節目節目の間に、ちょっとした日常パートを入れても面白そうかなと考えています。後、色々なウマ娘の登場も検討していますが、どうなるかは未定です。もしかしたら、アンケートを作るかもしれません。その都度連絡致します。
では、どうぞ。
[トレーナー室]
「……飲みに行く?今日の夜に?」
「あぁ。おハナさんと行こうと思ったんだが、ツノと飲む事なんて少なかったって思ってな。話し合った結果、ツノも誘おうって事になった訳だ」
「それは嬉しいんだけど……如何せん急なんだよね、いつも」
とある日、トレーナー室に二人の人影。一人は角田であるが、もう一人は珍しい人物であった。
沖野トレーナー。彼の言うおハナさんこと東条 ハナトレーナーと角田、そして角田は同期なのだ。同期という事もあり、角田のトレーナー間での関係の中ではかなり親しい方。
親しいと同時に、この三者はトレーナーの腕前としてはかなり上位に位置していると言われている。
東条トレーナーはかの有名なシンボリルドルフ、マルゼンスキーをはじめとした猛者を率いたチーム【リギル】のトレーナー。沖野トレーナーはウマ娘のトモ(太もも)を触るだけで、ウマ娘についてを粗方理解することが出来る。角田は言わずもがな、ナリタブライアンの三冠達成、フジキセキの弥生賞制覇(三冠目標に?)。
スペシャルウィーク、グラスワンダー達をはじめとしたウマ娘は、世間では【黄金世代】と呼ばれているらしいが、それに準えているのか、この三者は【トレーナーの黄金世代】とも言われているのだとか。
「急なのは謝る。何せ、さっき決めてばっかりでな」
「そうなんだ。……まぁ、沖野達と飲む事もメッキリ減ったからね。願ったり叶ったりだよ」
「そうか、分かった。おハナさんにもツノが来る事を伝えとくぞ」
「任せた」
[とある居酒屋]
「ゴメン、少し遅れた」
「遅かったな、残業か?」
「ん〜、まぁそんな所」
やるべき事を切り上げ、なるたけ早く来たけど、結局遅刻してしまった。ここまで時間がかかるとも思っていなかったのもあり、やや申し訳なく思う。
「久しぶりね、角田君」
「久しぶり。皆忙しかったみたいだね」
僕含めてこの三人は、中トレ在籍のトレーナーの中でもトップだと言われている(僕に対する評価は、やや過大な気もするけども)。そんな僕達には他のトレーナー以上に外からの仕事が舞い込んできたりする。案件やインタビュー、外からではないがURAのCMにも出たりした。
そんな僕達は当然、こうしてしっかりした時間を確保して会う、なんて事も叶う機会が少ない。今回こうして集まれたのは、結構なキセキだろう。
「にしてもだ。二人なら兎も角、俺まで外からの仕事が舞い込んでくるとは思わなかった……」
「……貴方のトモを触るソレは兎も角、トレーナーとしての腕は確かよ。この間、理事長とたづなさんもそう言っていたわ」
…沖野のトモを触るソレは、最早悪癖と呼べるまでにまでなっている。そのせいで、スペシャルウィークらが入学する前に、スペシャルウィークのトモをレース場の観客席で触るという、最悪セクハラで訴えられてもおかしくない事をやってしまった前科持ちだ。
彼女が許したから良かったものの、トレーナー生活が終わっていてもおかしくなかった。表沙汰になっていないだけで、他にも似た事がある為に、僕達同期や理事長ら上層部は気が気でないのだ。
…それはさて置き、たった今、酒と肴がテーブルに置かれる。取り敢えず、久しぶりの飲み会を始めよう。
──尊敬、そして感謝している僕の同期に、乾杯
「ん……程良く酒もまわってきたな」
「そうね」
そこそこ飲み進め、ふとそんな事を言う二人。かく言う僕はと言うと、まだまわっている訳では無い。僕は二人よりも酒に強いので、こんな状況はいつもの事だ。
「そう言えば、最近フジキセキが弥生賞を取ったらしいわね。あの走りには多くの事を学ばされたわ」
「そうだな。俺達スピカもあのレースを見ていたが、あの走りは見事の一言に尽きる」
先程まで話していた話題と少し話は別物に移り、話のタネは僕の担当バについてになっていた。
「その言葉は是非ともフジキセキに言ってもらいたいなぁ。彼女が言われるならまだしも、僕がそう言われる謂れは無いよ」
これは僕の本心そのもの。トレーナーの教えはウマ娘の走りに影響を及ぼすとはよく言うが、生憎僕は弥生賞にあたって、特段これと言った指導はしていない。
……これだけでは誤解を生みそうなので訂正しておくと、特別変わった指導はしていない、という事だ。弥生賞に向けた練習メニューとか、そういう事はしていない。まぁ、
今のフジキセキのレベルともなると、
「…相変わらずの謙虚具合だな。もう少し…いいや、もっと誇らしげにしても誰も文句言わねぇだろうに」
「私もそう思うわ。謙虚も過ぎれば卑屈にだって、皮肉にもなるわよ?」
本心から言っているのに、僕の言葉を聞いた知り合い等には、毎回こう返される。一度のみならず、耳に胼胝ができる程に聞いた言葉。「君の謙虚は度が過ぎる」「担当も、君が誇らしげにしているのを望んでいると思う」等、トレーナーになってから聞いた数は、数える事もバ鹿らしく思える程だろうか。
僕は別に、ソレを誇張したり言いひけらかしたりしようとは思えないし、ソレは僕の中でトレーナーとして違うのではないかと思っている。レースで勝てたり、良い成績を残せるのは、トレーナーのおかげでもウマ娘のおかげでもない。…いや、少し語弊があるか。良い結果を残せるのは、ひとえに
…しかし、それ単体では限界がある上、単体では生まれないモノがある。それが、
…ただ、極端に言ってしまえば、
「まだまだ油断ならないからね。隙を見せたらすぐ喰われかねない場所にいるからこそ、慢心は出来ないのさ」
「…私が言えた義理は無いのでしょうけど、相変わらず生真面目ね。……貴方も彼を見習ったらどう?」
「うっ……痛いトコ突いてくるなぁおハナさんは」
…あんな風に言われてる沖野も、真剣になるとこれまた凄まじい能力を発揮する。事実、それのお陰で、彼の担当バがG1制覇を何度も成し遂げている。本人に言うと調子に乗って碌でもない事態になる事がある実体験がある以上、本人には絶対に言いはしないが。
東条さんは言わずもがな、シンボリルドルフやマルゼンスキーをはじめとした名バを次々に育て上げている。今年も、選抜レースでかなりの好成績を収めていたグラスワンダーとエルコンドルパサーをチームに入れたのだとか。…改めて考えてみると、結構な大所帯になってる気もする。それに、何故だろう。どことなく僕の考えた最強のチーム感が否めない。
[角田宅]
あれから酔いが回った二人を僕が送り届け、自宅についてから、僕は担当の二人のこれからについて考えてみる。最初は右も左も分からずに仲間意識が大半を占めていた僕達同期の関係だったが、ある程度期間も過ぎた今日において、その関係はライバル関係へと変容しつつある。僕としては歓迎なのだが、それに伴って二人のより大幅な強化が必要になる。これからは様々な名バが障壁となって立ち塞がる事だろう。自身の担当バには絶対の自信を持ちたいのだが、現実はそういかない。
いくらシャドーロールの怪物とは言え、皇帝と相まみえた時に、僕はシャドーロールの怪物が勝つ、と確信を持って言う事は叶わない。それ程までに、ライバルは強力な面々なのだ。同期の二人と久々に会って、それを再度強く自覚させられた。
…油断は出来ない。慢心など以ての外。ここからは、
観客からの視線が、怖い。今ここにいる筈も無いのに。
担当を敗北させるかもしれない自分が、怖い。自分の言葉が、担当を終焉に導くかもしれないと。
ウマ娘の夢をへし折る事が、怖い。言葉では言い聞かせているものの、未だに怖い。
…でも、それでも。やらねばならない。そういう世界に足を踏み入れたのは、自分だから。担当を持ったのだから。
……
「ふぅ。…っと、もうこんな時間か。明日も練習がある事だし、そろそろ寝ようかな」
思考を幾度重ねたのか忘れる程、思考に明け暮れていた事に気付く。明日の事も思い出し、急ぎ目に床へ着く。…明日はどんなトレーニングをしようか。明日からは、より一層気を引き締めないといけなさそうだ。他チームの練習を見てみるのも良さそうだ。模擬レースをしてみるのもアリか。眠りに着こうとしているのに、脳は考える事を止めない。寧ろ、覚醒しているまである。…悲しい事に、明日の為にも脳を無理矢理鎮めないといけないのだけども。
「…頑張ろう」
小さく、虚空に向かって、そう言った。
──されど、世界は非情であった。
さて、いかがだったでしょうか。
投稿が少々遅れた事、お詫び申し上げます。中々執筆が進まない事、学業面で忙しい事、執筆途中で内容を全て変更した事が重なり、こうなってしまいました。最後の事柄については、二度目が無いよう努めますので、何卒ご容赦ください。
では、ご精読ありがとうございました。