セイウンスカイに弱みを握られた。   作:あおい安室

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ボーイミーツガール杯が本日最終日ということで、
本日中の完結を目指して執筆を頑張っておりまして送れました。
お待たせして申し訳ございません。


二人の心交える冬。

 セイウンスカイがやらかして関係者阿鼻叫喚になった秋も幕を下ろした。

 

「……はーっ。今年も残すところ後少しかぁ。色々と濃密な一年でしたね、お兄さん」

 

「それは否定しないんだけどさ。そうなった原因は君だろ、セイウンスカイ」

 

「にひひっ、まあね~。でも、退屈しなかったでしょ?」

 

 倉庫の片隅で毎回セイウンスカイが持ってくるためもはや備品化しつつある体育用マットの上でゴロゴロしながら彼女は笑う。今思えば男性の前で普通にゴロゴロするセイウンスカイの羞恥心はどうなっているんだろうか、と『とってもウマく生きる秘訣』なるウマ娘の起業家の本を読む。

 

「ところでその本最近よく読んでますね。割と面白くてセイちゃんも好きなんですよねー、それ」

 

「これが、面白い?冗談だろ。競走バを引退したウマ娘がシューズメーカーを立ち上げて大ヒットみたいな話なのに、やたらと人生はレースであるとか例えがレース関係ばっかりなこれが?」

 

「レース関係ばかりだからこそ面白いのですよ。これを読んでセイちゃんは1ハロン当たりのタイムが0.1秒は縮まりましたとも」

 

「レースの教本になってるじゃないか。しかも効果しょぼいな」

 

「いやいや。ウマ娘にとって1ハロンが0.1秒短くなるだけでもそれが全然違いまして。それに、セイちゃんは最初から最後まで先頭を走らねばならない逃げウマ娘。速さは重要なのですよ」

 

「あ、そうか。1ハロンで0.1秒だから……3000mのレースに換算すると1.5秒は早くなるのか。そう考えると割とすごいし、セイウンスカイの為になってるんだろうけど。これ元々のエッセイ本みたいな筋から思いっきり外れてるだろ。一体何なんだ、この本」

 

「レースの本を書きたかったけれど、実績が許してもらえなかったんだって先生が言ってた」

 

「……もしかして、これを書いたウマ娘ってG1未勝利か?」

 

「G3がやっとだったみたい。先生がトレーナーだった頃に担当したウマ娘が書いたんだ、気まぐれなおまえには向いていないかもしれないが、読んでみるといい……なんて言ってたかな」

 

 そういえばこの本も職員室に何冊かあったのをもらったものだったな、と思い出す。今年の冬が寒いからって燃やして暖を取るなよ、なんて言ってきたけど今年は暖冬なのでその必要はないだろう。

 

「おまえは何を考えているのかわからないけれど、こういう生き方をしたウマ娘がいるって知れば少しは何かが変わるだろう。なんて言ってくれたんだよね、その先生」

 

「よくわかってる先生じゃないか」

 

「ええー。お兄さんも私が何を考えてるのかわからないんですか?」

 

「わかるわけないだろ。秋の空並みにころころ変わる君の心の空模様がわかったらすごいよ」

 

 それならセイちゃんの読み通りですねぇ、っと楽しそうに笑う。いつ何をしてくるかわからないから正直困るところはあるんだけど、そういう気まぐれなところが彼女の特徴なんだけどさ。

 

「でもさ、私からはいまいち目標っぽい物が感じられないんだーって先生は言うんだよ?ちょっと失礼だよね」

 

「……事実では?」

 

「あーっ、言ったなー。じゃあセイちゃんの目標が何なのか言ってみてよ。外したら今度の用務員さんのお休みはセイちゃんに頂戴?」

 

「何その条件。思いっきりボクが損してるんだけど」

 

「それもそうか……うん、ならお兄さんが勝てたらセイちゃんと一日デートする権利を差し上げましょう!きっと楽しい一日になること間違いなし!これはやるしかありませんね?」

 

「アグネスデジタルに高値で売れそうだな」

 

「……お兄さーん。流石にそれはちょっと傷つきますよ……」

 

 えーんえーんと泣き真似をするセイウンスカイにちょっとだけ良心が痛んだ。ウマ娘ちゃんを泣かせるとか蹴られますよ!とアグネスデジタルの声も聞こえたような。まさか外にいるのか?

 

「冗談。冗談だってば。わかったよ、その勝負してあげるからさ」

 

「やった!約束ですよ、お兄さん?ささ、そこのホワイトボードを持っていらっしゃいませー」

 

 一瞬で表情を切り替えるとマットに座り直してポンポン、とボクが座る場所を叩いて指示する。

 セイウンスカイはふざけてボクをお兄さんと呼んでくるけど、妹にしょうがないなぁ、って言いながらかまってやる兄貴はこんな感じなんだろうか。くすり、と笑いながら目の前に座った。

 

「ではでは。これから私がホワイトボードに目標を書きます。それを当てれたらお兄さんの勝ちとしますが、流石にちょっと難しいなので3回までチャンスを優しいセイちゃんはあげましょう」

 

「一つ質問。どういう目標なんだ?人生を通しての目標か?それともトゥインクルシリーズか?」

 

「んー……今回はトゥインクルシリーズかな。それじゃ、さらさらさらりと……ってこっち見ちゃだめですよ。筆跡でバレちゃうじゃないですか」

 

 ちえっ。前にも似たようなクイズがあった時に筆跡で当てたのがバレたか。

 

「視線を研究すればセイちゃんのこの綺麗な指を見てることはわかりますとも。それでも普通は難しいことでしょうに。何気に多才ですよね、お兄さん」

 

「小さい頃からそれなりに器用だったからね。100点満点は無理でも65点くらいの出来ならちょっと勉強すれば大抵のことはできるのさ」

 

「ちぇっ、私の同期は皆天才ばかりで用務員さんは凡人だから安心してたのにショックだよ」

 

 才能がないことを笑うとか酷いな。少し呆れつつも目標を書き終わったようなので二人の間に伏せられたホワイトボードを確認し、クイズ開始。

 

「それでは始めましょう。セイちゃんの目標はなんでしょうか!」

 

「クラシック三冠」

 

「回答が早いよ。しかも不正解。ぶぶーっ、残念でした」

 

「不正解なのか?大抵のウマ娘は三冠を狙って走るものだと思ってたけど、セイウンスカイは狙わないのか?」

 

「一応狙ってはいるよ。だけど生半可な練習で取るのはちょっと厳しそうなんだよね。スペちゃんにキング、エルにグラス。同期がこうも強いと多分今年の三冠レースは全部厳しい戦いになる」

 

 セイウンスカイの読みは確かに正しいだろう、と感じていた。トレーナーの資格を持っていないただの用務員だが、地方でそれなりに長いことウマ娘を見ている。彼女が挙げた4人のウマ娘の実力は地方ウマ娘のシニア級に並びかねないと思っている。

 

 まだ本格的にクラシック級開始前だというのに、一年後のウマ娘並みの実力がある。

 

 おそらくまだまだ成長する余地を残している彼女たちがシニア級になった頃にはどんな化け物じみた身体能力になっているのだろうか。想像しただけで身震いしそうだ。

 

「だから目標にするにはちょっと厳しいかなって思って今回は別の目標を書きました」

 

「なるほどな……となると同様にレース関連の目標は難易度が高そうだし書いてなさそうだな。レース以外を目標に書いたのか?」

 

「おやおや、誘導尋問するつもりですか?でも、いい読みである、とは言っておきましょう」

 

「お昼寝」

 

「そうと決めたら早すぎますよお兄さん!?そして不正解です」

 

「……君、本当にセイウンスカイか?ゴールドシップの変装だったりしないか?」

 

「お昼寝しないだけで怪しむとか普段セイちゃんをどんな目で見てるんですか」

 

 トレセン学園1のサボりウマ娘。しょっちゅうここの倉庫へさぼりに来てるからそんな性格なのにレースに勝てるのが本当に不思議だからトレセン学園七不思議への申請も検討中。

 

「いやいやいや。昔ならともかくトレーナーさんがついてる今はその頻度も減らしてますからね。それにさぼり込みで最近はトレーニングメニューも組んでくれてるので、実力もついてますとも」

 

「そうか?……いや、そうかも。ちょっと足太くなった?」

 

「ちょっとー、女の子に太くなったは禁句ですよ。でろでろりーん、って怪しい効果音と共にセイちゃんの好感度下がるところですよ、お兄さん?」

 

「下がるほどに好感度あるの?」

 

「ありますとも。残念ながら目には見えない私の心の中へ秘められた好感度ですのでどれくらいあるのかはお兄さんには秘密ですけどね。友達以上恋人未満ですよ、とだけ言っておきましょう」

 

 さぼり友達だからな、と苦笑する。ん?さぼり?

 

「あ、わかった。さぼりだ。程よくサボってレースに勝つことだろ」

 

「ぶぶーっ。普段からできることは私の目標にはなりませんよ?」

 

「あ!しまった、安直だったか!」

 

「あははっ、残念無念。用務員さんのお休みはセイちゃんの物になりましたー!」

 

 拍手しながらニコニコ笑うセイウンスカイの姿を見ると少し悔しくなるけれど、正直なところ割と勝負を挑んできて7割くらいの確率で負けてるから割と慣れてきた。

 

 ――慣れてきたからこそ。この答えは予想外だった。

 

 ひっくり返したホワイトボードに描かれていたセイウンスカイの目標は。

 

「「用務員さんと一緒に釣りに行く」。目の前の目標であり今はトゥインクルシリーズの真っただ中。ルール違反じゃありませんよ、お兄さん。今度のお休みは楽しみにしててくださいね」

 

 にひひっ、とイタズラ成功スマイルを浮かべながらセイウンスカイはボクを見つめていた。

 

 


 

 

 用務員さんは自分へ向けられる好感情に弱い。

 

 それが私、セイウンスカイがこれまでの思い出と改めて意識し始めてからのお兄さんについて分析して出した結論だった。出会った当初から春にかけては私が照れてもからかうだけだったけど、夏の頃は逆に戸惑っていた節がある。秋の頃も大体似たようなものだった。

 

 故にほんのちょっと甘えてみればどんな反応を見せるか容易い。

 

「お兄さーん。釣れないし肩借りるね。おやすみなさい」

 

「ちょ、セイウンスカイ!?」

 

 おやおや、わかりやすく狼狽えちゃって。瞳を閉じながらそのままもたれかかる。そこで逃げないのは意地悪じゃないんだな、なんて思うけれど耳を貼り付ければ心臓バクバク言ってるよ、なんちゃって。流石に服越しでは聞こえないから想像なのであった。

 

「あのなぁ。まだ釣りに来て一時間も経ってないのに寝ようとするな。セイウンスカイが釣りしたいって言ったんでしょうが」

 

「そうは言われても、今日の釣りを楽しみにしていたセイちゃんは夜更かし気味なんですよ」

 

「子供か」

 

「セイウンスカイ、15歳。まだまだ子供な中学三年生でーす」

 

「子供だったか……魚がかかった時に揺れて落ちても知らないからな」

 

「おっと、それはちょっと怖いしやめておこう。後で膝枕でも要求しようかなー」

 

 男の膝枕に何の需要があるんだ……?と首をかしげるお兄さんを横目にセットしていた釣竿を握り直す。確かに硬くて需要はなさそうだけどお兄さんの反応が面白そうだからいいのです。

 

 ここはトレセン学園から少し離れた場所にある堤防。

 お兄さんの休みをせしめた私は以前から気になっていたこの場所を釣りスポットとして指定した。程よく温かいとはいえこの時期はやっぱり水温が低いから釣れる魚も少し少ない。

 なのでちょっとでも暖かい場所に行って成果を上げようという狙いだ。事前に情報もみっちりと調べ上げておいたからボウズということはないだろう。本当に狙っている大物も、ね。

 

 ビクリ、とお兄さんが身震いした。

 

「おや、かかった?」

 

「かかってない。なんだか寒気がしたんだが……まさか君のトレーナーがボクを祟ってるのか?」

 

「うーん……どうでしょうねぇ。こんな釣り日和だから一緒に来ればよかったのにまさかの出張が入っちゃいましたから。休みをのんびり満喫する私たちがうらやましいのかもですね」

 

 実際のところ二人きりの方が良かったのは確かだが、突然の出張が入ったのは事実だ。なんでも二年後くらいに大規模なレースを開くらしくてそれに向けて関係者が打ち合わせしてるらしいんだけど、今年の新人トレーナー代表枠として参加を命じられたとか。

 

 肝心なところでなんか運が悪いんだよね、私のトレーナー。

 

「……トレーナー、か」

 

 もしや私と用務員さんの関係がいまいち上手く進まないのはその不運がこっちにも来てるからなんだろうか。今度フクキタルにかしこみお祓いコース注文を検討しておこっと。

 

「そういえばさ。一つ気になったことがあるんだけどいいかな?」

 

「ちょいまち。餌をかごに入れてるところだから」

 

 今回持ち込んだ仕掛けは小さなかごに餌の小さなエビを詰めて、それを海中でばらまいて魚を釣るオーソドックスなサビキ釣りという仕掛けだ。一旦引き上げたトレーナーさんの準備を手伝って、海に投げ込んだのを見てから話を続ける。

 

「ん、じゃあ聞くけどさ。なんで用務員さんはトレーナーにならなかったの?」

 

「トレーナーに、か。まあ昔はトレーナーになろうと思ってたよ。ボクの母親も昔はそれなりに活躍したトレーナーだったし」

 

「おや、初耳」

 

「あんまり家族のことが好きじゃないからね。頭の出来が良くないから中学校卒業してから入学予定だったトレーナー養成学校の試験に落ちちゃってるんだよ。おかげで母親が怖いこと怖いこと」

 

 指先を立てて角のジェスチャーをする用務員さんがなんだかおかしくて笑う。

 

「それで両親に反抗したボクは家出少年になったわけだ。それ以外の学校は受験してなかったから行く場所がなかったのもあるし。それで途方に暮れてたら、地方トレセン学園で働いてる理事長の親戚っぽい人に誘われて地方トレセン学園の用務員になっちゃった」

 

「えっ。理事長の親戚っぽい人にも驚きだけどそんなにあっさり就職できちゃうんだ」

 

「たまたま一人辞めちゃって空きがあったから、とは言ってたんだけどね。親戚でもやっぱり勢い任せで色々と決めるところは変わってないみたい」

 

「フーン……それで地方トレセン学園で働いてたら何の因果かこんな中央のトレセン学園に栄転。そこでたばこを吸ってる疑惑が出てしまいこうしてウマ娘に脅されているのでした、と」

 

「脅してるのは君だろう、セイウンスカイ」

 

「脅されているのを気にしていないだろう、用務員さん」

 

 口調を真似て返した。似てないなー!と笑い飛ばされた。もう、セイちゃんはウマ娘なんだから男っぽい声は出せないんだってば。

 

「それにしてももったいないなぁ。今の私のトレーナーのことも結構好きだけど、お兄さんがトレーナーだったらそれはそれで楽しそうなのに。今から勉強しませんか?」

 

「ヤダよ。めんどくさい。セイウンスカイがクラシック三冠取ったら考えようかなー」

 

「あっ、言いましたね?その言葉忘れないでくださいよ?」

 

「どうだろうなぁ。あの名だたる猛者たちにトレーニングしっかりやらないセイウンスカイが勝てるとは思えないしなぁ」

 

「それもそうか……なら練習もっと頑張りますか!ってその手口には乗りませんよ!セイちゃんがさぼりで来なくなった倉庫を独占する気でしょう!!」

 

 バレたか!いつものイタズラを成功させた私のようにお兄さんは笑っている。むう、悪い流れだ。流れを私の手の内に戻さないとな――口元に手を当てて巡らせていた思考は。

 

 

 ――そもそも、ウマ娘を壊しかけたボクがトレーナーなんて無理だけど。

 

 

 用務員さんの発言で硬直することになる。




次のお話が最終話になる予定です。

日が沈み青雲が見えなくなる頃、19時を目標に
投稿予定ですのでお付き合いいただけると幸いです。
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