ヒープリ×トロプリ トロピカル・アメイジング!   作:runguri

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■突如現れたメガビョーゲンと同時に襲い来るヤラネーダ。その予想外のコンビネーションに苦戦を強いられるプリキュアたち。反撃のカギとなるのは……? ■ヒーリングっどプリキュアとトロピカル~ジュ!プリキュアの春映画チックなコラボ小説、完結編です。お読みいただきありがとうございました!


第4話 最終決戦! トロピカるまでが修学旅行!

 □ □ □

 

 八人のプリキュアたちは砂浜を駆け、メガビョーゲンと五体のヤラネーダに向かって一斉に突撃する。

「サマーたちはヤラネーダをお願い! わたしたちはメガビョーゲンを!」

「オーライ、グレース!」

 先頭の二人が声を掛け合うと、プリキュアたちは二手に分かれてそれぞれの敵に向かっていく。

 

「メガァ……」

 グレースは自分たちを迎え撃つ、海のメガビョーゲンの姿を改めて見つめる。

 その見た目は高く打ちあがった大波をそのまま寒天で固めて切り出したような、シンプルな形をしたメガビョーゲンだ。

 脚は無く、這うようにして移動するようだが、その動きはとても速そうには見えない。両脇には取ってつけたような、というより、胴体の大きさに比べてあまりにも短いおまけのような腕が生えているだけで、とても格闘戦ができるようには見えない。ある意味、昨日現れたヤシの木のメガビョーゲンとは真逆の風体だった。

 そして、向かってくるグレースたちにも動じず、ただただぼんやりとこちらを見据えている。あまりにも無防備すぎて、逆に不気味な気配がする。が、グレースはそんな迷いを振り切るように、メガビョーゲンに向かって飛び掛かった。

「やあっ!」

 グレースの右拳が、メガビョーゲンの体を打ち貫く。……いや、ただ貫いただけだった。

「ラビ……!?」

 そのあまりの手応えの無さに、ラビリンも思わず声を上げる。グレースの拳は、垂直に切り立った水面に虚しい水音を響かせて沈むだけで、液体そのもののメガビョーゲンの体には一切のダメージを与えられない。

「何なのコイツ、殴っても全然効き目がない!」

 スパークルも拳の連打を浴びせるが、同じくただぱしゃぱしゃと水しぶきが立つだけだった。

「はああああっっ!!」

 そんな中、助走をつけて駆け込んできたアースが、メガビョーゲンの顔が浮かぶその巨体の中心目がけ、体重を乗せた飛び蹴りを見舞う。しかし、

「! アース!」

 フォンテーヌの目の前で、アースの体はそのままメガビョーゲンの体に突き刺さり……もとい、水没してしまった。メガビョーゲンの体内は、混沌渦巻く瘴気の海だ。さしものアースも、苦悶に顔を歪める。

「アース! 手を……!」

 グレースが差し伸べようとする手を、アースは首を振り制すると、ウィンディハープに緑色のエレメントボトルをセットする。

 空気のエレメントボトルから生み出された巨大な泡は、周囲の瘴気に染まった海水をこじ開けるようにアースの全身をすっぽりと覆う。アースは呼吸を取り戻すと同時に、その浮力を利用して自らの体をメガビョーゲンの身体から排出した。

 メガビョーゲンの頭の上から飛び出してきたアースに、グレースたちは駆け寄り声をかける。

「アース、大丈夫!?」

「げほっ、げほ……。平気です、グレース。どうやら、こちらの格闘攻撃は一切通用しないようですね」

「そうだね。かといって、いつもみたいに口から蝕みを吐き出したりもしないようだし、なんだかよくわからないメガビョーゲンだね……」

 不敵な笑みを浮かべて佇むメガビョーゲンに、四人は焦りの色を浮かべる。

 

 一方、

「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃ!!」

 サマーは、青ヤラネーダと拳の連打を交える。青ヤラネーダはサマーが繰り出すパンチを時にかわし、時に受け止め見事にいなしきる。サマーも、時おり飛んでくる強烈なカウンターを飛んだり跳ねたり器用に避けながら、決定打のチャンスを探る。

「ヤラネーダ……っ!?」

「! チャンス!」

 そんな中、青ヤラネーダが大振りで撃ち下ろした右ストレートが見事に空を切り、懐にもぐりこんだサマーの目の前には隙だらけの胴体があった。サマーはすぐさま、青ヤラネーダの脇腹を抉り取るような渾身の回し蹴りを放つ。

 しかしヤラネーダは咄嗟に、空いた左肘でそれをガードした。

「っ!? 痛っっったーーーい!!」

 がんっと乾いた音が響く。肘を覆う金属の輪っかで強かに自分のすねを強打したサマーは、目から火花を散らしながらその場で悶絶する。

「サマー、危ない!」

 砂の上でのたうつ彼女を叩き伏せようとする青ヤラネーダとサマーとの間に素早く割り込み、コーラルは×印のバリアを展開してその鉄拳を寸前で防ぐ。

「ヤラネーダ、畳みかけなさい!」

 頭上から声が降り注ぐ。あとまわしの魔女の一味、ヌメリーだ。彼女の号令に合わせて、紫ヤラネーダがサマーとコーラルの背後から駆け込んでくる。

「させない!」

 両耳からパージしたイヤリングを眼前に構え、コーラルたちに襲いかかるヤラネーダを背後から狙撃しようとするパパイア。しかし、

「それはこっちのセリフよ! ジャマしちゃえヤラネーダ!」

 別の方向から、今度はエルダの声が響く。彼女の指示に従い、大きく跳躍した黄色と赤のヤラネーダはパパイアの目の前に着地し、射線を完全に塞いでしまう。

 パパイアがうろたえている間に、ヤラネーダたちの背中の方からサマーとコーラルの悲鳴が響く。歯がゆさに顔をしかめるパパイアだが、窮地に陥っているのは自分も同じだ。

 二体から同時に飛んでくる丸太のような拳をなんとか避けると、構えたままのイヤリングからビームを一方に向かって放つ。顔面に直撃を受け怯んだ黄色ヤラネーダ。しかし、もう一方の赤ヤラネーダはその間に間合いを詰め、パパイアに向かって彼女の頭身と同じ大きさの足で前蹴りを放つ。

「パパイア、危ない!」

 咄嗟のところで、フラミンゴはパパイアの体にタックルするように飛び掛かって共に砂浜を転がり、直撃をなんとかまぬがれた。口に入った砂をぺっと吐き出すフラミンゴに、パパイアは頭を下げる。

「あ、ありがとう、フラミンゴ」

「ああ。しかし、厄介だな。こうも連携されると」

 チャンスを逃しこちらを睨み返す黄色と赤のヤラネーダの頭上に、一艘の舟がふわりと舞い降りる。

「そう。いつもうざってえチームワークを発揮しているお前たちへの意趣返し、ってところだな」

 舟の上で不敵に笑うチョンギーレ。その不敵な笑みに妙な気配を感じ取り振り返るパパイアだったが、時すでに遅かった。

「「きゃああああっ!?」」

 猛スピードで二人の背後へと接近していた緑ヤラネーダが繰り出したタックルの直撃を喰らい、二人の体は大きく吹き飛ばされた。

 

「みんな、大丈夫!?」

 見事に同じ場所にぶっ飛ばされてきたサマーたちに、グレースたちは声をかける。サマーはぴょんと起き上がり、犬のように体を振るって体中の砂を振り落としながら笑顔を返す。

「ありがとう、グレース! あのヤラネーダ、幹部の人たちが命令しているおかげで、昨日よりやる気に満ち溢れててなんだか手ごわい!」

 そのようね、と頷きながら、フォンテーヌは全員に提案する。

「こっちのメガビョーゲンも、普通の攻撃が通用しないの。どっちも一筋縄ではいかないみたいだし、まずはそっちのヤラネーダたちを全員で何とかしない? あのメガビョーゲン、なぜだかぜんぜんこっちに攻撃を仕掛けてこない……よう……だ、し……?」

「? どうしたんですか?」

 突如言葉を詰まらせるフォンテーヌに、コーラルは首をかしげる。自分の背後を見上げながらだんだん顔が青ざめていくフォンテーヌに思わず振り返ると、コーラルも声にならない悲鳴を上げた。

 先ほどまで、せいぜい学校の校舎くらいの高さだったメガビョーゲンの体が、いつの間にかその倍以上の大きさに伸びていた。さらにぐんぐんと、縦横共に急激な成長を続けるメガビョーゲンに、スパークルは素っ頓狂な声を上げる。

「な、なんでコイツでっかくなってんの!? ぬりかべ!?」

「……ぬりかべということは、予想される攻撃手段は、あのままこっちに倒れ込んでくるという事」

 パパイアの冷静な推理に、全員の顔からさっと血の気が引く。そうこうしているうちにさらなる成長を遂げたメガビョーゲンは、もはや波というより世界有数レベルの滝のようだった。

「メェガァ、ビョォォォオオ…………」

 そんなメガビョーゲンの体がゆらりと揺れたかと思うと、パパイアの予想通り、ゆっくりとこちらへと倒れ込んでくる。八人は、ハチの巣を突いたような大パニックに陥る。

「ほ、ほほほ本当に来た!? どうする、もう逃げるヒマもないぞ!?」

「み、みんな! わたしたちのぷにシールドの影に隠れて!」

 慌ててぷにシールドを傘のように真上に展開するグレース、フォンテーヌ、スパークルの陰に、サマー、フラミンゴ、パパイアは慌てて駆け込む。

「コーラル! あなたはアースを守ってあげて!」

 焦るフォンテーヌが飛ばした指示にコーラルはこくこくと頷きながら、慌ててバリアを展開する。

「すみません、お邪魔致します」

「こ、これはこれはどうもご丁寧に……」

「って、やってる場合か! くるぞ!」

 頭を下げ合うアースとコーラルにツッコみつつ、フラミンゴはフォンテーヌのシールドの下で身を伏せる。

 そんな彼女たちの悲鳴をも掻き消す勢いで、極大まで膨れ上がったメガビョーゲンは己が体を大きな津波と化し、プリキュアたち全員を飲み込んだ。周辺の砂浜一帯はプールの水をぶちまけたように、瘴気を含んだ海水で一瞬にして蝕まれてしまった。

 大波が過ぎ去り、なんとかしのぎ切ったプリキュアたちは憔悴しきった顔でバリアを解除する。四人がバリアで防いだ場所のみが、きれいな円形の砂地となって残っているのみで、周りは毒々しい瘴気まみれだ。

「し、死ぬかと思った……お父さんに海は怖いところだぞって何回も言われたのが走馬灯のように……って、ローラは!? 平気!?」

 がばっと起き上がったサマーは、慌てて周囲を見渡す。すると、波打ち際から遠く離れたヤシの並木の下で、ローラは手を挙げ声を張り上げる。

「平気よサマー! 悪いけどしばらく安全な位置にいさせてもらうわ! それより、今度はヤラネーダが……!」

 一息つく間もなく、汚染された砂浜をも気にすることなくのっしのっしとこちらに向かってくるヤラネーダを指さしローラは叫ぶ。

 フォンテーヌに手を引かれて立ち上がったフラミンゴは、忌々し気に舌打ちしながらも、ヤラネーダを迎撃すべく駆け出す。

「まったく、休む暇もないなってうわあっ!?」

「フラミンゴ!?」

 目の前で派手にすっ転び尻もちを打つフラミンゴに、プリキュアたちは改めて足元を見渡す。

 メガビョーゲンがぶちまけた蝕みをふんだんに吸った砂地は、まるでぬかるみのようだ。その感触に逡巡している間に、ヤラネーダたちは間合いを詰め彼女たちに襲いかかる。

 踏み込む足は取られ、駆け出す足は空を切る。おぼつかない足元に攻撃も防御もままならない。一方、ヤラネーダたちはそんなひどい土壌をまったく意に介さず、キレのよい攻撃を繰り出してくる。

 その猛攻をただ一方的に避けながら、スパークルは不満の声を上げる。

「もう! こっちはぬるぬる滑るってのに、なんでこいつらは平気なわけぇ!?」

「……おそらく、足の裏がおまんじゅうみたいに柔らかいからでは」

「まあ、名推理ですパパイア。すこやかまんじゅうの歯切れよくしかしむっちりとした生地の柔らかさは、店長さんが今なお研究を重ねている独自の配合と製法で……」

「あ、あのっ、アースさん! 食レポは後にしてまずはヤラネーダを何とかしません!?」

 コーラルのツッコミも虚しく響く中、プリキュアたちはただただ防戦を強いられる。

 

「ふふん、いいじゃねえか。プリキュアが八人揃おうが、手も足も出ないとはな」

 ヤラネーダたちの優勢を見下ろしながら満足げに笑うチョンギーレのすぐ横に舟をつけ、不安げな面持ちでヌメリーは尋ねる。

「……ねえ、チョンギーレ。あの水でできた怪物、あれもあなたが作ったヤラネーダかと思ったら、違うの? なんだかヘドロのようなものを振り撒いてるけど……」

「ん? ああ、そうだな。メガビョーゲン、とかいったかな」

「とかいったかな、って……。プリキュアと戦ってるとはいえ、正体がわからないものを利用して大丈夫なの?」

「なに、心配すんな。昨日も別のメガビョーゲンが現れやがったが、こっちの言う事も聞く便利な奴だったぜ?」

「なら、いいのだけど……」

「……エルダ、なんかアイツこわい」

 プリキュアとヤラネーダたちが拳を交える戦場の片隅で、じわじわと湧き上がりつつある病魔の怪物を見下ろしながら、あとまわしの魔女の部下たちは三者三様の表情を浮かべていた。

 

「皆さん。あのメガビョーゲンが再生を始めています……!」

 ヤラネーダたちの猛攻をしのぎながらアースが叫ぶ。砂浜に盛大に散った自らの体だけでなく、海の水をも取り込み自分のものとしながら、身体を再生し元の大きさへと戻りつつあるメガビョーゲン。

「またあの津波で横やり入れられたら、たまったもんじゃないラビ。やっぱり先に、あのメガビョーゲンを何とかしなきゃラビ!」

 青ヤラネーダの前蹴りを大きく後方に跳躍してかわしながら、グレースはラビリンの言葉に頷く。

「パンチやキックがダメなら……そうだ、フォンテーヌの氷のエレメントはどうかな!?」

 グレースの提案に、フォンテーヌは静かに首を振る。

「厳しいわね。無事に全部が凍りつけばいいけど、中途半端に凍った状態であの攻撃がきたら、流氷で攻撃力倍マシで襲いかかってくるわね……」

「それじゃあ、スパークルの火のエレメントで一気に蒸発させちゃうとかはどうペェ?」

「それも同じだぜペギタン。ほどよく煮え立ったところであの津波がきたら、阿鼻叫喚の熱湯デスマッチになっちまうニャ……」

「ううーーーん、じゃあやっぱりこれか! 雷のエレメント!」

 ヤラネーダたちから大きく距離を取ったスパークルは、稲妻が象られたエレメントボトルをセットしたヒーリングステッキを大きく横なぎに振るった。

 しかし、

 

 パリッ

 

「……ぱりっ?」

 ステッキの先端から放たれたのは、糸くずのような頼りない細く短い雷光だった。

「うぇっ!? ちょっと何これ電池切れ!? こんな電気じゃ髪の毛も逆立たないよ!?」

 ヒーリングステッキをぶんぶんと振りながら再度試みるスパークルだが、杖の先にあるクリスタルは一切光らず、何の反応もない。その様子を見ながら、グレースも恐る恐る試みる。

「まさか……。み、実りのエレメント!」

 

 ぽんっ

 

 グレースのステッキの先からも、光の球が一つ、1メートルほど手前にぽろりと落ちて砂に溶けるように消えていくのみだった。

「一つだけラビ!? 全然実ってないラビ!」

「やっぱり、やる気を奪われてるせいで、エレメントの力がうまく使えないようね……」

 氷のエレメントボトルが生み出した、あおぞら市の日差しに早くも溶けていく氷一片をつまみながら、フォンテーヌも言葉を失う。

「ぷにシールドはボクたちの力を使ってるから出せるみたいだけど、これはかなりマズいペェ……

「となると、わたくしのエレメントの力で何とかするしかありませんね。あのメガビョーゲン相手ではあまり相性は良くなさそうですが……」

 すっかり意気消沈する一同。その時、相談を重ねるグレースたちの傍らでフラッシュが走ったかと思うと、再生を続けるメガビョーゲンに向かって一筋の光線が放たれた。

「メガッ……!?」

 顔面に直撃を受けたメガビョーゲンは顔をしかめてよろける。

「……わたしのビームなら効き目があるようね」

「パパイア!」

「グレース、構成をシャッフルしましょう。わたしがサポートするから、グレースとアースはメガビョーゲンの討伐に残って。その間、フォンテーヌとスパークルはヤラネーダの相手をお願い。それなら5対5になって、人数のバランスもとれる」

「た、たしかに。エレメントの力を使えないのだと、あのメガビョーゲン相手では足手まといになるだけだものね」

「さっすがパパイア、作戦サンボ―だね!」

 パパイアの提案に頷いたフォンテーヌとスパークルは、ヤラネーダたちと対峙するサマーたちの横に並び立った。

 

「改めて、協力体制といきましょう。サマー」

「はいっ! フォンテーヌさん頼りにしてます!」

「フラミンゴパイセン、よろしくお願いしゃっす!」

「パイセンって、プリキュアとしての先輩はお前らだろ……。まあいいや、いくぞ!」

 サマーたち三人とフォンテーヌスパークルは頷き合い、五人そろってヤラネーダたちへと立ち向かう。

「ちっ、少し頭をひねったところで無駄だ。一気に叩き潰せ、ヤラネーダ!」

 チョンギーレの号令に従い、五体のヤラネーダは一斉に飛び掛かってくる。

「合わせるわよ、コーラル!」

「わかりました!」

 深く息を吸い、普段より大きく構えを取ったコーラルは目の前で人差し指をクロスさせる。すると、ひと際大きな×印のバリアが彼女の眼前にでかでかと広がる。

「「ぷにシールド!」」

 その両脇から、フォンテーヌとスパークルが光り輝く円形のシールドを展開する。ひと繋ぎになったシールドとバリアは、飛び掛かってきたヤラネーダたちが繰り出してきた岩雪崩のようなパンチを見事にせき止めた。

「「てぇぇりゃっっ!!」」

 押しとどめられたヤラネーダを、サマーとフラミンゴは両脇から串刺しにするような強烈な飛び蹴りを浴びせる。両端からサンドされるように押しつぶされるヤラネーダたちに、チョンギーレは舌打ちしながら顔をしかめた。

 

「今のうちに……アース、お願い!」

 グレースの言葉に頷くと、アースは元の大きさにまで戻ったメガビョーゲンを睨み、音符の形をしたボトルを取り出す。

「音のエレメント!」

 アースはウィンディハープから放たれる激しい音のうねりをメガビョーゲンに浴びせる。ヤラネーダたちをも吹き飛ばした衝撃波だが、その波動はメガビョーゲンの水面を波立たせその顔をしかめさせはするものの、大した効き目が無いように見える。しかし、アースにとっては織り込み済みだった。

「……よし、エネルギーありったけ充電! いくよ!」

 アースの後ろで、イヤリングを眼前に構えたまま待機していたパパイアは一歩前に躍り出ると、

「やあああああっっ!!」

 声を張り上げながらメガビョーゲンに向けてビームを連射する。

「メッ、メガァッ!?」

 乱れ飛ぶ光は、メガビョーゲンの体のあちらこちらで炸裂し、水しぶきと水蒸気を上げる。これにはさすがのメガビョーゲンも巨大化を止め、悲鳴と共にたじろいだ。

「す、すごい迫力! でも、そんなにビーム撃って大丈夫なのパパイア!?」

「平気、ドライアイになる覚悟はできてるから! それよりグレース、今のうちに!」

 わかった! と頷きながら、グレースはヒーリングステッキを眼前に構え、メガビョーゲンへと狙いを定める。

「キュアスキャン!」

 ラビリンの瞳から走るサーチライトが、うなだれる海のメガビョーゲンの体を走査していく。その様子を横目で見つめながら、おお、とパパイアは感嘆の声を上げる。

「ふむふむ、これが本家本元のキュアスキャン。なるほど、参考になる」

「……本家? 参考? いったい何のことラビ?」

「あ、後で説明するねラビリン。それより、エレメントさんは……!?」

「! いたラビ! メガビョーゲンの左肩ラビ!」

 光が指し示した位置には、頭に貝がらをあしらった、水滴の形をしたエレメントさんが苦しみに耐えていた。

「あの時、南の島で会ったのと同じ、海のエレメントさんだ!」

「そうとわかれば早速、浄化します!」

 ウィンディハープに風のエレメントボトルをセットし、アースはヒーリングハリケーンを放つ。

 ハープから生み出された紫色の光を帯びた二陣の風は渦を成し、砂塵を撒き上げながらメガビョーゲンの左肩に向けて突き進む。

 そして、ただ立ち尽くすだけのメガビョーゲンを直撃し、激しい水しぶきをあげてメガビョーゲンの左肩を貫いた。

 しかし、

「っ!? エレメントさんがいません、一体なぜ……!?」

 ヒーリングハリケーンは確かにメガビョーゲンを貫いたが、その風が導いた先にエレメントさんの姿はない。一息の安堵を浮かべていたグレースとアースの顔は、一転動揺に染まる。

「ど、どうして? もしかして、わたしの診察ミス!?」

「いや、何か様子がおかしいラビ! グレース、もう一回キュアスキャンするラビ!」

 ラビリンの言う通り、キュアグレースは焦る気持ちを抑え、もう一度ヒーリングステッキを眼前に構える。

 まずは、先ほどと同じくメガビョーゲンの左肩の辺りをスキャンする。が、エレメントさんの姿は見えない。事の不可解さに混乱を隠せないグレースだが、冷静にもう一度全身をくまなく探していく。すると、

「あれ!? さっきは確かに左上にいたはずなのに、エレメントさん今は右下にいるよ!?」

 狐につままれたような顔をするグレースとラビリンをあざ笑うかのようにメガビョーゲンは口元を歪めると、おもむろに自分の身体を揺りかごのように左右に揺さぶる。すると、

『あ~~~れ~~~』

 メガビョーゲンの体全体が大きく波立ったかと思うと、体内の水の動きにさらわれるように、エレメントさんはメガビョーゲンの体内で大きく左右に動き回る。

「あいつ、エレメントさんの位置を自由に変えることができるラビ!? 厄介者にも程があるラビ!」

「どうしましょう。あれでは、狙いがつけられません! 一体どうすれば……」

 慌てふためく二人の両肩を叩き、落ち着いて、とパパイアは声をかける。

「冷静になろう、何か他の手立てを考えなきゃ。さっきグレースが提案した通り、フォンテーヌの力でメガビョーゲンを完全に凍らせて波の動きを止めてしまうのが一つだけど、他に何かないかな?」

「あとは、ヒーリングっどアローで少しでもお手当の範囲を大きくして浄化を狙うかだけど……。でも、どちらにせよ、今のわたしたちのやる気パワーじゃ……」

「それなら、やっぱりまずはヤラネーダをなんとかして、グレースたちのやる気を取り戻さないと。……話が堂々巡りになってきちゃったけど……!?」

 三人が頭を悩ませる中、悲鳴と共に上空から五つの人影がこちらへと飛んでくる。

 ヤラネーダに吹っ飛ばされた五人は、そのまま砂浜へと墜落する。頭から突っ込み上半身が砂に埋もれたサマーをグレースは慌てて引っこ抜く。

「さ、サマー! 大丈夫!?」

「うう、まんじゅうつよい……」

 アースも、ダメージを負った他の仲間に声をかける。

「フォンテーヌ、コーラル、大丈夫ですか!?」

「何とかね。あのヤラネーダってやつ、相当手ごわいわ……」

「おまけに、地面もぬるぬるで戦いづらいことこの上ないです……」

 パパイアに手を引かれ砂浜から起き上がったスパークルも、不満の声を上げる。

「ううー、せめてエレメントの力が使えれば距離を取って戦ったりできるのにぃ!」

「そのためにはやる気を取り返さなきゃなんだけど、これじゃあ、スキなんて作れそうもないね」

「ちょっと待てみんな、こうやって集まってると今度は……!」

 フラミンゴが慌てて全員に声をかけるが、少し遅かったようだ。いつの間にか周囲には、プリキュアたち全員を覆うほど大きな影が落ちている。恐る恐る振り返ると、海のメガビョーゲンは見上げればひっくり返りそうな大きさにまで再び巨大化を遂げていた。

「メェガァ、ビョォォォオオ…………」

 絶句するヒマすらなく、メガビョーゲンはまたも津波となって襲い掛かってくる。

「もう、サイアクだよおおおお!」

 スパークルの泣き言すらかき消すように、メガビョーゲンの体当たりという名の津波は無慈悲にプリキュアたちを飲み込む。

 ぷにシールドを張りながら、ただひたすら激流が過ぎ去るのを耐え抜く。向こう側からの水圧が無くなり、恐る恐るぷにシールドを解除すると、もう目に見える範囲の砂浜はほとんど蝕まれてしまっていた。

「このままじゃ、この砂浜も蝕まれたまま元に戻らなくなっちゃうラビ!」

「早く、なんとかしなきゃ……! でも一体どうすれば……」

 焦りの色を隠せないラビリンとグレースの頭上から、乾いた笑い声が響き渡る。

「はっはっは、いい眺めじゃねえかプリキュアども! どうやら俺たちとメガビョーゲンのタッグの方が一枚上手だったみてえだな」

 意気揚々と笑うチョンギーレを、プリキュアたちはただただ悔しそうに見上げることしかできない。

「よし、メガビョーゲン。もう一発あの大津波を派手にぶちかまして、今度こそあいつらを海の藻屑にしてやれ」

 早くも再生を始めるメガビョーゲンの側に舟をつけると、チョンギーレはその大きなハサミでメガビョーゲンのてっぺんの水面をばしゃばしゃと叩き、愉快そうに笑いながら指示する。

 すると、

「メガ、ビョーゲン……」

「ん? なんだお前その目つきは……!?」

 メガビョーゲンは突如その目に怒りの火を灯し、急速に大きくなりながらじりじりとチョンギーレたちへと詰め寄っていく。その気配に圧倒され、チョンギーレたちは顔を青くし舟を引いて後ずさるが、メガビョーゲンはそれ以上のスピードで詰め寄ってくる。

「ちょ、チョンギーレぇ! こいつ、言う事聞くんじゃなかったの!?」

「ほら、やっぱりロクなことにならないじゃない……!」

「ちょっ、ちょっと待てメガビョーゲン、俺が悪かったってオイ!?」

 グレースとサマーたちが呆気に取られ、ヤラネーダたちも成す術なく立ち尽くす中、メガビョーゲンは、グレースたちではなくチョンギーレたちに牙を剥いた。チョンギーレたちは舟で飛んで逃げる間もなく、一瞬にしてメガビョーゲンの繰り出した津波に飲み込まれる。

 三たび打ち付けた大波が砂浜に轟音を響かせる。どす黒い水しぶきをグレースたちとコーラルはシールドとバリアで防ぎ、その波が引くのを待つ。するとそこには、瘴気にまみれた砂の上に墜落した三艘の舟と、ビョーゲンズの病魔に蝕まれぐったりと横たわるチョンギーレたちがいた。

「うわあああん、何よこれぇぇぇ! 体がだるい、しんどい、具合悪いぃぃぃ!」

「急にひどい風邪にかかったみたい……こんな症状、見たことも聞いたことも無いわ……」

「く、くそぉ、アイツ、こんなとんでもねぇヤツだったのか……」

 突如病に伏せる指揮官たちに、ヤラネーダたちもただただ右往左往するばかりだ。そんな彼らを見ながら、やっぱりね、とフォンテーヌはつぶやく。

「メガビョーゲンがビョーゲンズ以外の言うことを聞くわけがなかった、ということね」

「ビョーゲンズは、地球の生き物全てを蝕むことが第一目標。あとまわしの魔女がどういう人たちだろうと、ヤツらにとってはそんなこと関係ないペェ」

「で、でも、どうしましょう? さすがにかわいそうじゃ……」

 おろおろするコーラルに対し、フラミンゴは腕を組み素っ気なく返す。

「ほっとけ、コーラル。得体の知れないものの力に頼って自滅したのはあいつらだ、自業自得だろ。……ん?」

 そんな彼女の傍らから一つの人影が、地面を蹴ってチョンギーレの元へと飛び立った。

「お、お前……!」

 自分の脚のうち一本を掴み持ち上げようとするキュアグレースに、チョンギーレは目を丸くした。

「うう、一人じゃ持ち上げづらい……。みんな、手伝って!」

 声を張り上げ仲間を呼ぶグレースに、サマーはにかっと笑うと、コーラル、パパイアとともにチョンギーレの元へと跳躍する。続いて、フォンテーヌとスパークルも、それぞれヌメリーとエルダの元へと降り立つと、ぐったりと横たわる二人の体を抱え上げた。

「ヌメリーさん、だったかしら。失礼するわね」

「あ、貴方達……」

「はーい、ちょっと大人しくしててね。うわ、小っちゃくってかわいー!」

「ち、ちっちゃいは余計でしょぉ……」

 そして、チョンギーレを取り囲んだ四人は、彼の四本の脚を持ち抱え上げると「せーの!」で再び同時に跳躍し、その大きな体を砂浜から離れた位置にある、まだ蝕まれていないヤシ並木の元へと運んだ。同じ場所に退避していたローラは慌ててヤシの木の陰に隠れる。

「蝕みの中にいるよりはマシだと思うから、しばらくここで待っていてね」

「……プリキュアさんたちよ、どういうつもりだ」

 優しく声をかけたグレースに、青い顔をしつつも敵意を潜めぬ声でチョンギーレは尋ねる。すると、ローラもヤシの木の陰からひょっこり顔を出し、同じく呆れ顔でグレースに物申す。

「不本意ながら、わたしもそいつと全く同意見よ。グレース、あなたねぇ……」

「……ごめんね、ローラちゃん。この人たちが、ローラちゃんの故郷にひどいことをしたのはわかってる。でも、わたしたちは地球のお医者さんだから……ビョーゲンズの病に苦しんでいる人は、誰であろうと放っておけないの」

 遅れてアースと共にやってきたフラミンゴも、後ろ髪を掻きながら呆れた声でぼやく。

「まったく、いくらなんでもお人よしすぎるだろ」

「ふふ、それがグレースなんですよ、フラミンゴ」

 アースの言葉に、ふっと苦笑するフラミンゴ。一方、ローラは依然納得のいかない顔のままだ。そんな彼女の傍らに寄り添いながら、サマーはローラに告げる。

「ローラ。グランオーシャンのことがあるから、ローラがわたしたちほど簡単に割り切れないのはわかってる。かく言うわたしも、やる気奪われちゃったこと、あるしね……。でも、あとまわしの魔女さんたちがやってる悪いことは、それはそれでわたしたちが、ちゃんとわたしたち自身で怒らないといけないことだもん! ね?」

 コーラルも、憮然とした様子のフラミンゴの顔を覗き込むようにして微笑む。

「フラミンゴも、放っておけばいいだなんて、本心からは思ってないですもんね?」

 二人ににこにこ顔で迫られたローラとフラミンゴは、頬を赤らめ叫ぶ。

「わ、わかってるわよ、いちいち言わないで!」

「わ、わかってるよ! いちいち言わなくても!」

 チョンギーレはそんな彼女たちを、信じられないものを見る目で見つめていた。すると、そんな彼の後ろから、ぼそっとか細い声が響く。

「……緑色」

 チョンギーレが振り返ると、青い顔をしたエルダが半泣きの表情で叫んだ。

「やる気パワーを持ってるのは緑色のヤラネーダだよ!」

「お、おいエルダ……」

「だってエルダ、こんなに病気でしんどいのヤだもん! やる気パワーとかもうどうでもいいから、さっさとあのメガビョーゲンっての倒して何とかしてほしい!」

「お、お前なあ、またとないチャンスだってのに……」

 駄々っ子のようにごねるエルダを抱き上げながら、ヌメリーもチョンギーレをたしなめるように言う。

「チョンギーレ、私もエルダちゃんに賛成よ。残念だけど、今回ばかりは手を借りる相手を間違えたわね……」

「……ちっ。だからって、わざと負けるように指示したりなんかしないからな!」

 すると、グレースとサマーは十分だとばかりに頷き、五体のヤラネーダへと向き直った。

「よし! そうとわかれば、あの緑色のヤラネーダからグレースたちのやる気を取り返そう!」

 サマーの号令に、一同は力強く頷いた。

 視界の端に、再び海水を吸収し再生を始めるメガビョーゲンが見えたが、まずは後回しだ。八人はヤラネーダたちへと向かって一直線に駆け出した。

 チョンギーレたちとの会話を聞いていたのか、緑ヤラネーダが狙われていると気づいたヤラネーダたちは、プリキュアたちの進路を塞ぐように他四体が前へと並び立つ。

「四人でいきましょう!」

 コーラルが声をかけると、グレース、フォンテーヌ、スパークルの三人は頷き、駆ける足を早めて先行する。同時に四人は、ヤラネーダたちと接触する直前にぷにシ―ルドと×バリアを展開し、迎え撃つヤラネーダたちにそれぞれの光の障壁ごと激突する。

「こんのおおおお!!」

 瘴気でぬかるんだ砂浜に両足を突き立てるようにして無理やり踏ん張り、シールドを挟んで押し合う四人と四体。コーラルとグレースたちは力を振り絞り、四体が織りなす壁を押し込み、力づくで隙間をこじ開ける。

「風のエレメント!」

 そんな彼女たちの後ろから、アースが放つ強風が吹き荒れる。その風に乗って、サマーとフラミンゴの二人が飛び立った。

 風の勢いをつけて加速度をつけた二人は、四人がこじ開けたヤラネーダたちの隙間から緑ヤラネーダへと一直線に飛び掛かる。真正面から無防備に突っ込んでくる二人を迎撃せんと、緑ヤラネーダは大きな構えで待ち受ける。しかし、

「ヤラネダッ!?」

 二人を追い抜いて飛来し顔面で炸裂したビームに、緑ヤラネーダは顔をしかめる。アースの正面で立膝を突いて構えた、パパイアによる狙撃だった。

「ナイスアシスト! そおおおっりゃっ!!」

 フラミンゴの渾身の右ストレートが緑ヤラネーダの顔面へとめり込む。重い音を響かせクリーンヒットしたはずだが、それでも緑ヤラネーダは膝を崩さない。

 しかしその隙に、サマーは風の勢いを味方につけて緑ヤラネーダの背後へと着地し、ふらつく緑ヤラネーダの片足を掴んで強引に引き倒す。ふんと鼻息をひとつ吹くと、サマーは自分の体を軸にして緑ヤラネーダの巨体を大きくスイングする。

「いくよローラ! でええええぇぇぇぇりゃっっ!!」

 回転の勢いそのままに空高く放り投げられた緑ヤラネーダの体は、戦いを見守っていたローラとチョンギーレたちのすぐ近くに墜落する。オーライ! と叫びヤシの木の陰から飛び出してきたローラは、その美しいウェーブのかかった髪を掻き分けアクアポットを取り出す。

「マーメイドアクアポット、サーチ!」

 ガラス窓に緑ヤラネーダの全身を写したアクアポットは、その身に捕えられたやる気パワーの位置を調べ上げていく。するとアクアポットは、緑ヤラネーダの胴体の中心にピンク、青、黄色の三色が織りなす渦を捉えた。

「やる気カラーは……、トリコロール! やる気パワー、カムバーック!!」

 ローラがアクアポットを高く掲げた瞬間、緑ヤラネーダに囚われていたグレースたちのやる気パワーが解放され、堰を切ったように溢れだす。

「ヒーリングっどプリキュアのみんな、受け取って!」

 アクアポットが吸収した光を、ローラは続けざまにグレースたちへ向けて放った。

 アクアポットを揺るがすほどの勢いで放たれた三色の螺旋を描く光の奔流は、ヤラネーダたちと組み合っていた三人へと注がれる。その余波に、ヤラネーダたちも思わずたじろぎ身を引いた。

 自分たちを包むオーロラのような温かい光の中で、グレースたちは胸の中から、指の先に至るまで、熱い覇気が満ち満ちていくのを感じる。

 

「これは……スパークルたちのやる気パワーかニャ!?」

「すごい、やる気と一緒にエレメントの力がステッキにどんどん流れてくるペェ!」

「グレース、これならいけるラビ!」

「うん……! 力が……溢れる!!」

 

 ひと際大きな閃光が走ると、辺りを照らしていたやる気パワーの光は全て三人の中に収まった。

 戻った力を確かめるように、白い手袋に包まれた右手をぎゅっと握りしめたグレースは、フォンテーヌ、スパークルとともに力強くうなずき合う。

「スパークルはまず、メガビョーゲンの方をお願い!」

 オッケー! と親指を立て、スパークルは稲妻を象ったエレメントボトルをヒーリングステッキにセットしながらメガビョーゲンの方へと駆ける。メガビョーゲンはすでに、元の大きさの二倍ほどまで再生と成長を遂げていた。

「スパークル、ぶちかましてやれニャ!」

「りょーかい、ニャトラン! 雷のエレメント!」

 煌々と輝きを放つステッキを振りかざすと、岩を引き裂いたような轟音を響かせながら迸る雷光が、一直線にメガビョーゲンへと襲い掛かる。

「メメメッガガガガッ!?」

 メガビョーゲンの体中を駆け巡る激しい電流はネオンのように輝きを放ち、至る所で突沸を引き起こす。メガビョーゲンは体中から湯気を立ち上ぼらせ、成長を止めて沈黙した。

「うわーちょっと、自分でもヒくくらいめっちゃすごい雷出ちゃったんだけど!?」

「やる気パワーが振り切れちゃってるからニャ! スパークルから伝わってくるエレメントパワーもびんびんだぜ!」

 一方フォンテーヌは、サマーたちと取っ組み合いを続ける、残る四体のヤラネーダを見据える。

「ボクたちはサマーたちのサポートをするペェ!」

 ペギタンの言葉に頷くと、フォンテーヌは傘の描かれた水色のエレメントボトルを装着したヒーリングステッキで、上空へと狙いを定める。

「雨のエレメント!」

 ステッキから放たれた青い光は、あおぞら市の空に吸い込まれるように消える。すると一拍遅れて、雲一つない青空からどこからともなく夕立のような土砂降りの雨が降り注ぐ。その雨は、砂浜一帯を覆っていた瘴気を波打ち際まで押し流していく。

 雨水で垂れる前髪をかき上げ、頬に雫を滴らせながらサマーは大きく笑った。

「よーし、これなら思いっきり戦えるよ!」

 濡れた砂浜をぎゅっと踏みしめ、活気を取り戻したサマーたちは再度ヤラネーダに向かって駆けだした。その様子を見ながら、ラビリンとグレースは再びメガビョーゲンへと向き直る。

「あとは、あの厄介なメガビョーゲンを何とかしてお手当てしないといけないラビ!」

「それならわたしに考えがあるの。いくよ、ラビリン!」

 グレースは四つ葉を象ったエレメントボトルをセットすると、まだ痺れて身動きの取れないメガビョーゲンに狙いを定める。

「葉っぱのエレメント!」

 ヒーリングステッキの先端から、眩い翠緑の光がメガビョーゲンに向かって放たれ、メガビョーゲンの液状の体のど真ん中に吸い込まれるように命中する。瞬間、その光はぐにゃりとしなり、植物のツタへとその姿を変える。そして、水草のようにメガビョーゲンの体中にびっしりと蔓延った。

「メ、メガァ………ッ?」

 光のツタの先端が、メガビョーゲンの頭のてっぺんからひょっこりと顔を出したかと思うと、傘のような大ぶりの葉を茂らせながらぐんぐんと天に向かって伸びていく。その成長に反比例するように、メガビョーゲンの身体は徐々に萎んでいく。

「何あれ、ジャックと豆の木!?」

「なるほど、メガビョーゲンの水分を吸い取っているのですね……!」

 スパークルとアースが驚嘆する中、グレースはヒーリングステッキのボトルを素早い手つきで交換する。

「ラビリン、まだいけるよね!」

「もちろんラビ! やる気全開、オールオッケーラビ!」

「フォンテーヌ、スパークル、アース! みんなのエレメントの力も貸して!」

 グレースの掛け声に頷くと、三人はグレースの背後に並び立ち、彼女の背中に手をかざす。

「実りのエレメント!」

 グレースが空に向けて光を放つのと同時に、ラビリンはぷにシールドを空に向けて四つ撃ち放つ。

「ラビラビラビラビッ! ド根性の、そのまたさらに上のぉ……、超ド根性ラビっっ!!」

 ステッキから放たれた光は飴細工のように形を変え、ぷにシールドを核にしてぐるぐると幾重にも巻きつき、形を結んでいく。三人の力も乗せた四色のエレメントは、いつの間にか四つの果実の形を成し、浜辺の空へと浮かび上がった。

「完成! 実りのエレメントボール、トロピカルバージョンラビ! ピーチ、ベリー、パイン、パッションの四つをご用意したラビ!」

「……果物の形なのはまあいいとして、ニャんでこの四つなんだ?」

「きっと、神のおぼし召しペェ」

 ヤラネーダとの取っ組み合いを続けていたサマーも、突如頭上に現れた光の果実に気づき目を輝かせる。

「うわー、何あれー! すっごくトロピカってるー!」

「トロピカル~ジュプリキュアのみんな! わたしたちがトスを上げるから、受け取って!」

 やがてゆっくりと空から落ちてくるエレメントボールを、グレースたち四人はオーバーハンドレシーブの形で受け止め、サマーたちの方へと大きくトスを放つ。

「えっ、あのっ、わたしバレーボールってやったことないんですけど!?」

「右に同じく」

「そんなもん、適当でいいんだよ! さんざん苦戦させられた分の恨み、叩きつけてやれ!」

 サマーたちとヤラネーダたちに挟まれた上空へと飛んできたエレメントボールに向かってサマーたちは大きく跳躍し、ありったけの力を込めて叩きつけた。

「アターーーッックッ!!」

 四人の強烈なスパイクを受け、隕石のような勢いで飛んでくる四つの果実を、ヤラネーダはそれぞれ受け止めんとアンダーハンドレシーブの構えを取る。が、サマーたちのやる気パワーを上乗せしたエレメントボールは、レシーブした瞬間七色の光をスパークさせ、ヤラネーダたちの姿を掻き消すほどの勢いで炸裂する。

 その威力に耐え切れず、四体のヤラネーダは吹っ飛び、やる気パワーを取り返されてノビている緑ヤラネーダと頭を並べるように墜落した。

「……! おまんじゅうに、フルーツをぶち込む。なるほど、これは……」

「? どうしたの、パパイア?」

 首をかしげるコーラルに、なんでもないのと首を振るパパイア。

 一方、葉っぱのエレメントから生み出された光のツタはメガビョーゲンの水分を吸いつくし、その身に蓄え浄化した水分と共に光の霧となって大気に散り、見上げるほど大きな虹を描いた。

「メ、メガァ……ビョー……」

 後に残ったメガビョーゲンは、数メートルほどの太さの細い水の柱と化していた。

「よっしゃあ! あの大きさならヒーリングっどアローでまるごとぶち抜きゃ、エレメントさんがどこにいようが救い出せるぜ!」

「決めるよ、みんな! ヒーリングっどアロー!」

 グレースたちが空に向かって手をかざすと、中心にシリンダーを備えた、しなやかな流線を描く弓が光と共に召喚される。

 ヒーリングアニマルたちの力も束ね、上昇するヒーリングゲージの高鳴りとともにその弓の輝きは増していく。それに呼応するように、彼女たちの身体を包む白衣は豪奢に、煌びやかにその姿を変える。

「アメイジングお手当て、準備OK!」

 宙に浮かびヒーリングっどアローを構える四人の姿に、サマーは目を輝かせる。

「すごいすごい! 羽まで生えて、まるで天使みたい! アメイジングにトロピカってるよー!」

 グレースたちは照れくさそうに笑うと、メガビョーゲンを浄化すべく空高くへと舞い上がった。

「よーし、こっちも負けてらんない! いくよみんな、ハートカルテットリング!」

 四人はピンクのリボンがあしらわれた指輪をハートルージュロッドに嵌め、生み出されたそれぞれのやる気カラーのハートを束ね合わせる。

 生まれ出でたやる気パワーの塊に、サマーがさらに己が覇気をこれでもかとばかりに吹き込むと、膨張したやる気パワーが命を得たかのように、巨大な鳥へと姿を変えた。

 一方、空に舞い上がったグレースたちはヒーリングっどアローのシリンダーを引き、臨界まで高まったエレメントの力を解き放つ。

 

「「「「プリキュア! ファイナルヒーリングっどシャワー!!」」」」

「「「「プリキュア! ミックストロピカル!!」」」」

 

 四つの弓から放たれたエレメントの光の激流はメガビョーゲンの身体を丸ごと押し流し、四重の螺旋を描く矢はその中に捕らわれた海のエレメントさんを引き連れ、瘴気の海から解放する。そして、やる気の熱風に乗り大きく羽ばたいた鳥は五体のヤラネーダを丸飲みにし、その身に渦巻く覇気の奔流の中で彼らの体を光の塵へと変えた。

 

「「「「おだいじに!」」」」

「「「「ビクトリー!」」」」

 

 エレメントとやる気パワーの光が辺りを満たす中、プリキュアたちの勝利の叫びが響き渡る。

 メガビョーゲンが浄化されたことにより、波打ち際にヘドロのように溜まっていた瘴気は跡形も無く姿を消した。

 美しい景色を取り戻した海岸に、サマーは目を潤ませ、歓喜と共に叫ぶ。

「やった、勝ったー! グレースたちのやる気も完全復活だし、大・大・大勝利だね!」

「うん、サマーたちのおかげだよ。本当にありがとう!」

 握手と笑顔を交わし合うサマーとグレース。他のプリキュアたちもめいめいに健闘をたたえ合う。

 すると、宙に浮かぶ三艘の舟が、勝利の余韻に浸るプリキュアたちの元へとやってきた。

 その上に立つ舟の主たちに、グレースは笑顔で手を振った。

「よかった、治ったんだね!」

 笑みを浮かべ快気を祝福するグレースに、チョンギーレはたじろぎつつ、

「……ふん、うまい具合にメガビョーゲンだけ倒されりゃと思ったが、そんな都合よく行くわけねぇか」

 するとヌメリーはそんなチョンギーレの背中をばしっと叩いた。

「もうっ、こんな時くらい憎まれ口叩くのやめなさいよ。悪いわね、この人素直じゃないから」

 そんな二人の前に躍り出て、エルダは尻尾をぴょこぴょこと揺らしながらこちらに笑顔を振りまく。

「ありがとうね、プリキュアさん! エルダ、すっかり元気になっちゃった!」

 そんな彼女に、ローラとフラミンゴは冷ややかながらもどこか誇らしげに返す。

「……何よ、案外殊勝じゃないの」

「ま、礼を言われて悪い気はしないけどな。これに懲りたら……」

 するとエルダは一転、目を細めて二人を睨め付けながら低い声で言い返す。

「はぁ? なに言ってんの? エルダがお礼を言ったのはアンタたちじゃなくて、そっちのお医者さんのプリキュアさんの方よ!」

「「……は? はああああぁぁ!?」」

 目を吊り上げて怒りの声を上げる二人に、ふん、とそっぽを向きながらエルダはさらに言い返す。

「だってそうでしょ? あのメガビョーゲンを倒してくれたのはあなたたちじゃないもん。それに、そこの赤いあなた!」

「えっ、わ、わたしか?」

「あなたさっき、エルダたちのことジゴージトクとか言ってたじゃない。ちゃーんと聞いてたんだから!」

「なっ……! そもそも、その恩人であるグレースたちからやる気パワー奪ってたのはどこの誰だよ!?」

「それはチョンギーレがやったことだしー、エルダ知らないもーん」

「ちょっとグレース! あんなこと言ってるヤツら、本当に助けてよかったと思ってる!?」

「あはは……いやーあの、ノーコメントで……」

 三人の口喧嘩を傍らで聞いていたヌメリーは、ついにたまらず吹き出した。

「ぷっ、くく……、た、たしかにエルダちゃんの言うとおりだわ。敵に感謝してたら、これからやる気パワーを奪いにくくなっちゃうものねぇ。というわけで、そちらのお医者さんのプリキュアさんたち、改めてありがとう。同じ医者として礼を言うわ。で、いつものプリキュアさんたちの方は……、……また、やる気パワーを奪いに来た時にでも会いましょう。それじゃ~」

「「二 度 と 来 る な っ!!」」

 飛び去っていく舟に向かって吠えるローラとフラミンゴに苦笑しながら、サマーとグレースたちは変身を解除した。

「えっとー、まあ色々あったけど……、とにかく終わったね!」

「ううん、まだ少しやることが残ってるの」

 首をかしげるまなつの元に、ラテをその腕に抱いたアスミがやってくる。ラテはまだぐったりとして、額のクリスタルも濁ったままだ。

 波打ち際へと歩み寄ると、沖の方からふわりと小さな妖精が飛んでくる。先ほどメガビョーゲンの魔の手から救い出した、海のエレメントさんだ。

 カバンから聴診器を取り出し、海のエレメントさんの声を聴こうとするのどか。しかし、ふと思い立ち、手にした聴診器をまなつへと渡した。

「え? のどかさん、これ……」

「海のエレメントさんの言葉なら、まなつちゃんに聞いてもらった方がいいかなと思って」

 のどかに言われるまま、まなつは聴診器を耳に当て、先端のチェストピースをそっと海のエレメントさんに向けた。

『プリキュアの皆さん、助けていただきありがとうございました!』

「あ、あの、海のエレメントさん! ラテちゃんがまだ元気が無いんだけど……」

『大丈夫です! 私の力を分けて差し上げます』

 海のエレメントさんの体が優しく光ったかと思うと、その光はラテの元へと届き、額のクリスタルを浄化していく。

「わふー!」

 元気を取り戻したラテは、アスミの胸元から飛びあがり喜びの声を上げる。

 すると、その声につられてか、ローラの手にしたアクアポットからハート型の耳を覗かせたかと思うと、くるるんは勢いよく飛び出してラテの元へと着地する。

「くるるん!」

「わん!」

 笑顔でじゃれ合う二匹の様子を、一同は顔を緩ませて眺める。

「ふわぁ、かわいい~! 水族館じゃちゃんとお話しできなかったもんね。くるるんちゃん、抱っこしていい?」

「くるるん~」

 自らぴょんと胸元へ飛び込んできたくるるんを、のどかはうっとりとした表情で愛おしそうに抱く。

「やけに懐いてるじゃないの、くるるん……。まあいいわ、ラテ、あなたもこっちに来る?」

 ラテも、ローラに誘われるまま、その腕の中に収まる。その小さな体を抱きあげ、よしよしと頭を撫でながら、ローラも表情をほころばせる。

「あなたもかわいいわね~。ねえ、この子も、ヒーリングガーデンの女王様のペットか何かなの?」

 ローラの放った一言に、一同、とくにアスミはびしっと固まった。

「ろ、ローラちゃん、ラテは女王テアティーヌさんの娘、ヒーリングガーデンの王女様その人だよ……っ」

「……えっ、お、おうじょ……?」

 ローラは胸元のラテを見ると、わん! とラテはぱたぱたと誇らしげにしっぽを振りながら吠える。一方、ちゆは表情をこわばらせたままのアスミにそっと尋ねる。

「あ、アスミ、怒ってる?」

「……いいえ、まったく怒っていませんとも」

「目が笑ってないんだよアスミン……。あれ、でもラテって、のどかっち家ではペットとして飼われてたんじゃ」

「ひなたちゃんお口チャック」

 一方あすかは、「王女……正式な……」などと呟きながら固まるローラからラテをひょいと取り上げると、その頭を撫でながら意地悪気に笑う。

「なるほど、ラテは次期女王候補とただ名乗ってるだけの、どこぞの人魚とは格が違うってことだな」

「あ、あすか先輩、追い打ちかけないであげてください……っ」

「は、はぁ!? 誰が名乗ってるだけで非公認の口だけビッグマウス人魚ですって!?」

「いや、そこまで言ってないが……」

 わいわいと騒ぐ一同を嬉しそうに眺めながら、まなつはもう一度聴診器を海のエレメントさんに当てる。

「海のエレメントさん、ありがとうね! それにしても、海にこんなかわいい精霊さんがいるだなんて知らなかった!」

『ふふ、元気なお嬢さん、私はずっと前からあなたのことを知っていましたよ』

「……へ? わたしを?」

 はい、と笑顔で頷きながら海のエレメントさんは続ける。

『南乃島で、お父さんと楽しくスクーバをされているのをよく見かけていました。お父さん、お母さんと一緒に、この海を心から愛してくれていることも。それに……そちらの人魚のお嬢さんも』

「……え? わたしも?」

 頭を抱えていたローラは、まなつの顔に耳を寄せ、海のエレメントさんの声に耳を傾ける。

『グランオーシャンのことは存じております。その復興のためにあなたが精一杯頑張っていることも。私たちには見守ることしかできませんが……、陰ながら応援しています!』

 海のエレメントさんはそう告げると、手を振りながら広い海へと帰っていった。

「えへへ、海のエレメントさんに見守られていただなんて、何だか嬉しい! やる気がすっごくみなぎってきちゃった! ……って、あれ? ローラどうしたの?」

 満足げに手を振り返すまなつの傍らでふるふると震えていたローラは、にやりと口先を大きく歪めたかと思うと、堰を切ったように高笑いを始める。

「わーはっはっは! こんな栄誉なことは無いわ! この広い海の精霊たるエレメントさんに認められたってことは、次期女王として認められたも同然ってことよね!?」

「えぇ? あー、うん、そうなんじゃない?」

「いや、まなつ、そこは絶対適当に返事しちゃいけないところだよ……」

 呆れるさんごを他所に、ローラは髪をかき上げ、しなを作りながら、仰々しくのどかたちに告げる。

「ヒーリングっどプリキュアの皆さん、あなたたちを私のてご……仲間にできなかったことは残念だったけど、今回は諦めてあげてもよろしくってよ」

「いや、まだ諦めてなかったことにびっくりだよ……」

「思えば、この修学旅行のごたごたはローラに出会ったことから始まったのよね……」

 呆れるのどかとちゆの傍らで、ふとスマホの画面を見たひなたはぎょっとして声を上げる。

「って! そうだよ旅行旅行! お手当てしてる間に自由行動の時間が~! 今ここがあおぞら市のどの辺なのかもわっかんないしー!」

 慌てふためく三人に、何かを閃いたまなつは手を挙げて提案する。

「それじゃあ、わたしたちがのどかさんたちにあおぞら市を案内してあげるっていうのはどうかな!?」

「あっ、それいいかも。昨日も今日も戦ってばっかりで、全然一緒にお話ししたり遊んだりできてないもんね」

 まなつのアイデアにさんごもうんうんで同意する。のどかたちも笑顔を浮かべ、

「それじゃあ、お言葉に甘えちゃおっか?」

「絶対それがいいよ! あたし、地元の人しか知らないおすすめスポットとかめっちゃ行ってみたい~!」

「それに、行きたいお店があるなら、土地勘のあるわたしたちならすぐに案内できるしな」

 そんなあすかの一言にちゆはぴくりと反応し、おずおずと手を挙げる。

「あ、あの! わ、わたし、あおぞら市に来たらどうしてもやりたかったことがあって……」

「? どうしたのちゆちゃん、急に改まって」

 うう、と少し恥じ入りながら、ちゆはぼそっと告げる。

「……と、トロピカルメロンパンというものを、一度食べてみたいの……」

 そんなちゆの告白に、のどかとひなたは思わず笑ってしまう。

「だ、だって、あおぞら市の名物だっていうし、それに、マンゴー味なのよ!?」

「もー、そんな改まって言うことじゃないよー。それくらい付き合うって! ちゆちーはかわいいなあ」

 そんなひなたの何気ない一言に、さんごははっと何かに気付く。

「ちゆさんは、かっこいいのにかわいい……。……そうだ! みなさんちょっとだけ待ってもらえますか? すぐに終わりますから! あすか先輩、ちょっとこっちに来てください!」

「えっ、どうしたんださんご、急に……」

 少し屈んで頭をこちらに向けるよう指示するさんごに、とまどいながらも言われたとおりにするあすか。さんごは、そんなあすかの髪を手持ちのブラシで梳かしながら、自分のおさげを留めているリボンを片方外した。

 そんな中、

「……みのり? 何ですかお話とは?」

 みのりはアスミのドレスの裾を引っ張り、その耳元にこそこそと何かを告げている。

 ふんふんとそれに聞き入っていたアスミは、やがて顔をぱあっと輝かせ、みのりの手を取り、

「まあ! それは素晴らしいアイデアです! ヒーリングガーデンに帰るまでに必ず、店長さんにお伝えしますね!」

 満面の笑みで感謝を伝えるアスミに、みのりは親指を立て頷く。

「アスミちゃん、何を教えてもらったの?」

「ふふ、ナイショです。きっと、後でのどかにもわかります」

 そうこうしているうちに、さんごのヘアセットが完了したようだ。

「肩のところで少しふくらみを持たせるようにして……。あ、ローラ、鏡貸してくれない? ……はい、あすか先輩、これでどうですか?」

 ローラから受け取ったオーシャンプリズムミラーで自分の髪型を見たあすかは、おお、と思わず驚きの声を上げる。

 あすかの赤みがかったロングヘアの先をピンクのリボンでゆったりと束ね、左肩から前へと流した髪型だ。

「これ、いいかもしれないな。昨日のメイクにもぴったり合いそうだ」

「ルーズサイドテール……っていうのかな? ちゆさんの髪型を参考にしてみました!」

「すごーい! 清楚でおしとやかっぽくて、まるであすか先輩じゃないみたい!」

「……そろそろお前とは一度膝を突き合わせて話す必要があるようだな、まなつ。でもさんご、このリボンもらっちゃっていいのか?」

「はい、他にもいっぱい持ってますから! それに今は……、ほら、これでお揃い!」

 さんごはもう一つのおさげも解き、後ろ髪をリボンで一つに束ねて肩から前に流して見せた。あすかはそんなさんごをしばらく見つめた後ぷっと吹き出し、さんごと共に笑い合った。

「よーし、なんだか耳寄りな情報も入って髪型も決まったところで、そろそろ行きましょうか!」

「そうだね。よろしく、まなつちゃん! なんだかわたし、やる気が溢れちゃってうずうずが止まらないの! 早く行こう、みんな! それに、ラビリンやアスミちゃんも!」

「! ラビリンたちも、ついて行っていいラビ?」

「もちろんだよ! ラビリンたちと修学旅行に行けるなんて思ってなかったけど……禍い転じて福と為す、かな?」

「まあ、それならわたくしも制服を着て生徒のフリをした方がよいでしょうか。なんならメガネもかけたりして……」

「いやアスミン、自由行動だし、さんごちんたちもいるんだから変装する必要はないんだよ……」

 そうですか、と少しがっかりするアスミに、どっと笑いが巻き起こる。

 

「よーし! それじゃあ今日のトロピカる部の活動内容は、みんな揃ってあおぞら市の名所巡りだー!!」

 

 おー! と砂浜を駈け、少女たちはあおぞら市の街並みへと飛び込んでいく。

 その背中を、晴れ渡る空に浮かぶ太陽の日差しが優しく照らしていた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 それからしばらく経って。

 

「おっつかれさまでーす! さあさあさあ、今日の部活はいったい何をしましょー?」

 まなつは、あおぞら中学校の屋上に佇む『トロピカる部』の部室に入ってくるなり大声であいさつをした。彼女とは対照的な落ち着いた声量で「こんにちわ」と会釈しながら、さんごもまなつの後に続く。

 まなつがカバンからアクアポットを取り出すと、さらにその中からローラがにゅっと顔を出し、そのまま部室のイスへとどっかり座る。

 まなつは大きな足取りで部室の奥の黒板へと向かい、『トロピカるリスト』をまじまじと見つめる。

「今日は何やろっかなー。ローラ、何か提案あるー?」

「特にないわよ。水族館のプールにでも行きたいわ」

「……それじゃあ、まずはわたしの戦果報告をさせてもらおうか」

 すると、遅れてやってきたあすかが、部室のドアに佇んだまま、不敵な笑みを浮かべて宣言した。

「あっ、あすか先輩。昨日の『なかよしウサウサ村』のイベント、どうでした? ……いえ、もう、お肌がツヤツヤだから聞くまでも無いかもしれませんけど」

「昨日はありがとうな、さんご。朝からメイクまでしてもらって。ご察しの通り、大、大、大満足のイベントだった……」

 恍惚とした表情で天井を見上げるあすかに、まなつとさんごも満足げに笑う。

「しかし、なんだな。いざ行ってみると、わたしより年上の女の人やスーツ姿の男の人なんかもいてびっくりしたよ。でもみんな、イベントを楽しむために全力で、心から楽しそうで……会場から浮かないように、なんて小さなことを考えていた自分がなんだかバカらしくなったよ」

 しみじみと語るあすかに、ふーんとローラは頬杖を突きながら、

「なんか、予定調和って感じのオチね。だいたい、周りの人間は思ってるほど自分のことなんて見てないわよ、ちょっと自意識過剰なんじゃなっ!?」

「でもっ思い切りイベントをっ楽しめたのはっみんなの協力のっおかげだよっありがとう、なっっ!」

「んぎゃああああっ!? 次期女王公認候補様に向かってアイアンクローとはいい度胸してるじゃないのおおおっ!?」

 ローラのタップも無視して頭を鷲掴みにし続けるあすかを、まあまあとなだめるさんご。

「あすか先輩のお役に立ててよかったです。またメイクが必要な時は言ってくださいね!」

「ああ、そうさせてもらうよ。本当にありがとうな、さんご」

 微笑み合う二人の様子を見て満足げに笑ったまなつは、そうだ、と傍らから紙袋を取り出す。

「そう言えば、のどかさんたちから贈り物が届いたんだよ! ほら!」

 あすかも席につき、まなつが取り出した曲げわっぱのような丸い容器に入ったお菓子に注目する。その蓋のパッケージには、砂浜とヤシの木、そして青空に輝く海の絵が描かれていた。

 まなつが開けた箱の中には、六個のまんまるとした饅頭が並んでいた。鮮やかな色をしたその表面には、にっこりとした笑顔が描かれており、その額には大きく「と」の字が入っていた。

「その名も『とろぴかるすこやかまんじゅう』! 白はプレーンだけど、ピンクはピーチ、紫はブルーベリー、黄色はパイナップル、赤はパッションフルーツのフレーバーが生地に練り込んである新商品! 売れ行きも絶好調で、店長さんも大喜びだって!」

「あ、もしかして、みのりん先輩がアスミさんに伝えていたのって、これ?」

 さんごの質問にこくりと頷くと、すごーい! と一同はさらに沸き立った。

「ふーん、みのりにしてはなかなかいいアイデアじゃないの。ねぇねぇ、早速食べない?」

「そうだな。六個入りだから、一つは後で桜川先生のところに持っていこうか」

「そうだね! わたしはどれにしようかな~」

 全員が箱を覗き込み、どの味を食べるかでわいわいと盛り上がる。

 するとまなつは、その中から橙色の饅頭を選んで取り出し、

「はい。みのりん先輩には、これ!」

 と、みのりの前へと差し出した。

 なぜこれを、と疑問符を浮かべていると、まなつは白い歯を見せて笑った。

「残る一つは、パパイア味! 最後のフレーバーを決めるときに、アスミさんがどうしても、って店長さんにお願いしてくれたんだって!」

 部員全員が笑顔で見つめる中、きょとんとした顔のまま、透明の包装に包まれた、橙色のすこやかまんじゅうを受け取った。

 

 こちらを満面の笑みで見つめるすこやかまんじゅうに、わたしこと、一ノ瀬みのりも、思わずふっと微笑んだのだった。

 

 

 

 ヒープリ×トロプリ トロピカル・アメイジング! おわり




第4話(最終話)をお読みいただきありがとうございます。

最終話は少し長くなってしまいましたが、その分ヒープリとトロプリのクロスオーバーでやりたかったこと、見せたかったことは全てつぎ込めたと思います。
本当に全部書き尽くしたので、その分このあとがきで書くこともあまりないのですが…。とりあえず、あとまわしの魔女の一味もくるるんもちゃんと出番が出せたのでほっとしています。あ、でもバトラーは出てないな…。
これでヒープリは、ジュウオウジャーのクロスオーバーとダルのど、それに本作と合わせて20万字書いたことになるので、そういう意味でも本当に書き尽くせました。それぐらいハマってしまったんですよね、ヒープリ。
ヒープリって、ぷにシールドという防御技を4人中3人が持っていて、4人がそれぞれ3種のボトルによる異なる属性技を使えるという、プリキュアの中でもトップクラスの多彩な技持ちなんですよね。そこに、エレメントさんを探し出して浄化するというプロセスも加わることで、戦闘の描写に様々なバリエーションを持たせることができるので、そういう意味でも書きごたえがありました。
オリジナルのメガビョーゲンとそれぞれの攻略を考えるのも楽しかったです。
創作については一度充電期間に入ろうと思いますが、感想等いただけると次の励みになりますので、よろしければお願いいたします!

本作をお読みいただき、ありがとうございました。
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