Infinite Stratos Another 作:来迎 秋良
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。
この国では不慣れな事も多いですが、皆さんよろしくお願いします」
という転校生の一人の『男子』。
最近になってようやく僕と一夏の二人が男性として来たばかりなのに、
また新しい男性IS操縦者……どういうことなんだろう。
「お、男?」
誰かがつぶやく。そりゃ信じられないだろうね。
「はい。こちらに僕と同じ境遇の人が居ると聞いて本国より転入することになりました」
彼はそう言って、つぶやいた子に微笑む。
人懐っこそうで、中性的な顔立ち。輝く金髪を首の後ろで丁寧に束ねている。
小柄な体はともすれば華奢なほどスマートで、
すらっと伸びた手足はそこそこ鍛えられている。
そんな彼に微笑まれた女子は、撃沈。真っ赤になって机に突っ伏した。
「きゃ……」
「はい?」
あ、やばっ!
「一夏、耳ふさげ!」
「え?」
僕は一夏に忠告し、素早く耳をふさぐ。
その直後、また教室が『爆発した』。
「「「「「きゃあああああああああああああああああーーーーー!!!!!」」」」」
お、おおぅ、耳が~。
音響兵器とは、こういうものか……うん、チガウヨネー。
女子たちの叫びは、教室の中心から一瞬で教室全体に伝染し、
教室内がパニックに陥った。ちなみにのほほんさんは寝てる。
「あ~騒ぐな、静かにしろ」
わお、さすが織斑先生。ぼやいただけで女子の歓声が止まった。
「で、ではもうひとりの転校生さんに自己紹介してもらいます」
山田先生、お疲れ様です。
もうひとりの転校生も、デュノアくんと並ぶくらい目立つ外見だった。
ただ、目立つの方向性がすごい方向に行ってるけど。
「……」
本人は無言で居るけど、その立ち居振る舞いから軍人じみた雰囲気がある。
腰近くまで伸ばした、長くてキレイだけどただ伸ばしているといった風な銀髪に、
女子の中でも背が低めの彼女にピッタリ合い、軍隊の制服風にアレンジされた制服。
そして一際異彩を放っているのは、左目の眼帯。
それも医療用の物ではなく、それこそ軍用の黒眼帯をつけている。
眼帯に隠れていない彼女の赤い瞳は、
絶対零度の視線を持って僕ら生徒を睨んでいる。
「……挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
「ここではそう呼ぶな。私はもう教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。
私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
彼女……ラウラさん?は伸ばした手を体につけ、背筋を伸ばす。
しかも織斑先生を『教官』って呼んだって事は、
ドイツで教官をやっていた時の教え子かな。
体に無駄な筋肉が無いし、身のこなしも完璧。バッチリ鍛えられている感じだ。
片目というハンデも無く、距離感もつかめているらしい。
……なんだろう、どことなく、彼女から変な雰囲気を感じる。
同じ存在と言うか、自分に近い感じがする。
僕がそんなことを考えていると、彼女は一言。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
……それだけ、なのか。他の女子たちも待っているけど、一向に口を開かない。
「あ、あの……以上ですか?」
「以上だ」
今日の山田先生は不憫だな……今度料理でも持って行ってあげよう。
で、ボーデヴィッヒさんは一夏を睨むと、つかつかと一夏に歩み寄る。
そして……いきなり平手打ちを一夏に浴びせようとした。
「あ……?」
「邪魔をするな、もう一人の男子」
僕が止めたから、未遂で済んだけどね。
「悪いけどそういうわけには行かないよ、ボーデヴィッヒさん。
まず理由を説明してもらえるかな?」
そういったけれど、そのままボーデヴィッヒさんは僕を締めにかかる。
「危ないな……っと、おりゃっ!」
「なっ!?」
僕は、右腕を締め上げられそうになったのを『右肩を外して』抜け出すと、
ブラブラしている右腕を放置して左手でボーデヴィッヒさんの腕を掴み、
左腕と右足で彼女を机に組み伏せた。
「く、何をする!離せ!!」
「さっきのとこで止まってれば素直に聞いたんだけどね……甘いよ。
さて、戦闘力を削ぐには間接を壊しておけば良いんだったか、ドイツの軍人さん」
僕は声にドスを効かせてぼそりと語りかける。
ボーデヴィッヒさんが凍りついたところで、織斑先生が僕に出席簿チョップ。
「やりすぎだ、聡里」
「すいません千ふ、織斑先生。頭に血が昇ってました」
僕は言いつつ、外してブラブラしていた肩を戻す。
「っ痛……コレ、戻すの結構痛いんだよ?」
僕はボーデヴィッヒさんに言いつつ席につく。
彼女はこっちを『強敵』と認識したのか身構えたままだけど。
「あー、ゴホン。ではHRを終わる。
各人はすぐ着替え、第二グラウンドへ集合しろ。
今日は二組とIS模擬戦闘を行う。解散!」
その織斑先生の言葉に促され、
一夏はかなり困惑しているみたいだけどとにかく移動しなきゃいけなくなった。
まあ、このままだと女子の着替えを見る羽目になっちゃうし。
◇
僕らが移動しようとすると、織斑先生に声を掛けられた。
「おい織斑、聡里。お前らでデュノアの面倒を見てやれ。同じ、男子だろう」
……ん?男子ってとこで言い淀んでた?まあ、いいか。
「君達が織斑君と篠ノ之君?初めまして、ボクは……」
「っとゴメン、言ってる余裕無いんだ。急がないと遅れちゃうよ」
僕はデュノアくんの手を掴んで廊下を急ぐ。
「え、ちょ、ちょっと!?」
「ゴメンね。男子は開いてる更衣室まで行かなきゃいけないんだ。
これから授業のたびにこの移動になるから、覚えておいて」
「う、うん……」
ん?なんか落ち着かなさそう。
「大丈夫?様子がおかしいけど、具合でも悪いの?」
僕が聞くけど、別に、と返された。
で、僕ら三人は階段を駆け下り、一階に着いたところで『その集団』は現れた。
「ああっ、噂の転校生発見!」
「しかも男子三人揃ってるわよ!!」
と、各クラスから質問攻めのエースが登場、僕らの行く手を阻む。
「あっちゃぁ、ちょっと遅かったか……一夏!先行って!僕らは回り込むから!」
「悪い聡里、恩に着る!!」
と、僕は一夏を逃がしてからデュノアくんを引っ張る。
「いた、こっちよ!」
「者ども、出会えであえ!」
時代劇の見すぎ!
というか、台詞がモロ悪代官かそこらじゃないか!?
「織斑君たちの黒髪もいいけど、金髪もいいわね」
「しかも瞳はエメラルド!」
「それを言うならアメジスト!」
条件反射でツッコミを入れつつ、デュノア君の手を引き人ごみの間を駆け抜ける。
「な、何?篠ノ之君、なんでみんな騒いでるの?」
「ああ、一夏と僕、それとデュノア君は世界でただ三人の男性IS操縦者だから。
みんな珍しがってるんだよ。……ってうわ、女子がスクラム組んでる!?」
そう、各クラスの女子たちがアリーナ更衣室前の廊下の左右で待ち構え、
僕らを待ち受けていた。
「ああ、もう!しょうがない!ちょっとゴメンよ、デュノア君!」
「え?わぁっ!!」
デュノア君に謝ってばっかりだな、僕。
僕はデュノア君の軽い体を横抱き……俗に言う『お姫様だっこ』で抱きかかえ、
横一列の女子の上を飛び越え、更衣室のドアの前に着地した。
「うっそぉ、聡里くんすごい!?」
「か、かっこいい……」
「ていうか、誰かを抱いてる姿が絵になるわね~」
と、女子たちはもはや呆然としているらしい。
僕は、デュノアくんを優しく降ろして女子たちに宣言。
「お褒めに預かり光栄だけど、流石にコレはいただけないね。
今度からもうちょっと、やり方を考えてくれるかな。
そういう無理やりなやり方、僕は嫌いだな」
僕は冷ややかな目で彼女たちを見て、デュノア君を押して更衣室に入った。
ちなみに女子達がその後、荒っぽい質問攻めをしなくなったのはまあ、当たり前かな。
その背景に『しつこくすると男子に嫌われる』という噂があったのは、また別の話。
◇
「ふぅっ、遅くなっちゃったね。さて、急いで着替えないと」
僕は言いつつ、急いで服を脱ぎ始める。
けれど、デュノア君は着替えようとしない。
「あれ、デュノア君着替えないの? 時間ギリギリだから、急がないと」
と僕が言うけど、もじもじして着替えようとしない。
あ、もしかして見られてると着替えにくいタイプなのかな。
「ゴメン、僕が居ると着替えにくいんだったら、僕は向こう側で着替えるよ。
終わったら言って」
僕はいい、デュノア君とはロッカーをはさんだ反対側に行った。
そして十数秒後。
「ボクは終わったよ」
「はやっ!?」
デュノア君は物凄い速さで着替えてた。
「早いんだね。僕はもうちょっとかかるから、待っててくれる?ちょっとこの服、
体にピッタリだから着づらくって」
僕が言うと、デュノア君は黙ってしまった。なんなんだろう。
「……よし、着終わった、っと。お待たせ、デュノア君。
男子がこの広い学校で二人だけだと、いろいろ大変でね。
これからよろしく。僕は篠ノ之聡里。聡里って呼んでよ」
「うん、よろしく聡里。ボクのこともシャルルでいいよ」
「わかった、これからよろしく、シャルル」
と、こんな感じに挨拶を交わし、僕ら二人は急いで移動した。
◇
その後。ギリギリで第二グラウンドに滑り込んだ僕らは、なんとか怒られずに済んだ。
「せ、セーッフ……どうにか間に合った」
「いつもこんな感じなの、聡里?」
「いつもはもっと楽なんだけどね、今日はシャルルが転校してきたから特別さ」
「あはは……すごい大変なんだね」
シャルルは苦笑い、僕も苦笑いで返し、授業を受ける。
「では、本日から格闘および射撃を含む実戦訓練を開始する!」
「「「はい!」」」
二組の女子もいるから、返事の声の大きさも二倍。
いや、どうやら真っ先にシャルルに会えたから二倍じゃ済んでないらしい。
「くうっ、何かといえば人の頭をぽんぽんと……!」
「一夏のせい一夏のせい一夏のせい……」
一夏と喋っていて叩かれたセシリアと鈴は一夏に恨みの念を送っている。うわぁ。
「今日は戦闘を実演してもらう。ふむ……オルコット、鳳!お前らが実演してみろ!」
「え、アタシ達ですか?」
「何でわたくしまで……」
二人がさっきおしゃべりしてるからだよ。
「ああ。専用機持ちならさっさと始められるだろう。準備しろ。対戦相手は……」
そう言ったとき、上空から『キィィィンッ』と馴染みのある風を切る音がした……え?
「あああああっ、ど、どいてくださぁぁぁぁいっ!!」
「「えええっ!?」」
僕らに向かって落下してくる一機のISが。
操縦者は……山田先生。
「っく、一夏、手伝って!」
「お、おうっ!」
僕は急いで宵闇を展開して飛び、落下してくる山田先生をキャッチ。
そしてISの勢いをできるだけ殺し、地面と平行に勢いのベクトルをずらす。
「一夏!」
「任せとけ!」
と、地面と平行になるように勢いが変わった山田先生を、
白式を展開した一夏が数メートル滑りつつしっかりとキャッチ。
「ふぅ……なんとか間に合った。山田先生、大丈夫ですか?」
「ふあぁ……織斑君、かっこいいです……」
「あれ、先生、せんせーい?」
「あ、はい。すみません!織斑君、ありがとうございます」
山田先生はあわてて一夏から離れてお辞儀。
やれやれ、とうとう教師まで撃沈させちゃった。
その時、一夏が身の危険を感じて頭を後ろにそらすと、
さっきまで一夏の頭があったところをレーザーが通り過ぎていった。
「あら残念、外してしまいましたわ。うふふふ……」
そう言ってライフルを量子変換するセシリア。
そしてその反対側では、鈴がISの近接用武器『双天牙月』を連結して振りかぶり、
一夏に投げつける!
「うぉわっ!?」
ためらい無く行ったなー、一夏はのけぞって回避……って返ってきたのが首に来てる!
もうちょっと手加減しなよ、危ないッ!
「「はっ!!」」
ドドンッ!
僕がすかさず拡張領域から取り出した銃剣付きライフル『疾風』と
山田先生の手にあるアサルトライフル『レッドバレット』の弾丸が、
双天牙月を弾き飛ばし一夏をガードした。
「山田先生、サポートありがとうございます」
「いえ。でも聡里くんすごいですね。あの速度で展開して正確に刃だけ狙うなんて」
「いえいえ、同じことを身を翻しながら実行できる山田先生こそすごいです。
僕なんてまだまだですよ」
僕と先生がそう言いあっていると、織斑先生の怒号が飛んだ。
「お前ら、いつまで喋ってる!試合を始めるぞ!」
「え、でも二対一で……」
「安心しろ、お前らならすぐ負ける」
と、織斑先生の一言でカチンときたのか、
二人は意気込んで飛び出し、戦闘が始まった。
「さて、山田先生が使っている機体を解説してみろ、デュノア」
あ、彼の家の会社の機体だからだろうな。
「はい、判りました。
山田先生が使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイブ』です。
第二世代開発最後期の機体ですが、
そのスペックは初期第三世代型にも劣らないもので
安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴です。
現在配備されている量産型ISの中では最後発でありながら
世界第三位のシェアを誇り
七カ国でライセンス生産、十二カ国で正式採用されています」
やっぱり詳しいな、シャルルは。
「よし、そこまででいい。では、リヴァイブの特徴を言ってみろ、聡里」
「了解です」
僕は指名されて、解説を始める。
「リヴァイブの特筆すべき点は操縦の簡易性。
これにより操縦者を選ばず多様性役割切替(マルチロールチェンジ)を両立している。
装備により格闘・射撃・防御など全タイプに一瞬で切替可能で、
参加サードパーティーが豊富な事でも知られている。
主に、射撃や高速切替(ラピッドスイッチ)を得意とする操縦者が好む傾向にある」
僕がここまで説明したとき、織斑先生から待ったがかかった。
「よし、そこまででいい。終わるぞ」
と先生が言った瞬間、上空から折り重なるようにセシリアと鈴が落ちてきた。
「あ、アンタねぇ……回避先どんだけ読まれてるのよ!」
「り、鈴さんこそ!無駄に衝撃砲を乱射するからいけないのですわ!」
「ぐぐぐぐっ……!」
「ぎぎぎぎっ……!」
竜虎合間見える……というか、雰囲気的には猫の喧嘩?
そのあと織斑先生が手を叩き二人の喧嘩を止め、
専用機持ちを中心としてグループ実習をする事になった。
「じゃあ、とりあえずグループを決めようか。
そうだな……七人を四列、六人を二列作ってくれるかな」
僕が言うと、2クラスの生徒がざわつきながら並んだ。
「それじゃ、僕が勝手に決めさせてもらうよ。
じゃないと、君達絶対まとまらないでしょ」
僕が言うと、ばつの悪そうな顔をする生徒がかなりの数居た。
「それじゃ一番前から順番に、
僕、セシリア、鈴、一夏、シャルル、ボーデヴィッヒさんの順番でついて」
一応、僕と一夏、転校生二人についてはきちんと理由がある。
僕はある程度仲が良いのほほんさんたち三人がいるから。
一夏は箒姉さんがいたからで、
転校生二人は転校してきたばかりだから、人数の少ない六人グループを任せる、
という判断なんだけど……ま、なるようになるさ。
僕の指示を見て、織斑先生も納得したらしかった。
……というか、自分で指示するのが面倒だったんじゃないだろうな、織斑先生。
「よし、分かれたな。では、山田先生の指示に従い訓練機を受け取れ」
といわれて、僕はグループで希望を聞くことにした。
「う~ん、じゃあこの中で、射撃が格闘より得意な人、挙手!」
僕が聞くと、なんと全員がそうだった。
「なるほど、全員射撃か。となると、リヴァイブがオススメ。
打鉄は格闘向けに機体が作られてるから。それでいいかい?」
「「「はいっ!!」」」
グループの全員からオーケーを貰った僕は、リヴァイブを受け取りに行く。
勿論、女子に力仕事をさせるわけには行かないから僕一人で。
受け取りに行ったのは僕の班が最初で、ラストは一夏の班だったらしい。
一夏はこんなとこでも煮え切らないな……
「よし、それじゃ機体も持ってきたし、出席順に乗ってみようか。じゃあまず……」
と僕が言ったとき、一人の女子が飛び出してきた。
「はいはいはいはいっ!出席番号一番、相川清香!ハンドボール部!
趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!」
「ああ、最初は相川さんか、よろしく。でもなんで自己紹介まで?」
「まぁまぁ、それじゃ、よろしくお願いします!」
と、お辞儀して手をこちらに突き出してくる。え?握手?
「ああっ、ずるい!」
「私も第一印象から決めてました!」
と、グループの女子たちが横一列にならんで握手を求めてきた。
一夏やシャルルのところでも同じような事態になってしまっていた。
「もう、君達、ちょっと落ち着いて。ね?
今は授業中、真面目にしとかないと。ほら、織斑先生も睨んで来てるし」
僕が言うとおり、
後ろで僕ら男子三人のグループを見た織斑先生がこっちを睨んでいた。
グループのメンバーもそれに気付いて慌てて普段どおりに戻り、
僕はようやく訓練を始めた。
「それじゃ、始めようか。相川さんは今まで、確か五回動かしてたはずだよね」
「うん。そんなことまで覚えてるんだ、すごいね」
「ん、まあね。さて、それだけ動かしてたら大丈夫。
そのまま起動して、歩いてみようか」
それで相川さんの装着、起動、歩行とつつがなく進み、そして交代。
その交代の時にトラブルが発生した。
「あちゃー、これじゃ届かないね」
相川さんが降りるときに、かがませた状態じゃなく直立状態で解除してしまったのだ。
操縦を交代する場合、かがませないと乗りにくいから失敗といえる。
「あっ、ゴメン聡里くん。忘れてた」
「その謝罪は次の子に。でも、となると……次は谷本さんだったよね。ほら、おいで」
と谷本さんを手招き。それでこっちに来た谷本さんを僕はお姫様だっこで持ち上げる。
「きゃっ、ちょっと聡里くん!?」
「わわっ、暴れないで。このまま装着位置まで連れて行ってあげるよ」
そういって微笑むと、安心したのか暴れるのをやめた。
……ほほが赤くなってるけど、熱でもあるのかな。
その後もみんな立たせた状態で降りるから、僕は大忙しだった。
一夏とシャルルのところもそんな感じらしい。
そんな感じで進み、最後はのほほんさんの番になった。
「さとりん、よろしく~」
「うん、のほほんさん。それじゃ、よっと」
僕はのほほんさんを抱き上げ、装着位置に連れて行った。
「動かし方、判る?」
「だいじょーぶだってば」
と、起動と歩行を危なげなくこなし、降りるとき。
「あっ!」
のほほんさんは足をひっかけて、結構な高さのISの操縦位置から落ちてしまう!
「危ないっ!」
僕は叫び、のほほんさんと地面の間に滑り込もうとする。だけど。
「く、宵闇が大きすぎる!IS、展開解除!」
僕は展開を解除し、生身でのほほんさんを受け止めた。
地面とのほほんさんの間でサンドイッチ。
「ぐっ!?」
「わわっ、さとりん大丈夫!?」
「へ、平気へーき。のほほんさん軽いし、どーってことないよ」
と、僕は立ち上がって微笑みかける。
で、どうにか授業も終わり僕はリヴァイブを返却、
着替え終わって帰るときシャルルに声を掛けた。
「シャルル、お昼、何か用事ある?」
「え?ううん、暇だけど」
「良かった。じゃ、僕とお昼食べようよ。一人で食べるのは何かと大変でしょ?」
「そう、だね?ありがとう。それじゃ、どこで食べようか……」
シャルルが言ったとき、一夏が僕らに声を掛けてきた。
「あ、聡里に、シャルル、お前らもメシか?」
「うん。僕がシャルルを誘ったんだよ。でも、どこで食べようかなって」
「ああ、それなら俺たちと食おうぜ。丁度良い」
それを聞いた僕は、さすがに疑問を持った。
「え、良いの?」
「良いって良いって。人数は多いほうがいいだろ、ほら、行くぞ」
といって一夏は僕らを置いて行った。
「待ってよ一夏!シャルル、急いで追いかけよう!」
「聡里も、廊下は走らない方がいいよ」
と僕はシャルに注意されて競歩レベルの歩きに移行しつつ一夏を追跡した。
で、一夏が着いたのは屋上。そこには、セシリアと鈴、そして箒姉さんが居た。
「「「どういう事なのだ(なの)(なんですの)、一夏(さん)!!!」」」
「いや、昼飯は大人数で食った方が楽しいだろ?」
……成程、状況は理解した。
で、みんなで料理を食べる事になったらしいんだけど、
姉さんたち女子三人がみんなして一夏に食べてもらおうと弁当を作ってきてた。
「で、箒。そろそろ俺の弁当をもらえるか?」
「……」
「箒姉さん。一夏が呼んでるよ」
僕が声を掛けると、「びくっ!」とばかりに姉さんは肩を跳ねさせ、無言で弁当を渡す。
「おお、これはうまそうだな!……ん?箒、どうしてそっちには唐揚げが無いんだ?」
あ、たしかにから揚げが一夏のにしかない……ああ、なるほど。
「し、仕方ないだろう。上手くできたのがそれ位しかなかったのだ……」
というつぶやきは一夏には聞こえなかったようで、
一夏は気にせず美味しく食べていた。
で、次は鈴の酢豚なんだけど。
「……鈴」
「何よ聡里」
「なんで一夏の酢豚を温めて来なかったの?」
「こ、これはその……アタシの分だけで十分でしょ!」
なんとなく狙いは読めたけど、むしろ得点下がってる気がするなぁ。
そして、美味しくない料理世界一国家こと、イギリスの代表候補生・セシリアである。
「う……じゃあ、いただきます……」
と、セシリアのサンドイッチをぱくりと食べる一夏。
うわぁ、目に見えて顔が青くなってる……
「う゛」
「一夏!? セシリア、味見、してみた?」
「一夏さんに最初に食べて欲しかったので、しておりません。
でも、本と同じに出来たので完璧ですわ!」
なるほど、それで見た目は完璧なのか。
ってそうじゃなくて!
「あ゛~。じゃあ、一夏も食べた事だし一つ味見してみたら?
自分の作ったものを食べるのも、料理の楽しみの一つだよ」
僕が言うと、セシリアは納得しサンドイッチを一口食べる。
すると……真っ青になった。
「あ……」
ちょ、口からエクトプラズマ(魂)出てる!!
「「セシリア、帰って来て!!」」
僕とシャルルで必死で揺さぶり、どうにか現世に呼び戻した後、セシリアは
「一夏さんにあのような産業廃棄物を食べさせてしまうなんて……
もうわたくしはお終いです」
と、虚空を見つめ言っていたので僕は料理を教えるからとどうにか慰めた。
で、この光景を横で改めてみたシャルルがくすりと笑って一言。
「ねえ、聡里。
今の一夏ってまるで孫夫婦の一家団らんを眺めてるおじいさんみたいだね」
ああ、たしかに!
「言われてみればそうだね。じゃあ僕らは、それを見てる息子夫婦って所かな?
シャルルならよく気が付くし、良いお母さんになれそうだね、ふふっ」
と僕が冗談めかして言うと、なぜかシャルルは赤くなった。
……ずっと気になってたけど、シャルルってもしかして?
ちょっと、話し合ってみようかな。
◇
で、午後の授業も終わって放課後、
僕は一夏・シャルルと相談して僕がシャルルと同室になった。
織斑先生には『転校生にいろいろ説明する』という理由を言ったけど、
真意はまた別のところにある。
「それじゃ、あらためてよろしく。シャルル」
「うん、よろしくね、聡里」
僕はシャルルに改めて挨拶をし、日本茶を出した。
「紅茶とは随分違うんだね。不思議な感じだけど、美味しいよ」
ああ、シャルルは日本茶とか始めてなのか。
「そうだね、でも元々は日本茶も紅茶も同じなんだよ。
紅茶がたしか全発酵茶って言って、茶葉を酸化させて赤色のお茶にするんだ。
で、日本茶の代表、緑茶は発酵させずにいれるんだ。
だからあんなに苦味が強いんだよ」
とお茶について説明すると、シャルルは感心したようだった。
「へぇ、聡里って物知りなんだね。
そういえば、日本には『マッチャ』って言うお茶があるんだよね?
聡里もいれれるの?」
「抹茶は『いれる』じゃなくて『たてる』って言うんだよ。
僕は苦手だけど、学園の近くに抹茶が飲めるカフェがあるから、
今度行ってみようか。コーヒー感覚で飲める手軽なお店だよ」
「本当?ありがとう、聡里」
と、こちらに微笑んでくるシャルルに、僕は言いたかった核心を聞く。
「ねえ、シャルル」
「ん、なあに?」
「君は『シャルル』? それとも、そうだな……『シャルロット』?」
僕がそう聞くと、シャルルは笑顔を苦笑に変えた。
「……参ったな、いつ気付いたの? ボクが女だって」
やっぱりか。
「行動は完璧だったけど、体は変えられないからね。
鈍感の一夏は気付かなかったみたいだけど、男子の体つきじゃなかったから。
それで、どうしてわざわざ男子の振りをして入学したの?」
僕の問いに、シャルル、いやシャルロットは答える。
「ボクの実家……父の命令なんだよ」
と、わずかだけど顔を曇らせて話すシャルロット。
「命令、って……」
「ボクはね、父とその愛人の子なんだよ。二年前に引き取られて、検査をされたんだ。
それでIS適正が高いのが判って、
非公式にだけどテストパイロットをする事になったんだ」
シャルロットは悲しそうに愛想笑いをしてくるけど、僕は表情が消えた。
「なるほど、大体判った。デュノア社は開発が行き詰ってるから、
愛人の子のシャルロットが僕や一夏と、
その使用ISのデータを取って来いってことか。
同じ男子なら近づきやすいだろうから、とかそんな理由で。
……ふざけんなよ」
僕の台詞に怪訝な表情をする彼、いや彼女にかまわず、僕は話す。
「血のつながりがあるからってなんだよ。
親のいう事を全部聞かなきゃいけないなんて事、無いんだぞ!!
それを血縁があるからって好き勝手道具にしやがって……!」
「さ、聡里?どうしたの?」
また彼女が聞いてくる。
「……ああ、ごめん。ちょっと熱くなっちゃったね。
それじゃ、僕の話しを聞いてくれるかな?僕のいままでの経歴を」
と、僕は話し始める。
「僕はね、拾われ子なんだよ。
昔、束姉さん……篠ノ之束博士に拾われて、それから篠ノ之家の養子になったんだ。
小学校一年くらいの年齢のときで、それから学校に通いだしたんだよ。
だから、僕には血の繋がった親類は居ないんだよ。
でも、お父さんやお母さん、姉さん達にはいろいろお世話になった。
それと同じさ。いくら血縁があっても、愛情がなかったら親子でもなんでもない。
シャルロット……君はこれから、どうする?」
僕が言うと、彼女はまた顔を曇らせる。
「どう、って……時間の問題だと思う。
フランス政府も事の真相を知ったら黙っておかないだろうし、
僕は代表候補生を降ろされて、良くて牢屋、かな」
そういって皮肉に笑う彼女に、僕は言う。
「IS学園特記事項二一」
「え?」
「特記事項二一、
本学園における生徒はその在学中において国家・組織・団体に帰属しない。
本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。
ってあるでしょ。
つまり、これから三年間は、少なくともキミは自由ってこと。
それだけ時間があれば、方法の二つや三つ見つかるさ。
それに、僕も一つ方法が思いついてる」
その言葉で、彼女は驚いた表情をする。
「え!?」
「僕とキミが、結婚して日本国籍になっちゃえばいい、なんてね。
とりあえずこんなアイデアはあるよ」
と、冗談めかして言う僕に、ようやく彼女はリラックスした、本当の笑顔を見せた。
「あはは、ありがとう、聡里。
それにしてもよく覚えてたね、特記事項って五十五個もあるのに」
「ふふっ、僕は一度見た物は忘れられないんだ。瞬間記憶能力ってやつだよ」
言って、僕ら二人は笑い合う。
「それじゃ、改めてよろしくね、聡里」
「こちらこそよろしく、シャルロット」
続く。