99点のヒーロー   作:極丸

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99点のヒーロー

 偶像(ヒーロー)には100点が求められる。99点以下は要らない。

 この現実を知ったのはヒーローになってからだ。

 当時のオレはヒーローに憧れた。だってそうだろう。人々を助け、称賛され、誰もが羨望の眼差しを惜しみなく注ぐ100点の存在。そんな存在を見て純真無垢な子供が憧れを抱かないはずがない。

 その憧れに従って、オレは努力を重ねた。懸命に、堅実に、謙虚に、必死に、確実に。

 オレは夢に向かって歩き続け、やがて現実に到達した。

 

『被害者多数。前代未聞の超被害。原因は新人ヒーローの独断行動?』

 

 オレが初めてデビューした新聞の見出しだった。最悪のデビューだったのは今でも覚えてるし、当時の新聞は全社の記事を買い漁って残してある。他にも色んな見出しがあった。とにかく罵詈雑言を載せたヘイトスピーチ満載の記事もあったし、面白いのだとどこぞのヴィランが裏で糸引いてオレを操ってる陰謀論めいたゴシップ記事もあった。記事を並べると会社ごとに違いが見えてきたのは当時のオレの面白い発見だ。それ以降のオレが信用する出版企業も分かったしな。

 

 閑話休題

 

 メディアはとにかくオレをバッシングした。それに対してオレは何も言わなかった。否、言えなかった。世間では大災害の原因となった人物の証言だ。何を言ったって業火に重油を注ぐ結果になるのは目に見えてる。だったらまだ消化活動をせずに火が鎮火するのを眺めてればいい。そうすりゃネットの奴らはバッシングする素材を無くして適当な理由しかこねてこねぇんだから。

 その結果、オレはヒーローを引退した。免許はまだ持ってるが、そろそろ期限が切れそうだから持ってても意味はねぇだろ。

 

 そして現在、オレは雄英の校長室にいる。

 

「いや何でだよ」

「おや、ひょっとして紅茶は苦手だったかい?けどすまないね。今は紅茶しか淹れられないんだ。予備があったらよかったんだけど」

「ああ、お気になさらず」

 

 今目の前にいる謎服着た哺乳類?と対峙しているが、どうにもこの空気には慣れない。体が痒くなってくる。

 

「で、久々に呼び出したと思ったら何ですか?校長」

「ハハハ、随分と丸くなったじゃないか。昔はヒーローになる為の時間を浪費したくないなど言ってこの部屋からすぐ出て行こうとしたというのに」

「何年前の話っすか」

「5年前さ」

「……………」

 

 哺乳類、校長の言葉にオレは口を紡ぐ。あまりその単語は聞きたくないのだ。

 

「気分を悪くさせてすまないね。けど、今回君を呼び出したのは他でもない。君、雄英(うち)の教師にならないかい?」

「は?」

 

 何言ってんだこの哺乳類と思った。確かにヒーロー免許は持ってるが、今ではほとんど活動していない。サイドキックの契約は解消したしコスチュームは色合いもシルエットもほとんど覚えてない。いや確か全身黒のダイバースーツみたいな奴だったな。昔見たSF映画に登場するガングロスーツみたいなデザインの。今思い返してみてもクソダセェわあれ。

 話が逸れたな。雄英での教師活動ね……というか……

 

「オレ教員免許持ってないっすよ?」

「それくらいの事なら特別非常勤免許でも何でもやりようはあるさ」

 

 オレの主張は一瞬で覆された。用意周到だな。

 

「教えられる科目なんて無いっすよ?」

「ヒーロー科特化の授業に出てくれれば問題はないさ」

「世間は許しちゃくれやぁせんでしょう」

「世間体なんてものを気にしてヒーローとして教えるべきことをおざなりにしてしまうのはそれこそ世間は許してくれないだろう?」

「教えられるもんなんて無い」

「あの精神はヒーローを目指す上では欠かせない素質さ。ヒーローを目指す者達を育てる教育機関として採用しない手は無い」

「もうオレはヒーローじゃない」

「君がそう思っても、少なくとも僕は君をヒーローだと思っている。職業としてではない。本質としてのね」

「……………」

「……………」

 

 押し問答が続き、校長との間に静かな間が流れる。

 

「……条件があります」

「なんだい」

「まず、オレが受け持つ授業はヒーロー科専門の授業のみにして下さい。一般教科なんて教えられません」

「お安い御用さ」

「それと、もし生徒側からオレのやり方に不満が出たり、結果が出なかったらすぐにオレを降ろして下さい。その方が生徒の為だ」

「いいとも」

「それと最後……最初にいっとくべきでしたけど」

「何かね?」

 

 校長がジッとオレを見つめる。相変わらずこの目が苦手だ。全て見通されてるようで背中が痒い。

 

「オレが授業を請け負う事は世間に必ず公表して下さい。話はそれからです」

「ふむ……なるほど、君なりの最後の足掻きというわけか」

「そういう事です。これだけの面倒を抱えてまで雄英側がオレを雇うとは思えませんがね」

「いいだろう。今日の職員会議にでも話を通すとしよう」

「どうも。それじゃ」

「うむ。また会う時を楽しみにしているよ」

「…………出来ればもう会いたくないですよ」

 

 オレは振り向かずにそう答えた。

 

 

 

 

 

「校長!!お呼びでしょうか!!」

「やあオールマイト、なぁにちょっとした相談と言ったところさ。さ、掛けたまえ」

「失礼します」

 

 彼が去っていった後、オールマイトはやはり時間通りに来てくれた。彼が話をすぐに切り上げる癖があるのは分かり切った事。お陰でスムーズにオールマイトに話を繋げられる。

 

「さて、オールマイト。今日実は1人のヒーローと話をしてね。近々彼を雇おうと思っているんだ」

「彼……といいますと」

「エフォート君さ」

「!!」

 

その言葉に向かい合う彼も驚愕の顔を浮かべた。まぁ、彼もエフォート君には思うところはあるから当然の反応だね。

 

「彼はしばらくヒーロー活動をしていない筈……」

「活動はしていなくても彼はここの立派なOBだ。呼ぶことくらいは簡単な事さ」

「しかし、一体なぜ……」

「君が後継者を見つけた際、彼なら指導がしやすいだろう?」

「……お心遣い感謝します」

「構わないさ。それに、私個人としても彼は非常に好ましい。ヒーローとしての素質とそれに至る為の努力を惜しまない性格。好感が持てるじゃないか。ライセンス所持者に留めておくのは非常に惜しい。故に呼び寄せただけにすぎないさ」

「なるほど……」

「そういう訳だ。君は思う存分後継者を探したまえ。納得がいくようにね」

「はい!!では、失礼します」

 

 そう言うと彼は部屋を後にした。早く見つかるといいが、急ぎ過ぎるのも駄目だ。成り行きに身を任せよう。

 

「エフォート君。君が目指したヒーローは完璧な存在だったのかもしれない。けど、そうでなくとも君を必要としてくれる人は居るんだよ」

 

 さて、職員会議の為の資料を作るとしよう。

 

 

 

 

 

 数ヶ月後

 

 

 

 

 

「それじゃあこれからよろしく頼むよ。エフォート非常勤講師」

「何でだよ?」

 

 やはり彼の就任に反対する味方(ヒーロー)は居なかったね。

 

 




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