ウマ娘 ひび割れた祝杯   作:Cross Alcanna

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どうも、Cross Alcannaです。

さて、一体誰が登場するのか……等と言う間もなく、最早ネタバレもいいとこですね。大方、予想通りだと思いますので、このまま本編に行きます。

では、どうぞ。



問. 突然お兄様と呼ばれた時の彼の気持ちを答えよ

[中トレ 廊下]

 

「あっ、お兄様!」

 

「……?」

 

某日某所。いや、正しくは某日トレセンの廊下にて。ウマ娘の講義の講師をしていた僕は、講義が終わったので、トレーナー室に向かおうと歩を進めていた。……筈なのだが。

 

「お兄様、元気?」

 

「元気ではあるけど……お兄様て何?と言うか君、自分のトレーナーにも似た呼び方してたよね?」

 

……どうやら、廊下で突然お兄様と呼ばれるご時世になったようで。…いやいや、あってたまるかそんなご時世が。

 

それはさて置き、彼女はライスシャワー。少し臆病な性格のウマ娘で、今現在ではあるトレーナーの下でレースに出走している。最近のレースでは、軒並み1着をもぎ取っているのだとか。

 

そんな彼女だが、自身のトレーナーを()()()と呼んでいる。彼女のトレーナーは女性の為、兄ではなく姉なのだとか。いや、この際それは別に良い。問題は、何で僕がそう呼ばれるに至ったかだ。

 

「この前の事、とっても感謝してるんだよ?だから……」

 

「お兄様呼び、と?」

 

「うん!」

 

うん!じゃないのよ、ライスシャワーさんや。何処をどうすっ飛ばしたらそうなるのかね?君、実はライスシャワーの皮を被ったゴールドシップとかじゃ無いだろうね?

 

…等と脳内で苦言を呈してみるが、彼女の言うこの前の事には、心当たりがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[中トレ レース場]

 

──明日の仕事は……うわぁ、いつも以上に時間掛かるやつばっかり。残業したくないなぁ…

 

確か、ある日の夕方だった。他のトレーナーより少し時間がかかり、トレーナーの中でも僕が一番遅く学園の建物を出た日。その日はたまたま、レース場の近くを通って帰っていた。

 

さっきみたいな愚痴を、誰にも聞こえない程度の声量で言いながら帰っていると、何やら声が聞こえてきた。声色から察するに、只事では無いのだけは明らか。

 

不安に思った僕は、少し駆け足でそっちに向かった。すると、声がした場所には、ライスシャワーとミホノブルボン、トウカイテイオーがいた。…何でセグウェイ置いてあるの?とは思ったけど。

 

聞こえてくる会話を整理するに、ライスシャワーが天皇賞を走らない、それに対してミホノブルボンとトウカイテイオーが説得を試みている、という状況。

 

ライスシャワーが天皇賞を走らない理由に、僕は心当たりがあった。最近のレースで、ライスシャワーはミホノブルボンとメジロマックイーンの記録に歯止めをかけた。

 

僕自体は、そのレースはとても見応えのある、素晴らしいレースだと思っていたのだが、観客らはそう思わなかった(と言うより、別の気持ちが先行していた)模様で、ライスシャワーの勝利は歓迎されず、一部からはブーイングの声。挙句の果てに、ウィニングライブでは、ミホノブルボン達に声援を送るとかいう、人間性を疑う事まで起こった。

 

ファンの気持ちが、一切分からない訳では無い。ファンが推しの子に勝って欲しいと思うのは当然で、他の子が水を差すのを目の当たりにすると、その子を嫌うのも分かる。

 

ただ、推しを思うが為に他人を踏み躙るのは違うだろうに。推しの子当人が努力して、その子を倒すならまだしも、ガヤがそれを代行紛いなようにしてしまうのは、筋が通らないし、人としてどうかと思う。

 

──四の五の言わずに走りなさい!

 

ミホノブルボンの一声。…あの子があんなに感情的になってるのは、初めて見たかもしれない。それ程に、彼女に入れ込んでいるのだろうか。……いや、恐らく彼女は、()()()()()()()()()()()()()()()()、あそこまでするんだろうな。サイボーグだか何だか言われている彼女だが、やっぱりウマ娘らしい感情もあるのだろう。表に出すのが苦手なだけで。

 

──ライスが走っても誰も喜ばない!勝ってもガッカリするだけ!それなのに何で!?

 

──自惚れるな、ライスシャワー

 

気が付けば、そう言っていた。彼女達は、突然だった事と、()()()()()()()()()()その声に、驚きを隠せない様子だった。…内心、僕だって驚いたさ。ここまで突き刺すようなセリフを、まさか自分が放つなんて。

 

──良いか?夢を追うのは誰でも出来る。見るのもタダだ。()()()、それと夢を叶える、目標を叶える事は違ぇ

 

──それが…それが何だって言うんですかッ!?

 

──今のお前が!夢や何やを叶える事は出来ねぇって事だ!少なくとも!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

今思えば、随分と荒れていたね。自分の考えている夢についてと彼女の態度が、あまりにも見ていられなかったからだ。あのままでは、永遠に脱出出来ない負の連鎖に陥る。そう思ったからこそ、あの時の本気の喝だった。

 

──自分の夢が……他人の夢を…………?

 

──そうだ。特にお前達のように、順位を決めたり、勝者の数が限られている世界では尚の事。勝者の数以上に、敗者の数は多い。ファンも含め、負けたヤツらは夢を壊される。それを自覚して、覚悟出来る奴が、夢を叶える。

 

──…結局、どーゆう事さぁ!?わっかんないんだけど!?

 

あの時は、トウカイテイオーの理解力に少し溜め息が出そうになったなぁ。察しました、みたいな顔をしたのは、結局ミホノブルボンだけだったっけ。

 

──いいか、ライスシャワー。お前に夢があるなら、叶えたい事があるなら、()()()()()()()()()()()()()()()。何がなんでも叶えたいと思うなら、その覚悟は必要だ。

 

──他者の夢を……

 

──勿論、決断には時間がかかるだろう。葛藤もあるだろう。だが、悩め。どちらにせよ、その時間はお前にとって無価値ではない。

 

結局、僕はそう言い放った後、何も言わず聞かずに帰ったんだっけ。この後、あそこで何が話されたのかは分からずじまい。

 

ただ、後日ライスシャワーが天皇賞に出走し、見事メジロマックイーンをおさえてレコードを叩き出し一着。観客は沸かなかったものの、共に走ったウマ娘達は賛美の拍手。彼女のトレーナーも、思わずライスシャワーのところに行って抱き着いて褒め殺したのだとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ以来、何だかんだ忙しかったのもあって様子を聞く事はめっきり減った。特に何も聞かないので、しっかりやってるのかと思っていた。

 

…いや、今はそんな事を気にしてる場合じゃない。恐らく、その件で僕がかけた言葉によって、今の自分があるという感謝の意を込めて呼称をそうした、と言ったところか。

 

「……にしても、もっと他に無かったの?」

 

「お姉様にも聞いたの。そしたら、『これなら喜ぶと思うわよ?』って…」

 

「……そうかい」

 

今度、あの人にはデコピンをお見舞いする必要がありそうだ。あの人なら言いかねない。悪い意味で、信用出来る。

 

ライスシャワーのトレーナーは、僕と同期でありながら、優秀の部類に入るトレーナー。首席に近い実績でここへ入った等とよく聞くし、本人も否定はしていない。苦笑いはするが。

 

周りの評価がコロッと変わるのも、最早時間の問題だろう。最初はどうしたら良いのか測りかねた為に不調だったが、これからはライスシャワーが我々の宿敵になる事だって十分有り得る。その為、僕はフジやブライアンには、ライスシャワーに注意するように言ってある。

 

「普通に接してくれると助かるよ。その呼び方には…慣れるのに時間がかかるだろうし」

 

「角田さんがそう言うなら……」

 

この通り、ライスシャワーは(言い方はアレだが)かなり従順な性格と言うか……そう、素直。或いは、純粋な性格のウマ娘なので、トレーナーの指示にちゃんと従ってくれるので、殆どの者が、扱い方が分からないと匙を投げるゴルシことゴールドシップとは大違い。……っと、本人に察知されたら厄介だな、この考えは封印しておこう。

 

「…っと、ライスシャワー。そろそろ次の講義の時間じゃないか?」

 

「え?……あぁっ!本当だ!ありがとうございます、角田さん!」

 

僕の指摘で気が付いたのか、彼女は廊下にかけてある時計を見やり、講義までの時間が残り僅かなのに気付く。マズいと思ったのか、彼女はどこかへ駆け足で去っていった。……エアグルーヴあたりに「廊下を走るな!」等と言われない事を祈ろう。

 

……さて、お灸を据えに行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[職員室]

 

「全く……担当に変な入れ知恵するんじゃあないよ」

 

「てへ☆」

 

「拳骨もういっちょ行っとく?」

 

「ゴメンナサイ」

 

所変わって職員室。あれから少し時間は経っており、僕と彼女を含めても、この部屋には殆どの人がいない。もうすぐ終業時間という事もあり、恐らく他の人ももう帰るところなのだろう。かく言う僕も彼女も、そうなんだけどね。

 

「ライスのアレ、正直グッときたでしょ〜?私は最初言われた時、思わず悶絶しちゃったからなぁ〜」

 

「そんな事思っちゃダメだろうに。全く君は……優秀なのにねぇ……」

 

いくら優秀とは言え、性格がなぁ。同期に沖野さんや東条さんがいるけど、もう少し二人くらい大人しくなってくれないかなぁ(沖野さんも少しアレだけど)。

 

そんな事をふと考えると、いつの間にか少し真剣な表情になった彼女から、こう言われた。

 

「でもね、あの子も私も凄く感謝してるのよ?貴方のお陰であの子は勿論、私の精神も少し落ち着いたから。今では胸を張ってレースに出れるしね」

 

「それはどうも」

 

…彼女からこうも真剣にお礼を言われると、少しむず痒い。いつもふざけているからこそ、こういう時の反応に困る。

 

「あ〜、貴方顔が紅いわよ〜?照れてるのかしら?」

 

「…うるさい。単に褒められ慣れてないだけだ」

 

「本当かなぁ?」

 

……もう一発だけ、拳骨をしたい気持ちに駆られたが、それをどうにか抑え、僕達は職員室を後にした。

 

紅くなった顔は、真っ赤な夕日にあてられた事にしよう、うん。

 




はい、いかがだったでしょうか。

今回登場したのは、ライスシャワーでした。アニメのSeason2のアレは、この段階で既に終わっております。時系列が多少ごちゃ混ぜになるやもしれませんが、どうぞよしなに。

では、ご精読、ありがとうございました。
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