どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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メリークリスm……えッ、もう終わったのですか?

そ、そうですか。チッ、今年のリア充は命拾いしましたね。去年も何もしていないですが。

今年最後の投稿です。張り切って書きました。

ガルペスとの最終決戦。どうぞお楽しみください。


復讐者に救いの手を

「突然ですが前回のあらすじを私、楢原 大樹が説明します。我が嫁であられる超絶美少女の御坂 美琴を救った夫の大樹は一時(ひととき)の休息を得る。休息の内容に関しては恥ずかしいのでカット! で、残虐非道冷酷馬鹿アホドジマヌケの敵たちから不可解なメッセージが送られ、なんと美琴に再び襲われることになってしまった。しかし! ビューティフル主人公ランキング堂々の第一位の楢原 大樹があのコ〇ン君より華麗に謎を解き明かし、じっちゃんの名に恥じない名推理で事件は解決……のはずだったのだが、突如現れた緑の髪の悪魔———1UPキ〇コが———」

 

 

「吾輩を侮辱するのも大概にしろ!? 誰がキノコだ貴様!?」

 

 

「もう満足したかしら大樹? 終わったら真面目にしなさい」

 

 

「うっす」

 

 

小さな体に黒い軍服を着た子ども。俺の言葉にギャーギャー騒ぐ悪魔の本当の名は———グシオン。

 

ズビシッと人指し指でアリアに頬を突かれて反省する。が、

 

 

「はぁ……今時ショタとか……時代に乗り遅れすぎだろお前」

 

 

「……いや、はぁッ!? な、何だ急に!? 今の吾輩の体はこの世界に留めるにはこの体が一番適応———!」

 

 

「F〇Oを見習えよ! 今の時代はロリなんだよ! 幼女なんだよこのクリスマス馬鹿が!」

 

 

「知るか!? 何故吾輩がクリスマスなのだ!?」

 

 

「ウチの最強の嫁、ロリ代表の———」

 

 

「死にたいのかしら? 風穴開けるわよ?」

 

 

大樹がペラペラと馬鹿なことを言う前にアリアは大樹の額に銃口を突きつける。

 

 

「———アリアとティナは宇宙一可愛いぞゴラァ! テメェみたいに中途半端に女顔に寄った奴なんか俺の敵じゃねぇ!!」

 

 

「言った!? ちょっと!? 何で今言ったのよ!?」

 

 

「すまん! 愛情の深さゆえに!」

 

 

「何でもそれでゴリ押せると思っているでしょ!? 甘いわよ馬鹿!!」

 

 

「あああああ! 撃たないでアリアぁ!」

 

 

「うがあぁぁ!! 吾輩を貴様らの夫婦漫才に巻き込むなぁ!!」

 

 

「「め、夫婦…………ポッ…///」」

 

 

ブチッ

 

 

あ、グシオンの頭部から聞こえてはいけない音が聞こえた。どうやらふざけ過ぎたようだ。

 

血管が切れたような音と共に、グシオンの顔がえらく怖いことになっている。『悪魔の獰猛な笑み』を画像検索したらあんな感じの顔が一番に出て来そう。

 

 

「このグシオンを愚弄したこと……あの世で……いや、今ここで後悔させてやろう……!」

 

 

グシオンの体から溢れ出す深緑色のオーラ。右手と左手を合わせてオーラを一点に収束させる。

 

同時に背後に控えていた巨大な砂時計が不気味にチカチカと光り始めた。

 

 

「見せてやろう……悪魔の恐ろしさを!」

 

 

「ジャコ」

 

 

『ああ』

 

 

収束したオーラは形を作り、武器へと変化しようとしていた。

 

不気味な笑みを見せながらグシオンは叫ぶ。

 

 

「【見放された愚者(レス・フール)】!!」

 

 

『【白炎(はくえん)剣輝(けんけん)牢篭(ろうろう)】』

 

 

ガチンッ!!

 

 

グシオンが武器を作るよりも速く、ジャコから光の矢が放たれた。

 

グシオンの反応速度を遥かに凌駕した速度で正方形の結界を生み出し閉じ込めた。この光景にグシオンは、

 

 

「———は?」

 

 

呆気に取られるしかなかった。

 

悪魔が生み出した黒い鎌は顕現したが、結界に閉じ込められた状況を理解できていない。

 

 

「悪いな」

 

 

大樹の声が聞こえた。

 

正面に浮いた大樹が、こちらに向かって右手を伸ばしていた。

 

 

「ッ!?」

 

 

否。それはただ伸ばしているのではない。

 

前に出した右手。広げた右手を一気に握り絞める為に出しているのだ。

 

そして、グッと右手を握り絞めると同時に、大樹は静かに呟いた。

 

 

「【神爆(こうばく)】」

 

 

「貴様ッ———!!」

 

 

憎しみに満ちた表情をするグシオン。悪魔の行動と思考、共に一歩遅かった。

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォン!!!

 

 

グシオンを閉じ込めていた結界の中で白い光が爆散した。

 

腹に響くような低い轟音。目を潰すかのような白い光。そして、アレだけの爆発の中、割れない結界。

 

中に居た者は逃げることも許されず、無事では済まない事は一目瞭然だった。

 

容赦の無い一撃に目を逸らしていたアリアがゆっくりと爆発した方向を向く。

 

 

「……手加減なしね」

 

 

「当たり前だ。そもそも俺の大切な人に手を出した時点で無事で済むと思うなって話だ」

 

 

今のはジャコとの合体技。簡単な話、ジャコの力を無理矢理増幅させて爆発させただけの技だが、威力は十分に使えるモノだ。しかし、

 

 

『油断するな。来るぞ』

 

 

ジャコの警告に二人は構える。大樹は目を凝らし様子を伺う。

 

 

「……まだ、軽いか」

 

 

ジャコの言う通り、まだ終わりでは無い。

 

 

ビシッ……ビシビシッ……

 

 

中身が爆炎に包まれた結界にヒビが入った。亀裂から深緑色の煙が流れ出し外へと漏れ始めた。

 

 

サァ……!

 

 

煙が外へと流れ始めると結界が空気中に解けるかのように消えていく。気味の悪いモノを目の当たりにした直後、

 

 

フッ……

 

 

自分たちを守っていた結界と美琴を閉じ込めていた結界が綺麗さっぱりに消えた。目を疑う光景にジャコは目を見開く。

 

 

『なッ!? 消されただと!?』

 

 

(……似ているな、これは)

 

 

以前戦ったベリアルの力———力を『無価値』にする力とよく似ていた。

 

まるで無効化されたかのような現象。並大抵の攻撃では破壊できない結界を破るには『無価値』のような力が作用しているに違いない。

 

深緑色の煙からゆっくりと姿を見せたのはボロボロの軍服を着たグシオン。被った帽子はどこにもない。緑色の髪がユラユラと揺れていた。

 

 

「図に乗るなよ……クソガキ共があああああァァァ!!」

 

 

激昂するグシオンの叫びと同時に膨れ上がる緑色のオーラ。それを見た大樹は小声でジャコに話しかける。

 

 

「ジャコ、アリアを任せた。ちゃんと乗せろよ」

 

 

『お、おい!?』

 

 

大樹は抱いていたアリアをジャコの小さな背中に乗せて敵を睨む。アリアは抵抗はしなかったが、心配はしていた。

 

 

「大丈夫、なの?」

 

 

「余裕だ。すぐに帰るよ」

 

 

そう言って大樹は白い歯を見せながら笑った。

 

悪神の真紅(クリムゾン・アジ・ダカーハ)】で羽ばたきながらグシオンに近づく。

 

 

「そういや問題は、どうしたっけ?」

 

 

「黙れよ。吾輩はもう、問題は言った」

 

 

そう、コイツとのやり取り合う前に一つ問題を出されていたのだ。

 

砂時計で全ての砂が落ちる———二十四時間の制限時間。解く問題は、至ってシンプルな内容だった。

 

 

 

 

 

『ガルペス=ソォディアの現在地を探し出せ』

 

 

 

 

 

(難しいってレベルじゃない。無理なレベルだと思うよ)

 

 

いやいや、無理でしょ。この世界に来てずっとアイツを探していたけど探せていないんだぜ?

 

もしかしたら未来や過去に行っている可能性だってある。何ならウルトラホール開いてウルトラビーストガルペスになっている可能性だってある。マスターボールでも捕獲できない気がする。が、がんばリー〇エ、俺!

 

 

「違う違う。問題の内容は聞いた。だから、ガルペスの居場所を教えろよクソ野郎」

 

 

「ほざくなクソガキ。例え知っていても、吾輩が貴様に教えるわけがなかろう」

 

 

この返しは多分知らないだろうな。大体あのガルペスのことだ。教えているわけがない。

 

とにかく制限時間は一日しか無いんだ。この勝負、すぐに終わらせよう。

 

 

ドンッ!!

 

 

拳と拳をぶつけて構える。刀も銃もいらない。

 

右手の人差し指をクイクイッと曲げて挑発する。

 

 

「ハンデをやる。武器を使わないでやるからかかって来いよ」

 

 

「使えないの間違いではないか? この【見放された愚者(レス・フール)】が恐ろしいのだろう?」

 

 

「ハッ、その武器が何だよ? ベリアルと同じような物だろ?」

 

 

「愚かな。この武器はガルペスから貰い受けた『神器(じんぎ)』の一つ———オリュンポス十二神が持つ神の武器だ」

 

 

今の言葉は聞き逃せなかった。

 

オリュンポス十二神。それは俺たち保持者たちに力を与えている存在なのだから。

 

 

「『神器』は神の持つ力を付加させた武器。貴様の持つ刀も『神器』なのだろう?」

 

 

なるほど。俺の【神刀姫】には確かに神の力を与えている。

 

それだけのことなら、その武器の正体も見破れるはずだ。

 

 

「だが、コイツは特別だ。悪魔の力を与えた『神器』は『悪神器(あくじんぎ)』と化す」

 

 

「———ッ!?」

 

 

ニヤリと笑みを浮かべたグシオンに大樹は危険を察知した。

 

すぐに首を右横に傾けた。その瞬間、

 

 

スパッ!!

 

 

大樹の左頬が血を噴き出しながら切れた。

 

アリアとジャコが息を飲むが、大樹は表情を変えていない。

 

 

「この『神器』はどんな場所から視界に入るモノを斬り裂くだけの力だった。これだけでも、吾輩は満足していたが———」

 

 

その時、自分の体がガクッと落ちた。

 

 

「———『悪神器』は、斬った者の力の繋がりを断つ事ができるようになった」

 

 

「マジか」

 

 

額から汗が流れ落ちた。笑っているが、笑みが引き攣った。

 

悪神の真紅(クリムゾン・アジ・ダカーハ)】、【神刀姫】、【神銃姫・火雷(ホノイカヅチ)】、何も反応しない。

 

神の力も発動していない。弱者へと堕ちた大樹は、街へと落ちる。

 

 

バチバチッ!!

 

 

タイミングが悪い事に暴れていた紅い電撃が俺を見つけて襲い掛かろうとしていた。

 

 

「死んで悔いろ、クソガキ……!」

 

 

笑みを見せながら告げるグシオンの言葉に大樹は、

 

 

 

 

 

「ま、死なないのが俺だよ」

 

 

 

 

 

バチンッ!!!

 

 

大樹に襲い掛かろうとした紅い電撃は、当たる前に霧散した。

 

突如横から飛んで来た攻撃に相殺されたのだ。

 

 

「何ッ!?」

 

 

「忘れていないか? 俺の唯一絶対に切れていない繋がりを」

 

 

ドンッと背中に衝撃が走る。そう、俺は誰かに抱きかかえられていた。

 

っと言っても、誰に抱きかかえられているのかすぐに検討はついている。見上げてみれば知っている俺の大切な嫁———そう、

 

 

「よぉ、黒———誰だお前」

 

 

「おい。俺の顔を見て絶望するなよお前」

 

 

黒ウサギではなかった。最悪だ。俺、原田にお姫様抱っこされている。

 

何でお前との友情(笑)の繋がりを見せつけるんだよ。嫁との愛情(ガチ)を見せつけたいよ。

 

 

「黒ウサギから話は聞いた」

 

 

「そうか。聞いたならそこでお前は帰って黒ウサギをこっちに来るべきだった。間違えんな死ね」

 

 

「はい理不尽」

 

 

吐き気がするようなことが起きたが、大丈夫。あとで嫁に慰めて貰おう。膝枕を頼もう。

 

原田に担がれたまま俺たちはビルの屋上に着地する。そこには七罪の姿もあった。

 

 

「うわぁ……………で、どうするのかしら?」

 

 

「最初のドン引きは心の中だけでやって欲しかったって大樹思うの」

 

 

そこにはボン!キュッ!ボン!のダイナマイトボディの大人の姿になった七罪の姿があった。一瞬素が出たのが性質(たち)が悪い。というか精霊の力を解放しちゃったのか。

 

原田と七罪のことで頭から離れていたが、すぐに俺は大事なことを思い出す。

 

 

「あッ、アイツの攻撃範囲って見える場所全部だからヤバいよここ」

 

 

「遅いよ馬鹿」

 

 

その瞬間、ビルに何十も越える斬撃波が放たれた。

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

「嘘でしょッ!? ちょっと!?」

 

 

「おっふ、これはヤバい」

 

 

七罪が俺に抱き付いてビビっている。俺も変身した七罪の体のヤバさにビビっている。

 

斬撃波に誰よりも早く気付いた原田は両手に持った二本の短剣で俺たちに当たる斬撃波を斬り落としてた。おかげで被害は少ないが、ビルが崩れ始めている。

 

 

「くっ……俺の【天照大神(アマテラスオオミカミ)の剣】が……!」

 

 

短剣が力を失ったことに表情を歪める原田。地面に手を置き、大樹の名前を叫んだ。

 

 

「ぶっ飛ばすぞ大樹!!」

 

 

「マジかお前!? いや、別にいいけど心の準備が———」

 

 

「【永遠反射(エターナル・リフレクト)】!!」

 

 

こういう大事な時って大体俺の意志を無視するよね?

 

 

ドゴンッ!!

 

 

瓦解したビルの破片が一気に弾け飛ぶ。弾け飛ぶコンクリートと共に大樹の体も空へと弾け飛んだ。

 

原田は七罪を抱きかかえて脱出。俺もそっちのコースが良かったと思うが、原田に抱えられるのはウンザリだ。こっちでいいよクソッタレ。

 

勢い良く飛んでいる先にはグシオンが居る。敵は貰ったと言わんばかりの顔をしていた。

 

 

「わざわざ吾輩に殺されに来たか! 望み通り細切れにしてやろう!」

 

 

グシオンから放たれる無数の斬撃波。しかし、大樹の表情に迷いはない。

 

 

「舐め過ぎだ。俺を誰だと思っている」

 

 

斬撃波に対して、大樹は拳で挑む。無謀とも言える挑戦にグシオンの笑いは止まらない。

 

 

「クハハハハハッ、馬鹿なクソガキだ! 神の力を失ったお前に何ができる!?」

 

 

「何勘違いしてんだお前? いつ、俺が失った?」

 

 

「———は?」

 

 

グシオンの笑いがピタリと止まった。大樹の不可解な発言によって。

 

次の瞬間、グシオンは目を疑う光景を目の当たりにする。

 

 

ギュイイイイイイイイン……!

 

 

———大樹の右手に黄金の光が収束していた。

 

見間違いなどではない。失ったはずの神の力だった。

 

 

「断たれたなら……新しく繋ぎ直して創ればいいだけの話だろうがぁ!!」

 

 

「無茶苦茶なッ……!?」

 

 

保持者殺しの力に大樹は通じない。いくつもの壁をブチ破り、神の域に足を踏み入れた大樹は止まらない。

 

歯を食い縛ったグシオンはさらに力を解放した。

 

 

「ならば……もう一度断つまでだ!」

 

 

斬撃の数が急激的に増える。隙間なく降り注ぐ斬撃を拳で弾けば再び力を失った。

 

この斬撃波の雨を大樹は避けることができない。神の力をグシオンにぶつけることは不可能だ。

 

……大樹は前々から思っていたことがある。

 

 

「【無刀の構え】———」

 

 

神の力があるから今までの敵は倒せた。しかし、神の力が無ければ敵を倒せないのも現実。

 

その現実は姫羅との戦いは一番痛感したのが記憶に新しい。

 

前回の悪魔と戦闘、そして今回で二度目となる神封じに大樹は危機感を覚えていた。

 

 

(これじゃ守れない。まだ上を目指すべきだ)

 

 

圧倒的な力に、もっと圧倒的な力をぶつける戦い方じゃダメだ。

 

弱い力でも、圧倒的な力に対抗できる経験が必要だ。

 

 

(今の俺じゃ駄目だ。でも、()()()()()()()()()()()()()())

 

 

「———【()連撃(れんげき)】」

 

 

体を捻らせながら斬撃に拳と蹴りを振るった。

 

 

バシバシバシッ!!

 

 

拳と蹴りで斬撃を弾き、受け流しながらグシオンへと近づく。その光景にグシオンは表情を引き攣らせるも、大樹の拳に纏っていた神の力が断たれていることに気付き笑みを浮かべる。

 

 

「吾輩の勝利だ! 無力と化したその体では、悪魔を倒すことなど不可能!」

 

 

好機と見たグシオンは鎌を大きく振り上げて大樹の首を刈ろうとする。

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

ゴオォッ!!

 

 

大樹の体が加速した。

 

間合いをズラされたグシオンはギョッと目を見開いて驚く。いつの間にか、大樹が懐に入り込み、目の前にいたのだから。

 

 

「だから越え続けて、強くなり続けて、守り続けて、俺は最強の上に行くんだッ!!」

 

 

ギュイイイイイイイイン!!

 

 

消えていたはずの神の力が大樹の手に収束する。先程と全く違う創造速度にグシオンの呼吸が止まった。

 

 

「俺の、俺たちの……全ての人間が持つ幸せを守る為に、救い続けると決めてんだよッ!!」

 

 

「くッ……【見放された(レス・)———!」

 

 

顔を真っ青にしたグシオンは急いで攻撃に移ろうと態勢を立て直すも、遅かった。

 

 

「【黄泉(よみ)送り】!!」

 

 

ドンッ!!

 

 

「ごはッ……!?」

 

 

大樹の拳がグシオンの胸を衝撃を与えて肺にある空気を叩き出させる。

 

 

「【地獄巡り】!!」

 

 

ガッ!!

 

 

(ひる)んだグシオンに遠慮なく顎に回し蹴りが入れられる。

 

グシオンの視界は大きくブレて何も反応できていない。

 

 

「【天落撃(てんらくげき)】!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

その隙は致命傷と言っても過言では無い。大樹は追撃をさらに仕掛けた。

 

両手で握り絞めた容赦の無い拳の一撃がグシオンにぶつけられる。

 

グシオンの体は真下に落下し、地面にクレーターを造り上げる。

 

 

「がぁッ……馬鹿———!?」

 

 

急いで立ち上がろうとするグシオンに、

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「———ごふッ!?」

 

 

「【鳳凰(ほうおう)炎脚(えんきゃく)】」

 

 

後を追って加速して落下して来た大樹の両足がグシオンの腹部を踏みつけた。

 

その衝撃の強さは悪魔が血を吐き、完全にダウンするほど。

 

しかし、今までの攻撃の流れは全て『本気ではない』ことをグシオンには分かっていた。

 

 

「わ、吾輩をッ……舐めるなッ……!」

 

 

「舐めてねぇよ。全力でやっている」

 

 

ギュイイイイイイイイン!!!

 

 

倒れたグシオンに大樹の引き絞った両手の拳が黄金色に輝く。

 

その姿にグシオンは理解した。今の四連撃は『本気を出さなかった』わけではない。

 

———『本気の一撃を確実に当てる為』の流れだということ。

 

ボロボロになり、コンクリートに埋まった体では避けるどころか受け止めることもできない。いつかは分からないが、武器も手放してしまっている。

 

 

「クソガキッ……良い趣味してるな……」

 

 

「味方になることを誓うなら、この一撃は空にでも打ち上げる」

 

 

「ハッ」

 

 

負けだと分かっていても、グシオンは笑みを見せるのだ。

 

 

「吾輩は、お前のような奴は好かんッ……!」

 

 

「俺もだよ、馬鹿野郎」

 

 

「クックックッ、せいぜい時間切れで情けなく死んでしまえ……」

 

 

「安心しろ。絶対に、そうはさせない」

 

 

「フッ……吾輩の負けだ。見事だクソガキ」

 

 

グシオンは笑いながら目を閉じた。

 

一瞬、大樹は躊躇(ちゅうちょ)したが、ここで撃たなければ、それは敗者に対する侮辱だと分かった。

 

そして、最後の一撃———五連撃目が放たれた。

 

 

「【双撃・神殺天衝】」

 

 

________________________

 

 

 

残り時間—————12時間。

 

 

 

 

 

現在、大樹は()()()に居た。

 

 

 

 

「ガルペスたんが全然見つかる気がしないンゴ」

 

 

「へい、ラーメン大盛りバリカタ!」

 

 

焦りを通り越して落ち着ていた。ただし、顔は真っ青である。

 

一度頭を整理して落ち着くためにご飯を食べることになったが、休憩できる気がしない。

 

 

「替え玉!」

 

 

「へい!」

 

 

大樹は大声で注文する。ただし、顔は真っ青である。

 

グシオンの撃破に成功し、役目を終えたかのように静かに眠りについた美琴を救出した後、次に出された謎は『ガルペスの位置を特定する』と来た。【フラクシナス】も全力で協力してくれることになったが、見つかる情報どころか見かけた情報もない。携帯端末は無言を貫いている。

 

連絡がないなら、俺が連絡しよう。そうだ、そうしよう。

 

とりあえず連絡の起点となる【フラクシナス】に俺は電話する。するとすぐに繋がった。

 

 

『何か分かったかしら?』

 

 

「ヤバいよ琴里ちゃん。西日本、全部回ったけど見つからない」

 

 

『そうね、一番ヤバいのはアンタよ。原田からは北海道の探索をやっと終えたのに次元が違うわ』

 

 

「へい! 替え玉一丁!」

 

 

「うまいやばい」

 

 

『そしてラーメンを食べていることに呆れてしまうわ』

 

 

溜め息が端末から聞こえた。一周回って頭がおかしい人になっているね俺。

 

麺とスープが見えなくなるくらいネギを投入しながら俺は考える。答えはこのラーメンと同じように、ネギに埋まって全く見えてこなかった。いや埋まってないから。答えネギに埋まってないから正気になれ俺。

 

 

「それより頼んでいた情報、まとめておいてくれたか?」

 

 

『ええ、ちょうど終わったわよ。だから一度、戻って———間に合うかしら?』

 

 

「街を壊さないように行くなら1時間もいらない」

 

 

『……そう』

 

 

何かを諦めたかのような反応をされた気がしたが、俺は気にせず通話を終了する。

 

一気にラーメンを食べ上げて俺は立ち上がる。会計を済ませた後、【悪神の真紅(クリムゾン・アジ・ダカーハ)】で身を隠して走り出す。

 

そもそも、闇雲にガルペスを探して見つけれるわけがないことぐらい分かっていた。だから、準備を進めるしかない。

 

 

「目的の物も集めた。あとはお前との戦いだよ、ガルペス」

 

 

ゴオォッ!!

 

 

空へと飛翔し、体を加速させた。

 

 

 

________________________

 

 

 

残り時間—————8時間。

 

 

 

 

ここは【フラクシナス】の一室。会議に使われるような長テーブルと椅子が並んだ部屋。

 

【フラクシナス】に帰って来た例の如く大樹は正座していた。当然、目の前には怒気を(あら)わにした女の子たちがいる。

 

正座した大樹の背後に写るモニター。そこにはあるニュースが報道されていた。

 

 

『衝撃! 歴史ある日本刀が次々と荒らされる連続多発!』

 

『名刀正宗が狙われた!? 盗まなかった犯人の目的は一体……?』

 

『怪奇現象か!? 展示された刀のガラスだけが割られる!?』

 

『証拠がない犯行に現場は戦慄。不可解現象に捜査は難航』

 

 

目の前に立った正義感の強いアリアが大樹の顔をガシッと掴んだ。

 

 

「今日、博物館や歴史資料館に強盗が入ったそうよ」

 

 

「物騒な世の中だな」

 

 

「狙われたのは西日本の全博物館よ」

 

 

「クッ、この異常な数……まさかガルペスの仕業———!」

 

 

「アタシの前で逃げられると思わないことよ」

 

 

「———刑事さん、僕がやりました」

 

 

メキメキと頭蓋骨から嫌な音が聞こえていた。怒ったアリアに俺は涙目だった。

 

この一連の事件、犯人は私です。私がやりました刑事さん。

 

 

「必死に探しているアタシたちに対して何をやっているのよこの馬鹿!」

 

 

「途中、探すのは無理だと悟ったのでガルペスとの決闘に備えて武器の複製をしていました……!」

 

 

複製というワードにアリアはピタッと頭蓋骨を砕くのを中断する。脳ミソが飛び出す前に止まってよかった。

 

 

「複製って……もしかして」

 

 

「もちろん【創造生成(ゴッド・クリエイト)】で増やしてギフトカードにあります」

 

 

もはや何も言うまい。大樹の頭がおかしいのは今に始まったことでは無い。そんな空気だった。

 

 

「待て。そんな目で俺を見ないでくれみんな」

 

 

女の子たちのリアクションを見て焦る大樹。アリアは大樹から手を放し、

 

 

「……………」

 

 

「何で無言で首を横に振るの!? 悪かった! 俺が悪かったからそんな目で見ないでぇ!!」

 

 

「そうよね……世界を救うために犯罪を犯したのよね……大丈夫よ」

 

 

「全然大丈夫じゃないよ!? アリアの悲しい顔で俺の心が救われてないよ!? その状態で俺を抱き締めても嬉しくないぞ!?」

 

 

アリアの肩を揺さぶるが、凄い哀しい目で俺を見ている。助けて。心がすげぇ痛い。

 

優子や黒ウサギにヘルプを求めるが、苦笑いで「頑張って」みたいな顔で俺たちを見ていた。いや何を頑張るの!?

 

どうやってアリアを元気にしようか必死に考えていると、真由美が、

 

 

「アリア。大樹君をからかうのは全部が終わってからにしましょ?」

 

 

「そうね。反省しているそうだし、いいかしら?」

 

 

「……………」

 

 

「大丈夫よ大樹。あなたが頑張っていることはちゃんと分かっているから」

 

 

「……………」

 

 

「でも、犯罪は駄目よ! 次は風穴だからね!」

 

 

「……………」

 

 

アリアが指を指しながら大樹に説教するが、彼は真顔で無言だった。

 

何も反応を見せない大樹にアリアは少し額から汗を流した。

 

数十秒間の沈黙。大樹は口を開く。

 

 

「アリア……真由美に変なことを吹きこまれないように注意してくれ」

 

 

「全部私のせいにしないで!?」

 

 

「俺を(もてあそ)ぶのはお前だけだ真由美!! 俺のデレたアリアを返せ!!」

 

 

「あたしはデレてなんかないわよ!?」

 

 

「そ、そうよね……アリアのデレを奪った私は……ひどいわよね」

 

 

「結局最後はあなたたち二人であたしたちを弄んでいるでしょ!?」

 

 

「「てへッ♪」」

 

 

ガキュンッ!!

 

 

びゃッ!? 何で俺だけ撃たれるの!?

 

 

「……もういいかしら?」

 

 

「あッ、優子さん。ご機嫌いかがですか」

 

 

「真面目に」

 

 

「はい」

 

 

ウチの嫁ってしっかりしていると思う。(一部除く)

 

そろそろ真面目に議論しないと不味い。女の子たちを席に座らせ大樹は始める。

 

 

 

 

 

「これより、謎の手掛かりはゲットしたから打ち上げの予定を決め———」

 

 

 

 

 

それはもう凄い集中砲火だった。

 

女の子たちから一斉に攻撃をくらい背後にあったホワイトボードはブラックボードと化していた。物を大切に。ついでに、大樹も大切にね?

 

 

「大樹さん。真面目に」

 

 

「ティナ! 俺はお前の為に料理を考えて———!」

 

 

「大樹さんは私達を不安にさせないようにしたいかもしれませんが、無理ですよ」

 

 

子どもとは思えない真意を突いた言葉に大樹は言葉を詰まらせて唇を軽く噛む。

 

もう通じないことは分かっていた。それでも不安にさせたくない。そんな顔にさせたくないと俺は思っている。

 

 

「……この戦い、正直分からない。勝つことも、負けることも」

 

 

「ッ……別に一人で戦うわけじゃ……」

 

 

大樹の言葉に、優子が何かを言おうとするが、それは自然と止まった。

 

強さの次元が明らかに違う。神の力を背負う彼らの中に入ることは、常人には不可能だった。

 

この中で一番強い黒ウサギでも口を出さないのだ。彼女も手助けできないことを理解し分かっていた。

 

 

「それでも、私は一緒に戦いたい」

 

 

「折紙……」

 

 

俺の両手を握り絞めて、一人で行かせないと目で訴えている。その強い意志がある目に俺は目を逸らさない。

 

その手を握り返し、笑みを見せた。

 

 

「俺だって分かっている。俺が一人で行くことを、お前たちは絶対に許さないことくらい。俺と同じくらい、我が(まま)だってことくらいな」

 

 

アリア、優子、黒ウサギ、真由美、ティナ、折紙。そして美琴。

 

俺は彼女たちとずっと一緒に居たい。永遠に居続けたい。何日も、何ヵ月も、何年、何十年、この命が終えるまで隣で笑い合いたい。

 

生きて帰って来る。そうじゃなきゃ、俺のこの思いは一生届かないままだ。

 

 

「でも、一人で行かせてほしい。アイツとの一騎打ちは俺じゃなきゃ駄目だ」

 

 

この言葉だけで納得する彼女たちではない。だから、大樹はポツポツと語り始めた。

 

 

「生きて帰って来たら、まずは俺は入院確定だろうな。その時は、みんなで俺の看病して貰って、退院した後はみんなとデートして、美琴ともデートして、今まであったことを笑って話して」

 

 

余裕のない顔をしていた大樹だが、喋っているうちに笑みをこぼしていた。

 

 

「最後は俺を巻き込んで喧嘩したり、周りに迷惑かけて、原田をからかって、精霊たちと話をして、士道を困らせて、非常識なことをして、それから———」

 

 

ここで終わることなんて許さない。これからの予定はもう決まっていて、キャンセルなんてさせない。

 

 

「———やりたいことがまだあるんだ。俺は死ぬわけにはいかない」

 

 

「……分かっています。大樹さんが帰って来てくれると信じています。信じていますが……」

 

 

「俺が黒ウサギたちと同じ立場なら、止めるだろうな必ず。その気持ちは分かる。だから———また信じて待っていて欲しい」

 

 

彼女たちには何度も待たせてしまう。つい最近まで過去に飛んでしまい、それまで待たせたというのに、自分は最低な男だとつくづく思う。

 

彼女たちの不安な表情。それでも無理に笑みを見せる彼女たちに心を痛めてしまう。だが、

 

 

「止めても無駄なことくらい、分かっているわよ」

 

 

アリアは腕を組みながら微笑した。

 

「そりゃどうも」笑って礼を言うと、アリアは一発の銃弾を俺に渡した。受け取ったのは暖かい熱を持った緋色の銃弾。渡された俺は驚いた。

 

 

「まさか……緋弾?」

 

 

「ええ、凄いでしょ?」

 

 

「ああ、凄いよ———ようこそアリア、こっちの世界へ!!」

 

 

「アンタと一緒にしないでくれるかしら!?」

 

 

アリアは強く否定した。それは首を横に何度も振るくらい拒否した。でも、手遅れなんだ。

 

 

「さよならアリア、大樹君と並べることを心から祝うわ」

 

 

「さすがアリアさん、黒ウサギを越えましたね」

 

 

「凄いわよ! 良かったわね大樹君!」

 

 

「おめでとうございますアリアさん。私は()()()()()()()()ので」

 

 

「ズルい。私も大樹と一緒が良い」

 

 

「ちょっと全員で裏切らないで!? 折紙、アンタはやっぱりズレているわ!」

 

 

優子から順に黒ウサギ、真由美、ティナ、折紙が微笑んだ。いや、折紙は真顔のままだ。確かにズレている。でも可愛いから許す。俺と一緒がいいなんて嬉しい言葉じゃないか。逆に何故嫌がる他の女の子たちよ。

 

アリアが嫌がるのは、歓迎が足りないからだ。そう、俺に不足しているのは歓迎力。歓迎力って何だ。

 

 

「ウェルカム」

 

 

「No problem」

 

 

メンタル・イズ・ザ・ブレイク。すっげぇ流暢(りゅうちょう)な英語で断られた。悲しい。

 

ポンッと肩を叩かれ振り返ると、満面の笑みで真由美がグッジョブと親指を立てた。

 

 

「全員無理だからね!」

 

 

お前じゃなくて原田とかだったら絶対殴ってた。神殺天衝レベルで。

 

 

「大樹さん、黒ウサギは謎の方が気になるのですが、本当に大方解けたと……?」

 

 

「西日本を飛び回っている時に、謎のことを頭の中で整理していたんだ。その時、気付けた」

 

 

ここからは真面目だ。真剣に彼女たちに話す。

 

 

「グシオンが出現した時、奴は巨大な砂時計を置いて行った。それは24時間という制限時間を示す為かと思っていた」

 

 

「大樹さんは、違うと?」

 

 

「『違う』とは思わない。『隠されている』ことがあると思った」

 

 

黒ウサギの言葉に大樹は首を横に振り、話を続ける。

 

 

「グシオンの力に砂時計は共鳴していていた。最初はあの砂時計がグシオンをサポートする存在かと考えていたが、ガルペスの出した謎を思い出すと、どうも怪しい」

 

 

「そういえば、あの砂時計はまだ空にあるのかしら?」

 

 

「ああ、まだ浮いている。攻撃するのはさすがにやめている。何かあった時は怖いからな」

 

 

一緒に居たアリアが確認を求める。俺は頷き、まだ謎となっていることを話す。

 

 

「ガルペスが出した謎の答えは『パック』。精霊ではなく妖精の名前だったことは聞いたよな?」

 

 

「ええ、確かに聞いたわ。いつものように大樹君が常識外れの知識で未解読文字を解読したことと一緒にね」

 

 

「真由美。お前はそろそろパンツでも取り上げて痛い目を見るか?」

 

 

「「「「「させるとでも?」」」」」

 

 

「冗談です神様」

 

 

やだもう! 俺がそんなことできるわけないじゃないですかぁ!

 

 

「駄目ですよ真由美さん。あまり大樹さんをいじめすぎては。いつか仕返しが返って来ますよ」

 

 

おお、いいことを言うなティナ! あまり俺を舐めない方が良いぜぐへへ? 何か死亡フラグ立ちそう。

 

でも話が脱線しているからまた今度にしてくれない?

 

 

「例えば? どんな仕返しかしら?」

 

 

「もちろん、エッチなことです」

 

 

「おい」

 

 

返せよ。数秒前に感心した俺を。

 

 

「それは確かに困るわね。黒ウサギあたりは喜ぶと思うけど」

 

 

「なッ!? 何故黒ウサギが巻き込まれ———!?」

 

 

真っ赤な顔で黒ウサギが文句を言おうとすると、真由美は、

 

 

「『少しだけ、傷をつけて貰っても良いですか?』」

 

 

———やりやがったよあの魔王。

 

真由美が特大ミサイルをぶち込みやがった。敵に宣戦布告する前にえげつない攻撃しやがったよ。

 

真っ赤な顔のままピタリと止まる黒ウサギ。あの会話を聞いていたのか。さすが魔王。世界の半分どころか勇者に1LDKの部屋しか与えないくらい酷い。

 

 

「———思いつきました。一番酷い仕返し……黒ウサギさん?」

 

 

ティナは今の流れを聞いていなかったようだ。固まる黒ウサギを見て首を傾けた。まぁ聞いていても、アリアたちは何のことか分かっていないようだから意味はないか。

 

それで、話が凄い脱線しているけど、一応聞こうかティナ。一番酷い仕返しって何? スカートめくりの上位版あたりか?

 

 

 

 

 

「———最後の最後に、大樹さんが真由美さんだけを振る仕返しです」

 

 

 

 

 

「———それは本気で泣くわ」

 

「———俺もそれは絶対に無理だわ」

 

 

気が付けば俺と真由美は両手を繋いでいた。頼むからそんな恐ろしいことを言わないでくれ。

 

 

「では、大樹さんが真由美さんに似た女性と浮気し始める」

 

 

「その辺りは信用できないから、本気で泣くわ」

 

 

「信用してくれない真由美に俺は泣きそうだわ」

 

 

真由美が手を放したせいで泣きそうになる。ティナ、もうやめてくれ。もう考えないで。

 

 

「でも」

 

 

手を放した真由美は俺の右腕を強く引っ張り、抱き締めた。

 

 

「大樹君は私のこと、大好きだから大丈夫よ!」

 

 

「真由美……!」

 

 

「あと、嘘でも泣けば必ず勝つわ」

 

 

卑怯だろ。

 

 

「「「「「それは分かる」」」」」

 

 

卑怯だ!

 

 

「だああああ! 話を戻すぞ! 戻すからな!」

 

 

大声を出して話を戻す。一度咳払いをして、

 

 

「……どこまで話した俺?」

 

 

「砂時計が怪しいこと。ガルペスの出した謎の答えが『妖精』だったこと」

 

 

「ありがとう折紙」

 

 

ってよく考えて見れば完全記憶能力使って会話を(さかのぼ)れば分かるじゃん。

 

 

「『妖精』という答えを出させたからには、次の問題である『ガルペスの位置特定』も関係あると睨んだ」

 

 

「そうね、じゃあ早速砂時計を見に行きましょう!」

 

 

「いや、もう見て来たから行かなくていいよ」

 

 

無言でアリアが銃を俺の額に押し付けて来た。良かれと思っての行動なのに。

 

 

「砂時計の底や上に、五芒星(ごぼうせい)が描かれていた。これは関係があると見て間違いない」

 

 

白い線で描かれていた五芒星を思い出す。砂時計と五芒星。手掛かりは増えた。

 

考えていると、ティナが挙手した。

 

 

「ごぼう……どんな食材の星が描かれていたのですか……?」

 

 

「ティナは凄い珍しいボケをするよな……食べるごぼうじゃないんだ。一筆書きで作れる星のマークがあるだろ? アレだアレ」

 

 

(こう)でしょうか」

 

 

「ホントティナは凄いな。そのマークを綺麗に一筆書きできるのか……でも違うんだよ。点を五つ結ぶ感じで……時計を使って説明するか」

 

 

時計の12→7→3→9→5→12の順で点を結ぶように一筆書きさせるイメージを伝える。今度は五角星形———五芒星が完成した。このマークが五芒星。

 

ティナは『そっちでしたか……』と納得していた。いや逆にあの☆マークを綺麗に一筆書きできるのが凄いよ?

 

 

「この星と砂時計って何か関係あるのかしら?」

 

 

「優子さんと同じ意見です。黒ウサギにも分かりません」

 

 

「黒ウサギと大樹君が分からないなら私もお手上げね」

 

 

優子、黒ウサギ、真由美の三人は謎が解けないようだ。同じく俺もここで行き詰っている。

 

砂時計の歴史、五芒星との関連。頭の中にある知識を広げてみるが、繋がる点が見当たらない。

 

 

「砂時計……星……」

 

 

全員が行き詰っていた時、ティナが呟いた。

 

 

「オリオン座……」

 

 

「……ティナさん、オリオン座とは星座のことでしょうか?」

 

 

いつも俺がしているアレか。ってそれは『正座』でしょうが! なんてつまらないことを考えているんだ俺。

 

しかし、こんな余裕を持てるには理由があった。

 

 

 

 

 

最後のピースが当てはまり———謎が、解けた。

 

 

 

 

 

「砂時計って言っても胴体の形だけでしょ? 実際は手があって違うわよ?」

 

 

「いや、大丈夫だアリア。それでいいんだ」

 

 

ニヤリと笑みを見せている大樹を見たアリアは驚く。その笑みを見ていた折紙が尋ねる。

 

 

「解けたの?」

 

 

「ああ」

 

 

質問に俺は頷いた。その自信を持った頷きに、女の子たちは安堵の息をついた。

 

最大のヒントをくれたティナの頭を撫でる。

 

 

「ありがとうティナ。お前のおかげで全部解けた」

 

 

「大樹さんの役に立てたなら、私も嬉しいです」

 

 

微笑むティナの可愛さにいつまでも撫でていたくなるが、時間は有限。いつまでもここに居るわけにはいかない。

 

 

「司令室に行くぞ。説明はその後だ」

 

 

________________________

 

 

 

日は沈み、暗い夜へと変わる。

 

空間震警報から解放された街は賑わいを取り戻し、【フラクシナス】の下には綺麗な街灯りがあった。

 

下は平和な世界だと思うが、残念ながら上の【フラクシナス】は平和じゃない。

 

 

「何……これ……」

 

 

戦慄した琴里が震えた唇で声に出す。モニターに映った映像に恐怖していた。

 

クルーたちも息を飲み、固まっていた。誰も声を出せなかった。

 

 

「ガルペスは俺たちに二つのヒントを与えることで場所の特定をさせたかったかもしれないな」

 

 

説明するかのように語る大樹。唯一、動揺していなかったのは彼だけだ。

 

モニターに映るのは()()()()()

 

一つは誰もが知ってる夜の空に浮かぶ綺麗な月。今宵は満月だった。

 

 

1.最初の謎———答えは『妖精(ようせい)』のパック。

 

2.次の謎に出されたヒント———五芒星が描かれた砂時計。

 

 

「星が砂時計の『正座』を指しているなら『オリオン座』だ。オリオン座の場所は当然、宇宙にある」

 

 

以上2つのことから、答えが導き出せるのだ。

 

———宇宙にある答え。

 

———妖精という言葉。

 

 

そして、大樹は、モニターを睨み付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モニターに映るもう一つの球体は、銀色の機械部品で作られた月と同じ大きさの巨大な星だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宇宙の月に隠れた星———『妖星(ようせい)』というわけだ」

 

 

 

 

 

心臓に悪い答えだ。恐ろしい洒落た解答だと大樹は皮肉に思う。実際、このモニターに映る妖星に大樹は動揺を必死に隠していた。

 

ガルペスが見つかるわけがない。この地球()にいない人物を探すとは到底予想できることじゃない。

 

きっと奴は今まで俺たちの行動を観察していたのだろう。地球じゃない、あの星から。

 

 

「今まで気付かなかったのは奴の持つ能力……いや、科学の力かもな。ステルス機能的なモノで姿をずっと隠していたと思うが……」

 

 

「馬鹿げているわ……こんなの」

 

 

震えた声で、原田の隣に居た七罪が首を横に振っていた。さすがの原田も唇を噛んで黙っている。

 

 

「……………」

 

 

妖星を見てグッと右手を握る。ガルペスは今まで様々な敵を俺にぶつけて来た。

 

苦戦した、怪我をした、楽勝だった、死にかけた。でも生きている。

 

だが今回はどうだ? 今までの大きさの比のレベルが違う。段違いだ。生きることができるのか?

 

 

「大樹」

 

 

強く握っていた拳に、折紙の手が重なる。ハッと大樹は折紙の方を向く。

 

 

「止めても無駄だからな?」

 

 

「何を?」

 

 

「は?」

 

 

「何を止めるの?」

 

 

「いや、俺が宇宙に行くのだろ? 違うのか?」

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

「え? 何この反応。さっきまで泣きそうになっていたお前らが急に真顔になるとか恐怖するんですけど?」

 

 

突然、「何を言っているんだお前」みたいな反応をされても困るのだが。今の流れ、そうじゃないの?

 

 

「宇宙に……どうやって行くのよ」

 

 

「いや、普通に飛んで……行くけど……」

 

 

空気が一瞬で変わる。全員が大樹の言葉に戦慄した。

 

 

「死ぬわよ馬鹿!?」

 

 

「待てアリア! ……本気でそう思うか?」

 

 

「えッ……いや……冗談でも……やめて、嘘でしょ?」

 

 

真っ青になるアリアの顔。俺は優しくアリアの頬に手を置き、笑みを見せた。

 

 

「ハハッ、愛の力でどうにかなるさ!!」

 

 

「救急車! 急いでこの馬鹿の脳ミソを引き出しなさい!!」

 

 

アリアは頬に触れた腕を掴み、そのままヘッドロックする! 何で俺の愛はここまで通じないんだ!? 何でアリアの胸は成長しなああああああああァァァ!!!

 

 

「今、最低なこと考えたでしょ……!」

 

 

「エスパーですかアリアさぁん!?」

 

 

「なッ!? 考えたのね!?」

 

 

「見事に鎌をかけられたぁ!!」

 

 

メシメシメシッと音と共にアリアの控えめな胸に顔が埋も……まぁ、埋もれたよ、うん。真由美か折紙辺りなら本場の埋もれるんだが……。黒ウサギ級なら窒息死。これ常識な。

 

 

「……深刻な状況なのに、緊張感無さすぎでしょ」

 

 

「まぁ、それが大樹たちの良い所だと思ってくれ」

 

 

七罪の呆れた声に苦笑いで原田が誤魔化す。

 

 

「何となく、分かります」

 

 

「ホント、記憶を無くしても変わらないわね」

 

 

士道と琴里が笑いながら原田の言葉に頷く。平和ボケしている場合では無いが、焦っても仕方がない。真っ青になっていたクルーたちの手が動き出す。

 

 

「人工衛星からデータの分析をします!」

 

 

「上への通達、および同時に応援要請を!」

 

 

「ええ、頼むわよ」

 

 

常識では考えることができない映像。しかし、精霊という常識外れの存在を相手にして来た彼らの取り戻しは素晴らしいモノだった。

 

その様子に大樹は驚きながら満足する。対応と切り替えの早さに精鋭と呼ばれるのも頷ける。

 

 

「ッ!」

 

 

その時、艦橋のスピーカーから外部通信を(しら)せるブザーが響き渡った。

 

昨日と同じ。ならまた問題の映像かと警戒するが、

 

 

『謎は無事に解けたようだな、楢原 大樹』

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

部屋に響き渡る声に、全員が息を飲んだ。

 

 

「外部通信から船内のメインコンピュータにウイルスが潜入! 強制的に繋げられました!」

 

 

「落ち着きなさい! すぐにウイルスに浸食した箇所を切断、主導権を握らせないでください!」

 

 

危険を知らせるアラームが鳴り響く。クルーの報告に神無月が指示を飛ばす。が、

 

 

「駄目です! 既にこちらからの応答を受付け……えッ!?」

 

 

「どうしました!? 報告を!」

 

 

体を震わせながら、ありえないモノを見たかのようにクルーは報告する。

 

 

「……ぜ、全コンピュータの制御を……奪われました……」

 

 

「何ですって!?」

 

 

琴里と神無月が急いでモニターやボタンに触れるが、虚しくカチカチと音が鳴るだけ。

 

たった数秒でこの【フラクシナス】が乗っ取られた。その現実に彼らは呆然とするしかない。

 

 

(ぬる)いセキュリティ対策だ。こんな船を落とせなかったことに屈辱的だ』

 

 

「じゃあその屈辱、もっと味わって貰おうかな?」

 

 

『何?』

 

 

溜め息と一緒に聞こえた声に大樹が返す。その時、再びアラームが鳴り響いた。

 

 

「今度は何!?」

 

 

「め、メインコンピュータが復活! ウイルスの消滅を確認! ってええ!?」

 

 

「あ、新たにコンピュータの存在を確認! 『大樹システム』!? まさか!?」

 

 

「制御を次々と取り戻しています! ウイルス浸食率、80%低下! 85%低下!」

 

 

怒涛の波乱劇。保険、対策、逆転の一手を用意しない大樹ではない。腕を組みながらニヤリと笑った。

 

 

「よぉガルペス。手厚い歓迎に、お返しの歓迎だクソッタレ」

 

 

『フンッ、生意気な』

 

 

「生意気はお前だろ。本気でお前が来たらこんな船、数秒で落とせるだろ?」

 

 

『どうだろうな』

 

 

「こんな回りくどい真似をしたんだ。話せよ、本題ってヤツをよ」

 

 

いや、違うかっと付け足し、大樹は続ける。

 

 

「始めようぜ、最後の戦いってヤツを」

 

 

『言わずともやるつもりだ。だが、その前に———』

 

 

その時、ズシンッと体が重くなった。

 

まるで体が鉛になったかのように、体がおかしくなった。

 

 

「な、何だコレ……!?」

 

 

士道がキツそうな声を上げる。俺だけじゃない。全員に異常が起きていた。

 

 

『———まずはこの世界をぶっ壊すことにする』

 

 

「何を……しやがったテメェ……!?」

 

 

ガルペスの仕業なのは確か。しかし、何をしたのか分からない。

 

 

「え、衛星から異常なデータを観測!」

 

 

「見せろ!」

 

 

椅子に座ったクルーの横に立つ。モニターに映った情報を見て戦慄した。

 

まず人工衛星そのものが通常では考えられない動きをしている。地球の軌道に沿わず、不可解に動いている。

 

ありえない現象は、それだけじゃない。

 

 

「月の動きが……逆転した!?」

 

 

軌道の逆転。通常東の空から昇り、西の空へと沈む。だが軌道が逆転したことで、このままだと西の空から東の空へと沈む。

 

それが何を意味するかと言われれば特にない。だが、異常過ぎる。何かあるとしか思えない。

 

 

『お前が見つけたコイツは———『シヴァ』はこの世界を破壊する最高傑作だ』

 

 

モニターに映った妖星『シヴァ』はゆっくりと球体の形を変える。

 

球体は真ん中から割れて、(バツ)印に広がった。真ん中には小さな球体が浮いているのが確認できる。

 

 

「世界を破壊か……ふざけやがって」

 

 

『コイツは宇宙を意のままに操れる。例えば———』

 

 

ガルペスは俺たちの想像を超えることを口にする。

 

 

 

 

 

『———地球の軌道を変えて、太陽にぶつけることも』

 

 

 

 

 

告げられた言葉にゾッとする。大樹たちは言葉を失った。

 

 

「軌道を、変えた……?」

 

 

既にガルペスは実行に移していると分かり、手遅れだと気付かされる。

 

月と衛星の異常な動きに心当たりしかない。

 

 

「そんなこと……できるわけがないわ……!?」

 

 

信じることができない真由美は首を何度も横に振った。他の女の子たちも、信じることはできないだろう。

 

 

『なら半日待ってみろ。面白いことになるぞ』

 

 

「半日……まさかッ!?」

 

 

告げられた日数に大樹は勘付く。

 

 

「琴里! 全世界に空間震警報でも良い! とにかく地球上全員をシェルターに避難させろ!」

 

 

「と、突然何よ!? できるわけないでしょ!?」

 

 

「一日でも経てば、この地球の地上は砂漠並みの温度になるぞ!?」

 

 

「なッ!? どういうこと!?」

 

 

『さすがだな。計算が早いな』

 

 

「黙れよ、性質(たち)の悪い嫌がらせにも程があるだろッ!」

 

 

声を荒げて怒鳴る大樹に周囲は驚く。事態の深刻さが伝えるには十分だった。

 

 

「地球が太陽にぶつかれば間違いなく俺たちは終わる。だけど、一週間どころか二、三日で地球は終わる!」

 

 

「だからどうして!?」

 

 

「気温の上昇だ! 太陽に近づけばそれだけ急激に上がるんだよ!」

 

 

地球の終わりを告げられた。日数は一週間ではなく、二日三日だと。

 

現実味がでてこないのか、誰もパニックに陥るようなことはない。

 

大樹も声を荒げ過ぎていたことに反省し、落ち着く。

 

 

「……覚悟はできているよなガルペス」

 

 

『乗り込んで来るのか? できる———いや、聞くまでもないか』

 

 

大樹の手には【悪神の真紅(クリムゾン・アジ・ダカーハ)】が握り絞められていた。それは大樹が妖星『シヴァ』に乗り込むことを物語っていた。

 

 

『予想はできているかもしれないが、御坂 美琴の意識は俺が握っている。木下 優子と同じようにな』

 

 

「返して貰うに決まっているだろ。テメェは、俺が止める」

 

 

『なら来るが良い。来れるなら』

 

 

ブツンッと通信が切れる音が最後に聞こえた。

 

誰も喋らない中、大樹は部屋を出ようと歩き出す。

 

 

「待ちなさいよ」

 

 

琴里に止められ大樹は足を止める。

 

 

「これから、どうするつもりなの……」

 

 

「さっき言っただろ。行くんだよ」

 

 

「分かっているの!? 敵は宇宙に居て、これから地球は———!」

 

 

「回りくどいぞ琴里」

 

 

大樹は振り返り、琴里の顔を見る。

 

 

「こんな状況になったのは俺に非がある。焦るのも分かる。だけど、自分が何を為すべきか探る為に俺から得ようとするのはやめろ。もしもの時、俺がいない時、判断するはお前だ琴里」

 

 

地球の命運に関わってしまったプレッシャーは精霊を相手にする時より何十倍も重いだろう。

 

クルーたちが琴里に意見を求めるのと同じように琴里も俺に意見を求めようとしている。でもそれじゃ、この戦いは乗り越えれない。

 

 

「じゃあ、どうすればいいのよ……」

 

 

彼女は中学生だ。【ラタトスク機関】に所属するの最年少の乗務員だろう。司令の座まで着いていたとしても、動揺するのが普通だ。

 

そんな不安になった時、支えるのは家族だ。

 

 

「琴里」

 

 

名前を呼んだのは琴里の兄、士道だった。

 

 

「俺も分からない。ありえない状況にどうすればいいのか混乱している。だから、分かる奴に聞こうぜ」

 

 

「え?」

 

 

士道の馬鹿正直な言葉に俺は思わず口元が緩んでしまう。

 

 

「分からないモノは分からない。仕方ない事だ。だから聞こう。しかも分かる奴は信じれる。昔からずっと変わらない……この街を、友人を救ってくれた」

 

 

士道は俺の方に視線をズラす。

 

 

「俺はその人の判断を疑わない。信じて行動できる」

 

 

「……聞いてどうするのよ。素直に聞いたところで状況は変わるって言うの?」

 

 

「変わる。絶対に」

 

 

士道の強い意志に琴里は黙っていたが、

 

 

「やるわよ士道。精霊たちを呼んで来て」

 

 

「琴里!」

 

 

「少し怖気づいていたみたいね。世界が終わってしまうことくらい、精霊を相手にした時と少し違うくらいじゃない」

 

 

琴里は司令官の席に座り、足を組んだ。その姿に大樹は楽しそうに笑う。

 

 

「大樹、言いなさい。全部やってみせるわ」

 

 

「それでこそ琴里ちゃんだ」

 

 

退室しようとしていた大樹は中へと戻る。そして、皆の顔を見る。

 

 

「アイツは必ず俺が倒してみせる。皆、その為に力を借りたい」

 

 

「任せなさい」

 

 

琴里は自信満々に頷き、飴を取り出し口に咥えた。クルーたちも頷き、親指を立てた。

 

 

「もちろん、あたしたちもやるわよ」

 

 

「できることは少ないけど、アタシも力を貸すわ大樹君」

 

 

アリアと優子の言葉に俺は頷く。黒ウサギと真由美を見れば頷いてくれる。

 

 

「大樹さん、勝ちましょう」

 

 

「私も一緒に戦う」

 

 

ティナと折紙も、同じように頷いてくれる。頼もしい女の子たちだと再認識させてくれる。

 

 

「いよいよだな」

 

 

「このまま終わるなんて絶対に嫌よ」

 

 

原田と七罪も頷いてくれた。原田の手には力が復活した短剣が握られていた。

 

 

「ありがとう、皆」

 

 

ここにいる全員で救う。地球を、人類を、大切な人を!

 

勝負の賽はもう投げられた。逃げることは許されない、後には引けない状況だ。

 

勝って美琴と世界を救うのか、負けて地球を焼却するのか。引き分けなんてない。

 

ガルペスとの最終決戦。必ず決着を付ける日が来ることを俺たちは分かっていた。

 

 

『お願いですッ……ガルペスをッ……私の愛した彼を———救ってくださいッ……!』

 

 

ガルペスが愛した女性、エオナ=ソォディアの言葉を思い出す。

 

泣いた彼女の顔が頭から離れない。でも、それでいいのだ。

 

大丈夫、ちゃんと分かっている。

 

絶対に救ってみせよう。必ず成し遂げてみせよう。俺の誇りにかけて。

 

 

「———勝つぞ、この戦い!!」

 

 

________________________

 

 

 

ガルペスと決戦。準備は万全にする。

 

俺は【ラタトスク機関】から支給された戦闘服を着用した。さすがにいつものようにTシャツで行くわけにはいかない。

 

顔以外の肌を隠すように腕や足にサポーターを装備。その上から迷彩柄の戦闘服を着る。薄い素材で動かしやすい手袋と頑丈な作りになっている靴を履いてお着替え完了。

 

この軍服の性能は凄かった。世界最先端の技術を使って生み出した戦闘服。本来、精霊との戦闘を想定しての装備だが、【ラタトスク機関】の上層部の人間が俺に渡すように指示したらしい。

 

力の制御が上手くできないせいで靴やズボンを駄目にしていたが、この戦闘服はビックリするくらい馴染む。最先端技術すげぇ。今度裁縫系のスキルをレベルアップしよう。Tシャツ作りも飽きて来たから。

 

 

「ジャコ」

 

 

『何だ?』

 

 

ギフトカードからジャコが飛び出す。黒い毛並みに戻り、今は小さい子犬の状態だった。

 

 

「先に行っててくれ。俺は……」

 

 

『気にするな。行って来い』

 

 

ジャコはこれ以上何も聞かず歩き出した。ジャコらしい反応に思わず笑みがこぼれる。

 

俺が向かったのは、美琴の部屋だった。破壊された部屋から別の部屋へと移動され、白いベッドの上で眠っている。

 

ガルペスが意識を奪っている限り、美琴は目を覚まさないだろう。

 

 

「安心してくれ美琴。俺は絶対に勝って、お前を一番最初に抱き締めるよ」

 

 

膝を曲げてベッドの横に座り、美琴の手を握り絞めながら話す。

 

 

「ごめんな、ずっと待たせてしまって。すぐ終わらせるから」

 

 

そこから、俺はポロポロと様々なことを呟いた。

 

 

「最初に起きたら泣くかな? その時は頑張って笑わせてやるよ。

 

 もし怒ったら土下座でもして謝る。許して貰うまで何度も頭を下げるからな。

 

 紹介したい人がいるけど、これは絶対怒るから覚悟しておく。

 

 でも悪い人じゃないから安心してくれ。俺には勿体無いくらい……良い人だ。

 

 今までどんな世界に行って、どんなことがあったのか話そう。話題が永遠に尽きないくらいあるから。

 

 それに大事な話もあるんだ。ちゃんと聞いてくれなきゃ嫌だぜ。

 

 

 

 帰って来たら……一緒に居られなかった分、一緒に居よう」

 

 

握り絞めた美琴の手から力を貰えた。気のせいだと言われるかもしれないが、俺は元気になった。断言しよう。

 

握っていた手を放して立ち上がる。このままずっと握っていたいが、時間だ。

 

最後に、笑って美琴に告げる。

 

 

 

 

 

「———行ってきます」

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

【フラクシナス】の艦橋に全員が集合する予定だ。俺が来た頃には先に精霊たちが集まっていた。

 

で、精霊の一人である十香(とおか)と話をしていた。最初に大剣を振り下ろして来た黒髪の美少女ね。

 

 

「料理が凄く美味しいとシドーから聞いたぞ!」

 

 

「おk、お前のキャラは把握した。その時は全力尽くしてやる」

 

 

戦いが終わったらフルコースで食べさせてやろう。仲良くできる女の子だ。

 

十香は目を輝かせながら喜んだ。うんうん、ちゃんとメニューを考えておかないとな。

 

 

「食材の金は気にするな。全部【ラタトスク】に落とさせるからよ!」

 

 

「ダイキ! お前は良い奴だったのだな!」

 

 

「お、おう。それで信用を得られるとお前の将来が不安になるわ……」

 

 

「不安? シドーが居れば私たち精霊は安全だと琴里は言っていたぞ!」

 

 

「あ、そうですか」

 

 

精霊たちって本当に悪い奴はいないと思う。ただし狂三を除く。アイツは駄目だ。危険だ。

 

 

「———でも将来は狂三と結婚するのが夢だ♪」

 

 

「勝手に人の思考を読んで捏造するのやめろ」

 

 

満面の笑みで俺の隣で囁く狂三(悪魔)が居た。どっから湧いた。

 

精霊たちが警戒しているが、俺と居るせいか、距離を取るだけで何もしない。十香とかすっげぇ睨んでいるよ?

 

 

「風呂の時から思っていたが、【フラクシナス】の警備を厳重にしたんだがどうやって入って来てた?」

 

 

「大樹さんの影ですが?」

 

 

セキュリティセンサー仕事しろ。

 

 

「それと、大樹さんの力が漏れていたので取り込んでみたら、精霊の力を隠せるようになりまして」

 

 

大樹仕事しろ。

 

 

「あと……大樹さんのお嫁さんに会いましたわ」

 

 

「冗談だよな?」

 

 

「彼女たちの前で『大樹さんの愛人です』と自己紹介しておきましたわ」

 

 

「冗談だよな!?」

 

 

「でも、残念ながら信じてくださりませんでしたわ……」

 

 

おいおい、冗談じゃないのかよ!?

 

しかし、俺の嫁は俺を信じてくれたようだ。フッ、浮気なんかしねぇよ。俺はお前らだけを愛しているぜッ(キリッ

 

 

「なのでネコカフェの店員さんから貰った私たちのツーショット写真を見せましたわ♪」

 

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 

「物凄く怒っていて怖かったですわ♪」

 

 

「ぎゃあああああああああああ!!」

 

 

あの店員ぶっ殺す! もう我慢の限界だ! 店に居たネコを操って全身引っ()き傷だらけしてやる!

 

 

「大樹ぃ!!」

 

 

「あ、アリア!?」

 

 

逃げる前に名前を呼ばれて怯える。両手を挙げて俺は振り返る。そこには全員集合、アリア、優子、黒ウサギ、真由美、ティナ、折紙が腕を組んでいた。

 

しかも俺と同じように戦闘服を着用しているため、ガチで殺されそうな雰囲気が漂っている。精霊たちが俺から距離を取り始めた。見捨てないでぇ!

 

 

「待つのだ!」

 

 

「と、十香!」

 

 

俺の目の前に飛び出て両手を広げる十香。俺を助けてくれるのか!?

 

 

「ダイキは毎朝私のために味噌汁を作ってくれる約束をしたのだ!」

 

 

「お前それ意味知って言ってんの!?」

 

 

味噌汁じゃねぇよ! 料理だよ! 火に油注ぐんじゃねぇよ!?

 

 

「大樹さん、今までお世話になりました」

 

 

「ああ! ティナからそう言われると本当に人生が終わりそう!」

 

 

「これからは、私が大樹さんのお世話をしますね」

 

 

やったぜ(困惑)

 

 

「ティナさんだけがお世話にする点は許しませんが、お世話をするのはいいかもしれませんね」

 

 

「黒ウサギさん? 俺をペットか何かと勘違いしてません?」

 

 

「首輪を付けてみましょう」

 

 

黒ウサギのヤンデレ化が進んでいて怖い。

 

 

「それ、いいわね」

 

 

「アリアさん!?」

 

 

「アタシも賛成するわ」

 

 

「優子さん!?」

 

 

「手錠もしましょ!」

 

 

「ホント真由美(魔王)だなお前!?」

 

 

最終的に俺って監禁でもされるのか!? いや、さすがにそれは———!?

 

 

「監禁するべき」

 

 

「お巡りさああああああん!!!!」

 

 

折紙の発言で俺は助けを求めた。アリアと黒ウサギに捕まるが、俺は必死に抵抗する。だが二人は何度も俺を捕らえたおかげか、コツを掴んでいるようだった。関節技を決めながら抑え込んでいる。

 

 

「まず話し合おう! 次に愛し合おう! それで解決するから!」

 

 

「最近大樹君がそれでゴリ押そうとすることをアリアから聞いているわ。無駄よ」

 

 

ムスッとご機嫌斜めな優子が俺の右の頬を指で突きながら言う。ティナは左頬を突いている。や、やみろー!

 

 

「戦う前だから手加減しているけど、本当だったらこのまま説教と折檻よ?」

 

 

真由美に言われ俺は黙り込んでしまう。確かに俺が悪かった。でも俺だけ裁かれるのはおかしい! 狂三も断罪するべきだ!

 

殺気を込めて俺は狂三は睨み付ける!

 

 

「私は被害者ですわ。許してくださいまし」

 

 

「テメエエエエエエェ!!!!」

 

 

———結局、全員が集合するまで正座して説教を受けた。

 

 

________________________

 

 

 

「———話を始めてもいいのかしら……」

 

 

「気にするな。いつものことだろ」

 

 

床に四つん這いになった大樹はアリアと真由美の椅子となっていた。琴里が家畜の豚を見るかのように俺を見ているが、ここは笑顔で返すのが大人の対応だろう。

 

 

「彼は才能ありますね」

 

 

「神無月黙れ」

 

 

お前と一緒は何か嫌だ。決して俺はドMじゃない。

 

でも折紙が何度もやめるように言ってくれたのは嬉しかったな。折紙の認識は改めないと———

 

 

「大樹はこういうのが良いのよ」

 

 

「メモしておく」

 

 

「折紙。疑ってくれ。頼むから疑ってくれ!」

 

 

馬鹿正直にアリアの言葉を鵜呑(うの)みにしないで!? 俺が本当にそういうのが好きだと思っているのか!?

 

 

「平常運転ね。大樹と作戦を決めているから説明するわね」

 

 

順応が早くて助かりますが泣きそう。そんな俺をスルーして琴里は説明を始める。

 

 

「敵は宇宙に居るわ。目的は妖星『シヴァ』の破壊だけど、地球の軌道を正すまで下手なことはしないで」

 

 

先程襲い掛かったの重力増加は【フラクシナス】の高度を下降させると消えた。原理は不明だが、あまり愚策なことはしない方が地球の為だろう。

 

 

「その前に聞きたい事がある」

 

 

琴里の説明に士道が手を挙げる。

 

 

「そもそも、宇宙にはどうやって行くんだ?」

 

 

「もちろんこのままよ」

 

 

「へ?」

 

 

士道の目が点になる。クルーたちは視線を逸らし気まずそうにした。ああ、なるほど。

 

 

「お節介さんがこの【フラクシナス】を馬鹿みたいに改造してくれたおかげで、どうにか戦えそうよ」

 

 

「戦うって……まさか!?」

 

 

「【フラクシナス】はこのまま宇宙に行き、妖星『シヴァ』に向かうわ!」

 

 

この為に改造していたわけではないが、結果的に良い方向に進んでくれたことに幸運だと感じる。

 

俺のせいで宇宙に行けるみたいなことを琴里は言っているが、実際俺が改造を施さなくても十分に行ける戦艦だ。ただ戦艦全体を(おお)随意領域(テリトリー)が少し弱そうだったから強化した。まる。

 

大気圏突破や無重力空間でのエネルギー消費量の節約など、細かい事、小さい事を全て俺が改造してあげることで完全へと進化させただけ。元が良ければ改造は必ず成功するようなモノだ。

 

 

「大袈裟に捉えるなよ士道? ラジコンカーに電池を1個多く付けるのと同じだからな」

 

 

「ちなみに大樹の技術が敵の手に渡ったら世界が大変なことになるわ」

 

 

「電池……1個……?」

 

 

ラジコンカーに電池を取り付けるどころか、ジェット機を付ける改造だった。琴里の言葉で俺から士道が離れて行く。そんな馬鹿な。

 

 

「これより【フラクシナス】は宇宙に飛ぶわ! 準備しなさい!」

 

 

「「「「「ハッ!」」」」」

 

「あらほらっさっさー!」

 

 

クルーに紛れて大樹もコンピュータを操作することに誰もツッコまない。もはや暗黙の了解と言うべきか。

 

 

基礎顕現装置(ベーシックリアライザ)並列駆動、随意領域(テリトリー)展開、不可視迷彩(インビジブル)及び、自動回避(アヴォイド)発動」

 

 

「待て。不可視迷彩(インビジブル)はアイツに通用しない。無駄になるだけだ。随意領域(テリトリー)維持エネルギーに分けろ」

 

 

「了解」

 

 

自動回避(アヴォイド)も不安が残る。神無月、行けるか?」

 

 

「もちろん、やり遂げて見せましょう」

 

 

「よし。クルーは精霊たちのバックアップに力を入れろ! 並びに随意領域(テリトリー)を絶対に破らせるな!」

 

 

「ちょっと!? 何でアンタが指揮を取っているの!?」

 

 

違和感どころか完璧に指示を出す大樹に琴里は若干涙目。大樹は親指を立てるだけで、謝罪する気配は全く見えない。むしろ褒めろと言わんばかりの顔だ。

 

 

「大樹さん、カッコイイですよ」

 

 

随意領域(テリトリー)の威力配分を見せてくれ。素晴らしい(あたい)(みちび)き出してやる」

 

 

褒めるティナの声に大樹がキリッとカッコつける。調子に乗っていた。

 

これ以上琴里の立場を無くすわけにはいかないと思ったアリアたちは大樹を椅子から降ろし、床に正座させた。

 

良かれと思ってやった行動に怒られた大樹は戦慄していたが、正座までさせられると、とりあえず自分が悪いことをしたと自覚して素直に反省した。内容は理解していないが。

 

艦隊から機械の駆動音が響き渡る。琴里は何かに掴まるように指示した。

 

 

「いやいやいや、俺に掴まっても意味がないと思うが?」

 

 

「琴里は何かに掴まれと指示した。ゆえに問題ない」

 

 

「周りの視線が問題になっているからな折紙?」

 

 

折紙は大樹の右腕を抱き締めていた。大樹はやれやれと呆れながら掴まる。

 

 

「何故黒ウサギに掴まるのですか!?」

 

 

「折紙論」

 

 

壁に備え付けられた手すりに掴まった黒ウサギを後ろから肩に掴まると顔を赤くしながら怒られた。解せぬ。

 

その後、優子に叩かれて俺と折紙は素直に壁の手すりに掴まった。折紙は手のひらで叩かれたかもしれないが、俺はグーで叩かれたぞ。普通に痛かったわ。

 

 

「———【フラクシナス】、発進!!」

 

 

琴里の声と同時に艦体が大きく揺れた。モニターから艦体が随意領域(テリトリー)で覆われる瞬間が見えた。

 

顕現装置(リアライザ)を用いた空中艦は随意領域(テリトリー)によって浮遊し、空から(ソラ)へと目指した。

 

 

「高度上昇、一気に大気圏を抜けるわよ」

 

 

「はッ!」

 

 

琴里の指示にクルーが応えると、【フラクシナス】の艦体が微かに振動する。モニターに映った景色が凄い勢いで流れて行く。

 

そしてキツい重力増加に耐えること数十秒。青かった映像は暗転する。そこには小さな無数の光だけが映されていた。

 

 

「もう宇宙なの……!?」

 

 

優子が驚くのも不思議じゃない。実際、俺の世界にあるロケットより何十倍も快適で早く宇宙に到着したのだから。

 

宇宙に到着。それは敵の領域に入ったことと同じだった。

 

 

「……来るぞ」

 

 

大樹が呟いた瞬間、艦内にアラームが鳴り響いた。

 

 

「ッ!? 前方から無数の敵反応を感知! モニターに出します!」

 

 

敵の情報を解析したクルーが映像を出す。

 

映像には見覚えのある機械兵器が列を成して綺麗に並んでいた。その数はざっと見ても百は超えている。

 

 

「【バンダースナッチ】じゃないわね……アレは何?」

 

 

琴里の質問に大樹は答えようとするが、違和感に気付いて口を閉じる。

 

敵は巨大人型兵器【ガーディアン】と呼ばれるような形に近い。しかし、装甲はあの時とは比にならないくらい精密に、頑丈に作られているようだった。

 

さらに目に付くのは全員が一回り小さく、人型にさらに近い機械兵になっていた。手にはそれぞれ違う武器を握っている―――まさか!?

 

 

「ヤバいな。最初から全力で潰しに来るぞ……!」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

「敵の武器は、全部『神器』だ!!」

 

 

 

 

 

その瞬間、敵の握り絞めていた武器が神々しく輝き始めた。

 

 

 

________________________

 

 

 

敵の強さが予想を遥かに超えていたと事態を把握した瞬間、力を持つ大樹たちと精霊は艦外へと飛び出した。

 

随意領域(テリトリー)が張ってあるおかげで宇宙空間でも呼吸ができる。だが無重力空間なのは変わらない。慣れない環境にぶっつけ本番なのは不安が残るが気にすれば切りがないので無視する。

 

この随意領域(テリトリー)は大樹と【ラタトスク機関】が開発した特別な結界で、空気だけを閉じ込め、物質や霊力を通す特殊な随意領域(テリトリー)だ。まるで宇宙空間だけの為に作られたような発明にみえるが、本来は空気の薄い雲の上でも何かできるように暇潰しに開発したモノだ。本人も役に立つとは思わなかった。

 

敵と味方の攻撃は随意領域(テリトリー)を貫通する。つまり、

 

 

「二刀流式、【阿修羅・極めの構え】」

 

 

どちらの勢力も、全力を出して潰しにかかるということだ。

 

 

「【光閃(こうせん)斬波(ざんぱ)】!!」

 

 

シュンッ!!!

 

 

抜刀した【神刀姫】から神々しい光と共に斬撃波が放たれる。大樹の先手攻撃が並んだ敵に向かう。

 

 

防御態勢(ディフェンス・スタンス) 【女神の盾(アイギスシールド)】』

 

 

宇宙空間だというのに聞こえる人工音声。並んでいた機械兵が動き出す。

 

後ろに控えていた黄金色の盾を持った十機の機械兵が前に出て構える。そして黄金色の光が溢れ出し、目の前に巨大な結界を生み出した。

 

 

「チッ、やっぱり『神器』か!」

 

 

バシュンッ!!

 

 

大樹の繰り出した斬撃波は結界に当たった瞬間、小さくなり消滅した。

 

人類最強の攻撃が通らない光景にアリアたちは驚いていた。しかし、

 

 

「簡単にはいかないだけよ。本気で行けば破れるはずよ!」

 

 

「ああ、頼むぜ!」

 

 

緋弾を大樹の頭部に撃ち抜き、アリアは緋緋色金の力を使い―――超々能力者(ハイパーステルス)になる。アリアの緋色の髪がさらに輝き、大樹の髪も緋色になる。

 

 

「ええ、アリアの言う通りよ。大樹君、加勢するわ!」

 

 

「YES! 黒ウサギも、全力で(のぞ)みます!」

 

 

優子は魔法で狙撃できるように魔法式を展開、黒ウサギは【インドラの槍】と【疑似神格・金剛杵(ヴァジュラ・レプリカ)】を取り出した。

 

 

「そうね……負けるわけにはいかないわ」

 

 

「世界は私たちが……いえ、私たちだけしかいないのですから」

 

 

真由美も優子と同じように魔法式を展開する。ティナの瞳は赤くなり、狙撃銃のライフルから蒼い光―――瑠瑠神の力が宿っている。

 

 

「大樹。私も」

 

 

折紙はCR-ユニットを装備していた。しかも新開発されていた最新のCR-ユニットだ。

 

アスガルド・エレクトロニクス制CR-ユニット、AW-111【ブリュンヒルデ】。

 

流線型で(もっ)て形作られた純白のCR-ユニット。肩や胸元を覆うパーツは西洋の甲冑(かっちゅう)のようだった。武器は長柄(ながえ)の槍で、先は剣の様に鋭い。

 

 

「おう。頼りにしている」

 

 

大樹は頷き、神の力を解放した。

 

頭の中が熱くなる。額から緋色の炎が燃え上がり、羽織った【悪神の真紅(クリムゾン・アジ・ダカーハ)】が紅蓮の光と神の力と適合し、緋色の翼を広げた。

 

右手に【神刀姫】、腰にはいつでも引き抜けるように【神銃姫・火雷(ホノイカヅチ)】を備え付ける。

 

 

「ジャコ、ここの守りは任せた」

 

 

『勝算は?』

 

 

ギフトカードからジャコが飛び出し俺の顔を見る。

 

 

「アイツとの決着は、俺だけじゃないと駄目だ」

 

 

『……死ぬなよ』

 

 

「ああ、頼んだぜ相棒」

 

 

ジャコにここの守りを託した俺は振り返る。そして頼もしい仲間と目が合った。

 

 

「お前も頼んだぜ! 相棒(ツー)!」

 

 

「俺の方が出会い早かったよな!?」

 

 

相棒(てき)!」

 

 

「何で敵対しているんだよ!?」

 

 

相棒(iPhon)!」

 

 

「俺を持ち歩けるようにするなよ!」

 

 

原田(I born)!」

 

 

「もう意味が分からん!」

 

 

「———頼んだぜ、親友」

 

 

「ち……違くはないか……当たり前だ馬鹿」

 

 

「親友……See you……」

 

 

「寒ッ!? はよ行けアホ!!!」

 

 

この調子で良い。俺たちにはそれが似合っている。少し気が楽になった。

 

 

「精霊たち……いや、士道の嫁たちよ! ここは任せた!」

 

 

「何とんでもないこと口走ってんだアンタ!?」

 

 

「隠すことはない。お前は俺と同類だ変態」

 

 

「それ大樹も変態になるけど!? というか俺は変態じゃ———!」

 

 

「よし、行って来る!」

 

 

「———最後まで話を聞いてくれないか!?」

 

 

士道の言葉を無視して俺は緋色の翼を羽ばたかせた。精霊たちの顔が赤くなっていたが、

 

 

「う、うむ。士道の為だから間違ってはいないな!」

 

 

「ふぁッ!?」

 

 

精霊たちに色々と言われていたが、大丈夫だろう。男は修羅場を乗り越えることで強くなるんだよ。俺みたいになれるさ!

 

 

「大樹さん! 私は———!」

 

 

「狂三も士道で」

 

 

「———帰って来たらデートしてくださいまし!」

 

 

無理。ごめん。

 

 

「無理よ。大樹は帰って来たら話を聞かなきゃいけないから」

 

 

アリアの低い声が聞こえた。

 

……さ、さぁて……俺たちは最強だぜガルペス(震え声)。

 

地球を破壊? 世界滅亡? やれるもんならやってみろよ。

 

ここにいる全員が、お前の野望を粉々に打ち砕く。絶対にだ!

 

 

ゴオッ!!

 

 

飛翔した大樹の体から神々しい光が溢れ出し、円球の結界を張った。

 

この結界は【創造生成(ゴッド・クリエイト)】と【神格化・全知全能】との組み合わせによって創られた最強の結界と言っても過言では無かった。ジャコの力と組み合わせれば、さらに強力になると予想されていたが、この結界はジャコの力を打ち消してしまうため、俺だけでしか使えない。

 

酸素の無い随意領域(テリトリー)外に出る俺には必要な結界だった。

 

 

「———【神の領域(テリトリー・ゴッド)】」

 

 

球体の結界に包まれたまま敵へと向かう。敵もまた、大樹へと向かう。

 

 

『【ガーディアンΛ(ラムダ) 攻撃態勢(アタック・スタンス)移動(シフト)】』

 

 

攻撃態勢(アタック・スタンス) 【三又(みまた)(ほこ)】』

 

 

攻撃態勢(アタック・スタンス) 【(ほむら)(つるぎ)】』

 

 

攻撃態勢(アタック・スタンス) 【悪夢の弓(ボウ・ナイトメア)】』

 

 

全ての敵が多種多様な神器を持ち、大樹に襲い掛かる。その速度は今までガルペスが造り上げて来た敵の中で圧倒的に速かった。

 

ガーディアンΛの力は、今までの敵とは次元が違う。

 

(エレシス)の力———ポセイドンの神器。

 

奈月(セネス)の力———ヘパイストスの神器。

 

双葉(リュナ)の力———これは原田と話をして予想はできていたが、狩猟の女神『アルテミス』の神器と見て間違いないだろう。

 

集結させた神の力は、獰猛(どうもう)な牙は大樹へと襲い掛かる。

 

 

「邪魔だあああああああァァァァ!!!」

 

 

しかし、大樹は刀を前に出しながらさらに速度を上げて突っ込んだ。超音速の速度で敵の真正面からブチ抜いた。

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

大樹に向かって来たガーディアンΛを破壊しながら突き進んだ。それでも破壊できたのは、たったの三機だけだ。

 

本当は半分以上破壊したかったが、ここで力を使い過ぎることは、後ろで待つ仲間たちを裏切ることになる。

 

大樹はそのまま、妖星『シヴァ』へと目指した。

 

 

(信じる……俺は、信じている!)

 

 

すぐに事態を察した———いや、予測していたガーディアンΛが大樹の前に立ち塞がる。後方からも攻撃しようと狙いを大樹に定めているガーディアンΛもいる。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

しかし、突如攻撃を仕掛けようとしていた後方のガーディアンΛの頭部が撃ち抜かれた。

 

 

「———【瑠璃(るり)懸巣(かけす)】! 大樹さんには手を出させませんッ!」

 

 

頭部を撃ち抜いたのは蒼色の弾丸。ティナの瑠瑠神の力が発揮していた。

 

 

ドゴンッ!! ドゴンッ!!

 

 

それに続くかの様に大樹に襲い掛かろうとするガーディアンΛの動きが(いびつ)になる。

 

 

「大樹さん! 行ってくださいまし!」

 

 

狂三の銃弾はガーディアンΛの動きを止めていた。狂三たちの声は聞こえないが、俺には分かる。

 

 

「ありがとよ!!」

 

 

ゴオオォォ!!!

 

 

聞こえなくても、心は繋がっている。この言葉はきっと届くだろう。

 

そして敵を振り切り、大樹は妖星『シヴァ』へと飛翔した。

 

ガーディアンΛたちは追跡をやめて【フラクシナス】の方へと対象を変える。

 

 

「今よ!」

 

 

琴里の合図と共に、【フラクシナス】は前進した。随意領域(テリトリー)ごとガーディアンΛへと前進し、そのまま敵を随意領域(テリトリー)内へと引き込んだ。

 

刹那———敵の中で閃光が一閃する。

 

 

「ここは黒ウサギたちの世界です」

 

 

月の(ウサギ)の跳躍は敵のド真ん中を一瞬で突いた。手に持つ【インドラの槍】から強烈な雷撃が放たれる。

 

 

「ここを守る為に、世界に入って来たあなた方には容赦しませんッ!」

 

 

ガシャアアアアアアアンッ!!!

 

 

雷撃がガーディアンΛたちを駆け抜ける。黒ウサギの攻撃はガーディアンΛの陣形にヒビを入れるには十分なモノだった。

 

続いて待機していたのは優子と真由美の魔法。そして四糸乃とよしのんの精霊の力だった。

 

 

「【ニブルヘイム】!!」

 

 

「【ドライ・ブリザード】」

 

 

「ッッ!!」

 

 

優子は振動減速系広域魔法の【ニブルヘイム】を広範囲に発動、真由美は収束発散移動系統魔法の【ドライ・ブリザード】で生成した氷の球体を亜音速で飛ばし、四糸乃とよしのんの氷のレーザーが一斉に落下して来たガーディアンΛに当たる。

 

凍り付かせ、貫き、粉々にする。特に精霊の力は絶大なモノだった。

 

 

攻撃態勢(アタック・スタンス) 二刀流式、【紅葉(こうよう)鬼桜(おにざくら)の構え】』

 

 

黄金の二本の刀を持ったガーディアンΛが優子たちへと襲い掛かる。大樹を真似た構えに優子と真由美はゾッとするが、

 

 

「隙だらけだな」

 

 

「甘いわよ。(いち)から出直しなさい」

 

 

ガーディアンΛが十香とアリアを認識した時には、既に武器が鎧に当たっていた。

 

 

ザンッ!! バギンッ!!

 

 

十香の鏖殺公(サンダルフォン)が胴体をバッサリ切り落としていた。アリアは大樹から借りた二本の【神刀姫】で手足を斬り落としている。

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

二人の攻撃を受けたガーディアンΛは爆発して粉々になった。

 

 

「……大きいわね、その武器」

 

 

「そうか? そっちは軽そうだぞ?」

 

 

「切れ味が良いから良いのよ」

 

 

大樹と相対すればこれだけの余裕は絶対にない。どれだけ真似ようとも、大樹の剣技とは到底及ばないだろうと二人は結論付けていた。

 

しかし、敵はまだ抗う力を持っている。

 

 

回復態勢(リカバリー・スタンス) 【神喰らい(ゴッド・イーター)】』

 

 

『『『了解。回復態勢(リカバリー・スタンス) 【神喰らい(ゴッド・イーター)】』』』

 

 

残ったガーディアンΛは右手に黒い渦を発生させ、破壊されたガーディアンΛの残骸を取り込んだ。不気味な行動に彼女たちは警戒する。

 

 

攻撃態勢(アタック・スタンス) 【半人半獣(ケンタウロス)】』

 

 

防御態勢(ディフェンス・スタンス) 【要塞英雄(ジークフリート)】』

 

 

攻撃態勢(アタック・スタンス) 【剛腕神(ヘラクレス)】』

 

 

馬と人を組み合わせた様な姿をしたガーディアンΛ、要塞の様に鎧と盾の守りをさらに堅くしたガーディアンΛ、巨大な四本腕で凶悪な破壊力を持つガーディアンΛ。

 

それぞれ強化されて強くなったことは確実だった。

 

 

「これって倒せば不利になるんじゃ……!?」

 

 

「粉々にしなさい! 敵の思惑にはまらないで!」

 

 

士道の不安な声は天女(てんにょ)羽衣(はごろも)火焔(かえん)を纏った琴里が掻き消した。

 

当然、この程度で止まる女の子たちではない。

 

 

「私がやる」

 

 

折紙の声が聞こえた瞬間、白い光が敵の胴体を横に一閃した。

 

通常のCR-ユニットでは出すことが不可能とされる速度を容易に叩き出す折紙。その姿に士道は驚愕する。

 

 

「精霊!?」

 

 

金属の鎧と輝く霊装が混合した姿。精霊を殺す為に作られた魔術師(ウィザード)の兵器。その兵器の常識が(くつがえ)る。

 

精霊にして魔術師(ウィザード)———しかし、その槍は精霊を殺さず、大切な人を守る為にある矛。

 

純白の奇跡のハイブリット体の霊装を纏った折紙は力を解き放つ。

 

 

「———【絶滅天使(メタトロン)】!」

 

 

折紙が声を上げると、背後で浮遊していたいくつもの翼が飛翔する。その羽根の先端からガーディアンΛに向かって一斉に光線が放たれた。

 

 

バシュンッ!!

 

 

ガーディアンΛの胴体が柔らかいバターのように簡単に切れて爆発した。鋼鉄すら溶かし斬る光線に他のガーディアンΛは急いで回避を試みる。だが、

 

 

「かか、我らも忘れられては困る!」

 

 

「同意。容赦はしません」

 

 

八舞姉妹が放つ強風が避けるガーディアンΛを捉え、光線の射線上へと移動させた。風を使った器用な技術を見た他の精霊たちの士気も上がり、勢いが増した。

 

 

「【灼爛殲鬼(カマエル)】———【(メギド)】!」

 

 

「【贋造魔女(ハニエル)】———【千変万化鏡(カリドスクーペ)】!」

 

 

琴里の右肘から先に装着された巨大な(こん)部分から大砲の様に紅蓮の光線が放たれる。七罪の掲げた箒型の天使は琴里の武器を真似て変身し、同じように紅蓮の光線を放った。

 

強烈な二撃が敵を()ぎ払う。ガーディアンΛの破片すら残さない灼熱(しゃくねつ)地獄に士道は圧倒される。

 

 

「—————!」

 

 

「士道、どうやら男の力は求められていないようだ」

 

 

原田に肩を叩かれた士道は複雑な表情をした。

 

しかし、忘れてはいけない。ガーディアンΛの脅威を。

 

 

最終態勢(ラスト・スタンス) 【邪神降臨(イビルゴッド・アドベント)】』

 

 

一機のガーディアンΛが右手を上に掲げると黒い球体が出現した。その瞬間、ブラックホールのように渦巻き吸収していた。それに応えるかのように全てのガーディアンΛが破壊された破片を回収しながら自ら飛び込んだ。

 

女の子達が吸い込まれないように耐える中、背筋を凍らせるように悪寒に襲われる。

 

 

ドクンッ……

 

 

全てを呑み込んだガーディアンΛの姿が黒く、不気味に変わる。

 

 

ドクンッ……ドクンッ……

 

 

まさに姿が変わろうとした瞬間、黒い霧が吹き出した。

 

 

ゴオオオオオォォォ……!!!

 

 

「何!?」

 

 

『下がってください司令! 随意領域(テリトリー)を張ります!』

 

 

焦る神無月の声にハッとなる一同。迂闊(うかつ)に敵の出したモノに触れてはいけない。全員が新たに張られた随意領域(テリトリー)へと逃げ込んだ。

 

 

ドクンッ!!!

 

 

———邪神の鼓動が轟いた。

 

 

 

 

 

「ギャゴヴァぁぁぁぁあああああギャァァァアアアアアアオオオオオオォォォォオオオオ!!」

 

 

 

 

———その場に居た全員が膝から崩れ落ちた。

 

邪神の絶叫に耳が千切れてしまいそうになる。頭の中に響き渡る絶叫は脳を揺らし激痛を呼んだ。

 

味わったことのない不気味な空気に全身が震え上がり呼吸が上手くできなくなった。

 

 

ゴオオオオオォォォ……!!

 

 

黒い霧が吹き飛び姿を現す。それを眼にした彼女たちは言葉を失った。

 

【フラクシナス】の3倍以上ある黒い巨体。悪魔の四枚翼が大きく広がり、凶暴な龍の二頭が【フラクシナス】を見下していた。

 

人型に似ているという言葉はふさわしくない。化け物、悪魔、邪神という言葉が合っている。

 

ガーディアンΛはその邪神の鎧となり、頭部や腕、足や腰に頑丈に装着されている。

 

 

「ぁッ———!」

 

 

気が付けば女の子たちの戦意は喪失していた。崩れた膝は震えて立てない。逃げることすら許されない絶望の覇気に彼女たちは潰されていた。

 

 

「大悪魔———ルキフグス。今までの戦いは俺たちを消耗させる前座でしかなく、最後に大悪魔をぶつけるのが目的……今までの戦いは茶番だと言いたいのか」

 

 

しかし、それでも立っている者がいる。

 

 

「一秒、行けるか?」

 

 

「ッ……ああッ!!」

 

 

それは二人の男だった。

 

 

———原田は七罪の前に、大樹の大切な人たちの前に立つ。

 

 

———士道は救った精霊たちの前に立つ。

 

 

そして———二人は、世界の前に立った。

 

 

 

———二人の男が邪神の前を立ち塞いだ。

 

 

 

ルキフグスを睨み付ける原田。手に持った短剣に光が収束している。

 

足を無様に震わせていても、立ち上がった士道。その手には十香と同じ鏖殺公(サンダルフォン)を握り絞めていた。

 

 

「ガギャアアアアアアアアァァァ!!!!」

 

 

「ぐぅッッ!?」

 

 

ルキフグスの威嚇(いかく)する咆哮に士道の意識は殺されそうになる。だが、

 

 

「シドー!!」

 

 

「ッッッ!!!」

 

 

微かに……いや聞こえた!

 

十香の声に士道は強く歯を噛み締めて意識を縛り付ける。

 

後ろに居る大切な人を奪わせない。傷つけさせることも許さない。

 

鏖殺公(サンダルフォン)を握り絞める力が強くなる。そのまま士道は右足を前に踏み込む。

 

 

「うおおおおおおおおおおおォォォォォ!!!!」

 

 

悪魔に負けない。その気持ちを声に出しながら士道は握り絞めた鏖殺公(サンダルフォン)を勢い良く振り下ろす。

 

その時、鏖殺公(サンダルフォン)の刀身は虹色に輝いていた。

 

十香だけの力じゃない。救って来た精霊たちの力を纏っている。

 

 

バシュンッ!!!!!

 

 

虹色の斬撃波が刀身から解き放たれる。斬撃波はルキフグスの鎧を砕き、大悪魔の体を大きく引き裂いた。

 

激痛に大悪魔は絶叫するが、すぐに攻撃に移ろうとする。悪魔の様な手に禍々しい大剣が握られる。

 

しかし、士道の攻撃に怯んだ秒数———1秒に大悪魔は後悔することになる。

 

 

「【ヨルムンガンド】」

 

 

原田の背後には北欧神話の毒蛇———黒い巨体が君臨していた。

 

 

『【———神の逆鱗に触れた愚か者よ】』

 

 

「【———(おのれ)の心臓を潰す愚者と堕ちれ】」

 

 

『【———そして血と涙を捨て、我が力を求めるのなら】』

 

 

「【———神すら(ほうむ)る牙を授からん】!!」

 

 

原田とヨルムンガンドの詠唱が響き渡る。黒い巨体は黒い光の粒となり、原田の短剣を腕ごと包み込んだ。

 

 

「———【絶神牙(ぜっしんが)】」

 

 

力を授かった原田の右腕が黒い龍の(あぎと)へと変化する。禍々しい姿に誰もが恐怖を抱いた。

 

しかし、彼は悪の道を進むことはない。間違いはあれど、過ちは自分から犯さない。

 

ルキフグスに向けた龍の咢が開く。その獰猛(どうもう)な口から太陽よりも熱い炎が収束していた。

 

 

「舐めるなよ。俺の覚悟は、お前らを喰い尽す!!!」

 

 

そして、収束した炎が一気に解き放たれた。

 

黒い龍の咢から放たれる一撃の光が、大悪魔を包み込んだ。

 

 

 

 

 

「—————【光陽砲(サンライト・ブラスト)】」

 

 

 

 

音は耳で聞き取ることが不可能だった。

 

その威力は絶大で、大悪魔を丸々と包み込み放たれた。

 

砲撃されたのは収束させた太陽の光とヨルムンガンドの力。合わさった砲撃は大悪魔を一瞬で消し飛ばした。

 

鎧も、悪魔も、光で何一つ残さず浄化した。(よみがえ)ることはありえない。それだけ威力が半端ではなかった。

 

 

「……あとはお前だけだ、大樹」

 

 

ニヤリと血を流した口を歪ませて、原田はその場に倒れた。

 

 

———こうして世界の命運は、一人の男に託された。

 

 

________________________

 

 

 

 

———背後で光が弾け飛んだ。

 

 

しかし大樹は容易に振り返ることなく、優雅に浮いたガルペスを見ていた。

 

宇宙服など着用せず、宇宙空間でも白衣を着たガルペスは顔色一つ変えない。しかし、顔付きと髪は変わっていた。

 

無精(ぶしょう)(ひげ)に黒い髪は腰辺りまで伸びきっている。全く手入れのされていない。最後に出会ったガルペスとは大きく違った。

 

彼の背後には妖星『シヴァ』が動いている。地球の軌道を変えた惑星破壊兵器とも呼べる星を前にした大樹は口を開く。

 

 

「……随分と手間をかけた物を作ったんだな」

 

 

「当たり前だ。五年間の時をかけた代償と全く吊り合わないがな」

 

 

「五年……? まさかお前……」

 

 

「そうだ。俺はあの時からずっと待っていた」

 

 

不吉な笑みを見せるガルペス。奴の言葉に心臓が止まりそうになった。

 

五年前の過去に飛んだ俺は現代に帰って来た。しかし、ガルペスは過去に留まり続けて五年間、この時を待ちわびたと言うのだ。

 

 

「当然、途中で気付かれては困る。最大限の注意を払い、お前と自分を過去に送った」

 

 

「ッ……戦いの邪魔をしたのがお前自身だったのか」

 

 

ガルペスとの戦いを邪魔し、過去に飛ばした元凶がガルペス自身だったとは予想できなかった。

 

だが、それが正しければ話が噛み合うのだ。ほぼ確証を得た話は認めるしかない。

 

一方的に言われるのも(しゃく)だ。そう思った大樹は口を開く。

 

 

「五年前、世界中で話題となっていた人工衛星がある。全自動(オールオートシステム)の人工衛生だ」

 

 

大樹の言葉にガルペスは眉一つ動かさないが、続ける。

 

 

「妖星『シヴァ』の正体は【蒼穹の翼(スカイブルーウィング)】だろ?」

 

 

「……それがどうした?」

 

 

それでもガルペスは表情を表に出さない。しかし、大樹の推理は的を射ていた。

 

 

『次のニュースです。五年前、世界中で話題となっていた全自動オールオートシステムの人工衛生、【蒼穹の翼(スカイブルーウィング)】との———』

 

『ご覧ください! たった今、全自動オールオートシステムの人工衛星が打ち上げられようと———』

 

 

『シヴァ』の正体を見抜いた後、どうやってガルペスがここまでの妖星を造り上げたのか気になった俺は、【フラクシナス】で過去の出来事を調べた結果、人工衛星の記事にピンッと来たのだ。

 

 

「打ち上げられた数日後、人工衛星は突如原因不明のトラブルが発生し、消息を途絶えた。だが、最近になって人工衛星の出す特有の周波数を軍が偶然キャッチし、【蒼穹の翼(スカイブルーウィング)】の存在がまだあることだけは確認できるニュースが報道されたな」

 

 

「地球の軌道を変える要塞だ。準備作業で完璧に隠密した作業ができるとでも?」

 

 

自分からミスしたことをあっさりと認めた。結局、誰も月の裏側に人工衛星———妖星『シヴァ』があることは見抜けていない。この程度のボロは計画で容認されたほんのごく一部のミスということだろう。

 

 

「神の力を持つ者なら誰でも乗っ取ることはできる。当然、お前もな」

 

 

「ずっと空から見ていた奴が何を言ってんだか。趣味が悪い奴と俺を一緒にするな」

 

 

「フンッ、人に(もた)れている奴の方が醜い」

 

 

「友情愛情、素晴らしい言葉じゃないか」

 

 

「吐き気がする」

 

 

「……その吐き気がする愛情をお前は知っていただろ」

 

 

その言葉に初めてガルペスの表情が歪んだ。

 

表情は憎むように変わり、俺を睨み付けた。

 

 

「ゴミが……今更何を話す?」

 

 

「エオナ=ソォディアが妊娠していることくらい、お前は気付いていたはずだ」

 

 

医者というよりガルペス=ソォディアという人間はその些細なことに気付くは容易のはず。気付かないはずはない。

 

 

「お前は本当の気持ちに気付いていながら———!」

 

 

シュンッ!!

 

ガギンッ!!

 

 

刹那———ガーディアンΛの攻撃でもビクともしなかった【神の領域(テリトリー・ゴッド)】にヒビが入った。小さな亀裂だが、それでも威力が相当なモノだということは分かる。

 

ガルペスは目にも止まらぬ速さで剣の武器を虚空から取り出し射出させた。剣は粉々になったが、それでも息を飲む程、大樹は焦った。

 

 

(冗談だろ……『神器』じゃない武器でこの威力かよ……!)

 

 

ガーディアンΛより弱い武器で結界に傷を付けた。背筋がゾッとする攻撃だった。

 

攻撃を仕掛けたガルペスは静かに告げる。

 

 

「———クズ共に傾ける感情は持ち合わせてない」

 

 

「ガルペス!」

 

 

「悪も正義も、所詮勝手な人間が勝手に作り出した馬鹿な戯言(たわごと)だ。そんな勝手に振り回されるのはうんざりだ。だから、復讐して完全に壊す必要がある」

 

 

「お前が憎むのも分かる。だけど、守るモノも壊す必要はないだろ!? エオナはお前に復讐して欲しくないと願った! なら———!」

 

 

「紙のように薄い秩序を何故守る必要がある? 黒色の鉛筆で汚く塗られた紙にもはや価値はない。破り捨てて、新しい紙を用意する必要がある」

 

 

ガルペスが両手を広げると、妖星『シヴァ』が機械音を立てながら動き始めた。

 

説得はやはり無理だった。ならばと大樹は右手に刀を、左手に銃を持ち構える。

 

 

(お前にも『正義』があるように、俺にもあるんだよ)

 

 

それが歪んでいたとしても、貫こうとするお前の意志は立派なモノかもしれない。だけど、

 

 

「それなら、汚れた分は消しゴムで消せばいい」

 

 

「何?」

 

 

「人はやり直すことができる。その可能性を、俺は信じている」

 

 

「愚かな! 死をもか!? 取り返しのつかない失敗もか!?」

 

 

「お前の愛した人が死んだ悲しみは相当なモノかもしれない。俺も、大事な人を奪われたことがあるから分かる」

 

 

泣き喚いて、後悔して、諦めて、絶望に浸っていた。

 

それでも、地獄のドブに落ちた俺に手を伸ばす人が居てくれた。

 

 

「きっと俺がお前と同じ立場なら、復讐を望んだかもしれない」

 

 

「なら———!」

 

 

「でも、憎しみに囚われ復讐はきっとしないだろう」

 

 

大樹の言葉にガルペスは鬼の様な形相で睨み付けて来た。

 

俺は目を逸らさない。この長い時間の中、俺は知ることができたから。

 

 

 

 

 

「大切な人が———そんな醜い俺の姿を誰も望んでいない限り、俺は俺の正義を貫き続ける!!」

 

 

 

 

 

 

救い続けると決めたこの道に、悪も正義も、邪魔をさせない。壊させない!

 

刀の剣先をガルペスに向ける。ガルペスの体から黒いオーラが溢れ出した。

 

 

「殺してやる。絶望の淵に蹴り落とされた痛みを知らないお前など!」

 

 

ガルペスの右横の虚空から黒い本が現れた。それを乱暴に掴み、叫ぶ。

 

 

———【文化英雄の錬金術(ヘルメス・アルケミー)

 

 

その声は聞こえなかった。しかし、口の動きで分かった。

 

黒い本から漆黒の煙がガルペスを包み込み、不気味な力を感じた。

 

 

『覚醒せよ、神の力よ』

 

 

今まで感じたことのないガルペスの力に大樹は恐怖を感じた。

 

 

 

 

 

『【最終制限解放(エンド・アンリミテッド)】———【堕ちた英雄神(Gefallenen Hermes

)】』

 

 

 

 

 

ゴオオッ……!

 

 

ガルペスは漆黒の甲冑(かっちゅう)を纏い全身を隠した。禍々しい鎧は怪しく光り、頭部の(かぶと)からギロリッとガルペスが自分を睨んでいた。

 

ヤバイと感じた瞬間、戦闘準備を(おこた)ったことに後悔した。

 

 

ドゴッ!!!

 

 

「———かはッ」

 

 

ガルペスの右手の拳が自分の腹部を貫いていた。

 

簡単に腕が貫通し、骨を粉砕して右腹を抉っていた。痛みより驚きが大きかった。

 

張られた結界を通り抜けて来たガルペスに、大樹は為す術がなかった。

 

 

『死ね、偽善者』

 

 

ギュルルル!! ドゴンッ!!

 

 

貫いたガルペスの腕から黒い渦が大樹を吹き飛ばした。

 

グチャグチャになりながら吹っ飛ぶ体。意識を必死に保たせ力を解放する。

 

 

「【神の加護(ディバイン・プロテクション)】!!」

 

 

すぐに体を回復させて血を吐く。ガルペスとの距離に気を付けながら破れた軍服を見て驚愕する。

 

 

(燃えている……溶岩でも纏ってんのかアイツは……!)

 

 

攻撃の衝撃をあまり感じなかった。溶かすように腹部を貫いた攻撃だった。

 

自身の対策をした戦い方に大樹は舌打ちする。

 

 

「チッ、やりやがったな……」

 

 

ギフトカードを取り出し、【神の領域(テリトリー・ゴッド)】を再構築。

 

ガルペスは結界をただすり抜けたわけではない。条件をクリアして通れるようになっただけだ。

 

 

「俺の守りは自分の攻撃だけ通る。お前がどうやって俺の攻撃を真似たかは知らないが———」

 

 

『なら、コイツに見覚えはあるか?』

 

 

鎧を纏ったガルペスは鎧の中からガラスのケースを一つ取り出す。

 

———中には腕が入っていた。

 

 

「マジかよ……!」

 

 

エレシスとセネスの戦いで一度失った自分の腕だった。そのことに気付いた俺は戦慄する。

 

確かに奴は俺の腕を持って行った。あの不気味な行動がここに来て痛い返しとなった。

 

 

「くそッ、十二刀流式、【極刀星(きょくとうせい)夜影閃刹(やえいせんせつ)の構え】!」

 

 

大樹の周りに複製した伝説の刀が展開する。【神格化・全知全能】によって『神器』に仕上げた武器は神々しく輝いた。

 

 

ゴォッ!!

 

 

音速でガルペスに近づき刀を振るった。

 

 

「【天黄星(てんこうせい)神絶斬(しんざつざん)】!!」

 

 

最初から全力で攻撃をぶつけた。最強の十二連撃がガルペスの体に炸裂する。

 

だが、大樹の表情は歪んでいた。

 

 

「嘘だろおい……」

 

 

頭部、腹部、腕、脚、全ての部位に刀がガルペスの体に突き刺さっているが、ダメージは受けていないようだった。

 

突き刺した武器はゆっくりと鎧の中へと引きづり込まれてしまう。まるで吸収するかのような行動に大樹は唇を噛む。

 

 

ガシッ!!

 

 

再び結界を貫いたガルペスの右手。そのまま大樹の顔を掴み、

 

 

『その程度か』

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォン!!

 

 

呟いた瞬間、ガルペスの右手が爆発した。

 

黒炎が大樹の体を燃やし、軍服をボロボロにした。

 

皮膚が焼きただれ、激痛が体を巡る。朦朧(もうろう)とする意識の中、大樹は悔いた。

 

 

———強過ぎる。

 

 

人が生きれない宇宙空間に投げ出される大樹。息ができず、結界を再度張ろうとするが、

 

 

『神器、射出』

 

 

ガルペスの背後に数百の武器が虚空から出現する。狙いは当然、大樹だ。

 

 

シュンッ!!

 

 

音速で射出された武器が大樹の体を無残に傷つける。剣、槍、矢、様々な武器が大樹を殺していた。

 

左腕が簡単に吹き飛び右脚が千切れる。目はとっくに焼き潰れ、痛みと言う感覚が既に死んでいた。

 

 

「ぁが……ぁぁぁぁああああああああ!!」

 

 

それでも、ここで倒れるわけにはいかない。大樹の思いは、命を延命させるほど強かった。

 

 

「【神の加護(ディバイン・プロテクション)】!!」

 

 

血を吐き出しながら、失った部位をまた元に戻す。

 

疲労で体力が落ちている大樹だが、何度でも復活する大樹に厄介だと感じたガルペスは新たな攻撃を仕掛ける。

 

 

『【世界樹(ユグドラシル)】』

 

 

ガルペスの背後に黄金の巨木が出現した。攻撃を仕掛けようとした大樹は虚空から根付いた巨木を見て動きを止める。

 

黄金の巨木から光の粒子が舞っていた。

 

 

———粒子は、黄金の矢へと変化しながら降り注いだ。

 

 

結界の再構築が間に合わない。避けよう、そう思った時には遅かった。

 

 

(数が多いッ!? 避けれないッ!?)

 

 

ドシュッ!!

 

 

咄嗟(とっさ)の判断で腕を交差させてダメージを減らそうと考えたが、黄金の矢は人の体を容易に貫いた。

 

黄金の矢はそれだけじゃ終わらない。

 

 

『【雷撃の種(ライトニング・シード)】』

 

 

バチバチガシャアアアアアアアンッ!!

 

 

貫いた箇所から全身に鋭い電撃が全身に走った。

 

 

「があああああァァァァ!?」

 

 

あまりの激痛に叫び声を上げてしまう。体は痺れて、石になったかのように動かなくなってしまった。

 

 

「ぁ……がぁ……ッ!」

 

 

宙に浮いたまま大樹は必死に手を動かそうとする。そんな小さな動きすらガルペスは許さない。

 

 

『【女神縛りの根(バインドルート・ゴッデス)】』

 

 

世界樹(ユグドラシル)】から伸びたツタが大樹の体に纏わりつく。腕と脚の動きを完全に封じた。

 

 

「ぐぅ、こんのおおおおおおおおお!!!」

 

 

大樹の体から緋色の炎が溢れ出し、ツタを焼き尽くそうとする。だが、

 

 

『無駄な足掻きだ』

 

 

バチバチガシャアアアアアアアンッ!!

 

 

「———あああああああァァァ!!??」

 

 

雷撃の種(ライトニング・シード)】で受けた電撃と同じだった。ツタから流れて来た電撃に大樹は叫び声を上げた。

 

急いで脱出しようと足掻くも、持続的に流れる電撃に大樹の体は動きを鈍らせて止めていた。

 

———そして、五分も経てば完全に抗う力を失っていた。

 

 

「……【|制限……解放】」

 

 

『無駄だ。神の力を先に封じた。お前の負けだ』

 

 

何度も叫び、呟いた。しかし、神の力は答えてくれない。

 

大樹の髪は白髪に染まり、緋色の炎は消沈していた。

 

手から武器が落ちて宙を彷徨(さまよ)う。呼吸ができず、意識が飛ぼうとしていた。

 

ガルペスが瀕死になった大樹の胸ぐらを掴む。

 

 

『圧倒的な力、圧倒的な環境、圧倒的な有利が俺の勝利を完全にした。お前が宇宙(ここ)に来た時点で敗北は決定していた』

 

 

虚ろな目で大樹はガルペスを見ていた。宇宙空間だというのに微かに動いた大樹の胸を見てガルペスは笑う。

 

 

『ハッ、しぶとい奴だ』

 

 

ドスッ!!

 

 

「ごふッ———!?」

 

 

ガルペスの右手が大樹の胸を突き刺した。

 

臓器に穴が開いた大樹は口から大量の血を吐き出すと、ガクッと頭が落ちた。

 

 

『体の中で酸素を生み出して呼吸する……常識破りな力だが、肺に穴が開けば意味がない』

 

 

ガルペスの容赦の無い一撃は、大樹の意識を刈り取るには十分だった。

 

 

———大樹の命は、燃え尽きようとしていた。

 

 

 

________________________

 

 

 

楢原 大樹は———無力だった。

 

 

神の力を封じられた俺は無力だった。

 

姫羅との戦いでも、神の力が無い俺は雑魚と同じ。

 

弱い自分に、アレほど苛立ったことはない。

 

 

———このままでは負ける。

 

 

ガルペスの為に武器を用意した。しかし、俺を殺す為に年単位で策を立てていたガルペスには足元にも及ばない。

 

それだけじゃない。純粋に神の力だけでも負けている。

 

制限解放(アンリミテッド)】を越えた【最終制限解放(エンド・アンリミテッド)】。

 

敵の強さに俺は何もできない。圧倒されるしかない。

 

 

———敗北する。

 

 

———誰も救えない。

 

 

———世界が終わる。

 

 

このまま諦めれば死ぬだろう。そうすれば———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———大切な人の笑顔が、二度と見れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクンッ……!

 

 

「ふざけるな……それは、絶対に許さない……!」

 

 

ドクンッ……!

 

 

「帰って来るって約束しているんだよ……!」

 

 

ここで負けていいわけがない。ここで死んでいいわけがない。

 

 

「全てを救うって決めてんだよ!!」

 

 

ドクンッ……! ドクンッ……!

 

 

「終わっていいわけがねぇんだよぉ!!!」

 

 

今まで何度でも立ち上がって来た。

 

絶望しても、殺されても、死んでも、俺は立ち上がった。

 

泣いている人がいるから立ち上がった。

 

苦しんでいる人がいるから立ち上がった。

 

そして、救いたい人がいるから立ち上がった!

 

 

「———あああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

———グシャグシャに成り果てた心臓が、息を吹き返す。

 

 

「行くぞ、ガルペス! 俺は———お前を救うッ!!」

 

 

燃え尽きた命は、決意の炎によって、再び燃え上がった。

 

 

 

________________________

 

 

 

「……負け、るかッ……!」

 

 

『何!?』

 

 

「負けてッ……たまるかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァァ!!!!」

 

 

ガスッ!!

 

 

ここに来て初めてガルペスが焦りの声を出した。宇宙に轟くはずの無い声が響き渡る。

 

大樹の蹴りがガルペスの顎にヒットし、一瞬の隙を作った。

 

その隙を絶対に逃さない。神の力を使えない大樹は右手を伸ばした。

 

 

(来い、【神銃姫・火雷(ホノイカヅチ)】!!)

 

 

バシッ!!

 

 

大樹の心の声に答えるように銃が大樹の手元に飛んで戻って来る。

 

そのまま銃口を自分の頭に突きつけて引き金を引いた。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

『貴様ッ……!?』

 

 

自殺ではないことはガルペスにも分かっていた。撃ったのはアリアから貰った『緋弾』。

 

白に染まった髪に緋色へと染め返る。額から緋色の炎も燃え始めた。

 

 

———足りない。ガルペスを倒すには、まだ足りない。

 

 

ガチンッ……

 

 

そう思った瞬間、体の中で(じょう)が外れる音が響いた。

 

音が響くと同時に感じたことのない力が体を巡った。

 

 

『馬鹿なッ!? それは精霊の———!?』

 

 

ガルペスに言われて気付く。そうだ、これは———精霊の力だ。

 

 

 

 

 

「———【絶滅天使(メタトロン)】!」

 

 

 

 

 

その瞬間、大樹の髪が白銀へと変わった。

 

折紙から力を貰っている。鍵を掛けた錠が開き、俺にも流れ始めたのだ。

 

羽織っていたボロボロの【悪神の真紅(クリムゾン・アジ・ダカーハ)】も綺麗に修復し白銀へと色を変える。

 

 

ゴオォ!!

 

 

大樹の体に纏わりついた【女神縛りの根(バインドルート・ゴッデス)】を白銀の炎で燃やし尽くし、そのまま【世界樹(ユグドラシル)】にも引火させた。

 

巨木は白銀の炎に包まれ燃え尽きる。

 

 

———あと少し。もう一歩、踏み込め!

 

 

封じていた神の力が使えるようになった瞬間、大樹は爆発させるように力を解放した。

 

 

「【制限解放(アンリミテッド)】!!」

 

 

白銀の布は、黄金の翼へと進化する。そして、大樹を包み込んだ。

 

ガルペスと対等に戦うことを考えるな。

 

勝つには超えるんだ。今の弱さを、ガルペスの強さを、全てを超越しろ!

 

全てを救うために、神の力だけじゃない! 己の限界をブチ破れ!

 

 

 

 

 

「【神装(しんそう)光輝(こうき)】!!」

 

 

 

 

 

包み込んだ黄金の翼が舞い散る。代わりに大樹は神の(ころも)を見に纏っていた。

 

白銀の着物に身を包み、緋色の長い帯を巻いている。身軽そうに見えるが、ガルペスの鎧と同様に神の力が溢れ出している。

 

不思議なことに結界を張っていないのに息苦しくないことに気付く。溢れ出す力がどれだけ常軌を逸脱しているのか物語っていた。

 

新たな力に覚醒した大樹は両手に【神刀姫(しんとうき)】を握り絞めながら構える。

 

 

「ここからが本番だ、ガルペス=ソォディア!!」

 

 

持てる全ての力を束ねた大樹は、最後の戦いへと臨む。

 

 

________________________

 

 

 

———【神装・光輝】を纏った大樹はガルペスを圧倒していた。

 

立場が逆転してしまったガルペスは焦りながら大樹に攻撃を続ける。

 

 

『クッ、悪神器!!』

 

 

『神器』の上を行く武器がガルペスの手元から射出される。しかし、今の大樹には通用しなかった。

 

 

「フッ!」

 

 

未だに攻撃を受けていない大樹は息を吐きながら飛んで来た超威力の武器を簡単に刀で受け流した。

 

何百個目か分からない。それだけガルペスは大樹に攻撃を仕掛けていた。

 

 

シュンッ!!

 

 

一瞬の油断が命取りの勝負。大樹の姿がガルペスの視界から消える。

 

光の速度でガルペスの背後を取る大樹。しかし、ガルペスは分かっていた。

 

光の速度による移動。それは捉えることはできないが、移動する場所までは予測できる。ガルペスは移動先を読んで攻撃を仕掛けた。

 

 

『予測済みだ、【三又の矛】!!』

 

 

ガルペスはポセイドンの神器を握り絞めて光の速度で移動し終えた大樹に向かって槍で突き刺す。だが、

 

 

スルッ……

 

 

大樹は着物の右振り袖で受け止めて、そのまま後ろに優しく受け流した。その光景にガルペスは戦慄する。

 

 

『馬鹿な!?』

 

 

「遅い!」

 

 

ザンッ!!

 

 

ガルペスの攻撃を見切った大樹は反撃する。神の力を刀に集中させ、ガルペスの右腕を斬り落とした。

 

 

『ぐぅがあああああああああ!!!』

 

 

黒い鎧は簡単に刀を通し、ガルペスの右腕を切断した。何度突き刺しても悲鳴を上げなかったガルペスが初めて叫んだ。

 

ガルペスは急いで回復しようとするも、切断部分に白銀の炎が回復を邪魔している。

 

 

(持続型の妨害!? これも神の力なのか!? いやこれは———!?)

 

 

未知の力を眼にしたガルペス。神の力に適合した精霊の力が原因だった。

 

一人で戦うガルペスとは違い、大樹には支える人がいる。

 

その違いが勝敗を決めるのか?

 

 

『ふざけるな……ふざけるなああああああああァァァ!!!』

 

 

ガルペスの眼に怒りの炎が燃え上がる。

 

一撃一撃が超火力を持つ神器を大樹に向かって何百もの数を飛ばす。怒り狂いながら叫んでいた。

 

 

『ここに来るまでどれだけ捨てて来たと思っている!? 復讐の為に全てを蹴り飛ばした俺が負けるわけがないッ!!』

 

 

神器を新たに展開。ガルペスは残った左腕を横に薙ぎ払うと、神器は一斉に大樹へと飛ぶ。

 

 

『貴様の様な甘い奴に、敗北は許されないッ!!』

 

 

「そうだな、俺は甘い奴だ」

 

 

大樹は左手に【神銃姫・火雷(ホノイカヅチ)】を握り絞め銃弾を創造して込める。

 

 

「誰も傷つかない方法で、誰も悲しまない世界を望んで、欲張りな俺は甘いだろうな。だから、何度も痛い目にあって、涙を流したこともあった」

 

 

ドシュンッ!!

 

 

引き金を引くと銃口から緋色の銃弾が拡散して飛んだ。

 

拡散した緋色の光はガルペスの神器を一つも外すことなく次々と破壊した。

 

 

『ありえん……!』

 

 

神器は一つも大樹の体を傷つけることは無かった。その光景にガルペスは酷く狼狽(ろうばい)しているように見えた。

 

 

「それでも俺は絶対に捨てなかった! 何一つ蹴り飛ばさなかった!」

 

 

大樹は右手に握り絞めた刀をガルペスに向けた。

 

 

「それだけ———命を懸けても、守りたいモノだったから」

 

 

『知った口を……! 人は自分の命が惜しければ簡単に人を騙す! お前もいつか、命を懸けた人間に奪われ騙され、殺される!』

 

 

「……お前は人を怖がり過ぎだ」

 

 

『なッ……!?』

 

 

「ガルペス。人は自分の大切な人を笑顔で突き落としたりする外道ばかりじゃない。必ず理由があるはずなんだ」

 

 

『な、何を言っている……!』

 

 

「本当は知っているんだろ? 自分の復讐は何なのか、後悔し続けているんだろ!?」

 

 

ガルペスは何も言えない———いや、言えないのだ。

 

言葉にすれば、今の自分の存在を否定してしまうから。怯えているんだ。

 

だったら、俺が突きつけるしかない!

 

 

「エオナはお前を裏切ったわけじゃない! お前との()()()()()()()()の行動なんだろ!?」

 

 

『ッ……だ、黙れ』

 

 

「お前は理解していた! 分かっていた! それでも復讐するのは———!」

 

 

『黙れと言ってるだろうがぁ!!!』

 

 

ギュンッ!!

 

 

ガルペスの後方から神器を使役した攻撃が飛んで来る。同時に自分を強化し始めた。

 

 

『【死出の旅路(パストゥー・ザ・グレイヴ)】、【霊魂を煉獄に運ぶ者(プシューコポンポス)】、【覇者の右目(ロード・オブ・アイズ)】、【巨人(ギガース)殺しの隻腕(せきわん)】、【戦車(チャリオット)】、【禁断の黄金果実(ユグドラシル・ナット)】、【守護神の鎧(アテナ・アーマー)】、【三又(みまた)(ほこ)】、【(ほむら)の剣】!!』

 

 

黒い鎧の上からさらに黒色の鎧を武装したガルペス。周囲には黒い宇宙を埋め尽くすほどの槍と剣が展開されていた。

 

虚空から出現した黒炎を纏った二輪の馬車にガルペスは乗り、ドス黒いオーラを身に纏った。

 

 

ゴオオオオオォォォ……!!!

 

 

『この復讐は……貴様ら人間を……神共も殺すッ!! お前のようなゴミなどに、この俺が止められるわけには———!』

 

 

武器が大樹に向かって射出されると同時に、ガルペスの左腕から無数の黒い光線が放たれた。

 

 

『———俺の復讐は、ここで終わらない!!』

 

 

ガルペスの気迫は相当なモノだった。悪魔でも裸足で逃げ出すほど、恐ろしい力を感じた。

 

それでも大樹は逃げ出すことなく、ガルペスと正面から向き合う。

 

 

「いいや、お前を救うために復讐はここで終わらせる」

 

 

敵の武器が射出されると同時に大樹は前に突き進んだ。

 

光の速度で全てを避けることは可能だった。しかし大樹はそれをしない。何故か?

 

戦闘面での理由は特にない。だが、ガルペスという人間を真正面から倒したいという気持ちがあった。

 

 

「自分の子どもと妻を奪った奴らに怒りを持つのは当然だと思う。だけど、今の姿はエオナが望んでいるものじゃない」

 

 

ガギンッ! ガギンッ! ガギンッ!

 

ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!

 

 

突き進みながら刀と銃弾で神器を破壊する。どれだけ威力が高くても、どれだけ数が多くても、大樹に触れることは一度も無い。

 

ガルペスとの距離が縮まると、向うから攻撃を仕掛けて来た。戦車(チャリオット)を走らせる。

 

 

『———【文化英雄の死鎌(ヘルメス・ハルパー)】!!』

 

 

ガルペスの叫びと共に黒く巨大な鎌が大樹の首を狙う。触れただけで切断されてしまうかのような鋭い刃に大樹は、

 

 

「行くぞガルペス。これで最後だ」

 

 

パシッ!!

 

 

『……………馬鹿な』

 

 

———人差し指と中指だけで、鎌の刃を挟み止めた。

 

 

どの神器よりも強さを誇る武器が、二本の指で止められた現実にガルペスの天才的な脳の思考がフリーズした。

 

 

ドゴッ!!

 

 

そのまま大樹はガルペスの腹部に右膝蹴りを叩きこみ、戦車(チャリオット)から引きづり降ろした。

 

身動きが取れないガルペス。その隙を、大樹は逃さない。

 

 

「二刀流式、【神花(しんか)桜雲(おううん)の構え】」

 

 

素早く銃をギフトカードに直し、右手と左手に【神刀姫】を握り絞め、刀を下に向けて突進する。

 

蹴り飛ばされたガルペスは無理にでも体を動かし大樹に反撃しようとするが———やめた。

 

大樹の構えは強固の守りから一撃を放つ。ガルペスの頭の中には情報が入っていた。

 

ここで取る行動は一時撤退。ガルペスは体をひねらせ上に上昇しようとする。

 

しかし、大樹は構わず突進していた。

 

 

『———まさか!?』

 

 

ガルペスは自分の背後にある妖星『シヴァ』の存在に気付いた。

 

大樹の狙い。それは世界を滅亡へと導く妖星の破壊だ。

 

自分を無視しての行動。そのことに気付いた怒りの形相で大樹の背後から近づく。

 

 

『ふざけるな! 貴様の相手は———!』

 

 

「ああ、そうだ……! お前だよ!!」

 

 

大樹はクルリと半回転し、ガルペスと向き合った。急に反転した大樹にガルペスは驚愕する。

 

 

(誘われた!? いや、何の意味が———!?)

 

 

「言っただろ!? 『最後』ってな!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

大樹はガルペスの左脇腹に左回し蹴りを叩きこむ。そのまま勢いに乗せて妖星『シヴァ』のある方へと投げ出す。

 

 

「全身全霊、全力全開、最強の一撃だ! 一発しか撃てねぇに決まっているだろ!!」

 

 

そして、ガルペスの体と『シヴァ』が一直線に並んだ。

 

大樹の持つ神の力が膨れ上がる。感じたことのない、データで取ったことのない数値だとガルペスは分かった。

 

回避行動を取っても、間に合わない強力な一撃だと悟った頃には、ガルペスは目を閉じた。

 

 

 

 

 

「———【桜刀(おうとう)神斬(しんざん)】!!!」

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォォォ!!!!

 

 

刀から放たれる銀色の二撃が放たれた。神の力を最大限まで溜め込んだ一撃はガルペスの視界を黒一色から銀色一色へと変えた。

 

その威力は大樹の持つ【神刀姫】が耐え切れず粉々になってしまうほどだった。

 

妖星『シヴァ』を越える巨大な斬撃波は、ガルペスと一緒に飲み込んだ。

 

 

 

 

 

———ついにガルペスとの長い戦いに終止符が打たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「……………ごほッ」

 

 

口に溜まった血を吐き出した。同時にガルペスの意識が戻る。

 

自分が敗北して倒れていることは分かっていた。そのことには即座に理解した。

 

しかし、ここはどこなのか分からない。

 

 

「気が付いたか」

 

 

目を開けると、そこには楢原 大樹がいた。着物は着ておらず、ボロボロになった軍服は上半身を裸にしていた。戦いの傷が残り、下半身のズボンは血塗れになっている。

 

黒色に戻っている。しかし、白髪が数十本紛れ込み、右こめかみは緋色の髪で目立っている。

 

視線だけ動かすと、どうやら妖星『シヴァ』の残骸に倒れていることが分かった。

 

息ができるのは大樹の張る結界のおかげだろう。ガルペスは鼻で笑った。

 

 

「ハッ、俺を生かしてどうする? 復讐だろ? お前の大切な人間を奪った———」

 

 

「奈月と陽についてはもう怒っていない。でも、許さない」

 

 

大樹はギフトカードから刀を取り出し、ガルペスの首筋に触れさせた。

 

 

「リュナ———双葉はどこだ」

 

 

「……なるほど」

 

 

ガルペスは自分が生かされた意味を理解する。大樹の目を見ながら口を開く。

 

 

「奴はどこにいるか知らん。だが、この世界にはもういない。そして、お前の命を狙うだろう」

 

 

「……そうか」

 

 

「聞きたいことは、それだけじゃないだろ?」

 

 

ガルペスには予測できていた。大樹は『リュナがどうしてガルペスに従っていたのか』と聞くと。

 

しかし、大樹は首を横に振った。

 

 

「いや、それは良い」

 

 

「何……?」

 

 

「どんな理由があっても、俺は双葉を救う。そう決めているから」

 

 

「……………」

 

 

予想を見事に外してしまったガルペスは思わず黙ってしまう。

 

大樹は刀を直し、ガルペスの隣に腰を下ろした。

 

 

「何をしている?」

 

 

「救援待ち。帰る力が無いんだよ」

 

 

全力を放った一撃だということはガルペスも知っている。しかし、この結界を張り、自分も入れる意図が分からなかった。

 

 

「……何故殺さない」

 

 

自然とガルペスは大樹に疑問をぶつけていた。

 

 

「救えていないから」

 

 

「……俺は、復讐をやめるつもりはない」

 

 

「……実は俺、エオナに会ったんだ」

 

 

「何だとッ」

 

 

大樹はエオナ=ソォディアの霊と会ったことを話した。

 

非科学的なことは信じないガルペスかと思ったが、あっさりとその話を信じた。

 

 

「霊は特殊な人体を持つ者なら見ることができることは研究で判明している」

 

 

「……俺は普通だ」

 

 

「笑えない冗談だ」

 

 

「……それで、復讐は———」

 

 

「止めると思うか?」

 

 

大樹の表情が曇る。ガルペスはその顔を見て、

 

 

 

 

 

「だが———1度、諦めるとしよう」

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

「クックックッ、お前が言い出したことだろう?」

 

 

キョトンとなる大樹の顔を見てガルペスは喉を鳴らして笑った。

 

 

「……周囲を巻き込む復讐は、あのゴミ共と同じだ。こんな単純な事に気付かぬとは……愚かだな」

 

 

「愚かじゃねぇ。それは……俺が保障する」

 

 

「……そうか」

 

 

「お前の復讐はお前だけのことじゃない。エオナと子どもの存在が、お前を復讐の道に連れ込んだ」

 

 

「貴様……エオナを———」

 

 

「違う、エオナたちは悪くない」

 

 

首を横に振り、大樹は笑みを見せた。

 

 

「それだけ、お前は二人を愛していた、違うか?」

 

 

その言葉はスッとガルペスの心に入って来た。

 

心地よい気分に、ガルペスの体から力が抜けた。

 

 

そして———ガルペスの体が輝き始める。

 

 

「ガルペス……」

 

 

「この先、お前には辛い戦いが続くだろう。絶望するような戦いが」

 

 

「……それでも、俺は絶対に負けない」

 

 

「フッ、そうだな。貴様は、そういう人間だったな」

 

 

ガルペスの体から光の粒子が舞い、最後だと理解した。

 

 

「———せいぜい、足掻け」

 

 

「ああ、最後まで足掻くよ。ガルペス=ソォディア……サヨナラだ———」

 

 

大樹はガルペスを見ず、前だけを見続けた。

 

 

「———俺の友、上野 航平(こうへい)

 

 

「……聞かないのか? 二つの名前について?」

 

 

「お前の名前なんか興味ねぇよバーカ」

 

 

「クックックッ、そうかそうか……」

 

 

 

 

 

———ガルペス=ソォディアの最後は、笑い声だった。

 

 

 

 

 

『感謝する』

 

 

ほんの小さな声が最後に聞こえた気がした。

 

隣に空いた空間を見て大樹は安心したように笑みを見せた。

 

その場に寝そべり、息を吐いた。

 

目の前にある宙に咲いた星たちを眺める。

 

 

「確かに普通の人間じゃ、こんな光景見れないよな」

 

 

ガルペス=ソォディアと同じように喉を鳴らしながら一人で笑った。

 

 

———大樹は遠くから近づいて来る【フラクシナス】を待ちながら、その光景を目に焼き付けた。

 

 

 




が、ガルペスぅ!!

というわけで次回からギャグばかりになる予定です。やったぜ。

今年も終わりますが、どうぞ来年もよろしくお願いします。
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