ウマ娘 ひび割れた祝杯   作:Cross Alcanna

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どうも、Cross Alcannaです。

最近Pixivの小説を見るようになってきています。そっちにも投稿してみてもいいかもしれませんね。投稿するとしても、内容は同じものになりますが。今は学業や免許、アルバイトなりで忙しいので、厳しいとは思いますが。

では、どうぞ。



片翼を焼かれて

──そのニュースは、日本を跨いで世界へと広がっていった。

 

「…嘘、だろ?」

 

「シャドーロールの怪物が、こんなにアッサリと?」

 

その報道を聞いた道行く者は、凡そそのような言葉を言ったという。その報道を見聞きしない者へは、ほぼ瞬きの時を経て知られる事になった。海外でもこのニュースは大々的に報道された。デビューしようと奮起している、或いはレースで走る、或いは既に引退して一線を引いているウマ娘に、このニュースを知らない者はいなくなった。

 

その一報は、ただの悲報か。或いは、とあるイカロスの羽を焼き焦がす太陽になるのか。

 

 

 

──ナリタブライアン、股関節炎を患い引退か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[トレーナー室]

 

「……はぁ」

 

…いつものように担当に練習メニューを言い渡して練習してもらっている。ただ、今日からはトレーナー室に一人増える事になってしまった。

 

「今ので5回目だぞ。アンタは悪くないって、何度言えば分かるんだ」

 

「そう言われたところで、世間の目は変わらないんだよ」

 

「……それはそうだが」

 

これからが本番だ、と言わんばかりの勢いの中で、まさかのブライアンがほぼ引退(確定ではない)となった。その辺はしっかりと話し合った結果なので、今更四の五の言うつもりは無い。

 

…しかし、担当バの疾患、ましてや有名バ(或いは期待の高いウマ娘)である事が、世間を騒がせるには十分過ぎる程に世間を駆り立てる。悲しい事に、人間という種族は、結局人の不幸に過敏に反応するのだ。

 

ブライアンの言う通り、完全にトレーナーが悪い訳では無いケースの方が大半(例外はある)なのだが、だからと言ってトレーナー側が責任を感じないかとは、また別問題なのだ。現にこうして今も尚、僕は責任に押し潰されてしまいそうな感覚に陥っている。

 

「こういう時に限って、記者達が変にやる気になるから、余計にクるんだよ……」

 

「…まぁ、分からなくもない。そこまで叩く必要の無い事柄も弄って叩かれるような内容にするのも見た事があるからな」

 

僕は時々週刊誌等を読んでいたりしているのだが、少し前からブライアンが、僕が読み終わった週刊誌を読むという習慣があった。そのお陰か、ブライアンは時事に結構通じているのだ。さっきの発言も、それから来ているのだろう。

 

それはさて置き、相変わらず納得のいかない顔をしているブライアン。その表情を浮かべる真意は、僕が彼女の言葉を否定したからか、はたまた股関節炎を患って走る事が出来ないからか。それは、彼女のみぞ知る事だ。

 

「さて、フジの練習を見に行こうか。ブライアンもフジにアドバイスとかしてあげたら?フジは勿論、君のためにもなるからね」

 

「そうだな。生徒会の仕事も無い上に練習もないと来たら、暇で仕方なくなりそうだからな」

 

……責任を感じるとは言え、それを理由にフジの練習に支障をきたす事はダメだ。フジまでダメにする訳にはいかない。こうなった今、フジには勝利を与えてやらないと。そう思い、頬を軽く叩いて、練習しているフジの下へと駆けていく事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[グラウンド]

 

「はっ…はっ……」

 

「フジ〜!アップは終わったか〜?」

 

フジキセキしかいないレース場に、駆け足で駆け寄るトレーナーとその後ろに付いて歩くナリタブライアン。走る事にドクターストップがかかっており、ナリタブライアン当人も股関節炎を治そうとしている意思が見て取れる。

 

「はぁ…ふぅ。うん、丁度今終わったよ。それで、今日はどうするのかな」

 

「そうだな……今日はイメージトレーニング兼実践をしてみようか」

 

彼の口から放たれる練習内容は、これまた難解なモノだった。一度聞いて理解に及ぶモノでは無く、理解したところで、かなりぶっ飛んだモノとなっている。

 

「……?と言うと?」

 

フジキセキのこの疑問は正当であり、ご最もな意見。イメージトレーニングはイメージだからこそ、実践とは言い難い。それがセットになる道理が分からないのは、ある種当然の懐疑だろう。

 

「フジにはこれから何本か本番のレースと同じくらいの距離を走ってもらう。出す力は……模擬レースくらいが良いかな」

 

「…それだけじゃあ無いんだろう?トレーナー」

 

「勿論」

 

ナリタブライアンの問いに、即答するトレーナー。そう、このままではイメージトレーニングの部分が皆無。それは誰もが思う事。トレーナーもそう察したのか、即答したのだ。そうして、彼は続ける。

 

「フジ、君には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……トレーナー、あんた、正気か?」

 

「…どうだろうね。自分では正気だと思ってるけど、やっぱりどこかおかしいのかな?僕は」

 

ケラケラと、嘲笑するが如く笑う彼の顔に、二人はどこか悲しみを感じている。()()()()()()()()()()()()()()()、そんな事を思いながら。

 

そんな事を考える二人を置いて、説明は続く。

 

「…さて、続きだ。ウマ娘を思い浮かべるとは言ったけど、ただ想像するだけじゃ意味は無い。大事なのは、()()()()()()()()()()()()()()()事だ」

 

サラッと言ってのける彼だが、()()()()()()()()()()()()()()()()事を見逃してはいけない。

 

よく考えてみてほしい。仮想の相手を想像しながら走れと言われて、それが出来る者は果たしてこの地球上にどれ程いると思うか。よく、二つの事を並行して行う事は大変である、といったような言葉があるように、出来る人こそいるが、至難である事に変わりない。

 

それに人であるかやウマ娘であるかなどが関係する事も、残念ながら無いわけで、どちらであれ困難なのだ。特に走る事においては。

 

「…随分、高い要求だね」

 

「正直、このトレーニングはするかしまいか悩んでいてね。どうせなら一度試してみようかと思ったのさ。それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

彼の言葉の裏に秘められたソレは、過信や慢心といった類のソレでは無く、純粋な推察から来たものだった。彼の何食わぬ顔が、それを物語っていると言えよう。

 

事実、先日の弥生賞の走りから読み取れるように、G2レースは敵無しだった。G2よりも上となると、残りはG1レースのみ。そんな格式高いレース(G2レース等が格式高くないという訳では無い)に出走するウマ娘は、どの者も激戦を制した猛者達。今までの練習で通用しない場合も増えてくる。

 

G2までのレースでは勝てていたのだが、G1に挑むようになってから事を急いてしまい、かつての戦績を収める事も叶わなくなるというケースが存在する程、G1というステージは常識だけで太刀打ちしようがない場所なのだ。

 

「一応言っておくと、別に僕が焦って無闇に練習させようとか考えている訳では無いよ。単純に、練習を一つレベルアップしてみようかと思ってね。それに見合う実力になったからね」

 

勿論、僕の焦りで彼女まで壊す訳にはいかない。……世間が…何しろ、僕が許さない。彼女は……フジキセキは、僕に許された最後の猶予。だからこそ、事を急く事は許されない。慎重に事を運ばないといけないのだ。

 

仮に、フジキセキが走れない身体になったとしたら、僕は責任感に潰されて、トレーナーを辞退していると思う。ウマ娘の走りに魅せられた者として、それは避けたい。

 

「…あまり気に病むなよ、トレーナー。アンタは一人で背負って、一人で潰れる性格の人間だ。アンタのソレは、もう悪癖の領域まで来ている事を、少しは自覚してくれ」

 

「ブライアンの言う通りだよ、トレーナーさん。」

 

「……タハハ、心当たりがあるから強く否定出来ないのがなぁ。肝に銘じておくよ」

 

さぁ、練習を始めようか。僕のその一言を機に、フジは練習を始める。ブライアンは、練習しているフジを見ている。トレーニング出来ないなら眼で見て技術を盗もうって魂胆かな。熱心なのは結構結構。

 

……そういえば、今日は少し冷えてるなぁ。肌寒いや。そう思って宙を見てみる。…うん、灰を被った空模様だ。ちょっと縁起が悪い気もするから、気を付けておこうかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[自宅]

 

「ふぅ、やっぱり風呂は気持ちいいねぇ」

 

あれからフジの練習も無事に終わり、得るものが多かった。やっぱりフジは天才型に近いのかもしれない。かなり高い要求だったと自分でも思うアレを、今日でコツまで掴むとは思わなんだ。

 

ブライアンの方も、何か掴めたのか、どこか満足そうな表情だった気がする。暫くこのトレーニングでやっていこうかな?

 

……とは言え、脳と脚を同時に使うトレーニングは、脚への注意が通常より散漫になる。言ってしまえば、脚を壊しやすい諸刃の剣。フジのレベルが高いから出来た練習だが、日を空けて行った方が良いかもしれない。追々考えるとしよう。

 

「……やっぱり、そう言われるよねぇ」

 

先程までの思考を頭の隅に追いやり、パソコンの画面を見る。UmatterというSNSのサイトを開いているのだが、時々こうしてウマ娘についての呟き等を確認している。

 

今日見ている内容は、ブライアンの引退についてだ。ハッシュタグまで付く程、この話題の衝撃が凄まじかったという事を実感する。

 

中にはブライアンの引退は残念だった、というような惜しみの声があったのだが、そのような声は少数。多数を占めている意見は、要約すると()()()()()だった。

 

「『股関節炎を患う事を事前に気付けていないのはどうなのか?』『トレーニング内容が負荷過多なのかも?』『あのトレーナー無能説』ねぇ……匿名である分、こうした意見が平気で出でくるのは分かるんだけど……」

 

ふと、溜め息が溢れる。中には事実な事もある為に強く文句を垂れる事はしないが、投稿主のネットリテラシーが心配になる。中には、Umatter運営からBANが来そうなコメントや投稿まで見かける。精神面で少しだけタフな僕だからまだ良いものの(良くは無いけど)、他の人がこれを受けて平気かどうかを考えると、やるせなくなる。

 

「……次、フジが円満じゃない引退になったら、どうなるんだろう。…刺されたりして。……流石に無いか」

 

気分がナイーブなせいか、悪い考えばかり思い浮かぶ。らしくもない。僕もフジも、勿論ブライアンも、やれる事はやっている。最善かどうかは未来の結果が見えない以上、分からないのだが、見えるヒントの中で最善は尽くしている。

 

……切り替えよう。このままの気持ちでいくと、今度はフジも、なんて事になりかねない。フジだけでも無事にと誓った手前、今出来る最善はフジが無事に引退出来るよう手引きする事。ここで止まる事では無い。

 

「……よし、トレーニング内容でも考えようかな」

 

悪い考えをかき消す為に、僕はトレーニングについて考えを詰める事にした。

 

……今日の夜は、いつもより永く感じた。

 




さて、いかがだったでしょうか。

「…あれ?なんかタイトルと章題変わってない?」と思う方もいると思いますが、正解です。こちらの方が良いかと思いましたので、変えたまでです。特に何かあるとかでは無いので、その辺りはご心配無く。そして、また投稿が遅くなり、申し訳ありません。現在多忙の身ですので、これからしばらくこのような頻度になるかと思います。

では、ご精読ありがとうございました。
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