ウマ娘 ひび割れた祝杯   作:Cross Alcanna

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どうも、Cross Alcannaです。

事情と多忙が重なり、少々投稿が遅れました。申し訳ないです。大学も始まり、勉強とバイト、運転免許の三点両立をしなければならない状況ですので、これからもこのような事が起こると思いますが、目を瞑っていただけると、幸いです。

では、どうぞ。



盛者必衰

[グラウンド]

 

「エルコンドルパサー!フォームが崩れているぞ!!」

 

「…………」

 

リギルに一時移籍になって、はや二ヶ月。私達はリハビリ以外のトレーニング時間を、リギルのウマ娘の観察に時間を割く事に決めていた。「物質を盗む事は犯罪だが、物質でない物を盗むのは犯罪にならない」と、前々から言われていて、私達はレースを観戦しては他のウマ娘の技術を盗み得ていた。それを、ここでも続けようと決めたのは、私達がレース観戦に時間を割けない事が決定打となった。それに、リギルのウマ娘は、周囲から見ても強豪と言えるウマ娘ばかりが揃っている。そのウマ娘の技術を、レースに行かずにトレセン内で見れるのだ。これを活かさない手は無い。

 

「グラスワンダー!いつもの末脚はどうした!!」

 

「…………」

 

隣にいるブライアンも、リギルのウマ娘をじっと観察している。ブライアンとしては、自身と互角に渡り合えるウマ娘を探しているようにも見える。トレーナーさんの下でレースをするようになってから、ブライアンは渇きを満たし続けた。けど、未だ満たされきっていないらしく、股関節炎を患う前まで、様々なレースに出走していた。

 

勿論、他のウマ娘も強敵と走りたいとは思っているのだろう。ただ、ブライアンは少し訳が違った。ブライアンは、元の身体能力が高くて、努力家だった。メイクデビューに至るまでに多くの努力を積んできた彼女に、デビューを果たしていない段階でブライアンと渡り合えるウマ娘が、いなかった。それは、デビュー後も例外ではなかった。会長とのレースで敗北するまで、ブライアンに敗北は無かった事が、彼女の強さを物語るには事足りるだろう。

 

それ故に、彼女はトレーナーを転々と変えていった。匙を投げられてはトレーナーを変えてレースに出て、また匙を投げられては……。そんな中で彼女に目を付けたのが、私のトレーナーさんだった。トレーナーさんは前々からブライアンの事をチェックしていた。そんなブライアンに対して彼は、「勿体無い」の一言だった。今となっては明確に分かった事だけど、彼女の才能を他のトレーナーが活かしきれていない事を言っていたらしい。

 

そこからスカウトに至って、紆余曲折合って……今に至る。思えば、ホントに色々あった。今回みたいな挫折もあれば、名誉あるG1優勝のような嬉しい事も沢山あった。トレーナーさんはプライベートでも付き合いが良かった。…そのせいで、他の子とお出掛けした事を知って私達が嫉妬した、なんて事もしばしばあったっけ。……私達は悪くない。トレーナーさんが担当じゃない子とお出掛けなんてするから。

 

…兎に角、私達はトレーナーさんから、色々と教わった。きっとこの時の為ではないにしろ、その教えが今、こうして実践以外での実力向上に役立っている。……もしトレーナーさんがこういう時の為に教えた、なんて縁起のない事を言ったら、デコピンでもしたいものだ。「縁起でもない事を言わないで」ってね。

 

「…よし、今日はこれで終了とする。各自で柔軟を終わらせた後、質問や相談が無い者は解散して構わない」

 

…昔話に、一人で花を咲かせているうちに、リギルのトレーニングが終わっていた事を、東条トレーナーの言葉を以て知る。リギルのポニーちゃん達が各々行動している。東条トレーナーに相談へ向かう者、自主練をしようとする者、同級生と話をする者、寮へと歩を進めんとする者。一つのチームの中でも、見れる行動は十人十色。移籍したての私は、リギルの話を噂で耳にしていたチームイメージをひっくり返されたようで、かなり驚いていた。

 

それはさて置いて。そろそろ寮に戻ろうとしていた私達のもとへ、小走りで駆けてくる人影が一つ。…たづなさんだった。私の中で、たづなさんが私達の所へ急いで駆けてくる時は、凡そ良くない事がある時だというジンクスが生まれつつある。実際、ついこの間は割と悲報が多かった事が、何も悪くないたづなさんに、悪い偏見を追加してしまう。……虫の知らせならぬ、たづなさんの知らせ。……やめよう、こんな事を考えていたら、良くない気がする。

 

「フジキセキさん、ナリタブライアンさん。お知らせしたい事が……」

 

「……」

 

…ブライアン、せめて「用件は?」ぐらいは言ってあげようよ。肩で息してるたづなさんを無言で(若干冷たい視線と共に)見るのは、あまりにも酷いと思うんだ、私は。…確かに、たづなさんが切り出す話が最近良くない話が多いから、多少身構えるのは分かるよ?ただ、たづなさんは悪くないんだし、冷たい目で見るのはどうかと思うよ。……それを声に出して言えない私も、大概か。

 

ただ、たづなさんから切り出された言葉は、私達の予想を超えるものだった。

 

「…角田トレーナーとの面会の、許可が下りました!」

 

「…………何だと?」

 

「本当ですか!?」

 

「……ッ」

 

まさかまさかの内容。それは、トレーナーさんとの面会許可が下りたとの内容だった。あの一件から、一向に面会謝絶が続いていた。最初の入院から面会をしていない為、二ヶ月よりも永く面会が出来ていない状況だった。

 

チラリと見えた東条トレーナーの表情は、「驚きを隠そうとしてはいるが、隠そうとする意思とは裏腹に隠し切れない」を体現しているようなソレだった。トレーナーさんとは同期だったと聞いているから、トレーナーさんへの思い入れが他人とは少し違ったモノなのだろうか。……動揺しているからか、視線が空を泳いでいる。こんな東条トレーナーは初めて見た。…それ位、大事なのかな。

 

東条トレーナーから一度離れて、トレーナーさんについてに戻る。トレーナーさんが狂暴化した件から、病院からは面会謝絶の一言ばかりだった。たづなさん伝手で伝えられたけれど、面会謝絶と言われてから今日までずっと、理事長が数日おきに面会の交渉をしていたらしい。しかし、返ってくる返事は、拒否の意と、トレーナーさんの現状について。トレーナーさんについて話が合った時は、私達にも内容を伝えてくれた。ここ最近になって、漸く狂暴化が落ち着いてきたようだが、安全面で問題が無いかどうかは正直厳しい、そう返事が来ていた。

 

そんな状況で、面会が解禁された。ソレが、私達を戸惑わせるのには充分過ぎた。勿論、ソレは私達が望んでいたモノ。でも、あまりにも急過ぎた。まだ厳しいかもしれないという通知からの許諾。ただでさえ、今の心理状態でトレーナーさんと会うのには心の準備がいるというのに、これでは、心の準備が万全でなくなる。ソレが、私達の心を、更にかき混ぜる。

 

「明日から面会が出来ると言ってまs『行きます』……分かりました。時間はこの時間でお願いします。授業の欠席等については、私の方から連絡しておきますね」

 

明日から行ける?なら、行くしかない。心の準備が出来ていないのは確か。でも、ソレを理由に面会に行かないかと言われれば、違う。例え心の準備が出来ていなくても、私は一刻も早くトレーナーさんと顔を合わせたい。この数ヶ月、私(と、恐らくブライアン)は、ずっと心に穴が開いたような心持ちだった。生活するのに、支障が出始める程には。ソレを埋める為にトレーナーさんの事を考える事なんてしょっちゅうの事だった。トレーナーさんがいると思い込んで、そこにいる筈のないトレーナーさんに話しかける事もあった。……その様子を見た周りの皆から、何度心配された事か。……30くらいから、数えるのを止めた事は覚えているけれども。

 

「……おい、フジ。寮に戻らなくて良いのか」

 

「……え?…あっ」

 

ブライアンの一言が、私を現実世界に引き戻す。半ば呆れ気味のその声に考えが向き、辺りを見てみるが、そこにいたのは私とブライアンだけだった。……私が思考の世界に立ち尽くしていたうちに、話が終わりを迎えたのだろうか。…そこまで永く思考の沼に浸かっていたつもりが無い辺り、私もまだ重症なのだろうか。

 

「……じゃあ、また明日だね」

 

「……今日は、早めに寝る事を勧めるぞ」

 

あらら、ブライアンにそう言われちゃうなんてね。……内心、自分の心身状態が心配だから、その忠告には従っておこうかな。……明日が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[とある病院 面会室]

 

「それでは、角田さんを呼んできますので、少々お待ち下さい」

 

その一言を最後に、トレーナーさんの担当医さん(と思われる人)は面会室を出た。……昨日はああして大言したものの、いざその瞬間が近づいてくると、かつてない程緊張が止まない。G1レースでさえ、ここまで緊張しなかったというのに。…それに、緊張しているのは私だけではなかった。

 

「……ブライアンも、緊張してるんだね。少し、意外だよ」

 

「私を精神最強か何かと勘違いしてないか?……私だって、緊張するさ。…滅多にない事、ではあるが」

 

横の椅子に座っているブライアンを見て分かるのが、身体の所々を小刻みに震わせている程に緊張している事。普段武者震いをした場面さえ見た事の無いブライアンが、私の横で身体を震わせていた。プルプルと、怯え、緊張、警戒……どんな感情が彼女の中で渦巻いているのか、ソレから読み取る事は叶わない。

 

……一体、トレーナーさんはどんな状態になっているのだろうか。たづなさんから大まかには聞いていたけれど、それでも少し濁して伝えていたような気がしていた。私達の事を考えてそうしていたのかもしれなかったと納得する反面、真実を知りたかったと思う反面が、今日この日まで交わってならなかった。

 

…私の夢が現実になったと知って、当初の私は精神が崩壊した。その後に精神が回復するまで、私は精神が異常だった頃の記憶が抜けている。ソレを見、知ったたづなさんと理事長が、ウマ娘の精神の脆弱さを新たに研究するよう別機関に申請したり、トレセンのウマ娘への心的配慮を見直すという事態にまで発展したらしい。きっとたづなさんは、当時の私の姿を間近で見たから、配慮には十二分に気を配るようにしたのだろう。その結果、私達に伝える内容を添削したのだろう。理屈は分かるけれど…………どうしても、吞み込みきれない自分がいる。

 

……私達は、様々なレースにおいて【猛者】等といった部類に入るウマ娘の一人だった。世間からの目が変わるまで、トレーナーさんも最優秀なトレーナーの一角だった。そんな私達が、ここまで底に叩きつけられる。…いつかの授業で盛者必衰なんて言葉を聞いた事がある。どれだけの盛者であっても、いつかは必ず衰退していく。そんな意味合いを持つ言葉。…今の私達に、一番当てはまる言葉だろうか。……身を以てそれをより一層知る、とはよく言うけれど、コレは身を以ては知りたくなかったものだ。

 

どれ位の思考を重ねた事か。絶え間ない思考の隙間に、面会室の扉が開く音がした。私の脳は、その音を機に思考を放り投げる。担当医さんが入ってきた。それに続く、もう一つの足音。十中八九、トレーナーさんだ。私達が待ち望んだ瞬間が、ようやく訪れる。

 

……そんな考えは、すぐにかき消される事になった。

 

「……金属音?」

 

「……金属?病院で?」

 

不意に聞こえてくる、不規則な金属の音。恐らく、病院内で発せられている音だろう。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……そして、その答え合わせの機会は、すぐさま訪れる事になった。

 

「……トレーナーさん!?」

 

「なっ……!!おい!これはどういう事だッ!!」

 

 

 

──トレーナーさんに嵌められた沢山の鎖が、奇妙な金属音の正体だった。

 




はい、いかがだったでしょうか。

盛者必衰、小中学校で一度は聞いた事がある言葉ですね。こうした競合の世界では、何時、誰がこうなるかも分かりません。最悪なタイミングで、そうなるべきでない人物がそういった状況に陥る事も、勿論ある訳です。現実世界だろうが、創作された世界だろうが。

では、ご精読ありがとうございました。
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