俺が雄英に非常勤講師として採用されるのが決まってからというもの、俺の日常はだいぶ変わった。
まず勤めていた企業への退職届。顔を隠してヒーロー活動をしていたから突っこまれなかったけど、顔出しで活動してたらエグかったな。いや、そもそも採用してくれなかったか。くっそー、せっかく就職できたと思ったのに……なんで雄英側も断んないんだよ!世間からのバッシングは明らかだろうが!!穏便に済ませられる案件だろ!!安全策を走れよ!保身を取れよ!……いや
次に雄英との契約内容の確認。一応雇われる身なのでヒーロー達とは別の契約内容だ。向こうの給与明細は知らんがオレとは確実に待遇は違うだろうし、任される内容も異なるだろう。というかプロヒーローもやりつつ教員もやるとかアイツらのスペックどうなってんだ?72時間働く時代は終わったぞ?
そして今日は所用で雄英に向かう為電車で乗り継ぎをしようとしたのだが……
『来るんじゃねぇええええええ!!!!』
《えー、ただいま当駅にて
「よりによってこのタイミングでかよ……」
ヴィランが線路を封鎖していた。屋根の方を見れば巨大な鮫頭のヴィランがヒーロー相手に苦戦していた。いや、苦戦していいんだけど。つーか捕まれよサッサと。
「相手してんのはー……お、シンリンカムイか。相性的に大丈夫か?」
主に交戦しているのは最近若手で実力派と噂のシンリンカムイだった。実際に会ったことは無いがニュースでちょいちょい名前は聞く程度に知っている。活躍っぷりからよっぽどの事が無い限りは人気は潰えないだろう。ま、実力派なのだからすぐ終わるだろうと見切りをつけて俺は駅構内のベンチにもたれ掛かる。
「………………全っ然終わんねー」
1分が経過し始める。
下の方ではギャラリーが集まり始め、日朝戦隊モノのヒーローショーみたいになっちまってる。おいヒーロー、何やってんだよ。
改めて屋根の方を見るが、いまだ決着は着いていないらしい。じれったいな。
「……あーーーーーーーーーーーー!!!もーーーーーー!!!!!」
俺は席を立ちあがる。そして駅構内に向かう。そして
つーかなんで駅構内に誰もヒーローいねぇんだよ?避難はヒーローの大鉄則だぞ?
ま、んな事はどうでもいいか。俺は鮫頭の敵に届く様声を張り上げる。
「おい!サメやろー!いいかよく聞け―!!」
「ああ!?何だてめー!?」
うるせーな。そんなに怒鳴らなくても聞こえるっつーの。
「お、おい君!一体何をしてるんだ!?一般人はこんなところに来るんじゃない!!」
シンリンカムイの声を無視して俺は話を進める。
「お前のせいでこっちは用事あんのに遅れそうなんだよ!!どうしてくれんだコラ!?」
「てめーの事情なんざ知るかよ!?こちとら捕まる気なんざ毛頭ねー!!」
……こいつ典型的なクズだな。
「大人しく投降しとけばまだ罪は軽めで済むと思うぞー!それでも軽犯罪に比べりゃ重いが!!敵になったのが不味かったなー!でも痛い目合わない内に大人しくしとけー!まだ歯が折れてない内がおススメだぞー!」
「馬鹿にすんじゃね―――!!」
「不味い!!ウルシ鎖牢」
鮫頭がキレて俺に向かって殴りかかる。
シンリンカムイが敵の方に向けて樹木を伸ばすのが見えるが、関係ない。
久々に
「キャニオンカノン!!」
「「!!!?」」
でかい足が横から入り込んできた。
あまりの出来事に一瞬俺とシンリンカムイの時が止まった。
紫の足先に白い根本……いいな。
ていうか
そして伸びてる敵を回収しながらその足の持ち主は優雅に振り返った。
「本日デビューと相成りました。Mtレディと申します!以後お見シリおきを」
なんかイントネーションおかしくね?そう思っているのは俺だけなのか、下の方では矢鱈めったらカメラのフラッシュがたかれてた。あいつ等とは気が合いそうだな。合いたくないけど。
「こら君!何をしているんだ!!」
「ん?」
シンリンカムイが顔に怒気を孕ませながらやって来る。あー、説明めんどくさ。
「ヒーローでもないのに勝手に駅に入るんじゃない!!死んだらどうする!!」
「いや、すいませんあの……」
「言い訳は不要!!助けようとしたのかもしれないが、おかす必要のない危険はおかなくてもいいんだ!」
頭に血が上ってんのか、話を聞く気が無い。まぁ激怒するのも分かるが。俺はさりげなくスマホカバーからカードを取り出す。
あー、あんま見せたくなかったんだけど……
「これ!」
「ん?……これは、プロヒーロー免許?」
「そ、そうです……えー、ではこれで!もし偽物だと思うんならこれ、識別番号です。これで名簿探せばいると思うんでそれじゃ!!」
「あ!こ、こら!!」
唖然としている間に俺は逃げる様にその場を去った。
ちょっと申し訳ない事したな。後で事務所に差し入れ送っとこ。
「いやー、遅れてしまって申し訳ございません……」
「構わないよ。さっきニュースでもやってたからね。君が使う路線でヴィランが発生したと。大方それに巻き込まれたんだろ?」
「……おっしゃる通りで」
校長室再来。何回ここ来りゃいいんだろうな?そうそう来れる場所じゃねー筈なんだが。
「で、今回なんで自分が呼ばれたんですか?手続きは大体終わったと思ってたんですけど?」
「ああ、それに関してんだがね?実はもう一人雄英に新しく就任する教師が居てね。それを伝えようと思ったんだ。メールでのやり取りはどこかでサーチされるかもしれないからね。これはトップシークレットなんだ。ばれたら困る」
「???……そんな大層な人物なんています?」
「ああ、いるとも。オールマイトが就任するとなればそりゃあ大騒ぎさ」
「……………………は?」
サラッと言ってしまったが、ちょっと待って欲しい。
オールマイト?
「え?ええ?ええ?えええ????ちょっと待ってくださいよ、冗談すぎますよ?」
「冗談じゃないさ。だからこそ君を呼んだんだ」
「ッスー――……マジか……」
俺は頭を抱えた。
「マスコミが喰いつきそうな話題っすね」
「そうだろうね」
「オールマイトを餌に俺の就任の印象を薄めるつもりっすか?」
「それもある。だけど勘違いしないで欲しい。この案は他でもないオールマイト君からの提案なのさ。もしも不満があるなら彼に言ってくれたまえ」
「……それはずるいっすよ」
校長の言葉にオレは肩を落とす。どこまで計算してんだか、この哺乳類。
オレは呆れる他なかった。
「で、いつ頃発表するんですか?」
「そうだね、まぁ直前までは黙っておこうと思ってるよ。そうすれば君のデビューの印象はかなり薄まるからね」
「……ネガキャン知らないわけないでしょ?」
「もちろん重々承知さ。けど、言っただろう?世間体を気にして他を疎かにしていたらそれこそ本末転倒さ。多少の傷は覚悟の上。それこそヒーローってものだろう?君もそうだったはずさ」
「…………」
この哺乳類は人が気にしてる黒歴史を……まぁ同意はするけど。
『君はヒーローになれる』
そうオールマイトに言われてから僕の本格的にヒーローを目指す生活が始まった。トレーニング内容から睡眠時間に食事の献立まで徹頭徹尾細かく記載されたトレーニング内容はハードだけど着実に力がついてきてる証拠に思えた。
オールマイトに内緒で少し自主トレーニングをしちゃってるけど、それでも最高のヒーローになる為にはへっちゃらだった。
今日も朝のランニングの為シューズを履いて外に出る。最初は起きるのがキツかったけど、もう慣れて朝の空気を吸うのが気持ち良くなってきた。終わった後の筋肉痛が酷いけど……
「ハッハッハッハッハ……」
やがて公園に差し掛かる。普段の移動ルートに含まれてるこの大きめの公園にも僕と同じように朝のランニングを日課にしてる人が沢山いる。スポーツサングラスをかけたオジサンに、本格志向のウェアを着た同年代の男子、健康器具でストレッチをするおばさんなど様々だ。そしてその中には僕と仲良くなった人もいる。
「おー、来たか少年」
「あ!おはようございます!」
この人だ。青いジャージを着た僕より少し年上のお兄さん(ここが重要だって言われた)。前に僕がランニングを始めた時走り方やフォームを教えてくれた親切な人だ。
『おーい少年?そんなフォームじゃ体壊すぞ?長距離走るんならもっとフォームを意識しろ?つーかどんだけ汗かいてんだよ。走り過ぎるとむしろ体に毒だ。一回休め』
『へあ?』
あの時はなかなか驚いたよ。だって並走しながら汗ひとつ掻かないで追いついてくるんだもん。それから僕の自主トレに色々とアドバイスをくれるようになってくれた。お陰でオーバーワークの疲労がかなり軽減されてる。……まぁ残るものは残るんだけど。
「しっかし少年も真面目だねー?こんな朝早くからランニングとは。しかもかなり継続出来てるし、なんか目標でもあんの?ひょっとしてダイエットか?」
「え、えーと……趣味です……」
「趣味の割には本格志向だな?見た感じ最近までランニングとかしてこなかったような感じだと思ったんだが……ま、いいか」
そんなことを思い返してるとお兄さんからそんな言葉が返ってくる。
か、かなり鋭い。
「と、ところでお兄さんはなんでここでトレーニングしてるんですか?!」
「お?んー、まー……数年前から続けてることだし……これやんないと気合い入らねーんだよなー。だから無意識レベルでの義務感みたいなもんだ」
「義、義務感……」
お兄さんは僕がランニングでこの公園に到着する前からここで運動をしてる。しかも大抵少し汗をかいてるから僕よりもずっと早くからこの公園にいる筈なんだ。それに加えて僕の自主トレに付き合ってくれるだけじゃなくて、その後も残って何か運動をしてる。以前気になってどんな練習内容なのか聞いてみたことがあったけど……
『大した内容じゃねーよ。腹筋100回、スクワット100回、腕立て伏せ100回とランニング10キロだし。最近ちょいちょい変更入れてるが、まぁ基本これだな』
聞いた後僕のトレーニング内容と比べると中々にハードだ。それを毎日続けられるルーティンワークレベルで出来るなんて、相当やりこんでるんだろうな……
「それじゃあ僕これから学校なんで、失礼しますね!」
時計を見るともうそろそろ家に戻らないといけない。実はもうちょっとできるけど時間に余裕を持たせるためにもこの辺で切り上げよう。
「おーう頑張れよ少年。夢に向かって、100点目指して頑張れよー」
そう言いながらお兄さんは手を振って僕を応援してくれた。オールマイト以外に応援を受けるのは久しぶりで僕は嬉しかった。
「はい!ありがとうご…ぶへ!」
「夢に向かう第一歩で躓くとは……前途多難だな」
うぅ、締まらないなぁ……
「はい……はい……わかりました。それではまた」
私はそう言って電話を切る。そろそろエフォート君の雄英就任が発表されるだけあって、雄英側も慎重を期している。騒動を大きくしないためにも私の名前を使ってもらってるんだが……まぁ多少の騒動は承知の上だ。
しかし、彼が条件付きとは言えよく雄英の就任をOKしてくれたな。もうヒーローの世界からは足を洗ったと思ったんだが……私も半人前だな。
「エフォート君……彼に会うのはどれくらいぶりだ?」
最後に会ったのは確か5年以上前だが、その時はまだ彼も新人だったし、相当印象は変わっている。あの事件の後の記者会見は見るに堪えなかった。
「彼にとってもヒーロー時代は辛い時代のはず……しかしそれでもヒーローであり続けているというのならば……君はまだやれるんじゃないか?」
おっと、そろそろ出久少年が来る。それに備えなければ。