余裕に浸らず、苦痛を背負う事で、私自身が我慢し、耐え、努力をしているのだという感覚を得ている。

 ……だから、多分。

 元親友が私に付いて叩いていた陰口に、あんなに傷付いたのは。その内容が姉との対比などでなく、本当に私個人に対する悪口だったから、なのだろう。

 それは否定だ。両親や親戚、そして周囲の人間がしてこなかった、私を名指しする否定。ある意味で、ようやく私を見てくれる人が現れた、とも取れる。

 

「安心してほしいかな、そこは。だって僕は君のお姉さんを知らないからね。そして、たとえ知っていたとしても、これから知ったとしても、僕は君を見るよ」

「会った事もないのに言い切れる?」

「勿論。だって僕は、君以外に友情なんてものを芽生えさせる友達を作る気がない。無論、君のお姉さんがそんなにも優秀で、その成果物が僕の役に立つのであれば、是非とも関係を結びたい。けどそれは人脈としてで、友人としてではない。どうかな、陰口を叩くことで君自身を認める元親友ちゃんと、君への友情を頼りに君を認める僕。君は、どちらを取る?」

「どちらも、じゃダメなの?」

「構わないさ。けれど、一つだけ。その元親友ちゃんより、僕の方がずぅっと君を想っているよ」

「きも」

「流石に言わない流れだと思ったんだけどなぁ」

 

 姉二人は優秀だ。勉学に、頭脳に、手腕に秀で、それを驕らない。下を慈しむ心を持っている。私を、妹を全力で可愛がってくれる。

 けれどそれは。

 

「認めてくれていない事と同義、だね。甘やかすという事は、可愛がるという事は、慈しむという事は、自らと同列に無い事を突きつけているに他ならない。お姉さん達に自覚があるのかどうかはわからないけれど、君にとっては酷い苦痛だろう。比べられる事をよしとする君でも、唯一、いや唯二かな? お姉さん達からだけは比べられたくないんだから」

「知ったように言うのね。正解だけど」

「任せて欲しいかな。これでも人心掌握術には長けていてね」

「そ。自分についてはダメダメなのに、人の心には聡いのね」

 

 姉と対比される事で余裕を切り崩し、耐え忍ぶ実感がこそ私の人生に充実を与えた。"やっている感"なんて言い方も出来るだろう。本来はする必要のない努力を、味わう必要のない苦痛を、無理矢理前に出る事で受け取った。

 けれど、けれど。

 姉二人からの慈愛は、私から能動的に受け取った苦痛でなく、姉から与えられる痛み。

 全開で来る「貴女を愛していますよオーラ」は姉妹としてとても嬉しいけれど、それは同時に姉に並び立ちたいと思う私を地面へ叩き落す板となる。

 姉にとって私とは、可愛らしく足掻き、愛らしく藻掻き、愛おしくのた打つ弱い妹。自分達の様になんでも出来るわけでなく、自分達と比べられてしまう妹。自分達が派手な成果を出したばかりに、劣化だのなんだのと言われてしまう憐れな妹。

 

 そんなこと、思っていないと。

 姉は言うだろう。世間も言うだろう。私の境遇を見た誰もが──カズヤ以外の誰もが、そう言うのだろう。恵まれている。贅沢な悩みだと。ひねくれすぎていると。まともに愛を受け取れと。

 

 そんなこと知るかと言おう。

 

「君にとって、姉とはどんな存在かな」

「別に。大好きで、大好きで、大好きで──苦手な人達。早く私の事なんか見捨ててくれたらいいのに、とは思ってる」

「自分には何も無いから?」

「そうよ。私には何も出来ないし、何もやりたい事がない。ただのうのうと生きるだけ。それを周りの人達は馬鹿にするでしょうし、溜息を吐く。それでいい。それがいい」

「将来の夢、本当に無いのかい? たとえばお嫁さんになる、とか」

「きっしょ」

「辛辣だなぁ。でも、じゃあ、得意科目とかあるかい? 高校の勉強で」

「無いわ。強いて言えば、全部得意。全部得意じゃないと怒られるもの」

「成程。体育や音楽は?」

「出来る。腕っぷしは見せた通りだし、音楽も英才教育よ」

「ちなみに僕は酷い音痴だよ。耳が良くなくてね、自分の発している音がよくわからない」

「それは訓練不足ね。大体の音痴は訓練でなんとかなるわ」

「良い事を聞いたね、それは」

 

 だから、でも、そこ止まり。

 普通の人に比べたら優秀、は、けれど酷く優秀である姉二人には敵わない。あるいは私の優秀さはカズヤにも劣っているのだろう。非凡、非才。特別である何かが私には無い。完璧な平凡。カズヤに言わせるのなら、平凡である事がLv.100。特別になる一歩手前で足踏みしている。

 

「やっぱり簡単だよ。君に足りないモノは酷く分かり易い」

「じゃ、教えてくれる? 社会の先輩から見た私の足りないもの」

「夢、さ」

 

 夢。

 将来の夢。憧れ。

 確かにそれは持っていない。というかそれで悩んでる。

 

「別に職業的な事じゃなくていい。"一度でいいからスカイダイビングしてみたい"とか、"宇宙旅行にいってみたい"とか。明確な夢──目標。大目標と小目標を作ろう。まず、大目標は君の場合、姉に並び立ちたい、かな?」

「それは、夢じゃなくて欲求」

「同じさ。"たくさん美味しいものを食べたい"は食欲だし味覚の知識欲だし、夢だ。"何にも追われずだらだら過ごせるようになりたい"は睡眠欲だし脳の休眠欲求だし、夢だ。"可愛い女の子と結婚したい、セックスしたい"は性欲であり承認欲求だし、やっぱり夢だ。欲求と夢は同義だよ。人は誰もが、何かをしたいから、何かを目指すんだ」

「姉に認めてもらって、承認欲求を満たしたい、って?」

「それだけじゃないかもしれない。君は並び立つだけに満足しないんじゃないかな。あかり、君は──心の隅の奥底のどこか遠くで、"いつか見返してやりたい"と、そう思っているはずだ」

 

 何か。

 過去に潰された誰かの指が、少しだけ動いたような気がした。

 

「両親にも、周囲の人達にも、友達にも。そしてなにより姉二人も。いつか見返して、いつか見下し返してやりたい、っていう反骨精神があるはずだ。自らの無能を嘆くのは、特別が欲しいからに他ならない。自らの境遇に甘んじようとするのは、逸脱した未来を描いているからに他ならない。君にとって周囲の人間とは自らを閉じ込める蓋のような存在であり、同時に中身である君が沸騰すれば跳ね飛ばせる類のものだ」

「でも、私には何もない」

「僕と出会えた」

 

 光が差す。重い重い何かに圧し潰された誰かが、息を吹き返す。

 飛び散った血液や肉片は静かに収束し、その圧し潰してきている何かを逆に押し返して、未だ折れずにあった骨へと集まってくる。

 

「いいかい、あかり。どれほどの才覚を発そうと、どれほどの手腕に優れようと、努力だけではどうにもならないものがある。それが運だ。天賦にしか残されない、その後ではどうやっても育てられないもの。それが運だ。こんな意味の分からない部屋に閉じ込められて、僕と出会った。そうでなければ君と僕は絶対に関わり合いになることはなかっただろう。僕も変わらず周囲を見下していただろうし、君は状況に甘んじていた事だろうからね。けれど」

 

 カズヤは続ける。

 その瞳は、今までのソレとは違う。まるで、獲物を目の前にした狩人のような獰猛さがそこにある。

 

「運だよ。君は運がいい。僕と出会い、友人となる、なんて、君達のお姉さんでは絶対に手に入らない人脈だ」

「でも、それを手に入れたとして、私が頑張ったわけじゃない」

「さっきも言ったはずだよ、あかり。運が良い、までは確かに君の努力ではない。けれど、チャンスをふいにしない、機会を逃さない事は君の実力だ。君はこの部屋で僕と出会い、僕と対話し、僕の友人となった。僕を変えてまでね。それは紛れもない君の手腕だし、才覚だ。そして僕は、君にこう言うんだ」

 

 ──恋をしよう。あかり。誰よりも高い所へ飛べるような、そんな恋を。

 

「っぷ、ナニソレ、くっさ」

「たまにはキザもいいだろ? 余裕綽々なのが癪に障るというのなら、僕は余裕を捨てて君に求愛するよ。僕は今、君に猛烈な魅力を感じている。何、恋人になったとしても友達は続けて欲しい。たとえ別れたとしてもね。今君は、僕にとって最も大事な位置にいる。"相手を最上位だと想う心"がLv.100になったらしい。恵まれすぎて恵まれない君が、そんな、自分を追いやり、追い詰め、苦しめてしまう程にまでひねくれてしまった君が、大好きだ。容姿は勿論、内面まで好きになった。どうかな、僕と付き合ってくれないかな」

「……わかってるの? アンタと付き合うことになれば……それで、本当に姉に並んだとしても」

「君は僕の力で余裕が出来たと、そう苛まれるんだろう。うん、いいよ。僕は君を苦しめたくて仕方がないんだ。お姉さんや両親や、君の元親友よりも大きな存在になりたい。君にとっての一番が、たとえ悪感情であれど、僕であってほしい」

「最低。君を幸せにするから、とか言えないワケ?」

「それは愛の領分だよ。僕にとって君はまだ好きな、恋人の域。君にとってもそうだろう? 高校生への求愛だ、明らかなデメリットを被ってでも今、この告白を成し得たいと思っている。暴走感情さ」

「勝手に恋人にされるの、不快なんだけど」

「ダメだったかい?」

 

 特別かっこいいわけでもない顔で、にっこりと笑うカズヤ。差し伸べられた手。

 これは多分、悪魔の手だ。取ったが最後、私は戻れなくなる。

 姉二人。既にどちらも結婚しているけれど、確かに、どちらもカズヤのような鮮烈さは無い。妻の家族の前だ、隠しているという可能性も無きにしも非ずだけど、明らかにこう……ビビっとくるものがない。

 こうも真剣で。

 こうもぎらついた眼で。

 こうも──私を求めてくる、男性。

 

「……言っておくけど」

「うん」

「私、本当にアンタみたいなの、タイプじゃないから。顔もだし声も胡散臭いし、まだ直して欲しいとこいっぱいあるし」

「顔と声は無理だけど、欠点は治す努力をするよ」

「……だから私も、あんまり卑屈にならないようにする」

 

 その手を、取る。

 だって──メリットが、ありすぎる。

 私にとって。私という存在にとって。私という欲求にとって。

 何より、もう。

 私は彼の事を──身内だと、思ってしまっているから。

 

「僕とお付き合いしていただけますか、お嬢さん」

「嫌々、渋々ね。よろしく、カズヤ」

「ありがとう、あかり」

 

 手を取って。

 手を握って。

 

 そうして──。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ社長、もう帰るんですか?」

「ん。まぁね、今日は先約があって」

「へー。もしかしてコレです?」

「小指立てるの、流石に古いんじゃないかなぁ」

「ガーン!」

「口に出すのも擦られまくってるよ、もう」

「うぅ、ジジイ一人を捕まえて、社長酷い……」

「君、まだ32だろ。君でジジイなら副代表は化石だよ」

「……ところで、否定しませんでしたけど。マジでコレです?」

「うん。前々から付き合っていたんだけどね。彼女が今日、誕生日でさ。堂々と付き合える年齢になったから、ようやくカメラを気にせずに会えるってわけ」

「……出た! 社長の大スキャンダル発言! 昨今誰が聞いてるかわかんないんで気を付けてくださいよ!」

「ちなみに君の胸ポケットとお尻のポケットに入ってる奴は、さっき僕が電池を抜いておいたよ。ロッカーの上にあるのはごめんね、充電式だったから叩き壊しておいた」

「……えーと」

「これからも期待してるよ。じゃ、僕はデートに行ってくるから」

 

 

 

 

「ちょ……ちょっと。ここ、結構高いお店じゃない? やめてよね、ファミレスでいいって言ったのに」

「えー? なんで、"あかりを僕がもてなせる記念"であるこの日に、ファミレスなんか行かなくちゃならないんだい? 今日からは堂々と手を繋げるんだ、いいじゃないか。アピールしようよ、僕の恋人だって」

「ナニソレ。キモい記念日つくらないでくれる?」

「会社の休日にしようかと思ってる」

「絶対やめて」

 

「ほら、乾杯しよう。かんぱーい」

「やめなさい、ちょっと。そういう雰囲気の店じゃないでしょ……。はぁ、全く。ここ数年の改善で少しは人間味を増したかと思ったら、今度はふざけた感じになっちゃって……」

「僕は感謝してるよ。心から笑う事が、こんなにもストレス解消になるとは思ってなかったんだ。カズヤさんは良く笑うようになったな、って、他企業からも受けがいいんだよ」

「そ。それは良かった」

「あかりは? お姉さんや家族とは、どう?」

「前も言ったけど、周りは大出世大出世って大盛り上がり。アンタの会社、ホントに凄かったのね。中小企業かベンチャー企業が調子に乗ってるだけかと思ってたわ、あの時は」

「まあね。で、お姉さんは?」

「……"私達の可愛いあかりが、どこの馬の骨とも知れない男に"とか"あかりを甘やかす役目を奪われるのだけは許せないー!"とか。物凄い対抗心をアンタに燃やしてる。今日もデートしてくる、って言ったら、ついてくる、なんて言いだして。しまいには狙撃するとかなんとか」

「こわ。窓際の席選んだのミスだったかな」

「冗談よ、冗談。多分ね」

 

「妹さんはどう? 元気?」

「もうバリバリ働いてるからね。ただ、困ったことに毎年毎年誕生日プレゼントをくれるんだ。もういいよ、要らないよ、って言ってるのに。お金は自分のために使いなよ、ってさ」

「ちなみにアンタからは? 妹さんに誕生日プレゼント、あげてるの?」

「そりゃ勿論あげてるさ。僕の方が稼いでるんだから、当たり前だろ」

「んじゃアンタ一生誕生日プレゼント貰うわね。いつまで経っても馬鹿のまんま」

「えぇ?」

 

「結局、わかんないんだ?」

「あの部屋の事?」

「そ。"ボーイミーツガールをしないと出られない部屋"……誰が作ったのか、誰が用意したのか、誰が、私とアンタをあそこへ閉じ込めたのか」

「二人だけの集団幻覚説が濃厚だね。あんな部屋、作りようがないし」

「オカルトね」

「ファンタジーさ。いいだろ、僕は好きだよ」

「ちょっと、不気味だけど。でもまぁ、感謝はしてるわ」

「使えるものはボーイミーツガールでも使え、ってね。実際に衝撃的な出会いをした少年少女は、こうして恋に落ちたわけだし。運命的な困難も危機的状況も乗り越えたわけだし」

「じゃあ、これで終わり?」

「ボーイミーツガールはね。そして、ここから始まるんだ。僕らのラブコメが」

「ラブコメもボーイミーツガールの括りじゃない?」

「じゃあ官能小説がいいかい?」

「最ッ低」

「相変わらず耐性無いなぁ」

 

「カズヤ」

「何かな、あかり」

「そろそろ、苗字教えてよ」

「恋人に苗字が必要かな」

「必要でしょ。……自分が、もうすぐなる名前なんだから」

「ちなみにここに指輪があったりする」

「……ロマンスを学び直しなさい、貴方は」

「君にロマンスを説かれる日が来るとはね」

「はい、直しポイント追加。すぐ皮肉を言わない」

「それは君も同じだから無効で」

 

「あはは。じゃあ、本邦初公開。僕の苗字は──」

「余計なタメ要らないから」

「伊鶴。名前っぽい苗字なんだ」

「本当にタメる必要のない苗字だったことに驚き」

「天涯孤独だからね。僕と妹が紡がなければ消えてしまう苗字さ」

「どうでもいいけど。ああ、カズヤ。さっきの返事」

「さっきの返事?」

「ええ。指輪、受け取るわ。私をよろしくね、カズヤ」

「大好きだよ、あかり」

 

 じゃあ、これで。

 ほんとのほんとの、終わりって事で。

 終わりは壮絶でなく、のんびり、ほっこり。

 それがボーイミーツガールだろ?

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