セイウンスカイに弱みを握られた。   作:あおい安室

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お久しぶりです……というほど期間は空いてませんね。
前回でセイウンスカイと用務員の話は終わりのつもりでしたが、最終回で回収していない謎が一つありました。
Twitterでそのことについて書いてはいたのですが、
ちゃんと話にしておくべきだと考えたので番外編として投稿することにしました。

時系列としては最終話での告白の翌日くらいを想定しています。
お兄さんの出番は少ないのですがご了承いただければ幸いです。


番外編:青雲の空の後で二人は誓う。

 セイウンスカイが用務員さんを手に入れたから、と言って全てが順風満帆とはいかない。というか、正確に言うと目の前に問題があった。肝心な時期に出張でトレセン学園にいなかった、セイウンスカイにとって大切な人の一人は出張から帰ってきた直後に彼女を呼び出した。

 

「……禁止は、されていないんです。なので毎年トレーナーさんとそういうことになるウマ娘もいるにはいるんですよね……」

 

「そういうたづなさんは私のトレーナーとそういう関係に」

 

「なれてたらたづなさんは今頃病院にいます」

 

「色々とすっ飛ばしてませんか?」

 

「第一私はこの人とそういう関係ではありませんよ」

 

 呆れた私の視線を受けて照れくさそうにするのは、私のトレーナー。その隣には学園関係者として出席しているたづなさん。大規模レースの関係で学園を離れて理事長やたづなさんと関係各所に色々と顔を出していたと聞いた。

 

「今は、ですけどね」

 

「これからも、ですよ?」

 

「ひぃっ、たづなさんが怖い」

 

「……前から気になっていたんですけどなんでたづなさんのことが好きなんですか?」

 

「それは当然でしょ。たづなさんって昔はヴッ!」

 

「トレーナーさん。あまりそういう話はしないでください」

 

 お腹にゴリィと拳をめり込ませてトレーナーさんに物理的なストップをかけていた。こうしてたづなさんが過去を隠すのもトレセン学園の七不思議に数えられてる原因だと思う。悶絶するトレーナーを横目にたづなさんは咳払いをしてこちらへ向くよう意識させた。

 

「とにかく。トレセン学園としては恋愛そのものは規則で禁止されてはいませんから、用務員さんとお付き合いすることは止めません。私も理事長もこれについては同意です」

 

「たづなさん……ありがとうございます」

 

「ですが、ウマ娘としてレースを走る以上、あなたへ想いをよせるファンがつくことと、恋愛のその先にあるものでどんな影響があるか。ご存じですね?」

 

「わかっています。私はそれも含めてあの人が欲しかったんです。あげませんよ?」

 

「ふふっ。取りません。ではこれで学園側の話は終わり。後はトレーナーさんとしっかり、話をしてあげてくださいね。ウマ娘はトレーナーと二人三脚で走るんですから、ね?」

 

「……はい!」

 

「いい返事です。トゥインクルシリーズ、これからも頑張ってください。応援しています」

 

 私の答えを聞いたたづなさんは微笑む。それを答えにしてトレーナー室には私とトレーナーさんだけが残された。二人きりのトレーナー室はいつものことだけど、今日はちょっぴり空気が重い。

 

 トレーナーさんがこの部屋を使う前からお昼寝に使っていたソファに腰掛けているんだけど、正直なところもうここにバタンキューって倒れこみたいけど。私がお付き合いすると電話で連絡したら「すぐに学園に戻るから。話がある」と言ったのはトレーナーさんだ。

 

 いつもは私のことを優先しつつ、レースに勝つための方法と練習を私が嫌がらないレベルで指導してくれるトレーナーさんが、自分の意志で言いだしたこと。

 

「いったたぁ……お腹に穴が開くかと思った」

 

「……穴、空いてますよ」

 

「えっ、嘘!?」

 

 そんなトレーナーさんはいつものように笑いながら私の隣に座った。

 

「もーっ。セイウンスカイ時々怖い嘘つくのやめてよ」

 

「あははっ、騙されるトレーナーさんはちょっと正直すぎるよね」

 

「昔からこうなんだよね。嘘をつくのはあんまり得意じゃなかったから、今もこうして苦労してるわけだしさ。珍しく嘘ついてたら担当ウマ娘が知人と恋仲になってるし」

 

「あれ、嘘ついてたんだ……何の嘘ついてたの?」

 

「レース関係の出張って言うのが噓。本当は理事長にいい病院紹介してもらえたからたづなさんと一緒にちょっと私の体を見てもらってたんだよ」

 

「体?まさかトレーナーさん、このタイミングで不治の病があるとか言いだしてこれからのトゥインクルシリーズで私にやる気を出させようとする作戦じゃないよね?」

 

「……夏の合宿で倒れたのを根に持ってる?」

 

 お兄さんがスイカを持ってきたり私が水着を見せたりといろいろあった夏の合宿。あの裏でトレーナーさんは頑張りすぎて倒れちゃったんだけど、回復した後にふと気になって「私を自主的にトレーニングさせる策略だったの?」って聞いたらどっちとも取れる回答をされた。

 うんうん、私との思い出をよく覚えていてくれるようでなによりである。もちろんちょっとだけ怒ってはいるんだけど。お兄さん程じゃないけど、大切な人なんだしさ。

 

「あの時は本当にごめんってば。だけど、今回の嘘はそういう病気じゃないよ」

 

 昔の怪我の様子見だからさ。そういうとトレーナーさんは自分の髪の毛をわしゃわしゃとかき混ぜる謎の動きを見せた。それに首をかしげていると、動きが終わった時あるはずがない物を見た。

 

 濃い茶髪の上に、ピョコンとウマ耳が生えていた。

 

 手にはカチューシャがあり、普段はそれで耳を抑えて隠していたのだろうか。とにかく、それが意味することと言えば。

 

「ウ……ウマむす、め?」

 

「そう。レースの出走経験はない無名のウマ娘だけどね」

 

「でも、トレーナーにはちゃんと人間の耳が!」

 

「これは偽物だよ。それっぽく見せるためのやつ」

 

 頭の横にあった耳がポロリ、と外れる。ウマ娘が人間の振りをしたりする時に人間そっくりの模型の耳を使うことがあると聞いたことを思い出した。

 

「昔の話になるんだけどさ。私事故にあっちゃって全身がボロボロで意識もなかったの。4年前に意識が戻って病院を退院したんだけど時々調子が悪いから精密検査してもらったんだ」

 

「それをなんで教えてくれなかったのかな。レースの視察とか言わなくていいでしょ」

 

「言ったら心配するよね?大丈夫、結果は異常なしどころか手術で少し調整してもらったからむしろ健康。私はセイウンスカイのトレーナーをあなたが引退するその日まで辞める気はないよ」

 

 サムズアップしながらトレーナーさんはウィンクする。人生のトレーナー枠は取られちゃったけどね、とからかわれて少し顔が熱くなるのを感じた。ああ、私の鋼の意志はどこにいったのか。

 

「……でも。体調が悪いことを隠すためだけにウマ娘であることも隠してたのかな?」

 

「おや?」

 

「私は策士、トレーナーさんもその傾向アリ。何か意味があると考えているのですよ」

 

「ほうほう。その心は?」

 

「そうですね……では、一つ当てて見せましょう。トレーナーさんが事故に遭ったのは5年前、そしてその内容は交通事故じゃないかな?」

 

 その質問にトレーナーさんは目を見開いた。何故知っているのかと目は言っていたけれど私はそれを当事者からちゃんと聞いていたから。

 

「私は用務員さんが欲しいって言った時に昔の話を聞いたんですよ。トレーナーの真似事をしてウマ娘を壊しかけたって言っていて、このタイミングでトレーナーさんが呼び出したら事故に遭ったウマ娘であることを明かす。運命みたいなものを感じると思いません?」

 

「まあね。私もセイウンスカイに初めて会った時に運命を感じたし。まさか私みたいなさぼりウマ娘がいるとは思わなかったよ。だからあなたのトレーナーをやりたかったんだよね」

 

 大当たり、セイウンスカイ。その通りだよ。

 

「にゃははっ、やったね。そういえば用務員さんはそのウマ娘が私に似ているって言ってたよ。でも」

 

「でも?」

 

「……言うほど似てる?」

 

「それは確かに。性格以外は似てないよね」

 

 トレーナーさんも頷く。隠していた尻尾も出してもらって一緒に並んでお互いの姿を眺める。髪の毛は短髪と長髪、芦毛と茶髪。身長はトレーナーさんの方が大きいし、体格は私がちょっと大きい気がする。トレーナーさんが細すぎるだけなのかもしれないけどさ。

 

「で。私が用務員さんに告白した直後の話でそれを明かすってことは……」

 

「あの人に恋したのは私が先だ。その告白待った、って?あはは、ないない。私はあの事故であの人へのそういう想いは捨ててるから」

 

「……恨んでるの?」

 

「まさか。オーバーワークは私がレースに勝ちたくてやったことなんだから。謝りはしても恨みはしないよ」

 

 立ち上がって自らの机に向かうと、鍵をかけていた引き出しから一冊の手帳をトレーナーさんは取り出した。私のトレーニングをしているときによく見つめていた一冊だ。

 それから取り出して私に渡してくれた一枚の写真には包帯に覆われた幼いトレーナーさんと、泣いている用務員さんの姿が写っていた。

 

「お母さんが撮影してくれたんだ。意識がなかった私が治療のために病院を移るまで毎日あの人はお見舞いに来てくれた。毎日私のために泣いてくれた。それを恨むのはウマ娘失格……じゃないかな?私はアマチュアでちゃんとレースを走ったことはないんだけどさ」

 

「ううん、間違ってないよ。あなたの担当ウマ娘がそれを保証しますとも」

 

「……ありがとう、セイウンスカイ。ま、そういうわけだから私はあの人を恨んでないし、恋をしてもちょっと辛い相手になるだろうし。あなたがあの人を好きになってくれて嬉しいよ」

 

「うーん……まさか、とは思いますけど。私の恋心も計算込みだったの?」

 

「できるわけないでしょ。というか告白するとか予想外。私が検査を切り上げてこっち戻ってきたの驚き100%だからね。うまぴょいしてたらどうしようって不安だったよ」

 

 それは本当に悪かったって思ってます。でも恋心はそう簡単に止められませんから。

 

「逃げウマ娘だけに、って?全くもう。性格似てたら育成楽だと思ってたのになー」

 

「実際楽でしょー?この前のレースもあっさり逃げて勝ちましたし」

 

「レース以外で手を焼かせてくれるけどさ」

 

 あはははっ、と二人で笑いあう。笑い声は似ている気がした。

 

「……ね、セイウンスカイ」

 

 トレーナー室備え付けの小さな冷蔵庫を開くと一本の瓶を取り出した。ウマ娘の夜のお供に、朝まであなたと走り抜けたい。なんておしゃれなキャッチコピーの濃縮ニンジンジュースだ。一本当たり3万円を超えるというほどに高級ながらも大人気すぎて予約必須と聞く。

 私も一度飲んでみたかったし、スペちゃんも初めてのレースでもらえた賞金で注文しようとしてたけどダメだった一品。なんでそんなものを持っているのか尋ねるとニヤりと笑い返された。

 

「あなたが三冠を取った時のために取っておきたかったんだけど。今日はいいよね」

 

「なんと。そんなに大切な物を開けちゃっていいの?」

 

「だって大切な担当ウマ娘の恋のダービー開幕だし。ちゃんと祝わないとさ」

 

 もう一本注文するけど三冠までに間に合うかなぁ、って楽しそうに笑うトレーナーさんは泣いてなかった。私とお兄さんの恋を悲しまず、恨まず。ただ、祝福してくれていた。

 

 本当にそれでよかったの?

 

 私から少しだけこぼれた不安にトレーナーさんは答える。

 

「いいんだよ。あの人は大切な人だった。それは今も昔も変わらない」

 

「だって、あの人は平凡なウマ娘だった私に夢をくれた。私みたいなウマ娘でも早く走れるってことを教えてくれたから、私は猛勉強してトレーナーになったんだ」

 

「トレーナーになって、強いウマ娘を育て上げて、あの人に「もう大丈夫だよ」って伝えることが私にできる恩返しだと思ったから。私に似てるウマ娘が担当になったのは予想外だけどね」

 

「そして、今の私はあなたの担当トレーナーだからあなたを速く走らせることに全力を注ぐし、あなたがその道を共に歩む人にあの人を置くことを選んでくれたことには感謝してるんだよ?」

 

 かつての私が残した傷を全て含めてあなたは受け止めてくれたんだから。

 

「……感謝、か。やれやれ。私はトレーナーさんにお礼を言われてばかりだね」

 

「じゃあお礼以外のことを一つ言わせてもらおうかな。お願いがあるんだ」

 

「お願い?」

 

 二つのグラスにニンジンジュースを注ぐと、一つを私に持たせた。

 

「――誇りになって。私にとっても、あの人にとっても。セイウンスカイというウマ娘は強かったと。凄かったと。誰よりも走り抜けた最高のウマ娘だって、言わせてほしい」

 

 その問いに私は笑みを浮かべる。いつも通り、どこか含みを持たせた笑顔で。レースで策略を練り、仕掛けるタイミングを考えているあの時のように笑って答える。

 

 

 任せてください。私にとって最高のトレーナーさん。

 

 

 互いのグラスをカチン、と合わせる。この人なら私をどこまでも連れていってくれるって信じられた。二人の誓いを交えながら飲むニンジンジュースは格別なものだった。

 

 

 

 

 

 ものだった、んだけど。

 

「……セイウンスカイ?大丈夫か?」

 

「ううーっ……頭痛い……気持ち悪い……お腹痛い……」

 

「なんか変わったもの食べたのか?」

 

 翌日の私は体調不良でダウンしていた。昼休みの時間に例の倉庫でダウンしているとお兄さんも当然心配そうにしており、申し訳なかった。あなたの誇りになるって誓ったばかりなのになぁ。

 

「昨日トレーナーさんと一緒にね、濃縮ニンジンジュースを飲んだよ……」

 

「濃縮ニンジンジュースゥ?トレセン学園では売ってなかったはずだけど。いくら飲んだのさ」

 

「……500mlくらい」

 

「そりゃあ体調崩すわ。濃縮されたニンジンジュースはウマ娘にとってお酒に近い一面があって、濃縮具合と飲んだ量によるけど二日酔いみたいな症状起こすんだよ」

 

「し、知らなかったよ……痛っ!頭がジンジンする……」

 

「無理するな。生徒会長のシンボリルドルフさんみたいに体が出来上がったウマ娘なら500mlは余裕なんだが、まだまだセイウンスカイは成長途中だから仕方ない。ほら、ゆっくり休め」

 

「……膝枕を所望しても?」

 

「あのなぁ……5分だけだからな。すぐ仕事があるんだよ」

 

「にひひっ、優しいお兄さんが好きだよ」

 

 溜息をつきながらも差し出した膝に私は頭を乗せる。優しく頭を撫でられる感覚と共に痛みが薄れていく気がしたのは私の恋心の作用なんだろうか。それを口にするとお兄さんは顔を赤くしてそっぽを向いた。あははっ、照れてる照れてる。素直な気持ちに弱いのは私と同じだね。

 

 

「それにしても濃縮ニンジンジュースについては教本に書かれてるんだけどなぁ」

 

「教本?」

 

「トレーナー教本。5年前から載ってたし今年度の分にも載ってるんだけど、君のトレーナーはそのこと知らずに濃縮ニンジンジュースを飲ませたのかな、ってふと気になって」

 

「……へぇー」

 

 放課後にそのことを尋ねると忘れてた!とあっけらかんと笑っていた。エルから教えてもらったプロレス技をキメたのは悪くないはず。やれやれ、最高まではちょっと足りないよ、トレーナー。

 

 

 これからも一緒に頑張ろうね。

 

 




・セイウンスカイのトレーナー
 新人トレーナーとして赴任したらかつて世話になったあの人がいて、慌てて耳を隠すカチューシャと耳の模型を注文して彼に正体をバレないようにするために人間の振りをしていた。
 そのことをあの人に説明する勇気はまだないけれど、いつかセイウンスカイとあの人が本当に結ばれた時は二人の大切な人を代表してスピーチしたらしい。

 ちなみに、たづなさんのことが好きなのは正体がウマ娘だという伏線だった。

・あの人兼お兄さん兼用務員
 この時点でトレーナー教本を読み直して、セイウンスカイをずっと支えるためにサブトレーナーになれないかと考え始めている。
 かつてのトラウマを乗り越えてトレーナーの道を進もうとする彼の元に手書きのトレーナー試験対策ノートが母親名義で届くのはもう少し後の話。
「……ボクがこういう人付き合いで不器用なのは母親譲りだったのかな」
 セイウンスカイとの関係がちょっとこじれたのもこれが原因かと思っているそうな。

・セイウンスカイ
 トレーナーを見て我が振り直し、年々照れさせるのが難しくなったとお兄さんがぼやくが彼女はそれにいつだって笑って返す。
「私はレースも恋も手強くて、誰よりも独占力があるウマ娘ですよ」
 そんな君だからボクも愛してるんだ、と返された彼女の顔は今日も夕暮れ。
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