セイウンスカイに弱みを握られた。   作:あおい安室

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ボーイミーツガールってなんなのかわからないけど、
ボーイミーツガール杯にウマ娘の出走登録者が少ないと聞き、
ボーイミーツガールの勉強も兼ねて出走することにしましたが、
ボーイミーツガールをうまく描けてるのかはわかっておりませぬが、
ボーイミーツガール杯には順位制度ないそうなので気楽に出走することにします

……ボーイミーツガール、連呼することに何の意味があるんでしょうね?


写真を取られた出会いの季節。

 ウマ娘、という種族がこの世界には存在する。

 

 頭に生えたウマ耳と腰から伸びている尻尾以外はほぼヒトと同じ外見を持ち、ヒトよりもはるかに優れた身体能力を誇っている。それがウマ娘という種族だ。

 

 そんなウマ娘には専用のスポーツと言っていいものがある。ズバリ、レースだ。

 

 自動車並みどころかそれを超える程の速度、1kmや2kmを全力疾走できるほどのスタミナ、ウマ娘それぞれ違う脚質……いくつもの走ることに優れたウマ娘ならではの要素が組み合わさって行われるレースは、誰もを魅了する。ボクみたいなロクデナシも、その一人。

 

 

 閉じていた瞳を開いて現実を見つめる。目の前に広がっているのはウマ娘のトレーニング用コースで、今日は2kmの中距離に分類される距離での練習レースが行われている。いよいよレースはクライマックスを迎えており、実況と参加しているウマ娘のトレーナーの声が聞こえる。

 

『集団が最後のコーナーに入ります、まず動いたのは――』

 

「離されなければまだ勝ち目はあります、ミーク!!」

 

「……んっ、がんばる……!」

 

 先頭のウマ娘を視界にとらえて前方で走り抜ける先行作戦の集団から、一段速度を上げて抜け出ていく白毛のウマ娘は、ハッピーミーク。

 

『内から様子をうかがっていた――がついに動き出した!』

 

「いいぞいいぞ、流石はゴルシ!!」

 

「ま、たまには練習でも本気だしてやろうかな。見てろよトレーナーっ!!」

 

 脚を溜めて最後にそれを解き放つことで先頭へと食らいつく追い込み作戦で、大柄な体から並みのウマ娘を超えたスピードと根性を発揮するウマ娘は、ゴールドシップ。

 

『まもなくコーナーを抜けるぞ、外を回っていったのは――』

 

「君ならできるって信じてる!頑張れスペシャルウィーク!!」

 

「――はいっ……行きますっ!」

 

 トレーナーの声援に応えるかのように大外から持ち前のスピードでまるで流星のように自らを差し込んでいくウマ娘は、スペシャルウィーク。

 

『各ウマ娘が勝負を仕掛けに入りました、―――は逃げ切れるか!?』

 

「逃げ切れるか、じゃない。逃げ切ってみせる、でしょ」

 

 先頭のウマ娘のトレーナーのつぶやきが聞こえた気がした。数多くのウマ娘の足音の中で彼女がターフを踏みしめる足音が一段と大きく聞こえた気がする。力強く加速していく彼女は。

 

「もちろん……!ここからが、本領発揮のお時間です!」

 

 終盤であるというのに、まだまだ加速していくウマ娘。その場所にいるのは――

 

「……なんだ。あいつ、すごく早いんだな」

 

 今日のよく晴れた青空を示す名を持つウマ娘、セイウンスカイ。

 

 彼女とはほんの少し縁があったので、今日の模擬レースを少ない休み時間をやりくりして見に来たのだ。あんなのんびりとした雰囲気のウマ娘なのにレースでは別人のようで。

 

 

「……かっこいいなぁ」

 

 

 心から漏れたそのつぶやきは、いつか見た夢の言葉だったのだろうか。

 

 


 

 

 ウマ娘が通っている学校で一番有名な学校はどこか、と言えば間違いなく『トレセン学園』だ。正式名称は日本ウマ娘トレーニングセンター学園。ウマ娘の高い走力を生かせるレースに向けたトレーニングを受けることができる学校で、レースで強くなりたいウマ娘は皆ここを目指す。

 

 ……といっても、トレセン学園は実はいくつもある。例えば学園に在籍してるウマ娘の中では一番の努力家であるハルウララは高知のトレセン学園からの転入生。葦毛の怪物という異名を持ち現在進行形で様々なレースで活躍しているオグリキャップは笠松のトレセン学園からの転入生。

 

 そう、トレセン学園は日本各地に存在している。東京にあるトレセン学園を中央として、それ以外の学園は地方トレセン学園とも呼ばれるのだが、悲しいことに中央よりも地方はレベルが低い。

 

「だけどそれは中央が日本各地から有力なウマ娘を集めてるからだ、ってことは理解してます」

 

 平らな大地を盛り上げようとするのなら周囲の土を一か所に集めるのが手っ取り早い。その代わりに周囲が低くなるのは仕方がないことだと思ってる。そして、その恩恵にあやかっていた。

 

「その分中央のトレセン学園はウマ娘を育成する人材も有力な人が多い。というか、たづなさんも実際その一人ですよね」

 

「ふふっ、褒めても給与査定は変わりませんよ?」

 

「いや、ボクはお金がたくさん欲しくて仕事してるわけじゃなくて、生活費が欲しくて仕事してただけなんですけども。後二割くらいなら減らされてもなんとか……」

 

「……正直であることはいいことだとは思いますけど、そこまで言うのはどうかと」

 

 苦笑しながら帽子を直す緑の制服の女性。トレセン学園の理事長秘書を務める女性、駿川たづなさんだ。トレセン学園の用務員である自分にとっては上司にあたる人だ。

 

「でも、それだからボクは疑問なんですけども。なんで地方のトレセン学園で働いてたボクを中央に引き抜いたんですか?期待されてるようなレベルの仕事ができるとは思いませんけど」

 

「大丈夫です、先輩の用務員さんから伺ったかと思いますが中央でも業務内容は大差ありません。私は100点満点を超える仕事をこなす方は素晴らしいですが、あなたみたいに90点を5年間ずっと出せる人も素晴らしいと思います。それもあって理事長が採用したのではないかと」

 

「最高よりも、安定と?でも、あの人何考えてるのかよくわからないんですよね……実際のところ、仕事量は地方よりも多くてちょっと辛くはありますし」

 

「そうなんですか?何か体調に変化があれば保健室の方や私でも構いませんから相談してくださいね。まだこちらに来てから一年も経っていませんからある程度融通は利きますよ」

 

 言質取った。にやり、と小さく笑みを浮かべるとたづなさんは不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

 

 そして、今。ボクの手の中には小さなタグ付きのカギが一つ。

 

 手の中でカギがチャリチャリと鳴るのを楽しみつつ校内を歩く今は昼休憩の時間。トレセン学園を見回ったり、故障個所の修理をしていく中でふと気づいたことがある。実はこの学校は使ってない部屋の数がかなり多い。地方と違って余裕があるとも言えるが、正直言って無駄ではないかと。

 そこでたづなさんに交渉して使ってない倉庫の一室の合鍵をもらった。休憩室として使わせてほしい、と正直に言うと笑われた。そんなことを言われるのは初めてだそうで。

 

「ま、それはそれとして学園内で休めるポイントが増えるのは大きいけど」

 

 用務員用の部屋は各地にあるけれどボクは新参者。正直言って先輩方と一緒に過ごすのは息が詰まる。個人用の部屋が欲しいと思うのは悪いことじゃない……と、思う。

 

 もちろん業務をサボらないように、と念入りに言われてるのは当然の話。

 

 たどり着いたのは模擬レース場傍にある小さなプレハブ小屋。ゴール板や柵の部品、さらにゲートのパーツが無造作に置かれているこの部屋が休憩室として使用許可をもらった小屋だ。

 

「……それなりに片付いてるなぁ。地方だと用務員もウマ娘も道具を適当に放り込むから結構散らかってるんだけど。こういう細かいところは流石中央だ」

 

 うんうん、と頷きながら倉庫内を見渡す。倉庫の片隅に物が少ない棚があるのが目に入り、その周りに持ってきた休憩室グッズを置いていくことにした。

 電池式の時計、折りたたみ椅子、愛読してる本――流石にウマ娘関係じゃないと捨てられそうなのでそういうやつ――棚の周囲を掃除しながら小さな休憩スペースを作っていく。最後に小さなホワイトボードを置いて、用務員としての仕事内容をメモしていく。よし、これくらいでいいかな。

 

「フーン、フフーン、フーン」

 

 下手な鼻歌交じりに持ち込んだ携帯ラジオの電源を入れる。音楽番組を聞きながら折りたたみ椅子に腰かける。休憩時間は後10分くらいだけどゆっくりできるかな。そう考えながら一息つくと。カランカラカラ、と軽い音が鳴った。

 

「……ん?」

 

 ポケットに入れていた物が座った拍子に落ちたようだ。それを。小さな箱を拾い上げてその中から白くて長い小さな筒を取り出した。そう、タバコだ。当然トレセン学園内では禁煙なのだ、が。

 

 

「ここでの仕事がつらくなったらこれを吸うといい。楽になるぞ」

 

「いや、なんでボクに渡すんですか。タバコ吸ったことないですし」

 

「こいつ嫁さんに禁煙するように言われたんだよ。で、残ったタバコの処分に困ってるとか」

 

「ボクをゴミ箱か何かと勘違いしてません??」

 

 

 ……そんな経緯で今日の業務前に先輩から渡された使いかけのひと箱が手元にあったのを思い出した。ポケットにねじ込んでいたそれの存在を忘れていた。

 

「やれやれ。ライター持ってないから使い道ないのになぁ。これ、どうしたものか」

 

 自らに呆れながらタバコをしまおうとして――カシャ、と。シャッター音が聞こえた。

 

「誰だ!?」

 

 周囲を見渡す。室内に人影は見当たらない。が、物陰は何か所かある。警戒しながらその辺にあった鉄の棒を取って物陰に放り投げて様子を見ようとしたら、犯人が慌てて出てきた。

 

「ちょ、ストップストーップ!私怪しいウマ娘じゃないし、そんなのに当たったら死ぬって!」

 

 部屋の奥に置かれていた柵の陰から現れたのは、目を大きく見開いて両手をブンブン振って無害をアピールする芦毛のウマ娘。右の耳には緑の耳飾り、左目の上に花飾りを付けた彼女に見覚えはなかった。鉄の棒を足元に置くと彼女はほっとして近くまで歩いてきた。

 

「不審者じゃなくて学生だったか……一応名前と学年を言ってくれ。なんでこんなところに?」

 

「名前はセイウンスカイ。学年は中学三年生。ここにいたのは……あなたと同じくさぼりかな」

 

「さぼり?」

 

 前に本で読んだことがある。ウマ娘は特定のコンディションに陥ることがあると紹介されていた記事になまけ癖がつくことがある、と書いてあったはず。彼女もそうなのだろうか?

 

「……だとしてもどこから入ってきたんだ?ここはカギがかかっていたぞ」

 

「それは授業で入った時にこっそりと窓のカギを開けておきまして。その辺のチェックが杜撰なんですよねー、この学校の用務員って」

 

「何やってるんだ。君も用務員も何やってるんだ。さぼりウマ娘に職務怠慢用務員とか笑えないぞ」

 

「でもそれはあなたもじゃないかな?突然入ってきて休憩スペースっぽいのを作ったと思えばこんなこと始めるとは。いやぁ、禁煙の学園でこっそりタバコとかとんだ不良用務員もいたものですなぁ~」

 

 ニマニマと笑みを浮かべながら彼女はスマホを取り出す。写し出されていたのはタバコを持つボクの写真。やられた、さっきのシャッター音はこれだったか!

 

「……弁解させてくれ。ボクはライターなんか持ってないし、このタバコも早朝に先輩から押し付けられたものだ。うっかり手に取っただけで喫煙してない」

 

「ふむふむ。確かにその言い分は正しいですね。ですが残念なことに、この写真を見た人がそれをどう受け止めるかはその人次第なのですよ。果たして、弁明を聞いてもらえるでしょうか?」

 

「うぐっ!タバコを押し付けてきた先輩の意見を聞けば……」

 

「その先輩も禁煙の学園にタバコ持ち込んでるのもどうかと思いません?」

 

「ひ、否定できない……」

 

 あの先輩のこと、たづなさんに相談すべきか。今は他人の心配をしている状況じゃないが。

 

「ですがご安心を。セイちゃんは優しいのでこの写真はある条件を守ってもらえれば誰にも見せませんよ。しかも簡単であなたにはあまり迷惑をかけない条件!これはお買い得ですよ、お兄さん」

 

「大人しい顔して脅してるっていうんだけど、そういうの」

 

「あはは。能ある鷹は爪を隠す。能あるウマ娘は末脚を隠す。私も色々と隠しているのですよ」

 

「……ええ?」

 

「ちょ、なんでそんな疑いの目を向けるかなー」

 

 私的には目論見が上手くいってるっていう証拠でもあるんだけどさ。笑いながらセイウンスカイはその条件を口にした。

 

「ここでさぼってること、見逃して?」

 

「……えっ、それでいいの?てっきり新しいシューズ買ってとかそういうこと言われるのかと」

 

「モノを要求すると色々とこじれるでしょ?ここでセイちゃんがぐっすり眠っているのを見逃すだけで、しかも運が良ければ寝顔まで見られちゃうかも。これってお得じゃないですか?」

 

「お得だけどここは今後ボクが休憩室として使うつもりだったんだけど……そのためにわざわざたづなさんから許可をもらったのに」

 

「おや、やっぱり私と同じさぼり用務員だったか。お仲間だねー。あのたづなさんに許可をもらってまでさぼろうとするとは、その勇気に敬意を表しちゃうかも。すごいすごい」

 

「からかってるのか。いや、からかってるだろ」

 

「あはは、バレちゃったか」

 

「全く……ボクは仕事の合間に休憩するだけだから。ちゃんと仕事はするから。さぼりじゃないから」

 

「ふーん。口でそうは言っても実際はどうなんでしょうね?」

 

 怪しいなぁー、なんて言いながら青い瞳で目の奥を覗かれる。恥ずかしくなって目をそらすとケラケラ笑った。このウマ娘、可愛くない!

 

「じゃ、そろそろ私は授業があるからこの辺で。窓の鍵は開けっぱなしにしておいてくださいねー」

 

 セイウンスカイは笑いながら倉庫を出ていった。やれやれ、酷い目にあった。さぼり見逃すだけで写真を出さないでくれるのならありがたいんだけどなぁ。こんなこと他の誰かに相談したらややこしくなりそうだし、どうしたものか。

 

 

 ……うん、授業?ってことは……

 

 やられた、休憩時間後一分だ!チクショウ、全然休めなかった!!

 

 

 それが、セイウンスカイとの出会いだった。数日後に模擬レースで走る彼女の姿を見て少し心にダメージを受けても。彼女はそれを気にすることなく――そっちの方がありがたいんだけど。

 

「あ、この本の二巻ある?」

 

「ほい。一巻返して。三巻に一巻の伏線っぽいのあるから読みなおしたい」

 

「ほほう……?予定変更でー。もっとじっくり読み込もう」

 

「ボクの休憩時間もう残り少ないんだけど!?」

 

 彼女は今日も、トレセン学園の片隅にある倉庫へさぼりに来ている。これはセイウンスカイに弱みを握られた用務員のお話。いつか彼女の弱みを握って仕返ししたいけど、どうなることやら。

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