Poppin’Partyの5人は、今日も蔵で練習をしていた。
新曲を含む5曲のセトリを決めたり、アレンジを考えたりする他。MCの回し方や、衣装、配置など。練習することは沢山あった。
Poppin’Partyという居場所をよりいいものにしようという気持ちは、確かに5人の中で共有されている。だから、5人は練習の精度をどんどんと上げていった。
清らかな集中力で、蔵の中が満たされていった。
……そんな神聖だとも思える場所に、水を差す者がいた。ドアの開く音がした途端楽器を弾く手を止め、音の方を見る。
「ーーこんにちは、Poppin’Partyの皆さん」
「……あれ。チュチュさんと、パレオさん?」
たえが気づく。
猫耳がついた、特徴的なヘッドホンをした赤髪の少女と、それに付き添うようにして現れた、カラフルなツインテールの女の子。
"RAISE A SUIREN"の、チュチュとパレオだった。チュチュは、何がおかしいのか、ニヤニヤとした心地よくない笑みを浮かべている。
「……入る時にはノックしなさいよ」
有咲が睨む。悪態をつく有咲に、チュチュとパレオはペコリと頭を下げる。
「これは、失礼致しました。……パレオ」
「はい、ご主人様ー!」
パレオが小走りで紙袋を持ってきた。普段、ポピパが使用しているテーブルに袋を置き、またペコリと頭を下げる。
「某有名店のマカロンです。良かったらどうぞ」
「あ、どうもっす」
たえも、パレオに釣られて頭を垂れた。そして、チュチュの1歩後ろへと下がる。チュチュとパレオ、その関係はどこかのメイドと主人のようだった。
そんな二人を、有咲は未だ睨んだままだ。
「……何しに来たんですか」
沙綾が言う。1歩間に出て、みんなを守るようにして、訪問者の前に立つ。香澄は、沙綾の後ろに縮こまっていた。
「まぁ、そんな警戒なさらずに。ちょっとお話がありまして、お伺いさせて頂きました」
そう言って、チュチュはぺこりと頭を下げる。少しだけ口角を上げ、どこかニヤついているように見える。
香澄は、空気が重いのを感じた。一体、今更何を言い出すのだろうか……?
チュチュは、時間をかけながら。そして自信たっぷりに目を輝かせ、ゆっくりと口を開く。
「タエハナゾノを、私に下さいますか?」
「あ、嫌です」
……なんとも、言い難い空気になった。思わず即答してしまった香澄は、黙ったままの周りを見て「えっ……えっ?」と、声を漏らす。たえも、「へ?」と変な声を上げていた。
一方のチュチュは、話したままの状態で固まっている。
そんな私たちを見て、後方にいたりみが「ぷっ……ぶふっ……!」と、吹き出す。
「……Pardon? ちょっと、よく分からなかったわ」
何とか捻り出したような言い方だった。
眉をひそめていたチュチュは、他人から見てもハッキリとわかるくらい、不機嫌だった。
香澄は、モジモジと下を向く。ちょっとだけ黙り込んだ後、意を決したようにチュチュを見る。
「えと、たえちゃん……。花園たえちゃんは、渡せません」
もう一度、香澄は繰り返した。
理由もないその返答に、チュチュは苛立ちを露わにする。
「……Why? 理由を聞いてもいいかしら」
口調は落ち着いていた。が、表情は変わらない。
香澄は、チュチュの表情と淡々とした声色に少し怯んでいた。先程のように、反射的に言葉が出ずにいた。
……。
少しの間、香澄が沈黙していると、有咲がため息をついた。そして、やや億劫そうに口を開く。
「……あのねぇ。ウチの花園たえは、Poppin’Partyなのよ。それで、あたし達は、5人でPoppin’Partyなの。誰か1人でも欠けるだなんて、そんなの認めないわ」
「有咲センパイ……!」
ふん、と鼻を鳴らす。腕を組み、身長の低いチュチュを見下ろすような形になる。たえは、目を潤ませて嬉しそうに有咲を見つめる。
「……5人で、ね。友達同士で作ったバンドらしい話ね」
ふんと、チュチュも威張った。幾分か自信よりも背が高い有咲を、若干下から睨みつけた。
「私のバンド、"RAISE A SUIREN"は、最強のバンド! ガールズバンド時代の最先端を行って、新しい時代を切り開くのよ!」
高々と演説のように語る。チュチュの"RAISE A SUIREN"というバンドの本質が、ちょっとだけ垣間見えた気がした。
高らかに語り、少し興奮した声色を咳払いで抑える。チュチュは話を続ける。
「その為には、タエハナゾノが必要なの。あなた達も見たでしょ? タエハナゾノのPerfect sound! そしてPowerfulなSoul! そんな、タエハナゾノが私はーー」
「欲しいってことか?」
「うひゃあ!?」
いつの間にか、チュチュの背後に回り込んでいたりみ。後ろからいきなり声を掛け、チュチュを驚かせていた。
チュチュはその場から飛び退き、パレオの後ろに隠れる。
一方のりみは、いつの間にかピンクのマカロンを口に咥えていた。
「残念だが、うさぎ殿はウチ達のものだ。ウチらは、皆で日本一の仲間だし、ウチはPoppin’Partyは日本一のバンドになると信じている。……というか、仲間1人かけてもいいようなバンドが、日本一になれる筈もない」
りみはら真っ直ぐチュチュを見据える。いつになく真面目な表情で、チュチュに話す。
「お前のようなちんちくりんにあげるようなものは、ここには無いぞ」
「……」
それだけ言って、りみはソファへと座り込んだ。袋から新たなマカロンを取りだし、そして口にする。
「……ちんちくりんってなによ」
「……え?」
下を向いて、震えている。チュチュは、小さな声で何かを呟いている。
「ーー私はちんちくりんなんかじゃない!!」
急に顔を上げ、蔵内に叫び声が響いた。
チュチュの声に、4人はビクッと驚いてしまう。
「お前たちは、なんっにも分かってない!! 私は、この時代で1番になる自信がある! 選りすぐりのメンバーで、私のプロデュースがあれば! RASバンドは最強になれるのよ! ーータエハナゾノには、その資格がある!! その才能がある!!」
叫ぶ。自分の想いを叫ぶ。チュチュの思いは、嫌という程香澄には伝わった。
若干、涙が目に浮かんでいるようだった。チュチュの目尻に、キラキラとした涙滴が見える。
「だからスカウトしているのに……! なんで分からないの!? Why!?」
語尾が強くなる。髪を振り乱して、顔が紅潮し、拳を握る。理解されない理不尽を叩きつけるようにして、香澄達を睨みつけていた。
「……もういいわ」
「……え?」
ひとしきり吐露した後、チュチュは静かになった。冷静になったと言うよりかは、なにかの思いを込めたような物言いに、香澄は思わず声が出る。
「……絶対に、ぶっ潰してやる!」
「ぶ、ぶっ潰す?」
自分の思いが伝わらない事への怒りだった。
チュチュは、闘志のような物を目に込めながら顔を歪める。そして、Poppin’Partyに目をやる。
「Roseliaと同じよ! タエハナゾノと、Poppin’Party! あんた達を、私達の音楽でぶっ潰す!」
部屋の温度が、幾分か上がった気がした。険しい目付きのまま、チュチュは5人を睨むと、足音荒く、足早に階段を昇っていく。
最後に振り返り、言葉を吐ききった。
「覚悟しときなさいよ!」
チュチュは、ドアを荒く閉めていった。
……残された5人とパレオ。嵐のように去った彼女の後を、唖然として眺める。
チュチュの荒い足音が聞こえなくなると、パレオが「すいません」と目尻を下げて謝った。
「チュチュ様はあの様な言い方でしたけど、本当は不器用なだけなんです。人一倍、音楽に対する情熱があって。最強の音楽を作るためなら、どんな事も厭いません。ただ、表現する事が不器用なのであって……」
パレオが目を瞑る。何かを思い出す様にして、胸に手を当てる。
「……けど、チュチュ様は。暗闇に居た
前髪が重なって、パレオの表情が見えない。どんな顔をしていて、どんな思いで話していたのかは分からないが、パレオの物言いはとても優しいものだった。
「……それじゃあ、失礼します! たえさん、残りの時間もよろしくお願いしますね」
「は、はいっす」
再びお辞儀をする。底の厚い靴を大きく鳴らしながら、パレオも蔵を出ていった。
「な、なんだか台風みたいな二人だったね……」
あはは、と沙綾が頭を搔く。五人は練習を中断し、机を囲んで休憩をしていた。
「……まぁ、ぶっ潰すとか何とか言われたけど。あたし達はあたし達通りやっていきましょ。何かと絡まれるかもしれないけど」
頭が痛いわ、とため息を着く有咲。手を頭にやり、さすっている。
「そうだな。あのちんちくりんに粘着されるのは癪だが……」
そう言って、ピンクのマカロンをパクリと一口放り込む。香澄も、りみに習って赤色のマカロンを1個手に取った。ちょっとだけかじってみる。とても甘い。
「皆さん、巻き込んじゃって申し訳ないっす。一回、自分が断った筈なんですけど」
「大丈夫だよ。有咲ちゃんと、りみりんが何とかしてくれたし」
「仲間だしね。当然よ」
「うむ。あのちんちくりんに言われるがままなのは、気に食わなかったしな」
恐縮そうにするたえを、香澄と有咲、りみが励ます。りみは青色のマカロンを取りだし、たえに差し出した。
「ありがとうっす。……けど、みなさん。チュチュさんは、決して悪い人じゃない。これだけは、言わせて欲しいっす」
たえは、一気にそれをほうばった。甘さが口の中に広がるのを、しみじみと感じる。
「パレオさんの言う通り、チュチュさんは言葉こそ乱暴っすけど。音楽にかける情熱は本物っす。一緒に演奏してて、そう感じたっす」
たえの目は、本物だった。
「大丈夫だよ、たえちゃん。この前のライブで、それは伝わってるから」
たえに誘われた、dubでのライブ。その時の演奏力。清々しい程の熱を持った音楽。それは、本物だ。音楽は嘘をつかないし。
最後のマカロンを、有咲が咀嚼する。甘さに少しだけ、有咲は顔をほころばせる。
「それじゃ、切り替えて。練習を再開しましょう」
「うん!」
「うむ」
「はい!」
それぞれの持ち場に着く。セトリを振り返り、本番のように練習に挑む。
思わぬ来訪者があったが、Poppin’Partyの蔵練は滞りなく進んでいった。