今回は、彼の周りの人達のその後です。知り合い(?)が事件に巻き込まれたという事で、並々ならぬ不安が皆を襲っている事でしょう。それに便乗して、更に悪い事でも起こらないと良いのですがね。
では、どうぞ。
[中トレ 廊下]
「ねぇ、最近フジキセキ先輩とナリタブライアン先輩元気ないよね」
「まぁ、あんな事があったからね~。あんな怪我ばっかさせるトレーナーだったって事に気付いてショックだったんじゃない?それまでは先輩達も信頼してたみたいだし…」
……またか。これで何回目だ。あの一件から、私達の事を心配する……と思いきや、ソレを口実にアイツを悪く言う輩が増えた。気がするとかいった推測ではなく、最早確信の域にまで達する程には。フジの方も、私のような輩を見かけるようになったと言っていた。…話題のタネになるのは少しばかり気恥ずかしいものだが、今回ばかりは苛立ちが増すばかりだ。
「おい」
「ヒッ!ブ、ブライアン先輩……」
「それ以上アイツについて何か言ってみろ。…ただで済ませる気は無いぞ」
「は、はいぃ!!」
そんな輩を見かけては、こうして圧をかけていく。こんな事を何回も繰り返すうちに、段々と疲労が溜まっていく。最近はそんな事ばかりだ。走っての練習が出来ないため、私達は座学に注力している。その合間にリハビリをして、休憩して座学と、その繰り返し。周りのヤツに分かる程、私達は溜め息が増えているのだそう。…噂によると、人は疲労が溜まったりすると、髪が白くなったりするそうだが、私もフジもそうなってしまいそうになる。生徒会の仕事をしている時や食堂で食事を摂っている時に知り合いに、「疲れているのか」「悩みでもあるのか」等と言われた時は、私も内心驚いた。周りが気付く程、自分が気疲れしているのだと、強く思い知らされた気がした。
フジ曰く、理事長にこの噂をどうにか鎮められないかと要請したらしく、(完全には不可能だが)ある程度は収められるよう手を打つとの事。ありがたいのはそうなのだが、トレセン内のみに留まっていない事を考えると、焼け石に水なのだろう。
「……またかい?気の毒だね。…それに、何もしてやれない自分が、今まで以上に不甲斐ないばかりだよ」
「…会長か」
そんな私に話しかけてくる声の主こと、シンボリルドルフ。私がいつか完膚なきまでに叩きのめすと決めている相手の一人。そんなトレセンの生徒会長が、私の前で悔しそうな顔をしている。…握り拳も、かなり強く握りしめているようで、それは、もう少し力を加えてしまえば出血しかねないくらい程だ。
それを見かね、私は気にするなと宥める。……私が他人を宥める日が来るとはな。今の会長の驚いた顔を見て察するに、恐らく会長も私と似た事を思っているのだろう。
「……まさか、慰める立場の私がそんな事を言われるなんてね。…つくづく、情けなさを感じるばかりだよ」
「…そんな事を思ってるくらいなら、フジの方を気にかけてやってくれ。アイツの方がよっぽど心にキているはずだ」
…今のフジは、また何かあれば心が持ちそうにない程まできているだろう。同じチームにいた事もあって、アイツのポーカーフェイスを見破る事が出来るようになったが、まさしく「はい、無理をしてます」とでも訴えかけている心を閉じ込めている。悪く言えば、問題ナシだよと取り繕っている。
本来…誰かに頼ろうとしていたのなら、フジのプライドの為に黙っていようと思っていたが、もう我慢ならん。私からしたら、今のアイツは腑抜けだ。…別に、悲しむなとは言わない。が、私達……いや、
──だから、私は待つ。ここまで私を心配させたアイツに、一発入れてやらないと、気が済まないからな。
[レース場]
「…よし、今日はこれで終わるぞ!柔軟をして、各自で解散!」
『はいっ!!』
自分の担当バにそう告げ、トレーニングを終える。さて、俺も帰る準備をしないとな……。等と考えていると、担当の一人であるサイレンススズカが俺にこう尋ねる。
「…トレーナーさん?何か悩みでもあるんですか?」
「…………」
──図星だった。…まさか、スズカに気付かれるとは思わなんだ。気付かれるんなら、マックイーンだとばかり……。…いや、そもそもだ。俺、そこまで分かり易く表情に出していたのか?過去の自分を振り返ってみるが、以前からさほど変わっていない筈。
……だが、発覚してしまえば、気付く気付かないどころの話ではなくなる。こうなってしまうと……
「珍しいね~!何で悩んでるのさ~!このテイオー様に言ってみなよ!」
「えぇ!?トレーナーさん、悩み事があったんですか!?そういう事は隠さないで下さいよ!」
…こうなるのが目に見えていたから、俺は言いたくなかったんだ。テイオーと……スぺがこうして食い気味に聞いてくるだろうからと思っていたのだが、予想は的中。…マックイーンやスズカまで少し食い気味なのが、ちょっと予想外だったが。
「……いや、言えない。あまりに個人的な問題だからな」
「えぇ〜?そんなに重要な事なの?いつもなら何だかんだ教えてくれるのに〜」
「……あまり詮索するのは好きじゃないですが、抱え過ぎると、身体にも心にも毒ですよ」
分かっている。普段そんな事をしない俺だから、そして、周りにそういう奴が多かったからこそ分かる。俺みたいな奴が悩みを抱え続けたところで、負荷に耐え切れないのがオチだろう。
……だが、担当バに打ち明けたところで、どうにかなる問題ではないし、問題の規模が些か大き過ぎる。きっと心持ちが悪くなるだろうし、もう少しは打ち明けないでいるのが正解だろう。
「……あぁ。落ち着いたら、教えてやるよ」
だから、今だけ嘘をつかせて欲しい。あわよくば、墓まで持っていきたいところだが。
[別のレース場]
「……よし、今日の練習はここまで。各自で解散して問題無い。」
『はい!』
…今日も、練習が終わる。そして、一日が終わる。……ただ、今の私達の日常には、彼の姿は無い。職員室で必ず見かける彼、どこか気さくに話しかけてくる彼、担当バの練習を見ている彼。そのどれもが、トレセン学園から姿を消していた。
少し前、トレセン学園の職員一同に向けた一つの通達がなされた。内容が書かれている紙を見て、私はすぐさま理解する事が出来なかった。……いえ、理解したくなかった、の方が正解かしら。
その時、ふと周りの皆の反応が気になり、皆の表情を疑ったが、殆どの職員が暗い表情を浮かべていた。パラパラと喜びの表情を浮かべた者も見受けられたが、恐らく、彼に嫉妬していた小心者だろう。……腹立たしい。
「……トレーナーさん?何かあったのですか?」
顔に出ていたのか、最近リギルに加入した新入生のうち一人のグラスワンダーが、私の顔色を伺うように尋ねてくる。
「何となく事情は掴めます。例のトレーナーの事ですよね?トレーナーさんと、沖野トレーナーはあのトレーナーの同期と聞いてます。それに、スペちゃんのトレーナーもトレーナーさんと同じようだとも聞いてます」
いや、そんな事は無い。そう言おうとした私の口は、ソレより早く放たれた彼女の言葉を聞いて、その言葉を発するのを止めた。私と彼が同期だとは言った事が無かったのは、この際目を瞑ろう。私と彼が話をしていたところを見られたのだろう。それで納得(というか理解)出来る。
だが、悩んでいる時の表情一つでそこまで見破れるものではないだろう。彼女は他の者より人の心を読み取る事に長けているのはどことなく察していた。仮に、今回もソレが要因なのだとするならば、この子が少し、恐ろしい。ポーカーフェイスでも浮かべないといけなくなるかもしれない。
「……そうだ。本当はこの事について誰にも言うつもりはなかった。私が悩んでいると分かってしまえば、貴女達の士気が下がると思ったのよ。それに…この問題は、貴女達に話すには重い内容だとも思ったのよ」
そんな彼女に観念した私は、本音でありながらも、核となる部分には触れないようにそう言い放った。彼女も、私の言った内容に納得した模様。……そういえば、スぺちゃんのトレーナーが云々と言っていたわね。…彼も、担当にバレたのかしら。彼は隠す事においては人より一枚上手だったはず。…ウマ娘の賢さを、少々過小評価していたのかもしれないわね。
「……つかぬ事をお聞きしますが、そのトレーナーさんは無事なんですか?」
「……一応ね。ただ、思っていた状態とはかなり違った状態である事と、状況がどう変化するのかが予想できない事が分かっているわ。他の詳しい事はサッパリね」
彼女がここまで私について事細かに聞いてくる事も中々なかったために、私は少々困惑しながら言葉を発する状態になった。同級生であるスペシャルウィークやエルコンドルパサーについて事細かに聞くのなら納得がいくのだが。
彼女と話ながら、今でも私は彼の安否が気になって仕方ない。私は周りから出来る人、冷徹等といったレッテルが貼られているらしく、私は孤立していた時期があった。そんな時に私に絡んできていたのは、あの同期二人だった。時には担当についての話、時には飲みに行ったり、時には闘志を燃やして競い合ったり……二人に直接言ってはいないが、彼らにはとても感謝している。
その中でも角田は、世話焼きな性格であった。沖野が何かして私が怒る時、彼は必ずと言って差し支えない程仲裁役を買って出たし、三人で会う時には必ず何か差し入れを持ってくる。それに、私や沖野の担当の指導やアドバイスまで(彼曰く自発的に)していた。それに加えて自分の担当の指導と業務。更に追加で、彼は悩みを人に話したりはしなかった。私達が本気で説得して初めて話す程には。
そんな彼は、自分の中で問題を解決する人間で、ソレをよく知る周りの者は心配でならなかった。いつか潰れてしまうのではないか、学園側に対応を要請せず、何か大事に至るのではないか、と。今回の場合、まさにそうなってしまったといっても過言ではないだろう。しかも、最悪な形で。
「……無事に戻ってきなさいよ…………」
私が放った誰に向けてでもない一言を、私以外の唯一人、グラスワンダーが不安そうな表情で聞いていた。
「緊急!角田さんの容態が急変しました!!至急応援を!!」
──暗雲立ち込める今日の空は、コレを予言していたのだろうか。
はい、いかがだったでしょうか。
最後に不穏な描写がありましたが、無事に済むのでしょうか。次回もお楽しみに。
話題は変わりますが、作者は現在(恐らく今までで一番)多忙の身です。もう少しで大学も始まるので、そうなれば益々投稿頻度が遅くなります。どうか、気長にお待ち下さい。
では、ご精読ありがとうございました。