Infinite Stratos Another 作:来迎 秋良
六月の最終週、IS学園は興奮に包まれていた。
なぜなら、もうすぐ学年別トーナメントの第一試合が始まるからだ。
「まさか僕らが第一試合になるなんてね、シャル」
「うん、相手の手の内を調べられないから、ちょっとやりづらいかな。
それにしても、更衣室をボクらだけで使うなんて、ちょっと気が引けるな」
「しょうがないよ。シャルも本当は女の子とはいえ、男子扱いなんだから。
女子と一緒には着替えられないでしょ」
一夏は箒姉さんと最終打ち合わせだし、ここに居るのは試合直前の僕らだけ。
そしてその対戦相手が発表された。
「え?これって……」
「いきなり、か。 ……ってコンビはのほほんさんかよ!?」
発表されたコンビを見て僕は思わず叫んだ。
対戦相手が『ラウラ・ボーデヴィッヒ、布仏本音ペア』となっていたからだ。
「……シャル、僕は今になって頭が痛くなってきた。精神的な意味で」
「あはは……頑張って、聡里」
シャルに肩を叩かれ、僕は苦笑いを返す。
そのとき、選手召集のアナウンスがかかり僕とシャルはピットへ移動。
そして、ISを展開する。
「宵闇、展開」
「おいで、リヴァイブ」
僕とシャルロットの体が光の粒子に包まれ、その光が消えるとそれぞれ、
漆黒とオレンジの装甲のISをまとい、ピットにたたずんでいた。
「聡里、ボクの機体のデータ、役に立った?」
「勿論だよ、シャル。おかげでパッケージも完成した。
後は、これをうまく戦闘に組み込むだけさ。それじゃ、お先にどうぞ、お嬢様」
と格好をつけて手で出口を指し示すと、
すこし顔を赤らめてシャルはピットから飛び出していった。
「……よし、それじゃ行こうか、宵闇。ボーデヴィッヒに『闇』を見せてあげよう」
僕のそのつぶやきと共に、僕の瞳は一瞬金色に染まる。
そして僕の感情に呼応するように、宵闇の機体が出力を増してゆく。
「篠ノ之聡里。宵闇、参る!」
その言葉と共に、僕はピットから『闇』を解き放った。
◇
「一回戦の相手がお前だとはな。
丁度良い、あの男の前に貴様を倒させてもらうとしよう」
「生憎と、僕も負けてあげる気にはなれないよ。
全力で行かせて貰う。だから……僕と宵闇の新しい力、見せてあげるよ」
試合開始寸前にそんな台詞を交わし、僕の台詞が終わった瞬間に試合が開始された。
「参る!」
「ふん、甘い!」
僕は宵闇に新たに装備した格闘戦用パッケージ『素盞雄(スサノオ)』の腕力を活かし、
ボーデヴィヒのISに向けて追加装備の日本刀『草薙(クサナギ)』で斬りかかるが、
彼女の機体の特殊機能、
『AIC(アクティブイナーシャルキャンセラー:慣性停止能力)』
で停止させられてしまう。
「開幕直後にいきなり格闘戦か、貴様の通常のバトルスタイルではないな。
だが、その程度読めている」
まったく、こいつときたら。
「どうも、以心伝心で何より。でもね、忘れてない?これはチーム戦だ!シャル!」
「うんっ!」
僕の叫びに答え、のほほんさんの相手をしていたシャルが腕だけをこちらに向け、
六一口径アサルトカノン『ガルム』で爆破(バースト)弾の射撃を浴びせる。
宵闇のハイパーセンサーの映像をシャルのISに回し、
それを利用してありえない角度から銃撃したわけだ。
「くっ……」
シャルの攻撃で集中が切れたボーデヴィッヒは僕の動きを止めていられなくなった。
そこでボーデヴィッヒは一旦体勢と立て直そうとするが、すぐに追撃が来る。
横に並んだシャルと僕の『高速切替(ラピッドスイッチ)』による連続攻撃だ。
「貴様、いつの間に高速切替を習得していた!」
「つい昨日!シャルに教わったらできた!」
実際そんな感じだった。
シャルにコツを教わっていたら出来た感じ。
「さとりん、私も忘れないでよ~!」
と僕らとボーデヴィッヒの反対側にのほほんさんが来て、
打鉄の重厚な装甲と実体シールドで銃弾をはじきながら、
僕らを挟み撃ちにする。
「聡里!」
「ウィ、シャル!」
僕とシャルはお互いに後ろ向きに瞬時加速で接近し、
背中がぶつかりそうなタイミングで場所を入れ替わり、
のほほんさんの機体の日本刀を受け止める。
「やるね、のほほんさん。でも、貰った!」
そのまま僕はスサノオの追加装備の一つ『高殿(タタラ)』の出力を全開にし、
それにより通常の数倍に強化された腕力でのほほんさんの刀を吹き飛ばす!
「さとりん凄い!?」
「シャルッ!」
「ごめんね、布仏さん!」
そう言いシャルが取り出したのは、
面制圧力に長けたショットガン、『レイン・オブ・サタディ』。
それを二丁、至近距離でのほほんさんのISに突きつけ、連射した。が。
「邪魔だ」
「きゃあっ!」
「うそっ、投げ飛ばした!?」
あわや直撃しそうになったのほほんさんが、いきなり視界から消えた。
それは、ボーデヴィッヒにワイヤーで絡められ、投げられたからだった。
「この男の相手は私がする。邪魔をするな」
「お前……たとえくじで決まったにしても、仲間だろ!?
今のが仲間に対する行動かよ!」
と、床に叩きつけられたのほほんさんを気にしつつボーデヴィッヒに向き直る。
が、すでにボーデヴィッヒはこちらにプラズマ手刀を振り下ろして来ていた。
「数の上では私が二倍だな!」
と、両手で攻撃し勝ち誇ったような笑顔を見せるボーデヴィッヒ。
だが、僕も『にやり』と笑い返し、
「それじゃ互角にしてあげるよ!」
と一瞬で、クサナギの対になる小刀、『叢雲(ムラクモ)』を展開し二本の刀を構える。
「これで、数の上でも互角」
そこまで言ってから、僕はシャルへプライベート・チャネルを飛ばす。
[シャル、いける?]
[勿論。でも、聡里は大丈夫?]
[それこそ勿論。それじゃ、例の作戦で行くよ!]
[わかったけど、無茶だけはしないでよ]
そう言われ、僕はシャルと離れた。
作戦とは、要は『のほほんさんを先に潰す』ということ。
彼女の動きから、『味方を守る』という行動は極端に苦手と判断したから、
とりあえずのほほんさんから倒す事に決めていた。
さて、と。
「悪いね、ボーデヴィッヒ」
「ごめんね、布仏さん」
「「相手が一夏(聡里)じゃなくって!」」
僕らは綺麗にシンクロしてそれぞれの相手に言う。
「貴様、馬鹿にするな!」
と言い、ボーデヴィッヒはプラズマ手刀で切りかかってくるが僕は二刀流で流す。
「ふん、だが貴様は所詮格闘戦装備!切りかかろうとも停止結界の前では無力!」
彼女は言うが、僕は笑い飛ばす。
「それじゃ見せてあげようか。僕の宵闇の新しい力!
多重展開(クロッシング・パッケージ)!」
僕はコールし、宵闇の腕と背中をのぞくハードポイントに装甲を実体化、装着。
さらにウィング型の非固定部位(アンロック・ユニット)が換装され、
ガトリング砲『満月(ミチヅキ)』を装備したユニットに交換された。
「砲撃戦パッケージ『月詠(ツクヨミ)』展開完了。喰らえ!」
僕は絶叫とともに両手にアサルトライフルを展開、そのまま肩のガトリングと同時に
弾幕どころか銃弾の嵐をボーデヴィッヒに叩き込む!
「なかなかやるな。では、これならばどうだ!」
彼女は易々と銃弾を交わし、六本のアンカーワイヤーでこちらを絡めとる!
「しまった!」
僕のパッケージの『多重展開』の欠点は、
何と言っても機体重量増加による機動力の低下。
そこを突かれ、僕は磔のように空中につかまってしまう。
「この状態なら、外さんな!」
その台詞とともに、彼女の肩のレールカノンがこちらに狙いを定め、射撃体勢に入る。
「ととめだ……!」
そして、シュヴァルツェア・レーゲンの大型レールカノンから砲弾が射出される。
「……来た!」
「何!?」
着弾の寸前、僕と砲弾の間にオレンジ色の盾が割り込み僕を守ってくれる。
「大丈夫、聡里!?」
「ああ、ギリッギリだったよ!助かった、シャル!
そうだ、のほほんさんは!?」
僕の質問にシャルは「お休み中」といい、撃墜されたのほほんさんのISを指し示す。
「よっし、流石!それじゃ、こっからが本番だ。行くよ!」
「うん、ボクらの本当のコンビネーションを!」
「「見せてやる!!」」
◇
「す、すげぇ……あの二人」
俺は、箒と一緒に控え室で聡里とラウラの戦闘を見ていた。
「ああ、聡里も腕を上げたものだ。私が教えた技も忘れては居ないようだな。
ただ、今回は遊びが多い。もっと無駄をなくさねばいつか倒されるぞ」
俺からすればあの二人は相当強いと思うんだが、アレで遊んでるのか……
「しかし、あの『一刀一閃』、見事だな……まるであの神楽だ」
「ああ、どっかで見たと思ったら、篠ノ之神社のあの舞か!」
一刀一閃は、篠ノ之家に代々伝わる剣術・篠ノ之流の構えの一つだ。
「なるほどな、さすがはお前の弟だ」
「当然だ。私の弟なのだからな」
箒もまんざらじゃないみたいだな。
「じゃ、アイツらに勝てるように、俺たちもイメージトレーニングしとくか」
「いや、次の試合まで時間はある。私は聡里たちの試合を最後まで見たい」
「はは、そうだな箒。それじゃ、しっかり見届けとくか」
そして、俺たちは試合を再び観戦し始めた。
◇
さらに所変わって、ここは職員のみが入れる観察室。
ここでは一組の担任・副担任の二人が話していた。
「わー、ボーデヴィッヒさんって強いんですね。
それに篠ノ之くんとデュノアくんも、二週間でここまで連携できるなんてすごいです。
やっぱり才能ですね~」
と感心している山田真耶。
その言葉を受け、微笑しつつ言う織斑千冬。
「ああ。だが、まだまだだ。連携も甘い上、展開も遅い。
それに先ほどは装備の選択を誤っていたようだからな」
と、知人には容赦しない千冬の言葉に、真耶は苦笑する。
そしてさらに千冬は言葉を重ねる。
「だがボーデヴィッヒは変わらんな。強さと攻撃力を同一視している。
だがそれでは――」
そこまで言ったとき、会場が大きく沸いた。
「あっ、篠ノ之くんが斬りかかりますよ!」
「ふん、そううまくはきまらんだろう」
そう言いつつ、どこか楽しそうな千冬であった。
◇
「コイツで、どうだっ!」
僕は声を上げパッケージを切替し、
ツクヨミに代わって空戦用高機動パッケージ『天照(アマテラス)』を背中に装備。
その出力を活かし加速、強化された腕力でボーデヴィッヒに斬りかかる。
「ふん、確かに当たれば脅威かもしれんな。だが、それなら当たらなければ良い」
と、僕の体を捕らえようとエネルギーを送ってくる。
それをアマテラスの出力に任せ、どうにかかわす。
「聡里、F.Two(前方二時方向)!」
「了解!」
そのシャルの声を頼りに攻撃の波から脱出、態勢を立て直す。
さっきのアルファベットは、単純な暗号。
方向を前、後ろ、右、左と何時方向で示して行動するものだ。
もっとも、意味があやふや過ぎて僕とシャルでもあわせるのは大変だけど、
そこでぴたりと一致するのが僕らのコンビの訓練のたまもの。
「ちっ、小癪な!」
「生憎と、僕は癪に障るのが得意みたいでね!」
僕は言い、ムラクモを上に思い切り放り投げショットガン『礫(つぶて)』を展開、
ボーデヴィッヒを牽制する。
「くっ!」
「シャル!S.C.S.E(剣キャッチ後、敵へ投擲)!」
「わかったよ!」
そのシャルの声は、上空から聞こえてきた。
それに反応したボーデヴィッヒが見た物は、
僕が投げ上げたムラクモをキャッチするシャル。
受け取ったシャルは、ラウラにそのムラクモを投げる!
「なんだと!?」
「隙ありッ!」
慌てて回避するボーデヴィッヒに、僕は追撃で拳を叩きこむ。
拳といっても、ISにより強化された腕力をさらに数倍に強化してあるので、
威力だけならともすれば砲撃にも匹敵する。
「がはっ!?」
殴られたボーデヴィッヒはたまらず吹き飛びスタジアムの壁に激突。
「シャル、トドメだ!!」
「わかった!」
僕は隣に降りてきたシャルと同時に瞬時加速し、距離をゼロまで詰め、
同時にシャルは盾をパージし、僕はある武装を展開。
それにより、シャルはパイルバンカーである『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』、
通称『盾殺し(シールドピアース)』を、
僕はそれを参考に作ったパイルバンカーガン『打貫(うちどおし)』を起動し、
シャルは左手、僕は右手で同時にボーデヴィッヒの両肩に叩き込む!
「「これで決める!」」
「がはぁっ!?」
彼女のISのシールドエネルギーは一撃で半分ほど削れ、
僕らは続けてもう一撃打ち込もうとした。
だが、しかし。そのとき異変が起きた。
◇
(こんな……こんな所で負けるのか、私は)
相手の力量を侮っていた。それは間違い無く私自身のミスだ。だが。
(私は負けられない! こんな、ただ自分の不幸を嘆くだけの男に)
ラウラ・ボーデヴィッヒ。それになる前の私の識別記号は、『C-0037』。
人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。
ただ戦いのため生み出され、育てられ、鍛えられた。
だが『ヴォーダン・オージェ』との不適合により、私はIS訓練に遅れを取り、
嘲笑と侮蔑、『出来損ない』の烙印を受けた。
しかしそこから救い出してくれたのが、織斑教官だ。
だから――許せない。教官を変えてしまう、教官の弟を。
そして、それを阻むもの全てを。だから――
(力が、欲しい)
どくん、と。私の中で『何か』が蠢く。
そして、そいつは言う。
『汝、自らの変革を願うか?より強い力を欲するか?』
言うまでも無い事だ。
力が得られるのなら。そして、それを得られるのなら、空虚な私など、くれてやる!
だから――
「力を……比類なく、唯一の、最強の力を……寄越せ!」
Damage Level......D.
Mind Condition......Uplift.
Certification......Clear.
《Valkyrie Trace System》......boot.
◇
「あああアアアアアァァァァッ!!」
突然、ボーデヴィッヒが絶叫した。
それと同時に彼女のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』が放電し、
僕ら二人は吹き飛ばされた。
「うわっ!」
「く、まだ読みきれてない機能があったか……!?」
そう言いかけた僕だったが、台詞は途中で止まる。
なぜなら、ラウラの機体が変形……いや『変化』していたからだ。
ISの輪郭は溶け、どろどろとした塊になり、
それがボーデヴィッヒを包み込んでいく。
その時、彼女の眼帯が外れその奥の金色の瞳を覗き込めた。
だが、その奥にあったのは『虚無』だった。
「嘘……ISがこんな変形をするなんて、ありえない」
シャルがつぶやいているうちにも、その変化は進みほぼ完成する。
それは黒い全身装甲(フルスキン)のISに似た『なにか』。
だが、先日の襲撃者とは似ても似つかない。
輪郭はボーデヴィッヒそのまま。その手足には最小限のアーマーが装着されており、
頭はフルフェイスのアーマーに覆われ、
目の部分のラインアイセンサーが赤く発光していた。
そして、手の中にある刀。それは。
「雪片……そして、あのアーマーの形は……暮桜(くれざくら)か!」
雪片に暮桜。
その二つは、モンド・グロッソ出場時に千冬さんが使用していた武装と、IS。
この機体は、それに酷似していた。まるで、複写(トレース)したかのように。
つまりは。
「V.T.システム!? ドイツはまだこんなものを開発してたのか!
くそっ、しかもよりによって、千冬さんのデータか!」
ヴァルキリー・トレース・システム、通称VTシステム。
モンド・グロッソの歴代ヴァルキリーの動きをトレースするシステムで、
現在はIS条約で一切の使用、研究、開発が禁じられている兵器。
「こいつ……!」
僕は思わず、クサナギを構えそのISに突進するが、
その機体が振るう雪片もどきに迎撃され、吹き飛んでしまう。
「がっ!」
「聡里!!」
吹き飛ばされた僕をシャルは受け止めてくれて、なんとか無事だった。
「シャル、放して。アイツは倒さなきゃ……!」
僕がそこまで言ったとき、僕は頬を叩かれる。
「落ち着いてよ聡里! なんでそんなに大暴れしてるのさ!!」
シャルに宥められ、僕はぽつりと理由を話す。
「あれは……千冬さんのデータを元に動く戦闘プログラムだ。
あんなの、ISじゃない。束姉さんはこんな物は作らないし、作らせない。
しかも、さっきの剣技は一夏が最初に千冬さんから教えてもらった技なんだ。
一夏が得意げに教えてくれたから知ってる。
あんなまがい物がして良い技じゃない……!」
僕は言い、黒い『ISもどき』を睨む。
そしてシャルは諦めたように肩をすくめる。
「聡里がそこまで言ったら、絶対に退かないよね。
わかった、それじゃ、ボクも手伝うよ。
『危ないから待ってろ』とかは言わせないからね」
と、僕の肩を叩くシャル。
「まったく、僕が言いたいことを先取りしてくれるね。
しょうがない……だけど、速攻で決めるよ、シャル。
ボーデヴィッヒが心配なんだ。
あんなわけわからない兵器にとりこまれて、無事なわけが無いから」
僕の台詞にシャルは頷き同意する。
「うん、それはわかる。それじゃ、ボクが牽制するよ。
聡里はボーデヴィッヒさんを助けてあげて」
言われ、僕は無言で黒いISに向き合い、パッケージを全て解除。
「3カウントで行くよ、シャル。 ……3、2、1、GO!」
僕ら二人は同時に行動を起こす。
まずシャルが後方から、僕がアンロックした狙撃銃『要(かなめ)』で手足を撃ち牽制。
その隙に僕が懐に飛び込み、
ライフル『疾風』に装備されている銃剣『秘刀(ひめがたな)』を使い、
前面の装甲を切り裂く。
「……」
そこには、ラウラがただ『ISを動かすだけの部品』とされていた。
「起きろ! ここから出るんだ!!」
僕の呼びかけに、わずかに彼女が反応する。
「君の強さはこんなもんじゃないだろ! あの千冬さんに育てられたんだから!!
起きろ! それで、自分の強さを見つけてみろ、『ラウラ』!!」
僕の叫びでラウラは弱弱しく腕を動かし、こちらに伸ばしてくる。
そして、その腕を掴み、彼女を黒い機体から引きずり出し、その機体から離れた。
◇
強さとは、なんなのか。
そのうちの一つに、私は触れる事ができた。
『起きろ! ここから出るんだ!!』
ただの部品とされた私に、声を掛けるあの男。
『僕には強さなんて判らない。でも、願いって言うか、夢があるんだ』
夢?
『そう、夢。僕の手が届く範囲だけでもいい、誰かを助けたいんだ。
たとえ、僕が傷ついてでもね。それに、友達も居るし』
その男は、あの時の織斑教官と同じ表情をしていた。
教官が、弟について話す時のあの表情だ。
『千冬さんが強いのは、一夏のためだよ。
一夏を守りたいから。それがあの人が強い理由。
もしラウラが僕を強いって思うなら、それは「思い」のおかげだろうね。
それに、一夏も僕なんかより強い』
そいつの言葉と共に、あの男の記憶が流れ込んできた。
教官に救われたときの口惜しそうな表情や、
幼なじみを護る時のその毅然とした表情を、私は見せ付けられる。
この強さが『思い』か……。
『誰かを守る。そのために、僕は力を使いたい。
だから……君も助けるよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
僕と同じ、金色の瞳の子』
この言葉を聞いた時、私は思った。
私もただの15歳だという事。
そして、もう一つ。
守られるというのは、こんなにも暖かいものなのだ、と。
それを思い、私は意識を手放した。
◇
「さて、と。囚われのお姫様は救い出したし、最後に魔王は倒さないとね」
僕は怒りを押さえ、多重展開で三つのパッケージ全てを展開。
それにより、宵闇の腕部に『タタラ』、背部に『アマテラス』、
腕部と背部以外の全身に『ツクヨミ』の装甲が展開される。
「行くよ、宵闇!フルバーストォ!!」
そして敵の頭上へ急速上昇し、大火力の装備のミサイル『炎(ほむら)』を二基展開。
両手で一基づつ掴み、『タタラ』で反動を抑えつつ両肩のガトリングと同時に斉射する!
「消し飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
僕の砲撃を受けたその機体だったものはどんどん吹き飛んでゆき、
最終的にはコアと細かな金属部品のかけらしか残らなかった。
「シャル、ラウラの様子はどう?」
シャルたちのところへ戻った僕は、尋ねる。
「大丈夫、気を失っただけみたい。
でも、相当体に負担が掛かったみたいだから、医務室に連れて行くよ」
「あ、シャル。僕も行くよ。多少話したいこともあるし。
それに、シャルにも聞いて欲しい話があるんだ」
そして、ラウラを抱き上げ僕とシャルは医務室へ向かった。
◇
「ん……」
「目が覚めたか、ボーデヴィッヒ」
目を覚ました私の横には織斑教官が居た。
「教官……私、は?」
「ふぅ、一応、最重要機密なのだがな」
教官は私に向き直る。
「VTシステムは知っているな?」
「はい……やはり、あのシステムでしたか」
「ああ。学園からドイツに問い合わせをしている。
近く委員会から査察が入る事になるだろう」
教官はそう言い、顔をそむける。
やはり、私はもう、教官には……
「教官、私は……」
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
いきなり名を呼ばれ、私は思わず反応する。
「お前は、誰だ?」
「! 私、は……私……は……」
私は、今は私自身がボーデヴィッヒという名を名乗ることが出来なかった。
「何者でもないなら丁度良い。では今から『ラウラ・ボーデヴィッヒ』になるといい。
時間ならある。なにせ三年間もあるんだ、何かは見つかるだろう。
たっぷり悩めよ、小娘。それに、お前を見てくれる人間も居るからな。
……というわけだ。入って来い、篠ノ之。それとデュノアもだ」
教官がドアに向かい声を掛けた時ドアが開き、
篠ノ之聡里とシャルル・デュノアが入室してきた。
◇
「あはは……バレてたんですね、ちふ、織斑先生」
「ラウラ! よかったぁ、目立った怪我なんかはないみたいだね」
僕とシャルは連れ立って入室し、シャルはそのままラウラに駆け寄った。
「貴様ら、どうして……」
「どうしてって、気絶してたままのラウラを放置してくるわけには行かないじゃないか。
それに僕らの攻撃でダメージ受けてないか心配だったし」
「だが、私は貴様らに対してあのような態度を取ったのだぞ?」
ラウラが聞いてくるけど、そんなのどうでもいい。
「そんなのは関係ないよ。
あの時も言ったけど、助けられるものは何でも助けるよ、僕はね。
まあ、元気そうでよかったよ」
「聡里、あの時ってどういう事?」
「それは部屋で話すよ。それじゃ先生、ラウラ、また明日教室で。行こう、シャル」
「うん。じゃあね、ラウラ」
そして僕らは退室する。
「……あの二人は、何を考えているんでしょうか」
「ふっ、あいつらはあれで純粋なのさ。
それと、お前は私にはなれんぞ。あいつらの教師も、なかなか大変だからな」
それだけ言うと、千冬さんは僕らの後から出てきた。
その後でラウラの笑い声が聞こえてきたけど、何が楽しかったんだろうか。
◇
その日の放課後。山田先生が「大浴場がつかえるようになりましたよ!」
と言ってきたのを一夏が大喜びしていたけど、
シャルは一緒に入るわけにはいかないので僕らは丁重に断り、
僕とシャルは部屋でシャワーを浴び、一緒に話していた。
「ごめんね、僕のせいで大浴場に行けなくて」
「べつにいいよ、そのくらい。シャルと一緒に居た方が楽しいし、
ちょっと話しておきたいことがあって」
そして、シャルにずっと思っていたことを打ち明ける。
それを聞き彼女は最初驚いて顔を真っ赤にしていたけど、
小さく頷いてきた。
「でも、聡里は大丈夫なの? 下手をすればフランスを敵に回す事にもなるけど……」
「そこはそれ、僕は仮にも『あの人』の弟だからね。下手な手出しはできないよ。
普段から散々振り回されてるから、姉さんの事は利用してやらないとね」
そういってイタズラっぽくシャルに笑いかけ、僕らは翌日に備え寝る事にした。
同じベッドで寝ているのは、いつのまにかのお約束。
◇
「み、みなさん。おはようございます……」
翌日。ホームルームに来た山田先生はどこかどんよりしていた。
ああ、やっぱり爆弾発言はダメージきつかったかな?
「今日は、皆さんに転校生を紹介します……。
転校生、と言いますか、もう紹介は済んでいると言いますか……」
教室内は騒然。
もうすでに二人も転校生が来ているのに、
このうえまだ来るのかというところが焦点らしい。
まあ、みんな知ってる人なんだけどねー。
「それでは、入ってください」
「失礼します」
来た来た!
「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」
そういってぺこりとお辞儀をする、スカート姿の『シャルロット』。
みんなぽかんとしながら、返礼してる。
「というわけで、デュノアくんはデュノアさんでした。
はぁ、また寮の部屋割りを考える作業が始まります……」
ああ、それで先生テンションが低かったのか。
「あ、それならしなくて良いですよ」
と言いつつ、シャルが僕の方へ近づいて来て……そのまま抱きつかれた。
「……シャル?」
「ボクは聡里のパートナーですから、一緒の部屋が良いです♪」
その発言に、ポカン状態だったクラスの空気がさらに固形化。
「「「えっ」」」
うわぁい、ほぼ全員フリーズ。
「聡里、お前知ってたのかよ!?」
一夏はやっぱ気付いてなかったし……
「うん、気付いてたよ」
「待て聡里、いつの間に先生に話を通した!?」
箒姉さんに言ってなかったのは正解だったかも、こんなに取り乱すのもめずらしい。
「今朝。織斑先生は頭抱えてたけど」
ああ、姉さんが頭を抱えて机に突っ伏した……。
で、そのとき。教室のドアを吹き飛ばさんばかりの勢いで開き、
二組の鈴が侵入してきた。
「一夏! アンタ女の子と一緒に着替えやらなんやらしてた訳!?」
「わ~っ、待て鈴! 俺も知らなかったんだ!!」
「問答無用!!」
鈴、ISアーマー展開。衝撃砲をフルパワーチャージで一夏を砲撃……って!?
「鈴それはヤバい、さすがに死ぬ、あと教室が壊れる!」
僕はあわてて止めようと飛び出したけど、遅かった。
「……あれ、俺死んでない?」
その一夏を守ったのは、ラウラだった。
彼女は一瞬でISアーマーを展開して、AICで衝撃砲を相殺した。
「……教官の弟を死なせるわけにはいかんからな」
「ら、ラウラ?」
「ナイス、ラウラ! っていうか、レーゲン、もう組みあがったんだ」
「ああ、お前の協力のおかげだ。感謝する」
僕の台詞に、こちらへつかつかと歩み寄って来てIS展開解除、
そのままラウラは僕に抱きつく。
「ラウラ?」
「お、お前を私の父とする! 決定事項だ! 異議は認めん!!」
……はい~?
「えーっと……いきなり大きな娘ができちゃったね、聡里」
「あの~、ラウラさん? この状況は一体どゆこと?」
一夏ラバーズ×3もこの状況に毒気を抜かれたらしく、大人しく席に戻った。
(鈴は二組に帰っていった)
「貴様ら……朝っぱらから何をやっている!!」
という額を押さえた千冬先生の怒号と共に、
僕らの頭に連続で出席簿が叩き込まれたのももはや様式美である。
続く。