なので色々と修正してたらちょっと遅れました、お待たせして申し訳ないです。
セイウンスカイに水着を見せられたことが一番の思い出だった夏が終わり。
「あ、そういえばあの時大事なこと聞いておりませんでした。ペンチちょーだい」
「じゃあドライバー返して。何を聞いてなかったんだ?」
「水着が似合ってたかどうかですよ。せっかく見せてあげたのに可愛いって言ってくれたりとか、それはそれで嬉しいことで流されて肝心なこと聞き忘れちゃってました、っと。はいおしまーい」
「ペンチを投げるなよ。絶対に投げるなよ!水着は似合ってたぞ。ああいう飾り気がないシンプルな奴が向いてると思う」
「ふむふむ。貴重なご意見感謝でーす。あ、鉄骨頂戴」
「ほい。次は絶対に騙されないからな」
どうでしょうねぇ、とセイウンスカイはカラカラ笑いながら作業を続ける。今日は秋真っ盛りなトレセン学園で用務員の仕事としてちょっとしたステージを設営中だった。
秋のトレセン学園は夏に比べると涼しくなったことで活気を取り戻しており、クラシック三冠の最後を飾る菊花賞や秋シニア三冠の一冠目、秋の天皇賞が開催されることもあってトレーナーやウマ娘の目がギラギラしていてやる気も満ちている今年のクライマックス直前の時期なのだ。
「それにしても、まさかあのレースで勝てちゃうとはセイちゃん本当に予想外ですよ……おや?あそこのウマ娘何かしてませんか?」
「ちょっとそこのウマ娘ストップ!スピーカー類の配線は全部こっちでやるから他の機材の搬入を手伝ってくれ!……悪い、助かった。それだけ頑張ったってことじゃないのか?」
「いやぁ、それが結構調子悪くてですね……」
恥ずかしそうに頬を書くセイウンスカイ。まあ、あんなレースだったら仕方ないか。
少し前の話だ。セイウンスカイが今度の休みの時にオープン戦に出ると聞いた。
「よっ、セイウンスカイ」
「やー、どうもどう……えっ、おに、んんっ、用務員さん!?」
「暇なのでレースを見に来たんだ。調子はどうだ?」
「調子は……あんまり良くないんだよね、これが。あはは、笑うしかない感じかな」
パドックでセイウンスカイに挨拶をするもあんまり調子は良くなさそうだった。聞くと最近お気に入りの猫にこっぴどくひっかかれたとか……待て。トレセン学園は生き物の飼育は禁止だぞ。
「近くの河川敷の野良猫ですよ。学園内へ持ち込んだらたづなさんがどこかから飛んできてお説教してきますし」
「一回は持ち込もうとしたんだな……」
「ま、そんな訳でして今日の私は勝てるかどうかわからないし、多分勝率30%あればいい感じじゃないかな。セイちゃんは敗北に賭けるつもり。トレーナーさんには悪いけどね」
「ふーん……じゃあ、ボクはセイウンスカイの勝利に賭けるか」
「おや、何かやるつもりで?」
「特にその辺は考えてない。今日のレース負けたら牛丼一杯奢ってやるくらいか?」
「うわっ、小さい!これは負けてもそんなに得しないなぁ」
「紅ショウガガン盛りのやつね」
「負けられない理由ができたんだけど」
とまあ、いつものように雑談したりと時は流れていざレース……とはいかなかった。セイウンスカイがゲート入り前に他のウマ娘とぶつかってトラブルを起こしてゲート入り拒否するわと割と波乱だった。そんなレースだったけど、何とか彼女らしい逃げ戦法を炸裂させて無事一着。
「セイウンスカイの調子を用務員さんが戻してくれたんですね、ありがとうございます」
レース後にセイウンスカイのトレーナーからお礼を言われつつ調子を管理できていなかったことを謝罪された。別にそこまで気にしてはいないし調子を戻そうとしてた訳じゃないからいいんだけども。
「お礼に今度うちのセイウンスカイを貸しますね。こき使ってください」
「……えっ。トレーナーさん今なんて言った?」
「存分に、存分に!こき使ってあげてください」
そして、セイウンスカイ貸出許可がトレーナー直々に出た。トレーニングしょっちゅうさぼるんだから用務員さんの肉体仕事を手伝うくらいはしなさい、という意味合いだったらしい。ごめんなさい、セイウンスカイのさぼりはボクも協力させられてるんです。
とまあ、奇妙なことがありつつもお言葉に甘えて今日のステージ設営に協力してもらうことになり現在に至る。
「あの姿を撮影出来てたらセイウンスカイの弱みを握れたのに。予約してなかったからゲートが遠い席だったのが悔やまれるなぁ。惜しいことをした」
「何恥ずかしいことしようとしてるんですか、お兄さん……!」
「次似たようなことがあったら目隠ししてもらうようにゲート員の人に言っておこうかな」
「め、目隠しっ!?そんなものがあるの!?」
「桐生院さんが言ってたんだけど、昔は気性が荒くてゲート入りしないウマ娘は、目隠しした上で尻尾と肩を掴んで無理やりゲートに入れていた、ってトレーナー白書に書いてあるらしい」
「うえぇっ、そんな姿を撮られたらセイちゃん一生の恥じゃないですか。もうちょっとゲート入りの練習しておこうかな……ちょうどあの倉庫に予備のゲートもありますし」
「やるのならゲートの準備くらいは手伝うよ。さて、そろそろ休憩時間だし一息つくか」
「いいですねー。私もさっきから工具ばっかり振ってて腕が疲れちゃったよ」
まだ照明やスピーカーといった電気設備の設定がまだだが、それ以外は大体設営できたステージの片隅に腰を掛ける。セイウンスカイは腰を掛けるどころか寝そべった。本当に自由だな。
今回設営しているステージはもうすぐ開催予定のトレセン学園文化祭用の物だ。ファン感謝祭と違って学園外からはほとんど客を招待せず、職員や学生が楽しむことを念頭に置いているため規模はいくらか小さいが盛り上がりは勝るとも劣らない……とは先輩の弁。
このステージでは普段はクラシックやシニアといった級の違いや、短距離長距離、芝にダートといった適性の問題でなかなか共演できないウマ娘が一緒にライブをしたり、志願者は劇をやるらしい。とりあえず既にテイエムオペラオーというウマ娘がオペラの予約は入れている。
「……そういえば、セイウンスカイもここで何かやるんだっけ?」
「まあねー。スペちゃんやエルたちと一緒にファンタジーの劇をやる予定だよ」
「ふーん……エル?誰だそのウマ娘」
「ふっふっふ……ならば教えて差し上げましょう!」
突然響いた声にセイウンスカイと二人で周囲を見渡す。あそこだ、とセイウンスカイが設営中のステージの一番上を指さす。そこには制服姿で高笑いするマスクのウマ娘が!
「トウーッ!!」
バッと体を翻しながら空中で一回転したそのウマ娘が目の前に降り立つ。セイウンスカイは呆れていた。知っているのかセイウン。
「呼び捨てで呼ばれるとなんか違和感あるんですけどー?」
「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない。では、改めて。ブエナス タルデス!はじめまして、噂の用務員さん!私がエルこと、エルコンドルパサーデース!エルって呼んでください!」
「お、おう。よろしく……噂、って言うのが気になるけど派手なウマ娘だなぁ」
「で、私の同期ウマ娘なんだ。他にスペちゃんやグラス……あ、グラスワンダーのことね。それとキングヘイローを含めた私たち5人は月刊トゥインクルとかでもちょっと注目されてるのですよ」
「その通り!実際私たちは日常生活でも仲がいいのデスが、レースでは互いに競い合うライバル!そんな私たちが協力して一つの劇を作る……これぞまさしくロマン、デス!最初はプロレスを皆でするつもりでしたが、レースの支障になる怪我をしてはいけないので、涙を呑んで我慢しました……」
「……セイウンスカイ。言ってることはわかるんだけどちょっと熱くないか、この子」
「……まあ、そこはエルのいいところですから。この提案もプロレス案は却下したけど普通に面白そうな感じに仕上がりましたから結果オーライですよ」
なるほど。そういうタイプのウマ娘か。大体わかったかも。
「すみません、うちのエルが。さっきも普通に話しかければいいだけだって止めたんですが全然聞いてくれなくて……」
エルの人柄に納得していると、ステージの陰からまた別のウマ娘が現れた。落ち着いておしとやかな雰囲気の彼女は確か……グラスワンダー、だったか。
「あらま、グラスも来てたんだ。二人してどうしたの?」
「どうしたの、じゃないですよ。これから劇の練習が始まるのに何をしてるんですか、あなたは」
「セイウンスカイ、おまえトレーニング以外もさぼるのか……」
「いやいや、これは純粋に私のミスですから。ごめんね、二人とも。ちょっと楽しい時間を過ごしてたからついつい時間のことを忘れちゃってた」
「いえ、お二人の時間を邪魔した私たちにも少し非はありますから」
そう言ってグラスワンダーはにっこり笑うと、ボクの方を向いてじっくりと観察し始めた。
「それにしても彼が噂の用務員さんですか……なるほど、真面目そうな方ですね」
「あの。ちょっと聞きたいんだけど噂の用務員さんってどういうこと?初めて聞いたんですが」
「アレっ、ご存じないのデスか?最近セイちゃんとすごく仲がいい用務員さんがいて、実はこっそり付き合っているって。噂ではすでにうまだモガァッ!?」
「こーら、エル~?本人たちの目の前で言う事じゃないでしょう?」
静かに怒りを秘めたグラスワンダーがエルコンドルパサーを一瞬で拘束した。何だ今の動き見えなかったぞ。後すでにうまだ、ってなんだ。いや、それ以前に。
「ボクがセイウンスカイと付き合ってる……?」
「セイちゃんが用務員さんと付き合ってる……?」
お互いに噂の内容に首を傾げた。顔を見合わせるも、やっぱり傾げる。なんだその噂は。
「……あら?違うのですか?」
「ぐ、グラス……!くび、首が絞まってるデース……!!」
「付き合ってはない……よな?」
「うん。お互いに告白とかした覚えないですし。一緒にいることは割とあるけども」
「基本的に話すだけで、恋人らしいことはしてないはず」
水着を見せてもらった時がギリギリそれに当てはまりそうだけど、それを口に出すとややこしいので黙っておく。
「一応私と用務員さんは友達みたいな感じだから。付き合ってるとかはないかなー」
セイウンスカイの説明に頷く。実態は写真で脅し脅されなのだが、最近はちょっと形骸化しつつはある。
「となると、勘違いしたデマだったみたいですね。失礼な話をしてしまい申し訳ありません。お詫びといっては微力ですが、噂の払拭に努めさせていただきますね」
「ううん、別にいいよグラス。こういう噂があったら用務員さんがそのうち面白い反応見せてくれるかもだし」
ニヤニヤとからかう算段を立てながら笑みを浮かべるセイウンスカイ。ボクは呆れながらも口を開く。
「それはもういつものことだから諦めるけどさ。でも付き合う、か……よくよく考えてみたらそれはないかな」
「ありゃ、ないんだ。こんなに可愛いウマ娘と付き合えるなんてとてもラッキーなことじゃないんですかー?」
「あー、なんて言ったらいいのかな……セイウンスカイのことは好きだよ?だけどさ――」
いざ付き合うかどうかを考えたら、その理由がないかな、なんて。
「スカイさんと付き合う理由がない、と。興味深いお話ですね、用務員さん」
「……あのー、グラス。興味を持つのはいいんだけどさ。その、腕の中のエルは大丈夫なの……?」
「えっ?」
「グ、グラス……恐ろしいウマ娘、デス……ガクッ」
「……あっ」
「だ、大丈夫かエルコンドルパサー!?」
「ふ、ふふ……エルは散るとも、コンドルは死なず、デス……」
「うん、大丈夫そうだね」
これで??
付き合う理由がない。それは私の心にかかる薄い雲となっている気がした。
「はぁっ、はぁっ……ここまでです、セイウンスカイさん!この世界をあなたには……あげませんっ!」
トレセン学園の空き教室。練習なので衣装はなく、剣も代用品の箒である勇者スペシャルウィーク、もといスペちゃんと向き直る。
劇の練習をしている今でもその雲は晴れることはなく、むしろ少しずつ濃さを増している気がした。
「うんうん、活きがいいねぇ勇者さんは。生憎だけどそれを言うには10ハロンくらい遅いんじゃないかな?」
「っ、どういうことですか!?」
「だってさ……この世界はもう、セイちゃんのものなんですから。ほら、空を見てみなよ。 明日は全国的に赤でしょう♪」
パチン、と指を弾く。何も起きないが本来ならここでプロジェクターが写している背景の青空が真っ赤に染まる予定だ。
「そん、な……!もう、私は遅かったんですか……!?」
「にゃははっ、これでも私、逃げは得意分野ですから。そこでニンジンをかじりながら見ているといいよ」
ここで、高笑いっと。キングの指導もあったのでいい感じに笑えてる気がしてるところで。
「カーット!一旦ここで休憩を入れましょうか。スペシャルウィークさん、いい演技だったわ。スカイさんもやればできるじゃない」
「はいっ!ありがとうキングちゃん」
「あははっ、セイちゃんも本気を出せばこんなものってね」
キングヘイローが劇の停止を命じた。一応お嬢様ということもあって色々な劇を見てきたらしいキングは私たちの演出担当兼実質的な監督だった。
「何か馬鹿にされたような気がするんですが?」
「やだなぁ、気のせいだよ気のせい」
そして、キングは私によく絡んでくるので逆にからかったりのらりくらりとかわしたりと。用務員さんの次によく遊んでる相手かも。
「それにしてもセイちゃんは上手だね。私目の前でやってたけど、あの指を弾くシーンとか恐かったよー」
「ああ、ああいうのはスペちゃんでも出来ると思うよ?ねぇ、グラス」
「そうですね。確かにレースの時を思えば本気を出せば十分やれると思いますよ」
「グラスに同意デス。スペちゃんが差しで走っている時はいつ抜かれるのかヒヤヒヤものデスし、抜かれたら抜かれたですごい気迫で脚が出なくなります」
「ええーっ!?わ、私レース中はそんなに恐い?」
うんうん、と皆で頷く。ショックを受けたスペちゃんは涙目で座り込んじゃった。やりすぎたか。
「とりあえずスペシャルウィークさんはこれでいいわ。問題は……あなたね、スカイさん」
スペちゃんをなだめているとキングに名指しされてキョトンとした。私に問題が?
「ええ。私の思い違いなのかもしれないけれど、演技中どこか上の空だったわ。一応キャラには合ってるからいいんだけど」
「幼い頃に亡くしたパドレ、魔王の遺志をついで親友だったスペちゃんと戦う……でしたっけ?」
「そうですね。だから何かを考えているのは悩みを隠しているようにも見えていい演出になっていると思いますよ」
「おやおや。そんなとこまで見られてたかー。実は今晩は何を食べようかなーと考えてまして」
「……本当に?」
キングが表情を険しくして尋ねる。
「本当だよ、なんならキングが作ってくれてもいいよー」
それをケラケラと笑い飛ばしてごまかす。変なところで鋭いんだからなぁ、キングって。
「……まあ、いいでしょう。演技の役に立つのなら何を考えていてもいいわ。後、私の手料理は高いんだからそう簡単に食べられると思わないことね」
「ありゃま、これは手厳しい」
……言えるわけ、ないじゃん。自分の気持ちがわからなくなってきた、なんてさ。そんな弱みをキングたちに見せるのは嫌なんだからさ。
心の中で言葉を隠して劇の練習をしていく。余談だけど、勇者パーティーのスペちゃん、グラスにエルはいいんだけど、魔王の私に姫役のキングというのは配役が逆なんじゃないかって気がしてる。配役くじ引きで決めるって言い出したの誰だ。
「セイちゃんだよね?」
そうでした。
いつの日か照れた私をユウグレスカイとか言ってあの人はからかってきたけれど、今の私は例えるのならドンテンスカイ。
モヤモヤとした感情を用務員さんにもトレーナーさんにも見せられなくてお気に入りの場所でぼんやりとしているが、なんの偶然か今の天気は曇天だった。
「……あーあ。らしくないな、私」
なんだかおかしくなってきた。いつもの様に笑ったり、ゆらりゆらりと揺れながらからかって私の気分のままに生きることができなくなっているような気がする。
その原因は用務員さんへの感情にあるんだろうけど、わからない。
私も年頃のウマ娘だ。恋愛漫画もそれなりに読むし、用務員さんを意識し始めた途端にこうなったんだから自分が用務員さんをそういう意味で好きなんだと意識し始めたということだと予想をつけている、が。
……私、そこまで用務員さんのこと好きなのかな?そう考えている自分がいて、それに同意しているのも確かだ。
「いざ付き合うかどうかを考えたら、その理由がない、か」
用務員さんが言っていた言葉を口にする。その通りだった。私は確かに用務員さんのことが好きだけど、それ以上の関係になるための一歩を踏み出す必要を感じていない。理由がないのだ。
「やれやれ、私にも通じる言葉じゃん。用務員さんもうまいこというよ」
「トレセン学園の用務員はウマ娘への理解も求められる。故にウマいことの一つや二つ言えて当然だ」
「ウマ娘なのにもっとウマいこと言えないんですか?」
「ふむ。これでも自信作なのだが」
お昼寝準備をやめて起き上がる。トレセン学園の屋上の片隅に似つかわしくない人がやってきた。三日月型の白い前髪とこれぞウマ娘と言える磨き上げられた肉体の持ち主。トレセン学園生徒会長、シンボリルドルフさんだった。
「そんな生徒会長には小さいョを進呈しましょう。一文字足すだけであら不思議、ションボリルドルフの出来上がりですよ」
「そ、それは確かにウマいが……少し情けないからやめてくれ」
「あははっ、冗談ですよ」
生徒会長であろうとセイちゃんは特に変わるつもりはない。いつもらしく、飄々と立ち回る。よし、なんとかうまく行きそうだ。
「それで生徒会長は何しに来たんですか?セイちゃんと同じくサボりですか?」
「キミは休憩時間だろう?嘘は言わなくていいさ」
「……あれ、休憩時間だったんだ」
「ふむ、重症だな……ちなみに私は本当にサボりだ」
「えっ?」
「文化祭用に一筆何か書いてどこかに飾ろうと思ったのだが、エアグルーヴに睨まれてな。仕方なく席をはずしてこんなところにいるという訳だ」
またダジャレを書くんだろうな、とエアグルーヴ副会長が怒ったんだろうか。今まではぐっと我慢してたんだろうけどリミッターが外れちゃったと見た。
「とはいえ、情けないことに学園やウマ娘のために何かしていないと落ち着かない性分でな。そこで悩んでいるウマ娘がいると聞いてここにやってきたという訳だよ」
「それサボりっていいませんよ?休日出勤とか残業の類いかと」
「ふふっ、そうだな。トレーナー君にもほどほどにしておけと言われているから、今日は特別だよ」
隣、失礼するよ。私の意見を聞くことなく真横に会長は座った。
「劇の進捗をキングヘイローが報告しに来たときに、キミの様子がおかしいと聞いた。いつも全てを手玉にとるかのように笑っているセイウンスカイの表情が曇っていた、と」
「あー……キングめ、信用してくれなかったか」
「私もあの世代一の策士となりうるキミのことは注目していてな。これでも生徒会長なんだ。何か役に立てると思うぞ」
「そうは言いましても。表向きは恋愛NGなトレセン学園の生徒会長に恋愛っぽい相談しても役に立てますか?」
「……ん?トレセン学園が恋愛NGだと?そんなことはないはずだが」
「はい?エアグルーヴさんが前にそんなこと言ってたと思いますけど」
会長はしばらく考え込むと、心当たりがあったようでおかしそうに笑った。
「違うよ、セイウンスカイ。トレセン学園の校則には不純異性交遊禁止はあるが、恋愛に関する規則は一切ないし生徒会も禁止していない」
「あれっ、じゃあなんでそんな話が?」
「恥ずかしい話なんだが……私のトレーナー君との話をエアグルーヴにしていたら「のろけ話は程々にしてください」と叱られてな。多分そこから恋愛禁止の話が出たんじゃないかと思う」
「え、ええーっ!じゃあ恋愛禁止以前にそもそもの生徒会長がそういう関係なんですか!?」
「付き合ってはいないけどね。一応トレーナー君が求めるのならそういう関係もやぶさかではないよ」
ほんの少し顔を赤めながら話す会長は乙女の表情だった。思わぬ話を聞いたけれど、これは予想外すぎる!
「とにかく、そういうわけだ。こんな私なら少しは頼りにならないだろうか?」
「……はぁー。わかりました。内緒ですよ?」
「もちろんさ。秘密は守るとも」
「もしもバレてたらトウカイテイオーに会長はトレーナーとラブラブだとか、キミが会長に似てるのは会長とトレーナーの隠し子だからとかあることないこと吹き込みます」
「テイオーを巻き込んで恐ろしいことを考えないでくれ」
でも、実際トウカイテイオーと会長が似ているのは謎だ。これもトレセン学園七不思議かな?
それから、私は用務員さんとの関係について、これまで何があったのかを例のタバコの写真に関する話を除いて話した。
サボり関連も話すとややこしいのでカットしたけどなんとか信じてもらえたようで、会長は一つの答えを出した。
「簡単な話だな。心当たりはある」
「わかるんですか?」
「ああ。相手のことが好きだがそれ以上の関係になることを求めていない、と言ったな。だがキミの場合はそこに別の意味が――」
閉じた瞳を開く。過去に馳せていた思考が現実へと引き戻される。トレセン学園の文化祭中である、現実に。
「はぁっ、はぁっ……ここまでです、セイウンスカイさん!この世界をあなたには……あげませんっ!」
私は特設ステージで劇をしていた。魔王らしい椅子に腰掛けながら、ボロボロの鎧を身に纏い剣を構えるスペちゃんを見下していると、会長の言葉が脳裏に甦る。
『これは君が気づくべきことだ。だからヒントを教えるだけにしよう』
会長の言葉を思い返しながら、観客席を眺める。私たちの劇はそれなりの評判になっていて観客席もほとんど埋まっており、その片隅に用務員さんの姿を見つけた。
『私はトレーナーにルナ、と特別な名前で呼ばれることを好む』
思い返したヒントがのろけじゃないか、と呆れつつも演技を続ける。
「うんうん、活きがいいねぇ勇者さんは。生憎だけどそれを言うには10ハロンくらい遅いんじゃないかな?」
「っ、どういうことですか!?」
スペちゃんが剣を構え直しながら吠える。
『その名前で呼ぶのはトレーナーだけだ。故に、ルナと言う名前はトレーナーだけのものだ』
やっぱりのろけじゃないか。役に立つのかな、会長。
「だってさ……この世界はもう、セイちゃんのものなんですから。ほら、空を見てみなよ。 明日は全国的に赤でしょう♪」
パチン、と指を弾く。プロジェクターが写している背景の青空が真っ赤に染まり、会場のライトも一斉に赤く染まった。
「そん、な……!もう、私は遅かったんですか……!?」
「にゃははっ、これでも私、逃げは得意分野ですから。そこでニンジンをかじりながら見ているといいよ」
スペちゃんが膝をつく。私はそこに高笑いしながら近づき、見下す。なかなかの悪役ムーヴだよね、これ。
『つまり、私はトレーナーに独占されることを喜ばしい、と思う女なんだ。セイウンスカイ、キミはどうかな?』
いやいや、そんなこと言われましてもピンも来ませんし。むしろ私は独占されるのは嫌ですよ。自分は自分のモノであってほしいし。
「それでも……それでもっ!?」
「何かな?最後の遺言なら聞いてあげるよ」
「私はっ!諦めません……!大切な友達を!セイちゃんを!!」
ガバッと立ち上がったスペちゃんが私の肩を掴む。泣き真似をしながら、とオーダーにはあるけど本当に泣いてるよ、スペちゃん。
「誰にも、あげたくないんです!!」
叫ぶその姿は気迫に満ちていた。物語のクライマックスであるがゆえに本気のスペちゃんを見て、私は怪しく笑い返すのが台本通り。
……なのだ、が。
「――あ、はっ」
その時の私は怪しく笑っていた。そうだ、台本通り怪しく笑っていた。だが、それは演技ではない。心の底から怪しく笑っていたのだ。
トレーナーに独占されることを喜ばしいと思う。誰にもあげたくない。
二つの言葉が私の中で結びつく。ああ、そうだったのか。私は誰かに独占されることは望まないウマ娘。何かに縛られることなく自分の気分で走り抜くことを好むウマ娘だ。だが、自分の気分で走るためには、相手を手玉に取る必要がある。相手の心の動きを誰にも渡してはならないのだ。
周りの環境を動かす全てを、誰にもあげません!とレース中は強く叫んでいるのが、私なのだ。
故に、写真で脅して私の手の内に収まっているはずの用務員さんが時折私に反撃するかのように照れさせてきたりすることが心に引っかかっていた。私のものにならないあなただから、私は興味を持ったんだ。それに気付いた今は、あなたを――誰にもあげたくない、と思っている。
「お断りだよ、スペちゃん」
故に。今から口にする言葉はこの劇の言葉であると共に。
「誰にもあげたくない、だって?あはは、そういう言葉は嫌いかな」
あなたへの宣戦布告、だ。
「私は私のもの。スペちゃんのものでもないし、セイウンスカイのものなんだよ」
――そして。あなたもこれから私のものになるんだから。
「その時を楽しみに待っているといいよ。もっとも、その時はすぐそこに迫っているけどね」
「……魔王の役にハマりすぎて勇者をノックアウトするのはどうかと思う」
「言わないで。本当に言わないで、お兄さん。私も深く反省してるから」
そして、覚悟を決めた私は浮かれすぎてスペちゃんを次のシーンでボッコボコにしてしまい劇をぶっ壊してしまいましたとさ。私が心に秘めたこの独占力、制御しないと危険だよ……!
「後、グラスワンダーが後で校舎裏にって呼びだしてたよ」
「嘘っ……!?た、助けてお兄さん!」
「諦めろ。ほとんど会ったことがないけど怒らせたら怖いってボクは察してるから」
お兄さんの鬼ー!悪魔ー!!たづなさんーー!!!
「……そこにたづなさんいるんだけど。しかも笑ってこっちを見てる」
私、お兄さんに想いを伝える前にこの空に消えちゃうかもしれない。
・ゲート入り拒否するセイウンスカイ、隠し子トウカイテイオー
どっちも現実ネタ。ゲート入り拒否についてはアニメでも再現されてますが、こっちではオープン戦の別レースで起きた感じです。ちなみに本作のセイウンスカイはまだ育成一年目、ジュニア級。
現実でのトウカイテイオーは隠し子ではなく普通にシンボリルドルフの子供です。ウマ娘ではまれにトレーナーとの子供説があったりするテイオーですが、普通に両親がいることが明らかになっているのでただの噂レベル。
……あと、ヤンデレスカイじゃないですよ。
普通に用務員さんを惚れさせて向こうから告白させようくらいにしかセイウンスカイは考えてないんですが、こんなにそれっぽくなったのは新サポカのデザインが悪い。
怪しく笑っているのが可愛いんですよ……!!