ウマ娘 ひび割れた祝杯   作:Cross Alcanna

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どうも、Cross Alcannaです。

シリアス寄りの小説となっておりますが、今回のような日常回も挟みながらやっていきます。そのうち、アンケートで登場キャラを決めてもいいかもしれませんね。
私が小説を書くと、どうしても堅くなってしまうのが少々悩みどころです。もう少し柔らかい雰囲気の小説も、書いてみたいのですが。

では、どうぞ。



狂気と狂気

[トレーナー室]

 

 

「……ふぅ、これで一区切りかな」

 

今日はフジ達の練習も無く、自由に過ごすよう指示している。フジはどうやらヒシアマゾンとの約束があるみたいで、ちゃんと休暇を謳歌しているようだ。

 

ブライアンはと言うと、姉であるビワハヤヒデとの買い物があるとの事。ブライアンはあの性格故に、自身を着飾ったりする事に無頓着。彼女自体、容姿はそこらのモデルより遥かに整っている為に、より一層勿体なく感じる。今回は、それに見かねた姉が買い物に連れて行く、という訳だ。

 

ここに来るまでにブライアン達とすれ違った時にチラッと見てみたのだが、ビワハヤヒデの表情が幾分か柔らかくなっていた。ブライアンの性格だと、一緒に行動しようと言われた時の反応が思春期の男子のような反応になるのだろう。そんなブライアンと一緒に出掛けられるのは、姉として嬉しいのだろう。

 

「さて、時間は……っと、もう14時を回ったのか。昼食は……摂らなくても良いか」

 

色々と思考を巡らせているうちに、気付けば時計は2を指していた。こんな事になっているのも、()()()()()()()()()()()。と言うより、()()()()()()()()

 

……一度だけ、彼女達の練習時に倒れた事があった。そのタイミングが、丁度彼女達がこっちを見ていたタイミングだった為、僕が怪我をする事は無く、目立った外傷なく済んだ。

 

ただ、保健室にて目を覚ましてからが凄かった。ブライアンは兎も角、滅多に怒る事が無い(ましてや、怒った姿を見た事がなかった)フジが、今までに浴びた事の無い怒気を放ちながら、僕に数時間に渡る説教をしてきたのだ。後半は、泣きながら僕に抱き着いて「良かった……」と言っていたけれど、あんな経験は二度としたくは無い。

 

「でもまぁ、まだ区切りが良くないからなぁ…夜食べれば良いかな」

 

「良い訳無いだろう?私も食事の手を抜く事はするが、君の食の優先度の低さは異常だぞ?」

 

食事は夜に摂る事にしたのだが、それをとある声が制止する。…ん?鍵を開けっぱなしにしていたか……?

 

「何度もノックしたが応答が無かったのでね、鍵も開いていたからお邪魔させてもらったよ。研究について話したい事があったから来たんだが……フジキセキに告げ口した方が良いかな?」

 

「止めてくれ。あんな怒気を浴びるのは、しょうがいを通してあれっきりで十分だ」

 

おっと…思考が過ぎていたか。悪癖とも言えるね、ここまで来ると。

 

それはさて置き、いつの間にかトレーナー室にいたのは、超高速の粒子と言う異名を持つアグネスタキオン。たった4戦で伝説を創り上げた名バだ。ただ、彼女は元より身体が弱いらしく、皐月賞後に屈腱炎を発症し、引退。その後は渋々と彼女のトレーナーとの契約は解除、現在は中トレの何処かで研究三昧だとか。…何処で研究してるんだか。

 

そうは言うが、僕と彼女には接点がある。先程の彼女の発言から分かる通り、研究仲間だ。厳密に言うとまた少し複雑なのだが、研究仲間と言ってもあながち間違いではないので、ここでは割愛。

 

彼女の研究内容は、主にウマ娘の限界の先についてとの事。何でも、レースから引退せざるを得なくなった際、今まで以上に研究心に火がついたのだとか。

 

彼女の元トレーナーとは仲も良かった為、彼女の話をよく聞いていた。やれ身体が発光する薬を飲まされるだの、やれ練習をサボって研究に明け暮れるだの……聞いた内容については、あまりよろしいものでは無かった事の方が多かったのを、今でも鮮明に覚えている。

 

そんな彼女だが、現役の時から、食事に無頓着であると言われていた。栄養さえ摂れれば良いと考える為に、様々な食材をミキサーに突っ込み、混ぜた物を摂取していたのだとか。初めて聞いた時は、僕も戦慄した。そんな罰ゲーム紛いの事を、食事として行っていると思うと、当時は身が震えた。

 

そんな彼女にこう言われるのも、実を言えば初めてでは無く、回数は50を超えてからは数えるのを止めている。フジに告げ口をすると言っている彼女も、案外似た価値観を持っている僕に真っ向から否定しきれないのか、告げ口された事は無い。

 

「君、お昼を抜いたのは今日で何日目だい?」

 

「ん〜……十日位?」

 

「そのうち、一日中食事を摂らなかった日は?」

 

「……三日、かな?」

 

「バ鹿かい?君は。少なくとも栄養は摂り給えよ」

 

()()()()()()()、どうでも良いだろう?」

 

「……君は、私以上に狂っているな」

 

どうやら僕は、彼女以上にヤバいらしい。少し不服だと感じるのは、お門違いなのだろうか。今度、誰かに聞いてみようかな。

 

「とは言うけど、君も前のような食生活をしているんじゃあないか?君、食に関してはズバ抜けてズボラだろう」

 

「もう少しマシな言い方をしてくれないかな?まぁ、否定こそしないが」

 

彼女はこう言うが、実際は完全に戻った訳では無い。彼女の元トレーナーは、現在マンハッタンカフェというウマ娘の担当をしている。そのマンハッタンカフェが、どうやらタキオンと(マンハッタンカフェはそういう仲ではないと言っているが)友達であるそうな。

 

何だかんだ心配なのだろう、マンハッタンカフェの頼みで、タキオンのもとには時折元トレーナーが食事を渡している。そのお陰か、彼女もあのゲテモノを毎日飲む事は避けられている。

 

余談ではあるが、彼女が元トレーナーの食事を残したり、断ったりする事は無い。タキオン曰く、「折角緻密なバランスの栄養があるのに、それを効率的に摂取しないのは非効率だ」らしい。合理的に聞こえなくもないが、聞いている側からすると、照れ隠しそのものにしか聞こえない。タキオンも乙女だなぁ。

 

「話が脱線し過ぎた。そろそろ研究について聞こうかな」

 

「やっとかい。じゃあ、まずこの資料を見て欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、こんなところだ。何かあったらまた聞かせてくれ」

 

「分かった。近いうちに深く読んで纏めておくよ」

 

「そうしてくれ。君を急かすようで申し訳ないが、君の意見は非常に参考になるからね」

 

結構な時間が経ち、時計の針はそろそろ6の位置を指そうとしていた。これには流石に驚いた。今まで以上に濃い内容だったからか、時間が経つのが早い。これでは、幾ら時間があっても足りそうにない。

 

「もう良い時間だし、そろそろ帰った方が良いんじゃないか?」

 

「それには同意するよ。……ただ、一つだけ頼み事があるのさ」

 

「内容によるけど、聞くだけ聞くよ」

 

「いや何、無理難題では無いとも。君にご飯を作って貰いたくてね」

 

「……ご飯?時間的に…夕食をって事かい?」

 

その通りだよ、と言うタキオンに、少しばかりたじろぐ。料理か……ここ最近してない気がするなぁ。

 

一度だけ、フジとブライアンに頼まれて手料理を振る舞った記憶があるけど、確かあの時、『もう料理は振る舞わない方が良い!』と、綺麗に声を揃えて言われた気がする。あの時は少し心にキたっけ。

 

トレーナーになる前、僕は暇を埋める為に料理を齧り始めて、次第にハマった挙句にかなりの腕に上達した。()()()()()()()()()()()()()()()()()、結構な自信があった。それが否定されてショックだった事を、今思い出した。

 

「…口に合わないかもしれないけど、それでも良いかい?」

 

「作ってもらう立場だ。相当なもの…それこそダークマター紛いのモノが出てこない限りは文句を言うつもりは無いとも」

 

「……分かった、そこに座って待ってて」

 

幸い、自炊しようと思っていた為、食料には困らない。理事長にも許可を貰い、キッチンを実費で付けたし、料理できる環境は整っている。今度から隙間時間の合間に自炊出来るよう、ここで感覚を戻していこうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、お待たせ。君達は人参が好きだろうから、人参の卵とじとほうれん草のおひたし、味噌汁に白米。ゆっくり食べな」

 

「ほう……想像よりずっと良いじゃないか。尻込みしていた者から出てくる料理とは、とても思えないねぇ」

 

完成したは良いものの、主菜が無い事に途中で気付かなかった。気付いた頃にはもう完成していた。幸いながら、濃い味で作った為、ご飯のおかずにならないという事態にはならない……はず。

 

「それじゃあ……いただこうか」

 

その一言が、僕にとっては凄く重々しい言葉に感じた。死刑囚の気持ちを、触りだが感じたような気がした。「不味い」とは言われたくないなぁ。

 

「……これは…表立って振る舞わなくて正解だ」

 

料理を一口したところで、手を止めて何かを呟くタキオン。何を言っているのだろうか。ウマ娘の聴覚は人間より遥かに優れている為、もし僕がウマ娘だったなら、彼女の言葉を聞き取れるだろうに。

 

「…一言だけ言うなら、美味い。それ以外の言葉を語るのは、あまりに失礼に感じる程には、だ」

 

僕の方に振り向き、開口一番そう言う彼女に、僕はホッと胸を撫で下ろす。それも束の間、彼女は続けてこう言ってきた。

 

「…強いて言うなら。彼女達の言葉通り、気前良くこんな腕前の料理を振る舞う事がなかったのは、良かった事だ。ハッキリ言って、こんな物を口にしてしまったら、他所の食べ物を食べたく無くなるだろうね」

 

「……冗談だろう?少し自信はあったけど、そこまででは無いと思うんだけど……」

 

「冗談だと思うなら、学園の食堂で働く者にでも食べさせてみると良い。きっと、敗北感を感じるだろうね、彼等は」

 

…内心、「普通だ。可もなく不可もなく、という言葉がお似合いだ」とかいう言葉を予想していた。その為に、僕の脳内の情報処理能力が正常に機能していない。難しい言葉で婉曲気味に言っているのは分かるし、それが僕の料理を大変に褒めている事も、理解出来た。

 

…後でもう一度何か作って、食べてみよう。もしかしたら、料理をしていないのに上達しているとかいう謎の現象のせいかもしれない。それか、フジ達に振舞ってみるのもアリだろうか。兎も角、今の僕はそれしか頭になかった。

 

「……ふぅ、美味しかったよ。想像以上過ぎた程にはね。…これから研究についてここに来る時、毎回頼もうか悩むね」

 

それは、僕がもちそうにない。…とは言えないか。今回の場合、尚更だろう。材料はある程度良質な物を揃えたけど、結構感覚を頼りに作ったから、シェフみたいにこだわり云々はなかった。あれくらいの労力なら別に構わないだろうか。

 

僕が、タキオンにそう言おうとした瞬間だった。ふと、ドアの方から二つほどの怒気が。それを放つ者達は、僕達が大変見知った者達だった。

 

「……振る舞ったんだね?トレーナーさん?」

 

「……流石にトレーナーでも、許せないぞ…?」

 

そんな事は有り得ないはずなのに、怒気を放つ二人、フジとブライアンの後ろからゴゴゴゴゴ……とかいう擬音が浮かんでいるように見えた。流石にあの時よりは怒っていない……と思いたい。

 

「…トレーナーさん、後で話がしたいな。その前に彼女を寮まで送るから、少し待っていてくれるかな?」

 

「あ、あぁ」

 

怒気を隠そうともせずにそう告げるフジと、何も言わずこちらをジッと見つめるブライアン。ふとタキオンの方を見ると、「助けてくれ!」とでも言いたげな目でこちらを見ている。この状態のフジ達はどうしようも無いので、首を横に振った。

 

そんなこんなで結局、タキオンは二人に連れられてしまった。そして、トレーナー室には僕一人。……彼女達が戻るまで、トレーニングスケジュールでも作ろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、あの後二人に説教された後、軽いデザートを作るよう頼まれたので、小さめのホットケーキを作った。……二人の尊厳の為、どんな顔をしていたのかについては、ノーコメントを貫く事にしよう。

 




はい、いかがだったでしょうか。

今回は、ウマ娘の狂バ枠ことアグネスタキオンと、何処か感覚が狂気的にズレているトレーナーのお話でした。サバサバしているように見えて、そこそこ良い距離感。自分で書いた小説ながら、少々羨ましいです。
余談ですが、タキオンの研究場所は学園側が特例で与えた一室です。寮内でヤバい研究をしてるのか等と疑問に感じる方もいるかと思ったので、ここで明言しておきます。

では、ご精読、ありがとうございました。
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