「OKエフォート!!そのままだ!中々にキマッてんじゃねーか!!久々に会って変わったと思ったらなんも変わんねーな!!」
「そりゃヒーロースーツなんだから見た目はそこまで変わんないですよ。というよりヘルメット越しなんだから顔も何もないでしょ?」
「中々にクレバーでヘヴィーなレスポンスじゃねーか!!やっぱ変わってねーわ!!」
「あんたも変わってないようで安心したよマイクさん」
オレは今雄英の撮影室にて撮影に入ろうとしていた。そしてその道中でめんどくさい相手と接敵した。そう、プレゼント・マイクである。
オレこいつ苦手なんだよな。ハイテンションで処理がめんどくさい。かと言って放置してもずっと喋り続けるし、うるさいと指摘しようにも一応先輩だからそうも言えないのだ。あーなんでよりによってコイツと出会っちまったんだ……あんたの相方イレイザーヘッドだろ?なんで居ないんだ。
「しっかし最初聞いた時はびっくりしたぜ!まさか職員会議でお前の名前が出るなんてな!ま、オレとしちゃ知り合いが増えるんだ!喜んで賛同したぜ!」
「……やっぱ変わってるよ
こっちの気も知らないで意気揚々と話すマイクさんにオレは内心呆れながら撮影室を目指す。
「おや?マイク君も一緒かい?」
グリーンバックを背景にやけにキメたポーズを取りながら校長はこっちに気づいた。一応オレの撮影って聞いてたんだけど?
「いやいや。もし君が写真を撮るときに不備があっては困るからね。ボクが前もってデモンストレーションをしておいたのさ。不備はないかい?」
「ええ、バッチリですよ。パソコンの方はー?」
「こっちもOKです!」
校長が振り返った先には撮影スタッフらしい人が何人かいた。
……まぁパンフ用の写真だしちゃんとしたの撮るにはこれくらい必要か。
「雄英の職員だから安心してほしい情報漏洩に関しては徹底させているからね」
……ほんっとこの人苦手だわ。
「それじゃあエフォートさん、スタンバイお願いします!」
「はいはい。あー、慣れねぇな」
「おいおい、メディアも立派なヒーローの仕事だろ?現役時代思い出せって」
「俺の場合そういうの興味なかったから参加してないんです。グッズ販売とかコラボ商品とかやる前に引退したしやる気もなかったし」
「ハッハー!そういやそうだったな!俺のラジオも蹴ったことあったしな!」
「ありましたっけ?もうほとんどパスしてたから覚えてないや……」
「かー!ニュービーが聞いたらヘイト買いそうなことサラッと言いやがる!」
グリーンバックに向かう直前にマイクさんとそんなやりとりが起こる。あの時はメディアとか気にしてなかったしな……ああ、黒歴史が……やめやめ、この話題考えるのやめよう。
「それじゃあ、よろしくお願いします……」
「はい、それじゃあ取りますよー」
撮影スタッフの合図から3カウント後にフラッシュが焚かれた。ヘルメット越しでも多少眩しい。光抑えるヤツに変更しようかな?
「おやおや、これは……」
「ハッハー!中々にファンキーな絵面じゃねーか!」
そうこうしているうちに撮影が終わったが、どうにも様子が変だ。写真撮影だけであんな笑えるか?いや、マイクさんが笑い上戸っていう説もあるけど。
俺は静かに写真のデータが出力されたパソコンの画面を覗く。そこには……
「ヘルメットの反射で何にも見えねぇじゃねぇか……」
「今度はヘルメットにつや消しの加工でもしておく様にしようかね」
メタリックなデザインが仇となったのか、強烈な反射光で画面の半分が白く覆われていた。フロントは曇りガラスなので顔バレはしてないが、これじゃ意味がない。
曇りガラスなのになんで普通に歩けるのかって?
昔テレビで見たことない?向こう側からは曇って見えるけど反対側からは鮮明に景色が見える特殊ガラス、刑事ドラマでもよく見るだろ。アレとほぼ原理は一緒だよ。製作者曰く。
「これは今日中の撮影は無理だね。後日改めて撮るとしよう。なーに、そこまでの時間と労力はかからないし難しいことじゃないよ」
「……お手数おかけします」
今回ばかりは校長の好意に甘えるとしよう。
「さて、エフォート君。今回も君に話がある」
「だと思いましたよ」
たいてい校長が俺を呼び出す時はまとめて2、3個の用事が重なった時だ。だんだん分かってきた。
「そろそろ世間は高校受験シーズンに入り我々雄英も試験日が迫ってきている。それは分かるよね?」
「まぁなんとなくは」
「その日に君が担当する生徒がおおよそ決まる訳だし、生徒を把握するのは早い方がいい。そこでだ、君も入試内容を見学しないかね?」
「…………」
まぁ烏滸がましいかもしれないが想定できた内容だ。至ってシンプルな内容だし、わざわざ撮影室に呼んでまで話す内容ではある。
しかし……
「見学だけで採点には関わりませんよ?」
「そこは十分承知しているさ。君の雇用形態はあくまで非常勤講師。雄英の経営方針や制度についてはあまり触れることはできないからね」
「それでいいですよ」
校長の言い分にオレは別段なんとも思わなかった。オレの判断一つで未来あるヒーローの種が潰れるかもしれないんだ。んなモン怖くてできそうにない。
「おいおい校長よー!だったら何でエフォートを見学させんだ?そうなると部外者を雄英の裏側に入れたっつー事になっちまうが?」
「なぁに、シンプルに顔合わせだよ。エフォート君は知ってはいるけど会ったことはないというヒーローが多数いるし、そう言った齟齬を埋めるためにも一同が集まるこの機会に顔合わせを一度に済ませた方がいいと思ってね」
マイクさんの言い分は直ぐに否定された。しかし、あの人自身もそこまで本気で発した言葉ではないのか、校長に対して別段それ以上の反応は見せなかった。
「…………俺が雄英講師か……中々に業が深いな」
「そう思うのなら、若人がそうならない様に教育していけばいいさ。反面教師という言葉もあるだろう?」
「…………」
俺は校長の言葉に何も言い返せずにいた。
俺は俺の事をどう思っているんだろうか。
罪悪感に呑まれているが、それは果たして本当なのだろうか。どこかでこうしていれば自分を許せると考えているのではないか。哲学みたいに頭がグルグル回っていく。
「おいおいおいおいおい!!!何辛気臭い顔してんだよ!!」
「ぐえ!!」
そう考えこんでいると、肩を強い衝撃で揺さぶられる。マイクさんだ。
「久々に会って変に辛気臭くなんなよ!お前はなんも考えねぇくらいが丁度いいぜ!!」
「…………苦しいっす」
強引なマイクさんの腕を振り払おうとするが、変な姿勢になっている所為か、どうにも力が込めづらい。
「よーし!このままオレのラジオ参加しようぜ!そこでなら色々喋れんだろ!!」
「二人で外に行くのはいいけど、ラジオはやめてくれよ。まだ彼は雄英関係者だって世間には公表してないからね」
「お前何がいいよ」
「……お茶で」
「あれ?前まで炭酸系の方が好きじゃなかったっけ?」
「この数年で趣味が変わったんですよ。炭酸がちょっとキツくなってきて」
「ジジィみてぇな事言うなよ。ほれ、加藤園で良かったか?」
「どうも」
撮影室を抜けた後でプレゼント・マイクオレは自販機のお茶を奢った。何気にこいつとサシで話すのは初めてだな。
「どうも……んでなんか用すか?」
「いんや、校長がいるとお前も何かと話しにくいと思ってな。ここに連れ出しただけだっての」
「……良く分かりましたね」
「MCは空気を読むのも回すのも仕事だからな」
こいつが校長に対して苦手意識を抱いていることは見てれば何となく分かる。体を揺する回数がやけに多いし、言われてる事が的を射てたら目をそらしやがるしな。俺じゃなくても直ぐに分かるだろ。
「……んじゃ聞きたい事いくつかあったんすけど……アイツってどうしてます?」
「おん?お前の
「ええ、一応つてを使って可能な限り事務所を紹介してはおいたんですけど、あの後どうなったのかは聞いてなくて……」
「今でも無所属でやってるよ。『所属してなくてもヒーローは出来る。それは自分が間近で見続けてきた』だと」
その質問に俺はこいつの相棒を思い出しながら答える。変なところに影響を受けたのか、こいつと同じ無所属でヒーロー活動を続けるあいつの姿は何とも様になってたが……
「…………そっか」
それに対してこいつはそれ以上は聞いてこなかった。ま、俺もそこまで詳しく知らねぇから詰めてこられても困んだが。
「近々連絡とってやれ……他にはあるか?」
「あの……雄英はオレを認めてくれますかね?」
ヘルメット越しでも分かる。ずいぶん不安そうにしてんな。覚悟決めたと思ったらこれか。先はなげーな。
「少なくともオレは認める認めねぇの前の問題だろ。あの件はオマエが自分で説明しろ」
「……いや、それは」
「オマエの性格上誰も疑わねーよ。安心しろ」
こいつは自分の事になると評価が低くなる。オレの見立てだと、こいつの事を苦手な奴はいるかもしれねーが、疑う様なヤツは知り合いの中じゃ一人もいねぇ。その辺がわかってねーんだよな。
「んじゃ、今度会う時は試験会場だな?逃げんなよ?」
「あ、はい」
オレはさっさと立ち上がって廊下を進む。湿っぽいのはオレのキャラじゃねーからな。これくらいでいいだろ。
つーか奢っといてなんだがあいつどうやってあの状態で飯食うんだ?
「……ふう、今日は色々と精神的に疲れたな」
オレは自宅に近い公園で一息ついていた。結局撮影は長丁場で続き、ヘルメットの中が蒸れて仕方なかった。ま、最後まで被ったけど。俺が撮られ慣れてないからどういうポーズすればいいか分かんなかったから手探りだったな。撮影スタッフには迷惑をかけた。
「あ、そういやマイクさんに貰ったお茶まだのんでなかったな」
俺はバックの中に仕舞い込んでいたお茶を取り出す。
パキパキとキャップの接合部分が割れる音が静かに響く。もう夜中だからか人の出入りも少ない。
その音を聞きながら俺はあの事を思い返す。俺の人生の分岐点。否、多くの人の人生の分岐点となったあの事件は俺に強い影響を与えた。
『個性』を発動させようとすると少し体が強張るし、炸裂音も苦手意識が出る様になった。おかげで昔は大好きだった炭酸飲料も飲めなくなって面倒ったらありゃしない。しかし、これでも安い方だろう。あの件でガラリと人生が変わってしまった人は何人も居るんだ。俺にしては罰が軽すぎる。下手したら罰ですらないのかもしれない。
『残念だったな〜?オマエの負けだヒーロー。オマエは人を救えなかった。これは俺が起こした悲劇だが、オマエが
「……!!!」
オレは思い浮かべた顔を忘れる様に首を振る。しかし完全には消えてはくれなかった。
雄英入試まで、残り僅か