鷲尾須美に会いたかった。   作:あおい安室

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前回にも書いたんですが、
オリジナルキャラタグを使用したが、当初ついておりませんでした(遠い目)
何度か投稿と途中保存のボタンを押し間違えてまして、
投稿しようとやり直したときにうっかりタグに入れ忘れておりまして……
穴があったら埋まりたい……


鷲尾須美に恋した少年。

 やってしまった。自らの行いに気付いたのは帰宅後であった。

 

 その場で気付いていればすぐに戻って謝罪することもできただろうに。今回の出来事は鷲尾須美一生の不覚である、と頭を抱えていた。

 

 

 そもそもどうしてこんなことになってしまったのか、思いを巡らせる。

 

 

 昼食を済ませて生徒が思い思いに遊びまわる昼休み。愛読している時代劇の小説を教室で読み進めていると、友達が話がある、と言ってやってきたので一時中断。

 

「わっしー。安芸先生から伝言だよー。今度の日曜日を空けておいてほしいって」

 

 いつも通りの不思議な雰囲気とのんびりとした口調で担任からの伝言を伝えたのは乃木園子。通称そのっち。

 

「日曜日?別にいいし何があるかは想像がつくけれど……でも、週明けに小テストがあるわよ。今度は難易度を上げるって先生が言っていたし勉強もしておかないと危ないわよ」

 

「うえっ、勉強かぁ……どうせやってもやらなくても、アタシの点数は大差ないと思うし別にいいと思うんだけどなぁ」

 

 元気いっぱいの肉体派であるためか勉強が苦手であり、やる気がない発言をする三ノ輪銀。この二人とは一緒にちょっとした御役目をこなしているのだが、今回の話には関係ないため省略する。

 

「よくない。放課後皆で勉強会をやるわよ。前と同じ図書館でいいかしら」

 

「はーい。須美先生のや・さ・し・い個人授業の時間だなー」

 

「ちょっと銀!?そんないかがわしい勉強なんかしないって前にも言ったでしょ!」

 

「衣装、また手配しておくね。多分放課後までには届くよ~」

 

「着ません!絶対に着ないから!」

 

 以前の勉強会でなぜかそのっちが用意した伊達メガネ、シャツ、ミニスカートの三点セットを着ることになり、女教師鷲尾須美をやらされたことがある。コスプレ自体はそれなりに楽しかったし勉強も進んだからいいのだが、せめて、教えて!須美せんせーとか普通のタイトルにしてほしい。

 

 そんなこんなで放課後は三人で勉強会――衣装は本当に届いたけど着なかった――をしていた。

 

「……うん。やるじゃない銀。模擬テストの点数が87点よ。やればできるじゃない」

 

「へへー。三ノ輪銀様が本気を出せばこんなもんよ!ま、須美の教え方が上手かったのが一番の理由だけど。ありがとなー、須美。このお礼はそのたわわな桃のマッサージで」

 

 ノートでしばいた。女教師セットに紛れていた出席簿レプリカじゃないのは慈悲である。

 

「あ、そろそろ家に帰らないとだ。それじゃあまたね、わっしー、ミノさんー」

 

「ええ。またねそのっち」

 

「うう……割と痛かった……」

 

 頭を抱える銀を横目に図書館中からかき集めた勉強の本を返却しに行く。量は多いが、今日の銀は結構勉強を頑張っていたのだ。少しくらいは休ませてあげようという考えだった。

 

 そして、本を返却して席に戻る途中で、偶然見つけてしまった。

 

 開きっぱなしの第二次世界大戦に関する本、散らばった文房具の中心には破り取られたノートの一ページに描かれていたのは私もよく知っている大日本帝国の名戦闘機、零式艦上戦闘機。

 

「これは……鉛筆で書かれた物ね」

 

 思わず手に取ってその絵を眺める。開かれていた本には零式艦上戦闘機の写真があり、それを模写したものなのだろう。線がゆがんでいる箇所や、装飾が足りていない点が気になるが十分上手に描けている。一体誰が書いたのか気になるがそれらしき人物は周囲に見当たらない。

 

「須美ー。ずいぶん遅かったけど何やってんだ?」

 

 背後から声をかけられて驚く。帰り支度を済ませた銀だった。その手には私の分の荷物も持っていることから心配して探しに来たのだろう、と想像はついた。

 

「ちょ、ちょっとね。ここに本とか置きっぱなしにしている人がいたから気になったのよ」

 

「ふーん。多分トイレとか用事でいないんだろ。ほら、アタシたちも早く帰ろうぜ」

 

「ええ、そうね。荷物ありがとう、銀」

 

「ま、これくらいはしないとなー」

 

 にいっと笑う彼女は相変わらずだな、なんて考えながら荷物を受け取り、帰路に就いた。作者不明の絵を咄嗟にポケットにしまい込んだままであることに気付いたのは、入浴直前だったため洗濯して絵を処分しなかったことはせめてもの救いか。

 

 

 ……一体、どうすればいいのだろうか。

 

 

 幼かった頃の私が、鷲尾須美が悩む姿を東郷美森は傍観していた。

 

 

 


 

 依頼主に会うと決めた日の晩に、それに関連する記憶を夢を見たのはただの偶然だろうか。東郷美森は依頼主がいるという商店街へ向かいながらぼんやりと考えていた。

 

 ほんの少し前まで小学生で、鷲尾須美であった頃の記憶は東郷美森にとっても懐かしい。

 

 とある出来事がきっかけで命を落とした友達……いや、そのっちと同じズッ友である三ノ輪銀の姿を見れたこともいくらか気分を晴らしてくれたが、自分が絵を盗んでいたという事実はやはりショックだった。問題はその絵をどうしたのか思い出せなかったことなのだが。

 

「私が描いた絵は全部管理しているし、鷲尾須美だった頃に描いた絵も今は手元にある」

 

 けれど、夢で見たあの絵はどこにもなかった。

 おそらくあの出来事の後に依頼主へ返却したのだろうか。その辺も含めて聞いてみればいい。そうだ、そうしよう、と頷いているとバスが商店街前に到着したので降りる。さて、依頼主はこの商店街にあるホテルにいるとメールにあった。もう一歩きしよう、そう思って足を踏み出す前に。

 

「……あのー」

 

 商店街のゲート前にいる人に話しかけた。なお、その人はそれはどう見ても依頼主ではなく。

 

「そのっち?なにやってるのかしら」

 

 帽子にサングラス、マスクとジャージとどう見ても不審者スタイルな私のズッ友だった。

 

「……ふあっ!?んんー……あ、わっしーだ。おはよ~」

 

「お、おはよう。もしかして寝てたの?」

 

「うん……わっしーがいつ来るのかわからないから珍しく早起きしたんだけど、目蓋がすっごく重いんよ……」 

 

「そ、そう。立ったまま寝るなんて器用ね……」

 

 ほんの少しだけ呆れていると、そのっちはサングラスとマスクを外して顔をぺちぺち、と叩いて眠気を飛ばそうとしていた。ちょうどいいか、と持ってきていたお茶も渡す。

 

「わっ、ありがとうわっしー。……あ、熱くて苦いんよ……」

 

「今朝入れたての緑茶よ。眠気にも疲れにもガツンと聞く特性の逸品なんだけど、どうかしら」

 

「んー……んっ!うん、元気満タン100%だよー!」

 

 それは良かった。で、どうしてここにいるのだろうか?

 

「わっしーが依頼人に会うかどうかわからなかったけど、多分来るんじゃないかと思ってて。それで実家の方に頼んで依頼人の個人情報調べてもらったんよ。参考になるかも」

 

「そ、そう。ありがとう……でいいのかしら?」

 

「それじゃ、これをプレゼント~。通ってた学校、授業の成績と評判、部活動での活躍以外にも最近買ってた本や漫画、お気に入りのテレビ番組までバッチリだよー」

 

「待って、そのっち。そこまですると犯罪じゃないかしら」

 

「……ゆーゆにGPS仕込んでるわっしーがそれを言う?」

 

 あれはいつでもどんな時でも友奈ちゃんのピンチに駆けつけ、かっこよかったり可愛い場面を撮影するために必要な手段だから必要なことよ、そのっち。とりあえず納得させると、依頼人についての資料を速読して記憶。流石にこれをもって会いに行くのは危険なのでそのっちに返した。

 

 依頼人は私の一つ下で今は讃州市外の学校に通っている中学一年生。小学校は私と同じ神樹館小学校で成績は良く言っても中の上くらい。写真も見たが……見覚えは、なかった。

 

 それとどう見ても不審者なそのっちは多分このまま私を尾行してきそうなので帰るように指示した。不満をぼやいていたけど流石に今回はやめてほしい。

 

 

 

 商店街の中央辺りにある宿泊費も控えめな小さなホテル。メールによると依頼主はなるべく一階のロビーで時間をつぶすようにしてます、とあったので早速ホテルに入る。入ってすぐそばにあったロビーには早朝だったがそこそこ人の姿があった。

 

 今日はどこで遊ぶか話し合うカップル、体をバキバキと鳴らしながら背伸びするサラリーマンに紛れて、一人の少年が隅の方に座ってノートに落書きしているのが見えた。あの子だろう。

 

 緊張故か少しだけ早くなる鼓動を感じながら、足を進めて。

 

 少年が持っているあるものに気が付くと慌てて近寄る。突然目の前に立った人物に少年が驚くも、反応する前に私は彼が咥えていた物を奪い取った。

 

「何をしているんですか」

 

「……えっ?……あっ……」

 

「あなたはまだ中学生ですよね?」

 

「あ……は、はい。中学一年生、です」

 

「なのになんでこんな物を吸っているんですか」

 

 奪い取ったものは少し茶色い棒。少年の手にはそれらしき箱もあるしタバコだろう。未成年どころか中学生だというのに喫煙していたというのか。こんな人が私に恋していたとは……頭が痛くなりそうだった。しかし、少年はそれを見て首をかしげるだけであり、

 

「えーっと、そのー……再現してる?」

 

「再現?何をですか」

 

「それ、お菓子だよ」

 

「……えっ?」

 

 手の中にある棒を確認する。棒状のラムネ菓子だった。少年が持っている箱にはココアシガレット、と書かれていたがあれは前に友奈ちゃんと一緒に行った駄菓子屋で見たことがある。

 

「前にもタバコみたいな感じで咥えてたら怒られたことがあるんだけど……」

 

「……お、怒ったの私?」

 

「その後紛らわしいことをするなーって怒って説教してきた」

 

「え、えっと、その……紛らわしいことはやめてください!」

 

「怒り方全く一緒だ。あの時は説教が長引いたから映画の時間に間に合わなくて、二人で慌てて走ったっけなぁ。今日は時間はあるし別にこの後説教してもいいんだけどね」

 

 やりかねない。時間を忘れて説教する私の姿が安易に想像できた。私は昔から変わっていなかったのか、と少しだけショックを受けていると。

 

「……うん。やっぱり、鷲尾さんだ。別人かと思ったけど、変わってない部分がちゃんとあった」

 

 あはは、と。少年は嬉しそうに笑って。

 

「三ノ輪さんのことがあったから、突然鷲尾さんが突然いなくなった時は……すごく不安で、死んでしまったんじゃないかと思ったけど、真偽を確かめられなかったし」

 

 写真にはなかった眼鏡をはずして目元をぬぐう。

 

「こうして会えたのが嬉しくて……ちょっと恥ずかしいけども。久しぶり、鷲尾さん」

 

 眼鏡をかけなおして微笑む少年からは喜びが伝わってきた。

 

 ……だけど。それがとても心苦しかった。私は彼に事実を伝えなければならない。

 

 胸の奥の痛みを抑えるかのように手を当てる。深く息を吸って心を整えると、口を開いた。

 

「ごめんなさい。私はあなたとは久しぶりじゃないの」

 

「……えっ?」

 

「はじめまして、になるのよ」

 

 驚いて問い詰めようとする少年を静止して、言葉を続ける。

 

「私は少し前に事故にあって記憶を失ったの。特に神樹館小学校にいた頃の記憶はほとんど失っていて、あなたのことも勇者部にメールを送られてくるまで全く覚えてなかった。記憶は少しずつ戻ってきてるけど、あなたとの記憶はまだ戻っていないし、名前もまだ知らないの」

 

 これは少しだけ嘘だ。メールに彼の名前はなかったが、そのっちからもらった資料でつい先ほど名前は聞いている。それを言ってしまえば不信感をもたらすため黙っておく。

 

「こんな私があなたに会うべきかどうかは悩んだ。けれど、大切な……あなたが初めて恋した女の子を失った現実と向き合い続けるよりはずっといいと思って、ここに来たの」

 

「だから……今日はあなたに教えてほしい」

 

 あなたが恋した鷲尾須美は、どんな女の子だったのかを。

 

「辛い答えかもしれないけれど、今の私にはこの答えしか出せなかった。怒ってくれてもいいし、罵られても仕方ないとは思ってる……それでも、私はあなたのことを知りたいの。お願いします」

 

 残酷な答えだということはわかっている。こんな答えしか出せない自分が少し情けなかった。それでも勇気を出して伝えたその答えは、少年の驚きと戸惑いを止めることくらいはできて。

 

 しばらく考えた少年は私の目を見て答えを返す。

 

「鷲尾さん。ちょっと僕の主観が入る部分もあるし、当時の鷲尾さんについては予想するしかない部分もあると思う。それでもよかったら聞いてもらえるかな」

 

「……ええ、もちろん!」

 

 肯定する言葉を聞いて曇りつつあった少年の表情が晴れた。

 

「そうね。まずは最初にお互い自己紹介をしましょうか。私も神樹館小学校にいた頃は鷲尾家の養子だったから、今は名前が違うのよ」

 

「と、いうことは……今は鷲尾さんじゃなくて東郷さんかな?」

 

「ええ。今の私は東郷美森、っていうのよ。東郷を知ってるということはもしかすると記憶を無くす前の私から聞いていたのかもしれないけれど」

 

「確かに東郷については教えてもらったけれど下の名前は今初めて聞いたよ。いつかあなたに心を許す時が来たら教えてあげます、って言ってたかな」

 

 少し恥ずかしいけれど、私らしいわね。白い肌が熱くなるのを感じつつ笑った。

 

「そういうことならこれからは東郷さんって呼んだ方がいいかな」

 

「鷲尾さんでも構わないけれど、あなたの好きな方で大丈夫よ。それで、あなたの名前は?」

 

「高嶋――。平凡な名前だから苗字の方でいつも呼ばれてた」

 

「なら、あなたのことは高嶋くんね」

 

「そうなるね。あの頃もそう呼ばれてたよ」

 

 私にそう呼ばれたことが懐かしかったのか、目元に涙が溜まっていた。意外と涙もろい子なのかしら、とクスリと笑うと少年は不思議そうに首をかしげていた。なんでもないわ、気にしないでと返すと少年は首を傾げつつも「さて、どこから始めたものか」と悩み始めた。

 

 

 まずは零式艦上戦闘機の絵について、話を聞いてみよう。

 

 

 

 

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