通話を終えた香澄達は、直ぐにライブの準備に戻った。
『遅れちゃいそう』という、たえの連絡を見て思わず電話した香澄だったが、これでライブの準備に戻ることが出来る。
ランダムスターをチューニングし、セトリの確認を入念に行う。4人で待機室の端に集まりながら過ごしたり、出演者たちの演目を見て、自分たちもあの場所へ立つんだと気持ちを高めていた。
ーーたえちゃんはまだ来ていないけど、大丈夫。誰かのせいだなんてなりたくないし、そんな事はさせない。私は、歌うんだ。
香澄は、そう決意を胸にした。後ろにいる3人もそんな気持ちなんだと、何となく思っていた。
自分達の1つ前の演者達が、舞台へと向かう。最後から2番目の演者たちであり、次がPoppin’Partyの出番だった。大トリという事もあり、既に舞台裏で衣装に着替えた面々は、スティックをクルクル回したり、部屋を落ち着きなく歩き回ったり、始まる時をソワソワしながら待つ。
「ぽ、ポピパさん!」
舞台裏で待つ香澄達を、呼ぶ声がした。なんだか聞いたことある声の主を確認するべく、音がした方をみんなで向く。
「……え、六花ちゃん? どうしてここに?」
声高に香澄達を呼んでいたのは、朝日六花だった。
何故舞台裏に居るのか香澄が問う前に、六花は言葉を続ける。
「ポピパさんがライブするので!」
満面の笑みを向けられる。「ライブを楽しみにしてます!」という気持ちがひしひしと伝わってきて、ちょっとだけ香澄は照れくさくなる。
ありがとぉ、と一言いい、ニヤニヤと笑いながら香澄が照れていると、六花は周りをキョロキョロと見回した。
そして不思議そうな顔をして、六花は香澄に聞く。
「たえさんは、いらっしゃらないんですか?」
「うん。 このライブの前に、サポートギターをやってから来る予定だったんだけど……。電車が止まっちゃったみたいで」
「え、ええっ! 大変じゃないですか!」
至って普通のことのように言う香澄とは裏腹に、喜びの表情から一転した六花が悲鳴のような声を上げる。ポピパの面々よりも、六花の方が慌て始める始末だった。
「ライブはどうするんですか……? も、もしかして、やらないとか」
「ううん、やるよ。4人でも」
ーーわたしは、歌わなくちゃいけないもん。
不安そうな表情の六花とは反対に、香澄は答える。
「よ、4人でやるんですか!?」
「やるよ。私……ううん。私達は、どんな事があってもライブはする」
立てかけてあったランダムスターを、香澄は肩からかける。りみは、ピンクのベースをべべんっ、と鳴らしてドヤ顔をしている。有咲は、タンバリンを手に持ち自信ありげな表情をしている。沙綾は、ドラムスティックを3本手にして楽しげにしている。
各々個性はあるがやる気に満ち溢れており、準備は万端だった。
「た、たえさんのところはどうするんですか?」
「わたしが弾くよ。流石に裏で音源も流すけど、弾ける限り弾くつもり」
ぴーん、とランダムスターの弦を弾く。ビリビリとした振動が指先を通じて伝わってきて、この
そんな香澄達の一方で、まだ六花の表情は沈んでいる。意気込む香澄達がおかしく見えるくらいに、俯いたまま六花は言った。
「ーーこのライブって、ポピパさんの大切なライブですよね。ずっと一緒に来ていて、それなのに4人で先にやっちゃうなんて……」
「六花ちゃん」
もの寂しそうに言う六花に、香澄は声をかける。香澄の声に、六花は顔を上げた。
「わたしね、決めたの。どんな事があっても歌うって。1人になっても歌うって」
「……」
六花は、香澄の言葉をただただ聞いている。
香澄は、独白をするように言葉を続けた。
「歌われるべき歌を放り出したら、歌が可哀想だから。歌わなきゃって思うし、もう歌いたくないだなんて、言いたくないの」
「……!」
ーーなにか、思うことがあったのだろうか。香澄の紡ぐ言葉に、六花は目を少し見開く。
思いが、少し伝わっていく。
「それに、"自分のせいで"だなんて、思っちゃいけないもん。思っちゃいけないし、思わせてもいけないし」
ーーね?
後ろにいる3人を見る。頼もしい最高の仲間達は、各々が香澄に「任せろ」という意思を向ける。
これが、絶対に裏切らない最高の仲間達だ。
「……これが、ポピパさん達なんですね」
そんなことを六花は小さく呟く。その目には、小さな決意とおもいがあった。たが、まだ小さすぎて香澄達には届いていない。
ーーちょうど、前のバンドの演奏が終わったようだった。盛大な歓声が聞こえる中、こちらの舞台裏へと戻ってくる4人組を見た。
香澄をぼんやりと見つめる六花を尻目に、香澄は3人へ声をかける。
「……それじゃあ、みんな行こっか! たえちゃんの分まで、全力でいこう!」
「うむ」
「うん!」
「ええ」
声を上げる4人。居ないたえの分まで盛り上げようという気概だ。
香澄を先頭に、Poppin’Partyはステージへと向かう。