ロックンロールは裏切らない   作:冴月

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「……というわけで、明日はRASの記念すべき2回目のライブよ。気を引き締めていきなさい」

 

 高層ビルの最上階。チュチュのスタジオを背に、RASとサポートギターのたえ達は、決起集会のようなものを行っていた。

 チュチュを中心として向き合い、他の4人は肩を並べて1列になっていた。

 

「それと、タエハナゾノ。貴方は、RASのギターとして最後のライブよ。前以上に気を引き締めなさい」

 

 びしと、人差し指をたえに突きつける。たえは、思わず体を怖ばせながら、必死に頷いた。

 

「最後に最強の演奏力を見せなさい。最後に栄光の幕を()()()のよ」

「チュチュ様、幕は()()()ものではなくて、()()()ものですよ♪」

「ぐっ……。パ、パレオー!」

「きゃー♪ 止めて下さい、ご主人様ー♪」

 

 その場で、追いかけっこを始める2人。グルグルと回る2人を、レイとマスキングは微笑ましそうに見つめる。

 

「……たえちゃん」

「はい?」

 

 隣に居るレイに、声をかけられる。

 

「……ライブ、頑張ろうね」

「……はい!」

 

 RASでの最後のライブは、もうすぐだ。

 

 

 

「みなさん! おまたせしました!」

 

 夜。そして、学園祭の前日。香澄達Poppin’Partyは、有咲の蔵に集まっていた。

 RASの打ち合わせがあり、遅れての参加となったたえを香澄達は優しく受け入れる。

 

「お疲れさま、たえちゃん」

 

 香澄が、青い金平糖をつまみ、たえに渡す。たえは、香澄が摘んだままの金平糖にかぶりつき、ソファに腰を下ろした。

 ーー甘い。なんとなく懐かしい甘さが、疲れた体にしみ渡る。

 

「最後の練習どうだった?」

「とりあえず、何も無く終わったっす。最後に、チュチュさんには喝を入れられたっすけど……」

 

 沙綾が入れてくれたお茶を、たえがすする。

 

「まぁ、1日で2つのライブだもんね。たえちゃん、RASはこれで最後なんだし」

 

 広げられている手帳には、ある日に2つの赤丸が付けられていた。Poppin’Partyの学園祭ライブと、RASのワンマンライブ。そのふたつが同日に書かれていた。

 

「でもたえちゃん、本当に大丈夫? 時間的には問題なさそうだけど、疲れとかもあるだろうし」

「それは大丈夫だと思うっす。RASのライブと、ポピパのライブまで3時間は空いてるっすから。……リハーサルは、ちょっと出れないっすけど」

「うさぎ殿が言うなら問題ないだろう」

「そうね。念の為に時間も遅くしてもらったし、大丈夫よ。……最後の大トリになっちゃったけど」

 

 時間をずらしてもらった関係上、出番が演目の最後になってしまったのだ。後に残っているのは、全員参加のキャンプファイヤーのみ。とても緊張するイベントだけだった。

 

「ポピパさんが大トリだなんて……! でらときんときんだわぁ……!」

 

 ファンのような人が1人。キラキラとした目で、香澄達を見つめるのは、異様なほど蔵に馴染んでいた朝日六花だった。

 

「そう言えば、朝日さんはどうしてここに?」

「いやー、話せば色々長いんですけど……。ちょっと悩んでた時に、香澄先輩に声掛けてもらいまして。練習見学に、誘っていただきました!」

「なるほど」

 

 用意された座布団に、ちょこっと座っている六花。キョロキョロと辺りを見回して、「へー」とか、「はえー」とか声を上げている。

 

「六花ちゃんとは、また話したいと思ってたし。色々とちょうど良かったんだよね」

「うん。悩んでいる内容も、見過ごせなかったし」

 

 香澄と沙綾がそんなことを言い合う。それって一体ーーと、たえが2人にに問う前に、有咲はパンと手を叩いた。

 

「はいはい。おたえも帰ってきたことだし、練習始めましょうか」

「うん」

「御意」

「はーい」

 

 有咲が指揮を取り、四人が定位置に着く。そして、沙綾のドラムから演奏が始まら……なかった。

 定位置に着いたまま、香澄は六花に問う。

 

「ねぇ、六花ちゃん。なにか聞きたい曲とかない?」

「え?」

「いやぁ。私って、話すことが苦手だから。音楽でなら、六花ちゃんに何が答えられるかなーって思って」

 

 はにかむ香澄。ポカンと口を開けている六花は、そんな香澄の表情を見て俯いた。

 

「……私、イエバンが聞きたいです」

「イエバン?」

「はい。もし、良ければ聞かせて欲しいです」

「……うん、分かった!」

 

 皆を見る。アイコンタクトを交し、タイミングを合わせる。六花の悩みとか、諸々を省かれていたたえだったが、そのアイコンタクトで全てを察することが出来ていた。日本一のバンドと言うのは、言葉を交わさずとも思いが伝わるというものだ。

 

「……"Yes! BanG_Dream!"」

 

 ーーさぁ、飛び出そう!

 

 弾きなれたフレーズ、止まない興奮。うねる螺旋に、回る旋律。共有を超えた、共鳴。いつまで経っても、このドキドキは鳴り止まない。

 ここから、何かが始まるーー。そんな予感がする。

 

 演奏中、ふと六花を見るとキラキラした何かが見えた。

 一筋の涙滴が頬を伝い、全身で音楽を享受している。

 

 たえは、そんな様子を俯瞰して見ていた。そして、理解していた。

 

 朝日六花は、何かを止めてしまいそうだったのだろう。例えばーー、そう。バンドメンバーを集める事だとか。

 詳しい話は分からないが、香澄の歌からそれが伝わってくる。

 

 ここから始めよう! 大丈夫! 怖くないよ! 夢にはいつか、必ず出会える。強くなれる! 

 

 ーー思いは、伝わっただろうか。

 

 1曲を終え、香澄は六花を見た。

 涙と鼻水で大変な事になっている六花は、制服の袖で必死に顔を拭っている。

 

「ぐずっ……」

「ろ、六花ちゃん大丈夫!?」

 

 沙綾が慌ててタオルを持ってくる。「ありがとうございます」と、つっかえつっかえになりながら六花はお礼を言う。

 

「ありがとうございます……。ぐすっ」

 

 タオルで顔を覆う。肩を震わせ、聞こえてくる嗚咽が香澄を焦らせる。

 頭をフル回転し、何を言おうか考えるも何も出てこない。とてももどかしい。

 

「ごめんなさい……。色々と、思い出しちゃって」

 

 近くにあったティッシュで、ぶーんと鼻をかむ。

 香澄は、その姿がとある人物と被ってまで見えた、!

 

「私、中学校までバンドやっていて。とても楽しかったんです。友達と組んだバンドだったんですけど、目指すところもあったり、皆仲が良かったりして……」

 

 ポツリ、ポツリと話し始める。話す度に、頭が段々と垂れていく。

 

「……けど、都内の高校に行くって事で、バンドは解散しちゃったんです。それでも、バンドはしたかったから、こっちで色々と探してたんですけど……。何も上手くいかない」

 

 元々、人と話す事が得意ではない六花にとって、とても大きな壁だった。更に、ギターという人口が多い楽器だった事もあり、六花は次第にバンドを探すことをやめていったらしい。

 

「いつの間にか、バンドを探すのを止めてしまってたんですけど……。私、いまのイエバンを聞いて思い出しました」

 

 六花はゆっくり立ち上がった。

 髪の間から見える表情は、決意の表示で溢れている。

 

「諦めちゃ、ダメですよね! バンドをしたいのに、それを自分から諦めてしまったら、それは楽しかった思い出に、自分を裏切ることになってしまう」

 

 鞄とギターケースを持つ。今にもどこかに走り出しそうな勢いだった。

 

「ポピパさん、ありがとうございます! お陰様で、大切なことを思い出しました!」

 

 ぺこりと、90度のお辞儀をする。消えて、なくなってしまいそうな表情から一転、自信で溢れていた。

 

「香澄先輩、みなさん! ちょっと私、行ってきます!」

 

 では! と、六花は階段を上り、走り去っていった。

 

 一気に静かになった、蔵の中。あまりの勢いに、香澄達は呆気に取られていた。

 

「……嵐みたいにどっか行っちゃったっすね」

 

 もう夜なんですけど、とたえはつけ加える。りみが後を追って蔵の扉を開けるも、もう六花の姿はないようだ。

 

「ふむ、本当に行ってるな」

「即行動かぁ、凄いね」

 

 感心している沙綾。後に残された、タオルを拾い上げていた。

 

「でも、元気になってくれてよかった」

「そうね。かすみんとか、皆の気持ちがちゃんと伝わった結果よ」

 

 やり切ったような、嬉しい感じ。自分の考えている事とかが、伝えたい事が伝わるとこんなにも嬉しいことだなんて。考えた事はあったけど、実感したのは今日初めてだった。ストレートに感想を貰ったのも、目の前で自分達の音楽の力を感じたのも、初めてだった。

 

「……それじゃあ、練習続けましょ。明日はいよいよ本番だし、気合い入れないと」

 

 この感覚を、忘れないようにしたい。香澄たちは、それを染み付けるように最後の練習に励む。

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