ダンジョンで鬼殺の英雄を目指すのは間違っているだろうか   作:ミキサ

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五幕”月は輝き、兎は焦がれる”

 「どこに、行ったのッ」

 

 ダンジョンの中を一人の少女が駆けていた。金色の髪を風に靡かせ、鋭い金色の双眼を何かを見逃さないように行き渡らせる美しい少女。蒼色の軽装に包まれた線の細い体は細くとも健康的な肉付を誇っており、その肌はきめ細かく美しい。となればそのエルフや女神にも劣らない繊細な顔立ちなのだが、今はどうやら何かに焦るように歪んでいた。

 彼女の名前はアイズ・ヴァレンシュタイン。ロキファミリアの第一級冒険者にしてレベル5の”剣姫”の二つ名を神に与えられた少女だった。

 そんな彼女がダンジョンの六階層(・・・)にて何を焦っているかと言えば、一言でいえばとあるモンスターを追っているからだ。

 ことの発端は先ほど、五十九階層への進出を目的としたロキファミリアの遠征がある事情から失敗に終わり、予定よりも早い帰還を遂げている時だ。十六階層にてロキファミリアは牛の頭を持つ筋骨隆々のモンスター、ミノタウロスの群れと遭遇したのだ。レベル2の冒険者であろうと一対一(タイマン)では苦しい戦いを強いられる強敵ではあるが、当然第一級冒険者が多く所属するロキファミリアの遠征部隊からすれば塵芥と同然であった。

 そのため、ロキファミリアによるミノタウロスの群れの蹂躙が始まったわけなのだが、突如として一匹のミノタウロスがその場から逃げ出したのだ。モンスターが冒険者から逃げ出すなんて緊急事態(イレギュラー)緊急事態(イレギュラー)。最初の一匹に連れられて他のミノタウロスまで逃げ出す始末。しかも逃げた方向がよろしくなかった。ミノタウロスたちが逃げ出した先、そこには十五階層につながる上り階段があり、まさかのミノタウロスたちはそのまま階段を上りだしたのだ。十五階層まで逃げるだけならばまだよかった。しかし群れは十四、十三と挙句の果てにレベル1とレベル2の境目となる十二階層、上層へと進出していってしまったのだ。

 これにはロキファミリアの焦りもさらに強くなる。なぜならレベル1とレベル2の冒険者ではまさに格が違う。このままでは上層のレベル1の冒険者たちがミノタウロス(レベル2)に蹂躙されてしまう。ロキファミリアも、犠牲が出ればその名声に傷がつく失態であり、ミノタウロスを死に物狂いで狩って行った。

 

 そんなミノタウロスも今アイズとベートが追っている残り一体が最後だろう。しかしここに様子がおかしい。先ほどまでは狼人であるベートの鼻を頼りに追いかけてきたのだが、この六階層に来てベート曰く異臭が充満しているせいでミノタウロスの足取りがつかめなくなってしまったのだ。そんな異臭するのかとアイズも小さく鼻を鳴らしてみるが感じ取れない。狼人特有の何かがあるのだろうか。

 

 「めんどくせぇ臭いが充満してやがる。こっちはさっさと牛野郎をぶっ殺さねぇといけねぇのによ!」

 

 「まさか、もう五階層に……」

 

 二人がこのまま六階層を探すか五階層に向かうかを思案していると、攻略ルートから外れた道から足を引きずった男の冒険者が逃げるように現れた。血まみれの冒険者は足を折っているのかそこまでの速さはない。まさかミノタウロスにやられたのではとベートと顔を見合わせたアイズはその冒険者に話しかけた。

 

 「ねぇ、何があったの?」

 

 「あ? てっひいいい、”剣姫”に……それに”凶狼(ヴァナルガンド)”!?」

 

 「おい、ビビッてねぇで答えろ雑魚! 誰にやられた? ミノタウロスか?」

 

 「ミ、ミノタウロス? 何のことだ?」

 

 「ち、外れかよ。もういいお前どっか行け!」

 

 「あの、これ……」

 

 アイズは冒険者に自分の持っていたポーションを渡す。こちらとしても余裕があるわけではないためいいポーションではないが、最低限歩けるようになる応急処置程度にはなるだろう。ベートは忌々し気に「雑魚に構うなアイズ」と叫んでいるが、アイズとしても話した相手がそのままダンジョンから帰ってこなければ目覚めが悪い。冒険者は受け取ったポーションに感謝を述べると慌てたように叫んだ。

 

 「た、頼むロキファミリア助けてくれ!!」

 

 「あん? お前がどのモンスターにやられたか知らねぇが六階層ならウォーシャドウあたりだろ。雑魚モンスター相手に逃げてきた雑魚を助けるなんざごめ」

 

 「鬼だ! 鬼が出たんだ!!」

 

 「「ッ!!」」

 

 ベートの見下す発言にかぶせるよう冒険者が叫んだ。”鬼”という単語にアイズたちは息を呑む。

 

 「この妙な臭い鬼か! なんでこんな上層に出てんだよ!!」

 

 「し、知るかよ! こっちだってパーティーメンバー全員喰われていっぱいいっぱいなんだ!!」

 

 「鬼は、どうしたの?」

 

 鬼を相手に片足折れた状態でここまで逃げてこれるだろうかとアイズが疑問を投げかける。

 

 「助けてもらったんだ。白髪赤目の羽織を着た坊主に……」

 

 「羽織ってこたぁ」

 

 「鬼殺ファミリア?」

 

 「あ、あぁ、多分そうだと思う」

 

 「んだよ、何の問題もねぇじゃねーか! こっちも急いでんだ、てめぇに構ってる時間なんてねんだよ」

 

 「待ってくれ! 確かにそうなんだが、そうじゃないんだ!!」

 

 なおも食い下がる男にベートの額に青筋が浮かぶ。アイズは間に入るようにして、こちらも急いでることを伝えるように語彙を強めていう。

 

 「はっきりして、何が違うの?」

 

 「れ、冷静になってみて思ったんだ。あんな白髪赤目の目立つやつ、あのファミリアにいたかって……」

 

 鬼殺ファミリアは団員数自体は多いが、その実戦闘要員はそこまで多くはない。戦闘要員は三十人にも満たない少数精鋭であり、その全員がレベル2以上の冒険者である。最後に入ったのは”神楽”の妹の”鬼狩童子”のはずなので、それ以来新人は入っていない。確かにアイズたちも鬼殺ファミリアの全員の名前と容姿を知っているわけではないがそんな目立つ見た目なら噂くらい耳にするはずだ。白髪と聞いて出てくるのは”風柱”だが、あの恐ろしい形相の男を見間違えるわけがない。ただ、それだけにしては目の前の冒険者は慌てすぎではないだろうか。もしかしたらアイズたちの知らない団員もいるかもしれないのに。

 

 「そ、それでもしかしたらあの噂が本当かもって思ったら……」

 

 「噂?」

 

 「鬼殺ファミリアがあの入団試験をまたやるって噂だ。それも、受けるのが兎みたいな。そ、そう白髪赤目の坊主だって」

 

 「あいつらっ!」

 

 「もしそうならその子、神の恩恵(ファルナ)を持ってない……?」

 

 「た、頼む!! 万が一のことがあったら、助けてもらった身としては心が痛ぇ!」

 

 そう言って頭を下げる冒険者に目もくれず、アイズは今冒険者が逃げ出してきた横穴へと飛び込んでいく。

 

 「ベートさんは五階層を! 私は六階層でミノタウロスと鬼を探す」

 

 「アイズ! あいつ先走りやがって……!」

 

 おいて行かれたベートは苛立ちを露わにするが、確かにミノタウロスも放っておくわけにはいかない。業腹だが、この階層はアイズに任すことにしてベートは五階層へと向かうことにした。

 

 「あ、あの……」

 

 ポーションを使いなんとか歩ける程度には回復した冒険者は残ったベートに怪訝な表情を向ける。いつものベートであればそれがわかっていたにも拘らず逃げ出してきた冒険者(雑魚)に対して言葉を吐き捨てるところだが生憎そんな気分でもなかった。ただ一つ、気に食わないという表情だけ残し、五階層へと走り出した。

 

 

 一方冒険者の話を聞き、すぐさま鬼のもとへ走り出したアイズは自身の装備を確認する。生憎と日輪刀は後続のサポーターがまとめて管理しており、個々人は持っていない。だが話を聞けば鬼殺ファミリアらしき少年が先に戦っているという。ならば最悪少年の日輪刀を借り受ければ問題ないだろうと黒い風が見え隠れする中アイズは走った。

 やがて大剣が地面を連続して砕く音と鬼の叫び声らしきものがダンジョンの道を通しアイズの耳に届いた。道から覗き込んだルームそこで行われていたのは。

 

 

 「戦え! 戦えええええええ!!」

 

 

 そう己を鼓舞するように叫びながら大剣を振り下ろす鬼へと駆け抜けていく白髪赤目の少年の姿だった。白かったであろう羽織は土にまみれ、口には血を吐きだした痕が残っていた。それは鬼との闘いの痕だろう。苦戦しているなら手助けするべきかとアイズは思案する。しかし叫び声をあげ、鬼を狩ろうとする少年の様を見るとどうにも手を出す気にはなれなかった。

 

 「あっ」

 

 鬼の健を切り裂き、その頸に刃を振るおうとしたベルに大剣が投げ飛ばされる。思わずアイズがその大剣を切り飛ばそうかと動き出したとき、少年の顔が絶望ではなく勝利を確信した顔つきへと変わったのを見てアイズは飛び出すのをやめる。その行動は間違っていなかった。少年の繰り出した突きが大剣を穿ち、そのまま振り切られた刃が鬼の頸を落とした。

 

 第一級冒険者から見れば稚拙な戦い。

 けれど確かに少年は、神の恩恵(ファルナ)を持たぬ身で鬼狩りとしての役割を果たしたのだ。

 

 「すごい……」

 

 アイズは少年の名前を聞こうとしたとき、目の前の少年が不可解な行動をとった。消えゆく際まで喚く鬼の眼前に膝をつき、何かを伝えてる様子だった。そして言葉を向けられた鬼はぴたりと喚くのをやめ消えていった。苦し気な、そしてどこか優し気表情で鬼を見送るベルの姿にアイズは見覚えがあった。

 

 (どうして君たちは、そんな表情ができるの?)

 

 かつて”神楽”と呼ばれる少年に聞いたときは要領の得ない、少なくともアイズが理解できる答えは貰えなかった。後で知ったがどうやら”神楽”の妹に鬼の血が混じっているようで、そのため鬼に同情しているのだと無理やり納得した覚えがある。

 ならば目の前の少年は?

 彼にも鬼の血が混じった大事な人がいるのだろうか。

 その答えが知りたくてアイズは少年に声をかける。

 

 「あの……「あああああああああああああ! 光消えてるうううううう!!」え?」

 

 小さいアイズの声をかき消すように少年の叫び声が響き渡る。少年は手に持った球体を確認すると慌てたように立ち上がる。

 

 「いつの間に消えてたんだろう! 早く炭治郎さんのとこに戻らないと!!」

 

 そう言って少年はアイズがいる通路とは別の道に向かって駆けだしていってしまった。

 

 「あっ」

 

 アイズは追いかけるべきかと一瞬思案したが頭を左右に振って考えを改める。これ以上、少年に干渉しようとするのはアイズの私情でしかなく、さらに言うなればアイズはミノタウロスを追っているのだ。最後の一匹がどこにいるかもわからない今、無駄な時間を過ごしている暇はな――。

 

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

 そう考え来た道を引き返そうとするアイズの耳に、先ほどの少年の叫び声と野太い牛怪物の雄たけびが聞こえてきた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 「早く炭治郎さんのところに戻って上層に鬼が出たこと伝えなくちゃ!」

 

 上層に鬼が出た異常事態(イレギュラー)を報告するために炭治郎のいる安全地帯に向けて走るベルだったが、その表情はどこか緩んでいた。肋骨の折れた痛みなどは感じるものの、初めて自分自身の力で鬼を倒すことができた。それまでにいくつもの葛藤があったが、それでもやり切ったとこれで自分も鬼狩りとして炭治郎達とともに戦えると。

 そう、ベルは勘違いしてしまった。

 

 途端ベルの体に寒気が弥立ち、何か嫌な予感が体を震わせた。目の前の角を曲がらなくてはいけないのに、体がそれを拒否している。あれだけの強敵()を倒してきた自分が何を恐れているのか。

 

 ノシ、ノシ

 

 何か巨大な生き物がこちらに歩いてくる、あの曲がり角を歩いてくる。

 

 ベルは知らなかった。

 確かにあの鬼はベルにとっては強敵であったが、ダンジョンにおける強敵ではないことを。だから勘違いしてしまったのだ。強敵に打ち勝った自分は一人前なのだと。

 

 だからベルは思いもよらなかった。

 異常事態(イレギュラー)を乗り切った自分に危機が迫っていることを。

 

 ベルは身をもって知ることとなる。

 ダンジョンの悪意とは底知れぬものだと。

 

 

 「ミノ、タウロス?」

 

 

 一歩一歩の足音の重さがその筋肉の塊の重さを象徴する。

 全身を覆う毛並みの色は茶色く、その筋肉隆々の肉体は3Ⅿにも及ぶ。

 特徴的なのは頭から生える二本の白い武骨な角。

 牛の顔を持つその巨大なモンスターをベルは知っていた。エイナや炭治郎に教わったわけではない。当然だ。本来ならばこのモンスターは15階層、中層域と呼ばれる推奨冒険者レベル2以上の場所に存在する。こんなはるか上の階層にいていいモンスターではないのだから。

 とはいえそんなことを知る由もないベルはそのモンスターの姿をとある英雄譚に出てくる化け物と並べてみていた。その物語でとある王国の姫を攫い、そして英雄に討伐された化け物。まさしく、” 牛怪物(ミノタウロス)”。

 

 「な、なんでミノタウロスが!?」

 

 当然ベルの疑問に答えるでもなく、ミノタウロスは目のあったベルへと手に持った石斧を振り下ろす。ベルは先ほどの鬼の一撃を思い出し、受け止めるのではなく横に身を投げ出すことで回避した。もしここでベルが再び受け止めることを選択していたのならば、その体は日輪刀もろとも両断されていただろう。そして今躱せたのは奇跡に近いことをベルは肌をひりつく殺気とともに理解した。

 先ほどの鬼の大剣がフラッシュバックしたからこそ、先読みで回避できたにすぎない。

 ミノタウロスはベルが今の一撃を避けたことを不思議に思ったのか首をかしげていた。

 

 舐められてる。

 それだけの実力差があることを理解しながら、ベルが選んだのは逃走ではなく戦闘。

 ベルは日輪刀を構え、ミノタウロスを見据える。

 

 (大丈夫、大丈夫だ! さっきだって勝てたんだ……僕なら、できる!!)

 

 そして再び自分の闘志を燃え上がらせる。

 

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

 ベルの雄たけびとミノタウロスの咆哮が木霊する。

 ベルは再び石斧を振り下ろされたら堪らないと、まずはその腕を切り落とすことを決め技を放つ。

 

 (水の呼吸 肆ノ型 打ち潮!)

 

 岸を削り取る潮が如き斬撃はミノタウロスの腕へと食い込み。

 

 「えっ?」

 

 甲高い音とともにベルの真紅の瞳には根元から折れる日輪刀の姿があった。

 ミノタウロスの肉は断ちにくい。これは冒険者たちの共通の認識であり、同レベル帯の冒険者ですら舌を巻くほどの固さを持っている。当然ベルの目の前にいるミノタウロスも例外ではない。先ほどの鬼との戦いで既に限界が来ていたのだろう。ベルの持つ技量(ステータス)では、ミノタウロスの肉を断ち切るどころか、刃を保たせることさえできなかった。

 

 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

 もっとも今回はそれがうまく働いた。日輪刀の支えを失ったベルが地面に転がり落ちたのと同時に、ミノタウロスは腕に刺さった異物を取り払うように腕を振り回した。もし日輪刀が折れずベルがミノタウロスの腕にぶら下がったままなら、ベルは振り回された腕によってミンチになっていただろう。

 

 ベルは尻もちをつきながら後ずさる。自分へと向かってきた弱者が目論み通り獲物であったことに満足したのだろうミノタウロスの歩みはゆっくりしたものだった。きっとあの化け物がこちらまで来たら、あのベルの振るわれる石斧によってベルはごみ屑のように死んでしまうだろう。いや、もしかしたらあの堅そうな足の蹄に踏みつぶされてミンチになるかもしれない。どちらにしろベルが死体になることには変わりないだろう。

 

 

 (あ、僕はここで終わるんだ)

 

 

 冒険者になりたかった。

 鬼狩りになりたかった。

 

 ダンジョンの中で、ピンチの女の子を救って、あわよくばお近づきになりたかった。

 あの日自分が救われたように、もっと多くの人を救いたかった。

 

 子供のころから焦がれる英雄になりたかった。

 

 けど僕にはその資格がなかったようだ。

 

 今の僕の情けない姿を見たらどんな女の子も幻滅するだろう。

 

 

 『ヴォッ?』

 

 

 しかしいつまで経ってもベルに死は訪れなかった。

 代わりにミノタウロスの胴体に一閃が入った。

 

 ミノタウロスの間抜けな声。もしベルが殺され掛けていなかったら笑っていたかったかもしれない。

 けどベルにそんな余裕は一切なかった。

 今まさにベルを殺そうとしていた化け物にさらに一閃二閃、胴体だけにとどまらず鍛え上げられた肩や剛腕、下肢、厚い胸板、そして首。ミノタウロスのあらゆる場所が切り刻まれて行き、銀の光が走る。

 そして次の瞬間、ベルを殺そうとしていた化け物(ミノタウロス)はただの肉塊になり果てていた。

 

 『ヴゥ、ヴゥモオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?』

 

 断末魔が響き渡り、切られたことによるミノタウロスの血飛沫がベルの体を染め上げる。

 

 

 

 「大丈夫、ですか……?」

 

 

 

 月を見た。

 否、月のように美しい人を見た。

 

 薄暗いダンジョンの洞窟の中であっても輝きが損なわれることのない金髪。

 青色の軽装に包まれた細身の体。鎧から伸びるようなしなやかな肢体は眩しいくらいに美しい。

 繊細な体のパーツの中で自己主張する胸のふくらみを抑え込む、道化のエンブレム入りの銀の胸当てと手甲、サーベル。地面に向けられた剣先からは血が滴り、それは彼女がミノタウロスを肉塊に変えたことを現していた。

 

 鬼よりも恐ろしい、純粋な暴力を放つモンスターから自分を救ってくれたのは、女神と見間違えるほどの美少女だった。

 

 「あの……大丈夫、ですか?」

 

 際立つ月のように丸く綺麗な黄金の瞳が心配げにベルを見つめ、立ち上がらせようと手を差し出してくれていた。

 

 大丈夫じゃないです。

 全然大丈夫じゃない。

 今にも飛び出てしまいそうな心臓。呼吸法どころかまともな呼吸だってしてくれない肺。染まる頬に汗ばんだ額。

 英雄譚とは真逆の配役。自分はあのとき(七年前)と同じ側。

 悔しいはずなのに、恥ずかしいはずなのに。

 どうしてだろう……。

 

 

 (ベル)の心は(アイズ)に奪われ、盛大に恋をした。

 

 

 「けっ……」

 

 「け?」

 

 一瞬タンポポ頭の先輩の顔が過ぎったベルは、アイズの手を両手で握り返す。

 いつの間に理性という枷が霹靂一閃されていた。

 

 

 「結婚してください!!」

 

 

 「えっ……?」

 

 

 両手から伝わる少女の動揺とともにベル視界は一回転し、闇へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 




五階層と六階層って結構明るさ違ったので、ベル君がアイズに感じる印象も変わりそうですよね!


~オラリオコソコソ噂話~

炭治郎「これでベルも念願かなって、俺たちのファミリアで鬼狩りの冒険者になることができるんだな!」

ベル「これからも夢の一つを叶えるために頑張ります!」

炭治郎「ん? ベルは鬼狩りの冒険者で英雄になりたいんだったよな。他の夢もあるのか?」

ベル「はい! ダンジョンで助けたかわいい女の子と仲良くなることです!!」

炭治郎「ベル……人の夢にケチをつけることはよくないことだ。だけど、そんな浮ついた気持ちでダンジョンに潜るのは危険だぞ!」

ベル「えぇ!? でもおじいちゃんと善逸さんが……」

炭治郎「善逸?」

ベル「はい、なんでも善逸さんが――」


善逸『ベルゥウウウウ!! ここでオラリオコソコソ噂話! 鬼殺ファミリアの中で”柱”って二つ名を貰うためには幾つかの条件をクリアしないといけないんだけど、その一つはレベル5になることなんだ。つまりあのアイズさんと同じレベルにならないといけないんだぞ!』

ベル「そうなんですか…! 僕もアイズさんや義勇さんに追いつけるように頑張らないと…」

炭治郎「善逸! ベルに何を話したんだ!」

善逸「ひぃ! やめて炭治郎! そんな顔しないで!」


ベル「次回第六幕!”入団と恩恵”」

〇〇「むー!(次回もお楽しみに!)」

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