少し前までは、(別サイトの事例ですが)ガイドライン改正についてというお知らせが、ウマ娘小説検索に大量に引っかかっていましたが、今ではある程度落ち着いています。この改正が、新しいウマ娘の登場に繋がっているのでは?等と噂されていますね。私も、その線はあるなと思っています。二次創作でやらかし過ぎたから規制、という面もあるでしょうけど。
では、どうぞ。
[とある病院 中庭]
「本格的に寒くなって来ましたね、角田さん」
「ですね。そろそろ厚着しないと、風邪を引いてしまいそうなくらいになりましたね……」
今日も今日とて、中庭にて外出のリハビリ(?)の真っ最中。そんな日でも、面会がある。今日はまた二人来るらしく、フジが来るのは聞いているのだが。もう一人については、詳しく聞いていない。……誰だ?ブライアンが来るにしろ、アイツは事前に連絡を入れるタイプだしな。
……もしかして、理事長か?あの人、トレセンのトップながら、サプライズ性が強いからな。「面会ッ!サプライズだぞ!」とか言ってきそうだ。
ウマ娘については、もう心当たりがない。俺自体、トレセンの外に出てしまえば、そこまで交友関係がある訳では無い。人ならば、乙名史記者とかその辺りだろうか。……後は、何故かメジロ家の主治医。
…ホント、どうしてメジロ家の一端にまでパイプを持ったんだか。俺が不思議に思うくらいなんだが。俺の交友関係、極端な気がするぞ。
「……雪、降るんですかね。この地方は、つい数年前までは雪が降らなかったんですが、近年はよく降ってる印象ですし」
「…降らない方が、良いと思いますよ。……有馬が、ありますし」
雪を楽しみにしている人には申し訳ないが、今年は降らないで欲しいと、切に願うばかりだ。…例年年末に開催される有馬記念だが…今年の有馬は、例年と意味合いが違う。
それに、雪が降ってしまえば、場上が重くなってしまい、ただでさえリハビリの最中にあるブライアンが、実力を発揮出来なくなる可能性も生じる。……ブライアンには、是非とも勝って貰いたいからな。
……あれ?
「……?どうかしましたか、角田さん」
「…あ、いや、大した事じゃないんですが……」
──あの雲の色。これから晴れるんじゃないかな、と思いまして。
[面会室]
「角田さん!大丈夫なんですか!?」
「来て早々、そんな大声を出すもんじゃあないぞ。ましてや、ここは病院なんだからな」
「……あっ、すみません…。心配だったので……つい」
そうして冷静さを取り戻して向かいの椅子に座るのは、今日の面会者の一人である、キタサンブラック。…どこかで見た事があると思ったら。俺の記憶が正しければ、あん時のトウカイテイオーのレース場で会った二人のうちの一人か。随分と成長したもんだ。これが俗に言う本格化ってヤツか?事例が少ない事もあり、俺も真実についてはお茶を濁さざるを得ない。
それはさておき、コイツは来年に中トレに入学する予定らしい。どこから漏れたのか知らんが、コイツともう一人のサトノダイヤモンドの才能が、またずば抜けているのだとか。東条も、来年のスカウトに向けて考えているトレーナーもいる、とか何とか話していた気がする。恐らく、二人をスカウトしよう等と考えているトレーナーがわんさかいる事だろう。…まだ入学出来るかも分からんのに考えるのも、トレーナーとしての職業病と言えるかもしれんな。
「…で?そっちは調子良いのか?何でも、来年トレセンに入るんだろう?」
「えっ?何で知ってるんですか?」
「お前とサトノダイヤモンド、世間じゃあ時の人だぞ。お前らの情報は、割と世間に出回ってる」
嘘っ!?等と言いながら慌てる辺り、内面はまだ成熟していないように見える。トレーナーになる際に、当然本格化について知識を付ける事になるのだが、本格化の弊害として主に挙げられるのは、心と体の不一致。簡単に言えば、身体は成熟に近くなっても、心まで成長する訳では無い、という事だ。人間を例に挙げるなら、思春期がソレに近しいだろうか。本格化の際、実は心身共に成長する。が、身体の成長より心の成長の方が、かなり遅い。この事について詳しく判明したのは、つい最近の事。研究機関曰く、未だ未発見な要素もあると踏んでおり、研究の余地は多いらしい。
先程の反応が、かつてコイツと初めて会った時の表情を彷彿とさせる。確かあん時、コイツに対して色々と言った気がするな。……思い出して思った事だが、あん時の俺、随分と歯の浮くような言葉ばっかり言ってたな。…少し、恥ずかしくなる。子どもに対してあんなに強く夢を説いてきたのかと考えるだけで、コイツの目の前から逃げてやりたいくらいには。…だが、外には看護師さんや警備員が控えている。俺が急に外に出たもんなら、間違いなく面倒な事になる。…くっそ、公開処刑にも程があるだろ。
「…一つ、聞きたいんだが」
「……?何ですか?」
「お前がトレセンに入ろうって決めた理由、もしかして……俺が要因か?」
ふと、気になった事を聞いてみる。先程俺が考えた事も相まって、そんな事が気になって仕方ない。「答え合わせをしよう」的な事を言った記憶がある為に、そんな事まで嫌な予感が過る始末。
そして、キタサンブラックから返ってきた答えは、俺の悪い予感の的を射たものとなる。
「はい!私の答えを聞いてもらって、私のトレーナーさんになってもらおうと思いました!」
「…………」
かつての俺を、あの時高らかにあんな事を言ってのけた俺を。心の底からぶん殴ってやりたいと思うのは、これまでの人生で今日が初めてだ。羞恥で死んじまいそうだ。…穴があったら、今ならゼッテェ入るわ。サイレンススズカ並みの速度で。
…つか、俺にトレーナーを?……あ、コイツ知らねぇのか。
「…なぁ。俺、トレーナー辞めるんだわ」
「…えぇぇ!?どうしてですか!!」
年相応の返答をどうも。どうしてと言われてもなぁ……まぁ、この人にトレーナーになってもらうって決めたのに、そのトレーナーが入学する年に引退するってなったら、こんな反応になるのか?生憎、そんな状況になる程の人望は持ち合わせてねぇからな。実例なんてあったもんじゃあない。
まぁ、別に機密事項とかじゃああるまいし。理由くらいは話してやるか。そう思い、俺は理由を今までの経緯諸共話した。するとどうだろうか、突然机をバン!!と叩いたではないか。
「そんな……じゃあトレーナーさんの夢は、どうなっちゃうんですか!?」
「どうも何も、はい叶いませんでした、で終わりだろ。事実、社会ってのは案外そんなモンだ。小説みてぇに都合の良いようにいくこったぁ、無いに等しいだろ」
「…トレーナーさんもトレーナーさんです!トレーナーさんを必要としている人達はどうするんですか!」
…逆に、俺にどうしろと言うんだ。そう言いたい気持ちを抑えに抑え、ギリギリのところで飲み込む。
確かにコイツの言う通り、俺がココでトレーナーを降りれば、俺を必要としているヤツの後押しは叶わず、俺の夢とは程遠い現状を産むことになる。……だがな。
「…だがな、それが出来る人間じゃあねぇんだ。あんなに打ちひしがれてしまって、それでも尚立ち上がれるような根性を、俺は持ち合わせてねぇ。あれから俺も考えたが、出来るならまた夢を見てぇさ。…でもな。脚が、身体が、心が。ソレにビビるんだよ。『辞めておけ』『もう一度あんな思いはしたくないんだ』って、俺に訴えるようにな」
「……トレーナーさん」
「……わりぃ。何か変な空気になっちまったな。もうそろそろ良い時間だろ、そろそろ帰る支度でもしな」
その言葉を放ち、俺は病室に戻る支度を始める。……が、キタサンブラックの一言が、俺の手を止めた。
「トレーナーさん!!私、待ってますから!」
──貴方なら、必ず戻ってくると信じてます!!だから──
「…トレーナーさん、大分良くなったんだね」
「とか何とか言う割には、お前の方が元気ねぇじゃんかよ」
「……見ていられないんだ。目付きも口調も、色々変わってしまったトレーナーさんが」
今日二人目の面会者は、フジだった。…つか、人の事を「見ていられない」とか何とか言うとはな。フジにしちゃあ毒が強いこって。さり気なくバ鹿にしてんのか、拳骨お見舞いしたろか。
「これでもリハビリしてんだが?つか、見ていられないとまで言われるとはな」
「だって!そうだろう!?」
そう言って、言葉に怒気を孕ませる。いつものエンターテイナー的雰囲気はすっかり身を潜め、ソコにいるのは、ただ怒りをぶつける少女。普段見る事のないフジの声や表情に、俺ですら驚きを隠しきれない。普段からエンターテイナー的振る舞いをしているからこそ、こうして
「私はさて置いて、ブライアンは死に物狂いでリハビリ兼練習を続けている!キミに夢を魅せるの一点張りで、本当は出来るかも分からない有馬制覇に向けて!そんな中で!キミがッ!前を見ないでどうするのさ!!今夢を手放して、キミは後悔の念は無いと言い切れるのかッ!!」
言いたい事を言い切ったのか、肩で息をするフジ。あれだけ強く言ったからか、息継ぎもどこか乱暴だ。…何故だろうか、アグネスタキオンとの面会を思い出すな。確かアイツも、似たような事を言っていた気がする。アイツらしくなかったから、俺の中で割と印象深かった。…俺が夢を失って、か。
「……なぁ、フジ」
「…………何だい」
とある事をフジに訊ねるべく、俺は話を切り出す。が、フジから返ってきたのは、素っ気ない返事。そして……少しだけ、冷ややかな目線。「今の貴方は、私の尊敬するトレーナーさんじゃない」とでも言いたそうにしながら。
「……どうしたら、良かったんだろうな」
言った。遂に。今まで誰にも見せなかった弱気な考え。何度か零れそうになったこの言葉、その都度飲み込んできた、この言葉。入院して永い間考え続けて、唯一答えが出なかったこの疑問。この問いの答えを探す為に、何回の夜を消耗した事か。何度、答えを出す事を放棄した事か。
…俺は、ずっと知りたかった。この問いの答えを。夢を見たあの時から間違っていたのか、はたまた俺のトレーナー人生の中にミスがあったのか。……俺の何が、間違っていたのか。
「…………分からないよ」
…嗚呼、やっぱりそうか。俺以外に、答えは出せないか。俺が答えを出せないなら、もう詰みなのか。その思いと同時に、やるせなさが心に雪崩れ込んでくる。俺の心は、もう晴れn
──でも。前は向けるでしょ?
フジが放った、何気ない一言。ありきたりなその言葉が、俺には輝いて見えた。呆けている俺を他所に、フジは言葉を続ける。
「トレーナーさんがどんな気持ちなのかは分からないし、どこで間違えたかは分からないよ。…でも、前に進まないといけないんだよ、私達は。色々な事があって、時には立ち止まりたくなる事もある。…私もそうだよ」
ここまで言って、一息入れるフジ。俺は、未だ固まっている事しか出来ない。
「でも、でもね。奔らなきゃいけないんだ。時にはゆっくり歩いて、時には止まって。…でも、進む事を放棄するのはダメ。ソレを教えてくれたのは、トレーナーさんでしょ?夢を叶えるなら、止まる事は考えるな。そう言ってくれたでしょ?」
──そうだった。
まさか、昔の俺の言葉が、俺の心に響く事になるとはな。でも、言葉にはフジの思いも乗っていた。…心が、晴れていく気がする。まだもどかしさが残るのは事実だが、俺の心にスッと染みていくのが分かる。
「……なぁ、フジ」
「……何?トレーナーさん」
──また、見つかるかな。俺の、夢。
その時窓に見えた快晴の空に、どこか懐かしさを感じた。
はい、いかがだったでしょうか。
今回にて、面会回は一区切りです。次回は、夢の舞台が幕を開けます。レースの細かい描写が書けるかが心配ですが、頑張ります。
皆のオモイを乗せて、彼女達は走る。その走りが、また誰かに夢を魅せる。
では、ご精読ありがとうございました。