ダンジョンで鬼殺の英雄を目指すのは間違っているだろうか   作:ミキサ

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皆さん一番好きな水の呼吸の型は何ですか?
僕は水車です!

おや、オラリオの様子が


三幕”入団試験”

 「畜生っ! 昨日はついてなかった!」

 

 ベルと炭治郎が入団試験のためにダンジョンへと潜ろうとしていた時刻。それはオラリオの都市の一角で起こっていた。道が入り組み、人通りは少なく、道に迷ったら二度と出られないんじゃないかと思うほどの地上の迷宮。男は大剣を背負った冒険者だった。荒くれ物のような相貌には傷がついており、どこにでもいるような冒険者の一人であった。そう、レベル1のまま器の昇華(ランクアップ)を果たせず燻っている万年レベル1の冒険者だった。

 そのためか男はいつしか冒険をすることを辞め、弱者相手に当たり屋のようなことをしながら小銭を集める日々を送っていた。しかしどうやら昨日は獲物選びに失敗したのか悪態をつきながら男は歩いていた。

 

 「まさかあのガキが本当にイカレファミリアの関係者だと思うか!? 糞がっ、見誤った!」

 

 男は昨日のことを思い出しながら片手に持った酒瓶を呷る。昨日男が獲物に選んだのは白髪赤目の少年(弱者)だった。メインストリート近くの裏道で迷子になり、あたりを見渡していたことからも田舎から出てきたおのぼりであり、神の恩恵(ファルナ)など刻まれていなさそうな絶好の鴨だった。着ていた羽織は鬼殺ファミリアの団員たちが愛用している羽織たちに重なって見えたが、そんな少年が団員であるはずはないと高を括ったのがまずかった。高レベル冒険者を多く保有する鬼殺ファミリアは、ランクアップできずに燻っている男からすれば嫉妬の対象であり、そんな理不尽な怒りが少年に向けられたのだ。

 しかし実際に当たり屋を行ってみれば、少年は最初は言うことを聞いてたくせに途中から反抗してきた。男はその怒りを少年にぶつけ甚振りつけた。そこに突如として現れたのがあの”神楽”(石頭)であり、降って落とされた頭突きは男の意識を刈り取っていった。おかげで昨日の収入はゼロ。頭痛もひどいため今日は獲物探しをせずにこうして酒を浴びているわけだ。

 

 「まぁいい。あそこの入団試験って言えば頭がおかしいで有名だからな。あんなガキが合格できるわけがねぇ。ダンジョンでくたばり死ぬって考えれば溜飲が下がるってもん――ってぇ!」

 

 前後不覚になりながら歩いていた男は正面からすれ違うように現れた簡素な服を着た青年にぶつかりヨロケテしまう。奇しくも当たり屋の前段階が完成し、男は酔っぱらっていたこともあり相手も確認せずに怒鳴りつけた。

 

 「どこ見て歩いてんだてめぇ!! これ骨折れたぞ! 慰謝料払えってんだ!」

 

 「……すみません」

 

 青年はそれだけ言い残し先を歩いていこうとする。男は一瞬唖然とするが、すぐに舐められているのだと頭に血が上り青年の肩に掴みかかる。

 

 「お前舐めてんのか! 金払えって言ってんだよ! かッ……ね」

 

 青年を無理やり自分側へ振り向かせた男は脅すように金をせびるが、青年の顔を見た途端急に口を閉じる。何を見たのかはわからないがその表情は青ざめ恐怖に震え、いつの間にか男は腰を抜かして地面に座り込んでいた。男より背の低い青年に見降ろされる形になった男はなおも口を開けない。

 

 「ふむ……少々不満だが、此度は貴様でいい」

 

 「な……に、を」

 

 瞬間、男の首に一筋の傷が増えた。大きさだけ見れば大したことのない傷。だが男は首を押さえるように倒れこむ。

 

 「案ずるな。そして喜び平伏せよ。貴様は億が一にも、私を繋ぐ者になる可能性を与えられたのだ」

 

 「あっ……がっ!!」

 

 苦しむ男を見下ろしながら青年は赤い目を細くし一人満足げに頷く。

 

 「再びあの穴倉に戻るのは癪だが仕方あるまい」

 

 青年は男を引きずりながらどこかへと去っていく。

 そんな一幕が起こっていた地上の迷宮の名は”ダイダロス通り”。

 オラリオにまた一つ、不吉な風が吹き抜ける。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 あの後、正式にギルドからベルのダンジョン探索許可を得た、炭治郎達は現在ダンジョンの六階層までやってきていた。薄暗い洞窟にわずかに光を放つ物体で彩られるそこを歩きながらベルは物珍し気に周りを見渡していた。既にベルの腰に携えられていた短刀は引き抜かれており、いつでも戦闘を行える体制が整っていた。

 

 「なんだか僕がダンジョンに入れてることが感慨深いですね」

 

 「一階層でゴブリンを倒したときのベルのはしゃぎ様は凄まじかったな!」

 

 「それは言わないでください!!」

 

 入団試験に使われるエリアは六階層だが、いきなり六階層に行けるわけではない。炭治郎はウォーミングアップとしてここまでくる最中のモンスターをベル一人に狩らせてきた。ゴブリンやコボルドなどの比較的人型と言えるモンスター相手には余裕を持って対処を行えてきたが、ヤモリや蛙型のモンスターであるダンジョンリザードとフロッグシューターの地を這うような存在にはまだ後手に回る様子が見受けられた。とは言え、ここに来るまでに目立った外傷はなく試験を行うボーダーラインは超えていることが見受けられた。

 途中、初めてゴブリンを狩れた際には、過去の経験から感極まったベルの喜びようがあったがそこは割愛しよう。

 

 「それじゃ六階層に来たわけだけど。問題、どうしてここが試験階層に選ばれている?」

 

 「はい! 六階層から現れるウォーシャドウってモンスターが鬼に見立てられるからです!」

 

 「そうだ、ちゃんと覚えてて偉いぞ!」

 

 「えへへ」

 

 ウォーシャドウ、六階層から現れる影のようなモンスター。通称、”新米殺し”。全身がくまなく真っ黒であり、身の丈は160cmの二腕二足、十字の形の顔に手鏡のような真円上のパーツが組み込まれている。特に注目するべきは、長い腕に三本の鋭利な鉤爪状の指を持っており、これも鬼の鋭利な爪に見立てられる。多くの新米冒険者の壁のような存在である。

 このような理由から、鬼殺ファミリアはこの六階層を試験エリアとしているのだが、当然周りから見たら新人どころか、神の恩恵(ファルナ)すら持たぬものをここへと連れてくるなんて自殺行為であった。現にここに来る途中ですれ違った冒険者たちはベルの鎧すら身に着けない格好に怪訝な表情を浮かべていた。

 

 そんな会話を交わしながら歩いていると、炭治郎達は突き当りのルームの一角へと到着した。そこには今しがた話題に出たばかりのウォーシャドウ三体が屯っていた。まさに”影”と形容するにふさわしい不気味な姿にベルは息をのみつつ様子を観察する。幸いまだルーム内には入っていないためかウォーシャドウがこちらに気付いている様子はない。どうするべきかと炭治郎の方を伺うえば。

 

 「よし、じゃあベル。早速あの三体を倒してきてくれ! このルームを今日から五日間の拠点にするぞ!」

 

 「わ、わかりました!」

 

 ベルの緊張した様子に苦笑いを浮かべる炭治郎は、そっと腰を押すようにベルをルームへと向かわせる。

 

 「大丈夫だベル。呼吸(・・)を整えれば勝てる」

 

 「……! わかりました」

 

 覚悟を決めるベルは言われたとおりに呼吸を整えルームへと向かう。

 それまで静かだったルームに音が響き渡る。「ヒュゥゥゥゥ」と奇妙な呼吸の音。三つの十字の視線がベルへと集まり、新たな獲物が来たとウォーシャドウらは肩を揺らす。

 

 (大丈夫……僕にもできる。できる!)

 

 三つの足音がベルに向かって駆けてくるのが分かった。

 振り上げられる鉤爪(凶器)

 ベルの心臓を狙った攻撃。

 

 ベルはもう一度呼吸を行う。

 

 

 「水の呼吸 肆ノ型……ッ!」

 

 

 義勇や炭治郎(兄弟子)たちに比べればまだまだ拙い。けれどそれは確かに――。

 

 

 「打ち潮ォ!!」

 

 

 始まりの日の技であった。

 

 岸辺に打ちつける潮の如く淀みない動きで斬撃を繋げる波状攻撃が一体のウォーシャドウの頸を切り落とし、二体のウォーシャドウの腕を切り落とした。

 

 「ッ!!」

 

 突如として繰り出された水流を幻視させる剣技に生き残ったウォーシャドウらは動揺し、炭治郎は満足げに頷いた。

 ウォーシャドウは咄嗟に残った二体でベルを挟み込むようにして突撃する。だが、それではまだ足りない。水の呼吸の本領はここからだと、ベルは切った勢いのまま、上半身と下半身を逆方向に捩じるように力をためる。

 

 「水の呼吸 陸ノ型! ねじれ渦!!」

 

 捩じり溜めた体から放たれた強力な回転を持つ斬撃は二体のウォーシャドウの体をまとめて両断した。わずか数手のやり取りを得て、その場には三つの魔石が転がった。ベルは転がった魔石を認識すると、炭治郎に向けて目を輝かせた。

 

 「やりました! あのウォーシャドウを倒しました!」

 

 「やったなベル! それだけ戦えるなら油断さえしなければ六階層なら大丈夫そうだ!」

 

 ベルを褒めるように入ってきた炭治郎は、バックパックをその場に置くと軽い拠点作りを始めた。五日間ダンジョンで生き残れとは言うが、もちろん不眠不休で戦い続けろというわけではない。鬼だって昼間の間は休む時間をくれるのだ。そこまで鬼畜な所業を行ったりはしない。試験者には半日間は一人で六階層を潜ってもらい、時間が来たらこの場所で半日間休憩をさせるというものだ。そのためこの五日間はこのルームを炭治郎が責任をもって安全圏とさせる。

 炭治郎はバックパックの中からうっすらと光る手のひらサイズの球体をベルに投げ渡す。

 

 「これは?」

 

 「半日間光り続けて半日間光を蓄えるって機能がある魔道具だ。これが光らなくなったらここに戻ってくるんだぞ。地図は頭の中に入っているか?」

 

 「わかりました! 一階から六階層までの地図はちゃんと覚えてきました!」

 

 「よし、なら試験開始だ!」

 

 「行ってきます!」

 

 ベルは球体を腰のサブパックの中に入れると、炭治郎の合図とともにダンジョンを歩きだした。ここからは炭治郎の同伴はない。何かあったとき助けてくれる人はいない。ベルは恐怖と緊張を胸に、短刀を構えダンジョンの闇へと向かって行った。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 「た、ただいま戻りました……」

 

 あれから半日経ち、若干疲労が顔から窺えるベルが炭治郎の元へと戻ってきた。何度か転がったのか、白い羽織のところどころに泥が付着しているが目立った怪我はなく、無事一日目を終了できたようだ。戻ってきたベルにどこか安堵の表情で迎え入れた炭治郎は、竹皮に包まれたおにぎりをベルに差し出した。

 

 「お疲れベル。おなか減っただろ? 隠の人がおにぎりを持ってきてくれたから食べるか?」

 

 「は、はい。いただきます!」

 

 疲れ渡った体に塩の効いたおにぎりが染み渡る。気が付けば差し出されたおにぎりは食べきっており、満面の笑みで礼を言う。

 

 「美味しかったです! ありがとうございます!!」

 

 「よかった。日の射さない洞窟で五日間だからな。せめて朝夜の食事だけは保存食以外のものを食べさせてやってほしいって隠の皆さんが持ってきてくれるんだ。地上に戻ったら彼らにも礼を言うんだぞ」

 

 「隠の皆さん……ですか?」

 

 「えっと、簡単に言うと、俺たち戦闘部隊のサポートをしてくれている鬼殺ファミリアの人たちだ」

 

 「そんな人たちもいるんですね! こんな美味しいものを持ってきていただいて、帰ったらちゃんとお礼を言います!」

 

 「そしたら刀の手入れをして寝てよし! まだ一日目だからしっかり休むんだぞ!」

 

 「はい!」

 

 ベルは炭治郎から道具を受け取ると、刀の手入れを始めていく。もちろん本格的なものは行えないので、応急処置的な手入れだが。手入れを行うベルと見ながら炭治郎は口を開く。

 

 「そう言えば、ベルはこの試験が終わったら自分の日輪刀を受け取ると思うけど、変わらず短刀にするのか?」

 

 「そうですね……短刀に慣れちゃったのでこのままにすると思います」

 

 日輪刀、特殊な素材を使って作り上げられた刀であり、日のもとにさらす以外で唯一鬼を殺すことができる武器である。

 炭治郎や義勇が持っている物は一般的に思い浮かべられる長さの刀であるが、ベルが持つものは短刀と呼ばれるサイズものだ。ベルも最初は炭治郎達と同じ長さの物を使っていたのだがどうにも合わず、鱗滝が試しに短刀サイズの物を渡したところベルもこちらの方が使いやすいということで決まったのだ。そのためか普通の日輪刀に比べて小回りは利くものの、リーチと威力が少し劣るというのが現状である。

 炭治郎もそのことを気にして聞いてみたが、今更変えるには短刀はベルの手に馴染みすぎていた。炭治郎もわかっていたのかそれ以上は追及しない。

 

 「ベルの日輪刀は何色に染まるのか楽しみだな」

 

 「色変わりの刀でしたっけ?」

 

 日輪刀の別名は色変わりの刀として呼ばれており、触れた剣士の呼吸の適正に合わせて色が変わるという刀だ。義勇であれば青色に染まった刀であり、水の呼吸の適正を示している。染まった刀の色は、他の剣士が持とうが生涯変わることはないとされており、今ベルが持つ青色の日輪刀もベルによって染まったものではない。なお一定の力量を持たぬ剣士が持っても適正はわからぬため、基本試験に合格しファミリアに入ることで自分の日輪刀が得られるのだという。

 

 「確か、水の呼吸の適正は青色でしたっけ? あれ、でも……」

 

 ベルはそこまで言って炭治郎の持つ日輪刀を思い出した。炭治郎の持つ日輪刀は確か黒色ではなかったかと。

 

 「あぁ、俺の適正は水の呼吸じゃなかったらしくてね。それはおいおい説明するよ」

 

 「はぁ」

 

 「ともかく、試験はまだ四日あるんだ。疲れを残さないようしっかりと休むんだぞ?」

 

 「はい!」

 

 日輪刀の手入れを終えたベルはテントの中に入り、渡された毛布に体を包み眠る。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 そして運命の試験最終日がやってくる。

 あと一息で終わるというベルの耳に届いたのは――。

 

 

 

 「助けてぐれえええ! お、鬼があああああああああ!!」

 

 

 

 鬼と叫ぶ冒険者の悲鳴だった。

 

 

 

 

 

 




~オラリオコソコソ噂話~

ベル「やりました! ウォーシャドウに勝てました!」

炭治郎「よくやったぞベル! 残す試験もあと一日だな!」

ベル「はい! それにしても日輪刀って不思議な刀ですよね」

炭治郎「あぁ、色変わりの刀なんて、どうなってるのは未だにわからないぞ。ちなみに刀だけじゃなくて、鎖の先に鉄球と斧が付いた日輪刀もあるな」

ベル「それって日輪()なんですか?」

炭治郎「…………」

ベル『こ、ここでオラリオコソコソ噂話! オラリオには絶対に壊れない”不壊属性(デュランダル)”って特徴を持つ特殊武器もあるんですよ!』

炭治郎「日輪刀でも使い手の力量によっては折れてしまうからな。羨ましい」


ベル「次回第四幕!”鬼と姫”」

炭治郎「次回もお楽しみに!」
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