ふと、こうして執筆をしながら思うのですが、ウマ娘のカテゴリーは、シリアスより日常を求める人が多いのでしょうか?私も他作品をよく見ているのですが、シリアスものは伸びづらく、日常ものはよく伸びている気がします。……思い違いですかね?
では、どうぞ。
[中トレ ベンチ]
「当たり前だけど、皆しっかり練習してるね〜」
ある日の休憩時間、ふとグラウンドを見ると、無意識にそう呟いていた。この時期は、様々なレースが開催されるが故に、熱が入りやすく、皆重賞制覇を目論み始める。
その中でも特に栄誉なものとなると、クラシック三冠やトリプルティアラが挙げられるだろうか。シニアの時期になると春秋の三冠もあるが、目前のものは前者の二つ。
当たり前ではあるが、ウマ娘である以上、それらに固執する子も出てくる。カイチョーことシンボリルドルフに憧れを抱くトウカイテイオーだったり、トリプルティアラを目指すダイワスカーレットだったり(動機は知らないけど)。
…それはともかく、この時期は練習している子をよく見かける。トレーナーのいない子は、教官がついてトレーニングをする。役割は概ねトレーナーと同じなのだが、一つ大きく違うのは、
少し補足すると、公式のレースに出られないのだ。裏を返せば、模擬レース等には出る事が叶うのだ。それでも、折角トレセンに入学してレースに出る事無く卒業してしまう、なんて子もいるのだ。
……悲しい事に、言ってしまえば
「……キングヘイロー、か」
そんな陳腐な事を考えていると、練習中のとあるウマ娘が目に入る。
キングヘイローだ。親がかなりの活躍を見せたウマ娘であり、彼女が中トレに入学する時も、結構話題になった。メディアは勿論、彼女の親を知る者はほぼ皆、非常に高い期待をしていた。選抜レースでどんな走りを見せるのか、どこまで重賞を制覇するのか、等々。
…と、
人間社会において、昨今ではそのようなブラッドスポーツ染みた風潮を見る事はあまり見られないように思える事もあり、人間社会より遥かに、ウマ娘のレース世界の方が残酷であると断言出来よう。レースの性質上、そうならざるを得ないのを咎める事が叶わない事を加味すると、誰が悪いのかという議論は、きっと平行線で終わる事だろう。仕方ないで済まさざるを得ない事が、より歯痒さを増させてくる。
「…僕ら以上に残酷な世界を闊歩している彼女達は、ずっと僕らより強く見えるねぇ」
彼女達が挫折したり怪我を負ったりし、引退する事はよくある事。その度に耳にする言葉がある。「可哀想」「どうして」といった言葉。後者についてはこの際良い。僕は前者の言葉を投げかける人を見る度に、思ってしまう。
──そう思う君達の方が、よっぽど可哀想だ、と。
「はぁ…はぁ……まだ、もう1セット…」
今日も練習をしていた私は、事を急くようにそんな言葉を口にする。期待という呪いの言葉が、私に走れと、その血統を証明しろと駆り立てる。教官に止められた事もあった。それでも止めない私を幾度も見てから、いつの間にか私を制止する声はなくなっていた。それを、嬉しく
いつからだろうか。期待に応えたいという想いが、期待が煩わしいというオモイに変わっていったのは。後者のように感じてから、私は練習する事に何らかの価値を見出せずにいた。走る意味は?走って、得られるモノは?
──誰が、私の走りを望んでいるのか?
「今の君みたいに、憑りつかれたように取り組んで得られる事なんて、得なくて良かったと思う事ばかりだよ」
刹那、私の後ろから、そのような声が一つ。私へ向けられた声を
「よっ。今日も練習三昧かな?」
角田トレーナーだった。フジキセキ先輩とナリタブライアン先輩を担当に持ち、同僚である東条トレーナーと沖野トレーナー以上のトレーナーとも言われている人。【理想の指揮者】【勝利の先を見るトレーナー】とかいう異名を、同級生や他トレーナーの口から、何度も聞いた事がある。事実、彼はナリタブライアン先輩とクラシック三冠を達成していたり、フジキセキ先輩にも弥生賞優勝をもたらしている。恐らく、クラシック三冠を見据えているのだろう。
…正直、彼が羨ましくて仕方ない。昔も、今も。……きっと、これからも。他の子も当然そう思うのだろう。けれど、私には彼の才能が
幸い、態度にまで出す事は抑えられているものの、いつ目に見える形となってしまうのかなど、正しく時間の問題だろう。それに、私のソレを彼にぶつけるのは、お門違いにも程がある。だから、我慢する。耐える。……耐えねば。
「えぇ。……これ以上、失態は晒せませんわ」
「失態、ねぇ」
ポッと、本当に不意に本音が出てしまう。私の口は、いつからここまで緩くなってしまったのかしら。ただ、それよりも不可解なのが、失態というワードに引っ掛かりを覚える彼。
「…一つ、聞きたいんだけど。君は負ける事について、どう考えてる?」
その後に尋ねられたのは、そんな事だった。…即座に「はい?」と言わず、その言葉を喉の奥に呑み込んだ私は、間違っていないと思う。負けは負け、ではなくて?
「……別に、私は負けが恥とは考えませんわ。……
「……へぇ、成る程」
私は考えた結果、そう口にした。それを聞き取った彼は、不敵な笑みを浮かべ始め、終いには小さな声を出しながら笑い出す始末。…その時の彼は不気味で仕方なかったと、言っておきましょう。
「くくっ……君のその姿勢、好きだよ。負けは負けと、その原因が他にあると言わない現実主義思想。…僕に余裕があったら、君をスカウトしていたのにね」
話に聞いていた紳士的な性格は何処へやら、目の前の彼は、まるでアグネスタキオンのような狂気を醸していた。これが彼の本性なのか、それとも……。いえ、この際もうどうでもいいわ。どうやら彼は、私と似通った考えを持っている事が分かった。…何故だろう、
「……もし、もしも。私が今、ここで逆指名したとしたら…貴方は、それを受けるというのかしら」
気付けば、私は何時もの口調も忘れ、そう尋ねていた。彼がトレーナーになれば、何か掴めるのではないか。ちょっとばかりではなく、大きな確信めいた思い。彼は、何かを持っている。きっと、
「今ここで、という条件でなら、僕は首を縦には振れないね。今の君は、迷いが過ぎる。もう少し、ほんの少し
……どうやら、彼から見て私は
「……そうだね。二つ、君に助言をしようか」
突然、彼はそう言う。真剣な雰囲気を纏う訳でもなく、ただ淡々と、私に告げる。
「走る意味が分からないなら、走ろうと決めた時の事を思い出してみると良い。進むだけじゃあなく、時には立ち止まってみる事も大事だ。特に、今の君みたいな子には、ね」
…立ち止まる。今の焦り一色の私に、一番必要な事だったのかもしれない。焦って動いては、結局空回りする事になる。何処かで聞いた事のある言葉を、私は忘れていたのかもしれない。……明日以降は、少し休んでみようかしら。
「それともう一つ。夢を叶えるという事は、他人の夢を幾つも……いや、幾万もをへし折る事になる。君と同じ夢、少し違う夢、その他。その覚悟が無いと、夢を叶える事は無理だ」
「でもまぁ……」
……これから放たれる言葉は、彼の言葉の中でもかなり陳腐な言葉だっただろう。……それでも、私が最も欲しがっていた言葉だったのだろう。
──決して首を下げない、決して折れない君は、王者に相応しいだろうね
はい、いかがだったでしょうか。
今回はキングヘイローでした。プライドと、幾度もの敗北に葛藤しながら走り続ける彼女に、かなり好感を持ち、感動したトレーナーも多いのではないでしょうか。私も、不屈の精神は尊敬しますし、見習いたいと思います。……何気に、私が好きなウマ娘の一人だったりします。
では、ご精読ありがとうございました。