ロックンロールは裏切らない   作:冴月

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「……はぁ、はぁっ!」

 

 息が切れる。喉が渇く。体が熱くなる。

 Poppin’Partyの音楽とは遠う、ハイテンポなリズム。それと、RASのメンバー達の音の主張に、呑まれそうになる。

 

 溺れたくない一心で、たえはギターを唸らせる。アンプに繋がれたスナッパーが、ギュルギュルと大声を上げる。

 

 それを待っていたかのように、ドラムが大暴れしてくる。キーボードの波が襲ってくる。唯一味方だったのは、レイヤの安定したベースリズムだけのような気までした。

 

「……はぁ、はぁ……。ふぅ」

 

 まるで。暴動のような音楽。その終焉に、たえは肩の荷を下ろす。

 ーーただの練習なのに、色々試している余裕なんかないっす。兎に角、付いて行かないと……。

 

 Poppin’Partyの音楽とは違う事を、全身で感じたたえだった。

 ポピパの音楽はたえ自信慣れていることもあり、色々と考えながら試すことが出来たが、RASの音楽はついていくので精一杯。自分の持っているものを色々試すと言うよりも、覚えた譜面を本能のままに弾いている状態に近い。もう少し、慣れるのに時間がかかりそうであった。

 一通り、今度のライブのセトリを終えたたえは、乱れた髪を手で梳いた。

 

「たえちゃん。はい、これ」

 

 横でベースを弾いていたレイが、水の入ったペットボトルを差し出してくれる。たえは、「ありがとうっす」と言って、水を受けとった。

 ……喉を通る水が気持ちいい。喉元を通り、体の中に浸透していくにつれて、火照った体が冷やされていく。

 

「……お前、なかなかだな」

 

 ちょっとハスキーな声を後ろからかけられる。あまりにも急だった為、ちょっとだけビクッと震えながら、声の主であるマスキングの方へ振り向く。

 ドラムから離れ、スティックを方に担ぎながらなんだか悪そうな笑みを浮かべている。

 ーーなんだろう、同い年の筈なのにめちゃくちゃ年上に見えるっす。

 

 ど、どうも。と答えながら、たえはぎこちなく笑った。

 

「マッスーさんが褒めるだなんて……!」

 

 後方で、パレオが口に手を当てて驚いている。そんなに褒めることが少ないのだろうか、マスキングは鼻で短く笑いながらタオルで汗を拭き取っていた。

 

「……まぁ、及第点ね」

 

 腕を組みながら、スタジオにチュチュが入ってくる。先程までスタジオの外でたえ達の演奏を眺めていたのだ。

 その視線は審判のように見定めるようであり、プロデューサーのように細かい所まで確認するようであった。

 

「But! まだまだよ。1stLIVEで有終の美を飾って、最強の音楽でもってガールズバンド時代を終わらせる! それにはまだまだ足りない!」

 

 ガールズバンド時代。たえはそう繰り返し呟いた。

 ガールズバンドがありふれる戦国のような時代であると、どこかのテレビでは話していた気がする。どこかの高校生の、アイドルバンドがそんな風に紹介されていたのを、たえははネット記事で見ていた。

 

 そんな時代を終わらせるとは、一体どういう事なのだろうか。

 

 疑問が浮かんでいるたえをよそに、チュチュはメンバーを見渡す。そして、話を続けた。

 

「次回の1stLIVEまでは、毎日練習してもらうわよ。予定とかも全部、スタジオ入りを優先してもらうわ」

 

 なんか、チュチュがとんでもないことを言い出している。狼狽えて、たえがキョロキョロ周りを見ていると、チュチュが視線を向けてくる。

 

「貴方もよ、タエハナゾノ。サポートギターとはいえ、今はRASの一員。私の満足する出来になるまで、ほぼ毎日スタジオ入りをしてもらうから」

 

 戸惑うたえ。たが、ポピパとの練習もある為頭の中でスケジュールを組み立てる。……なかなかハードなスケジュールになってしまいそうだった。

 ーーううっ。さすがに厳しそうっす。毎日は無理って、断らないと……。

 ーーと、そんな事を考えている内にみんなは解散していた。一旦、休憩を取るようだった。

 完全にタイミングを逃してしまったたえ。皆了承済みの中、断る事へのなかなか勇気が出ず。たえは甘んじてそれを引き受けてしまった。

 

 たが、一生懸命にやるしかない。不器用な私は、全部を頑張るしかないのだから。

 これも修業の一環だと思うようにし、たえは練習に向かう。

 

 

 

 

 

 その後、学園祭の準備も始まっていった。

 突如として、進学校である"羽丘女子学園"との合同文化祭になる事となっていた。なんでも、羽丘女子の生徒会長と、花咲側学園の生徒会のメンバーが友達で、盛り上がった結果そうなったという風の噂があったという。なんとも軽い理由であった。

 

 たまに羽丘女子学園を行き来しつつ、学園祭での、出し物の準備を進める香澄達。香澄達が主導になって進めている訳では無いので、放課後はメンバーで集まり、文化祭に向けて練習する。

 

「ふむ、うさぎ殿は今日も遅くなるか」

「みたいだね。毎日練習してるって言ってたし、かなりストイックみたいだよ」

 

 今日は、香澄とりみ。そして有咲の3人が蔵に集まっていた。沙綾は定時制の為、たえはRASのサポートギターの為練習に参加している。

 

「私達が、頑張らないと」

「そうね。時間がある分、引っ張っていくつもりで行かないと」

 

 キーボードの準備を終えた有咲。香澄とりみも、各々楽器を構える。

 

「それじゃあ、さっそく……あれ?」

 

 軽やかな音楽が、香澄達の蔵に流れ出す。ブー、ブーッと言うバイブレーションの音と共に、リズミカルに流れる。

 

「誰か携帯鳴ってるわよ」

「……ウチではないな」

 

 持ち主では無い2人。残りの1人に、2人で視線を向ける。

 香澄は楽器をスタンドに置いて、机の上に置かれたスマートフォンを取りに行く。

 電話のかけてきた主を確認すると、相手は"花園たえ",。たえちゃんだった。

 

「あれ、たえちゃんからだ。ちょっとごめんね……。はい、もしもし」

『あ、かすみんセンパイお疲れ様っす。今ちょっといいっすか?』

「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」

『ちょっとご相談があって……』

 

 うん、うん。と、話を聞いていく。どうやら、休憩のタイミングでかけてきたようで、手短に電話は終わった。

 電話を終えた香澄は、スマートフォンを再び机に置いてりみと有咲の方へ笑顔を向けてくる。

 

「早かったわね。なんだったの?」

 

 有咲が聞いてくる。何故か笑顔の香澄を不思議に思い、有咲とりみは首を軽く傾げる。

 

「えっとね! ……たえちゃんの、RASのライブ! みんなで見に行かない?」

 

 香澄は、笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

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