どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】 作:夜紫希
「クソッ……俺はッ……ここで終わるのかッ……!」
バタッ
腕から力が抜け、俺は地面に倒れる。ひんやりと冷たい石の床が俺の体温を奪っていく。
ああ、これが俺の限界なのか……。
「腕立て伏せを1万回する人なんて初めて見たよ、僕は」
「……………死にそう」
「時間にして3時間。並みの人間なら筋肉が破裂するよ?」
「……………ふひッ」
(今すぐ休ませよう……)
九重は動けない大樹を引きずり、影がある場所まで移動させる。
「師匠」
その時、九重に後ろから声がかけられた。
「達也君か。彼なら今は死んでいるよ」
そこには動きやすい黒いインナーを着た達也。その隣には私服を着た深雪がいた。
「この後は乱取りをする予定だよ」
「では準備しておきます」
達也は弟子たちと軽い手合わせをしてもらうために、その場から立ち去る。深雪は兄に一言応援の言葉を告げて、倒れた大樹を見る。
「大樹さんは何を?」
「朝から腕立て伏せを1万回やったところさ」
「え?私はてっきり10万はできるかと思っていましたよ」
(深雪君は1万回やったことを驚かなかった……)
慣れと言うモノだろうか。少し恐怖を感じた九重だった。
「……ん?」
「あ、起きましたか?」
倒れた大樹のそばに深雪はしゃがみ、顔を見る。
「深雪……ハッ!?」
大樹は転がり、深雪から距離を取る。
「俺のファーストキスは妻にしかあげねぇ!!」
(何を言っているんだい……)
「お付き合いは無しで、もう結婚するんですか?」
(深雪君も何を言っているんだい?)
完全に置いてかれてしまう九重。もう訳が分からない。
「け、結婚!?」
「大樹さんは誰と結婚したいですか?」
「美琴!アリア!優子!黒ウサギ!」
(四人!?)
「わ、私の知らない人が二人も……!?」
(残りの二人は許容していたのかい!?)
「ハッハハハ!!俺は最低だからなッ!」
(堂々と言うことじゃないよ!?)
「でも結婚は一人しかできませんよ!」
(そこ!?もっと気にすることがあると思うけど!?)
「法律を変えるのが総理大臣……いや、俺の仕事だ」
(君が総理大臣になった瞬間、日本に未来はない気がする……)
「で、では……兄妹で結婚出来るように……」
((さすがブラコン。ついに法律を変えたいと言い出したか))
恥ずかしがって言う深雪はさらに一段と可愛いなっと大樹と九重は思った。
「さて大樹君。次は乱取りだけど……」
「もう大丈夫だ。回復した」
(休憩時間は5分も経っていないけど……)
大樹は立ち上がり、足をグネグネ捻ったり、手をプラプラさせて準備運動を始める。
ポケットから目隠しを取り出し、視界を完全にシャットダウンし、何も見えなくした。
「よっしゃあッ!誰でもかかって来い!!」
「なら俺が相手をしようか?」
「おっと、お兄様の声がしたけど気のせいだよな?」
「もちろん、魔法は有りだよな?」
「もちろん、無しですね」
「………行くぞ」
「逃げるが勝ちだッ!!」
俺は達也から逃げ出すために、全力で走った。
まるでサバンナのチーターの如く、走り抜けた。
その後、達也にボコボコにされた。
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【8月29日】
まだ日が出たばかりの朝。俺は寺の門の前にいた。
九重とその弟子が俺を見送ってくれている。
「短い間だったが世話になった」
学校の制服に着替えた俺は九重と弟子たちに別れを告げる。
「君にはまだ教えたいことはあるが……君なら大丈夫だろう」
「大将!また来てくだせぇ!」
「俺たち、美味い野菜を用意して待ってますから!」
「おう、その時は今以上に美味い飯を食わせてやるよ」
俺は手を振りながら階段を下りて行った。
「大樹君」
階段を中腹まで来ていた時、九重も階段を降りて来て声をかけてきた。
「僕からの餞別だ」
「うおっと!」
九重が投げたモノを両手でキャッチする。九重がくれたモノは深緑色の渋い色をした巻物だった。
「……古式魔法か?」
「少し違うね。中には何も書かれていないから」
「あ、ホントだ」
しかし、ただの巻物でもなさそうだった。言葉では表しにくいが、何かあると俺の体が伝えてきている。
「じゃあどうやって使うんだよ」
「君になら使いこなせるはずだよ」
「俺にはサイオンが無くて、魔法が使えないことで有名だぜ?」
「サイオンだけが、魔法だけが、強さの全てじゃない」
九重は人差し指で俺の胸、心臓部分に近い所を指した。
「大樹君。君が一番知っているはずだ」
「……………」
「君はたくさんの人を救った。学校の差別待遇で救われた生徒。刑務所に閉じ込められた罪の無い人。そして、九校戦襲撃事件の時に命を救われた人。それ以外でも救った人がたくさんいるだろう」
九重は真剣な表情で俺に言う。
「ここまでたくさんの人を救ったんだ。だから君は最後まで救い続けろ」
「救い続ける?」
「最初の一人から最後の一人まで。人を不幸にするモノを壊せ。君にはその力がある」
九重は指していた指を戻し、拳を作る。そして、軽く俺の胸を叩いた。
「大樹君は僕の弟子だ。必ず幸せな世界にできるはずだよ」
九重は、アイツと同じことを言っている。
『あなたが幸せな世界を作ることを、空から見守っています。』
……幸せな世界、か。
「……弟子にそんな期待をするなよ」
でもまぁ……確かに俺は九重の弟子だ。そして、奈月と陽の兄だ。
「先生の顔に、泥を塗るわけにはいかないな。やってやるよ」
「それでこそ、僕の弟子だよ」
俺の師匠である九重は笑みを見せ、俺を見送ってくれた。
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突然だが言いたいことがある。まぁいつも突然だけどそこはスルーが吉。
さて、気を取り直して……突然だが俺は現在、ヤバそうな部屋の前にいる。何がヤバイってオーラがヤバイ。ふすまから何かとてつもない嫌な予感がするオーラがドロドロと流れているように見える。
……よし!いつも通り状況を整理するぞ!
朝早く、学校に着くと制服を着た摩利が待っていました。校門には一台の黒い車が止まっていた。
俺は挨拶しながら摩利に近づくと、『車に乗りたまえ』と言われたので黒い車に乗った。
30分くらいか?車は止まった。
外に出てみると、そこにはとても高いビルがありました。その時、ビルの名前は見るのを忘れていたので分からない。
エレベーターで上に上がっている時に、摩利に『なぁ俺はどうなるんだ?』と何度もビクビクしながら聞いていた。
摩利は『……………健闘を祈る』と言ったので俺はさらにビクビクするはめになった。
エレベーターを降りると、和風のような廊下が目に入った。旅館のような廊下の雰囲気が似ている。
黙って摩利について行くと『私たちは下の階で待っている。ここからは一人で行くんだ』と言った。『私たち』って、下の階にはあと誰がいるんだ。
(開けて確かめるしかないよなぁ……)
帰りたい。帰ってお風呂に入って寝たい。まだ昼だけど。
俺はふすまに手をかけ、スライドして開く。
部屋に入ると畳の独特な匂いがした。それと料理の美味しそうな香りも混じっていた。
畳が敷き詰められた広い部屋。中央には木の長方形テーブル。テーブルには料理が並んでいた。
「ッ!」
俺は息を飲んだ。座って待っているメンバーを見て緊張したのだ。
テーブルの右側に女の子が二人。左側にはなんと制服を着た真由美が座っていたのだ。
そして中央の奥には眼鏡を掛けた一人の男性が座っていた。
(分かる……すぐに分かった)
これ、真由美のご家族だわ。
「お姉ちゃん!この男なの!?」
いきなり俺に指を差したのは癖のないショートカットの髪型の女の子だった。ボーイッシュなイメージが強い子だ。ショートパンツに黒いTシャツを着ているからだろうか。
「
隣に座った少女。肩に掛かるストレートボブの髪型の女の子が注意する。さっきの子は香澄と言うのか。
もう一人の方は綺麗な薄緑色のサマードレスを着ていた。ボーイッシュな香澄とは逆の容姿だった。
「でも
「そうだとしても口に出してはいけません」
「二人とも、少し落ち着きなさい。そして泉美ちゃん。何気に大樹君を傷つけないであげて」
既に帰りたくなってしまっていた大樹を見た真由美は急いで止めに入る。
その時、真由美の言った『大樹君』に二人は反応したが、それよりも早く奥に座っていた男が話し出した。
「君が楢原大樹君でいいのかね?」
「はぁ……そうだが?」
「「!?」」
細い身体つきで、威厳より人当たりの良さを感じさせる顔をした男。多分この男が、
「もしかして真由美のお父さん……で合って……」
「合っているよ。七草
「どうも。楢原大樹です。さっそくですが帰ってもいいですか?」
「真由美が怒ると思うがいいのかね?」
「……やめときます」
クソッ、親子そろって俺の退路の断ち方を分かっていやがる。
「お、お姉ちゃん……この人って……」
「お姉さま……この方はもしや……」
「そうよ。日本の世界遺産を消した人よ」
「うわー、俺の紹介の仕方がすごいなぁー」
こんな紹介ができるのって俺だけじゃねぇの?
香澄と泉美は大樹の方を見て、目を見開いて驚いていた。
「とにかくまずは座りなさい。立っていては話もできないだろう」
「大樹君。こっちよ」
弘一に座るよう言われ、真由美は隣の座布団をポンポンと叩く。
俺は真由美に指示された通り、隣に座る。
(超睨まれているんだけど……)
香澄はハッなり、次は俺を睨みだした。反応が忙しいですね。
隣を見ると泉美も俺の方をじっと見ていた。本当に姉妹だな。
「君のことはよく耳に入るよ。学校で暴れまわったり、逮捕されたり、脱獄したり、モノリス・コードで優勝したり、そして富士の山を消したり」
「嫌な所をピックアップしないでくれ……」
それらは黒歴史ナリ。
「期末テストでは成績が優秀だったとも聞いたね」
実技は丸が一つですけどね。
「ふ、不良……?」
「優等生……?」
香澄と泉美が混乱していた。恐らく新しいカテゴリを作らないと俺を分類することはできないな。
「あとは……女の子をはべらせているとか?」
「喧嘩売ってんのか」
「大樹君!堪えて!」
真由美に言われ、俺は右手の拳を収める。次は容赦はしない。
「この4ヶ月。楢原君の実績は素晴らしいモノばかりだ」
その素晴らしい実績は最初の方、悪く言ってたような気がしますけど?
「一度話がしたかったんだ。ぜひ君のことを聞かせて欲しい」
「話すって言われても……何を?」
「ではご家族が今どうなさっている?」
……今は分からねぇよ。
「オカンは普通に主婦やってるし、オトンはいつも遠くで働いている。帰って来るのはたまにだけ」
((((オカンとオトン……))))
変わった呼び方をしているなぁっと思った七草家だった。
「姉ちゃんは…………………………家族についてはそのくらいか」
((((すごい気になる……))))
姉がどうなっているか気になった七草家だった。
「君の両親は魔法は優秀だったかね」
「いや、どっちとも使えねぇよ」
「「「「え」」」」
あ、しまった。
ここが魔法の世界だということを忘れていた。
「そ、そんなことはどうでもいいんだよ!」
((((全然良くないけど!?))))
「俺は何でここに呼ばれたんだ!?」
「それはうちの娘が一番知っている……………いや真由美の方だ」
「あ、そっちか」
俺は真由美の妹を見ていたら、弘一に指摘された。
「お姉ちゃんがみんなを呼んだんだよ」
「そろそろお姉さまの話を聞きたいですね」
香澄と泉美も真由美の方を見る。弘一も真由美を見ていた。
「……大切な話があるのか?」
「……ええ。七草家の長女として大事な話があるわ」
真由美は弘一の方を見る。真由美の目は真剣だった。
「言わないといけないことがあるの」
「何だ?」
真由美は告げる。
「大樹君と結婚するわ」
その瞬間、音が全て死んだ。
全てを理解するまでに、五秒ほど時間が掛かった。そして、
「「「えええええェェェ!!!???」」」
俺は大絶叫し、香澄と泉美は抱き合って大絶叫をしていた。弘一は口をポカンと開けて驚いている。
「お姉ちゃん!?結婚の話だったの!?」
「お姉さま!?冗談はやめてください!?」
「姉さん!?何を言い出すんだ!?」
「お、落ち着きなさい二人とも。あと大樹君、あなたは私の弟じゃないわよ」
混乱してんだよ。真由美の凄い一言にな。
「……十文字家の
「ええ。大樹君がいいわ」
「ちょっと待て!!」
俺は真由美と弘一の会話を大声を出して止める。
「俺は何も聞いてねぇぞ!?」
「私ね。十文字君と結婚されそうになっていたの」
「そこだけじゃねぇよ!?俺とお前の結婚の話だよ!」
「もう……まだ決まったわけじゃないわ。気が早いんだから」
「違ぇ!!結婚する前提で話を進める時点で違うからな!?」
「指輪なら大樹君が選んだモノなら何でもいいわ」
「だから進めるなよ!?俺は今ッ!ここでッ!初めてッ!お前とッ!結婚のことを聞いたんだぞ!?」
「大丈夫よ。今初めて話したから」
「だろうね!何が大丈夫だよ!?」
「生活費?」
「それは大丈夫だと思うよ!?俺が月に料理だけでどれくらい稼いでいるかって違う違う!!突然の結婚に納得しない夫がいるんだよ!?」
「誰かしら?結婚を決めたのに、納得しないウジウジした人は?」
「俺だよおおおおおォォォ!!!」
さっきと同じくらい大絶叫だった。
「本人の了承も無しで結婚話をすすめるんじゃねぇよ!?」
「結婚は駄目なのかしら?」
「駄目だッ!!」
「そんな……!」
っと真由美はわざとらしく泣く。涙の一つくらいだせよ。
「「楢原大樹……殺す……!」」
「真由美さん!?妹さんたちが殺気を出してますよ!?ってうおぃ!?二人一緒に魔法を発動させようとするな!!何だその新しくて凄そうな魔法は!?」
~しばらくお待ちください~
「と、とりあえず……話し合おう……」
俺の言葉に疲れ切った香澄と泉美が頷く。何でこの部屋で鬼ごっこをせにゃならんのだ。
「真由美……マジで説明してくれ……」
俺の言葉に真由美は悲しそうな目をした。
「大樹君が……遠くに行くからよ」
「……やっぱりそれか。黒ウサギから聞いたのか?」
「ええ」
真由美の返事に俺は大きく溜め息をつく。
「どこまで聞いたか分からないが、やめておけ」
「そ、それでも私は……!」
「なら言い方を変えてやる」
心が痛むが、俺は真由美に厳しい事を言う。言わなければならない。
「真由美。お前は……」
その時、九重の言葉を思い出した。
救い続ける。
俺はこのまま真由美をただ切り離すだけでいいだろうか?
言おうと思った言葉を飲み込み、黙り込む。何を言えばいいか分からなくなった。
「……真由美。楢原君と結婚するということは、七草家を捨てると言うことか?」
「……………」
「彼は遠くに行くそうではないか。
「お姉ちゃん……」
「お姉さま……」
弘一の言葉に真由美は黙って聞いていた。香澄と泉美は心配した様子で真由美を見ている。
「わ、私は……」
「やめろ」
俺は真由美が何かを言い出す前に止めた。
「突然家族がいなくなるのは……絶対にあってはならないんだよ」
「でも!」
「俺は、家族と会えなくなった時、泣くほど後悔した」
「え……?」
俺の言葉に真由美が驚く。
「俺が死んだ人間って言ったら信じるか?」
「え?でも……」
「香澄ちゃんだったな。俺は生きていると思う?死んでいると思うか?」
「い、生きてるに決まっている……」
「そうだ。俺は生きている。でも、これは二回目の人生だと言ったらどうだ?」
「「「「!?」」」」
俺の言葉に七草家は全員、目を見開いて驚いていた。
「新しい世界に来て、『新しい人生のスタートだ』って最初は言えるけど……家族のことを思い出すと死ぬほどつられぇんだ」
最初の世界に来た時、それは俺を興奮させ、ワクワクさせてくれた。
しかし、何日か経った夜。俺は酷く落ち込んだ。
あの時、小萌先生に慰められなかったら今の俺はいないかもしれない。
「家族は絶対に忘れられないんだよ。捨てられねぇんだよ。この世で一番大切にしたい繋がりなんだよ」
今まで俺を愛してくれた家族。とてもじゃないが忘れられない。
「血で繋がっているんじゃない。本当の愛で家族は繋がっているんだ。それを無理矢理捨てようとするなんて……捨てられた人の気持ちを考えてモノを言いやがれ」
俺の言葉が言い終わり、部屋が静かになる。
「……じゃあ」
その時、真由美が俺の手を掴んだ。
「私との繋がりも、大切にしてよぉッ!!」
「ッ!?」
涙を流した真由美の叫び声に、俺の頭に鈍器で殴られたようなショックが襲い掛かった。
何だよこれ……散々言いたいこと言いやがって……俺は馬鹿なのか?
(真由美の方が一番分かっているじゃねぇか……!)
家族の繋がりより、俺との繋がりを優先してくれたのに……俺はそれを蹴り飛ばしていた!
危ないという理由だけで真由美に別れを告げようとしていた。
真由美がこれほど俺と居たいと言ってくれたのに、俺は……!
……俺も学習しないな。解決方法なんて分からないけど、やらなきゃいけないことは分かる。
(優子と同じことじゃねぇか)
優子も俺との繋がりを大切にしてくれようとしていた。ならやることは一つ。
「弘一さん」
俺は真由美の父である弘一に体を向ける。
「何かね?」
俺は両手を畳に付けて、頭を下げる。
「娘さん……真由美を俺にください」
「ッ!?」
「「えぇッ!?」」
土下座で弘一に告げる俺を見た真由美が驚き、妹たちは一緒に声を出して驚愕していた。
「……どういう風の吹き回しかね?」
「真由美とずっと一緒にいたいと思ったからです」
「君には他に好きな人がいるのではないか?」
「います。真由美以外に4人います」
「ちょっと!?」
その時、香澄が俺の言葉を止めた。俺は土下座をしたまま聞く。
「最低でしょ!?そんなのお姉ちゃんに……!」
「んなこと分かってるんだよッ!!」
俺は大声で反論していた。
「最低で、クズで、ゲスで、馬鹿で、アホで、ブサイクで、人間である資格なんてとっくの昔からなくなっていることくらい百も千も万も承知なんだよ!でも、俺は、俺をここまで好きになってくれた人を簡単に切り捨てられねぇ惨めな男なんだよ!」
「他の女性はそんなあなたを認めているんですか?お姉さまだってそんなあなたを……!」
次は泉美の厳しい言葉が来るが、反論する。
「なら認めさせてやる!そのためなら俺は何だってやるし、何度だって謝り、何度だって土下座をする!」
「か、かっこ悪い……」
「かっこ悪くて結構だ!こちとら年齢
俺は香澄の言った悪口をあえて受け入れた。
「俺はどんなに汚れてもいい!どんなに傷ついてもいい!でもなぁ、俺を好きになってくれた人だけは何があっても汚させないし、傷つけさせない!守り抜いてやる!」
大きく息を吸い込み、俺は叫ぶ。
「どんなことがあろうとも、俺は絶対に、俺を好きになってくれた人をッ!!」
一番最初、神にこんなことを聞いた。ハーレムを作っていいかと。
今なら言える。堂々と、ハッキリと、胸を張って言える。
ハーレムを作っていいかじゃない。俺の野望欲望的判断でもない。
「俺は絶対に守り切って、幸せにしてみせる!!」
喉がはち切れるくらい大声で宣言した。
ハーレムなんて関係ない。幸せにする。それが俺の答えだ。
再び部屋に静寂が訪れる。
「……楢原君」
一番最初に口を開いたのは弘一だった。
「真由美と結婚したいなら、条件がいくつかある」
「……何ですか?」
「苗字を七草に変えなさい」
「は?」
思わず俺は顔を上げてしまった。弘一の顔を見てみると、目は真剣だった。
「七草家が十師族にいるためには真由美は必要不可欠だ。そのことは分かるかね?」
弘一の確認に俺は頷く。
「君が七草家の所に婿入りをしたことにするんだ。そうなれば、他の十師族はこちらに関与できなくなり、次の選定会議は確実に選ばれることになるだろう」
「……つまり俺は七草 大樹になれと?」
「まだ条件はある」
弘一は続ける。
「楢原君の実績は他の十師族に知れ渡っている。しかし、それだけでは足りない。それは何故だと思う?」
「……自分の目で確かめていないから?」
「その通りだ」
俺の答えに弘一は頷いた。
「
「催しって……十師族のイメージに合わねぇな」
「催しやパーティーは建前。本当は裏でどの家を十師族から落とすか密かに結託する場でもある」
「十師族怖い」
「元々秘密裏に行われるモノだ。その程度のことならどの家も承知しているはずだ」
弘一は眼鏡を人差し指指で上げる。
「君の
(催しで強さを見せつける?)
俺はその言葉に疑問を持ったが、弘一が続きを話し始めたので思考を中断する。
「もし仮に君が全ての条件をクリアした時、君はどこに遠くまで行くんだ?」
「……この世界の人々が探そうとしても、絶対に見つからない場所」
「それなら安心した」
「何が安心なんだ?」
「私の条件はいなくなる時は、絶対に誰にも見つからないことだったんだ。君がそう言うなら信じよう」
「いなくなるって……学校とかもあるんだろ?それはどうする……」
俺は自主退学しようと考えている。居ても迷惑をかけるだけだからだ。
「こちらで手配しておく。留学か何かで誤魔化しは効く」
弘一は口元に笑みを浮かべた。しかし、視線をずらして苦笑いになった。
「最後の条件だが……娘を説得したまえ」
「え?」
俺は弘一の視線を辿ると、二人の妹がいた。さっきから静かだったが……おふう。
香澄は鬼の形相でこちらを睨んで、泉美は俺を軽蔑の眼差しで見ていた。おふう、このままだと寿命がどんどん削られていくよ。
……もしかして、これが一番難題じゃね?
「えっと……よろしくね?」
「「……………」」
これ無理だわ真由美。これだけクリアできそうにないんだけど?
俺たちは気まずい雰囲気の中、味が分からない食事をした。
________________________
食事が終わり、胃がキリキリする部屋を出た。この後、家族会議になるみたいだ。俺はもう帰っていいそうだ。
エレベーターに乗り、下の階で降りる。上の階とは大きく違った雰囲気。ホテルのような階だった。
すぐ目の前に待合室的なモノがあった。そこには摩利たちが座っていた。
「黒ウサギ……それに優子も来ていたのか」
俺の言葉に黒ウサギと優子はビクッと肩を揺らしたが、こちらを向こうとはしなかった。
「やっと帰って来たか」
ニヤニヤと笑みを浮かべた摩利が疲れ切った俺を見ながら言う。
「死にそうなくらい疲れた。あと喉痛い」
「あんなに叫んでいたらそうなるのも当然だろう」
「……お前、何で知っているんだ?」
「ッ!」
俺の質問に摩利は答えず、口を手でふさいだ。まさか……。
「盗聴していたな、貴様」
「くッ、バレてしまっては仕方がない」
「テメェ……殴るぞ」
「ほう、なら黒ウサギと木下も殴るのか?」
「はぁ?そんなことするわけ……ってちょっと待て」
俺はゆっくりと黒ウサギと優子の方を振り向く。
「ま……ま……ま、まさか?」
「その通りだ」
\(^o^)/
「死のう……」
「だ、大樹さん?く、黒ウサギは……その……!」
「だ、大丈夫よ……大樹君は……!」
二人の励ましが聞こえてきたが、俺はその場に倒れた。
________________________
「スーツを着ると……イケメンになった気がする」
「勘違いもほどほどにしておいてね」
「もう少し自覚を持った方がいいと思います」
俺の自意識過剰なボケを聞いた香澄と泉美はそれぞれ厳しい言葉を言う。俺のことどんだけ嫌いなんだよ。
香澄は泉美は綺麗なドレスを着ており、香澄は赤色の明るい色。泉美は青色の落ち着いた色だ。
十師族の関係者がぼちぼち集まるパーティーに来ていた。ぼちぼちしか集まらない理由は強制参加ではないからだ。忙しい家は参加していない。特に十師族の
黒いスーツを着た俺には少し似合わないが、サングラスをするとあら不思議!悪役のボディガードマンのような男になりました!……サングラスはポケットに入れとこう。
「十師族のパーティーって……一体何をするんだ?」
「
俺の質問に泉美が答えてくれる。その交流は同盟のことですかね?他の十師族を蹴っ飛ばすために手を組む場ですか?
「ねぇ」
「ん?何だ?」
香澄は右手の人差し指を俺の顔に向ける。
「ボクはお姉ちゃんのこと、絶ッ対に認めないから!」
まさかのボクっ子ですか。俺からしたらポイント高いですよ。
「はいはい。早く指をどけろ。噛むぞ」
「ッ!」
グサッ
「痛ぇッ!?」
香澄の人差し指はそのまま前に進み、俺の右目を刺した。バルスうううううゥゥゥ!!……前にもこんなことがあったような気がする。
「行こ、泉美」
怒った香澄はすぐに待合室から出て行く。泉美は溜め息をつき、その後を追いかけて行った。
「うぐッ……無理ゲーだろこれ……!」
あの妹たちのシスコンっぷりには達也兄妹と張り合えている。この世界の人たちは家族愛が凄いな。
俺は床で転がりながら状況を確認する。
これはパーティー。ここに来ている関係者は真由美と父である弘一。そして、二人の妹。
俺はボディガードとして来ているわけではない。真由美の夫であると見せつけないといけない。
(黒ウサギと優子が問い詰めなかったことが未だに気になる……)
普通、七草家のあの話を聞いたら黒ウサギなら【インドラの槍】をぶちかますはずなのに。優子なら長時間の説教が始まるはずだぞ?何故二人は何も言わなかった。……黒ウサギと優子の差が凄まじいな。
……今考えても仕方ないか。とにかく、俺は妹たちに認めさせ、このパーティーを乗り越えてみせる!
その時、扉が開いた。
「大樹君?準備は………何をしているのかしら?」
「あぁ?死体ごっこだ。はい、真由美は第一発見者の役な」
「えっと……凶器を隠さないといけないのかしら?」
「お前が犯人かよ」
証拠隠滅しようとしてんじゃねぇよ。
俺は立ち上がり、真由美の前に立つ。
真由美は綺麗な紫のドレスに大きな黒いリボンを付けていた。肩を大胆に露出したドレスだった。
「感想はないのかしら?」
じっくり真由美のドレス姿を見ていたせいで、見られていることがバレてしまった。
「えっと、何だ、その……いつも以上に綺麗だ」
「ふふッ、ありがとう」
「……ほら、さっさと行くぞ」
俺はその場の空気に耐えきれなくなり、後頭部を掻きながら早く部屋から出るように急かす。
その時の真由美の笑顔。俺は直視できなかった。
________________________
ホテルの5階。パーティー会場のホールの扉を開けると、そこは少し薄暗い部屋だった。
大人のバーの雰囲気だろうか。九校戦の時のパーティーとは全然違うモノだ。ガヤガヤと騒がしくも無く、心地よいピアノの音楽が鮮明に聞こえるほど静かだった。
人数が結構少ないという理由もあるが、一人一人静かに会話していることが大きいだろう。
真由美の父である弘一は先生に会いに行くため別行動。先生は誰だろう。
香澄と泉美は真由美の両隣に来て楽しく会話をしている。あれ?他の十師族とか関わらなくていいの?っと思ったが、それは俺の役目だと気付いた。
「お?アレは……」
俺はスーツを着た二人の男に近づく。後ろからゆっくりと。
そして、二人の耳元で小さな声で呟く。
「どうも、富士山の幽霊です」
「「ッ!?」」
二人は勢いよく振り返る。二人の顔は引き
俺は笑いながら二人に話す。
「やっほー。一条にジョージ。山びこのように返してくれると嬉しいぜ?」
「どうしてお前がここに!?」
「……七草家か十文字家が関わっていますね」
「鋭いな。七草家だぜ」
一条は嫌な顔をしながら俺に尋ねる。
「何の用だ?」
「用が無いと来ては駄目なのか?」
「有益な時間を過ごしたいからな。無駄な時間は過ごしたくない」
「キリンの舌は50センチメートル」
「……本気で有益だと思っているのか?」
「ゴリラの血液型はB型だけですよ」
「ジョージ……お前も乗るのか……」
「血液型の豆知識か……馬の血液型は3兆通りもあるんだぜ?」
「……中々やりますね」
「ジョージもな」
「……ナナフシの交尾は数週間にも及ぶ」
「「ッ!?」」
「いや、聞かなかったことにしてくれ」
「お、おう……」(ナナフシの交尾……)
「そ、そうですね……」(ナナフシの交尾……)
「いいから本題を話せ」
一条の爆弾発言に呆気を取られたが、俺は気を取り直して話を再開させる。もしかして、一条はこの前のことを気にして豆知識でも調べてたのか?
「まず自己紹介をしよう」
「は?何を……」
「俺の名前は七草 大樹。よろしく頼むぜ」
「「……………」」
俺の自己紹介をまだ理解できていない二人。しかし、
「「ッ!?」」
数秒後には理解していた。
「まさか政略結婚ですか!?」
「ジョージ、一条。少し小さな声で相談しよう」
俺は二人を部屋の隅まで移動させ、話を再開する。
「俺は真由美の夫ってことになっている。ここまでは理解できるか?」
「いえ、できないです……」
「ジョージ。俺は七草家に婿入りした。これでどうだ?」
「理由は?」
「真由美が好きだから」
「できません」
何でだYOッ。理解しろYOッ。
「……十師族選定会議。俺は七草家が選ばれるようにしたいんだよ」
「できました」
今日のジョージ、ちょっとムカつくぞ。
「お前は今日のパーティーでわざわざ結婚するフリをしているのか?」
「いや、フリじゃねぇよ。結婚は本気だ」
「できません」
「ジョージ、殴るぞ?」
「……お前の考えは大体分かった。一条家と手を組んでほしいってことだな?」
「代わりに七草家は一条家の十師族入りを支援する。悪い話ではないと思うぞ。七草家の俺が一条家を支援することはかなりの戦力じゃないか?」
「……確かにそうだが、まだ不安がある」
「不安?」
「他の十師族が全員敵にまわることだ。一条家と七草家だけでは少なすぎる」
「ならもう一つあてがある」
「……どこだ?」
「十文字家」
「……できるのか?」
「ちょっと呼んでみるか。さっきから見ているし」
俺は遠くで俺たちのことを気にしていた十文字に向かって手を振る。
手を振った俺に気付いた十文字。大きな黒いスーツを着て、グラスを片手に持って歩いて来る。
「話は聞くよな?」
「聞こう」
十文字は頷き、俺の話を聞いてくれた。
俺の話に十文字は驚いていたが、すぐに表情は真剣になった。
「なるほど……話は理解した。七草家の助力があるのはこちらとしても有益な話だ。それに一条家も助力してくれるのなら尚更手放したくない話だ」
十文字は言わなかったが、大樹が仲間になってくれることが一番大きいことだと思っていた。
「他の十師族とは手を組むな。俺たちだけで組むんだ。他の戦力は期待できんし、信頼できねぇ」
「分かった」
十文字の了承にジョージが安堵の息をついた。一条もホッとした表情になっている。
「そう言えば……お前ら、七草家の
師補十八家とは二十八家から十師族選定会議で十師族に選ばれなかった十八の家系のことだ。
「柴智錬みたいな奴がいるなら今のうちに脅しておかないといけないからな」
「脅すのですか……」
俺の言葉にジョージはドン引きだった。
「自分の身内より、気にすることがある。まずそれを話し合わないといけない」
「気にすること?」
一条の表情は硬かった。
「四葉家だ」
「……なるほど」
一条の言葉に十文字は納得していた。ジョージも分かっているようだ。え?分からないの俺だけ?
「四葉家って七草家と同じくらいの最有力なんだよな?今日来ていたら表面上の同盟を組もうと思っていたんだけど」
表面上の同盟とは、簡単に説明すると『とりあえずお前信用してないけど、敵同士にはならないでおこうな?な?な?な?』っと言った感じの関係だ。うん、最低ですよ?
「やめておけ」
十文字が低い声で止める。
「あの家系は危険だ。謎も多い」
十文字は表面上でも関わることは危険だと言った。今日、このパーティーに彼らが参加しない理由も分かったような気がする。
「まぁいいか。とりあえず家の者たちに報告。その後、ここにもう一度集合にしようか。四葉家はその時で」
提案した俺の言葉に三人は頷く。
俺は真由美の父に報告しに行くため、一度真由美たちと合流することにした。真由美はちょうど他の関係者と喋り終えた所だった。
「真由美。ちょっといいか?」
「あ、大樹君。急にいなくなって探していたのよ。今までどこに行っていたのよ?」
あ、そう言えば何も言わずに行ってしまっていたな。
「お姉ちゃんのこと、何も考えてない証拠だね」
「
俺の後ろから香澄と泉美の声が聞こえた。振り返ると冷たい目をしていた二人が俺を見ていた。
「どうせ仲良く話している時に、俺が声をかけたら不機嫌な顔をするだろ?むしろ俺は空気を読んだ。俺は悪くない」
「大樹君?」
「すいません」
すぐに俺は折れてしまう。確かに真由美に対しては悪いな。……あれ?コレ、全部俺が悪くね?
香澄と泉美は先程よりキツイ眼差しで俺を見ていた。あぁ、俺のクリア条件がどんどん難しくなっている。
「と、とりあえず一条家と十文字家の協力を仰げそうだからその報告をしたいんだが」
「あら?もう終わったの?」
「まぁな。アイツらは俺の話をすぐに信じたし、信頼はあると見て構わない。俺が信用できる人達だ。真由美のオヤジさんに報告して仕事は終わりかな」
知っている人がいて本当に助かったぜ。一条も満足そうな顔をしていたし、十文字も良い事聞いたって顔をしていたしな。
というか十師族。お前ら黒過ぎ。平和に選定会議にしてくれよ。
その時、香澄と泉美が妙に静かなのが気になった。
「どうした?」
「ッ……な、なんでもない!」
「いえ、何も」
泉美はともかく、香澄は何かあるだろ。
「ふふ、大樹君はやる時はやる人だからね」
笑みを浮かべた真由美は妹たちに向かって言う。しかし、俺には分からなかった。
「どういうことだよ?」
「気にする必要はないわ」
「気になるわ」
このまま古典部に入ってしまうほど、わたし、気になります!
「じゃあ私が報告しておくから待っていてね」
「お、おう………ってちょっと待て!」
反応が遅れてしまった俺の静止の声。真由美には聞こえず、父親の所に行ってしまった。
「「「……………」」」
残ったのは俺と香澄と泉美。気まずい沈黙が空気を侵食していく。
(待てよ……これはチャンスじゃないのか?)
ここで二人の好感度を上げておけば、難易度を下げれる!いや、クリアしろよ俺。
「よし、俺の面白い話をしようか。何が聞きたい?」
「「……………」」
め、めげないぞ!
「……では、昔の話をしてくれますか?」
「む、昔か……」
仕方なく助け船を出した泉美。ありがたいが、昔の話か……。
「ちなみに……どこからがいい?」
「無難に小学生でしょうか?」
黒歴史だな……いや、黒歴史しかない人生だけど。
「小学生の俺は運動が得意で女の子の友達が多かった」
勉強はアレだから言わなくていいよな?もちろん、成績優秀。数学に関しては評定にナンバーワンがついているほど優秀だった。
「自慢?」
香澄に睨まれながら言われるが、俺は声音を低くした。
「俺のトラウマ。その1」
「「え?」」
「『大樹君って友達以上恋人未満だよねー』っとほぼ全ての女子に言われたことだ」
「ど、どこがトラウマなのよ」
「ハッ、分かってねぇな。あの頃の俺は泣きそうだったぞ」
「だ、だから何が……」
「友達以上恋人未満。つまり俺は異性。そう、男子として見られなかったんだ……バレンタインデーの日は、チョコを大量に貰うが全て義理チョコ。彼女ができることは絶対に無かった暗黒時代だ」
((地雷を踏んだ……))
あぁ、何で女子たちは俺に恋愛の相談を持ちかけるんだ。男子に探りを入れるなんて俺には無理だよぉ。
「で、では同性の友達は?」
「トラウマその2。女子と仲良くしていたせいで男子のみんなは俺をいじめていたよ。ハハッ、彼女は絶対にできないはずなのにな。むしろ協力的関係を築けたはずなのに……」
((さらに踏んだ!?))
世界は残酷だな。泣きそうだよ。
「幼馴染がいなきゃ学校をやめているレベル。今考えたらよく登校できていたな」
「幼馴染?もしかして女の子?」
しまった。つい言ってしまった。
「そうだよ。あまりそこには触れんな」
「何で?」
「……俺が話したくないからだ」
「お姉さまの他に好きな人がいると言っていましたが、もしかして」
「違う」
俺は首を振って否定した。
「あの時は確かに俺はアイツのことが好きだったのかもしれない」
綺麗な黒髪のロングヘアスタイル。いろんな光景が俺の頭の中を過ぎって行く。
「今は……分からねぇよ」
「どうして……?」
「死んだからだ」
「「ッ!?」」
二人の顔が驚愕に染まるが、俺は話を続ける。
「全然分からねぇんだ。どうして死んだか。どうして謝ったか」
俺は右手で額を抑える。
「どうして俺を殺そうとしているのか……」
二人は俺の言葉を理解できなかっただろう。でも俺は説明する気にはなれない。
「……今更隠す気はないから話す。俺の大切な人たちは、今危険に晒されているんだ」
「危険、ですか」
「優子って超絶可愛い天使のような女の子がいるんだ」
香澄と泉美は嫌な顔をするが気にしない。
「この前まで、記憶が全部書き換えられていたんだよ。俺のことを何もかも忘れていたんだ」
「記憶の改竄……?」
「泉美ちゃんの言っていることは大体合っている。優子は記憶を盗まれて、偽りの記憶を埋め込まれていたんだ」
俺の訂正した言葉に泉美は驚く。精神操作系の魔法とかそんなモノじゃない。神の力を使った能力なのだ。
「最初はきつかったなぁ……『ごめんなさい。記憶にないわ』って言われた時は」
「でも……」
香澄は何かを言おうとしたが、俺は首を振って続きの言葉を止めた。
「ああ、俺は頑張ったんだよ」
俺は二人の方を振り向き、無理矢理笑みを浮かべた。
「でも、俺は駄目な男だった」
その言葉に二人は何も言わなかった。
「泣かしてしまった。俺は笑顔を見るために頑張ったのに。俺はやっぱり最低な男だったよ」
「命懸けで戦ったのではないのですか?あの事件、ある程度のことは把握しています」
「この事件での死亡者は0人。どう思う?」
「……奇跡だと思います」
「だよな。俺もそう思う」
俺は拳を強く握った。
「だから、俺は分からなくなってしまう」
あの時、二人の少女のことを覚えてくれる人は俺。あの場にいた優子と黒ウサギ。そして黒ウサギしか知らない。
存在を消された姉妹は、俺の大切な妹としてずっと記憶に、身体に、心に残り続ける。
「俺は大切な人を守ることだけは曲げない。これだけは絶対に譲れないんだ」
二人は俺の言葉を聞いても、何も分からない様子だったが、俺は笑みを浮かべて伝える。
「だから香澄ちゃんも、泉美ちゃんも。俺が守ってやるよ。少なくとも、ここに居る間は絶対に守ってやる」
大樹の言葉に香澄と泉美は驚き、顔を赤くした。
「ちょっといいかね、楢原君」
その時、後ろから声をかけられ、大樹は嫌な顔をして後ろを振り向いた。
「九島……」
「少し話をしたいだけだ。すぐに終わる」
「うちのおじいちゃん。そう言って何百回も同じこと言ったぞ」
「私はそこまでボケていない」
「俺のじいちゃんを馬鹿にするのか!?」
((最初に馬鹿にしたのって……))
大樹である。
「本当は病院で話を聞こうと思っていたが、君が必要以上に逃げるからね」
「尋問が怖いからだ」
「私は純粋に君と話をしたいだけだよ」
「……まぁ少しだけなら」
俺はしぶしぶ九島と向き合う。九島は口元に笑みを浮かべていた。
香澄と泉美は呆気に取られていた。
日本の魔法師の間で敬意を以て老師と呼ばれる老人。そんな人が大樹と親しく?話をしていたからだ。
「で、何が聞きたい?」
「まず最初に君が今回企んでいることについてだ」
「……………」
俺の背中や額からダラダラと嫌な汗が流れる。あれ?夏はもう終わるのにめちゃくちゃ暑いよ。
「と、とりあえず保留で」
早速追い込まれている大樹を見て香澄と泉美はこけそうになった。
「もっと他の質問にしてくれ」
「では君の右腕が元に戻っていr
「よし次行こうか」
香澄と泉美は頭が痛くなった。完全に九島のペースだった。
「本題は君の力だ。あれは魔法では無いはずだ」
「そうだな。俺の力だ」
「君が戦った二人の女の子も……魔法ではない」
「……そこまで見ていたか」
「申し訳ないと思っている。世間に偽りの情報を報告してしまったことを」
「別に……」
大樹は九島と視線を合わせる。
「死亡者0になったのは、アンタの仕業でもあるだろ」
「……何のことかな」
「戦場で原因不明の幻覚症状だ。東側で起きた現象、アレはお前の仕業としか考えられない」
司の部下からある程度のことは聞いていた。もう戦える人はおらず、絶対絶命の時だった。
突然、相手のテロリストが暴れ出したのだ。
まるで何かを恐れるように逃げ出す者。痛みに耐え切れず地面を転がる者。助けを求めるために叫び出した者。
一瞬で敵は地獄を見たのだ。
「理由を聞こうか」
「戦場は明らかに不利だった。はじっちゃんを失って機能が完全に停止していた少数部隊が勝てた理由。それはお前が魔法を使ったからだ」
「それだけかね?」
「ああ、それしかない。他にあるとしたら」
俺は笑みを浮かべて九島に向かって言う。
「お前が動かないはずがない」
「……なるほど。保留にしておこう」
九島はニヤリと笑みを浮かべて話を切った。
「そういえば、君は結婚するようだね?」
「何でもう知ってんだよ……待てよ?」
確か真由美の父親は先生に会いに行くって言っていたが……まさか先生って九島?
「……先生?」
「察しが早い男だ。正解だ」
「わーお」
当たっちゃたよ。賞品は出ないのかしらん?
「なぁ……死亡者0のことだが」
「二人の女の子が死んだ……ことかね?」
「「ッ!?」」
「……そうだよ」
九島は声を低くして俺より先に言った。香澄と泉美が驚いた顔で俺を見ている。
「頼む……表に出さなくてもいい。ただ裏ではアイツらの名前を残してほしい」
俺は振り返り、九島と顔を合わせないようにする。
「もう……アイツらの存在を……消したくないんだ」
理由は、
「俺の、大切な妹たちだから」
「……私の方で処理しておこう。名前を聞いてもいいかね?」
「姉の新城 陽。妹は奈月だ」
九島は携帯端末でメモを取り、頷いた。
「……私はこれで失礼するよ。また話そう」
九島は香澄と泉美にも一言告げてからその場から去った。
大樹はジュースが入ったグラスが置いてあるテーブルまで移動し、手に持った。
「悪いな。変な話を聞かせて」
無理矢理笑みを浮かべた大樹は、そう言ってジュースを一気に飲み干した。
「他の人には言わないでくれよ」
「妹って……本当なの?」
香澄が恐る恐る聞く。
「ああ。血は繋がっていないし、妹になったのは事件の日だ」
「どういうこと?」
「アイツらは俺みたいな兄が欲しいって言ったんだ。俺はどんな形でもいい。アイツらのそばにいてやりたい。だから兄なった。でも……」
俺は言葉が詰まり、続きの言葉が話せない。しかし、香澄は俺に聞く。
「……どうして兄に?」
「……アイツらのことの話をしてやるよ」
香澄と泉美は真剣に聞いてくれそうだった。俺は陽と奈月の過去のことを話した。
これは俺だけしか知らない真実。黒ウサギたちにすら、まだ話していないことだ。
俺の話を聞いた二人は驚き、悲しんでいた。
「そ、そんなの……!」
「香澄ちゃん。俺だって最悪だと思う。望まれない結果……幸せになれなくて……つらい人生を送って……でも、俺はアイツらを憐れんだりしない。アイツらは立派に生きて来たことを、俺は知っている」
以前の俺と同じように納得できない香澄。俺は首を横に振って止める。
「……俺は、陽と奈月のために無様な姿は見せれないんだ」
俺は告げる。
「俺は、アイツらの兄貴だから」
「……少しだけ、あなたを勘違いしていました」
泉美は俺と目を合わせて、口元に笑みを浮かべる。
「評価を改めないといけませんね」
「別に評価はそのままでいいだろ。俺は……最低だ」
「いえ」
泉美は俺を真正面に立ち、目を見て言う。
「改めます」
「お、おう……そうか」
えっと、結果オーライなのか?
「香澄ちゃんもはやく言ったらどうですか?」
「なッ!?」
いたずらっぽく笑った泉美が香澄をからかう。香澄は顔を真っ赤にして怒る。
「ぼ、ボクは絶対に認めないッ!」
「あ、はい」
そう言って香澄は俺を指を差す。決意が強そうなのでとりあえず頷いておいた。泉美は隣で溜め息をついていた。
「すいません、もしかして七草家の者でしょうか?」
その時、後ろから一人の男が話しかけて来た。
髪は金髪に染めてあり、肩まで伸ばしてある。年齢は20代くらいだろうか。優しそうな雰囲気はあるが……なるほど。
俺は香澄と泉美の前に立ち、男を二人から遠ざける。
「何の用だ?」
「失礼。私は
十師族の
八島はニコニコと笑顔で俺を見ている。正直、こういう奴は苦手だ。
「ちょっと!?何してるのよ!」
香澄は俺の体をどけて前に出る。
「失礼でしょ!すいません、コイツ変態なんで!」
「い、いえ……構いませんよ」
変態言うな。八島も顔が引き攣っているだろうが。
香澄と八島は俺の存在を忘れ、楽しく会話を始めた。
俺は今のうちに携帯端末を取り出し、ディスプレイを操作する。
「どうしようか……」
「どうかしましたか?」
「おおう!?」
その時、隣に泉美が来て俺に声をかけた。俺は驚き、携帯端末を落としそうになる。
「い、泉美ちゃんは話さなくていいのか?」
「香澄ちゃんが話しているので大丈夫です。
「好きに呼んでくれ。俺は何でもいい」
しかし、フードマンや化け物は嫌だ。
「では大樹先輩でいいですか?」
「おう。呼べ呼べ」
先輩か……いい響きだぜ!
「それで話の途中でしたが、どうかなさったのですか?」
泉美は携帯端末を見ていた俺に疑問を持ったようだ。俺は八島を見ながら泉美に言う。
「いや、ちょっと変な奴だなって思ってな」
「変?大樹先輩とは大違いですよ?」
「うん、変態じゃないぞ俺は」
酷い。
嫌な感じを感じ取った俺はホールの全体を見渡し、警戒する。
『君の
頭の中で弘一が言った言葉が思い返される。
(今なら意味が分かる。どうしてここで十師族が集まり、パーティーを開くのか)
俺はニヤリと笑みを浮かべる。ここにいる十師族の意図が掴めたことに。
真由美ですら初参加のパーティー。香澄と泉美も詳しく知らない理由。それも分かった。
「泉美ちゃん。俺から離れるなよ」
「えッ!?」
俺は泉美の手を引いて、自分の方に引き寄せた。泉美は顔を真っ赤にして、驚いていた。
しかし、悪魔の手はゆっくりと近づいていた。
バチンッ!!
「「「「「!?」」」」」
ホールの照明が全て消えた。突然の停電にホールに居た人たちは驚く。
ダンッ!!
ホールの扉が勢いよく開き、大人数が走って入って来た。
入って来たのは黒い服を纏った男たち。ガスマスクを付けており、手にはアサルトライフル。
(何回目だよこの展開。そろそろ飽きたぞ)
真由美の父。弘一が言っていたのはこのことだ。
十師族が集まるパーティー?そんなモノ、この魔法社会を妬んでいるテロリストの奴らにとっては最高の襲撃場所じゃないか。それを狙うのは当然のことだ。
しかし、テロリストよ。お前らの行動、読まれているからな。むしろ誘き寄せられているし。
特に俺がいる時点でチェックメイトだ。
「物騒なモノ持って来てんじゃねぇぞッ!!」
ギフトカードから銃身の長い長銃【
ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!
アサルトライフルは粉々に砕け散り、テロリストは混乱して焦る。しかし、俺は容赦しない。
ドゴッ!!
「がはッ!?」
その間に俺は一番前にいたテロリストとの距離を音速で詰め、腹部を蹴り飛ばす。テロリストは後方に吹っ飛び、壁に激突する。
ドゴッ!!バキッ!!ドゴンッ!!チーンッ!!
次々とテロリストをなぎ倒していく。肘打ちで腹部に衝撃を与えたり、長銃の銃身で敵の顎を下からアッパーを繰り出したり、膝蹴りで敵の防弾チョッキを破壊したり、敵の股間に蹴りをぶつけた。最後はすまん。ちょっと動きを最小限に抑えてたらそうなった。
バチンッ
その時、予備電源が入り、ホールの灯りが付く。ホールが先程と同じ明るさになる。
「「「「「!?」」」」」
ホール内にいた人たちが一斉に驚く。床に何人もテロリストが転がっている風景を目にしたせいだ。訳が分からない人からすれば、たった数秒の間に床には人が何人も寝ていたんだぜ?中々の恐怖だな。
「これで全部か?」
俺はトリガーの中に指を入れてクルクルと回していた。両手でクルクルと。……何か楽しいなこれ。
……人数は5人。思っていた数より少ないな。
「泉美ちゃん、香澄ちゃん。怪我は無いか?」
「は、はい。大丈夫です……」
俺の言葉に泉美は呆気を取られていたが、何とか頷き大丈夫だと伝える。しかし、香澄だけはポカンッと口を開けたまま動かない。
「香澄ちゃん?おーい?」
「な、何!?」
「いや……大丈夫かって聞いているんだけど?」
「彼女は無事です。私が守っていましたから」
「は?」
香澄が答えたのではなく、隣にいた八島が答えた。
「お前……いい加減香澄ちゃんから離れろよ。ぶっ飛ばすぞ」
「えぇ!?何考えてるの!?」
俺の言葉に香澄が驚く。しかし、大樹は八島を睨んだまま銃をクルクルと回す。
「……おい」
八島が低い声で合図すると、俺の背後で二人の男が俺に銃を突きつけた。その光景に香澄と泉美は驚くが、状況はすぐに理解できた。
八島の手には金色のダサい拳銃が握られており、銃口が香澄の背中にピッタリとくっつけられていた。泉美もすぐに香澄の危機に気付き、口を両手で抑えている。
「銃を下ろしなさい」
「……ほらよ」
八島に言われた通り、俺は銃を床に放り投げる。あーあ、銃を回した回数でギネスを狙っていたのに。
「香澄ちゃんを今すぐ解放しろ。今なら半殺しで済ませといてやる」
「……くはッ」
八島は噴き出し、高笑いし始めた。
「馬鹿なのですか!?この状況が分からないのですか!?まんまと騙され、命の危機なんですよ!?」
馬鹿なのですか!?銃弾じゃ僕は死にませんよ!?っと心の中で高笑いしておく。
「こうも簡単に七草家のお嬢さんを……ボディガード失格ですね」
「そーですね」
「……あなたの態度、追い込まれれば追い込まれる程、そのような冷静態度を取る人ですね。手に取るように分かりますよ。心の中では焦っているのに!?」
いや、知らない。初耳だわ。
「で、お前が八島のニセモノだということは分かった。遺言はそれだけか?」
「……やれ」
ガチンッ
俺の背後に立った男たちは銃のレバーを下げ、射撃可能にさせる。
「最後に言っておくぞ」
俺は笑みを浮かべながら男たちに告げる。しかし、男たちは引き金を引いた。
「弾丸の代わりに、レモンを詰めておいたから」
ドピュッ!!
「「ッ!?」」
引き金を引いた瞬間、拳銃から大量のレモン汁が弾け飛び、男たちの顔面に盛大に掛かった。レモンはどこから支給したかというと、よくジュースのコップについているあれから拝借した。そう、あれあれ。
「「ぐあァ!?」」
あらあら。どうやら目に入ったようですね。ですが、手加減はしません。いつも全力で戦います。
チーンッ!!チーンッ!!
「「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?」」
男たちの股間を思いっきり、もうそれは全力で、渾身の一撃を込めた足で、蹴り上げた。息子殺しの犯人は俺です。
「よーし。次はお前な。ニセ八島」
「く、来るな!!コイツがどうなってもいいのか!?」
「やったらお前をブチ殺し確定だゴラァ!!」
「ヒッ!?」
八島は香澄に向かって引き金を引くが、
ガチンッガチンッ
「ッ!?な、何で……何で出ない!?」
「弾は入っておじゃるか?」
「入ってるに決まっt……!?」
八島の動きが止まった。
カララランッ
大樹の手からいくつもの弾丸が落ちたからだ。その弾丸が八島のモノだと気付いた時には、遅かった。
「お前ら、火薬の臭いが強過ぎ。余裕で分かるわ」
既に八島の目の前には悪魔のような笑みを浮かべた男が立っていた。
「香澄ちゃんを殺すとかどうか言ってたけど、まぁ俺の判決を言い渡すからよく聞けよ?」
ゆっくり八島は顔を上げて、大樹の顔を見る。大樹の顔は悪魔では無く優しい笑顔だった。それは全ての罪を許してくれるかのような、
「ヒモ無しバンジーの刑に処する」
そんなわけありません。
バリンッ!!
投げられた八島は窓ガラスを割り、空に投げ出されていた。五階だけど誤解しないでくれ。結構生きていける高さだし、下には車が置いてあるから。テロリストのだから問題ない。よし俺に罪は無い。
「さて、ここにいる人たちに言っておこうか」
割れた窓ガラスから風が入り、大樹のスーツの上着のフロントを大きく揺らす。
「どうも、楢原 大樹を改めまして七草 大樹だ。よろしく頼むぜ、十師族の皆さん」
ニヤリと笑った大樹は正義のヒーローとは言い難い悪人だった。
________________________
「というわけでいろいろと暴れて来た」
「そう。正座していいわよ」
「うっす」
真由美に言われ俺は素直に正座する。まだみんないるんだけど、ここで歯向かったら駄目だと俺の脳が叫んでいる。
ホールの中心で俺は正座させられ、真由美は笑顔……あれ?目が笑っていないよ。
「どこらへんがダメか聞いても?」
「全部と言いたいところだけど……最後が一番駄目ね」
全部……一体どこがダメなんでしょうね?わかんにゃーい。
「強さじゃなくて恐さを見せつけたわね」
「あ、なるほど」
確かに最後は怖い。チッ、ミスっちまった。セーブ&ロードがあったらいいのに。
「よし、じゃあ帰ろうか?」
「大樹君も飛ぶかしら?頭からぶつけるかしら?」
「ごめんなさい」
今日の真由美さんはバイオレンスですよ。
「でも……今日は許すわ」
「ん?」
真由美は笑みを浮かべて俺の後ろを見た。振り向くと香澄と泉美が立っていた。
「ま、まさか……妹にお仕置きを任せるとかじゃ……!?」
「違うわよ!」
それなら安心だな。……安心なのか?
「どうした泉美ちゃん?香澄ちゃんは俺に何か文句があるなら聞くけど?」
「
「お礼?俺は拳銃を持っている奴らにレモンを詰めたりしただけだぜ?」
「はい。そうやって話をそらそうとしている優しい先輩にお礼を言いたいのです」
泉美はニッコリと微笑み、俺にお礼を言う。
「ありがとうございます」
「お、おう……」
「大樹君。惚れてないわよね?」
誰に?泉美ちゃんに?
「半b……嘘です」
半分っと言おうとしたら頬を摘ままれた。痛い痛い。
「
あぁ、喋りづらい。
「というのは嘘です」
「え?」
真由美の笑顔が凍り付いた。
俺は割った窓ガラスから外を覗いた。
「ほら、アレアレ」
外に止まった何台もの車を俺は指を差す。窓からはアサルトライフルの銃口がこんにちは。射撃3秒前です。
「だ、大樹君!?」
真由美が俺の腕に抱き付き怯える。ただいま腕の感触を脳内に感覚永久保存中。感覚を保存って俺凄いな。
ガガガガガッ!!
そして、数え切れないほどの銃弾が一斉に俺たちのフロアに向かって放たれた。
っとそろそろ真面目に戦わないと銃弾を食らっちゃうよ。
ブチッ
口の中を歯で噛み切り、少量の血を出す。そして、飲み込む。
俺の両目が紅く染まり、力が湧き上がる。
手に持ったギフトカードに新たな文字が刻まれる。
【
俺の足元から伸びている黒い影が大きく広がり、床を真っ黒に染める。
「そらよッ」
ゴッ!!
影は地面からアメーバのように飛び出し、俺の目の前で盾として役割を果たす。影の盾は大きくなり、フロア全体を包み込んだ。そのせいで外は何も見えない。
銃弾は影の盾に当たると、速度を急激に落とし、静止した。銃弾は全て影の中にめり込んだ状態になった。
「お返しだ」
ドゴンッ!!
影は弾け飛び、黒い霧として散布される。同時にめり込んでいた銃弾を敵に返す。
ドゴオオオオオォォォ!!
亜音速で返された銃弾は車やアスファルトにめり込み、車は炎上した。しかし、銃弾を返される前に車中から人は脱出していたので死人は出ていないはずだ。残念だが怪我人は出たと思う。
というか、こんなに強くなったのか鬼種の力……。いや、もう吸血鬼の力そのものになっているけど。
(災い……か……)
災害の間違いじゃね?ほら富士山を消したし……ごめん。
俺は燃え上がる車を見て、やり過ぎたことを反省。ハイ、合掌。
「あとは警備の人たちに任せるか」
まだ腕にしがみついた真由美。状況が掴めていないようだ。しかし、俺がやったと教えると掴んでいた腕をつねりた。だから痛いよ。
真由美はつねったまま俺に説教を始める。やり過ぎだとかもっと穏便に済ませろとか言っていたが、俺の耳は左から右へと通り過ぎて行くタイプなので絶賛聞き流しである。
しかし、ある程度説教した後、真由美は笑顔で俺に言う。
「ありがとうね、大樹君」
その惚れてしまいそうな笑顔に、俺は直視することができなかった。照れてしまった顔を真由美から逸らして、見せないようにする。
「……お、おう」
まともな返事ができなかったが、照れた大樹を見れた真由美は満足していた。
「あ、あのさッ!」
「ん?」
後ろから香澄が声をかけてきた。俺は振り返り、香澄を見る。
「どうした?トイレはあっちだぞ?」
「ち、違う!!」
「じゃああっちが入り口だ」
「じゃあって何!?あと違うから!」
「惚れた?」
「死ねッ!!」
(´・ω・`)
「ほら大樹君。ちゃんと聞いてあげて」
はぐらかそうとした俺に気付いた真由美は俺の腕を掴んで香澄の前に立たせる。
香澄は大樹との距離の近さに顔を赤くするが、勇気を振り絞って話す。
「ぼ、ボクはまだ認めてない……で、でも……」
でも?
「ちょ、ちょっと……ほんの少しだけ!本ッ当に少しだけ……認めてやってもいい……」
「……………」
「な、何!?文句あるなら……!」
「マジで可愛いなぁ!お前ッ!!」
ヒシッ!!
「なッ!?」
俺は香澄を抱き締め、頭を撫でまくる。
「香澄ちゃん!俺のこと、お兄ちゃんって呼んでもいいんだぜ!?」
「はぁ!?呼ばないわよ!」
「そんなこと言わずに呼んでくれよ!」
「えぇ!?」
「なぁ頼むよ!?あとでお小遣いあげるからさぁ!?」
「変態がいる!路上でいきなり小さい子に話しかけるような変態がいる!」
「かすみんは焦る顔も可愛いなぁ!」
「かすみん!?」
「一度だけ!一度だけでいいから呼んでくれ!」
「だ、だから嫌って言ってる……!」
「言ってくれたら一億円をあげよう!」
「高ッ!?ってそんなに持っているわけが……!」
スッ(通帳を見せる)
「嘘でしょ!?」
「何ならこの通帳全部貰ってもいいから頼む!」
「そこまでする!?」
「大樹先輩。
「えぇ!?何言ってるの!?」
「泉美ちゃん………もちろん、バチ来い!!」
「えぇ!?!?」
「そうですね……お兄さまでしょうか?」
「よし最高!じゃあそれを振り返って俺を見た瞬間、超絶可愛い笑顔で言ってくれ!」
「注文が多い!?」
「分かりました」
「やるの!?」
泉美は後ろを振り向き、準備する。そして、振り返る。
「お兄さま♪」
「やっべぇ何その威力もう俺死んでもいいや」
「そんなに!?ていうかいい加減放して!?」
「あとはかすみんが言ってくれればなぁ……」
「うッ」
「……………」
無言で撫で続ける大樹。目は『言ってくれ』と語っている。
頬を赤くした香澄は大樹から顔を逸らし、ゆっくりと言葉を話す。
「……お……ん……!」
「もう一回お願いします」
「お兄ちゃんッ!!」
「もう悔いはねぇ……ホントに死んでもいいや」
「ホントに放して!?いつまで頭を撫でてるのよ!?」
できれば永遠と。
「……楢原」
「あ、十文字か」
その時、俺に声をかけたのは十文字だった。俺は目をキリッと引き締め、
「やらんぞ」
「はぁ!?」
「それは残念だ」
「えぇ!?」
大樹と十文字の会話に香澄は二連続の驚愕だった。
「で、どうした?」
「とりあえずこの後、先程の話について話し合いたい。今後のことも含めてな」
「……一週間待て」
「一週間も撫で続けるの!?」
「冗談だ。今放す」
「……………」
「……………」
「はやく放せ!」
「はぁ……」
大樹は本当に残念そうに香澄を放した。顔を真っ赤にした香澄はすぐに泉美の後ろへと隠れる。
「それと、さっきの戦闘についても話し合いたい」
「それは帰る」
「起動式は展開しているぞ?」
ここに来て脅しとは……しかし。
「お前の魔法が俺に通じるとでも?」
「……そうだな。やめておこう」
「分かって貰えて嬉しいぜ。後でコーヒーおごってやる」
話を分かってくれた十文字に俺は右手の親指を立てた。グッチョブ。
「よし、じゃあ行くか」
俺は真由美に右手を差し伸べる。真由美はニッコリと微笑み、俺の右手を握る。
これから真由美には危険な目に合うかもしれない。
では、どうするか。やっぱりそんなモノは決まっている。
この手をしっかりと握り絶対に放さない。危険なモノ、傷つける敵、彼女を不幸にする出来事。俺がまとめて蹴散らすことだ。
美琴と同じように、アリアと同じように、優子と同じように、黒ウサギと同じように。俺は守る。
何度も立ち上がり、何回も、何十回も、何百何千何万何億何兆回だって彼女たちを守ってみせる。
そして、彼女たちを幸せにしてみせる。
それが、俺だ。
________________________
「今まで世話になった。本当にありがとう、お爺さん」
早朝、商店街の責任者であり、店を貸してくれた老人。おじいさんにお礼と店の返却を報告しに来ていた。
他の店の人、すぐに酔う魚屋のおっちゃん、その日には絶対に金を払わない八百屋の姉ちゃん、俺の敵である肉屋のチャラ男。既に別れを告げている。最後は笑顔や泣いて見送ってくれる辺り、ホントにいい人たちだと思う。
「そうか……もう行くのかい」
「ああ……なぁ聞いてもいいか?」
ずっと気になっていた。あの日から今日までずっと。
「どうして素性も分からない俺なんかに、店を貸してくれたんだ?」
「そうじゃのう……最初、楢原君を見た時はヤバい人だと思ったよ」
白い字で『一般人』と書かれた黒いTシャツにそこらへんに売ってそうな黒ズボンを穿いて頭にはシルクハットを被り、タオルで耳などを隠した男。怪しすぎて一秒で通報できるレベルのファッションだったな、あの時は。
「しかし、君の目は光が無かった」
「光……」
「大切なモノを取られてしまったような……」
鋭いな。
俺は黙ってお爺さんの話を聞く。
「だが、希望の目も持っていた」
自分の祖父と同じように、お爺さんは優しい笑みで俺の手を握る。
「諦めていない。まだやってみせる覚悟あった。今でも覚えている」
「お爺さん……」
「いつでも帰って来なさい。店は大事に取っておくから」
「……じゃあ俺が帰って来るまで商店街はあり続けないといけないな」
俺はポケットに入れておいた通帳を取り出し、お爺さんに差し出す。残高は一億以上ある。
その残高の額を見たお爺さんは当然驚いた。
「こ、これは……!?」
「ほとんどの家庭は取り寄せや通販。今時商店街まで買い物する人は少ない。そのせいで商店街の維持費が無くてピンチなのは考えただけでも分かる」
ここに来る人は少ない。俺はレストラン系だから客は多い方だが、肉屋や魚屋はほとんど客は少ない。他の店も同じで、来客はない。
「ここの商店街、俺は好きだ。近所は良い人だし、仲良くさせてもらった。恩返しだと思ってくれ」
「しかし……」
「俺が一番恩を返したいのは人はお爺さんだ。こんな俺に住む場所をくれて、感謝している」
俺は通帳から手を放す。
「だから受け取ってくれ。俺とみんなの……大切な場所のために」
「……分かった。必ず、ここは守ってみせよう」
お爺さんは真剣な表情で受け取り、力強く頷いた。
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お爺さんとの別れも済ませ、店へ帰る。いつもは荷物は持たないが、今回は用意している。既に準備しているが、二階に置いたままだ。
階段を上がり、俺は二階のリビングに行く。
「よーし、準備できたか?」
「あ、大樹さん。通帳は渡したんですか?」
荷物を赤いキャリーバッグに詰めていた黒ウサギが座ったまま俺の方を振り返る。ちなみに俺は黒いリュックだ。手に持つのってあまり好きじゃないんだよな。
「おう、俺たちにはもう必要ないからな。もしかしたら新しい世界で使えるかもしれないから一応100万円だけ持っておけ」
俺はポケットから100万の札束を取り出し、黒ウサギに向かって軽く投げる。黒ウサギは両手でキャッチし、溜め息をついた。
「何故でしょうか……受け取った瞬間、全く驚けませんでした。黒ウサギの金銭感覚は死んでしまったでしょうか?」
「……何かごめん」
黒ウサギより俺の金銭感覚の方が死んでいるから。100万円を軽々しく投げたんだぜ?
「それで、話を戻すが準備は大丈夫か?」
「YES!必要なモノは全部まとめました。大樹さん方は?」
「俺は包丁とかフライパンとか料理器具だろ……Tシャツにズボンに下着に着替えだろ……写真と携帯端末だろ……それから巻物に拳銃に日記帳だな」
「分かりました。最後の3つだけツッコミを入れたいと思います」
「そうか」
「ではまず、巻物は?」
「九重先生に貰った。餞別らしい」
「……もしかしてツッコミの必要って」
「多分いらない。これはハズレだな」
「……次です」
「おう」
「拳銃は?」
「コルト・パイソン」
「……まさか」
「うん、これもいらないと思う」
「……最後は」
「日記のどこにツッコミを入れるんだ?」
「誰の日記かどうかをお聞きしたいかと」
「俺のだけど……あとまだ何も書いていない」
「……………」
「……………」
「大樹さんのお馬鹿様ぁッ!!」
スパンッ!!
「理不尽ぐへッ!?」
黒ウサギのハリセンで頬を平手打ちのように思いっきりぶたれた。頭を叩いてくれ。
「いいです!まだツッコミどころはありますから!違うところ、ありますから!」
俺たちって、何をしていたんだっけ。準……何チャラしてなかった?
「えっと、どこだ?」
「服装です!」
俺の服装は黄色いTシャツにジーパンを履いている。靴は黄色いランニングシューズだ。靴は今は脱いでるけど。
「どこが?」
「文字です!」
「いつも通りだろ。きっと読者だって『ああ、またその文字か』って呟いているはずだ」
「メタ発言はやめてください!というかいつも通りじゃないです!」
黒ウサギはビシッと俺の背中を指差し、書かれた白色の文字を読む。
「『一般人だっていいじゃないか』って何ですか!?」
「いや俺ってもうあの事件以来一般人を名乗れるような人間じゃないからさぁ」
「遅ッ!?黒ウサギと出会う前から既に大樹さんは人間をやめていらっしゃいますよね!?」
「そんな……馬鹿な……!?」
「どうして驚くんですか!?」
「じゃあこっちを着た方が良いか?『一般人やめました』Tシャツ」
「ダメですよ!?色と文字が違うだけじゃないですか!?」
「じゃあ『ぐふッ……一般人になりたかったよぉ……』Tシャツ」
「願望ですか!?ってどうして白のTシャツに真っ赤な血がついたようなデザインなんですか!?怖すぎますよ!?」
「『Ordinary Person』Tシャツ」
「一般人を英語にしただけじゃないですか!?文字から離れてください!」
「『\(^o^)/』Tシャツ」
「そう来ると思っていましたよお馬鹿様!」
「『黒ウサギLOVE』Tシャツ」
「許可します」
いいのかよ。
________________________
結局俺は『一般人』だけの文字が書かれた黄色いTシャツに着替え直し、リュックを背負って部屋を出た。
黒ウサギは久しぶりに前の世界ではずっと着ていたエロッエロなミニスカートを穿き、エロッエロなガーターソックスを履いて、エロッエロな……。
「大樹さん?」
「take2入りまーす」
とりあえず、とてもセンスがいい
店の前では既に優子と真由美が待っていた。
優子は水色のミニスカに白のトップスを着ていた。右肩にはボストンバッグを背負っている。
真由美は何故か学校の制服を着ていて、青のキャリーバッグを引いていた。どうして制服なのか理由を考えた所、そう言えば今日は学校がある日だった。しかも始業式。
そして、最後の人物は……キリッ!
「おはよう優子、真由美。そしておやすみ原田ッ」
「何でッ!……俺だけ眠らせようとしてんだよッ」
凄い。音速で殴ったのに片手で受け止めやがった。
「相変わらず仲良くしないのね……」
隣では優子が溜め息をついていた。真由美も苦笑いだ。
「よぉ原田……永眠はしっかり取れよぉッ」
「睡眠だろそこはッ」
「大丈夫ッ……永眠はすぐに楽になれるッ……夢を見る暇も無く、日にちがすぐに経つぜッ」
「涙拭けよッ」
泣いてないよ。
「というかお前らの格好は何だ?大樹はいつも通りだとして、黒ウサギは何でシルクハットを被っている」
コイツ……俺のTシャツを全否定しやがった!
「黒ウサギはアレがあるからな。俺が被せた」
「……耳か」
「そうだ。あの土に埋まってウネウネしていてモグラのエサ……」
「大樹さん!?それミミズですよね!?」
「小麦粉やライ麦粉などに水、酵母、塩などを加えて作った生地を 発酵させた後に焼いた食品の外側にある……」
「パンの耳ですよ!?耳違いです!」
(((よく分かったな……)))
黒ウサギのツッコミに優子と真由美。そして原田が驚いていた。そのツッコミができたことに。
「
「いや、さすがに黒ウサギにそれは分からないだろ」
「え?原田さんは分かるのですか?」
「ああ、『耳をすま〇ば』だろ?もう何がしたいんだよお前」
「ちなみに俺の好きなジ〇リ作品は『天空の城ラ〇ュタ』だから」
「は?『千と〇尋の神隠し』一択だろ」
「「……………」」
「「表出ろ貴様」」
「何でまた喧嘩しようとしてんですか!?」
黒ウサギは急いで俺と原田の間に入り込み仲裁する。この野郎!テメェの目をバルスしてやる!
「3分間待ってやる!謝罪の言葉を考えていろ!」
「ここで働かせてください(笑)」(俺の店を指差して)
「「野郎、ぶっ殺してやる!」」
「いい加減にしてください!」
スパンッ!!
スカッ
「痛ぇ!?」
「ふッ、残像だ」
「あ、あれ!?」
原田の頭はハリセンで叩かれており、涙目になっていた。俺は叩かれた瞬間、黒い霧になってしまい、姿を消した。
「後ろだ」
「い、いつの間に……」
既に黒ウサギの後ろに立っていた大樹。顔はキモイくらいドヤ顔。よく見ると目は紅くなっている。
「ねぇ……そろそろ行かないかしら?」
この事態に呆れていた優子が溜め息をついきながら俺たちを止める。
「クソッ、覚えてろよ……」
原田は店の前に白いチョークで落書きをし始める。わぁお綺麗な魔法陣。こんなモノを見ていると……。
「おい!?落書きしようとするんじゃねぇ!?」
「大丈夫。『大樹参上!』って書くだけだから」
「いつの時代のヤンキーだよ!?マジでぶっ飛ばすぞ!?」
残念。
「そう言えばこんなに荷物を持つのは初めてだよなぁ」
「そうね。いつも手ぶらだったしね」
優子との会話で、手ブラというエロイいことを考えた俺は最低だと思う。
「え?そうだったんですか?」
「いつもならとんでもない額が振り込まれた通帳が女子たちのポケットに入っているんだ。でも今回、黒ウサギのポケットには入っていなかった」
「アタシも無かったわよ」
「そう言えば美琴とアリアだけだったな。通帳」
「ちょ、ちょっと待って!」
俺たちの会話を止めたのは真由美だった。
「話についていけないわ!」
「いや、置いて行ってるのだが?」
「いじめ!?」
「冗談だ。原田が魔法陣を書き終えるまでそれについて話そうか」
________________________
「はい、以上が修学旅行についてだ。質問はある人はいるか?」
「露骨な説明省略が腹立ちます」
「よし、原田の言葉は無視しろよぉ」
今まで俺たちが歩んできたことを真由美に話したり、写真を見せたりした。決して明るい話ばかりでは無かったが、真由美は優しく俺に微笑んだ。
「大丈夫よ。私はここにいるから」
「……ああ、知ってる」
その優しい笑みに俺は安堵し、圧し掛かっていたプレッシャーが消え、心がスーッと軽くなった。
「アタシもここにいるわ」
「黒ウサギもいます」
「……そうだな」
みんな、俺の隣に、そばにいてくれようとしてくれている。
「だから、そんなに焦らなくていいわよ」
真由美は俺の隣まで歩いてきて、
「あ・な・た」
「ふぁ!?」
「「なッ!?」」
「あ、修羅場が展開した」
真由美は俺の腕にしがみつき、俺の顔を見てウインクした。可愛いけど今はダメよ~ダメダメ。
確かにこの世界では俺の苗字は七草に変わってしまったけど、違う世界では楢原を名乗るから!
「ち、違うねん!これはちゃうねん!俺は悪くないアル!」
「急に言語が変わったな。あと最後どっちだよ。あるかないかハッキリしろ」
おい原田!この状況を冷静にみているんじゃない!助けろよ!
「無理」
心が通じたのに駄目だった!?
「わ、分かっているわ。大樹君に悪気が無いのは」
「い、YES!黒ウサギも承知しております」
え?顔を真っ赤にして、唇が震えているけど本当に大丈夫?
「だ、大樹君……ァタシたちを……幸せにするって……」
「……です」
「えぎゃあああああァァァ!!!!」
「お?黒歴史を掘り出された中二病の少年みたいな奴がいる」
恥ずかしい!恥ずかし過ぎて死ねる!!
「……大樹君。さっそく浮気なのね」
「ごめん。もうメンタルが……勘弁して」
「よーし、出来たぞ……っておい」
原田の書いた魔法陣が完成したが、こちらはカオスの状況。
大樹はコンクリートに顔をビタッとつけて寝ており、真由美は楽しそうに微笑んでおり、優子と黒ウサギは顔を真っ赤にして俯いていた。
「……あれ?」
大樹が寝た状態で魔法陣を見た時、おかしな点を見つけた。
「何で二つも書いたんだ」
地面には同じ魔法陣が二つ書かれていた。
「それは見た方がはやい」
原田は二つの魔法陣に白く光る石を投げ込む。
シュピンッ!!
その瞬間、白い魔法陣の文字は青く光り出す。
「きゃッ!?」
同時に優子の首から下げていたペンダントのクリスタルが光り出し、共鳴反応した。
クリスタルから一直線のレーザーのような光が魔法陣の真ん中に向かって放たれる。
「これで右と左。どちらかに御坂美琴と神崎・H・アリアがいる。残念だが同じ場所の世界じゃなかったな」
「!?」
どちらかに一人。その言葉に俺は驚愕し、唇を噛んだ。
どちらかという選択が俺の足を止めている。
「……大樹」
原田は右の魔法陣の中に入った。
「俺はこっちの世界で探す。お前はそっちの世界で探せ」
「……いや、でも」
「大丈夫だ。そっちの方が効率がいいだろ?」
「……………」
原田の提案は確かにいいものだと分かる。
「そうだな……」
俺は原田とは反対の魔法陣の中に入る。優子と黒ウサギ。そして、真由美も一緒に魔法陣の中に入る。
「これ、お前に渡しておく」
原田は小さな青色のビー玉のような球を俺に向かって投げる。
「何かあったらそれを砕け。すぐにかけつけるからよ」
「……おう。ありがとうな」
「気にするな。俺はお前をサポートするためにやっているんだからな」
喜ぶ。今の言葉は喜ぶべきだと分かる。
しかし、その言葉に俺はショックを受けた。
「……気をつけて、行けよ」
「それは大樹の方だろ」
原田は笑って、俺たちから姿を消した。先に転生したようだ。
「……俺たちも行くか」
無理に笑みを作り、三人に笑顔を見せる。三人は笑ってくれた。
そして、俺たちは新しい世界に転生した。
信頼と言う『ホンモノ』を、見失ったまま。
________________________
聞きたくない内容かもしれませんが、亡くなられた保持者のことも書いておきます。
原田 亮良
以上の5人が神の保持者だったことが分かっています。ガルペスから聞いたモノなので本当かどうか分かりませんが、確かな情報だと思います。
どうか、気を付けてください。
ここからは作者のターン。作者が自由に書いたモノなのでここでブラウザバックして頂いても物語には支障ありません。見るのが嫌だと言う方もブラウザバックで大丈夫です。
ついに終わりました!長かった魔法科高校の劣等生編!ありがとうございました。
魔法科高校の劣等生はとても面白い作品で、自分が作った魔法を出したい!っと思い、勝手に自作した魔法が多々出てきてしまいました。そこに関しては申し訳なく思っています。ですが、あの時はとても楽しい一時でした。
次回は感想で書いたと思うんですが、『ブラック・ブレット』の世界で暴れたいと思います。
次にアンケートについて書かせて頂こうと思います。
まずアンケートに参加してくれた皆様方、本当にありがとうございます。
そして本当にすいません。アンケートの結果はまだかなり先の方になると思います。まず投票的なアンケートを作っていないので、最終決定はまだまだ先です。
次はヒロインについてですが、真由美さんでしたね。これは最初から最後までそのつもりでした。
しかし、深雪とほのかを外す時の判断は辛かったです。みんな可愛い子ばかりでしたので、最初はとても迷っていました。
ブラック・ブレットのヒロインですが、申し訳ありません。
決めてます。
これ一択でした。どうしてもコレでした。この人だけでした。ネタバレはしません。できれば感想で『〇〇じゃね?』って書くのも避けてください。私は嘘がとてつもなく下手なので。
次に『番外編とかは書かないのか?』と友達に聞かれましたが、特に書く予定はありません。バンバン続きを更新して行く予定です。
ですが、無いとは言い切れません。もしかしたらあるかもしれないので。(続きが全く思いつかず番外編で続きの日を伸ばそうとするとかごめんなさい。続きを必死に書きます)
最後にお気に入り数ですが、現在800を超えています。
1000越えたら泣いていいですか?
泣いて喜びます。わんわん泣きます。そのまま裸になって家を駆け巡ります。
……1000を越えたら何かしたほうがいいですかね?やっぱり番外編ですかね?『前の行見ろ』って言われそうですが。
一応、考えておきます。
次回からはブラック・ブレット編です。これからもよろしくお願いいたします。
感想や評価をくれると心が温まり、とても嬉しいです。今まで感想や評価をくれた方々、ありがとうございました。