ロックンロールは裏切らない   作:冴月

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 あの時、有咲の蔵で聞いた"R・I・O・T"よりも強いものを感じた。

 

 マスキングの力強いドラムと、パレオの変幻自在なキーボード。そして、レイから響く歌声とベース音。どれもが音源以上であり、進化を感じさせられているたえだった。

 それと、単純に技術が高い。たえは自信髪劣ってはいないか不安になる程に、RASの技術力を実感していた。

 一見、自分の好きなように叩き、アドリブを沢山入れているように見えるマスキングのドラムも、レイとパレオの対応力によって1つの音として中和されるかと思えば。二人も、ドラムに負けないくらいに暴れる時もある。レイは特にそれが顕著で、歌声と、ベース。そのふたつが、無限に拡がっていくようにも感じられた。

 

 自分のいるPoppin’Partyとは、また違った感覚。楽しいけれど、それだけじゃないような感じ。こんな状況下で、たえは何を伝えられるのだろうか。皆を笑顔にできるのだろうか。ちょっと不安もあった。

 

 あの日、チュチュから無事にオーディション合格を受けたたえは、次回のライブでのセトリを教えて貰っていた。

 "R・I・O・T"から始まる、オリジナル曲が数曲。全ての音源と、バンドスコアを受け取ったたえは、譜面とにらめっこをしながら朝の通学路へと着いていた。

 

「ここがこうで……。次がこれで……」

 

 これが、なかなか苦戦しているようだった。

 そんな前を見ず、フラフラと歩いてくるたえを、香澄はいつもの集合場所で見つけていた。

 

「たえちゃんおはよー」

「おはようっす、かすみんセンパイ」

 

 香澄は、たえのもっているバンドスコアが気になるようだった。「むむむ……」と難しそうな顔をして睨んでいるバンドスコアを、香澄は横から覗いてみる。

 

「……うわ、難しそう」

「なかなか、苦戦しそうな感じっす。弾くこと自体は何とかできるっすけど、表現とか、そこら辺が……」

 

 表現。香澄は、つい繰り返してしまった。

 ーー表現……表現か。表現って、よくある"だんだん強く"とか、"優しい感じ"とかそういうのかな。

 香澄の脳裏に、あの世界一有名なバンドの"Let It Be"が流れ出ふ。細かい表現とか、技術とかはまだ分からない。だけど兎に角こういう感じの、優しく包み込む感じなんだろうなと香澄は思った。

 

「ギターで、表現か……。難しい、というか。どうやればいいのか分からなくなっちゃうよね」

「そうなんすよね。歌声はなくて、ギターで表現する……。それを、いつものポピパの色じゃなくて、"RAS"の色でやる訳っすから」

 

 再び譜面とにらめっこするたえ。ブツブツと呟きながら譜面を見つめるたえを見て、香澄はちょっとだけ不安になってしまった。

 そして、その不安をつい口に出してしまう。香澄の意識よりも早く、言葉が不意に出てきてしまった。

 

「……たえちゃんは。たえちゃんは、"ポピパ"でいてくれるよね」

「……えっと。急にどうしたっすか?」

 

 たえは、譜面から顔を上げ、香澄を見つめた。そして、不思議そうに首を傾げている。

 ーー無理もなかった。香澄は、数ある可能性の一つの不安を口にしてしまったのだから。

 

 ()()()()R()A()I()S()E() ()A() ()S()U()I()R()E()N()()()()()()()()()()()()()()。"Poppin’Party"から抜けて、RASのギタリストとなってしまうIF。そんな不安が、自分のことのように襲ってきていた。

 まるで、別の世界で似たようなことを感じたように、その"不安"は現実的に香澄を蝕む。

 

「……えへへ。なんだか、たえちゃんが違うところに行っちゃう気がして」

 

 作り笑いだった。偽りの笑顔だった。それに、曖昧にしか伝えられなかった。ちゃんんとそのIFを口にしてしまうと、それが現実になってしまうかもしれないと思った。

 ……なんでそんなことを思ったのかは分からない。分からないけど、"大切なものというのは、失ってから気づくものもあるのだ。"。生活に欠かせないライフラインのよつに。日常を取り巻く平穏のように。そして、絆を奏でる仲間たちのように。失ってからじゃ、遅いのだ。それだから、そんな不安になる可能性は口にしたくない。

 

 香澄は作り笑いをして去勢を貼る。笑顔を表面に貼り付けたあと、たえの表情を見ないようにたえから目をそらす。

 

 そういえば、たえとRASの人は昔馴染みって言ってたっけ。もしかしたら、"おっきくなったら一緒にバンドやろうね"なんて言う未来への約束をしていたりして……。

 

 負の考えの悪循環。ぐるぐると黒い螺旋が渦巻いていく。

 ……が。そんな香澄を見て、たえは一言言い放った。

 

「あの、かすみんセンパイ。自分、R()A()I()S()E() ()A() ()S()U()I()L()E()N()()()()()()になるつもりはないっすよ?」

 

 ぱちぱちと瞬きをする。たえの言っていることを一言一句理解するべく、たえの表情を香澄は読み取ろうと、たえを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーたえは、()()()()()と言うように首を傾げていた。

 それは決めつけた訳ではなく。そうなって欲しいとか願ってる訳ではなく。まるで、身の回りにある普通な事みたく言い切っていた。

 唖然とする香澄に対し、たえは言葉を続けた。

 

「自分は、ポピパっす。P()o()p()p()i()n()()P()a()r()t()y()()()()()()っす。かすみんセンパイと、有咲センパイ。ニンジャセンパイと沙綾センパイ。5人でポピパっす」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()、たえは言い放った。

 

 

 

 

 ……そうだ、そうだった。私達は、私とおたえは"ポピパ"なのだ。

 

 私、おたえ、りみりん、有咲、沙綾ちゃん。

 5人揃って、5人でポピパなのだ。

 

 それは至って普通の事で。それは至って簡単な理由で。

 

 "音楽が好きな皆が大好き"だから。想いは違えど、ポピパがポピパの事が好きなのは変わらない。

 

 それは、誰かがサポートギターをした程度で、崩れるようなものでは無い。

 

 だから、"IF"を考えるだなんて不要だった。違う夏、それぞれの夢を追っていても。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな確信が、香澄には生まれていた。

 

 

「……そうだね。ごめん、変な事言って」

「大丈夫っす! 心配してくれたんすよね?」

 

 なんでもないように言うたえ。そんなたえの言葉で、とても安心できた。

 

「……ありがとう、たえちゃん」

「かすみんセンパイ……」

「たえちゃん……!」

「かすみんセンパイ……!」

「たえちゃん!」

「かすみんセンパイ!」

 

 手と手を取り合い、瞳をうるうるとさせる2人。感動的なシーンの筈だが、普段から2人をみている者にとってはいつものおふざけに見えていた。

 

「……朝から何やってんの?」

 

 ちょっと冷ややかな視線で訝しむのは、市ヶ谷有咲。

 ……それはそのはずだ。待ち合わせ場所に着いたと思ったら、いつもの2人が手を取りあって泣きそうになっている。訝しむのも無理はない。

 

「……えへへ、なんでもないよ」

「ふーん……。りみりん、日直だから先行ってるって。私達も行きましょ」

「はいっす!」

 

 ポピパはポピパ。これが崩れることは無い。香澄とたえはもう一度顔を合わせ、笑いあった。そして先を行く有咲に追いつくべく、足早に駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

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