ダンジョンで鬼殺の英雄を目指すのは間違っているだろうか   作:ミキサ

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この回で出す柱は絶対に煉獄さんしかいないと思ってました。


九幕”炎柱”

 

 「”炎柱”……あれが鬼殺ファミリアの”柱”の一人」

 

 「レベル5(・・・・)の第一級冒険者か……」

 

 「いつオラリオに帰ってきたんだ?」

 

 「”炎柱ァ”!!」

 

 野次馬たちに動揺が伝播し、足を止められた狼人はその場から一歩後退り歯をむき出しににらみつけていた。

 緊張の糸が切れたことにより地面に腰を落とすベルの目の前に立っていたのは大きな背中。

 ベルと同じく純白の羽織を纏っていながらそこに彩られているのは燃え盛る情景。

 腰に携えられた日輪刀には炎の鍔が備えられている。

 何より、煉獄を思わせる焔色の髪と眼力のある瞳がその男を表していた。

 

 「この人が、”炎柱”……」

 

 一体どこから現れたのか、ロキファミリアでさえベートを止めるには間に合わなかったにも関わらずこの男はベルを守って見せた。それは純粋な速さか、それとも判断力によるものか。

 こちらへと振り返る杏寿郎の視線がベルを見据える。強気眼差しにベルの背筋が伸びる。

 

 「クラネル少年! でよかったか?」

 

 「は、はい!」

 

 差し出された手を握り返すと、大きく固い熱き感覚がベルの手に伝わってくる。ベルを立ち上がらせた杏寿郎は辺りを見渡すと大きく口を開いた。

 

 「”勇者(ブレイバー)”! 此度の事情、お前から聞かせてくれ!」

 

 「あぁ、もちろんさ。それと、すまない助かったよ杏寿郎」

 

 群衆の中から現れるフィンは苦笑いを浮かべつつ杏寿郎のもとまで歩み出る。何やら文句を言おうとしているベートはフィンから目くばせを受けたアマゾネス姉妹が抑え込んでいる。

 

 「うむ! お前であれば客観的事実を話してくれるだろう!」

 

 「一応当事者のファミリアの団長なんだけれどね僕は。まぁ期待に沿えるように、簡潔に話させてもらうよ」

 

 そこからフィンによる豊穣の女主人で起こったことのあらまし、話題の原因である6階層までのミノタウロスの逃亡事件などについて話された。杏寿郎は説明を聞きながら頷き、フィンの話を聞き終えるまで口を挟むことなく静聴した。

 

 「なるほど! クラネル少年、今の話で相違ないか?」

 

 「……はい」

 

 冷静になって聞いてみれば自分の情けなさとともに、ベルの恋慕をロキファミリアどころか酒場中に暴露されていたことを理解したベルは説明の途中から顔を真っ赤にしており、杏寿郎の確認にも顔を手で隠し小さな声で答えるのみであった。その答えに杏寿郎は満足そうに頷くと、フィンに顔を向ける。

 

 「先に、我がファミリアの団員がロキファミリアの宴に水を差したことを謝罪する!」

 

 そう言って頭を下げる杏寿郎の姿にフィンは目を見開き、ベルは慌てたように自分も頭を下げる。

 

 「だが!」

 

 顔を上げた杏寿郎の大きな瞳が真っすぐとフィンを、ロキファミリアを見据える。

 

 「自らの失態と責任を棚上げにし、巻き込んだクラネル少年を酒の肴とし笑いものにする! あまつさえ本人がその場にいるとわかってなお、諫めきれなかったのはどうかと思うぞ!!」

 

 「まったくその通りだ。酒の席で浮かれていた、は言い訳にはならないね。これは団長である僕の監督不行き届きだ。クラネル君には後日、正式にミノタウロスの件も含めて謝罪させてもらうよ」

 

 「というわけだ。クラネル少年、フィンからの謝罪を受け入れるか?」

 

 「え、はい! も、もちろんです!! こちらこそ、本当に、なんというか、ごめんなさい……」

 

 「やめてくれクラネル君、君から謝られてしまってはこっちの立つ瀬がないよ」

 

 「あ、いや、すみません」

 

 「……うん、いいよ」

 

 「よし! これでロキファミリアと団長であるフィンから(・・)の謝罪は受け取ったな!!」

 

 あのロキファミリアの団長に頭を下げられてしまったベルは怒涛の展開にようやく一件落着かと大きな息を吐きかけたときだった。

 

 「ならば次は君の番だな!!」

 

 杏寿郎はそういうとベルの腕を掴んで一人の人物の前まで引き連れる。

 そして杏寿郎はアマゾネス姉妹に地面に取り押さえられているベートを見下ろしながら意気揚々と発する。

 

 「あとは君からの謝罪だけだ! ”凶狼(ヴァナルガンド)”!!」

 

 「え、ちょ、煉獄さん!?」

 

 「ぁあん!?」

 

 凍り付く周囲とは裏腹にこの男だけは燃え盛るように自身の意思を突き通していた。

 

 「もとはと言えば、君がクラネル少年を嘲笑し酒の肴にしたのが原因だ! さらにクラネル少年が君に嚙みついたとはいえ、レベル5が神の恩恵(ファルナ)を与えられたばかりのレベル1に対してあのような挑発を促すのはあまりにも大人気がない!! 一歩間違えればクラネル少年は死んでいただろう! ファミリアを代表してフィンから謝罪を受け取った! だがそれはそれ! ”凶狼(ヴァナルガンド)”、ここからは君個人の謝意を見せてもらいたい!!」

 

 「ふざけんな! なんで俺がそこの雑魚に謝んねぇといけねんだよ!!」

 

 「れ、煉獄さん! 僕はもういいですから! それに僕からもこの人に失礼なことを言ってしまいましたし……」

 

 「そうなのか! なら”凶狼(ヴァナルガンド)”から謝罪を受け取ったのちに、クラネル少年も謝罪すると良い。それで一件落着だな!」

 

 「どこがだ!!」

 

 「きゃっ」

 

 「ちょ、ベート!」

 

 ティオナたちの拘束を振り払ったベートは杏寿郎を威嚇するように歯をむき出しにする。迸る殺気は先ほどベルへと向けられたものとは比べ物にならない、所謂本気(マジ)であった。

 

 「雑魚を雑魚と嗤って何がわりぃ! 身の程を弁えない雑魚に現実を教えてやっただけだろうが! それを勝手に噛みついてきたのはそこの兎野郎だ!」

 

 「なるほど、俺は君の考えをわかっているつもりだ。だがその上で言おう”凶狼(ヴァナルガンド)”、俺は君が嫌いだ。なぜそう、弱者を虐げる行動でしか示せないのだ」

 

 「奇遇だな! 俺もてめぇを殺してぇほど嫌いだよ!! てめぇらみたいに雑魚を甘やかす奴らがいるから雑魚が付け上がんだろ! 守ってもらえる、そう考えてるやつらが勝手に死んでくんだろうが!!」

 

 「確かにそうかもしれない。だがそれが、目の前で困っている者を見捨てる理由には、弱者を嘲笑する理由にはならない! 俺は強きものとして、力なき者を守る責務を全うする!」

 

 「それを偽善だって言ってんだよ! てめぇらがその調子じゃそこの兎野「それと!」」

 

 ベルへと視線を移すベートの言葉に被せる様に杏寿郎は告げる。

 

 「クラネル少年は決して弱者でも、ましてや君の言う雑魚でもない。取り消してもらおう」

 

 「あん!? どこからどう見てもレベル1の雑魚だろうが!」

 

 「強さというものは決して肉体に対してのみ使う言葉ではない。クラネル少年は心優しい。自分への嘲笑ではなく、我らファミリアへの侮辱から君に立ち向かった。圧倒的力の差を見せつけられたとしてもその心が折れることはなかった。もう一度言う。クラネル少年は弱くない、侮辱するな」

 

 「煉獄さん……」

 

 先ほどまでの猛々しく燃え上がる雰囲気は一変。

 落ち着き払った炎へと、否。

 瞳の奥でのみ激上に燃え盛る炎に見つめられる狼は忌々し気に煉獄と相対する。

 そして杏寿郎は一息つくと笑みを浮かべた。

 

 「うむ! どうやら”凶狼(ヴァナルガンド)”は”剣姫”にフラれたことがよほど堪えていたみたいだな!! 女子にフラれて気落ちするのはわかるが、だからと言ってそれを他者に当たっては男が廃るというものだ!!」

 

 瞬間、大通りに響き渡るは衝撃音。

 ベートから放たれた拳を杏寿郎が真正面から受け止めたことで起こったインパクトだった。

 

 いつもの大きい声に加えて、一層大きく通りに響く声で広める杏寿郎によるベートの失恋(挑発行為)にベートは我を失ったかのように二撃、三撃と攻撃を続けていく。その全てを受け止め、あるいは受け流しながら杏寿郎は、止めに入ろうとするフィンへと制止の視線を投げる。そう、先ほどの台詞は杏寿郎にしては珍しい挑発行為(・・・・)なのだ。このまま問答を続けようがベートがベルに謝罪しないことなど火を見るよりも明らかだっただろう。

 何より杏寿郎は怒っていた。

 僅かばかりの時ではあったものの杏寿郎から見て、ベルの優しさと強さ(弱さ)は痛いほどにわかった。自身のためではなく、杏寿郎らファミリアのために怒れるベルのために、今度は自分が怒ろうと決めたのだ。端的に言えば、ベートには灸を据えることにした。

 この大通りであのような失恋暴露を行えば、ベートが釣れるだけでなく、噂好きの神たちによって瞬く間にベートの失恋事情はオラリオ中に広められることだろう。既に視界の端では喜々として吹聴しに行く神の姿が見受けられる。だが、言ってしまえばこれはベートがあの豊穣の女主人にてベルに対して行ったこととさして変わりはない。

 

 「ぶっ殺してやる”炎柱”!」

 

 血走った眼で苛烈な攻撃を行うベートの攻撃を杏寿郎は冷静に対処していく。殴られれば防ぎ、蹴られれば躱し、掴まれそうになれば逆につかみ返して投げ飛ばす。そんな攻防が続けられていた。もっとも杏寿郎から攻撃を行うことは一切ないのだが。

 そんな光景を目で追うことさえできないベルはただただ慌てふためくことしかできなかった。

 一方でその違和感に初めに気が付いたのは誰だったか。ロキファミリアの主力陣はその、ベートを軽くあしらうかのような杏寿郎の強さに強烈な違和感を感じていた。ベートはロキファミリア最速を冠するだけあって、敏捷を補正するスキルを二つ持っている。何よりここはダンジョンではなく月夜の下(・・・・)だ。

 

 【月下咆哮(ウールヴヘジン)】、狼人なら誰もが発現する獣化スキル。月の光を浴びることで獣性と力が発揮され、全アビリティ能力に超高補正がかかり、状態異常も無効化する強力なスキルだ。杏寿郎へと攻撃を仕掛けてからベートの姿に変化があり、明らかに発動していた。

 いくら呼吸法があるとはいえ、同じレベル5(・・・・)の冒険者がああも獣化したベートを転がすことができるだろうか。あれではまるで……。

 

 「てめぇ! 舐めてんのか!!」

 

 「一体なんのことだ?」

 

 「とぼけんじゃねぇ! なんで攻撃してきやがらねぇ!」

 

 攻撃の手が一旦止み、ベートは吠える。

 杏寿郎の方と言えば、何度か手を握り開きを繰り返し、ベートとの攻防も含め何かを調整するかのような所作を見せていた。

 

 「いやなに! お館様と主神殿に昇華やら数値だのを見せられてもこればかりはいつまで経っても慣れなくてな! 実際に体を動かし、実感せねば。神の恩恵(ファルナ)とは本当に不思議なものだな!!」

 

 「”炎柱”、てめぇまさか!?」

 

 「よもや! ここに来てようやく器の昇華(・・・・)に足りる鬼とまみえるとは!! ”柱”の条件がレベル5とはいえようやく先を行く者たちに追いつくことができた! 他のレベル5の”柱”もすぐにこちら側(・・・・)へと来るだろう!」

 

 「器の昇華(ランクアップ)……そうか杏寿郎、君も」

 

 「うむ! ようやく俺もレベル6とやらの仲間入りだ!」

 

 「レベル6……ッ」

 

 杏寿郎のその言葉に当たりのざわつきは最高潮に達する。

 ――また鬼殺ファミリアからレベル6の冒険者が生まれた。

 ――これで鬼殺ファミリアが保有するレベル6は五人。ロキファミリアのほぼ倍だ!

 ――いや、レベル6の数で勝っていても冒険者の数的にはまだロキファミリアの方が。

 ――いやいや、その代わり鬼殺ファミリアには”猛者”に並ぶレベル7が。

 ――いやいやいや……。

 

 オラリオ三大巨頭の二つであるロキファミリアと鬼殺ファミリアのどちらが上かとフレイヤファミリアをどかして議論しあう民衆。それほどまで杏寿郎のランクアップは大きな波紋となった。少数精鋭の鬼殺ファミリアとレベル7こそいないものの優秀な冒険者を多く保有するロキファミリア、どちらが上かという議論はある意味この迷宮都市における娯楽の一つであるため仕方ない。

 とはいえ、これにはロキファミリアも動揺を露わにする。また鬼殺ファミリアに先を越されたと。

 ロキファミリアでレベル6に至っているのはフィン、リヴェリア、ガレスの三人だけであり、この三人が最高戦力であった。だからこそ未だレベル5である、特に壁にぶつかるアイズと杏寿郎と相対するベートは焦りを大きくした。

 レベル5同士であれば、呼吸を使う杏寿郎と【月下咆哮(ウールヴヘジン)】を発動させたベート、互角の戦いを行っていたかもしれない。だが、ここに来て二人の間に大きな壁があることが判明した。甘いと吐き捨てた強者に先を行かれた。

 

 「器の昇華もようやく体に馴染んだ。続けるのであれば、今度こそ真正面から君を叩こう。どうする”凶狼(ヴァナルガンド)”?」

 

 「決まってんだろッ!!」

 

 退くわけないと吠えるベートは一度距離を取り加速とともに攻撃態勢をとる。

 

 「その意気やよし!!」

 

 どこからともなく投げ渡された木刀を手にした杏寿郎も迎え撃つための構えを取る。

 

 「炎の呼吸 壱ノ型」

 

 「ダッシャアアアアアアアアッ!!」

 

 縦横無尽に加速したロキファミリア最速のもとから放たれる全力の蹴り。

 対するは反対に地面に足を踏みしめる力強い構えから放たれる杏寿郎がもっとも愛用する型。

 

 

 

 

 

 「不知火」

 

 

 

 勝負は一瞬だった。

 遠間からの力強い踏み込みにより、炎を発するような勢いで間合いを詰めた杏寿郎の袈裟斬りは、杏寿郎へ足を振り下ろそうとしていたベートの蹴りをすり抜け、その胴へと吸い込まれていった。燃える勢いに呑まれたベートは木刀だったがゆえに切り裂かれることはなかったものの、大きく吹き飛ばされ地面を転がっていった。誰が見ても勝敗はベートの完全敗北で決していた。

 

 ただ一人、目を見開きながら笑う杏寿郎以外は。

 

 

 「よもやッ! 完全に躱したと思っていたのだが俺もまだまだ未熟!」

 

 

 静まり返った大通りには、頬に赤い一筋を刻んだ杏寿郎の賞賛の笑い声のみが響き渡った。

 

 

 

 




~オラリオコソコソ噂話~

ベル「凄い! 凄いです煉獄さん!!」

煉獄「ははっ、クラネル少年! 俺の継子(つぐこ)になるといい!」

ベル「はいっ! って、ええええええええ!?」

煉獄「強くなりたいのだろう! 俺が強くしてやろう!」

ベル「で、でも僕は水の呼吸ですよ!?」

煉獄「君の日輪刀は何色だ!」

ベル「ま、まだわかりません!(この人、全然話を聞かない!)」

煉獄「そうか! なら話はまた自身の日輪刀を手に入れてからだな!」

ベル「え、はい!」


煉獄『オラリオコソコソ噂話! 現時点で確認されているレベル7は三人しかおらず、この三人が最高レベル保持者だ! レベル6の俺はまだまだだな!』


ベル「煉獄さんがまだまだなら僕はいったいどうなるんですか!」

煉獄「安心しろ! 俺が強くしてやる!!」

ベル「煉獄さん!!」

煉獄「次回第十幕!”強く……”」

ベル「次回もお楽しみに!!」
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