Poppin’Partyが登壇すると、歓声が沸き立った。
ステージに立ち、調子を確かめるべく各々が楽器を鳴らす。香澄はそれに加え、マイクの調整をした。
高さを整え、トントンと叩いて音を確認する。いざ始めよう……という前に、香澄は耳に付けた星型のイヤリングに触れる。
ーートクン、トクンと鼓動が聞こえてくる。星の鼓動と一緒になっていくような感覚を覚える。
ライブ前にいつもやる仕草。キラキラで、ドキドキする星の鼓動を確かめることが、香澄のルーティンだった。
右手でギターのネックを。左手でマイクを包む。息を精一杯、胸いっぱいに吸って、笑顔を作る。
「皆さんこんにちはー! 私達ーー!」
『Poppin’Partyです!』
香澄かわギターを掻き鳴らす。りみがベースを奏でる。有咲のキーボード上で音が跳ねて、沙綾のドラムがとても心地いい。そんな中で、体の底から湧き上がる"熱"があった。
「今日は、私達の音楽で全力で楽しんでいってください!」
観客からの声。声援と歓声が、客席から突き抜けてくる。
身体の中を電撃のごとく駆け巡り、香澄達の気分を高揚させる。
「じゃあ、早速ーー"ティアドロップス"!」
香澄のギターから、その曲は始まる。
アップテンポでリズムに乗りやすく、だが相応のギターテクニックが求められる曲。
いつもなら、たえのギターソロから始まる革命の歌は、普段と変わった様子を見せていた。
ーーたえちゃんの分まで歌いきる! ギターをやりきる!
そんな気概だけでメロディを弾く。細部細部のミスや抑揚は兎も角、勢いや熱量。気持ちはたえのメロディに迫るものがあった。
「ーー"離さないから"」
仲間は離さない。例えこの場にいなくても、1度繋いだ指を離すことはない。それはどこまでも、いつまでも。何よりも、何度だって。
だから香澄は歌う。歌うべき歌を歌ってこそ、今この場に居ない仲間の為になる。
"ティアドロップス"の最後。ギターソロを弾ききった香澄と、演奏を終えた仲間達に歓声が降り注ぐ。
身体の隅々にまで染み渡るこの感覚、ドキドキが止まらない。
香澄達は、勢いのままゴキゲンなライブを続ける。泣けて笑えるロックンロールを、裏切らないように歌う。
時には友愛を説き、時にはばばーんと前に出る。熱情を想いのまま叫び、清らかな集中力で至高の旋律を奏でる。
その信じ抜くアティチュードは、最高に格好良い。
ーー束の間の休憩。ほんの一瞬の、曲と曲の間で香澄たちは走る彼女"を、ステージの小窓から垣間見た。
サラサラのロングヘアーで、いつもの緑のパーカーを着た、我らがうさみみサンダーボルト!
その刹那、ステージの扉が大きな音を立てて開かれる。肩を上下させ、膝に手を当てて息をするのは、我らがギターの花園たえ。
「はぁ、はぁ……! お待たせしました!」
額に汗を垂らしながら、たえは壇上にいる仲間を見てニカッと笑った。
1度大きく深呼吸して、たえは眩いステージへと上がる。
定位置の香澄の横に来たたえに、香澄たちは声をかける。
「……おかえり、たえちゃん!」
「ただいまっす! かすみんセンパイ!」
「うさぎ殿。うさぎ殿が来るまでに、会場は温めておいたぞ」
「あはは、それはありがたいっすね。全力でやらせてもらうっす!」
「はい、タオル。……直ぐに始まっちゃうけど、平気そう?」
「大丈夫っす、沙綾センパイ! むしろ良いアップになったっす!」
「今は頭から数えて、5曲目よ。何の曲か覚えてる?」
「バッチリっす、有咲センパイ! ガンガンに行っちゃうっすよ!」
肩からギター掛ける。簡単にチューニングを済ませて、ベベンと少しスナッパーを弾く。
「……よし!」
たえは、香澄にグッと親指を立てた。それは準備完了の合図であり、Poppin’Partyのライブ開始の合図でもあった。
「……うん! 行こう!」
観客達に向き直る。ここからが、私達の音楽のスタートだ。
「……ねぇ、みんな! 最高が欲しいんでしょ!」
ーー"一緒に
沙綾のドラム、スティックの三拍子でこの曲は始まる。
「ーー"Yes! BanG_Dream!"」
さぁ、飛び出そう!
数拍の後、たえのギターは旋律を奏でる。
輝け! 飛べ! 轟け! 花園たえの電気ギター!
銀河を砕くような旋律を奏でるんだ!
「……っ!」
ギターソロを、史上の熱を持って奏でる。演奏し、次に繋げた数拍の間に、隣で歌う香澄を横目で見る。
……とても、格好良い。こんなボーカルの元演奏できるだなんて、なんて幸せなのだろうと思った。
叫ぶ、歌う、奏でる、囁く、伝える。そのどれもが、昔見たあの"神様"とチラつく。
新しいけど、懐かしいと言うのだろうか。最近は感じなかった感覚が、再発していた。
前はちょっとの憧れがあったけど。今なら自分も、香澄と"神様"の格好良いロックンロールが体現できる気がした。伝えたい事が、伝えられる気がした。
ーーそうだ。自分達は、Poppin’Partyだ。この5人とならなんでも出来る。最強で無敵で、クレバーでかっこいいこの5人なら、なんだってできるじゃないか。
「……たえちゃん!」
かすみんセンパイからの掛け声。自分の、このライブでの最後のギターソロを掻き回す。
Don't Think Feel! 想いのままに掻き鳴らせ! 狼煙を上げろ! 旗を掲げろ! 最高だと言える仲間と、最高の音楽を奏れば、想いは必ず伝わるんだ!
1音引く度に実感する。たえの思いが収束し、みんなの音と混じり合い、そして拡大する。
伝播し、観客の間を電気のように通り抜ける。想いが通じ、歓喜の声を上げる。Poppin’Partyの熱が、それに応じて強くなる。
たえは、最高の中に居た。曲が終わり、ライブが終焉を迎えてもそれは同じだった。
乱れた髪を手で掻き上げる。すべて後ろに流し、香澄達と手を繋ぐ。
ーー楽しかったね、最高だったね、またやりたいね……!
そんな思いが手から伝わる。
自分の思いも伝わってるからか、顔を合わせて笑い合う。
「……じゃあいくよ。せーの!」
ーー"ありがとうございましたー!"
ライブ後のお決まり。手を大きく振り下ろし、みんなで一緒にお辞儀をする。マイクを使わず、自分の声を直接観客達に届ける。
盛大な拍手が降り注ぐ中、たえは香澄の顔を見る。たえに気づいた香澄も、たえの顔を見つめる。
「……ありがとうございました、かすみんセンパイ」
涙を少し溜めながら、たえはニカッと笑った。